「いやぁ、美味しいですねミカゲさん!」
「あらそう? 一杯あるから沢山食べなさいな」
ニコニコと昼食を食べるミクリにニコニコと昼食を盛るミカゲ。ついでにガス欠気味に意気消沈するダイゴ。
壮絶なポケモンバトルを終えた後にしては両者のテンションに天と地ほどの差があった。まぁ初めてのポケモンバトルで使う熱量じゃなかったし仕方無いね。
フラウの獅子奮迅の活躍により俺とフォート、後ミクリのドジョッチとミロカロスも元気を取り戻したので大所帯での昼飯となった。
皆やんちゃだったりわんぱくだったり、元気な性格のポケモンの集まりという訳ではないので食卓がカオスになる事こそ無かったが、ミクリの手持ち達はバトルの興奮冷めやらぬままに俺達に話しかけていた。
「ドジョー」
「……グゥ」
最後に一矢報いた上でエースであるミロカロスに痛手を与えたのが気に入ったのか、フォートに懐いたドジョッチと対応に困っていると思しきフォート。
「カロ、ミロカッ!」
「チッチ」
ミクリ同様ナルシストの気があり、メガシンカした姿に美しさを見出したのかしきりにどうすればメガシンカ出来るのか聞いてくるミロカロスにお前では無理だと切り捨てる俺。
もしかしたら次回作以降でメガミロカロスなんてものが実装される未来もあったのかもしれないが、ゲーム的な設定をこの世界に落とし込むなら現状ORASまでの種類のメガストーンしか発見されていないという事になる。
まだ見ぬメガシンカを期待するのはいいが、実際に目に出来る確率は至極低いだろう。諦めた方がいいな。
「……それで? 結局何しに来たんだ。まさかポケモンバトルしに来ただけって訳じゃ無いだろう?」
スタミナ切れから復活したダイゴがミクリに問う。
その言葉にミクリは今思い出したとでも言うように頷いた。
「そうだった、バトルに夢中ですっかり忘れてたよ。本来はこのためにダイゴとバトルしたのに」
「……? 要領を得ないな、何だ一体」
「まぁ、なんだ。――ダイゴ、ポケモンリーグに出てみないかい?」
事の発端は一ヶ月前。ミクリの実家があるルネシティの象徴とも言えるめざめのほこら周辺で不審者を見つけたという。
巡回に出ていたルネシティのジムリーダーが鎮圧に動くも異様に練度の高いみずタイプのポケモンに撹乱され、まんまと逃げられてしまったという。
実害は無かった為にルネジムリーダーはポケモン協会に報告だけ行い、不審者出没情報だけ出回る。
――筈だった。
ジムリーダーの想像を超え、ホウエン地方の全ジムリーダー及びジムトレーナーに警戒の呼びかけが為された。
めざめのほこらに蒼い不審者が現れたのと同時刻におくりび山にも何かを探す紅い不審者が出没したという情報があったのだ。
「まぁ僕は気にしすぎじゃないかとも思うんだけど、同時期に現れた場所が場所だ。何か良からぬ事を企む組織犯である可能性も捨てきれないから人手を増やすという意味で――」
「……シルキー?」
ミクリの声とダイゴの声がくぐもって聞こえる。いや、俺に聞く気が無いだけだ。そんな事よりも処理すべき情報を聞いてしまったから。
めざめのほこら、おくりび山、どちらも物語の根幹に関わる場所だ。
状況証拠にしたって少なすぎる。だが、もし二人の不審者が俺の思う人物だとしたら……。
(そんな馬鹿な、動くにしたって速すぎるだろう。今からじゃ間に合わ――)
――いや待て落ち着け。本当に動いたのか? 部下も連れずに双方一人だけで? ……基本徒党を組んでくる奴らが単独で動くのは余り考えづらい。
ジムリーダーを退ける実力を持ちながら一人で行動してるという事は両方ともまだ組織が出来ていないんだ。計画は動くどころか練られてすらいないだろう。めざめのほこらやおくりび山にいたのはすべき事の再確認とか、そこら辺だろうか。
「――クチッ」
とりあえずくしゃみをする振りをして誤魔化す。フラウはじとっとした目をこちらに向けるがミクリとダイゴはそれぞれの会話に戻っていった。話の腰を折ってごめんよ。
何れにせよ介入するしないはダイゴに任せるべきだ。それに案外、引っ越してくる主人公が何とかしてくれるかも。
「……? まぁミクリの言いたい事は分かったよ。ポケモントレーナーとして実力を付けろと、そういう話だろう? 頼まれるまでも無い、僕もポケモンリーグを目指してたからね」
「本当かい? 何か欲しい石とか見つけたのか?」
「……君は僕の事を何だと思ってるんだ」
ダイゴは頬杖をついて呆れた様にミクリを見る。
「男なら誰だってチャンピオンに憧れる物だろう?」
布にコンパウンド剤を伸ばし、金属質の身体を磨く。乾燥した布での乾拭きとそれを繰り返し、全体を手入れしていく内に蒼い身体はロックカットを行ったかのように輝きを増した。
「……クチッ」
「……メタッ」
俺の完璧なまでの手入れによりフォートのかっこよさは10上がった。というのは冗談にしてもダイゴの行うそれと遜色無い程度には出来たんじゃなかろうか。
いつもはフォートの世話はダイゴが行うのだが、今ダイゴは旅支度をしている最中なので手が空いてる俺がフォートの世話――やってる事は毛繕いとかそういう類だが――をしていた。
ミクリが嵐のように去りルネシティに帰ったその日の夜、ダイゴは両親に旅に出る旨を告げ、快諾を受けた。フォートはミカゲやムクゲと暫く会えない事に寂しそうにしていたが、ムクゲがダイゴにビデオ会話機能付きのスマホを渡した事で解決した。
俺達は俺達で一足早くダイゴの両親と別れの挨拶を済ませており、少々暇である。のでダイゴの荷物整理を手伝う事にした。
浮遊するフォートの頭の上に乗りダイゴの部屋まで連れてって貰う。
(いやー、すっごい快適。なみのりとかそらをとぶとかいらないんじゃないか?)
ルンバに乗る猫の様な心持ちでそんな事を考えるが勿論そう簡単には行かない。
フォートのふゆうは特性の“ふゆう”でも無ければ技による“でんじふゆう”でも無い。念動力と磁場の放出による力が半々なので地面をそこそこの距離離れたり海上になったりすると途端に不安定になるのだ。
「……グッグ」
フォートがダイゴの部屋の前に辿り着く。運んでくれたフォートに礼を言って一緒にドアを開けた。
「……いやこの双子石も捨てがたいな、持って行けばもしかしたら幸運を呼ぶかも知れない。いやだがそれで行くならこの黄金石もありだな、何処となく金運を上げてくれそうな雰囲気が……。待てよ? 旅に出るなら無病息災も必要だな、あのパワーストーンは何処にやったか……。いいや、もう全部持っていこう! ん? どうしたフォートにシルキー、迎えに来てくれたのか? すまない、持って行く石の選別に時間が――待て、何で石を全部取り出す? あ、こら! 止めろ一緒くたに纏めるな石は傷つきやすいんだぞ!」
「クチー」
「……グゥ」
「あぁーーっ!!」
いらない物は置いていけとミカゲに言われただろうが。
フォートと協力してダイゴのリュックサックにぎゅうぎゅう詰めにされた石を全部取り出した。採掘道具は別に持っていってもいいだろうが旅先で全部のコレクションの手入れをするとか正気の沙汰ではない。
(フラウに任せりゃいいのに……)
マニア特有のポリシーという物があるそうで。
結局ダイゴはコレクションを全部家に置いていく事になり、俺とフォートを入れた二つのモンスターボールを懐に仕舞い込み若干落ち込んだ様子でツワブキ家を旅立った。
締まらない旅立ちもあったものである。
フォートの鋼鉄の拳が相手のポチエナを捉える。ポチエナは勢い良く吹き飛び、トレーナーである少年の前で倒れた。
「ああっ、ポチエナ!」
「お疲れ、フォート」
フォートはまだピンピンしており、勝負を仕掛けてきた少年の手持ちはもう残っていない。誰が見ても勝敗は明らかであった。
「俺とそう変わんない年なのにこんな強いのかよ!? くそっ、持ってけドロボー!」
そう言って少年はポチエナをボールに仕舞い、小銭の入った袋をダイゴに投げつけて涙目で走り去っていった。
少々口は悪かったが、潔く負けを認め賞金を出し渋る様子が無かった辺り根はいい子なのかもしれない。
「……何だか悪い事をしてしまったな。金を巻き上げているようで……」
ツワブキ家を出てからずっとこの調子であった。
カナズミシティで遭遇したトレーナー(主にトレーナーズスクールの学生)に喧嘩を売られ、フォートが叩き潰し、金を巻き上げる。このサイクルをずっと繰り返している為ダイゴの財布はパンパンであった。
しかし改めて考えるとミクリって強かったんだなぁと感心する。ミクリはコンテストに重きを置いておりバトルも自衛レベルでしか学んでないというのだが、道行くトレーナーの平均値を知るとミクリは異常だと断言できる。
(伊達に未来のジムリーダーやってないよなぁ)
才能の片鱗という物は幼少期から見え隠れするものらしい。
さて、折角カナズミシティにいるのだ、ここでカナズミジムに挑戦しない手は無いだろう。不完全燃焼気味のフォートも戦意を高め、俺も活躍の場を望んでいた。
ダイゴに苦戦は似合わない。俺とフォートで圧勝してやろう。
ツワブキ家はデボンコーポレーションのあるカナズミシティにある。
豪邸というほどの大きさじゃないけど十分金持ちの家なので割と有名。
週一でハウスキーパーが掃除しに来るけど殆どフラウが頑張ってる。
トレーナーズスクールに通わせなかったのはそれまでダイゴがポケモンに興味を持ってなかったから(という事にした)
ツツジさん好きなんだけど鎧袖一触で屠られる未来しか見えんね。