「ミロカロス、ショータイムだ」
「カロロ?」
ミクリはボールからミロカロスを繰り出し、フィールドにはメタングとミロカロスが出揃った。
ホウエン地方においてミロカロスはうつくしさを上げまくって一回でもレベルアップさせれば進化するポケモンだ。だからどのくらいのレベルかというのは分かり難いのだが、先程のドジョッチよりやや上と見た。恐らくは25レベル前後。
おいうちを一度見せてしまった以上交代には今まで以上に慎重に行うだろう、いや、もしかしたら瀕死になるまで突っ張るかもしれない。
(ともあれここからは油断を誘うのは厳しいだろうな、……頑張れダイゴ)
「フォート、メタルクロー!」
「ミロカロス、アクアリング」
フォートが間合いを詰めて腕を振り下ろすと同時に相手のミロカロスを水で作られた輪が覆う。
「そのまま――」
「――繋げ」
ミロカロスを覆う水が爆発的に広がり、フォートに直撃する。
“みずのはどう”
(……やっぱりミロカロスも持ってたか、しかしあの出の速さはなんだ? ミクリの指示も技名を言ってなかった)
「ねんりきで勢いを殺せ!」
「……メッタ!」
間一髪でフォートは至近距離からのみずのはどうを防ぐ事が出来た。無傷で凌ぐ事は出来なかったが、また混乱状態になる事だけは回避出来た。
「そう難しい事じゃない、ダイゴだってさっきとっしんからメタルクローを繋げただろう? 今のはそれの応用さ、より速く、より強く、より精確に。って具合にね」
本来はコンテスト用の調整だがね、とミクリは言うが、ここまで来ると一つの技として見ても問題ない完成度だ。
途方もない時間練習したのだろう、ミクリの一言で自分がすべき事を瞬時に理解するほどに。
「ミロカロス、たつまき」
「ねんりきで邪魔をしろ」
ミロカロスの身体がうねり、竜の旋風を作り出そうとするがフォートの念力でたつまきの完成には一歩届かなかった。
そしてそれだけでは終わらない。
「……む」
「カ、カロ……?」
“ミロカロスはこんらんした!”
ねんりきの追加効果が運よく発動し、ミロカロスが混乱する。
「そのままメタルクロー!」
「……タング!」
「ミロカロス、ドラゴンテール!」
勢いを取り戻したフォートのメタルクローがミロカロスの身体に深く突き刺さる。効果はいまひとつだろうがここまで攻撃を重ねれば痛かろう。
だがお返しとばかりに放たれたミロカロスのドラゴンテールでフォートは吹き飛んでいく。竜の尾による吹き飛ばしは普通の怯みなど目じゃないほどの隙を作り出す。
――強制交代だ。
「いやはや危ない所だった。さぁ控えのポケモンを出したまえ、メタングの復帰を待っていたらミロカロスの体力が全回復してしまうよ?」
「よくやった。戻れ、フォート。……頼んだ、シルキー!」
フォートをボールに戻し、代わりに俺のボールが投げられる。
さぁ行こう。ダイゴに勝利を齎す為に。
メガシンカという物の存在を知ったのは、父からキーストーンを貰ってすぐの事だった。
トレーナー試験に合格し、ちょっと豪勢な晩飯を食べた後に父に呼び出され、ある本を貰った。
『これはカロス地方のメガシンカにまつわる話が事細かに記された本だ。読んでおいて損は無いだろう』
何故そのような本を持っているのか疑問に思い尋ねると、メガシンカの存在自体はカロス地方への事業拡大時に知ってはいたがその時は興味を持っていなかったという。
最近になってメガシンカの性質を知り、僕の助けになればと情報を掻き集めたのだ、と。
本を読んで不安に思った。メガシンカにはポケモンとトレーナーの絆が必要だと書いてあった。
もしシルキーがメガシンカに応じてくれなければ、それはシルキーが僕の事を信用しきっていないという事になる。
それが酷く、怖い。
『――でもね、怖いとか分からないとか、そういうのを跳ね除けるから運命って言うのよ。怖いって感情は必要な物だけど、持ち続けては駄目よ?』
シルキーを家に連れ帰ったとき、フラウ以外のポケモンと初めて触れ合う時も似たような恐怖を覚えた。
その時母は情けないと言う訳でもなく、優しく諭してくれた。
『あの子を信じてあげなさい。ダイゴが一歩踏み出せば、あの子もきっと応えてくれるから』
(……そうだったね、ありがとう母さん)
震えは既に治まった。
目を開ければ爽やかな笑みを浮かべるミクリにこちらを静かに見据えるミロカロス、そして僕の方を振り向き何かを伝えようと目線を送るシルキーの姿が映る。
覚悟はとうに定まった。恐怖は既に捨て去った。ならば後はシルキーを信じるだけだ。
「――メガシンカ!」
僕のブローチとシルキーのペンダントが共鳴する。秘められた力の扉を今、開く。
シルキーの周りを朱色の結晶が覆い隠す。まるでサナギの羽化のように結晶体が罅割れ、シルキーが咆える。
1メートルほどまで身長が伸び、下半身と手首周辺が黒く染まった事で振袖と袴を身に付けているように見える。
人間で言うもみあげに当たる部分はメガシンカする前に比べ格段に伸び、一番の特徴である後頭部から伸びる薄桃色の大顎は二つに増え、波打つ二つの大顎は途方もない威圧感を醸し出していた。
「……な、なんだいその姿は」
ミクリが驚愕を顕わにするが、僕も同じ心境だ。
(――応えてくれた。これが、メガシンカ)
「……もしかしたらホウエンで僕達が初めて使ったのかもしれないね。さぁシルキー、全力で行こう」
出した本気の、その先へ。
問題なくメガシンカ出来た事に安堵するよりも先に、高揚感が胸の内を支配する。
トレーナーと繋がる感覚が心地いい。自分の身体が作り変えられる感覚が気持ちいい。ダイゴの為にこの力を振るえる事に歓喜する。
(これは……)
自分の中の何かが作りかえられる感覚がする。己の持つ力が増大していく感覚。これは、間違いない。特性の変化だ。
自分の特性がちからもちになったのだろう。だが元々持っていた「アイテムを二つ使える」特性が消えた感じはしない。
(特性が複合した……?)
良かった、メガシンカした瞬間に急に持ち物使えなくなったらどうしようかと思っていた所だった。
「……もしかしたらホウエンで僕達が初めて使ったのかもしれないね。さぁシルキー、全力で行こう」
ダイゴの信頼を寄せる声に悦楽を覚える。あぁ、これは駄目だ。何でも応えてあげたくなる。
「ミロカロス、みずのはどう!」
「ふいうち!」
ミロカロスが纏う水の体積が増し始めるのを、全速力の視界外からの強襲で阻害する。
頭上を取り、二つの大顎をミロカロスに叩き付けた。
“ふいうち”
「ミ、ロ」
ミロカロスが身体をぐらつかせる。意地でみずのはどうを発動させるも既に俺は距離を取っていた。
「ただの一撃でここまでダメージを受けるなんて……。くっ、たつまきで視界を阻害しろ!」
「ようせいのかぜで散らせ!」
ミロカロスが身体をうねらせ竜の旋風を作り出す。今度は完成してしまったが、俺は大顎を振り回して出した豪風で迎え撃つ。
“たつまき”
“ようせいのかぜ”
ドラゴンタイプの技はフェアリータイプには効果がない。
俺の風は容易く相手の竜巻を無効化した。
「――近づけさせるな! みずのはどう――」
「ふいうちで止めだ!」
ミロカロスが俺を警戒してようが問題ない。相手の虚をつく動きというのは何通りもあの森で学んできた。
静と動を繰り返し相手の視界から完全に外れ、前傾姿勢で零距離から大顎を渾身の力で振り払った。
暴力の権化と言ってもいいその一撃でミロカロスは吹き飛び、力なく倒れる。
「お疲れ、ミロカロス。……ドジョッチではそのクチートを突破出来る気がしないね」
ひんしになったミロカロスをボールに戻し、少年の様なきらきらとした目でミクリは俺とダイゴを見た。
「強いじゃないかダイゴ。メガシンカ、といったか、君達の絆はこの僕を上回る物だった」
僕の負けだ。そう言ってミクリは笑って負けを認めた。
ポケモンバトルが終わった。そう認識した途端、身体から力が抜け、光と共に元の姿に戻った。
高揚感が治まり、冷静な思考が戻ってくる。
(……勝てた)
フォートがドジョッチとミロカロス両方のHPを減らしてくれたから楽に立ち回れた。
帰ったらフォートを一杯甘やかしてやろう。
「ありがとう、シルキー。それにフォートも、君達のお陰でミクリに勝てた。……初めての勝利だ」
「クッチチチ」
ありがとうはこっちのセリフだよ。お疲れ、ダイゴ。
【種族】ミロカロス
【性格】おっとり
【特性】かちき
【レベル】25
【持ち物】ヤタピの実
【技】
・アクアリング
・みずのはどう
・たつまき
・ドラゴンテール
ミクリの手持ち二体目。技構成がメガクチート相手にする物じゃない。ドラゴン技二つとか舐めてんのか。まぁミクリさんコンテスト用の調整しかしてないし仕方無いね。
ミクリ戦は何とか一回に収めたかったので昨日休んで今日二回投稿したけど燃え尽きた。次回からはタグにある通り不定期更新になるんで気が向いたら見てやってくだせい。
たからあつめ→たからのばんにん:攻撃の実数値が二倍になり、本来持てない持ち物でも二つまで持てるようになる。