インフィニット・ストラトス 蒼空に鮫は舞う   作:Su-57 アクーラ機

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16話 ランチタイムは命懸け?

「では午前の実習はここまでだ。午後は今日使った訓練機の整備を行うので、各人(かくじん)格納庫で班別に集合すること。専用機持ちは訓練機と自機の両方を見るように。では解散!」

 

 時間ギリギリではあるが、なんとか全員が起動テストを終えた俺達1組2組合同班は、格納庫にISを移してから再びグラウンドへ。授業終わりまであと数分だったので全員が全力疾走。ここでまた遅れれば織斑先生から楽しい楽しい追加実習をプレゼントされる事だろう。

 そんなこんなで肩で息をしている俺達に、織斑先生は連絡事項を伝えると山田先生と一緒にさっさと引き上げてしまった。

 

「ウィル、シャルル、着替えに行こうぜ」

 

「ああ、そうだな。俺達はまたアリーナの更衣室まで行かないといけないしな」

 

「え、ええっと……僕はちょっと機体の微調整をしてから行くから、先に行って着替えててよ。時間掛かるかもしれないから、待ってなくて良いからね」

 

「そうか? なら一夏、俺達だけでさっさと着替えてメシを食いに行こう。腹の虫がさっきから鳴りっぱなしだ」

 

「いや、それならウィルは先行っててくれ。俺は待つの平気だし、それに誰かついてないとシャルルが迷子になるかもしれねえだろ?」

 

「それもそうだな。いやぁ、スマン。シャルル、俺達の事は気にしなくていいから、その用事を済ませて――」

 

「い、いいからいいから! 僕が平気じゃないから! ね? 2人とも先に教室戻っててね?」

 

「お、おう。分かった。って事で一夏、早く着替えに行くぞ。汗が冷えたら風邪ひいちまう」

 

「だな。それじゃあ先行ってるぞ、シャルル」

 

 妙な気迫に押されて、俺達は言われた通り更衣室をあとにする。しかし、あいつはなぜそこまで必死なんだ? 実習前の着替え中も同じ感じだったし…………人には言えない、もしくは見せたくない何かでもあるのだろうか。

 

 ▽

 

「……どういう事だ」

 

「ん?」

 

 昼休み、俺達はIS学園屋上にいた。

 一夏が言うには、普通、高校の屋上は生徒の安全等を理由に立ち入りが禁止されているらしいのだが、ここIS学園ではそんな事は一切無かった。美しく配置された花壇には季節の花々が咲き誇り、欧州を思わせる石畳が落ち着いた雰囲気を醸し出している。それぞれ円テーブルには椅子が用意されていて、晴れた日の昼休みともなれば女子達で賑わう。

 今日はみんなシャルル目当てで学食に向かったのだろう、屋上には俺達以外誰もいなかった。

 

「天気が良いから屋上で食べるって話だっただろ?」

 

「そうではなくてだな……!」

 

 チラッと箒がこちらに視線をやる。そこにいるのは俺を始めとしてセシリア、鈴、シャルルの4人だ。そして、今箒の向かい側に座って「?」とした表情を浮かべているのは一夏。いつものメンバーが勢揃いである。

 

「え、ええっと……。ねえ一夏、本当に僕が同席して良いのかな?」

 

「シャルルに同じく。俺もここにいて良かったのか?」

 

 さかのぼる事、着替えの真っ最中。一夏に『一緒にメシ食おうぜ』と誘われた俺は学食で握り飯を購入して、予め指定されていた屋上へと足を運んだのだが……一夏、もう少し詳細な情報をくれよ。誰々がいる~とか。

 ちなみにシャルルだが、1組にいたところを一夏が発見して誘ったらしい。

 

「何言ってんだよ。せっかくの昼飯だし、みんなで食った方が美味いだろ。それにシャルルは転校してきたばっかりで右も左も分からないだろうし」

 

「そ、それはそうだが……」

 

 ぐぬぬ……と何かを言いたげにしながら持ち上げた拳を握り締める箒。その手には包みにくるんだ、十中八九手作りであろう弁当が握られていた。

 IS学園は全寮制なので、弁当持参にしたい生徒のために早朝のキッチンが使えるようになっている。1度どんなものかと思って一夏と一緒に覗いてみたんだが、プロが使っているような器具ばかりで唖然としたのを覚えている。さすがは国家直轄の特別指定校、使われている金のケタが違う。

 

「まっ、これからシャルルとはルームメイトなわけだし、何か分からない事とかあったら遠慮無く頼ってくれ」

 

「ありがとう。一夏って優しいね」

 

「っ!?」

 

 無防備な笑顔を浮かべるシャルルに言われ、一夏の顔が少し赤くなる。まあ無理も無いだろう。近くにいるだけの俺だって、相手が男だと分かっていても少しドキッとしてしまった。

 

「なーに照れてんのよ」

 

 そう言って一夏にジト目を送りながらタッパーの蓋を開ける鈴。

 

「べ、別に照れてねえよ……って、おお、酢豚だ!」

 

 容器の中を覗いた一夏の口からは喜色に満ちた声が上がった。なに、酢豚だと? ちょっと俺にも見せてくれ。……おお、こいつは確かに美味そうだ。それに漂うほのかな香りが食指をくすぐって……ゴクリ。

 

「そ。今朝作ったのよ。アンタ前に食べたいって言ってたでしょ」

 

「コホンコホン。――一夏さん、わたくしも今朝はたまたま偶然何の因果か早く目が覚めまして、こういうものを用意してみましたの。よろしければどうぞ」

 

 バスケットを開くセシリア。そこにはサンドイッチがきれいに並んでいた。偶然早起きして作ったと言ってはいるが、見た目かなり手が込んでいるな。

 

「イギリスにも美味しいものがある事を納得して頂けませんとね」

 

「へぇ、確かに言うだけあるな。それじゃあこっちから」

 

 そう言って一夏はサンドイッチを手に取って一口かじる。

 

「よろしければウィリアムさんも」

 

「ああ、ありがとう。それじゃあ頂くよ」

 

 差し出されたバスケットの中からサンドイッチを1つ取り出し、それを口に運んで咀嚼――

 

「うぐっ!?」

 

 な、何だこれは!? 何なんだこれは……!!?

 見た目は普通のBLTサンド。なのに味は劇物じみたものだった。なんと表現すれば良いのか分からないが、とんでも無く個性的な味とだけ言っておく。

 横を見ると、同じくセシリアのサンドイッチを食べていた一夏が顔を真っ青にして硬直していた。

 

「いかが? どんどん召し上がって下さって構いませんのよ?」

 

 と、セシリアは笑顔でバスケットを差し出してくる。ま、まだたくさん残ってらっしゃいますね……。

 

「い、いや、俺はもう満足――」

 

「そ、そう言えばウィル。お前さっき腹減ったって言ってたよなっ。おにぎりだけじゃ足りないだろっ? お、俺はあんまし腹減ってないからさ、せっかくだから貰っとけよっ!」

 

「 」

 

 バカやろぉ、いぃちかぁ!! 誰を売って(・・・)るぅ!! ふざけるなぁぁぁ!!

 

「あら、そうでしたの? でしたら遠慮無く召し上がって下さいな」

 

「あ、ありがとう……」

 

 さすがにこの状況で断るのもなぁ……。かと言って、開き直って不味いからいらないとも言えないし……。

 

「(おのれ一夏ェ……!! テメェ覚えとけよ、この野郎……!!)」

 

 無言で一夏に恨みの籠った視線を向けると、「スマンッ!」と目で謝られた。

 

「どうかなさいましたか?」

 

「い、いや、何でも無いぞ」

 

「?」

 

 やむを得ん。こうなったらもうやってやる! やってやるぞ畜生!

 

「ふぅ……ウォーバード・ワン、エンゲージ(いただきます)!」

 

 耐えてくれよ、俺の胃!

 心を無にしてバクバクとひたすらサンドイッチを食べ続ける。

 

「……! ~~~!?」

 

 くぅ……口の中が甘かったり辛かったり酸っぱかったりでもう滅茶苦茶だ。いったい何を入れたんだ!?

 溢れてくる涙で視界が若干ボヤけてくる。

 

 ――ウォーバード・ワンへ。撤退(おのこし)は許可できない、迎撃(完食)せよ。

 ――だろうな。胃薬上乗せだ!

 

 ただの昼飯なのに、気分はまるで敵機と空戦をしているような感覚だ。

 途中、ふと一夏の方に視線をやると、箒の口に箸で唐揚げを運んでいるのが目に入った。それを箒は顔を赤くしながらパクリと食べ、そしてその光景を横目に俺はまたサンドイッチを頬張る。

 

「ふぅ……ふぅ……」

 

 よ、よし、なんとか半分までは来れたぞ……。俺の戦いはこれからだ!

 

 ……

 ………

 …………

 

 ▽

 

「……BLTサンドの具が何色かっての、あんたには大事な事かい?」

 

「「「?」」」

 

 さっきまで無言でセシリアのサンドイッチを爆食(ばくぐ)いしていたウィリアムが不意に口を開き、一夏達は(いぶか)しげな表情で彼に視線をやる。

 

「うぃ、ウィル? 大丈夫か……?」

 

「俺にとっちゃ、間違いなくそうなんだ」

 

 焦点の合わないボーっとした表情のまま、一夏の問いに答える事も無く、まるでうわ言のように呟くウィリアム。その右手にはサンドイッチが掴まれていた。

 

「心に目指すBLTサンドの具の色。俺のは……」

 

 そう言ってパクリと最後のサンドイッチを完食したウィリアムは……

 

「ダークブルーだ」

 

 蒼天を仰ぎ見るようにして、バタッと引っくり返って動かなくなった。

 ウィリアム・ホーキンス、敵機(サンドイッチ)多数と交戦し、その全てを撃破(完食)するも蓄積していたダメージによってダウン。

 

「ウィル? ウィル!? ダメだ失神してる! ウィル起きろ! 目を覚ませぇぇぇ!!」

 

 完全に伸びてしまったウィリアムの頬を平手打ちして起こそうとする一夏の行動も虚しく、ただただ彼の頬に赤い痕がつくだけだ。アレの爆食いは、それほどまでに強烈だったらしい。

 

「あら、気を失うほど美味しかったのかしら? 一夏さん、また今度作って来ますので楽しみに待っていて下さいな」

 

「ひ、ひぃぃ!?」

 

 ニッコリ笑顔を浮かべるセシリアの発言に一夏は恐怖して後退りする。更にその近くにいた箒、鈴、シャルルの3人も気絶したウィリアムと青い顔をして震える一夏、あのサンドイッチを作った本人であるセシリアを交互に見て身震いしていた。

 

 この数分後、一夏が箒の弁当から焼き塩鮭(しおじゃけ)を半切れ譲渡してもらい、それをウィリアムの口に押し込む事によって無事蘇生に成功。『巨大な川の対岸で見知らぬ老人が手を振っていたんだが、あれ何だったんだ……?』とは彼の談である。

 

 




 ーおまけー

 夕食後、ウィリアム・ホーキンス自室にて。

「………………は、腹が痛い、胃薬を――」

 グギュルルル……

「ッ!!?」

 どうやら、彼は長い夜を過ごす事になりそうだ。

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