大海原には鬼が棲む   作:目玉焼きは醤油派

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同じ船の子孫

 光月おでんが帰ってきた。

 ノスケと日和とは会えない日々が続いたが、逆にもう一人と会う機会が増えた。

 それはジジイの昔の馴染みである海賊の娘だとか。

 

「おい、たまには話したらどうだ?」

「……」

「っチ、あー氷菓でも食うか?」

「……」

 

 

「ったくなんか話せよめんどくせェ」

 

 懐から氷菓を取り出して噛み付く焔丸。

 ジジイの付き添いで毎度ここに来るものの、デカいヒゲ男のことを焔丸は嫌っており早々に立ち去ってここに来る。

 たまにしか話さないが、一応声が出ないとか言う訳では無い。

 

 来る度に傷が増えてたり、もしくは生気を失っていたりと面倒臭い奴。それが焔丸の感想だ。

 

「……僕だって強くなりたいさ。君のように」

「あァ?」

 

「でも僕には力なんてない。クソオヤジに叩きのめされ手錠でここから逃げることも出来ない」

「知るかよ、自分で何とかしろ」

 

「何とも出来ないから困っているんじゃないか……はぁ」

「……あーそうかよ」

 

 そんなヤマトの言葉を聞きながら、無関心とばかりに氷菓を食べる焔丸。その氷菓は所々溶けており、見たところ焔丸も嫌な顔をしている。

 氷菓は冷え冷えで食うもんだろうが、だなんて考えながら。

 

「お前のつまんねェ話はどうでもいいけどよ。他になんか話しねェのか?」

「僕は今ふっただろ! 求めるなら今ので乗れよ!!」

「……あー、だりィ話は嫌いなんだよ。ほか」

「巫山戯んな!!」

 

「元気じゃねェかよ」

 

 少し笑うが、再び氷菓が溶けていることを再認識して気分が下がる。

 周りを見回してヤマトに問うた。

 

「ここらに氷菓ねェか?」

「ない!!」

 

「そんなカッカすんなよ、えーとなんだっけ? 手錠がカイドウを叩きのめしたんだっけ?」

「僕の話全く聞いてなかったろ!!」

 

 はーあ、と欠伸をしながらドロドロに溶けた氷菓をペロリと食べる。

 ボリボリと氷を砕く音が聞こえるが、殆ど溶けてたことが気に入らなかったのか表情は優れない。

 

「まーいいや。なんか辛気臭いし、じゃ俺帰るわ。ジジイには先帰ったって言っててくれ」

「なんでだよ!?」

 

「ったく、辛気臭くなくなったら次はもうちょい居てやるよ」

 

 焔丸は部屋の端に置いていた(まとい)を手に取って能力を使う。いつも焔丸が使っている移動方法だ。

 頭にはヤマトと同じような角が一本生える。

 その角が出た瞬間に纏の先に浮世絵で描いたような炎がボウっと灯る。その纏に足を置いて焔丸は空を飛んだ。

 

 最初に見た時ヤマトは有り得ない妖術だと顎を外しかけたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 ーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「ときに焔丸よ、手前ェ炎の事をどれだけ知ってんだ?」

「あァ? 炎? ンなもんジジイや俺の使ってる熱い奴だろ? それ以外に何があんだよ? ボケたのか?」

 

「口の減らん糞ガキが。良いか、炎とは魂の根源だ。神と崇める島もあったくらいに、炎と神は同じと言える。故に火の神。どうだ分かるか?」

「分かんねェよタコ、もっと分かりやすく説明しやがれ」

 

 街でジジイがみたらし団子を食べながら焔丸へと問う。

 炎とは何か……と。

 それに焔丸は当然の認識を返すが、ジジイはそんな問答をしたかった訳ではなく炎とはと語り出す。

 しかし焔丸には届かなかった。

 

「神も仏も居やしない、なのに何故人は神を崇めるのか。焔丸、手前ェは考えたことがあるか?」

「…………ねェ」

 

「だろうな俺もそうだった」

「ジジイ結局なにが言いてェんだ?」

 

「さぁな……なんだかアイツを見てるとそんな話をしたくなっちまった」

 

 ジジイの先にいるのは裸踊りをしている【光月おでん】この国の将軍になるはずだった男。少し前まで海に出ていたノスケと日和の親父。

 そんな男が裸踊りをして金を媚びている。

 

 オロチによって詰められた政策でワノ国は壊滅寸前。

 藁にもすがる思いでおでんに賭けたが、結果はこのザマ。

 

「アイツが最後の(ともしび)だったんだろうな。なんて様だ、白ひげん所に居た時の威勢が欠片も残ってねェ」

「ンだよ知り合いだったのか?」

 

「直接はねェ、だが白ひげとは昔な……」

「その白ひげだか白髪だか知らねェけどよ。昔のおでんはどんなんだったんだよ」

 

 焔丸がそういうとジジイは遠いものを見るように視線を空に向かわせた。何から語ろうか、そんなことを考えているのが見て取れる。

 色んなものを思い出しているのだろうか、次に口を開くまで随分と時間がかかる。

 

「……ジジイ?」

「悪いな少し昔に浸って……。そうだな、おでんは正に鬼のような男だったらしい。これと決まれば一直線、その暴走は俺の耳にまで入ってきた」

「そりャ随分と違ェな、今はそんなもんを欠片も感じねェ」

 

「何があったか知らんが……子供ができたからか……それとも船を降りたからか……なまくらになっちまったんだろうよ。だせェぜ全く。あんな男が白ひげんとこの隊長をやってたと思うだけで殺したくなる」

「そいつぁ許さねェぞ。おでんなんてどうでもいいが『の助』と『日和』を泣かすってんなら容赦しねェぞクソッタレ」

 

「やんねェよ。俺の技は強者と戦う為に作った、だからお前も強者以外にあの技は使うな」

 

「覚えねェし使わねェよ」

 

 ジジイが使う七つの型。それを統合した居合手刀。

 それを何度も受けたからか、それとも共鳴したのか。

 使ったことなど一度もないが、焔丸にはできるという自信がある。だがしかし、それを使うかは別の話。

 

 ただのプライドの話だ。

 使わずに勝ちたい。ただそれだけの話だ。

 

「ち、鬱憤が溜まった、帰ったら火遊びだ」

「その言い方やめねェか? ごっこみたいになっちまうだろ」

「俺からすりゃ、お前との火消しはごっこだよ」

 

 その言葉がトリガーとなり、今にも始まりそうだったことは言うまでもない。

 

 

 

 

 ーーーーー

 

 

 

 

 

 

 印を結び焔丸は集中する。

 自身に流れる鬼の力、火の力、そして流桜。

 全てを別々(・・)に動かす。

 その姿は正に加具土命。背中のすぐ側では火で作られた光背があり、より神々しいものとなる。

 

 集中力を高めて、まずは火と鬼の力を合わせようとする。

 別々の力を螺旋のように絡ませて一つの力へとするように。

 印を結ぶ力が強まる。

 

 光背から力が強まるのを感じるが、目を開けずに集中する。

 

「フン─ッ!」

 

 印を変えて制御しやすい手の型を作り鬼と火の力を混ぜ合わせる。

 

「ム!」

 

 直感的にできたことを感じ取り、その力を矢のような楕円に操作してジジイに撃ち込むように何も無い海へと飛ばす。

 

「【方天戟】ッ!!」

 

 物凄い勢いで飛んで行った方天戟を見ながら、操作権を渡していないと操作しようと試みるが動かすことは出来ない。

 

 なるべく遠くへと狙ったその攻撃は海の水面に当たり、ものすごい勢いで海は蒸発する。

 

「威力は中々……だが作るまでに時間がかかり過ぎだ。一発撃つのに10分近くかけやがって、まるで使えねェな」

 

 後ろからジジイにそう言われて言い返すことが出来ない。

 何せ自分も同じことを思っていたのだから言い返すことなど出来なかった。

 

「変な意地を張るのは止めろ。お前は俺の技が一番向いてる」

「意地は張ってなんぼだろうが、今に見てろド阿呆が! ガキの意地舐めんじゃねェ!」

 

「……チッ、そうかよ。でもその背中のやつはいんのか? 炎の制御に邪魔じゃねェのか?」

「いや、これは要る。有ると無いじゃ炎の感度がまるで違う。訳は分かんねェが、こいつがねェとしっくりこねェのさ」

 

「全く、お前も阿呆だねェ」

 

 意地を張る。

 その行為に意味を成さないと思う人間は多い。だが、意地を張るという行為を好む人間も極わずかだが存在する。

 焔丸はその極わずかなド阿呆ということなのだろう。

 

「そういえば【おでん】の公開処刑が決まったらしいな」

「ああ、燃え滓と思ってたが。アレはまだ燃え尽きちゃいなかったんだな。カイドウへの反逆……面白い爪痕を残した」

 

 ワノ国では知らぬ者は居ないだろう。

 おでんとその家臣達がカイドウへと挑み、そして敗れた。

 近いうちに『釜茹での刑』が行われる。

 

 町内はバカ殿が大バカをやらかした。

 などと言われているが、真相はどうなのだろうか……。本当のことを知っているのはおでんとその家臣達だけ。今更反乱などして何になるのか。

 

「こうなればワノ国には俺は居られない。これが最後の火遊びだ」

「……そうかよ」

 

 カイドウとおでん。

 この衝突によってジジイはこの国にいることが出来ない。

 それが何故なのか? だとか理由を聞こうとは思わない。ただこれが最後と聞かされて拳に力が入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勝負は突然始まった。

 いつだってそうだ、開始の合図があったことなんて一度もない。

 

「居合手刀 壱ノ型”火月"」

 

 ジジイから熱波が放たれる。

 何度もうちあったことのある、様子見の一撃ではなく。

 それは命を狩りとろうとする、マジモンの攻撃。焔丸は一つの角と、右手を鬼化させて鬼の能力に流桜を乗せて防御する。

 

 焔丸は火との合わせ技が苦手ではあるが、生まれながらにして使えた流桜と初めからこうあったと思えるほどの鬼の力は本能的に相性が良かった。故に火ほど合わせ技に時間はかからない。

 それも10分近くかかる火とは違い、正に一瞬。

 

 流桜で衝撃波を生み、相殺した直後に焔丸はジジイへと突撃する。

 全ての操作、即ち火、鬼、流桜を同時に行うことは焔丸にはまだ出来ない。何より難関なのが火である。

 

 だから焔丸は最初から出すことにした。

 

「【光背陽炎】ッ!!」

 

 背中から光背が現れて、既に火を携えておく。

 流桜も込められてはいないが、ジジイの摩訶不思議な体に攻撃できるだけの力は常時出すことの出来る節約技だ。

 

「ッ! ガキがッ! 居合手刀 参ノ型"曙”」

 

 ジジイの強烈な振り上げにより、空気が無理やり押し上げられる感覚が来る。避けることはできない、故に迎え撃つしか方法はない。

 半端な力しか使えずに、完璧な状態じゃない。

 

 

「だからどうした!!」

 

 完璧では無い。

 万全ではない。

 

 それがなんになる。

 

 今現在使える全てを使えばいい。

 使えるのは鬼の片腕と制限のある流桜、そしてジジイとは比べるのも烏滸がましい火。

 

 全てが足りない。

 だが、それでも立ち向かう以外に選択肢は有り得ない。

 

 光背が焔丸の右腕に纏わりつく。

 同時に鬼の腕が更に濃い赤黒に染まり、目に見えぬ鎧のはずの流桜が可視化できるほどに透明な物を纏う。

 

 全ての力が右腕に注ぎ込まれる。

 

 ジジイの居合手刀を打ち倒す為に。

 

 

「喰らえジジイッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【鬼打(オニウチ)】ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 繰り出されるは拳ではなく掌底。

 握らなかったのは本能故に、印を結ぶ焔丸にとって拳は不都合なことが多い。故の掌底。

 

 全てを纏った右腕の攻撃で、今まで1度も退けることの出来なかった近距離での技の相殺。いや、むしろ勝ったと言える程の成果。

 

 焔丸の掌底はジジイの”曙"を破り、無防備なジジイの懐に潜り込んで貯めていた光背を指先に一点集中させる。

 

 

「死んでも恨むなよジジイ! これが俺の全力だァ!!!」

 

 掌底から最速で印を組み直す。

 人差し指と中指を立てて、他は握る。ベーシックな印だが、それ故に手に馴染む。

 

 それを印ごと差し込むのではなく、ジジイに押し込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【紅月】」

 

 

 

 

 

 爆発音のような、火が消えた音のような。

 なんの音なのかは不明だが、ワノ国の者はその音を聞いた。

 それはおでんがカイドウに刃向かった故に怒りを買ったからか、それとも逆に光月家の呪いか……巷で騒がれたのは後の話。

 

 そしてその全てはデマであり。

 その音はたった一人のド阿呆によって奏でられた鎮魂歌。

 

 

 

 

 焔丸は理解していた。

 ジジイが既に棺桶に片足どころか殆ど入っていることに。

 

 戦に生きた男の最後が衰弱では締りが悪い。

 

 

 

 

 焔丸はジジイを殺す。

 その為だけに自分の力を磨きジジイの技を使わなかった。

 

 既に居合手刀を物にして尚、それの使用を拒んだのは。

 最後まで師弟ではなく、闘いとして殺してやりたかったから。

 

 

「いい火消しだった」

「……ああ」

 

「火は魂の輝きだ、こんな最後も悪くねェ」

「……」

 

「気に病むな、この世に加具土命は二人も要らねェ」

「……分かってる」

 

 

 

「ロックスが解散して随分と時間が経った。白ひげやビックマムやシキ、アイツらは順調にのし上がって、カイドウも成り上がりやがった。アイツも予想通りに行って笑ってるだろうよ」

「……そうか」

 

「俺ァ、ゴットバレーで死に損なった。アイツの右腕だった俺がだ……そんな俺の最後が弱ってたとはいえクソガキに殺されて終わりかよ…………ったく、死に損なうモンじゃねェな! アイツに笑われちまう」

「そんなことねェさ」

 

「あ?」

 

「俺に殺されたんだ、胸張って地獄へ行けや」

 

 傲慢、そうみてとれる態度にジジイは大爆笑した。

 本当に気が狂ったのではないかという程の笑い。

 

 腹にドでけぇ穴を空けながら、ジジイは笑う。

 

「そうだな! そりゃ悪くねェ!」

「だろ?」

 

 

「随分と丸くなっちまったもんだ俺も。だが悪くねェ。

最後だ焔丸、ワノ国を壊せ。おでんのやろうとしてることは必要な事だ。どっちが悪かだなんてつまんねェ話はしねェが、カイドウを討たねェと世界は変わらない。お前が為せ──! ロックスでもロジャーでもねェ! 手前ェが世界をひっくり返せ!!」

 

「…………おう」

 

「手前ェの火消しを俺ァ、地獄から眺めてるぜ」

「……おう」

 

 ジジイは最後まで笑っていた。

 体が灰になっていき、風に流されても笑っている。

 

 最後に残ったのは人の形を保っておらず、大量の灰が地面に落ちている。

 

 焔丸はその大量に落ちている灰を元に戻した右腕で掴みとる。

 

 別に悲しいだなんて思ってはいない。

 元からこうなることは分かっていたし、もう少し先には必ずこうなってた。戦人の最後が老衰では締まらない。それを加味して焔丸はこの決断をした。

 

 

 灰を握りしめる。

 

 

 別に悲しいわけじゃない。

 ただ、常に傍らにいた灯火が一つ消えた。

 

 その温かさを感じようと灰を手に取るが冷たい。

 

 

 そうだ、別に悲しいわけじゃない。

 目頭を熱くさせるものなんてないし、頬を伝う涙など……。

 

 

「クソッ……煙が目に染みやがる」

 

 焔丸はこの日、育て親を手にかけた。




氷菓はアイスのことです。
イメージはガリガリ君
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