インフィニット・ストラトス 蒼空に鮫は舞う   作:Su-57 アクーラ機

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11話 クラス対抗試合

 クラス対抗試合当日、第3アリーナ第1試合。組み合わせは以前廊下に貼り出されていたとおり、一夏と鈴だ。

 噂の新入生が出る戦いとあって、アリーナは全席満員。それどころか通路や階段まで立って見ている生徒で埋め尽くされていた。会場内に入る事ができなかった生徒や関係者は、施設内の至る所に設置されたリアルタイムモニターで観戦するらしい。

 例に漏れずアリーナ内の席からあぶれてしまった俺は、織斑先生、山田先生、箒、セシリアと共にピット内のモニターを眺めていた。

 俺達の視線の先、モニターに映るフィールド上では一夏のIS【白式】と、鈴のIS【甲龍(シェンロン)】が試合開始の時を静かに待っている。【ブルー・ティアーズ】同様、非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)が特徴的だ。両肩の横に浮いた刺付き装甲(スパイク・アーマー)が、やたら攻撃的な自己主張をしている。

 

「(……あれでタックルでもされたらタダじゃ済まんだろうな)」

 

 見方によっては某ヒャッハーな世紀末──俺が小学生の時に父さんが見ていた日本のアニメ──にでも出てきそうな刺々しいそれを見て、思わず顔をしかめた。

 

『それでは両者、規定の位置まで移動して下さい』

 

 アナウンスに促され、一夏と鈴は空中で向かい合う。その距離わずか5メートル。

 互いが定位置に着いたところで、2人が何か会話をしているのに気付いた。何を言っているかは聞こえないが、内容はなんとなく想像がつく。鈴が今ここで謝れば痛め付けるレベルを少し下げてやるとでも言って、それを一夏が断っているのだろう。

 セシリアに決闘を申し込まれた時もそうだったが、一夏は勝負で手を抜いたり、手を抜かれたりする事を嫌う性格だからな。

 

「始まったか……!」

 

 箒の声と、試合開始を告げるブザー。それと同時に一夏と鈴は動きだした。

 一夏が瞬時に展開した『雪片弐型』は物理的な衝撃で弾き返されるが、彼は以前セシリアに習っていた3次元躍動旋回(クロス・グリッド・ターン)を瞬時に行い、鈴を正面に捉える。

 

「おお~。一夏のやつ、やるじゃないか」

 

「ええ。まだ少し動きにムラがありますが、良くできていますわ」

 

 セシリアは自分が教えた技術を一夏が使ったのが嬉しかったのか、口元を緩めてモニターを眺めていた。

 

「出だしは上々。本番はこれからだな」

 

 言って、俺はモニターに視線を戻す。鈴の手元にある異形(いぎょう)青龍刀(せいりゅうとう)。それを彼女は、まるでチアガールがバトンを扱うかのように回す。両端に刃の付いた、というより刃に直接持ち手が付いているそれは、縦横斜めと鈴の手によって自在に角度を変えながら一夏に斬り込む。

 1度態勢を立て直そうと考えたのか、一夏が鈴から距離を取ったその時。

 

「鈴のISに動きが……何か仕掛ける気か?」

 

 バカッと鈴の肩アーマーがスライドして開き、そして中心の球体が光った次の瞬間、一夏は不可視の『何か』に殴り飛ばされた。

 

「なんだあれは……?」

 

「『衝撃砲』ですわね。空間自体に圧力を掛けて砲身を生成、余剰で生じる衝撃それ自体を砲弾化して撃ち出す。『ブルー・ティアーズ』と同じ第3世代型兵器ですわ」

 

 モニターを見ていた箒の呟きに、同じくモニターを見つめるセシリアが答える。

 ──成程、そいつが【甲龍】の強みか。……それに、見たところ射角はほぼ無制限で撃てるようだ。見えない砲身に、見えない砲弾。おまけに真後ろにまで展開して撃てるとは……。

 

「ははっ……もはや反則級だな」

 

 衝撃砲を前に劣性に立たされる一夏をモニター越しに見る俺の口からは、乾いた笑い声と共にそんな言葉が零れ落ちた。

 ハイパーセンサーで空間の歪み値と大気の流れを探る事はできるが、それでは遅い。撃たれたあとに敵機が射撃準備に入ったと言われているようなものだ。

 

「(……このままだとジリ貧だな。どう出る? 一夏)」

 

 モニターには『雪片弐型』を構え直した一夏の姿が映っている。

 

「織斑くん、何かを仕掛けるつもりですね」

 

「……瞬時加速(イグニッション・ブースト)だろう。私が教えた」

 

 山田先生の呟きに答えたのは、先程まで無言でモニターを見つめていた織斑先生だ。

 

「瞬時加速?」

 

 と、オウム返しするセシリア。

 

「一瞬でトップスピードを出し、敵に接近する奇襲攻撃だ。出しどころさえ間違えなければ、あいつでも代表候補生と互角に渡り合える。ただし、通用するのは1回だけだ」

 

「成程。つまり、一夏はそれで一気に肉薄して一撃でケリをつけるつもりか……」

 

 腕を組んで頷く俺に織斑先生は「そうだ」と言って、また画面に視線を戻す。そして、一夏が鈴の一瞬の隙をついて瞬時加速で彼女に接近し、ブレードを振りかぶった刹那の出来事だった。

 

ズドオオオォォォンッ!!!

 

 突如走った強烈な衝撃が、アリーナ全体を震わせた。鈴が撃った衝撃砲ではないのは確かだ。威力の段が違い過ぎる。

 

「何事だ!?」

 

「システム破損! 何かがアリーナの遮断シールドを貫通して来たみたいです!」

 

「貫通だと……!?」

 

 焦燥する山田先生からの報告を受けた織斑先生は、バッとモニターを睨み付けた。

 フィールド中央からはモクモクと煙が上がっている。どうやらさっきの『それ』がアリーナの遮断シールドを破った際の衝撃波らしい。

 

「……!!」

 

 ゾワリと悪寒を感じた俺は脱兎(だっと)の如くピット・ゲートへ向かい、【バスター・イーグル】を展開。エンジン始動を待ってから飛び立つようでは遅いので、PICで機体を浮かせてフィールドを目指す(かたわ)ら、ジェットエンジンの始動作業を行う。

 

C'mon C'mon C'mon(ほら早く)……!」

 

 徐々に回転数を上げて行くエンジンを急かしながら、各システムのチェックと兵装の安全装置を解除。

 1分ぐらい経ってようやく回転数が安定してきたエンジンは耳をつんざく甲高い音を放ち、排気ノズルから高温・高圧の燃焼ガスを噴射し始めた。

 

「よぉし、素直で結構だ」

 

 これでようやくまともに飛ぶ事ができる。エンジンスロットルを上げてピット・ゲートから飛び出す──と同時にすぐ後ろでゲートの上部から分厚い特殊合金製のシャッターが、ガシャンッと音を立てて下りた。

 

「あたしが時間を稼ぐから、その間に逃げなさい!」

 

「逃げるって……女を置いてそんな事できるか!」

 

 開放回線(オープン・チャネル)で『逃げろ』、『置いて行けない』の言い合いをする一夏と鈴。

 

 ──警戒。不明機より高エネルギー反応を検知──

 

「高エネルギー反応……アリーナのシールドをぶち破ったやつか?」

 

 ハイパーセンサーの望遠機能を使って土煙を凝視すると、その中で薄紫色をした腕のようなものが動いたのを見た。それは次第に一夏と鈴の方へと向き……。

 

「ッ!? おい一夏ッ!! 今すぐ鈴を連れてその場を離れろッ!!」

 

「は? ──って、あぶねえッ!!」

 

 間一髪、一夏が鈴の体を抱きかかえるようにしてさらう。その直後、一夏達のいた場所を極太の熱線が通過した。

 砲撃は土煙の中から。つまり、不明機から繰り出されたもので間違いない。

 

「何だあいつ……!?」

 

 まだ残る土煙の中に立っていたのは、まさしく異形(いぎょう)だった。全体的に薄紫色をしたそいつは腕が異常なまでに長く、爪先よりも下まで伸びている。しかも首らしきものが見当たらない。幅広い肩と肩の間に小さな出っ張りがあり、胴体と一体化しているような形状だ。

 そして俺のIS【バスター・イーグル】と同じく全身が装甲で覆われており、その体躯(たいく)は胴体だけでも4メートル。腕の長さも加えると5メートルは確実にある巨体には、姿勢維持のためなのか全身にスラスター口が見える。首関節の無い頭部には()き出しのセンサーレンズが不規則に並び、長い腕の先には先程のビーム砲口が左右に1つずつ、ポッカリと開いていた。率直に言って、かなり悪趣味なデザインだ。

 

「答えろ! お前は何者だ! 何が目的だ!」

 

「─────」

 

 一夏が襲撃者に呼び掛けるが、相手からの応答は無い。まあ、当然と言えば当然か。

 

「一夏!」

 

「ウィルか! すまねえ、さっきは助かった!」

 

「気にするな。それより、敵機を目視で視認したんだが……デカイ図体(ずうたい)した悪趣味な機体だぜ。設計者は変態だな」

 

「ああ、俺にも見えた。何なんだよあいつ……目的が何なのかがさっぱりだ」

 

《織斑くん! 凰さん! ホーキンスくん! 今すぐアリーナから脱出して下さい! すぐに先生達がISで制圧に向かいます!》

 

 割り込んで来たのは山田先生だった。心なしか、いつもより威厳を感じるのだが、今はそんな事を考えている場合じゃないな。

 

「──いや、先生達が来るまで俺達で食い止めます。誰かがあれの相手をしないと」

 

「一夏の言う通りです。敵機は遮断シールドを破って侵入してきた。という事はつまり、いずれ観戦席にいる人間にも被害が及ぶ可能性があります。今動ける者が動かないと間に合いません」

 

 山田先生の言葉に対する俺と一夏の答えはノー(拒否)だった。

 

「……良いか、2人とも」

 

「ノープロブレムだ」

 

「だ、誰に言ってんのよ! そ、それより離しなさいってば! いつまでそうしてるつもりなのよ!」

 

 現在、鈴は一夏にお姫様だっこをされている状態だ。しかも、互いの顔は息が掛かりそうなほど近くなっている。

 恥ずかしさのあまり彼女は顔を真っ赤に染めながら、両手で一夏の顔をグイィっと押し退けようとする。

 

「ああ、悪い悪い」

 

 一夏が腕を放すと、鈴は自分の体を抱くような格好で離れた。

 

「……お熱いことで」

 

「…………」

 

 ボソッとした呟きを耳が捉えた鈴が、俺をギロッと睨む。その赤面が無かったらもっと迫力あったんだがな。

 

《だ、ダメですよ! 生徒さんにもしもの事があったら──》

 

 言葉はそこまでしか聞けなかった。敵機が体を傾けてスラスター出力全開で突進、それを俺達は回避する。

 

「ふん、向こうはやる気満々みたいね」

 

「みたいだな」

 

「上等だ」

 

 一夏と鈴はそれぞれ得物(えもの)を、俺は30ミリ機関砲を構える。

 

「日本には『オモテナシ』って言葉があるんだろ? せっかくのお客様だ、もてなしてやろうじゃないか」

 

 敵機がセンサーレンズを妖しく点滅させながら、ゆっくりとこちらに向き直る。

 

「おう。やってやろうぜ」

 

「それも、盛大にね」

 

 ガチャリと互いの武器の先端部を当てる。それが合図。俺達はアリーナのシールドを突き破って来た、あの無粋な客人へ向けて飛び出した。

 

 ▽

 

「もしもし!? 織斑くん聞いてます!? 凰さんもホーキンスくんも! 聞いてますー!?」

 

 ISの個人間秘匿通信(プライベート・チャネル)は声に出す必要は全くないのだが、そんな事を忘れるくらい真耶は焦っていた。

 

「本人達がやると言っているのだから、やらせてみても良いだろう」

 

「お、お、織斑先生! 何を呑気な事を言ってるんですか!?」

 

「1度落ち着け。そもそも、こっちの声はもうあいつらには聞こえていないだろう」

 

「先生! わたくしにIS使用許可を! すぐに出撃できますわ!」

 

「そうしたいところだが、──これを見ろ」

 

 千冬は手元のコンソールを操作して、画面を第3アリーナのステータスチェックに切り替える。

 

「遮断シールドがレベル4に設定されている。もちろん、そんな操作は一切行っていないにも拘わらずだ。それに、アリーナ中の全ての扉もロックされている」

 

「……まさか、あの機体の仕業ですの!?」

 

「そのようだ」

 

「という事はわたくしがISで援護に向かう事は……」

 

「無理だ。我々はおろか、このアリーナ内にいる者全員が出る事も、入る事も不可能になっている」

 

 落ち着いた調子で説明する千冬だったが、よく見るとその手は苛立ちを抑えきれないとばかりに(せわ)しなくコンソールを叩いている。

 

「で、でしたら! 緊急事態として政府に助勢を──」

 

「やっている。現在も3年の精鋭がシステムクラックを実行中だ。遮断シールドさえ解除できれば、すぐにでも鎮圧部隊を突入させる」

 

「っ……」

 

 言葉を続けながら更に募る苛立ちに千冬の眉がピクッと動き、そんな彼女を前にセシリアは口をつぐんでしまった。

 

「……落ち着けと言った本人がこの調子ではいかんな。どれ、コーヒーでも淹れてやろう。糖分が足りないからイライラするんだ」

 

「……あの、先生……」

 

「……その、お気持ちは嬉しいのですが……」

 

 努めて冷静に振る舞い、いそいそとコーヒーを作り始める千冬に、真耶とセシリアは非常に言いにくそうに話し掛ける。

 

「ん? ああ、オルコットは紅茶派か?」

 

「いえ、そうではなくて……その……」

 

 千冬から目を逸らしたセシリアは真耶と数秒ほど目線を合わせ、やがて決心したように頷き合った。

 

「「それ、塩なんですけど」」

 

「…………」

 

 ピタリとコーヒーに運んでいたスプーンを止め、白い粒子を箱に戻す。

 

「なぜ塩がここにあるんだ」

 

「さ、さあ……? でもあの、大きく『塩』って書いてありますけど……」

 

「…………」

 

 確認すると、確かに大きな文字で と表記されていた。

 

「砂糖はその右隣の箱に──って、織斑先生!?」

 

「先生!? そんな事をしたら舌がおかしくなってしまいますわ!」

 

 目を剥いて驚愕の声を上げる真耶とセシリア。彼女達の眼前には熱々のコーヒー(微塩)を優雅に傾ける千冬の姿があった。

 

「…………ふ、ふっ。コーヒーの苦さにほのかな塩っ気が効いて、なかなかだぞ」

 

 そう言って、千冬はふふんと言った表情を浮かべる。しかし、そんな彼女の左目尻はピクピクと震えており、口角からはコーヒー色の液体がツーっと一筋垂れていた。

 

「(先輩、強がってるんだろうなー……)」

 

「(強がってますわね……)」

 

 真耶とセシリアは揃って同じ事を考える。2人の想像はまさに図星であった。

 

「(不味い……)」

 

 味覚が拒絶してなかなか飲み込む事のできない塩入りコーヒーを千冬は必死に喉に流していく。

 

「……あら? そう言えば、篠ノ之さんはどこへ……」

 

 ふと、ある事に気付いてキョロキョロと周囲を見渡すセシリアの口から、そんな呟きが漏れた。

 

 ▽

 

 敵機との戦闘を開始してから十数分が経った頃。俺は敵を睨み付けながら悪態をついた。

 

「クソッ! あの図体でどんな機動力してやがる……!」

 

 一撃必殺の間合い。しかし、一夏の斬撃を敵にスルリと回避される。

 これが初撃ではない。もう既に3回は繰り返していて、その全てがかわされているのだ。

 

「一夏っ、馬鹿! ちゃんと狙いなさいよ!」

 

「しっかり狙ってるっつーの!」

 

 そう、一夏は普通ならかわせるはずの無い速度と角度で攻撃をしていた。だが敵は全身に付けたスラスターの出力が桁違いなのだ。それを全開で噴かして意味の分からない機動を描きながら、1秒と掛からずにその場を離脱していた。

 

「一夏、お前のISのエネルギー残量はあとどれぐらいだ?」

 

「残り60を切った。零落白夜(れいらくびゃくや)を出せるのは、よくてあと1回ってとこだ」

 

 零落白夜……一夏のIS【白式】が装備する『雪片弐型』の特殊能力だ。その能力は相手のバリアー残量に関係なく、それを切り裂いて本体に直接ダメージを与えるというもの。そうなればISの『絶対防御』が発動して、相手のシールドエネルギーを大幅に消費させられるという超高威力の攻撃だ。

 しかし、零落白夜は発動に際して自身のシールドエネルギーを大量に消費するという重大な欠点も有していた。これはまさに諸刃の剣だ。

 

「一夏っ、離脱!」

 

「お、おうっ!」

 

 鈴の声に反応して、一夏がその場を離脱する。

 敵は攻撃を避けたあと、決まって反撃に転じる。しかもその方法が滅茶苦茶だ。デタラメに長い腕をブンブン振り回して接近してくる。まるでプロペラだ。加えてその高速回転状態からビーム砲撃まで行ってくるのだから面倒な事この上ない。

 

「鬱陶しい……! そんなにグルグル回りたけりゃどこか他所でやってろ!」

 

 飛んでくる無差別な砲撃を紙一重でかわした俺は、お返しに『ハイドラ』をハードポイントに展開して斉射する。

 

 バシュシュシュシュッ!!

 

 連続で放たれた無誘導ロケット弾は、なおも回転を続ける敵の背中と腕、肩に命中した。……やっとまともな命中弾だ。

 

「────」

 

 正直、大したダメージにはなっていないだろうが、被弾した敵はプロペラのような回転を止め、体ごと俺に向き直る。

 

 ──警告。敵機からレーダー照射を受けています──

 

 敵はどうやら今度は俺が脅威だと判断したらしい。……いや待て、レーダー照射だと?

 ビーム砲撃の嵐が来ると身構えていた俺だったが、敵の考えは違うようだった。

 

「っ、おいおい、あれってまさか……」

 

 やけに面積の広い両肩のパーツが縦に割れ、内部から見覚えのある兵器が顔を覗かせる。

 

「あいつは全身武器庫か何かかよ……!」

 

「ちょっとウィル、あいつの肩からなんか出て来てるんだけど──って言うかアンタ狙われてるわよっ!」

 

 バシュン!

 

 両肩に1基ずつ展開されたそれは後部から煙を出しながら、ものすごい速度で俺に向けて突撃してくる。

 

「あの機動力とビーム出力でSAM(地対空ミサイル)まで持ってるとか反則だろっ!?」

 

 そう、今俺に対して放たれたその見覚えのある兵器とは地対空ミサイルだったのだ。

 

「くっ……!」

 

 対ミサイル回避用にチャフをバラ撒き、体に掛かるGを無視して左にブレイク(急旋回)する。

 シュゥゥ! と音を立てながら俺のすぐ後ろを通過して行くミサイルは、アリーナの分厚い壁に激突して爆炎を上げた。

 

「このハリネズミめ……」

 

 未だこちらを見上げている敵を睨み返す。ロックオン警報は鳴りっぱなし。しかし、敵はミサイルを展開してはいるものの、撃っては来なかった。

 

「(奴はいったい何がしたいんだ……?)」

 

 今が攻撃の絶好のチャンスであるにも関わらず、まるでこちらの様子を伺うような仕草をする敵機。

 しかも、先程から取っている行動はどれも予め決められてパターン化された動きを実行しているだけのようにも感じられる。要するに人間味が無いのだ。

 

「……なあ、ウィル、鈴。あいつの動きってなんか機械じみてないか?」

 

「何言ってんのよ。ISは機械でしょ?」

 

「そう言うんじゃなくてだな。えーっと……」

 

「……あれは人が乗っていない、つまり、無人機だと言いたいのか?」

 

 一夏が言いたい事をなんと無く察した──と言うより、俺もそう仮定していた──言葉を、彼の代わりに(つむ)ぐ。

 

「は? 人が乗らなきゃISは動かな──」

 

 と、そこまで言って鈴の言葉が止まる。

 

「──そう言えばアレ、あたし達が会話しているのに攻撃してこないわね。まるで興味があるみたいに」

 

 思い返すように鈴が今までの戦闘を振り返る。

 

「それにだ。俺がロケットで奴を攻撃した時、最も近くにいたはずの鈴には目もくれず、こっちを狙って攻撃してきた。あれは脅威目標を割り出して優先的に攻撃しているように見えたぞ」

 

「でも無人機なんてあり得ないわ。ISは人が乗らないと絶対に動かない。そういうものだもの」

 

 それは俺も教科書で読んだ。ISは人が乗って動かすものだ。無人航空機などとはわけが違う。しかし、しかしだ。

 

「そもそも、あれが本当にISなのかも怪しいところだ。コア反応が全くしない。それに、あれに人が乗ってるとしたらパイロットは生後8ヶ月の乳幼児くらいになるぜ」

 

「……どういう事?」

 

「あの出力でビームをバカスカ撃ちまくるなら、それなりの規模の電池(・・)が要るだろう。肩に展開してるあのSAMも、あんな代物を胴体内に格納しておくのならスペースが必要だ」

 

「じゃあ、その中に収まりきるのは……」

 

「あれが有人機なら、まだ1歳にも満たない子供ぐらいしか乗り込めん」

 

 そんな子供があれを操縦するなんて、まず不可能だろう。

 

「仮に、無人機だったとしたらどうだ?」

 

「なに、一夏。無人機なら勝てるって言うの?」

 

「ああ。人が乗ってないなら容赦なく全力で攻撃しても大丈夫だしな。『雪片』の威力は零落白夜も含めて威力が高すぎるんだ。訓練や学内対戦で全力を出すわけにはいかないけど、無人機相手なら最悪の事態は想定しなくても良いだろ?」

 

「でも、その全力の攻撃も当たらないと意味無いじゃない。エネルギーも残り少ないんでしょう?」

 

「それなら俺に1つ案がある。無人機だからこそよく効く作戦がな」

 

 ニィっと口角を吊り上げて不敵な笑みを浮かべながら、俺は言葉を続けた。

 

「いいか、内容はシンプルだ。まず、俺が敵の注意を引き付ける。次に鈴、俺の合図で衝撃砲を撃って奴を地面に叩き落としてくれ。最後は一夏のバリアー無効化攻撃でトドメだ。当てろよ?」

 

「ああ、次は確実に当てる」

 

「言い切ったわね。じゃあその作戦で攻めてみましょうか」

 

「よし、じゃあ早速始めるぞ」

 

 言うが早いか俺は敵の元へ飛んで行き、『ブッシュマスター』の機銃掃射をお見舞いする。

 

「────」

 

「ほら、掛かって来いポンコツ無人機。センサーレンズに埃が溜まって俺が見えないのか? ──おっと!」

 

 攻撃を受けた敵は俺を脅威と捉えて残り1発の地対空ミサイルを撃ってくるが、こっちも残り少ないチャフを撒いて回避する。

 

「(さあ、食い付け……)」

 

 ミサイルを撃ち切り、今度は腕のビームを撃ちまくってくる敵だったが、さすがに今のままでは当たらないと踏んだのか全身のスラスターを勢い良く噴かし始めた。

 

「食い付いた!」

 

 あれほどの体躯にも関わらず、凄まじい速度で追い掛けて来ながらビームまで撃ってくる事に驚きつつも、作戦通り鈴の待つポイントまで敵を誘導する。そーら、捕まえてみやがれ……!

 

「位置に着いたわ! いつでもオッケーよ!」

 

 俺の正面には鈴が衝撃砲の発射態勢を整えた状態で待機していた。

 

「分かった。一夏の方はどうだ?」

 

「大丈夫だ! やってくれ!」

 

 一夏も『雪片弐型』を構えて準備完了を告げる。さあ、覚悟しろよポンコツ無人機め。

 

「喰らえ!」

 

 敵が真後ろに着いたタイミングで、俺は緊急制動用のドラッグシュートを展開させる。

【バスター・イーグル】の機体尾部にある小さなハッチから飛び出たオレンジ色のパラシュートはそのまま切り離され、敵の上半身を覆うように被さった。

 本来の用途(機体の減速)とは程遠い使い方。そう、これは目隠しだ。

 発想の自由さが人間の最大の長所だと言った偉人がいたらしいが、その通りだと思う。人間は狡猾に裏をかく(・・・・・・・・・・)。機械には真似できない発想で。……まあ、ドラッグシュートで目隠しするのは人間や機械に関係なく予想外だとは思うが……。

 

「はっはあ! 目隠ししてても飛べるか!?」

 

 前が見えなくなった敵は飛行が安定しなくなり、フラつきながら、自身に被さって絡まるパラシュートと格闘する。

 

「鈴、今だ! 衝撃砲で奴を撃ち落とせ!」

 

「分かってるわよ!」

 

 両腕を少し下げ、肩を押し出すような格好で構える鈴から見えない砲弾が放たれる。

 

 ドンッ!

 

「────!?」

 

 上方からの衝撃砲を諸に受けた敵はスラスターでの姿勢制御も虚しく、地面に墜落して土煙を上げた。

 

「ナイスだ鈴。一夏、奴にありったけをくれて──」

 

 一夏に攻撃の合図を送った瞬間、アリーナのスピーカーから大声が響いた。

 

「一夏ぁっ!!」

 

 キーン……とハウリングが尾を引くその声は、箒のものだった。

 中継室の方を見ると、審判とナレーターがのびていた。恐らく勢い良くドアを開けたところにバシンと一撃を喰らったらしい。

 

「男なら……男なら、そのくらいの敵に勝てなくてなんとする!!」

 

 大声。またキーンとハウリングが起こる。ハイパーセンサーで中継室にいる箒をズームすると、はぁはぁと肩で息をしている。その表情も、怒っているような焦っているような不思議な様相だった。

 

「────」

 

 ビリリッ! と音を立てて目隠しのパラシュートを破り捨てた敵が、今度は声の主である箒に振り向いた。

 

「あっ、あの馬鹿っ……! 一夏、ヤバいぞ!」

 

「箒! 早くそこから逃げろ!」

 

 敵がセンサーレンズを不規則に点滅させながら、その砲口が開いた腕を箒に向ける。

 

「っ! 鈴、最大出力で衝撃砲を撃ってくれ! 早く!!」

 

「わ、分かったわよ!」

 

 一夏に急かされて、再度衝撃砲の発射態勢を取る鈴。

 そして、一夏がその射線上に踊り出た(・・・・・・・・・・)

 

「ちょっ、ちょっと馬鹿! 何してんのよ!?」

 

「一夏! 何のつもりだ!? 早くそこを退け!」

 

「そうよ! 撃てないでしょ!?」

 

「いいから俺ごと撃ってくれ!」

 

「っ! ああもうっ……どうなっても知らないわよ!」

 

 高エネルギー反応を背中に受けた一夏は、『瞬時加速(イグニッション・ブースト)』を発動させる。

 するとどうだろうか。一夏は弾丸のような速度で敵に向かって突撃して行った。

 衝撃砲に弾き飛ばされたと言うよりかは、衝撃砲のエネルギーを取り込んで加速に転換したようだ。

 

「な、なんつう荒業だ……」

 

 そんな俺の呟きも、一夏の雄叫びに掻き消される。

 

「──オオオッ!!」

 

 彼の右手に握られた『雪片弐型』が強く光を放つ。中心の溝から外側に展開したそれは、一回り大きいエネルギー状の刃を形成していた。

 

「俺は……千冬姉を、箒を、鈴を、関わる人全てを──守る!!」

 

 そんな言葉と共に放たれた必殺の斬撃は、敵の右腕を切り落とした。

 しかし、その反撃で一夏は左拳を諸に受ける。さらにその接触面からは高熱源反応を確認。

 

「野郎、右腕と引き換えに一夏を焼くつもりか!」

 

 旋回して大急ぎで一夏の元へ飛ぶ。だが一夏は不敵な笑みを浮かべながら、口を開いた。

 

「……狙いは?」

 

「──完璧ですわ!」

 

 よく通る声。普段聞き慣れた声が聞こえた。

 刹那、『ブルー・ティアーズ』の4機同時狙撃が敵を撃ち抜く。方角からして観戦席の辺りからだ。見ると、遮断シールドの一部が破壊されていた。さっきの一撃の際に一夏が壊し、そこからセシリアを進入させたようだ。

 ボンッ! と小さな爆発を起こし、敵は後ろのめりに倒れる。シールドバリアーが無い状態で『ブルー・ティアーズ』のレーザー狙撃を一斉に浴びれば、一溜りもないだろう。

 

「なんとか間に合って良かったですわ」

 

「セシリアなら絶対にやってくれるって信じてたけどな」

 

「そ、そうですの……。と、当然ですわね! 何せわたくしはセシリア・オルコット。イギリスの代表候補生なのですから!」

 

 ここからでは見えないが、一夏に言われた事が嬉しくて顔を赤らめながら、腰に手を当てていつものポーズをするセシリアが容易に想像できる。

 だがしかし、これで終わりというわけにはまだいきそうもなかった。

 

 ──敵機の再起動を確認!──

 

 ISから受けた報告を見て一瞬自分の目を疑ったが、紛れも無い事実だ。……しぶとい奴め。

 

「ふう。何にしてもこれでようやく終わ──」

 

「待て、一夏」

 

 俺は一夏の言葉に割り込んで、クイッと顎をしゃくらせる。

 

「……向こうはまだ終わっちゃいないようだ」

 

「!?」

 

 ギギギ……ギ……ギ……

 

 そこには、倒れていたはずの敵が部品を撒き散らし、装甲を軋ませながら、俺達に最大出力形態に変形させた左腕を向ける姿があった。

 

 ──警告! 敵機射撃態勢に移行!──

 

 ああ、もちろん分かってるさ。

 主翼ハードポイントに展開した『ハイドラ』と右腕の『ブッシュマスター』の照準を敵に合わせる。

 

「おやすみ」

 

 トリガーに掛けた指に力を入れる。

 数秒後、『ハイドラ(ロケット弾)』と『ブッシュマスター(30ミリ機関砲)』の近距離斉射を受けてバラバラに破壊し尽くされ、もはや原形が分からなくなった無人機の残骸ができあがった。

 

「うっわぁ……完全にスクラップね、これ」

 

 パチッパチッと火花を散らして完全に機能停止している残骸を覗き込みながら、鈴が顔をしかめる。

 

「またヒョコッと再起動でもされたらコトだからな。これだけやれば、もう起き上がる事はあるまい」

 

 無人機の残骸を見下ろしながら応えた俺は、次に一夏に視線を移した。

 

「さて、戻るとしようか。まだまだやる事は残ってるぞ?」

 

「やる事って?」

 

「織斑先生と山田先生の説教を受けなきゃならん」

 

「「う゛っ!?」」

 

 一瞬で現実に引き戻された一夏と鈴は、これから待っているであろう2人(特に織斑先生)の説教を想像して身を震わせる。

 

「まっ、仲良く叱られるとしようじゃないか。はっはっはっ」

 

「ウィル、お前……」

 

「……アンタ足震えてるわよ」

 

 鈴の言う通り、俺の足はISを装着していても分かるほど震えていた。ははっ、俺も足も両方笑ってるってか? ……笑えねえ。

 

「逆に震えない理由がどこにある? 織斑先生の説教(物理)だぞ?」

 

「確かに、千冬姉の説教(物理)だもんな……」

 

「まあ、千冬さんの説教(物理)だしね……」

 

「「「……よし、腹を括ろう」」」

 

 覚悟を決めて3人一緒にピットへ帰還する。

 今の俺達の顔は、これから死地に向かう兵士のような、そんな表情を浮かべていた。

 

 

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