インフィニット・ストラトス 蒼空に鮫は舞う   作:Su-57 アクーラ機

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12話 痛恨の一撃

 ピットに帰還した俺達は、織斑先生・山田先生両名にたっぷり説教を喰らったあと『念のため保健室に行って()てもらってこい』と言われ、保健室を訪れていた。

 

「にしても、全身打撲だって?」

 

「ああ。軽い方だって言われたけど、数日の間は地獄だってさ」

 

 ベッドに横たわっている一夏が顔をしかめながら、身体中に貼られた湿布を見る。

 戦闘後しばらくはアドレナリンの作用で痛みをそこまで感じていなかったようだが、あとになってジワジワ来はじめたらしい。

 

「そりゃあフル出力の衝撃砲を諸に浴びたんだ、むしろ軽症で済んでラッキーだぞ?」

 

 ISの絶対防御は完璧ではない。ある程度の衝撃は吸収できても、殺しきれなかった分はパイロットへ伝わるのだ。まったくこいつは……本当に無茶な事をしやがる。

 

「そうよ。アンタ下手したら死ぬ可能性だってあったのよ?」

 

「鈴の言う通りだ。エネルギーを直接取り込むためとは言え、なかなかクレイジーな行動だったぞ。まったく……」

 

「す、すみませんでした……」

 

 背中からゴゴゴゴッと響いてそうなオーラを放つ俺と鈴に叱られ、ベッドの中で小さくなる一夏。

 そんな彼の様子がどこか面白くて、俺と鈴はぷっと吹き出した。

 

「まあ後遺症も無いし、痛い事を除けば普段の生活に特に支障は無いらしいし、命に別状が無くて良かったよ」

 

 そう言ったところで、カーテンの外側に人影を見つけた。はて、誰かが見舞いに来たのだろうか。

 シャッと片手でカーテンを開ける。

 

「…………」

 

 そこに立っていたのは、バツが悪そうな顔をした箒だった。

 

「……箒?」

 

 普段の雰囲気とは違った彼女を不審に思ったのか、一夏が心配そうに声を掛ける。

 

「どうした、見舞いか?」

 

「う、うむ。見舞いもだが……その……」

 

 俺の問いにも、らしくない返事をする箒はどこかソワソワしていて落ち着きが無い。何か言いにくい事でもあるのだろうか。

 

「すまなかった」

 

 突然、箒がこちらに向けて頭を下げ、その口から謝罪の言葉が告げられた。

 

「お、おいおい、どういう事だよ」

 

「ちょっと、いきなりどうしたの?」

 

 身に覚えの無い謝罪を受けた一夏と鈴は狼狽えるが、そんな2人とは裏腹に俺は小さく「成程な」と呟く。

 

「取り敢えず顔を上げてくれ。それは……無人機との戦闘中の件か?」

 

 恐る恐るといった感じで頭を上げた箒に、確認を取るように問い掛ける。

 

「……ああ」

 

 当たりだった。

 続いて一夏と鈴も件の出来事を思い出したかのような表情を浮かべる。

 

「お前達がピットから出て行ったあと、織斑先生に『お前は自分がしでかした事の重大性を理解しているのか』と叱られてな」

 

 そりゃそうだ。あの時は一夏が無茶をしてでも無人機に攻撃を仕掛けたから間に合ったものの、もし間に合わなかったら箒はそこで気絶していた審判やナレーターと共に文字通り蒸発していたかもしれないのだから。

 

「そうだな、先生の言う通りだ。お前の行動はお世辞にも評価できるようなものじゃない。今回は一夏が意地で間に合わせたから良かったが、最悪の未来が訪れていた可能性も十二分にあり得たんだ」

 

「…………」

 

「あの時は頭がいっぱいだったんだろうが、もうあんな真似は止せよ? 冗談抜きで死ぬほど危ない状況だったんだからな」

 

「ああ。もうしない」

 

「ならば良し。織斑先生にも叱られたんだろ? ならこれ以上俺から何か言う事は無いさ」

 

 ……て言うか今さらだが、俺も命令に背いて説教を受けた身なんだから、箒に偉そうにお小言を言えるような立場じゃないよな。

 

「なあ、箒」

 

 次にベッドから半身を起こした一夏に呼ばれ、箒は彼の方に首を巡らす。

 

「あれってさ、俺の事を励まそうとしてくれてたのか?」

 

 一夏の言葉に、箒はゆっくり深く頷いた。

 

「そっか……ありがとな。けどさ、もっと自分の事を大事にしてくれよ? ウィルの言った、もしもの未来なんて俺は絶対に嫌だぞ?」

 

「そう言うアンタも十分危ない事してたけどね。ア・ン・タ・も! 自分の体をもっと大事にしなさいよ?」

 

「あはは……それを言われるとぐうの()もでないぜ……」

 

 鈴の鋭いツッコミに一夏は頭を掻きながら苦笑いを浮かべる。ふと、箒の方に視線を戻すと彼女も自然な笑みを浮かべていた。

 ──さて、そろそろか?

 

「よっと」

 

 俺は勢い付けて丸椅子から立ち上がり、保健室から出る準備を始める。多分だが、もうじきセシリアもここを訪ねて来るはずだ。そして一夏を巡って新たなバトルが繰り広げられる事だろう。俺の勘がそうだと言っている。

 

「あれ? ウィル、もう行くのか?」

 

「ああ、【バスター・イーグル】の修理申請をな」

 

「修理って、お前のISって被弾してたか?」

 

「被弾って言うより、左翼端にある航行灯の一部が溶けて変形してるんだよ」

 

 そう、イーグルは直撃こそしていないものの、あの無人機から放たれたビーム砲撃の1発が翼端を掠めており、脆い部位であった航行灯が溶け落ちていたのだ。

 だがこれは、これから始まるであろう『第n次一夏争奪戦』に巻き込まれないようにするための逃げの口実でもある。

 

「まったく、あの無人機を野に放った大馬鹿野郎に文句を言ってやりたいね」

 

 わざとらしく大きな溜め息をつきながら、保健室のドアの前に立ったその時。

 

「じゃあまたあとで──」

 

 バーンッ!! と保健室の内開き式ドアが勢い良く開け放たれた。

 

「──ゴッ!?」

 

 もう1度言おう。保健室のドアが勢い良く開け放たれた。それも内開き式のものが。なんでここだけスライド式じゃないんだよIS学園(ハイテク施設)

 

「ぐ、ぐぅぉぉぉ……鼻がぁ……! ──ぐえっ!?」

 

 まるでマンガの1シーンのように顔面にキレイなクリティカルヒットを貰った俺は鼻を押さえながらヨロヨロっと後退りし、足元にあった丸椅子の存在に気付かず盛大に転けた。

 

「一夏さ~ん、具合はいかがですか? わたくしが看護に来て──あら?」

 

 ツカツカと部屋に入って来たセシリアの足が、言葉が、止まる。鼻を押さえたまま後ろのめりに転けてピクピクと痙攣する俺を見つけたからだ。

 

「ぜ、ゼジリア……お前(おばえ)……」

 

「え? あ、あの、もしかしてわたくしが……?」

 

 全てを察したセシリアは、みるみる顔を青くしていく。

 

「だ、大の男を一撃で沈めるとは……良い……センスだ……ぐふっ」

 

「ウィリアムさーーーん!!」

「ウィリアムぅーーー!!」

「ちょ、ちょっとウィル!? しっかりしなさい!」

「ウィル、返事をしろ! ウィル! ウィルぅーーー!!」

 

 俺を呼ぶ4人の声がぼんやりと聞こえてくる。って言うか一夏の台詞はいったいどこの潜入ゲームだ?

 などと考えながら、俺の意識は徐々にブラックアウトしていった。

 

 ▽

 

 学園の地下50メートル。そこはレベル4権限を持つ関係者しか入れない隠された空間。

 ウィリアムによって破壊された無人機はすぐさまそこへ運び込まれ、解析が開始された。

 

「織斑先生、無人機の解析が終わりました」

 

「ああ、山田くん。どうだった?」

 

「はい。まず、機体名称は【ゴーレムⅠ】。これは機体装甲に刻印されていたものです。製造元は不明。そして──ISではありませんでした。動力系にはターミネーター(人型航空兵器)にも使われているバッテリーの改良型と見られる物を複数搭載していたようです」

 

「そうか。あれほどの戦闘力でISではない、か……。つまり、量産できて数を揃える事もできるわけだ」

 

「いったい誰がこんな物を……」

 

「残念だが私にも分からん。だがこれを仕向けた犯人はいつか必ず、また襲撃してくるはずだ」

 

 そう言って千冬はボロボロの配線やチップが剥き出しになった無人機の残骸を睨み付ける。それは教師の顔ではなく、戦士の顔に近かった。

 

 ▽

 

「ふぅ……満足満足」

 

 夕食後、俺は腹を擦りながら自室への道を歩いていた。

 ちなみに今日のメニューはサバの味噌焼き定食だ。ここ日本に来て以来、俺はすっかり魚料理の(とりこ)になっていた。

 当初、魚料理なんてどれも生臭いだけの料理だとばかり思っていた俺だったが、一夏に(すす)められて試しに取ってみた焼き鮭定食を口に運んだ瞬間、脳内にグワアァァンッ! と銅鑼(どら)()が響き渡ったのだ。

 これを機に俺は週3~4の割合で朝昼晩のどれか2つは魚系の料理を注文するようになった。しかも、しかもだ。近々、学食の献立に新しくホッケと言う魚を使った料理が加わるらしい。これはぜひとも食べてみないとな! 今からでも待ち遠しい……ああ、いかん。さっき食べたばかりなのに涎が。

 

「……箒、用が無いから俺は寝るぞ」

 

「よ、用ならある!」

 

 まだ見ぬ新たな料理に思いを馳せながら廊下を歩いていると、曲がり角の先から一夏と箒の声が聞こえた。どうやらいつの間にか1025室の近くにまで来ていたらしい。

 

「ら、来月の、学年別個人トーナメントだが……」

 

 学年別個人トーナメント……ああ、6月末に行うやつか。確かあれは、クラス対抗戦(リーグマッチ)と違って完全に自主参加制の個人戦だったはずだ。学年別で区切られている以外は特に制限も無いそうだが……。

 

「わ、私が優勝したら──」

 

 若干距離がある状態でも分かるほど頬を紅潮させる箒。彼女は一息吸ってから……

 

「つ、付き合ってもらう!」

 

 ビシッと一夏に向けて指を差した。

 ……? 付き合うって……どこか行きたい所でもあったのだろうか。いやまあ顔真っ赤にしてるから、恐らくデートのお誘いをしているんだと思うんだが……。

 

 

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