親友がやらかしたので逃げることにしました。   作:茨月

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就活してると、空いた時間でも精神が落ち着かないね。


二話

 チェルノボーグでは騒乱が起きていた。

 あちこちの建物などでは火の手が上がり、市民、軍人、暴徒が入り混じり、老若男女問わず逃げ惑う。悲鳴と怒号と怨嗟の声が絶えず聞こえてくる。

 

 事の始まりというものははっきりとは分からないが、原因はチェルノボーグが感染者に対して向けていた感染者は排除するといった迫害が非常に強かったためだろう。そうしたためある集団が台頭してくるようになった。

 レユニオン・ムーブメント。前から存在している集団だったがあまり目を向けてもらえるような組織ではなかった。が、新しいトップに変わったのか組織として機能していくようになった。「感染者は自らの立場に誇りを持ち、積極的に力をつけ、そしてそれを行使すべきだ」ということを信念としており、暴力でことを成そうとする集団だ。

 今、チェルノボーグで暴れている暴徒こそがそのレユニオンであり、組織として機能しているからこそか、チェルノボーグの軍がレユニオンの侵入をここまで許しており押されていることが明白だ。

 しかも、チェルノボーグにはさらなる動乱が待ち受けていた。

 

 

 

「っが!」

「うぐっ!」

「くそっ!」

 

チェルノボーグに密入国したマモンの足元には複数の仮面をかぶった暴徒、レユニオンの構成員が伏して倒れていた

 都市で暴動が起きているというので、念のためということで路地裏を中心に移動していたらこのレユニオンと鉢合わせたのだ。こちらを見るなり襲い掛かってきたので返り討ちにしたのでこいつらは倒れているわけだ。

 噂には聞いていたがここまで愚鈍者であるとは思わなかった。感染者以外を排除しようとするのは阿呆以外の何物でもないし、そのままいけばお互いに共倒れするのは予想できない未来ではない。無論復讐心を持つなとは言わないし、むしろやってしまえとも思うが、無関係の人間にまで手を出すことはない。過去に無視された等であってもそれは相手が助けを求めているときに見捨てるくらいがいいだろう。それを超えたら度を超えた復讐だ。

 まあそんな難しい話はおいておいて、問題はここからどうするかだ。

 

「さて、というわけで見逃してはくれませんかねえ?」

 

 視線の先にはさらに人数の増えたレユニオンたちの姿が見えた。ただ、その中で一人仮面をつけていない女が此方を睨みつけていた。周囲のレユニオンたちの様子からどうやらリーダ格的存在のようだ。

 

「…やったのはお前か?」

「正当防衛だ。悪く思うな」

「そうだろうな。だが、我が同胞に手をかけた罪だ。ここで見逃すわけにはいかん」

 

いうや否やこちらに手のひらを向けると同時に、炎が眼前に迫ってきた。

炎に関するアーツか。

そのまま炎に飲み込まれるが、腕を振り払いかき消す。女が瞠目しているがそんなものは後だ。アーツを発動させ自身の腕に集中させる。

 

「殺してねえよ。社会の塵どもが」

「塵だと…?貴様も同じか?」

「うるせえよ。感染者とかどうでもいい。都市一つこんなお粗末なことでしか奪えないなお前らは塵で十分だ。せっかく近くに見本ができたんだ。猿真似でもしてみろ塵ども」

 

 実際に親友の犯したことはこいつらとは規模が違う、手段が違う、段取りが違う、被害が違う。そして何より敵を排除するのではなく取り込む。生粋の詐欺師であるかのように鮮やかに

もう腕は治った。あとは殺気立っているレユニオンどもをどうにかするだけだ。

 

 

 

なんだこの男は。

 レユニオンの女、タルラは目の前で起きている現象を怪訝そうに見るしかできない。

 レユニオンのトップとして君臨した彼女は配下の兵たちに指揮を下しながら、自分もアーツを使い援護をするが大したダメージを負わせることができない。タルラがその気になれば視界に入るすべてを焼き尽くし融解することが安易にできるが、兵たちがいるせいでそれもできない。単に死にかけならやむなしにもできただろう。しかし、現状戦っている今そんなことをすればレユニオンとして、感染者としての意義を失う。

 援護しながら戦況を把握しようとしていると違和感を覚えた。敵の損傷が少ないのだ。さらに体の調子は悪くはないというのにアーツの威力も思ったより弱くなっている気がする。必ず何かあると思いより集中してみると、見えた。

 男は多勢に無勢というわけか剣で切り付けられたりしているが、切られた服から見えるその傷は異様なほど早く癒えているのが見えた。それに、術師の放つアーツも体に接触する瞬間弱まり無害なほどまで威力が落ちるのも確認した。

 すると男と目線が合う。

 

「気づいたか」

 

 歯を見せて笑うと瞬く間に周囲の兵が倒された。今まで手を抜いていたのか。

どうするか。このままこの男に付き合っていては時間の無駄だ。向こうもそう思ったのか声をかけてくる。

 

「もうお開きにしねえか?こんなどんちゃん騒ぎの時にこんなことしていちゃお互いに不毛だろ。この場のことは俺もなかったことにするからお互い手を引こうや」

 

 確かにこの男の言うことのほうが正しい。同胞を傷つけたは許せないが時間は許してくれない。この都市を占領するのにこのような場で無為に時間を割くよりかはまだましだ。

 

「ならここを去るがいい。次はない」

 

 同胞を連れて目的の場所まで向かう。尻目に男を見たがたいして消耗した様子もなくその場を去って行っているのが見えた。

 

 

 

「各小隊の皆さん!各自周囲に注意してください!ドクターの回収に成功しました。これよりロドスに帰還します!」

 

ロドス・アイランド製薬のCEOであるアーミヤは騒ぎの中、他のオペレーターたちに指示をしながら走っていた。チェルノボーグの秘匿施設にて治療されていたドクターと呼ばれる人物の回収に成功、しかしレユニオンが起こした暴動にロドス一同は巻き込まれていた。

ロドス・アイランド製薬は鉱石病に関する研究をしており感染者にの治療を目的とした会社であるが、また私兵を持つという武装組織の一面も見られる。

ドクターの指示のもとオペレーターたちはレユニオンからの猛攻をしのいでいたが、数が数だけに早期の帰還の決断を余儀なくされていた。

 

 アーミヤたちが襲撃に警戒しながら走っていると前の路地裏からレユニオンが数人飛び出てきた。

 

「皆さん止まってください!」

 

 各オペレーターがそれぞれ構えるがレユニオンは地に伏したままだ。

気を失っている?いや、もしくは…。

レユニオンが倒れているのに不審に思い行動が鈍くなるがすぐに持ち直す。そのまま改めて帰還を促そうとアーミヤが口を開けたとき、レユニオンが出てきた路地裏のほうから一人の男が出てきた。

 

「めんどくせぇ!こいつら情報共有してねえのかよ。次から次へと湧いてきやがって」

「あ、あの…あなたは?」

「あ?なんだお前ら」

 

先ほどレユニオンの主犯格らしき女からせっかく離れたというのにさっきからレユニオンに遭遇するたび、どうやら無差別的にチェルノボーグ市民を攻撃しているようだ。路地裏より表へ奴らを吹き飛ばしながら出るとなんか武装した集団がいた。

 

 マモン、と名乗る男と会った私たちは少しの間だったが会話を交わしていた。聞けば別の都市から逃げてきてなんと密入国したというではないか。この国は他国と戦争しているとあって兵士たちの練度も高い。そこに密入国することができたのはひとえに実力が高いということだろう。

 

「そういえばマモンさんはどこからきたのですか?」

「ん?あーたしかエバッバルだったか。最近名前変えた、あの」

「エバッバル!?」

 

都市の名前を聞きロドスのオペレーターたちの表情が驚愕に染まる。レユニオンがこの都市を復讐しようとして攻撃をしているが、エバッバルはたった一人で、しかも流血もほとんどなく制圧された。

 

「あそこから逃げ出すことができたんですね」

「まあな。つかサタナエルのやつがやらかしたからなぁ。横で見てたから逃げるのは至難の業だった。天災が来なきゃたぶん逃げきれなかっただろうよ」

「なっ!?都市を落としたのはそいつか!」

 

横で聞いていたクランタ族の女が驚きの声を上げる。他の面々も同じように驚いている。

 

「その通りだ。まあ今は別にいいだろ。もうそろそろここから離れたい」

「あ、そうですね。実はそのことなんですが、もうすぐに天災が発生するみたいなんです」

「は?」

 

 その言葉を聞いて呆気にとられた。ということはこの都市にきたはいいが早々にまた脱出しなければならないということになる。と、なればもうここには用はない。この会話すらも切り上げなくては。

 

「なるほど分かった。情報感謝する。ならもうここを出ることにするか」

「そうですね。いつレユニオンが襲ってくるかもわかりませんし、ドクターの体調も気にしなければなりません。マモンさんはお一人でも大丈夫ですか?」

「ああ、あれくらいなら脅かされる程度のものじゃないしな。それじゃあ天災に巻き込まれないように逃げるわ。じゃ」

 

 

 

 ロドス・アイランドと名乗る集団と別れチェルノボーグを出たマモンは、他にも逃げ出している人たちに紛れ込むことにした。別れた後数度レユニオンとすれ違ったがおかしなことにこちらを見るだけで手を出してこなかった。好都合だと割り切りそのままにしておいたが、推測だが指揮系統が複数あるとみた。

 まあ、そんなことは都市を抜け出すことができたので考えるのはやめて、周りの話に耳を傾けることにした。どうやら次は龍門という都市が一番近くにあるということでそこを目指そうとしているようだ。

 龍門といえば知っていることはほとんどない。炎国という国に属する都市の一つであるということだけだ。

 すでに遠くなったチェルノボーグのほうを見ると上空からは隕石が降り注いでいた。どうやらロドスが警告していたように天災が発生しているようだった。天災に巻き込まれたことがある身としては巻き込まれないことを祈るだけだった。

 

 

 

荘厳な装飾が施された部屋にはサタナエルと、跪く兵士たちがいた。ここはエバッバル。他の都市に行っても大丈夫な兵を選抜し任務を伝えていた。

 

「任務だ。内容は言わなくても分かるだろう。チェルノボーグ、それからロドス。…ああ、龍門にも行ってもらおうか。あいつならそのあたりだろ。では行け」

 

そのまま兵たちは一礼すると早速向かっていった。

 


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