戦姫絶唱シンフォギアVC 前日談 HomeFronters   作:サリッサ@無期限休止

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Chapter3 そこに確かに、あったもの

空港、日本から海外への玄関口。そこに、風鳴弦十郎はいた。

 

時計を確認し、小さくため息をつく。状況が違えば、デートの待ち合わせか何かと勘繰られたかもしれない。

しかし、赤いスーツの下は傷だらけで、彼の心境はその傷の酷さよりも、複雑だった。

 

「弦十郎さん」

そこへ、見るからに好青年といった出で立ちの若者が歩いてくる。

「緒川、来たか」

「ええ」

その表情には、疲れとやりきれなさが見える。外傷は見て取れないが、その実身体へ相当の負担を強いたからか、歩き方がぎこちないように感じられた。

「大丈夫か?…と聞くのも、野暮だな」

 

 

あの後のことを、弦十郎は覚えていない。

 

忍びの技を駆使した緒川に連れられ、着弾寸前のミサイルの横をすり抜ける形で、彼らはついにあの地獄から脱出した。

爆風を間近で受けたため、脱出ポッドごと落ちていてもおかしくなかった。が、彼らは全員生還した。

 

正しく奇跡といえる状態だ。それでも、その代償は非常に重いものだった。

「で、家の方はどうなった?」

「結論から言ってしまえば、技の無期限封印です」

緒川は答える。

「不特定多数に見せてしまいましたから。実際は破門されてもおかしくない状況でした。兄が苦心してくれたようで、何とか使用禁止程度で済んだんです」

「そうか…」

門外不出、秘匿第一とされる忍びの絶技。それを少しでも公の人の目に出してしまったこと。未だ忍びを牛耳っている古株の面々が、隠匿に神経質になっていること。弦十郎は風鳴の者であるが故に、聞き及んでいた。

「変革嫌い、慣習好きは、どこにでも居るものだな。…それで今後はどうする?」

 

「その間は、翼の警護をしてもらうつもりだ」

問いに答えたのは、緒川ではなく八紘だった。

「八紘兄貴!」

「弦、久々だな。法廷以来か」

二人は互いに肩をたたき合う。双方の事後処理に対する労いは、それで十分通じる仲だ。

「昔から、翼の身辺をしばし見てもらっていたからな。それを継続してもらうよう計らった。風鳴の敷地内であれば、少し手違いが起きても、多少なりとも文句は言うまい」

風鳴翼。その出生は複雑であるものの、間違いなく八紘の娘だ。

 

「改めて、娘のことを頼む」

そう言った八紘の表情には、風鳴の者としてではなく、父としての覚悟が見て取れた。

昔、相談を受けた件だろうと、弦十郎は思う。姪の笑顔を思い出し、頷いた。緒川になら、任せられる。

「必ずや、期待に応えてみせます」

緒川はいつもの柔和な姿勢を正し、きっぱりと応えた。

「これなら、安心だな兄貴。勿論、俺も協力する」

胸を叩き、笑う弦十郎を見、八紘は微かに笑みをこぼした。

 

「それはそうと、先ほどから出あぐねているお二人は…」

緒川に諭される形で、物陰から男女が現れた。藤尭と友里だ。予想外の再会に、弦十郎の顔が驚きと喜びに変わる。

「失礼します。風鳴さん、緒川さん、ご無沙汰しております」

友里がそう言って藤尭共々深くお辞儀をする。

「二人とも!体の具合は、大丈夫なのか?」

弦十郎の問いに、友里は頷く。

「風鳴さんが持ち帰ってくれた解毒薬のお陰で、他の皆も順調に回復しています」

「大丈夫ですよ」

今度は藤尭が言う。

「コイツ、俺が見舞いに行った時も、銃のライセンス取得とか調べていましたから。身体の方はむしろ動き足りないってくらいなんじゃないですか?」

「ちょっと!!」

短い怒気に、たじろぐ藤尭。その様子に、思わず笑みがこぼれる。

 

「あの時、もう少し私が…」

友里の口からこぼれた陰を含んだ言葉に、少し間があって藤尭は彼女の肩に手を置く。そうした彼の表情は、先ほどの飄々とした、取り繕った態度ではなかった。

一様に皆、傷を負っている。

「二人は、どうしてここに?」

「俺は、付き添いみないなものです」

そう答えた藤尭は再び傍らに目を移す。

「私が、無理を言って連れてきてもらったんです。どうしても、聞かねばならないことがあったから…」

 

 

 

「ん?何してるんだ、こんなところで?」

そう言って現れたのは、

 

両側をスーツ姿の男たちに固められ、手錠をし、変わらずガスマスクで口元を隠した、

 

 

伴成蘭堂の姿だった。

 

 

 

「…お前の見送りだよ」

「見送りというか、刑執行の見届け人と言うべきではないか?」

その返しに、何とも言えない表情を浮かべる弦十郎。スーツの一人が、何か言いたげに前へ進み出た。八紘が片手を上げ、それを制す。

「少しだけ時間を。私が立ち会う。君たちは席を外してくれ」

八紘の言葉に、スーツの男たちは困惑を隠せないながらも、従って脇へ外れた。

 

「蘭堂、すまない。こんな結果になってしまって」

改めて向き直り、八紘が苦々しく言う。

伴成蘭堂。彼に課せられたのは、無期限の国外退去処分だった。

「構わんさ。訃堂が死刑にしようとしたんだろう。それを退去にとどめさせるには、相当骨が折れただろうさ」

あっけらかんという蘭堂は、言葉通り気にしていないといった風体だった。

 

 

 

『そんな馬鹿な話があるか!』 

 

弦十郎は拳を叩きつける。乾いた音が、空虚に木霊する。

『しかし、あの場で唯一生き残った、拉致未遂被害者、桜井了子氏の証言だ。覆せるとは思えない』

事後処理の中で浮上したのは、蘭堂がテロリストと内通していたという疑惑。了子がテロリストに拘束されている際、蘭堂とテロリストの無線での会話を聞いたというのが発端らしかった。

『あの時蘭堂は終始俺たちと一緒にいたんだ!了子君の聞き間違いだろう!そんなタイミングがあったはずが──』

電話越しの兄に訴える弦十郎だが、しかし八紘も知らぬはずはない。

『それだけではないんだ。この事件にいたるまでの、蘭堂の行動を洗いざらい調査させ、今回の騒動に結び付けた者がいる…』

『誰が……そんなことができるのは…まさかッ』

思い浮かんだのは、他ならぬ、彼ら兄弟の父親の姿だった。

『蘭堂自身、弁明するつもりがないらしい。元々自分の命にどうも執着のない男だ。このままでは、最悪の結果になってしまう』

そこまで言うと、一呼吸を置き八紘は告げた。

『私とて黙って見ているつもりはない。少なくとも、この件を誰かに追いかぶせて早々に処理しようとする輩の影が見える。テロリストの出どころも霞に消えて掴めない。弦、お前も気を付けろ。こちらは私に任せておけ』

その結果、証拠不十分ながら、無理やり決定されかけた死刑判決を、八紘はその人脈と手腕でもって国外退去に変更させてみせた。

 

 

「蘭堂さん。あの時は、大変失礼をいたしました」

口を開いたのは緒川だ。彼は前へ進み出て、深々と頭を下げようとする。しかし、それを蘭堂は止める。

「気にするな。些事だ。何も謝罪するようなことでもない」

意に介さず、手錠された手を軽く振る。緒川は諦めたような苦笑を浮かべ、後ろに下がった。

「ばん…じょうさん…」

次に進み出たのは友里。どう言葉を紡げばいいのか思案し、しかし未だ決めあぐねているようだ。

「蘭堂でいい。で、なにか?」

しばしの沈黙の後、友里は言った。

 

 

「私…夢を、見たんです」

 

 

「夢?」

弦十郎が聞き返した。

「ええ…夢です。あの時、私が意識を失った後のことだと、思うんですけれど」

どういえばいいのか、ここまで熟考し、それでも上手く言葉にできないようだ。

悩んだ末、少しずつそれでも彼女は胸の内を吐露し始める。

 

「夢、たぶん夢の中で…あの子に、シオちゃんに会ったんです。どこかもわからなかったんですが、シオちゃんがいて、私がいて…私、声を出そうとしたんですが、出なくて…手も、届かなくて……」

隣の藤尭も、顔を歪める。彼は片方の手を振るえるほど掴んでいた。あの時届かなった手を。

 

「そうしてもがいて…いえ、もがけもできずにいたのですが……そしたらあの子が…

笑ったんです。

 

助けられなかったのに…守れなかったのに…優しい…笑顔でした…」

そこまで言って、友里は言葉が出なくなってしまう。

涙を抑える彼女と気遣う者を横目に一瞥し、蘭堂は少し考えるように視線をあげる。

「フム。それがただの妄想かどうか、か。当事者でない以上、ただの夢、で片付けられてしまうが…」

蘭堂は皆に向かって話し出した。

 

 

「夢見る人、というのを、知っているかね?」

聞きなれぬ言葉に、答えられない一同。

「時たま、ただの人でも居るものだ。覚醒と夢、物質と精神、時間と空間、生と死の狭間にある世界。そこに入り込むことができる人間や瞬間がね。

古来より話に出る、故人の幻影を見たとか、明確なデジャビュなどは、その世界を通して見たもの、ということがあるわけだ」

 

「そこでは…故人にも会うことができる…と」

緒川の呟きに無言のまま薄笑いを浮かべ、答えず話をつづけた。

「今回のがソレである、とは断定はできない。だが、あの場あの空には、不可解なことが置き去りになっている。

召喚されたアレが、弦や緒川を見逃したこと。至近距離の爆風を受けながら、しかし脱出ポットが無事だったこと」

考えてみれば、確かに謎が多い終幕だった。奇跡の一言で済ませてしまうには、あまりにも状況が、最後の最後で上手く行きすぎていた。

 

「一つ仮説を立てるならば、だ。感染源たる死体を喰ったことで満足したアレが、何の気なしに飛んできたミサイルすらも捕食して爆風を封殺し、他の生存者を無視して消えた、とかだろうか」

「そんなに…慈悲深いものなのか?」

弦十郎の問いに、蘭堂はせせら笑った。

「アレがそう簡単に見逃すものかよ。冒涜を許さない、そう言っただろう?ただ…」

そう言ってから、蘭堂はマスクの位置を正した。

 

「可能性だぞ。捕食という行為は、己が身にその血肉、精神すらも取り込むことに他ならない。特にああいう中途半端で生み出されたモノならば、尚更喰ったものに影響を受けるかもしれない…と言える」

普通の生物ではないからな、と彼は付け加えた。

「そうさせたのが、あの死体にあった、宿るはずのなかった微かな精神だったのか、はたまた別のものだったのかはわからん。ここで仮説に仮説をぬりたくっても、絵空事の域を出ない」

 

明確に捕食されたのは、あの少女シオと、そしてエスペランザ。

あの時、緒川と共に部屋を出る刹那、あの化け物が少女を前に静止したように見えたのは、本当に品定めだったのだろうか。と、弦十郎はふと思った。

推し量ることなどできない、あの生命を蝕む閃光の中にもし、表情と言えるものが垣間見えたのなら、どのような顔をしていたのだろうか、と。

 

 

「ともあれ、結果結実は揺るがず此処にある。あの場で手を差し伸べ、そして手を取り損ねたからこそ、今ここにお前たちが生存している。それは事実だ」

そうして、再び向き直る。彼としては珍しく、真っ直ぐに。肩を震わせている若者二人と、その背後の者たちに目をやった。

 

「こういう時は…そうだな。あの死体自体を救うことはできなかった。死体だしな、生物学的に、到底不可能だ。できるはずがなかった。そのままでは、ただの感情の無い病巣、人間に成れなかった疫病神として、かき消えるだけの存在だった。だが、」

 

最悪の自体は回避できた。回避できたのだ。

多数の命を救うことができたのだ。

 

しかし、あの場所にあった、確かに共にあった、小さな存在に対して、自分たちは何かできたのか、他に何かできたのではないか。

そう自問し続けてきた者たちに、

ガスマスクの男は静かに言葉を送った。

 

 

 

「お前たちは、アレの…あの少女の心だけは、救うことができたんじゃないか?」

 

 

 

友里は静かに泣き崩れ、藤尭は血が出るほどに唇をかんだ。緒川は二人を気遣い、拳を握る弦十郎の肩に、八紘の手が置かれた。

守れなかった、止められなかった。届かなかった。それでも、あの少女は最後に心を得、今此処に自身らが息をしている。

後悔と懺悔。しかし、それぞれに向けられたあの無垢な笑顔が、確かにその心に共に息づいていた。

 

「お前が…他者を気遣うことを言うとはな」

弦十郎の言葉に、肩を竦める。

「そんなモノに見えるのかね。そもそも、俺としても興味の出る不可解さだったってだけさ。あれは。

あの動く死体がとった行動が、俺の答えになるような、気がする」

そう言うと、何かを決めたように蘭堂はマスク越しにほくそ笑んだ。

 

「ウム。もうこの国に用はないと思っていたが、気が変わった。また戻ってくるとしよう。

お前たちを見ていれば、解けないと括っていた問題の解が、わかるかもしれない」

 

「私たちが出会った日、こうして見送ることになろうとは、思ってもみなかったよ」

八紘が寂し気に言う。

「二人、いや訃堂にも…感謝している?と言うべきか?ここは。何はともあれ、日本国籍と学位は、それなりに役に立った」

相変わらずの蘭堂の言動に、弦十郎は笑った。

「また来い。それができるよう、こちらもできる限りのことはする」

「気張るな、俺はただの消え損ないの傍観者。どっちに転ぼうが、この余生に大した支障はない」

 

スーツの男たちが戻ってくる。

蘭堂はマスクの位置を弄り、連れられて、廊下を進んでいく。

 

手錠をされたその手には、何時の間にか、あの船上で持っていた奇妙な漆黒の箱があった。

 

 

 

「では諸君、さらばだ。願わくば、また逢いまみえる時を楽しみにしている、と言っておこう」

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「……これが、俺とアイツらのファーストコンタクト。ウォーキングデッド事件のあらまし…というわけだ」

 

 

ひとしきり言い終わり、ガスマスクの男は椅子の背に身体を預けた。

 

「成程…師匠たちにそんなことが…」

茶髪で快活そうな少女が、しみじみと呟く。

「ハイハイ!それは二課ができる前の話デスよね?」

隣にいたバッテン印の髪留めの少女が元気よく手をあげて問う。

「んあ?ああ。その後、方々紆余曲折を経て、訃堂の退任と弦の二課司令就任。それをきっかけにメンバーを再編成したらしい。俺は確かフィンランドにいたから、その間の詳しいことは知らん」

 

「本当に国外退去していたんですね…」

物静かそうなツインテールの少女が言う。バッテン印の少女も頷く。

「そうデス。バンジョーさん、平気で破ってそうデス…」

「それはちょっと言い過ぎですよ…」

今まで肩越しに話を聞いていたらしい、白衣の少女が椅子ごと向き直る。その右目には特徴的な泣きぼくろがあった。

しかし、その言葉に構いなく、件の男は手を軽く振って答える。

 

「まぁそういう認識は間違っていない。その時は特段戻る気も予定もなかっただけだ。実際日本に戻ってきたのは…あれだ、カ・ディンギルやらルナアタックの少し前だ。俺もあそこにいたからな」

「え?!そうなんですか?!」

快活そうな少女が素っ頓狂な声をあげ、その拍子に立ち上がる。よほど予想外のことだったらしい。

「言っていなかったか?弦に頼まれて、一応デュランダルの格納庫前にいたぞ。が、まぁ結果動向は察しの通りだ」

容易に道を譲った光景を想像し、少女たちは引きつった笑みを浮かべた。

 

「ではルナアタック後から二課、SONG所属の聖遺物研究課になって、現在にいたるということですね!」

白衣の少女が少々焦ったように言う。そして改まって男にお辞儀をした。

「本当に魔法少女事変の時は有難うございました。正体不明の僕を推薦してくれて」

「あの時一応聖遺物関連の主任で、俺よりお前が適任だと判断しただけだ。実際は八紘の口利きが大きい。俺はオマケみたいなものさ。それにな」

男はデスクに置いてあった石の破片を無造作に持ち上げる。

「主任は面倒ごとが多すぎる。今のポジションの方が、意外と立ち回りがしやすい。俺には合っている」

 

「…あ、そうだ。さっきのは緒川さん、友里さん、藤尭さんとの出会いだったじゃないですか。だったら、師匠との出会いはどんな風だったんですか?」

快活そうな少女が、思い出したように問うた。それに対し、

「その話はまた今度としよう。お前ら、そろそろ夕食の時間足りなくなるんじゃないか。訓練ついでに済ませて帰るんだろう?」

男は壁にかかった時計を指差した。

 

「わッ!忘れてたデスよ!!急がないと食堂が閉まっちゃうデス!!」

バッテン印の少女をツインテールの少女がなだめる。

「時間はまだ少しあるから、今から行けば充分間に合うよ」

「私としたことが!話に夢中になり過ぎて、お腹の空き具合を失念していたとはッ!一生の不覚!」

少女三人はそれぞれが帰り支度を始め、訓練後の荷物を思い思いに背負う。

「じゃあ伴成さん。お疲れ様です」

「バイならデス!それじゃ、食堂にレッツらゴーデース!」

先の二人が部屋を後にする。続いて廊下に出ようとしようとした少女を、男は呼び止めた。

 

 

 

「オイ、〝ヒビ割れ少女〟」

 

 

 

「……もーそのヒビ割れ少女って呼ぶのやめてくださいよ…私には響って名前があるんですからー」

 

明らかに不服そうな表情をする少女だったが、男は意に介さない。

「再来週のどっかで、新システムの実施テストと調整中だったギアを一旦返すつもりだ。奏者面々に伝えておいてくれ。弦には言っているから、改めて連絡はあるとは思うが」

「…わかりましたぁ。じゃ、蘭堂さんお休みなさい!」

気を取り直し、手を振ると快活そうな少女は研究室を出ていった。

 

「あ」

が、すぐにひょっこり顔だけ戻す。

「エルフナインちゃんも、一緒にどう?」

「え?」

作業に戻ろうとしていた白衣の少女が、少し呆けたような顔をする。

「…でも、ギアの不調原因がまだ解明できていないので、一刻も早く対処しないと…」

それに対し、男は追い立てるような手ぶりをしつつ、少女に告げた。

「依り代云々の報告も含めて、ろくに休んでいないだろう。休暇の件もそうだが、少しは休むことを覚えた方が良い。生き物ならばな」

「はいぃ…」

縮こまる白衣の少女。

「件のことはとりあえず任せておけ。休暇と言っても、数日俺の知り合いの所で静養するだけだ。芸術家等も休息中に新しい発見をするものなのだろう?気になるようならば、問題等発生した時に連絡が届くようにしておく。そう心配もいらん」

「そう…ですね…お願いします」

「じゃ、行こ!エルフナインちゃん!」

白衣の少女を連れだって、快活そうな少女は手を振りつつ、部屋をあとにした。

 

 

 

 

二人を見送り、男は頬杖をつく。しばし去っていったドアを見、改めてモニタへと向き直った。

 

その画面には数式や英単語の他に、中央に立体図形が表示されていた。それは五芒星に、前方へ突き出した一辺を付け足したような図形。見方を変えれば、アレイスター・クロウリーの六芒星と称される物にも近い。

しかし、その奇形はどこか、今までとは別の、花を模しているようにも思われた。

 

「とりあえず、これで急場はしのげるだろう。問題は…」

 

画面が切り替わる。映し出されたものを見、男は低く唸った。

「訃堂め…こちらが嫌なタイミングで例の法案を通させたか。流石、と言うべきか、ここは。

……早急だが、始めるか。バレない内に起動してしまえば、まだ準備中のこちらに分がある」

 

 

そう言ってほくそ笑む男の傍らには、何時ぞや所持していた、あの黒い奇妙な箱が鎮座していた。

 

箱の表面を撫で、 伴成蘭堂 は虚空を見る。

 

 

正確にはその先に広がる

 

冒涜と星が渦巻く常闇の大海、更にその先を見据えて

 

呟いた。

 

 

 

「さて、こればかりは一発勝負。イチかバチか、サイコロを投げるとしよう」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

薄暗い廊下に、一人。女性が壁を背に立っている。藍色の制服に身を包み、少し落ち着かない様子だ。

 

「よ、友里」

 

そこへ同じ制服に身を包んだ男性がやってくる。友里はため息をつくものの、その顔にあった緊張はいくらか和らいでいた。

「ちょっと…遅刻じゃない?」

言われた藤尭は無言で自身の時計を指さす。時間は丁度だ、と言いたげだ。友里はそれを見て肩を竦めた。

「お互い、この道を選ぶなんて……って、前も同じような話をしたわね」

「…ああ」

 

 

あの空で起きた一連の騒動を思い出す二人。

しかし二人は、あの時とは別の思いを抱いて、此処に立っていた。

 

 

救えなかった後悔と悲しみ、懺悔の中

 

折れて立ち直れなくなりかけた、小さな彼らを支えたのは、

 

他でもない、あの日見た少女の笑顔だった。

 

ならば自分も

そんな小さな誰かの意思を

守り支えたいと、

彼、彼女らは想い

此処に集った。

 

 

「こんにちは」

「?!」

物陰から、緒川がゆらりと現れる。驚き苦笑いしながらも会釈する藤尭に、いつもの柔和な笑顔を向ける。

その胸ポケットには、新調した眼鏡が入っていた。

 

 

「おう!揃ったな」

 

そして、ついにあの男が姿を現す。

赤い特徴的な髪と服装。大柄な体格に豪快な雰囲気を醸し出しているが、以前の彼とはほんの少し、変わったように見受けられた。

 

「お疲れ様です。指令」

 

友里の言葉に、力強く頷く弦十郎。三人の顔を見渡し、

 

そして全員を鼓舞するように告げた。

 

 

 

「……行くぞ!」

 

 

 

 

暗い廊下を、その多難な道行を

恐れることなく

 

彼らは進む。

 

己の抱いた意志に、

あの笑顔に報いるために。

 

かき消されそうな

誰かの心を、

 

支えるために。

 

 

例え、異端突起と揶揄されようと、

 

 

その姿こそが

 

銃後の守護者なる者たちの

 

 

真髄なのだから。

 








こんにちは。サリッサです。

この度は拙作を読んでいただき、誠に有難うございました。

これにて前日談、HomeFrontersは完結となります。
まだ、前日談ですが…

先は長い…


ここで少し、今回のお話の顛末をば、話させていただきます。

まず、この前日談を書くに至ったのは
①蘭堂というVCの中心オリキャラを出演させ、絡ませる
②銃後の守りに対する私の違和感に、答えを出す
という目的からでした。

①は言わずもがな、VCにて大きく取り上げるキャラであり、本文でも出たように風鳴の家系とは因縁(…)浅からぬ関係ゆえ、その動向を少し先に見せておきたいというのがありました。
それゆえ、非常に謎を残し、含みのある言葉を投げっぱなしになている点、誠に申し訳ございません。
そのキャラクターの性質上、多くを語ることは現時点ではできませんが、
彼自体が×クトゥルフの鍵となっていることは、間違いありませんので
どうぞ、ご了承下さい。


②に関しては、だいぶ私の自己満足が入っています…
アニメ本編を視聴した折、私には疑問点がありました、それは
「どうしてこの大人たちは、ここまで子どもたちに全てを託せる、託すのだろう」
という点です。
言ってしまえば、「ノイズに対応できるのが、シンフォギアだけだから」でしょう。
全くその通りです。
しかし、ここまで齢幾ばくかの少女たちに戦闘を強いることに、何の躊躇もないのだろうか、と。
その問いに、少なからず答える形として、この物語が浮かびました。

つまり、「何かを成そうとする小さき存在の力になりたい」といいましょうか。
(本編で弦十郎さんも1期に確か仰っていた気がします)

シンフォギアという対抗手段しかなく、それを操れるのが少女たちだけ。
であれば、自分たち(藤尭、友里)は全力でバックアップし、彼女らの行動を支えよう…

といった思考、その根底には
同じく小さな、だけれども確かな、優しい笑顔があったのではないかなと…

そんなこんなで、今回の原案が成り立ちました。



そして、今回の事件、ウォーキングデッド事件ですが
様々な目論見入り乱れる場所として空中艇カラノを舞台に繰り広げられました。

以下思惑簡単紹介↓
・エスペランザ:家族(娘)を奪った米国への復讐
・米国政府:桜井了子含む異端技術の奪取
・桜井了子:混乱に乗じ、米国とのコネクションを得る→後の米国との協力関係へ
・風鳴訃堂:異端技術、奪われるくらいなら破壊。そして隙あらば蘭堂を処刑する(ここはVC本編にて)
・日本政府:米国への墜落は何としても阻止しなくてはならない。海上での撃墜もやむなし

・‟欧州から来られたあの方”:今回はその存在しか出せませんでしたが、アダム筆頭のパヴァリア光明結社を示唆していました。エスペランザの復讐心を利用し、実験と可能であれば米国への打撃を目論む


あの場において、誰も彼もが己の目的利潤を求めて蠢く中、
弦十郎たちだけは、巻き込まれながらも必死に眼前の命を救おうと奔走しておりました。

結果として、死者の少女の犠牲の上に、彼らはなんとか生還を果たすのです。


死体の少女、本文の中では語ることができませんでしたが、
エスペランザの娘の身体です。

娘の死で、既に正気を失いかけていた彼。
そこへやってきた結社から譲渡されたのが『死食教典儀』。
俗に言うグール関連と、その死喰鬼たちの信仰対象たるモルディギアンなどについて書かれております。
その本を読んだことで完全に正気を失い、
復讐のために全てを捧げ、何もかもを欺きながら、
彼は今日の事件を引き起こすのでした。

しかし、その作業に必要なピースに、娘の死体を使ったのは、単にそこにあったからではありません。
彼は、どんな形でも、娘に会いたかったのでしょう。
その心の渇望を、慟哭を、人生を様々な思惑で蹂躙された彼でしたが
それでも尚、もう一度と願う微かな想いだけは、
狂気の渦の中でも存在しておりました。
だからこそ、凶行ができたとも思えなくもないですが…

といった具合になっております。


かなりの暴論、拡大湾曲解釈のオンパレードでありますが、

今回は、以上とさせていただきます。


投稿日となります9/20は、オンリーイベント「戦場に響く唱歌」の開催予定日でした…
惜しくもコロナのために延期となり、また私自身はそもそも参加登録すらできておりませんでしたが、
一応出せたらと夢想して書かせていただきました「(仮題)Depthe of the unDergrounD」
(題はDが三つあるのが大事なのデスw)
こちらも投稿しておりますので、宜しくお願い致します。

本編も進めないと……



それでは皆様、だいぶ長文駄文になってしまい、大変申し訳ございません。

改めまして、ここまでお付き合いいただき、誠に有難うございます。


宜しければ、評価感想等いただけると、今後に励みになりますので
やっていただけると幸いです。

以上、サリッサでしたm(__)m
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