双頭の境界線 作:帽子好き
龍崎隼人はいつも通りの日常をし、そしてベッドに入り、眠った筈だった。
なんだ、ここは。
眠った瞬間に意識が覚醒し、視界が変わる。
明晰夢なんだろうか?
そう思うが夢というには少しばかり、リアルに近すぎた。
体を動かそうとするが動かず、視界も動かすことも出来ない。
視界に映るは汚い天井、鼻からくる匂いは酷い血の匂い、耳に聞こえるは何者かの話声、あとは台か何かに寝かされてるのと口が塞がれてるのと手足がロープか何かで固定されてるくらいだ。
ろくでもない場所というのは理解出来た。
『あなたは誰?』
声が聞こえる。
耳から聞こえるものではなく自分の奥底からの声、言うならば念話というべきか。
『ここはどこなんだ!?』
心の中でそう強く念じるとその奥底に居る存在に対してそう伝えることが出来たと感じた。
『わかんない、アリスは連れてこられただけだから
でも奴らはホームって呼んでる』
『そうか、ごめん、……俺の名前は龍崎隼人』
『りゅーさきはやと?初めて聞く名前ね
私の名前はアリス・ルグラン、アリスって呼んで』
『アリスよろしくな
それで体が動かないんだがどうすればいい?』
『?、動くよ』
その言葉ともに視界が動く。
その視線の先には近くにテーブルが遠くにはよくわからない装置と白衣を着た2人の人間が喋ってるのが見えた。
どうやら俺はアリスの肉体に憑依?しているらしい。
この状況でいやに冷静なのは少し気になるが今はそれもありがたい。
『アレが奴らか』
『そうだよ』
そう確認してると話が終わったのか、こちらに片方の白衣の人間、少しやつれたように見える白人?が近づいてくるのが見える。
「検体526番、暴走の兆候は無しと」
そうぶつぶつ言うと書類に何か記入している。
未知の言語を使ってるようだが不思議とその内容は理解できた。
「憑依実験は暫定の成功として次にブラッドの投与実験を行う」
ブラッド?なんだそれは?
白衣の人間が書類をテーブルに置くとその手には注射針が握られていた。
注射で刺され、薬液が注入されるのと同時に凄まじい鈍痛と熱が体を襲う。
『痛い、痛いよ』
『あが、くそっ……あい……つら』
アリスがもがこうとするが動けない。
「検体526番暴走の兆候……いや苦痛にもがいてるだけか
魔獣化反応は無しジョーン、麻酔薬を持ってきてくれ」
「ハイス主任、了解しました」
「よーしやっとここまで来たんだ、あともう一頑張りするぞ」
ハイスとかいう白衣の人間に鼻に何かを嗅がされると自分の意識が落ちた。
「はぁはぁはぁ夢か?」
意識が覚醒し視界が開ける。
そこはいつもと変わらない自分の部屋だった。
「くそっ酷い夢見た」
『ここはどこ?』
心の奥底から声を感じた。
『アリスなのか?』
『そーだよ?』
さっきのは夢ではないということなんだろうか。
とりあえず心を落ち着かせるためにも飲み物を飲もう。
『甘いし冷たーい』
『それならよかった』
冷蔵庫に入れておいたオレンジジュースを飲む、どうやら味覚も共有しているようであり、さっきの体験も踏まえると全ての感覚が共有してるようだ。
「うん、なんだ?」
手足を見ると、何かに縛られてたような少し鬱血しているのが目に入る。
寝る前には特にそういうことをした心辺りはない。
つまり、あちらで受けたことも多少こちらでもリンクされてると考えるべきだ。
とはいえこのことをアリスに攻めるのはお門違いだろう。
『大丈夫?』
『大丈夫だ、問題ない』
アリスが心配してるが問題無いと言っておく。
とりあえず問題はここからどうするかだ。
アリスの肉体とリンクしているのならあそこから抜け出すことを考えないといけない。
そう考えていると視界が増えた。
「なっ!?」
混乱しそうになるがそれをなんとか抑える。
もう片方の視界は牢屋のようでとても臭く、吐きそうになり、また様々な獣のうめき声のような何かがとても気持ち悪い。
吐きそうになった途端匂いと音は消え視界だけになる。
どうやら不要な感覚の共有をカット出来るらしい。
『不思議な感覚だな』
『うん』
アリスは牢屋の中を見回してるようで、どうやらここは個室らしい。
『初めて来た部屋だ』
『そうか、とりあえず混乱するし寝る
そうすればそっちだけになるはずだ』
急ぎつつも父と母と妹を起こさないように、コップを流しに置き寝室に戻る。
そうしてベッドに入るとすぐに意識が落ちた。
そしてすぐに意識は浮上する。
そこは監獄と言えるとこだった。
さっきは2つの視界で混乱していたせいかあんまり確認出来なかったがそこは酷い有り様だった。
とりあえず視界と触覚だけだがそれでもおぞましい。
聴覚を共有すると、そこはさらに酷くなり、おぞましい動物園と言ったところだろう。
向かい側の牢屋は何人かの人間が入れられていた。
おぞましいうめき声をあげながら歯を剥き出しにして獣のようであった。
暗がりだからかあまりよくわからないが一人は腕のようなナニかを咥えているが見なかったことにしたい。
『なんだアレは』
『わかんない、奴らに何かされたのかも』
何をすればああなるのだ。
まるで人の器に獣を入れたようなおぞましさがあった。
『くそっ抜け出さないとな』
『どうすればいいの?』
『とりあえず牢屋の中を見回してくれ』
視界が動いていく。
向かい側に電灯のような物がありこちらの部屋も十分とは言え無いがそれでも光は届いていた
まず扉の部分は鉄格子できっちり塞がれており、なかなかにキツそうだ。
鍵は普通の鍵のようだが少なくとも素人が開けるのは無理だろう。
窓は無く、今が何時かはわからなかった。
一角にある桶は恐らくトイレだろう。
壁の材質はレンガのようで非常に硬く、床もよくわからないが硬いので石か何かだろう。
『食事はどうしてる?』
『奴らに変なことをされる前にパンと水を貰ったあとそれっきり』
辺りを見回したが道具のような物は何も無く、食事もろくに取れず、目線も低いし小さい手は肉体も少女のそれだろう。
手錠や足枷をかけられていなかったのは不幸中の幸いだ。
となると今は体を休めることしか出来ない。
『今のところはどうしようもないか』
『うん……』
打つ手なしか、そう思ってときにそれは起こった。
ドゴン
爆発音が響く。
『なんだ!?』
『なに!?』
何が起きたのかわからないがそれでも動くことは出来ない。
ドゴン
2度目の爆発音が響く。
「くそっアドテンと国家の犬共め」
それから少しして白衣の人間、ハイスがそう言いながらこちらの牢に近づいてきた。
その手には鞄を大事そうに持っていた。
「同志達の元にせめて526をつれてかねば」
鍵束を取り出してこちらの牢を開けようとする。
だがその瞬間ハイスが鉄格子に叩きつけられた。
それはライオンの体に蠍の尻尾を持ち、人面の化け物だった。
こちらの方を見るがすぐさま興味を無くすとそのまま立ち去っていった。
ハイスが叩きつけられた鉄格子は歪んでおり、なんとか出られそうな感じになっていた。
逃げだせそうだ。
『抜け出したらとりあえずそいつの鞄を開けてみよう、何か役にたつものがあるかもしれない
あと鍵束ももらっておこう』
『わかった』
牢を抜け出したらハイスの鞄をさぐる。
中には注射器と何かの薬液が3本、それと書類が入ってた。
恐らく何かの研究成果なんだろうが今の状況だと役にたたない物だった。
『役にたつものは無しか、逃げるぞ
あと出来るだけ牢獄の中は見ないほうがいい』
『うん』
鍵束を手にしたアリスは駆け出していく。
そのスピードは異様に早いスピードでアリス自身その速さに戸惑ってるようだった。
『あの薬のせいか』
『たぶん』
問題はマップも無しにこの牢獄を抜け出すということだ。
『さっきあいつが言ってたアドテンってなんなんだ』
『アドテンって言うのは依頼を出せばやってくるお手伝いをしてくれる何でも屋のことだよ』
なるほど?少なくとも味方の可能性は高そうだ。
どうやらあの牢屋から入り口は近かったようで体感だが結構早い時間に牢獄の入り口にたどり着いた。
その大きな扉は物理的に破られておりナニか恐らく、あの人面の化け物が通っていったんだろう。
その隣にある受付と思わしき場所は文字通り粉砕されていた。
そのまま怪物の跡を追うのも怖いが戻っても仕方ないので向かっていく。
そこは緩やかなスロープになっており上の開け放たれた扉の方から光が漏れていた。
扉をくぐるとそこからはまさしく別世界と言った感じだった。
いきなり中世ファンタジーからSFに変わったとしか言い様がなかった。
かなり広い廊下いや通路に出る。
電子制御のものと思われる、隔壁があったが恐らく隔離するためのものであったようだがそれを使う暇も無く、怪物は通っていったようだった。
付近にはロボットと思わしき残骸や息絶えた人間の遺体があった。
『酷い惨状だな』
『さっきの化け物がやったのかな?』
『おそろくそうだろうな』
恐る恐る移動していく。
抜け出した俺達に気づかれていないとは思うがそれでも見つかれば不味い。
爆発音が止まったのが少し気がかりだが気にするほど時間がないのだ。
自動扉の残骸であろうそれはただのスクラップになっていた。
そこを警戒しつつアリスは覗く。
ババババババ
グシャ
カキン
銃の音や何かが潰れる音が聞こえる。
そこはまさしく戦場と言ったところだろう。
すぐ近くに先ほどの人面の怪物の死体があった。
「おらぁ」
鎧を纏った青年が大剣を振りまわす。
「うふふ、これでどう」
銃で奴らを撃ち抜く女性が居た。
「はー、百烈撃」
籠手を着けた男性が吹き飛ばす
その他色とりどりなバラエティ豊かな集団が奴ら側と思われる部隊を倒していた。
『もう一踏ん張りだ、アリス』
『うん』
『身を屈めて、まずはあそこに行くんだ』
『わかった』
ゲームとかでやっていたがカバーリングは大事だ、出来るだけ流れ弾を受けないように視界の中では身を隠せそうな遮蔽物に移動していく。
怪物が暴れまわったおかげか色んなものがぐちゃぐちゃになってるお陰で比較的遮蔽物は扉の近くに豊富にあったこととアドテン?側が押していることもあって乱戦になっているということだろう。
這ったり屈んだりしながら移動していく、気分はさながらステルスゲームの主人公だろう。
そうして少しずつ移動していくがどうしても遮蔽物が無いところに出てしまった。
だが問題無い。
『そのまま真っ直ぐ全速力』
そう指示を出すとアリスはアドテン?側の陣地であろうそこに全速力で向かっていく。
「こちらレイ、救助者発見しました!!
行って!!」
近くに居た盾を構えた女性こちらを発見するとそう声をあげカバーに入ってくれた。
盾から銃弾を弾く音が聞こえる。
ありがたい。
爆破された壁を抜け、外に出ると多種多様な車が待ち構えていた。
そこで勢い余って転んでしまうがそこは仕方ない。
「もう大丈夫だ」
そう男性に抱きしめられると緊張が切れたのか意識が薄くなってくる。
そのまま二人の意識は落ちるのであった。