インフィニット・ストラトス 蒼空に鮫は舞う 作:Su-57 アクーラ機
「だからこう、ズバーっとやってから、ガキンッ! ドカンッ! という感じだ」
「なんとなくわかるでしょ? 感覚よ感覚。……はあ!? なんで分かんないのよ、このバカ!」
「防御の時は右半身を斜め上前方へ5度傾けて、回避の時は後方へ20度反転ですわ!」
シャルルとボーデヴィッヒさんが転校してきてから5日経ち、今日は土曜日。
休日とはいえ、全開放されたアリーナは多くの生徒が実習に使う。それは俺達も同じで、今日もこうして一夏にIS戦闘に関するレクチャーを行っていたのだが……。
「率直に言わせてもらう……。全っ然分からん!」
現在、難航中であった。
「なぜ分からん!?」
「ちゃんと話聞きなさいよ、ちゃんと!」
「もう1度説明して差し上げますわ!」
いやぁ、逆にこれを一夏に理解しろってのがなかなか無茶ぶりだと思うんだがなぁ……。
「んな事言われたって……じゃあウィルに聞いてみようぜ。ウィル、今の説明分かるか?」
そう言って俺に意見を求めてくる一夏の表情は困り顔100%だ。
「うーん……正直難解を極めると思うぞ」
「なぜだ!?」
「なんでよ!?」
「なぜですの!?」
「まず箒は擬音だらけで聞いてる方からすればクエスチョンマークのオンパレードだ。鈴は……まあ感覚ってのは大事だが、そもそも一夏はその感覚自体があやふやなんだぞ? そしてセシリアはあまりに細かすぎる。一夏にそんな事言って分かると思うか? それとも
「「「ぐぅ……」」」
これぞ、ぐうの音もでないってやつか? いや、ぐぅって言ってるからぐうの音は出てるか。
そんなアホな事を考えていると、ISのオープン・チャネルから知った声が響いた。
「一夏、ウィル」
「おっ、シャルルか。用事は済んだのか?」
「うん。ごめんね遅くなっちゃって」
「なに、言うほど経っちゃいないさ。……そうだシャルル、一夏と軽く模擬戦をしてやってくれないか? 相手を変えてみたら何か新しい発見があるかもしれん」
「分かったよ。それじゃあ一夏、始めよっか」
「おう。と言うわけで、またあとでな」
そう言って、一夏はシャルルと共にフィールド中央へと向かって行った。
「ええとね、一夏がオルコットさんや
「そ、そうなのか? 一応分かっているつもりだったんだが……」
模擬戦の結果は一夏の負けで終わった。そして、そこではっきりした事がある。それは先程シャルルが言っていたように、一夏は射撃武器に対する知識が浅いというものだ。
「うーん、知識として知っているだけって感じかな。さっき僕と戦った時もほとんど間合いを詰められなかったよね?」
「うっ……確かに。『
「一夏の場合は近接格闘オンリーだから、より深く射撃武器の特性を把握しないと対戦じゃ勝てないよ。特に一夏の『瞬時加速』って直線的だから、反応できなくても軌道予測で攻撃できちゃうからね」
「直線的か……うーん」
「あ、でも『瞬時加速』はあんまり無理に軌道を変えない方が良いよ。空気抵抗とか圧力の関係で機体に負荷が掛かると、最悪の場合骨折したりするからね」
「……成程」
シャルルの言葉をしっかりと聞きながら、話のたびに頷く一夏。
「そう言えば、一夏の【白式】って
「ああ。何回か調べてもらったんだけど、
「多分だけど、それってワンオフ・アビリティーの方に容量を使っているからだよ」
「ワンオフ・アビリティーっていうと、確かISと操縦者の相性が最高状態になった時に発生する能力……だったっけか?」
こういう言葉がちゃんと頭に浮かんでくるあたり、一夏がきちんと日々の勉学に取り組んでいる証拠だろう。
「うん。それで合ってるよ。ワンオフ・アビリティーはその言葉通り、
「ははあ。お前の説明って分かりやすいな。頭にすんなり入ってくるぜ」
同じ男であり、かつ物腰穏やかというのが後押ししているのか、一夏は水をよく吸うスポンジのように知識を吸収していた。
「ふん。私のアドバイスは聞かないくせに……」
「あんなに分かりやすく教えてやってるのに、なによ」
「わたくしの理路整然とした説明の何が不満だというのかしら」
物陰に隠れて一夏にジトーっと視線を送る箒、鈴、セシリアの3人が、そうボソリと文句を垂れる。
「それはさっきも言ったようにお前達の説明にクセがありすぎるからだ。……て言うか、なんで俺まで?」
なぜか俺までとばっちりを受けて半強制的に物陰に隠れる事になったんだが、そろそろ出て行っても良いだろうか。
「ウィリアム、お前はあれを見てどう思う?」
「どう思うって……第3者の俺からでも分かりやすい説明だと思うぞ」
「そ、そういう意味ではなくてだな――」
箒の言葉は、鈴の悲鳴のような声によって遮られた。
「ちょ、ちょっと! あの2人、仲良いなんてレベルじゃないんじゃない!?」
顔を赤くして一夏とシャルルのいる方を指差す鈴。その指先には、ちょうど射撃の訓練を始めた一夏を補助するためかシャルルが後ろから密着するような態勢で姿勢を支える光景があった。
どうやら射撃武器の特性を掴むのなら、実際に自分が撃ってみようという考えらしい。
「ま、ままま、まさか! このままではいずれ一夏さんとデュノアさんが――」
「待て、そこから先は言わんで良い。あのなあ……まさか一夏がシャルルと恋仲になると本気で思ってるのか?」
まったく。色々飛ばしていきなりその発想にたどり着いた事に驚きだよ。……まさか、俺と一夏を見て『おり×ホキ』だの『薄い本が厚くなる』だのとぬかしてた連中から何か吹き込まれたんじゃないだろうな?
「シャルルが女子でもない限りその線は薄いから安心しろ。というわけで俺も向こうに行かせてもらうぞ」
物陰から立ち上がった俺は【バスター・イーグル】を展開して一夏達の元へ向かう。
「よう。お疲れさん」
「ん? ウィルか。今までどこ行ってたんだ?」
「ああ、まあちょっとな」
一夏の問いに言葉を濁しながら、さっきまで隠れていた物陰の方に流し目を送る。
「? よく分かんねえけど、そっちもお疲れさん」
「そいつはどうも。それで一夏、実際に撃ってみてどうだったんだ?」
「そうだな……取り敢えず『速い』っていう感想だ」
「そう。今一夏が言ったように速いんだよ。一夏の『瞬時加速』も速いけど、弾丸はその面積が小さい分より速い。だから、軌道予測さえ合っていれば簡単に命中させられるし、外れても牽制になるんだ」
「それに、弾丸は所詮ただの鉄と鉛の塊だ。つまり、
「そう言う事か……」
「そう言う事だ」
腕を組んで、俺とシャルルの言葉をよく噛み締めるように深く頷く一夏。格闘メインの箒ならともかく、射撃武器を操る鈴とセシリアと戦う時にはほぼ一方的な展開になる事もあるということだ。
「だからそうだと私が何回説明したと……!」
「って、それすら分かってなかったわけ? はあ、ほんとにバカね」
「わたくしはてっきり分かった上であんな無茶な戦い方をしているものと思っていましたわ」
……物陰の方から呆れた声がするんだが……だがこれだけは言わせてくれ。あの説明はさすがに無いと思うぞ。
「じゃあこのまま続けよっか。装填するから少し待っててね」
シャルルは一夏から55口径アサルトライフル『ヴェント』を受け取り、新たな弾倉の取り付け作業に入る。
「……そう言えば、シャルルのISって【リヴァイヴ】なんだよな?」
「うん、そうだよ。はい、一夏」
「おう、サンキュ。で、そのISだけど、山田先生が操縦していたのとだいぶ違うように見えるんだが、本当に同じ機体なのか?」
「ああ、そいつは俺も気になってたんだ。もしかしてかなり手の込んだカスタムをしているのか?」
「ウィルが言ったので正解だよ。この子の正式な名前は【ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ】。
「倍!? そりゃまたすごいな……。【白式】にちょっと分けて欲しいくらいだ」
「お前さんのは、もう拡張領域の余剰がゼロだもんな」
「あはは。あげられたら良いんだけどね。そんなカスタム機だから今
「ワーオ。ちょっとした火薬庫だな」
いや、ちょっとしたでは済まないか。誇張でも何でもなく主力戦車数十両以上の火力を有しているわけだ。
もしこれをガトリング中将が知ったら、絶対「同志デュノアくぅん」とか言い出しそうだな。
「でも確か、ウィルのISもかなり重装備ができるんだったよな?」
「ああ、まあな。拡張領域も十分広いが機外搭載量の多さがこいつの強みの1つだ。合計8つのハードポイントがあるおかげで多様な兵装を即応させられる。推力がケタ違いだから、もちろんフル装備の状態でも余裕で飛び回れるぞ」
そう言って
そう、【バスター・イーグル】はその気になれば、このように全ハードポイントに兵装を装備して重装攻撃機のようにもなれるのだ。これに加えて右腕には30ミリ機関砲『ブッシュマスター』が固定装備。しかも拡張領域にはまだ予備の弾が残っている。
ちなみに余談だが、『ブラックマンバ』はハードポイントから取り外して使う事も一応できる。できるのだが、そもそも利点が無い。ISを装着した状態で『ランボーごっこ』をしたいのなら話は別だが。
「な? これなら腕が塞がっていたとしても、いちいち持ち変えずにすぐさま大火力を発揮できるってわけだ」
まあ、『ブラックマンバ』や『ハイドラ』に関しては機体ごと相手に向けて照準を合わせないといけないという難点もあるが……。
「ねえ、ちょっとアレ……」
「ウソっ、ドイツの第3世代型だ」
「まだ本国でトライアル段階だって聞いたけど……」
自慢気に
「……………」
そこにいたのはもう1人の転校生、ドイツ代表候補生ラウラ・ボーデヴィッヒだった。
転校初日以来、クラスの誰ともつるもうとしない、どころか会話さえしない孤高の女子。もちろんだが俺も一夏も話した事は無い。そもそも一夏はいきなり平手打ちされそうになっていたし、俺はそれを邪魔した挙げ句に喧嘩を売るような真似までしているのだから。
「おい、織斑 一夏」
ISのオープン・チャネルで声が響く。初対面があれだったのだから、その声は忘れもしない。間違いなく彼女自身の声だ。
「……なんだよ」
話し掛けられた以上無視するわけにもいかず、一夏が気が進まなそうな声でそれに答えると、ボーデヴィッヒさんは言葉を続けた。
「貴様も専用機持ちだそうだな。ならば話が早い。私と戦え」
おいおいおい、随分いきなりな申し出だな。どうやらよほど好戦的な性格のようだ。
「嫌だ。理由がねえよ」
「貴様には無くても私にはある」
やはり、一夏とボーデヴィッヒさんとの間には何かがあるらしい。しかしそれはなんだ? 恨みか? それとも別の何かか? まったくもって検討がつかん……。
「貴様がいなければ教官が大会2連覇の偉業をなし得ただろう事は容易に想像できる。だから、私は貴様を――貴様の存在を認めない」
……少し整理しよう。まずボーデヴィッヒさんは織斑先生を『教官』と呼び、以前から面識があるようだった。つまり、彼女は先生の元教え子か何かという事になる。
そして、『大会2連覇』というワード……確かモンド・グロッソとか言ったか? 正直俺はあまり興味が無かったんでテレビは見ていなかったのだが、ある噂を小耳に挟んだ覚えならある。『織斑 千冬、決勝戦を急遽棄権』だったはずだ。だがそれが一夏に敵意を向ける理由とどう繋がるんだ?
「また今度な」
「ふん。ならば――戦わざるを得ないようにしてやる!」
言うが早いか、ボーデヴィッヒさんはその漆黒のISを戦闘状態へとシフトさせる。刹那、右肩に装備された大型実弾砲が火を噴いた。
ゴガギィンッ!!
「……こんな密集空間でいきなり戦闘を始めようとするなんて、ドイツの人は随分沸点が低いんだね。ビールだけでなく頭もホットなのかな?」
「貴様……」
横合いから割り込んだシャルルがシールドで実弾を弾き、同時に右腕に61口径アサルトカノン『ガルム』を一瞬で展開してボーデヴィッヒさんに向ける。
危機一髪とはまさにこの事だ。周りには一夏の他にも多数の生徒がいた。それに、そもそも一夏は『戦わない』とはっきり断ったはずだ。にも拘わらず、なんの
「(周りにいた生徒もお構い無しに発砲だと……? まるで
――ふざけやがって。
俺の頭の中で、沸々と血が煮え始める。
「おい、ボーデヴィッヒ」
自分の口からこんな声が出るのかと驚くほど低い声を放ちながら、俺はボーデヴィッヒの付近の空いたスペースに着陸し、『ブッシュマスター』と『ブラックマンバ』、『ハイドラ』を彼女に向ける。すると、当然ながら相手も右肩の実弾砲を俺に向けてきた。
「ウィリアム・ホーキンス。世界で2人目の男のIS操縦者であり、現在アメリカ空軍に所属。階級は少尉……」
「ほう? わざわざ調べたのか。勉強熱心な事だな」
「ふん。世界で2人目がどの程度の奴か気になっただけだ。だが、所詮私の前では
「ああ、そうかい。じゃあその有象無象に過ぎない奴からの質問だ。今の砲撃、周りの被害は考えなかったのか? それとも……頭 の 中 に ジ ャ ガ イ モ が 詰 ま って 、 思 考 回 路 が 動 作 不 良 で も 起 こ し て る の か ?」
「なんだと貴様……」
ピクッとボーデヴィッヒの眉間にしわが寄る。どうやら言われて頭にキたらしい。
互いが互いに砲を突き付けたまま、俺とボーデヴィッヒは睨み合う。
『そこの生徒! 何をやっている! 学年とクラス、出席番号を言え!』
突然アリーナのスピーカーから怒声が響いた。恐らく騒ぎを聞きつけてやって来た教師だろう。
「……ふん。今日は引こう」
「……………」
横槍を入れられて興が削がれたのか、ISの戦闘態勢を解除したボーデヴィッヒは俺の横を通ってアリーナゲートへと戻って行く。
「……スゥーーー……フゥーーー……」
俺も温度の上がりすぎた頭を冷やすため大きく深呼吸をしてから、一夏達の元へ戻って行った。