インフィニット・ストラトス 蒼空に鮫は舞う   作:Su-57 アクーラ機

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15話 ラッキースケベは唐突に

「では、本日から格闘及び射撃を含む実戦訓練を開始する」

 

「「「はい!」」」

 

 1組と2組の合同実習なので人数はいつもの倍。加えて織斑先生が前に立っているのもあって出てくる返事は大きく、そして気合いの籠ったものだった。

 

「くぅっ……何かというとすぐにポンポンと人の頭を……」

 

「……一夏のせい一夏のせい一夏のせい……」

 

 叩かれた場所が痛むのか、セシリアと鈴は少し涙目になりながら頭を押さえていた。

 と言うか鈴がさっきから『一夏のせい』を呪詛(じゅそ)のように唱え続けている。まるでセサミストリートだ。今日覚える単語は『一夏のせい』。

 

「今日は戦闘を実演してもらおう。──(ファン)! オルコット!」

 

「「は、はいっ!」」

 

 まさか自分達が呼ばれるとは思っていなかったのか、ビクッと小さく肩を跳ねさせてから慌てて返事をする鈴とセシリア。

 

「専用機持ちならすぐに始められるだろう。前に出ろ」

 

「面倒くさいなぁ、なーんであたしが……」

 

「何かこういうのは見せ物のようで、あまり気が進みませんわね……」

 

 愚痴をこぼしながら、鈴とセシリアの2人は前に出て行く。

 

お前ら少しはやる気を出せ。──アイツに良いところを見せられるぞ?

 

 ん? 織斑先生が2人に何かを耳打ちしている。なんて言っているんだ?

 

「やはりここはイギリス代表候補生、わたくしセシリア・オルコットの出番ですわね!」

 

「まあ、実力の違いを見せる良い機会よね! 専用機持ちの!」

 

 消極的な態度の鈴とセシリアに織斑先生が小声で何かを告げた瞬間、突然2人はやる気に満ち溢れ始めた。さっきとは真逆の態度だ。いったい何を吹き込んだのだろうか?

 

「ねえ一夏、先生はさっきなんて言ってたの?」

 

 そう言ってシャルルが一夏に訊ねるが、彼もよく聞こえていなかったようで肩を(すく)めていた。

 

「さあ? メシでも奢ってやるとかじゃないのか? ウィル、お前は何か聞き取れたか?」

 

「いや、俺もよく聞き取れなかった。なんて言ったんだろうな?」

 

 うーん、と3人仲良く小首を傾げる俺達。だがあの変わり様は相当だったからな。2人に共通して、かつプラス要素のある話だったのだろう。

 

「それで、相手はどちらに? わたくしは鈴さんとの勝負でも構いませんが」

 

「ふふん。こっちの台詞。返り討ちよ」

 

「慌てるなバカども。対戦相手は──」

 

 キィィィン……

 

「ん? 何だこの音?」

 

「空気を切り裂くような音に似てるが……上からか?」

 

 俺と一夏は音のする方角──頭上を凝視する。

 

「……Ho……ly……shit……!!(なん……てこった……!!)

 

 空を仰ぎ見る姿勢のまま、半開きの俺の口からはそんな言葉が漏れ出た。なぜなら……

 

「あああああーっ! ど、退いて下さい~っ!」

 

 なぜなら、ISを装着した山田先生がものすごい速度で突っ込んで来ていたのだから。それも、俺と一夏の立つ地点に向けて。

 ──って! こんな所でボーっとなんてしてられん!

 

「一夏! インカミング(来るぞ)ッ!」

「ウィル! 空から山田先生がッ!」

 

 ドカーンッ!!

 

 大急ぎでその場から退避しようとするが時すでに遅し。轟音と共に山田先生は落着し、俺達は数メートル吹っ飛ばされた。

 

「あっぶねぇ……! 【バスター・イーグル】の展開がギリギリ間に合って助かったぁ……!」

 

「びゃ、【白式】の展開が間に合わなかったらマジでヤバかったぜ……!」

 

 ムニュ

 

「「……うん?」」

 

 なんだこの掌に感じる感触は。ここの地面は硬質な砂はあれど、こんなマシュマロのように柔らかい物質は無かったはずなんだが……。

 

「あ、あのう、2人とも……ひゃんっ!」

 

 地面が喋った──は ず は 無 い。

 恐る恐る俺と一夏は自分の手の先に視線をやり……

 

「そ、その、ですね。困ります……こんな場所で……。いえ、場所だけじゃなくてですね! 私とあなた達は仮にも教師と生徒でですね!」

 

「「 」」

 

 絶句した。

 いつものサイズが合ってないような服ではまったく分からなかったのだが、今着ているのはISスーツ。それもかなり大きめに胸元が開いたもので、暴力的な胸の膨らみのその曲線を隠す事なく現している。

 さらに問題は俺達の体勢だ。さっき山田先生に吹っ飛ばされた時、なんらかの要因が重なって俺と一夏が彼女を押し倒したような状態になったらしい。しかも、しかもだ。俺達の手はそれぞれ山田先生の胸を鷲掴みしていたのだ。

 

「っ!!? すっ、すす、すみ、すみませんでしたぁ!!」

 

 ISを装着した状態のまま山田先生から飛び退いた俺は、ここ日本に古来より伝わる伝説の謝罪方『ド・ゲーザ』を高速で繰り出す。──本当に、本っっ当に失礼しました!

 

「…………」

 

「って、おい一夏! お前はいつまでそうしているつもりだ!? さっさと手を離せ!」

 

「ハッ!? お、俺は何を──ってうわぁ!?」

 

 いまだ山田先生の胸を掴んだままフリーズしている一夏の両脇(りょうわき)に腕を通して強引に引っ張った刹那、キュインッ! という音と共に一夏の頭があった場所を青いレーザー光が通過した。

 

「ホホホホホ……。残念です。外してしまいましたわぁ……」

 

 顔は笑っているのに、目が笑っていない。それどころか額にははっきりと血管が浮いているのが視認できる。蒼穹(そうきゅう)の狙撃手ことセシリア・オルコット(スーパー激おこモード)である。ひ、ひぃぃ、超こえぇ……。

 

「…………」

 

 ガシーンと何かが組み合わさる音が聞こえた。あれ? 確かこの音ってアレだよな? 鈴の武器の……えーっと……そうだ、『双天牙月(そうてんがげつ)』とかいう青龍刀を連結した音だ。アレって始めは2本に別れているんだが、それを組み合わせたら両刃状態になるっていう変わり物なんだよな。

 

「そんなに……!」

 

 しかもその状態だと投擲(とうてき)も可能なんだ。そうそう、ちょうどあんな感じで振りかぶって──振りかぶって!?

 

「そんなにデカイ胸が良いのかああぁぁぁ!!」

 

「うおおおっ!?」

 

「ちょっまっ──うわひぃぃ!?」

 

 ISを展開しているとはいえ容赦なく一夏の首を狙ってやがったぞ!? しかも俺は完全にとばっちりじゃねえか!

 間一髪。一夏はマトリックスばりに体を大きく仰け反らせ、俺は地面へ飛び込むようにして回避する。

 だがしかし、危機はまだ去っていなかった。投げた『双天牙月』はその形状からブーメランと同じくUターンして返って来るのである。……まずい。今からではかわせない。

 

「はっ!」

 

 ドンッ! ドンッ!

 

 短く2発、火薬銃の音が響く。弾丸は的確に『双天牙月』の両端を叩き、その軌道を変える。

 カランッカラランッと地面に薬莢(やっきょう)が跳ねる音を聞きながら、俺と一夏はピンチを救ってくれた射手に視線を向けるが、それはなんと山田先生だった。

 両手でしっかりとマウントしているのは51口径アサルトライフル『レッドバレット』。アメリカのクラウス社製実弾銃器で、その実用性と信頼性の高さから多くの国で制式採用されているメジャー・モデルである。

 しかし驚いたのは何より山田先生の姿で、倒れたままの体勢から上体だけをわずかに起こしての射撃であるにも関わらず、あの命中精度なのだ。雰囲気も、いつものバタバタした仔犬のようなものとはまったく違い、落ち着き払っている。

 

「「「…………」」」

 

 どうも驚いたのは俺だけでなく、同じくピンチを救われた一夏はもちろん、セシリアと鈴、果ては他の女子達も唖然としていた。

 

「山田先生はああ見えて元代表候補生だからな。今くらいの射撃は造作もない」

 

「む、昔の事ですよ。それに候補生止まりでしたし……」

 

 いつもの雰囲気に戻った山田先生は織斑先生の言葉に照れているらしく、頬を赤く染めながら立ち上がる。謙遜しているが、あの腕は間違いなく本物だ。という事は現役時代はもっとすごかった可能性も……? ほんと、人は見たかけによらないとはよく言ったものだな。

 

「さて小娘ども、いつまで()けている。さっさと始めるぞ」

 

「え? あの、2対1で……?」

 

「いや、さすがにそれは……」

 

「安心しろ。今のお前達なら勝てん。すぐ負ける」

 

 負ける、と言われたのが気に障ったらしく、セシリアと鈴は再びその瞳に闘志をたぎらせる。やはり代表候補生としてのプライドが許さなかったのだろう。

 

「では、始め!」

 

 号令と同時にセシリアと鈴が飛翔する。それを目で1度確認してから、山田先生も空中へと躍り出た。

 

「手加減はしませんわ!」

 

「さっきのは本気じゃなかったしね!」

 

「い、行きます!」

 

 言葉こそいつもの山田先生だったが、その目はさっきと同じく鋭く冷静なものへと変わっている。先制攻撃を仕掛けたのはセシリア&鈴組だったが、それはいとも容易く回避された。……すごい戦闘機動だ。

 

「さて、今の間に……そうだな。ちょうど良い。デュノア、山田先生が使っているISを解説してみせろ」

 

「あっ、はい」

 

 上空で繰り広げられる戦闘を見ながら、シャルルはしっかりとした声で説明を始めた。

 

「山田先生が使用されているISをデュノア社製【ラファール・リヴァイヴ】です。第2世代開発後期(こうき)の機体ですが、そのスペックは初期第3世代型にも劣らないもので、バランスの取れた性能と高い汎用性(はんようせい)、豊富な後付(あとづけ)武装が特徴です。現在配備されている量産型ISの中では最後発(さいこうはつ)でありながら世界第3位のシェアを持ち、7ヵ国でライセンス生産、12ヵ国で制式採用されています。特筆すべきはその操縦の簡易性で、それによって操縦者を選ばない事と、装備によって格闘・射撃・防御といった全タイプに対応可能な多様性役割切り替え(マルチロール・チェンジ)を両立しています」

 

「ああ、いったんそこまでで良い。……終わるぞ」

 

 シャルルの説明に耳を傾けながら眺めていた空。そこで行われていた戦いはもう終盤へと突入していた。

 セシリアと鈴が同時攻撃を仕掛けるも、山田先生はその全てを難なく回避する。逆にセシリアを射撃で誘導して鈴と衝突させたところでグレネードを投擲(とうてき)。爆発が起こって、煙の中から2つの影が地面に落下した。

 

「くっ、うう……。まさかこのわたくしが……」

 

「あ、アンタねえ……何面白いように回避先読まれてんのよ……」

 

「り、鈴さんこそ! 無駄にバカスカと『衝撃砲』を撃つからいけないのですわ!」

 

「こっちの台詞よ! なんですぐにビットを出すのよ! しかもエネルギー切れるの早いし!」

 

「ぐぐぐぐっ……!」

 

「ぎぎぎぎっ……!」

 

 なんと言うか、どっちの主張も的を射ているだけに尚更みっともなく感じる。

 結局2人のいがみ合いは1組2組の女子のクスクス笑いが起こるまで続いた。

 

「さて、これで諸君にもIS学園教員の実力は理解できただろう。以後は敬意を持って接するように」

 

 パンパンと手を叩いて織斑先生がみんなの意識を切り替える。今の言葉は、今朝の山田先生に対するクラスメイトの態度も含めてのものだろう。

 

「専用機持ちは織斑、ホーキンス、オルコット、(ファン)、デュノア、ボーデヴィッヒの6人だな。ではグループを作って実習を行う。各グループリーダーは専用機持ちがやること。いいな? では分かれろ」

 

 織斑先生が言い終わるや否や、俺と一夏、シャルルに一気に2クラス分の女子が詰め寄ってくる。

 

「織斑くん、一緒に頑張ろう!」

 

「ホーキンスくん、分かんないところ教えて~」

 

「デュノアくんの操縦技術を見たいなぁ」

 

「ね、ね、私も良いよね? 同じグループに入れて!」

 

 ……なんと言うか、予想を遥かに上回る繁盛ぶりで、俺も一夏もシャルルもどうして良いのか分からずただただ立ち尽くすだけ。つうかもっと散らばらないと、そのうち織斑先生にどやされるぞ?

 

「この馬鹿どもが……。出席番号順に1人ずつ各グループに入れ! 順番はさっき言った通り。次にもたつくようなら今日はISを背負ってグラウンド100周させるからな!」

 

 鶴の一声というやつだろうか。織斑先生の言葉にそれまでワラワラと集まっていた女子達は蜘蛛の子を散らすが如く移動して、それぞれの専用機持ちグループは2分と掛からずにできあがった。

 

「最初からそうしろ。馬鹿者どもが」

 

 ふうっと溜め息を漏らす織斑先生。それにバレないようにしながら、各班の女子達はボソボソとお喋りをしていた。

 

やったぁ。織斑くんと同じ班っ。苗字のおかげねっ

 

うー、セシリアかぁ……。さっきボロ負けしてたし。はぁ……

 

(ファン)さん、よろしくね。あとで織斑くんのお話聞かせてよっ

 

デュノアくん! 分からない事があったら何でも聞いてね! ちなみに私はフリーだよ!

 

ホーキンスくんだ、ラッキー! この苗字にしてくれたご先祖様ありがとう!

 

「…………………」

 

 ちなみに唯一お喋りが無いのが転校生の片割れラウラ・ボーデヴィッヒさんの班である。

 張り詰めた雰囲気。人とのコミュニケーションを拒むオーラ。生徒達への軽視を込めた冷たい眼差し。先ほどから1度も開くことの無い口。

 さしもの10代乙女(おとめ)もこれだけ難攻不落な鉄壁の要塞には話し掛けようが無いらしく、みんな少し俯き気味で押し黙っている。……あそこの班員がものすごく可哀想だ。

 

「…………」

 

 コミュニケーションもとらずにいったいどうやって実習をするつもりなんだ? などと考えながら眺めていると、班の女子達を見下していた視線が動き、やがてそれはギロリと俺の方を向いた。今朝のコトがコトだけに彼女の俺に対する印象は最悪らしい。

 

「(あー、成程。『なに見てやがるこの野郎』って意味だな。分かった分かった、分かったよ)」

 

 肩を竦める仕草をしてから、俺は視線をボーデヴィッヒさんの班から外す。

 

「ええと、良いですかーみなさん。これから訓練機を1班1機取りに来て下さい。数は【打鉄(うちがね)】が3機、【リヴァイヴ】が3機です。好きな方を班で決めて下さいね。あ、早い者勝ちですよー」

 

 山田先生がいつもの2倍──いや、4倍はしっかりしている。さっきの模擬戦で自信を取り戻したのだろうか。その姿たるや堂々としていて、あのサイズ違いの眼鏡さえ外せば『仕事のできるオンナ』に見えそうだった。

 しかしながら堂々としているのは態度だけではなく、そのボリューミーな胸の膨らみを惜し気もなく晒している。山田先生が時折見せる眼鏡を直すクセ。そのたびにたわわな胸部装甲(・・・・)に肘が触れ、プルンッと重たげに豊かな果実を揺らしていた。──って、いかんいかん! 集中しろホーキンス! これからISの実習なんだぞ!

 

 パンパンッ!

 

「ふぅ……! ぃよしっ!」

 

 自分の両頬を思い切り叩いて痛みで煩悩を追い出し、気合いを入れ直す。

 

「ホーキンスくん、何してるの?」

 

「いやなに、これからISを使った実習だからね。少し気合いを入れ直していたんだ──っと、そうだそうだ。君達は【打鉄】か【リヴァイヴ】どっちが良い?」

 

「うーん……ホーキンスくんのオススメで良いよ」

 

 オススメか……正直【リヴァイヴ】よりは【打鉄】の方がやりやすいなぁ。一夏の特訓の時に箒が使ってたし。

 

「オーケーだ。それならこっちで決めたやつを取ってくるよ」

 

 そう言って、俺はIS【打鉄】を取りに向かった。

 

 ▽

 

《各班長は訓練機の装着を手伝ってあげて下さい。全員にやってもらうので、設定でフィッティングとパーソナライズは切ってあります。取り敢えず午前中は動かすところまでやって下さいね》

 

 ISのオープン・チャネルで山田先生が連絡してくる。他人のIS装着を手伝うというのをした事は無いが、今の段階で意味が分からないという部分は無い。

 

「よし、それじゃあ出席番号順にISの装着と起動をして、そのあと歩行までやるとしよう。1番目は──」

 

「「「第一印象から決めてましたっ!」」」

 

 不意に背後から声が聞こえた。

 

「?」

 

 何事かと思って振り向くと、一夏班の女子が1列に並んでお辞儀をして頭を下げたまま右手を突き出しているのが見える。

 

「……ありゃいったい何をして──」

 

「ああっ、いいないいな~!」

 

「じゃあ私達も!」

 

 目の前の光景に困惑している俺の耳に、また女子の声が響いた。発生源は……俺の班から?

 

「「「ホーキンスくん!」」」

 

 名前を呼ばれて、視線を自分の班員へと戻す。

 

「……ワッツ……?」

 

 そこには、一夏班と同じように1列に並び、直角90度のお辞儀をして手を差し出してくる女子達がいた。

 

「(……これはアレか、何かの儀式なのか? そういう習わしなのか? 意図がまったくもって分からん)」

 

「「「お願いしますっ!」」」

 

 ……と、今度は左後方から同じような感じの声が。

 まさかと思って見てみると、シャルルが俺達と同じようにお辞儀&握手待ちの手を差し伸べられて困っていた。

 

「え、えっと……?」

 

 向こうも状況が飲み込めていないらしい。奇遇だな、俺もだ。たぶん一夏も同じだと思うぞ。

 

 スパァンッ!

 

「「「いったああっっ!」」」

 

 見事なハモり悲鳴だ。一列に並んでいるからさぞ叩きやすかっただろう。頭を押さえながら顔を上げたシャルル班の女子一同は、そこでようやく目の前の修羅に気付いた。

 

「やる気があって何よりだ。それならば私が直接見てやろう。最初は誰だ?」

 

「あ、いえ、その……」

 

「わ、私達はデュノアくんで良いかな~……なんて」

 

「せ、先生のお手を(わずら)わせるわけには……」

 

「なに、遠慮するな。将来有望な奴らには相応のレベルの訓練が必要だろう。……ああ、出席番号順で始めるか」

 

「「「 」」」

 

 成す術なくズルズルと引きずって行かれる女子達は皆一様に絶望的な顔をしていた。……強く生きろよ。諸君らの生還を心より祈る。

 

「……さて、そろそろ俺達も始めよう。でないと確実に彼女らのあとを追う事になるぞ?」

 

 シャルル班女子の惨状を見て、俺の言葉を聞いて、『次は私達かもしれない』と恐れたホーキンス班女子は流れるような動きで列を解散。今は1番目の女子――堀田(ほりた)さんがISの外部コンソールを開いてステータスを確認している。

 

「それじゃあ始めるとしよう。堀田さん、ISに何回かは搭乗したよな?」

 

「ええ。授業でだけだけど」

 

「いや、それなら十分だ。取り敢えず装着して起動までしてみようか。時間をオーバーすると居残りが待ってるしな」

 

「そ、それはまずいわね! よし、真面目にやるわよ!」

 

 おいおいおい、まるで今までが真面目じゃなかったみたいな発言だな。……まあ、その件は目を(つむ)ろう。

 というわけで1人目の装着、起動、歩行は問題なく進んで行く。――はずだったのだが、2人目の装着前にちょっとしたアクシデントが発生した。

 

「あ~~、やっちまったか……」

 

「え!? わ、私何かしちゃった?」

 

「ああ、これなんだがな。訓練用のISを解除する時は1度しゃがまないと、立ったままで固定されるんだよ」

 

「あ! あ~……」

 

 これが専用機なら話は違ってくるのだが、訓練機を使う場合はこの点には注意しないといけない。解除した時に立っていたら、当然機体は立ったまま停止する。おまけに操縦者がいない状態なので、何かしら起きてISが転倒でもしようものならコトだ。

 

「ふむ、どうしたものか……ん?」

 

 ふと、何の気なしに視線をやった先は一夏班。そこではどういうわけか、【白式】を展開した一夏が班員の女子を抱きかかえて訓練機(起立状態)へと運ぶ姿があった。……いや、ナイスなアイデアかもしれんがあれは無い。こちとら健全な男子なんだ。そう簡単に女子へのボディータッチをするわけにはいかない。何かあっても困るしな。

 

「どうしました?」

 

 おっと、山田先生の登場だ。ISは既に解除しているが、その服装は胸のラインを大きく開放したISスーツのままである。――というわけで、当然俺は視線のやり場に困ってやや横を向くしかなかった。

 

「はい、ISが立った状態で固定されてしまいまして……」

 

「あー、織斑くんの班でもありましたが、初心者の方がよくしてしまうミスですね。それじゃあ仕方ないのでホーキンスくんが乗せてあげて下さい」

 

「イエス・ミス。…………え?」

 

「えっ、それってもしかして……ラッキー!」

 

 俺はポカンと口を開けて固まり、2番目に控えていた女子――前本さんは小さくガッツポーズをしている。

 

「ホーキンスくん、【バスター・イーグル】を展開して、前本さんを抱っこして下さい」

 

「し、しかし……」

 

「でもそれが1番楽ですし。何より安全な手段ですから、ね?」

 

 確かに先生の言う事は正論だ。ISは飛ぶ事ができるので、コックピットまで安全に人を運ぶのに適している。

 

「ぬぅ……イエス・ミス」

 

 俺は山田先生に言われた通りISを展開し、地面に片膝をついてしゃがむ。

 

「さっ、乗ってくれ」

 

「う、うん」

 

 前本さんを抱きかかえ、俺はゆっくり上昇する。上昇といっても高さは1メートル弱なので、大した高度ではない。

 ただしISというのは、基本すでに展開状態のものを装着する場合、背中から乗り込むようにして体を預けるので、1メートル弱とはいえ危ないといえば危ないのだ。

 

「じゃあ、背中からゆっくりと入ってくれ。そうそう、その調子だ。あ、腕を動かす時は気を付けてくれ。うっかり【イーグル】のノーズに手をぶつけたら痛いぞ?」

 

「だ、大丈夫」

 

 やはり、男子に触られているのが気になるのだろうか。それとも眼前のシャークマウスが気になるのか。とにかく、前本さんは酷く落ち着かなそうに視線をさまよわせている。

 

「じゃっ、離すぞ?」

 

「え!? え、ええと……」

 

「? どした?」

 

「い、いや、その、もう少しこのままでも……

 

「……? ああ、スマン。まだ装着できてなかったのか。別に焦らなくて良いぞ」

 

 そんなやり取りをしていると、周囲の班員から声が上がった。

 

「あああっ! な、何してるのよ!」

 

「ズールーイー! 私もされたい!」

 

「くっ、出席番号がもう少し若ければ……! この苗字にしたご先祖様を恨むわ!」

 

 こらこら、先祖はちゃんと敬いなさい。て言うか君、さっきはご先祖様ありがとうとか言ってなかったか?

 

「も、もう大丈夫。だからホーキンスくんは戻って。このままだと私あとで何されるか分からないし……」

 

「オーケー。それじゃあ1度下がるからな?」

 

 そう言って、俺は前本さんから5~6歩ほど距離を取る。

 

「よし、まずはISを起動してくれ」

 

 俺に促されて起動シークエンスを始める。開いたままだった装甲が閉じて操縦者をロックすると、静かに起動音を響かせながら【打鉄】が姿勢を直した。

 

 

 

 

 

 

「……少し質問しても良いかな?」

 

「「「?」」」

 

 あれから実習は(とどこお)りなく進んで行った。行ったのだが、これだけはどうしても言っておきたい。

 

「なんでみんなしてISを立たせたまま解除するんだ? 1回目はまあ仕方ないとして、さすがに2回、3回と続くと故意にやってるようにしか見えんぞ?」

 

 そう、1人目以降に続く女子達は皆一様にISを立たせたまま装着を解除しているのだ。

 

「何か釈明(しゃくめい)があるのなら聞こうか2番目 前本さん、3番目 向井さん、4番目 村田さん?」

 

「い、いやぁ、そのぉ……」

 

「なんて言うか……」

 

「他の女子の視線が強制力を持ってて……」

 

「な、何だって? 強制力?」

 

「ゴホンゴホン! ……こっちの話」

 

 ちなみに他の女子というのはもちろん同じ班の女子の事で、その視線は猛烈に『自分達だけおいしい思いして良いと思ってるの?』と投げ掛けていた。いやはや実に恐ろしい。

 

「まったく。これ以上モタついたら織斑先生にどやされるかもしれんぞ? 理由を知られたらグラウンド20周は軽いだろうな。みんなで仲良く走るか?」

 

 そんな俺の脅し文句はかなり効果があったようで、ひぃっと班員達から小さく息を飲む声が聞こえてくる。正直俺もグラウンド周回なんてごめんだ。

 

「嫌ならここからはテキパキと進むように。いいな? よし、なら再開しよう」

 

「「「い、イエッサー」」」

 

 うむ。良い返事だ。みんな素直にこちらの指示を聞いてくれるから助かるよ。

 こうして、以降ISをしゃがんで解除するようになったホーキンス班は装着、起動、歩行をトントン拍子に進めて行くのであった。

 

 

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