インフィニット・ストラトス 蒼空に鮫は舞う 作:Su-57 アクーラ機
6月頭、日曜日。
今日、一夏は久方ぶりに中学の頃の友人と会う約束があったらしく外出中。つるむ相手のいない俺は特にやる事も無かったので、自室にて家から持ち込んだゲーム機で遊んでいた。
ちなみにこのIS学園、各部屋にテレビが1台設けられているので、据え置きゲーム機を繋げる事もできる上、オンライン環境もきっちり整っているのだ。さすがは国立施設。
「うおっ!? ちょっ──!?」
チュドーン! 『トリガーが墜ちた!』
現在俺がやっているのは某空戦ゲーム。カセットの発売は少し前だが、そんな事は関係無く遊べる代物だ。
「クッソ……何度やってもここでやられる」
コントローラーをテーブルに置き、椅子の背もたれに体を沈める。
「やっぱり、Su-30の5機編隊を相手にF-4で向かうのは無謀が過ぎたか」
しかも難易度は
「よし、
そう言ってコントローラーを手に取り、画面に浮かぶ『Continue』にカーソルを合わせて◯ボタンを押そうとしたその時。
~~♪
「ん、電話?」
充電器に挿していた携帯電話から着信メロディーが鳴った。……あれ、この電話番号ってもしかして……取り敢えず着信メロディーが鳴りっぱなしなのも悪いな。
充電器を外し、画面の通話マークをタッチしてから耳に宛がった俺は
「はい、お電話取りました。ホーキンスです」
《 ぶるああ── 》
ピッ♪
即座に通話を終了した。
「……ふぅ」
よし、ひとまず落ち着こう。開口一番に謎の奇声を上げるようなアメリカ空軍ティンダル基地司令の中将なんて俺は知らない。オーケー? と、心の中で自分にそう言い聞かせていると、また着信メロディーが鳴る。
「……はい、お電話取りました。ホーキンスです」
《いきなり切るなんてぇ酷いじゃないか、ホーキンスくぅん》
「いきなり耳元で奇声を上げられたら誰だってそうなりますよ、中将」
この某日本の国民的日曜アニメに出てくるタラコ唇のキャラに似た特徴的な口調で話す人物は、デイゼル・ガトリング中将。アメリカ合衆国空軍ティンダル基地の司令を務める人である。
《何を言うかねぇ。これは我々ぇ『重装巨砲主義』の中ではぁ、ただの挨拶ではないかぁ》
いや、どんな挨拶だよ。
「自分はそのような組織に属した覚えは無いのですが……」
今の会話から分かるように彼はとてもフレンドリーな人物で様々な階級の将兵達にも慕われる存在だ。
そして、さらっと出てきた『重装巨砲主義』という単語だが、これはガトリング中将が勝手に布教活動をしている宗教組織のようなもので、『デカイ砲と大量の兵器を搭載する事はロマンである』が謳い文句である。組織規模は小さい──というわけでも無いらしい。
ちなみに、ティンダル基地内では叔父のトーマス・ホーキンス大佐と彼が率いる者達によって宗教弾圧を受けている。……これで良いのか、アメリカ空軍。
《忘れたとは言わせないぞぉ、ホーキンスくぅん。あの日、我々は血の
血の盃って……もしかしてあの
「はぁ……もう良いです。しかし、中将自らお電話とはいったいどういう事でしょうか? 何か急を要する事が?」
《うむ。──今回は君に頼みがあってね。引き受けてくれるかね?》
真剣な声のガトリング中将に触発されて、俺も自然と背筋を伸ばしていく。
「はっ、自分にできる事であれば」
《良い返事だぁ。それでぇその頼みというのはぁ新兵装のぉ試験運用をしてもらいたいのだよ》
試験運用だって……? 何だろう、どうも嫌な予感がするんだが。
「どのような兵装でしょうか?」
《40ミリオートキャノン『ブラックマンバ』というぅ機関砲だぁ》
「はい。…………はい?」
おい、今おかしな言葉が聞こえたぞ。40ミリ? オートキャノン?
「中将、失礼ですが今のもう1度よろしいでしょうか?」
うん、きっと聞き間違いだ。そうに違いない。40ミリオートキャノンだなんて、そんな
《40ミリオートキャノンだぁ》
「…………」
《40ミリ──》
「いえ、もう結構です。しっかり聞き取れました」
聞き間違いであって欲しかったよ……。って言うか40ミリオートキャノンなんて俺のISにどうやって載せろっていうんだよ!?
この中将、前にもこれに近い事をしようとしたためしがある。彼は以前
1つ言っておくが、アヴェンジャーは全長6.4メートル。重量は砲本体と給弾機構、モーターなどを含めて1トンを超える。
閑話休題。
「中将、いくらなんでもそれは……」
《安心したまえぇ。以前のアヴェンジャーは失敗だったがぁ、あれと比べればかぁなり軽量だぁ》
「いや、そういう問題では──」
《見つけましたよ! ガトリング中将!》
突如、スピーカーからバーンッ! と勢い良くドアを開ける音と聞き覚えのある声が響いた。
《なっ!? ほ、ホーキンス大佐、なぁぜここにぃ!?》
やっぱり、この声は伯父のものだったか。あの人も苦労してるんだな……。
《あんな大音量で叫んでたら1発で分かります! それより総員、直ちに中将を拘束せよ!》
《 《 《 はっ! 》 》 》
《な、何をするか!》
ドタバタとスピーカーから中将やその他トーマス派の将兵達の暴れる音が聞こえる。
「えぇ……何このカオス」
しばらく待っていると電話の向こう側が静かになった。どうやら決着がついたらしい。
《大佐、中将の拘束が完了しました》
《ふっ、ふふはははは!! 残念だったな大佐ぁ!! 40ミリオートキャノンは既に学園に送ったあぁとだぁ!!》
ちょっ、ちょっと待て! 俺の意思に関係無くもう送ったあとなのか!?
《……連れて行け》
《 《 《 イエッサー 》 》 》
ガチャッ、バタン。拘束されたガトリング中将は部屋から連れ出されて行った。……信じられるか? これで基地司令なんだぜ? もうどっちが上官か分からねえよ。
《ふぅ。スマンなウィリアム。彼は良き軍人なのだが、いかんせん仕事そっち退けで信者を増やし続けていてな。こっちも手を焼いているんだ》
「はぁ……察するよ、伯父さん」
《ありがとう。ああそうだ、さっき言ってたオートキャノンもだが、改良型のエンジンが今日付けで学園に到着するはずだ。忙しいとは思うが、早めに換装しておいてくれ》
「了解」
《うむ、それじゃあな。久方ぶりに声が聞けて良かったよ》
「そっちも元気そうで何よりだよ」
最後に「それじゃあ」と言って電話を切り、部屋を出る準備を始める。
コンコンコン
「ホーキンスくん、アメリカからあなた宛にISの装備が届きましたよ」
小気味良く叩かれたドアの向こう側から聞こえたのは、山田先生の声だった。まるで示し合わせたかのようにピッタリなタイミングだな。
「今行きます」
このあとはエンジン換装と例のオートキャノンとやらの量子変換、試験飛行に試験射撃と忙しくなりそうだ。
「はぁ、まったく最高だよ……」
靴を履き終えた俺はそう皮肉を零しながら、自室をあとにした。
あの独特の口調って、いざ文章にしようとすると途端に難しく感じる……。
・40ミリオートキャノン『ブラックマンバ』
アメリカから送られて来た40ミリ口径の単砲身機関砲。
30ミリよりさらに巨大な40ミリという大口径砲弾を毎分600発で発射する。口径は大きいが、30ミリガトリング砲と比べると砲自体はこちらの方が大きさも重量も下回る。
【皆さんのISにも、おひとついかがですか?】
※ブラックマンバ…コブラ科マンバ属に分類される毒蛇。口内が黒い事からこの名前がつけられた。
━おまけ━
「アヴェンジャーは30ミリ口径です。バルカン砲じゃありません。あれは20ミリ口径です。しばし誤解を生みましたが、今や巻き返しの時です」
「アヴェンジャーは好きだ」
「アヴェンジャーがお好き? 結構、ではますます好きになりますよ。さあさ、どうぞ。アヴェンジャーのニューモデルです。素晴らしいでしょう? ああ、おっしゃらないで。重量は車1台分以上と過大。でも他の航空機関砲なんて見掛けだけで、口径が小さいし、破壊力が足りないわ、ロクな事はない。装弾数もたっぷりありますよ。どんなトリガーハッピーの方でも大丈夫。どうぞ発射してみて下さい」
「…………」
ヴァアアアアアアアアッ!!
「良い音でしょう? 余裕の音だ。発射速度が違いますよ!」
「1番気に入っているのは……」
「なんです?」
「火力だ」
「「「ヒャッハーー!!」」」
……これで良いのか、アメリカ空軍