双頭の境界線   作:帽子好き

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第二話

朝起きる。

そこには一つの視界だけだった。

 

『おはよう、お兄さん』

 

『アリス、おはよう

……お兄さん?』

 

『ダメ?』

 

『問題ない』

このやり取りが昨晩のことが夢でないことを自覚させる。

まだ視界が一つしかないということはアリスの肉体は寝ているのであろう。

足の方が痣になっており、恐らくそこは最後に擦りむいたところだろう。

 

「隼人兄朝だぞー

って隼人兄が休みの日に朝から起きてるなんて珍しい」

扉を勢いよく、開けて妹の恵が入ってくる。

 

「おはよう、恵

たまたまだよ、たまたま」

 

『龍崎恵、うちの妹』

 

『妹、いいなー』

 

『そうか?、うるさいだけだぞ』

 

「隼人兄、ボーッと突っ立ってどうしたの?」

 

「ちょっと考えことしてただけだ、着替えるから出てけ」

思考で会話していたことを誤魔化し恵をはかば無理やりに追い出す。

やっぱり慣れが必要そうだな。

パジャマ姿からTシャツとズボンに着替える。

手と足の鬱血したのは少し残ってるが夏場に長袖は目立つので仕方なくだ。

そうこうしているうちにもう一つの視界が開かれた。

そこは病室だった

アリスはそこをキョロキョロ見回してるようだ。

 

「患者の方が目を覚ましました」

看護師の方がそれを見たようで医師を呼んでこようとするのが目にはいった。

とりあえず朝食に行かないとまた恵が呼んでくるからリビングに向かわないといけない。

 

「隼人、おはよう

朝ごはん出来てるわよ、冷めないうちに早く食べなさい」

母さんが朝食を作って待っていてくれた。

今日の献立は味噌汁とご飯とスクランブルエッグとサラダ、ウインナーだ。

 

「親父は?」

 

「まだ寝ているわよ」

 

「いただきます」

とりあえずお腹も空いてるし飯を掻きこむ。

アリスの方も白衣を着た医師っぽい人が来ていた。

アリスが白衣を着た人物を見たときに体が動く、怖がっているようだった。

 

「来ないで」

 

『アリス、落ち着いて』

 

『でも……』

 

『大丈夫、大丈夫』

 

アリスをなだめある程度落ち着かせる。

医師の方はというと慌てて立ち去り、替わりに看護師の方が来てくれた。

 

「あなたの名前わかる?」

 

「アリス・ルグラン」

 

「アリスちゃんって言うんだ、さっきは怖がらせてごめんね、

もう怖いことは起こらないからお姉さんとお話しよっか」

 

看護師さんの方とはなんとか怯えずに話ていくことが出来るようだ。

 

 

「隼人兄、またボーッとしてる」

 

「!?あっすまん」

恵の声でまた動いてないことに気づき、急いでご飯を食べていく。

アリス側も看護師さんとの話でさらに落ち着けたようだ。

とりあえずこの視界や感覚に早急に慣れなければ、不味いと思った。

 

「ごちそうさま」

朝食はちゃんと完食し、自室に戻る。

とはいえ横になったりせず、少しでも馴れる為にテレビを見ながらだ。

 

『アリス大丈夫か?』

 

『うん』

 

看護師さんとの話によると検査を受けたあと何も問題がなければそのまま帰れるらしい。

看護師さんはかなり言葉を濁していたがアリスは救助された中でもかなりマシな部類だということがわかった。

ちなみに現在地は皇都ベルリスにある、グリーズ記念病院というところらしい。

とりあえず食事として出された病院食と思われるパンとスープを食べ終わると看護師さんの付き添いで検査室に向かう。

 

『皇都ってことは大きいのか』

 

『私も2回ほどしか行ったこと無いけどとても大きい街だよ

 

検査しつつもそう会話する。

身長、体重とかの測定はともかく、魔力は流石異世界というべきか。

ちなみに魔力は血圧測定器みたいな機械だったがメーターが振り切れてしまった。

その後その上のランクの魔力測定器を看護師さんが持ってきて、無事計り直せたが普通の人間に比べると非常に高いらしい。

とはいえ比較データが無いのとあくまで珍しいだけなため何とも言えないみたいだ。

レントゲンに準じたものもあるようで、それも行ったが特に異常がなかったとのことだ。

ちなみに鏡もあったのでアリスの容姿も見えたのだが銀髪の可愛らしい少女と言ったところだ。

見立てだと歳はギリギリ二桁行くか行かないだろう。

 

『お兄さんのことは話さない方がいいのかな?』

 

『まあ話しても信じられないだろうし話さなくてもいいと思う』

 

『わかった』

 

いきなり別世界の人間と脳内で会話できたり、視界を共有されると言ったら流石に狂人扱いされるだろう。

なお検査が終わったらお風呂とのことだが視界は閉じないと行けないだろう、色々不味い。

 

「アリスちゃん、大丈夫?」

 

「大丈夫だよ」

 

『お兄さんどうしたの?』

 

『後生だから気にしないでくれ』

 

『?』

 

どうやら何個かの感覚は残さないと不味いようで

なんとか視界と触覚は塞いだが匂いと音は塞ぐことが出来なかった。

ヤバい色々とヤバい。

あと思ったけどトイレの時やお風呂はお互いに塞いでおくのを提案しよう、というかそうしないと不味い、とても。

 

『お兄さん本当に大丈夫?』

 

『大丈夫大丈夫問題ないだから気にしないでお願いだから』

 

無垢な気遣いがとてもつらかった。

 

というわけで検査等が終わったがそれでもあと2~3日は病院に居て欲しいとのことだった。

とはいえずっと病院の中ではなく、皇都の方に出かけても大丈夫らしい。

無論付き添いは必要だが。

 

「おー、思ってたより元気そうじゃない」

検査が終わり病室の中で窓を覗いてると扉が開き、渋い中年男性がそう喋ると若い女性とともに入ってきた。

 

『アリス知り合いか?』

 

『知らない人』

 

「おっと、驚かせてしまった

初めまして護衛として来た、アドテンのシルバー級のジーク・クロイグだ」

 

「はぁジークさん、幼い子怖がらせてどうするんですか

アドテンゴールド級のレイ・シールです

よろしくね、アリスちゃん」

 

アリスが少し身構えてるとそう名乗った彼らは手帳を見せる。

その仕草はなかなかにかっこよかった。

彼らがアドテンらしい、少なくとも怪しい人間にはあまり見えないし、シールさんの声は聞いたことがある。

恐らく逃げるときにカバーしてくれた方だろう。

 

『今のところは信用出来そうだ

流石に堂々と入ってきてるし問題ないと思う』

 

『お兄さんがそういうのなら』

 

アリスが警戒を解くと彼らも安心したようだ。

 

「ふう、警戒を解いてくれて助かるよ

君を故郷に送り届けるまで護衛するのがおじさん達の仕事だ」

 

「あなた達が守ってくれるということ?」

 

「そうです、安心してねアリスちゃん」

そう胸をはるシールさんのことを見るに相当自身があるんだろう。

クロイグさんの方はなんというかとらえどころが無いというか、なんというか怪しい訳ではないが昼行灯という表現がぴったり嵌まるだろう。

 

「じゃっおじさんは外で待機させてもらうから

レイちゃんあとは任せたよ」

そう言うとクロイグさんは病室の外に出る。

 

「ジークさん……はぁ」

どうやらシールさんはなかなかに苦労人らしい。

 

それはそれとしてこっちの今日の昼食はうどんだ、夏に冷たいうどんはいいね。

 

『こっちには無い食べ物だ、いいなー』

 

『そっちには無いのか、そっちの食文化も気になるな』

 

そう言えば空腹に飯食ってる感触はなかなかにつらそうだな。

 

「とりあえずお昼だしお昼ごはんにしようか、アリスちゃん何食べたい?」

 

「麺類食べたい!!」

 

待ってましたと言わんばかりにアリスがそう言った。

どうやら空腹にうどんの味と食感は結構こらえたらしい。

 

その後食堂でスープスパゲッティーらしき食い物のカウンターパンチの飯テロはつらかった。

腹は満腹でも飯テロは飯テロなんだと思ったのであった。


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