ああやっと抜け出せた。
死にたくないからってあそこまでするか普通?!
丸々都市を占領するとか頭イカれているだろ!しかも、変なものまで埋め込みやがって。
逃げるのにどれだけの私財を手放すことになったか!
親友のサンクタ族の野郎に文句を思い浮かべながら薄汚れた路地裏から這う這うの体で出てくるのは一人のサルカズの男だった。そのまま服の汚れをぱっぱと振り払う動作をしてからその場を去ろうとする。
こんなに文句をいうようになったきっかけは
鉱石病とは、世界の主流になっているエネルギーの源である
そんな感染者になってしまった親友は死にたくないからという理由で都市を占領、更には都市に住んでいる市民全員ごと源石を用いた
そんな中親友はあろうことか自分は親友で特別だからとか言って得体のしれないアーツユニットを埋め込んできやがった。命までとはいかないが何かが失われそうだったので都市から逃げ出してきたのだ。しかし、都市から逃げ出すのは本当にもう苦労した。都市全体が親友の支配下なので全て自分の敵だった。ちょうど運がいいのか悪いのか良いのか分からないが、天災が発生したのでそれに乗じ都市から抜け出せたのだ。
天災は源石が原因ではないかとされており、暴風雨、大雨や洪水、更には隕石の落下まで頻繁に引き起こし、しまいには発生した場所では源石が残されており、鉱石病を発生させるとされている。そんな天災から逃げることができるようにと人々が住んでいる都市は移動することができるのだ。
命からがら逃げだしてきた俺は路地裏から拾った数日前の新聞を読む。そこにはもともといた都市が名前を変更し宗教都市となったことが見出しに出ていた。おおもとである国家は誠に遺憾であるとしていたが、都市全体がすでに相手の支配下に置かれているので事件を起こした下手人個人をとらえることは非常に難しい。また都市の声明としては、都市の支配体系、名前の変更を主としてそれ以外はほとんど国に従うとあるので混乱は大きくなったもののすぐに収まるであろうとも新聞には書いてあった。
「これはおもいっきりやらかしてんなぁ…。なあ、お前らもそう思うだろ?」
読んでいた新聞をくしゃくしゃに潰して放り捨てながら周りに目をやる。
路地裏から出たとはいったものの、まだまだそのあたりは整備されているとは言い難い。そこらの建物の陰から数人が出てくる。敵意はない、ただ警戒しているだけのようだ。
「よお兄弟。何のことかわからんが、あんたもどっかから逃げてきた口かい?」
「まあな。逃げてきたことには変わりはねえよ」
「っへ。そりゃあ災難だな。ただまだ災難は終わっちゃいねえぞ。この国はやべえ」
「あん?」
互いに軽口をたたき合いながら近づいていくが、気になることを言ってきた。
どういうことだ?たまたま近くにあった都市だからここに来たが、思っていたよりも忍び込みやすかった。だからこそこの都市はぬるい環境だと思っていたが勘違いか?結構警備とかザルだったぞ。
「それは…」
「おい、こっちにいたぞ!こちらβ8。感染者を発見、駆除します」
「ちっ、見つかった!早く逃げるぞ、ほらもたもたすんじゃねえ!あんたはどうする?」
「…いや、俺は大丈夫だ。早くいけ、少しなら足止めしておく」
「すまねえな、無事でいろよ」
彼らが去っていき、そのまま集団が声のしてきた方向とは逆の方向に顔を向けると、そちらからは武装した集団が走ってきた。こちらの姿を確認すると鬼気迫る勢いで詰め寄ってくる。どうやらこの都市に所属する軍人たちらしい。
「お前、サルカズのお前。集団で行動している奴らを見なかったか?」
「ああ、見たが一体何があったんだ?」
「あ?そんなこと簡単だ。奴らは感染者だ。理由はそれで十分だ。お前はどうやら違うようだが…」
体の上から下まで見られるが、感染者ではないと判断されたからか先ほどよりは雰囲気が柔らかくなる。さっき聞こえてきた内容からもこの都市はどうやら感染者にはめっぽう厳しいらしい。感染者を発見しだい駆除とはこの都市で捕まったら感染者の末路は大体知れたことだ。
「そうかい。ああ感染者だったな、あっちの方向に走っていったよ」
「分かった。協力感謝する。よし行くぞ!」
感染者たちが走っていた方向とは別に指し示すとそのままそちらへ向かっていった。
…にしても確かこの都市の名前は、チェルノボーグだったか?様子を見るに都市だけではなく国自体があれか。
ウルサス帝国、各国と戦争をしており、俺の住んでいた国も戦争していた。どうにも前からいけ好かないとは身勝手ながら思っていたがその認識はあまり変わりはしなさそうだ。
まあ、それはおいていてとりあえずは拠点の確保か。密入国、しかもウルサス帝国にしているわけだからばれたら面倒になること間違いなしだ。さっきの兵隊どもと鉢合わせないようにさっさとここから立ち去るか。
「マモン。君はそろそろほかの都市についたころか?」
自身のアーツの感覚からそうつぶやいた名の男の位置をそう予想する。
サンクタ族であるその男は都市に建てられている一番高い塔の展望台位置に立っていた。
都市の名前はエバッバル。先日名前を変えたばかりの都市である。
「サタナエル様。お時間でございます」
サタナエルと呼ばれた男は返事もせずその場で翻してこれからの場へと向かう。
今日はサタナエルの都市長の就任式であり、またこの都市を宗教都市としても移行する予定であり教主も担う予定にある。しかし就任式であるのにその顔には表情が浮かんでいない。ついでには声をかけた者にも表情はなかった。
サタナエル。この男こそが、都市から逃げ出し文句を言っていた男、マモンの親友でありエバッバルと名を変えた都市をただ一人で落とした男である。
国はこのことを認めておらず、粛清部隊を送り込んだが見事に返り討ち。しまいには部隊丸ごと寝返ってしまうことになった。また、近くには戦争状態である敵性国家も居たため都市が敵の手に落ちないように、攻め込まれないようにと最後の一線は残しておきたかったため黙認という形をとる羽目になった。
そうしてそのままサタナエルの都市長就任式は何事もなく無事終えた。就任式を見に来ていた大衆の中に紛れ込んでいた国から派遣された諜報員はこのような情報を送ってきた。
『なぜかあの男と市民たちが全員同じように見えた。そんなことありえるはずがないのにお互いのほとんどの部分が共通しているように感じた』