「……幾つか質問しても構わないか?」
まぁそう来るわな。だが残念ながら話すべき事は話した。
勢い良く頭を横に振る。
「……そうか、まぁそうだな。私としてはその言語をどこで学んだか聞きたかったのだが……」
流石に前世の記憶持ちなんて言えないので答えるとしたら親に教わったと嘘を吐くだろうな。実際の親はどこで何してるのか分からんが。
「ともあれ、ありがとう。ダイゴの力になりたいという君の思いは伝わった」
ダイゴが無事にポケモントレーナーになったら、その時にこの石を渡すとしよう。
そう言ってムクゲはキーストーンをハンカチで包み、懐に仕舞った。
それから一ヶ月が過ぎた。
今日まで俺は欠かさずバトルの鍛錬を行い、ダイゴは勉強漬けの毎日だった。幾ら俺という原動力があっても慣れない勉強をするのは苦痛だったろうに、万全のテスト対策を行いトレーナー試験に向かった。
もはや人間よりポケモンである事の方が自然になってきた俺には考えられないくらい凄い事だ。あれだけ頑張ったのだ、合格は間違いないだろう。
そんなこんなで試験の合格発表日。今日ばかりは忙しいムクゲも休みを取り、一家揃っての待機となった。
――カコン。
郵便受けに何かが投函された。
ダイゴが玄関まで向かい、大きな封筒を持ってリビングに戻ってくる。
深呼吸を一つ零し、ダイゴは封筒の封を切り中に入っていた書類を確認した。
程なくしてダイゴは書類を机の上に置き、呟く。
「――合格だってさ」
封筒の中からツワブキ・ダイゴの名が刻まれたトレーナーズカードを取り出して、ダイゴは笑った。
「おめでとうダイゴ! 今日はお祝いね!」
「タブンネー」
「よくやった、ダイゴ。私はお前が合格するのを信じていたぞ」
「嘘言わないの、あなたダイゴの事誰よりも心配してたじゃない」
ムクゲとミカゲが手放しにダイゴを称賛する。まぁダイゴなら大丈夫だろうと思っていたがやはりめでたいものはめでたい。
一ヶ月間俺と模擬戦をし続け進化したメタングと一緒にダイゴを労いに行く。
「クチィ、チッチ」
「……ググ!」
「あぁ、ありがとう。フォート、それに――シルキー」
俺達を抱きしめるダイゴの髪をわしゃわしゃと撫で回して祝う。スタートラインに立っただけというのに自分の事のように嬉しかった。
そうそう、一ヶ月前からダイゴは俺達の事をニックネームで呼ぶようになった。
メタングの事はフォート、クチートである俺の事はシルキーという様に。メタングは最終的にダイゴの相棒となるので最後の砦という意味ではフォートレスから転じてフォートは良いと思う。名前を貰ったメタングも喜んでたし。
ただ俺は名前負けしてるんじゃないかとちょくちょく不安になる。まぁダイゴ直々のニックネームだしすごい嬉しかったけどね。
「とにかく、ダイゴ、お前は今日から立派なポケモントレーナーだ。記念にこれをプレゼントしよう」
ムクゲか咳払いを一つ零し、懐から綺麗に包装された小さな箱を取り出してダイゴに渡した。
「これは私からの祝いの品だ。必ずダイゴの力になるだろう」
「わぁ、開けてみてもいい?」
「あぁ」
ダイゴが丁寧に包装を取り払い、小箱を開けると中には一つのアクセサリーが入っていた。
王冠の様な銀装飾の施された台座に、七色に煌めく宝石が設えられたピンブローチ。宝石の内部には二重螺旋の模様が走っていた。
「綺麗……」
「それはキーストーンと呼ばれる宝石だ。カロス地方で取れる不思議な石、もしかしたら今ホウエンで持っているのはお前だけかも知れないな」
キーストーンを自分の服の襟に付けたダイゴを見て、ムクゲは微笑みダイゴの頭に手を乗せた。
「私はダイゴが何を目指しても応援しているよ。チャンピオンにでもなってくれたら我が社の業績はうなぎ上りだ」
「息子に頼るな!」
ミカゲに頭をすっ叩かれムクゲは沈黙した。素直に応援出来ないのかあの社長。
かくしてダイゴはキーストーンを手に入れた。メタグロスナイトは未だに見つかっていないが、そもそもダイゴは極度の石好きだ。ポケモントレーナーとなり行動圏が格段に広がった今ならすぐにでも見つけられるだろう。
自分のトレーナーがホウエン地方の頂点に立つ。その光景を、遠くない未来に見られるだろう事を確信した。
「やぁダイゴ! 聞いたよ、トレーナー試験合格したんだって? 僕と戦おう!」
「……いきなりだな」
ダイゴがトレーナーズカードを獲得してから翌日の事である。
まだ太陽が頂点にも達していない時間帯で、ダイゴの友人であるミクリがツワブキ家に転がり込んで来た。
「あらいらっしゃいミクリ君、お昼ごはん食べてく?」
「えぇ、ダイゴとのバトルが終われば是非!」
「バトルする前提で話を進めるなミクリ」
「君は戦いたくは無いのかい? 折角のポケモントレーナーとしての初バトルをこの僕以外とするって? 随分寂しい事を言ってくれるじゃないか」
そう言いながらミクリはニッコリと笑いダイゴを見る。何だかんだ長い付き合いだからダイゴが本気でバトルしたくない訳じゃ無いのを見抜いているのだろう。
まぁいきなりやってきて強引に話を進める図太さにダイゴが溜息を吐くのも分からなくは無いが。あいつ少年時代から割とナルシストの気が強いからな。
「いいじゃないダイゴ、初陣くらいミクリ君相手でも。それにポケモンが戦いに疲れたらフラウと私がすぐに元気にしてあげる」
「タブンネー」
「……別に僕だってミクリと戦いたくない訳じゃ無い、フォート達も張り切ってるしな。でも話を断らせないのはお前の悪い癖だぞ」
「大丈夫さ、君以外には弁えている」
「……庭に行くぞ」
とても深い溜息を吐きながらダイゴは立ち上がった。なら俺にも弁えろ、とは彼は決して言わない。
本心をさらけ出せる相手と言うのは貴重な存在だから。それはきっと、双方にとって。
俺がクチートという比較的軽いポケモンで、フォートもまだ浮遊を主な移動手段としていたのでダイゴはあまりモンスターボールを使わない。
ただまぁ形式的な物もあり、ミカゲからプレゼントされたモンスターボールに俺達を仕舞い庭のバトルコートへと向かう。モンスターボールの中は意外と快適であった。
(トレーナーを介してのポケモンバトル、緊張するな……)
なまじ俺自身がトレーナー的視点を持つせいでダイゴの意思と相反する行動をしようとするかもしれない。だがそれだけは許容出来ない。トレーナーの指示通りに行動しないポケモンはカスだ。
いやまぁカスは言い過ぎかもしれないが、バトルだけで手一杯だというのにポケモンの心情まで把握してられないだろう。
ボールの中で俺は深呼吸を一つ零す。
ポケモンを生物兵器と言う人間がいる。間違ってはいない。武器に自由意志は不要だ。戦うときだけは物言わぬ鉄の塊であるべきだ。
決して高揚を表に出すな、決してダイゴの指示を無視するな。
(……決してダイゴの指示を恐れるな。こんなんでも俺はダイゴを信頼してるんだから)
ダイゴとミクリがバトルコートの対極に立つ。
――ポケモントレーナーのミクリが勝負を仕掛けてきた!
「さぁ、出番だドジョッチ!」
「行こうか、フォート」
共に繰り出されたボールから、ドジョッチとメタングがフィールドに出る。
2対2のこのバトルでミクリが初手に繰り出したのはドジョッチ。進化するとナマズンになるみず・じめんの複合タイプのポケモンである。
進化してない事からレベルは30以下、恐らく23辺りか……?
「フォート、ねんりき!」
「ドわすれだドジョッチ」
フォートが念力をドジョッチに向けて放つがミクリの指示が一足早く届き、ドジョッチはドわすれで特防を上げてやり過ごす。
一瞬苦々しい顔をするダイゴだったがこんな所では止まらない。
「フォート、とっしん」
ダイゴの指示に従いフォートがドジョッチとの距離を詰める。
「受けていい。衝撃に備えて」
ドジョッチが真正面からフォートの突進を受けきる。回避を選択しない理由は何か、すぐにミクリが答え合わせをしてくれた。
「メタルクロー!」
「その場でみずのはどう」
とっしんに続いてメタルクローがドジョッチに命中するがHPを削りきれるほどではない。カウンター気味にドジョッチから至近距離のみずのはどうがフォートに炸裂する。
……不味い。
「……ググ?」
“フォートはこんらんした!”
「なっ!」
「技によっては距離で威力が減衰する。だがそれは近ければ近いほどダメージが大きくなるという事でもある。運が悪かったね」
トレーナーとしての経験や技の知識はやはりダイゴを上回る。流石はルネシティの出身といった所か。
「さぁドジョッチ、アクアテール」
「ふゆうを解除してその場で待機!」
ドジョッチがアクアテールで攻勢に転じる。
対するフォートは地面に降り立ち、ドジョッチの攻撃を受けて耐えた。下手に動けば自傷すると踏んだのだろう、いい判断だ。
私もフォートとの模擬戦の時に不測の事態に陥った時は慌てずダイゴの指示を待てと言い含めている。
不測の事態に一番早く対処できるのはトレーナーだからね。
「ここらでいいだろう。ドジョッチ、ねむる」
(……何?)
ドジョッチがフォートから距離を離し、眠った。これでフォートが蓄積したダメージは全て無に帰る。
と同時にドジョッチの口元がもごもごと動き、眠った筈のドジョッチが目を覚ます。
(カゴの実……いや、ラムの実か)
何と言うか、トレーナーに成り立ての少年にやるような戦法ではない。
が、対処出来ないダイゴが悪いと言ってしまえばそれまでだ。だが大丈夫だ、ダイゴは俺が思うほど諦めのいい奴じゃない。
「おはよう、そしてお疲れ。戻れドジョッチ――」
「――やれ、フォート」
混乱していた筈のフォートが目にも留まらぬスピードでボールに戻る直前のドジョッチに迫り、渾身の力で殴りつけた。
“おいうち”
「ドジョッ!?」
「なっ!?」
「油断したな、漸く驚いてくれた」
ダイゴが笑う。ドジョッチからのダメージは残っているとはいえそれまで有利だったミクリに一矢報いた形となった。
タイミング良くおいうちが入ったお陰でダメージ二倍、相手のHPも半分は削れただろう。
「……混乱してから何も指示が無いのは不思議に思っていたが、まさか最速で混乱から抜け出すなんてね」
ボールに戻したドジョッチを愛おしそうに眺め、ミクリは楽しげにそう言った。
「うちには優秀なコーチがいるからな」
「ははは、あの色違いのクチートかい? 彼女もまた美しいよね、君がコンテストに興味無いのが残念でならないよ。――さぁ、まだまだこんなもんじゃないだろう? 全力で来ておくれ」
ミクリの爽やかな笑顔が獰猛な笑みへと変貌する。バーサーカー染みた笑顔だというのにイケメン度合いが微塵も薄れないのは才能だと思う。
――ポケモンバトルは続いていく。
【種族】ドジョッチ
【性格】おくびょう
【特性】きけんよち
【レベル】23
【持ち物】ラムの実
【技】
・ドわすれ
・みずのはどう
・アクアテール
・ねむる
ミクリの手持ち一体目。ORASにおいてジム戦時とエピソードデルタ時の手持ちで変わらないのがナマズンとミロカロスだけなのでこの二体はミクリも思い入れ強いんじゃないかな。