パチパチと、小さい何かが破裂する音を聞いて僕は目を覚ます。
ここは? 洞窟で休んでたんじゃ――痛ッ!
「コ、コ」
逃げなきゃ。そう思って足を動かしても体が思うように動かない。
何故と一瞬考えたが三日三晩走り続けていればこうもなろうか、本当に無茶をした。
「クチー」
ぽん、と頭に小さな手を乗せられる。見上げてみれば変な色をしたクチートが僕の事を撫でていた。
怖くないよ、安全だよと、母の様な姉の様な、今となっては二度と感じられない筈の温もりに涙が出そうになった。
敵じゃない。それがすっと理解出来た途端に一気に力が抜けた。
「ククゥ」
「……ココ」
抵抗を止めた僕の前にオボンの実が差し出される。涙腺が緩むのを抑えきれぬまま、僕は目の前の木の実に齧りついた。
一度は目を覚ましたココドラだが、オボンの実を食べるとすぐにまた眠ってしまった。それだけ疲れていたという事だろう。
今はシルキーが面倒を見てくれているが、正直な心境としてはどうしたらいいか悩んでいる。
(ココドラは好きだし、シルキーもフォートもあのココドラに悪感情は抱いてない。でも何であそこにいた? ココドラの生息地は主に石の洞窟、そこからここまで来たのか? 何かから逃げてきた? ポケモンから? 人から? どちらにせよここで捕まえたら僕達も巻き込まれ――)
――パチリ、と薪が弾け、思考を中断する。今のはポケモントレーナーに相応しくない考えだった、取り消そう。
深呼吸をしているとシルキーがこちらを見ていた。
「……? どうしたんだシルキー」
なにやらじっとこちらを見つめてくるので何かしただろうかと不安になっていると、シルキーは薄紅色の大顎で器用に僕のバッグを開け、中からモンスターボールを取り出した。
それはシルキーの物でもフォートの物でもない、買った覚えの無い空のモンスターボールだった。
「……それ、どこで?」
「? クチッ」
焦ってシルキーに問うとカナシダトンネルの反対方向に存在する鬱蒼とした森を指差された。どうやらただの落し物らしい。
凶暴なポケモン相手に逃げたりする機会が結構あるトレーナーにとってモンスターボールの落し物というのは割りと頻繁に多発する。
相手が強ければモンスターボールは弾かれるし、気が立っているポケモン相手にボールを回収しに行く等不可能だ。
場合によってはトレーナーの方に攻撃が飛んで行き、バッグが破れ中身が零れるなんて事もある以上トレーナーは自分の持っている(若しくは持っていた)ボールには無頓着な傾向が強く、交番に持ち込んでも誰も取りに来ないので拾ったら有効活用しましょうという暗黙の了解が広まっていた。
(全部ツツジさんから聞いた話だけど)
だからまぁ落し物だと判明したのならボールに関してこれ以上騒ぐ必要は無い。
そんなボールを大顎で咥えたシルキーは、それを僕に向かって放り投げた。
「うぉ、っと」
「ククッチート」
ポムポムとココドラを撫でながらシルキーは僕に対して呆れたような口振りでそう言った。……とりあえず保護してから考えろとか、多分そういう事を言っているのだろう。
(悩んでたのもバレバレか、敵わないな)
ミクリや父さんであればこの状況でココドラを見捨てる訳が無いし、母さんに悩んでるのがバレたらさっさとボールに入れて手当てしろとぶん殴られそうだ。
悩むなんてらしくない。次に目が覚めたらココドラに聞こう、僕に付いて来るかどうか。
「あまり遠くに行くなよ?」
「クッチチ」
シダケタウンとキンセツシティを繋ぐ自然豊かな草原で俺達は遊びまわっていた。
ゲームで言う所の117番道路に相当するこの道も馬鹿みたいに広い。大草原もかくやというほどだ。
多少暴れても問題ない位に広いとなれば俺とフォートがやる事は一つ。ポケモンバトルである。
と言っても今回はじゃれ合い程度に抑えるけども。
(新顔もいるしな)
遠くでダイゴが掘り当てた石を磨いている所を一匹のポケモン、ココドラがすぐ近くで眺めていた。
再び目覚めてから、ココドラはすぐにダイゴの手持ちになる事を受け入れた。新しく仲間が増えた事でフォートのやる気はいつもより高い。
所定の位置に立った瞬間フォートが殴りかかってきた。鋼の拳を大顎で弾き、思考に耽る。
どちらもトレーナーという指揮者がいないため、野生のポケモン戦を想定して判断力を高める事を主目的としている。何から何までダイゴ頼りだと彼の負担が増すからな。
「……メッタァ!」
「チッ」
フォートのねんりきで俺の動きを止められた。
……度重なる鍛錬で大体の技に対応できる自信が付いてきたが、どうにもエスパータイプの技は苦手だ。何と言うか、どうにも読めない。
(まぁ力尽くで振り払えるからいいけど)
だがまぁそれは一瞬棒立ちになると言う事でもあり、しっかりとその隙を突いてフォートが拳を振り上げた。
“メタルクロー”
“ふいうち”
致命的な隙を突いた筈の一撃よりも早く、俺の攻撃が刺さる。俺にとって隙なんてあって無いような物だ。
「チッチッチ」
「……グゥ」
ふいうちの精度も上がってきてそろそろ相手が変化技使ってきてもふいうち当たりそうな気がするが、今はフォートの事だけ考える。
長い事俺と実戦形式で戦って来たせいで姑息というか行動の幅を広げる戦い方を好む様になったフォート。
今だってかみくだくの予備動作を予見したフォートがねんりきで大顎を閉じ、メタルクローでぶん殴ってきた。それならそれでと大顎を振り回して至近距離からようせいのかぜを叩き込んでやったが。
(……やっぱ楽しいなぁ)
フォートとこうして戦える事が、酷く楽しい。技を繰り出す事が、技を受ける事が、一手一手の読み合いが、体力を磨り減らす感覚が。だからこそもどかしい、もっと力があれば理想の戦い方が出来て、目の前のポケモンを捻じ伏せられるのに、なんて。
きっとフォートも少なからずそう思っている筈だ。だから俺はその衝動を否定しない。
まぁそれはそれとして今日の模擬戦は終わりだ。これ以上続けてはダイゴに迷惑が掛かるし何よりココドラが怖がる。
「クッチィ」
「……ング」
大顎からオボンの実を取り出した俺はフォートに半分あげて、フォートの頭に乗りながらダイゴの元へ戻っていった。
「お疲れ、シルキー、フォート。大丈夫だったかい?」
怪我の有無で言えば負傷しまくりだがボールに入るのも億劫になる程ではないので問題無いと頷く。
ふとココドラを見ればキラキラとした目で俺とフォートを見ていた。
カッコいいという憧れか、強くなりたいという決意か。どちらにせよレベルアップに意欲的なのは良い事だ。
そのうち自己流ブートキャンプでフォートと同じ位レベルブーストしてやろう。
唐突だが、ポケモンをやっていると十分な知識を持っているにも拘らず「あれ? こんな感じだったっけ?」と驚く事が多々ある。
その中の一つとしてはがねタイプとでんきタイプの対面が挙げられる。はがねタイプにでんき技は特に効果抜群という訳では無いのだが、同レベル帯だと効果抜群と錯覚する程のダメージを受ける。
単純にはがねタイプのポケモンが総じて特防が低く、でんきタイプの技に強力な特殊技が多いというだけの話だが……朧げな記憶にも鮮明に残っているという事は前世の俺は余程驚いたのだろう。
さて、キンセツシティのジムは先程述べたでんきタイプを扱うテッセンがジムリーダーを務めている。先程の話を踏まえて考えれば警戒して然るべき相手だった。
……そもそもの前提条件が「同レベル帯」だった場合の話であり、幾ら強力な特殊技を持っていようとも効果抜群でないのなら脅威にはなり得ないのだが。
「フォート、止めだ!」
「……メッタ!」
“しねんのずつき”
フォートの突撃がテッセンのレアコイルに突き刺さる。お返しとばかりにレアコイルがスパークを放とうとするが、しねんのずつきのダメージによって怯んでしまいフォートに殴られ倒れた。
フォートの勝利である。
「いやはや、完敗じゃ。お前さん強いのぉ、ほれ、ダイナモバッジ」
「ありがとうございます……」
朗らかに笑う初老の男性がダイゴにバッジを渡す。ダイゴは俺を出せなかったのがショックなのか少しテンションが下がっていた。
まぁレアコイルの特性がじりょくだったし仕方無いわな。全抜き出来たフォートは嬉しそうだったし別に良かろうよ。
「これでバッジ二つ目じゃな、次はフエンタウンか? それともヒワマキシティか?」
「まだ決めかねています。一先ずキンセツシティを見て回って必要な物を買い足そうかと」
「そうかそうか、……そう言えばつい先日、技マシンが大量入荷されたと聞いたな。色々探して見るといいぞ」
テッセンはそう言ってダイゴと握手を交わす。そんなこんなでダイゴはキンセツジムを後にした。
必要な物を買い足すと言っていたダイゴはとても上機嫌にキンセツシティを巡っていた。大方珍しい石や宝石を探すつもりなのだろう。
軍資金は旅立ちの日に両親から貰った分、そしてダイゴが道中で掘り当てた石を売って得た分があるので結構潤沢である。
上機嫌なダイゴがボールから俺達を出して色んな店を物色していく。メタングは頭の上にココドラを乗せて遊んでいるので俺は何処に行こうかと辺りを見渡し、
「――クチッ」
見つけた。
――技マシン№75“つるぎのまい”
どうしたって自力では覚えられない技を覚える為の手段を。
フエンタウンの空手王さん、ボッシュートになります!
そして例によってジム戦9割カット。まだレベルでゴリ押し出来る範疇だし多少はね?
この分だとじっくり描写出来るのはフエンジム辺りかなぁ……。
あ、フォートのレベルが上がってしねんのずつきを覚えたのでねんりきをポカンしました。ついでにココドラに懐いた。