インフィニット・ストラトス 蒼空に鮫は舞う   作:Su-57 アクーラ機

22 / 73
20話 学年別トーナメント VSラウラ&箒ペア

 6月も最終週に入り、IS学園は月曜から学年別トーナメント一色に変わる。その慌ただしさは予想よりも遥かにすごく、今こうして第1回戦が始まる直前まで、全生徒が雑務やら会場の整理、来賓(らいひん)の誘導を行っていた。

 それからやっと解放された生徒達は各アリーナの更衣室へと走る。ちなみに男子勢は例によってこのだだっ広い更衣室を3人占めである。気前の良い事だ。恐らく、反対側の更衣室では本来の倍の女子生徒が押し寄せて、大変な事になっているだろうがな。

 

「しかし、すごいなこりゃ……」

 

 一夏が更衣室のモニターから観客席の様子を見る。つられて俺も視線をやると、そこには各国政府関係者、研究所員、企業エージェント、その他諸々の顔ぶれが一堂に会していた。

 

「3年にはスカウト、2年には1年間の成果の確認にそれぞれ人が来ているからね。1年には今のところ関係ないみたいだけど、それでも上位入賞者にはさっそくチェックが入ると思うよ」

 

「ふーん、ご苦労なことだ」

 

「成程な。道理でお偉方の姿をよく見掛けるわけだ。俺もついさっきジョーンズ中尉にあったよ」

 

 あの人も大変だなぁと言いながら、俺はモニターから視線を外してISスーツの耐Gベストに腕を通す。

 正直そこまで深い興味があったわけでもなく話もそこそこに聞いていたのだが、シャルルには俺達の頭の中が透けて見えるらしい。クスッと笑われてしまった。

 

「一夏とウィルはボーデヴィッヒさんとの対戦だけが気になるみたいだね」

 

「そりゃあ……なあ?」

 

「まあ、な」

 

「感情的にならないでね。彼女は、恐らく1年の中では現時点で最強だと思う」

 

 そうシャルルに言われたところで、俺は自分の表情が無意識に強張っている事に気付いた。そうだな。感情的になってしまったらそこまでだ。

 

「ああ、分かってる」

 

「その忠告、肝に(めい)じておくよ。……さて、こっちの着替えは終わったぞ。一夏はどうだ?」

 

「俺も今終わったところだ」

 

 お互いにISスーツへの着替えは済ませた。俺は耐G装備の固定具合を確認。一夏はIS装着前の最終チェックをそれぞれ終えた。

 

「俺達は1年の部、Aブロック1回戦の1組目。つまり、初っぱな中の初っぱなだ。気合い入れとけよ?」

 

「言われなくても十分だ。こういうのは勢いが肝心だからな。ウィルこそ大丈夫か?」

 

「ノープロブレムだ。ロックンロール(大暴れ)といこうぜ」

 

「おう」

 

 不敵な笑みを浮かべながら、俺と一夏は互いの拳を軽く当てる。

 

「あ、対戦相手が決まったみたいだよ」

 

 モニターがトーナメント表へと切り替わり、俺と一夏も画面に表示される文字を食い入るように見つめた。

 

「「「――え?」」」

 

 出てきた文字を見て、俺と一夏とシャルルの3人は同時にポカンとして声を上げた。

 1回戦の対戦相手はボーデヴィッヒ、そして箒のペアだったのだ。

 

 

 

 

 

 

「1戦目で当たるとはな。待つ手間が省けたというものだ」

 

「初めて気が合ったな、俺も同感だよ。この前の決着がまだついてない」

 

「ふん。私も貴様を今すぐ()としてやりたいところだが……」

 

 そう言って、ボーデヴィッヒは一夏に鋭い視線を向ける。試合開始まであと15秒。

 

「まずは織斑 一夏、貴様からだ」

 

「そう簡単にやられるつもりは無いぞ」

 

 試合開始まで5秒。4、3、2、1――開始。

 

「「叩きのめす!」」

 

 一夏とボーデヴィッヒの言葉は()しくも同じだった。

 試合開始と同時に俺は上昇して高度を取り、一夏は瞬時加速(イグニッション・ブースト)でボーデヴィッヒに突撃する。

 

「おおおっ!」

 

「ふん……」

 

 しかし、案の定一夏の体は腕を始めに、胴、足と順番に捕まえられる。

 AIC――アクティブ・イナーシャル・キャンセラー。それがあの魔法(・・)の正体だそうだ。ボーデヴィッヒの専用機【シュヴァルツェア・レーゲン】の第3世代型兵器であるそれは、物体の慣性を停止させるというものらしい。セシリアと鈴から説明された時は心底驚いたものだ。

 

「開幕直後の先制攻撃か。分かりやすいな」

 

「……そりゃどうも。以心伝心で何よりだ」

 

「ならば私が次にどうするかも分かるだろう」

 

 ガギンッ! と巨大なリボルバーが回転し、一夏に向けて砲身が旋回する。

 

 ――僚機【白式】が敵機にロックオンされています――

 

【バスター・イーグル】のハイパーセンサーが警告を発する。まあ、そう慌てるなよ相棒。別に一夏を放置してるわけじゃないさ。

 

「どうするか当ててやろうか、ボーデヴィッヒ。お前が次にするのは回避行動だ」

 

 言って、俺は一夏の頭上をジェットの轟音と共に通過する。同時に40ミリオートキャノン『ブラックマンバ』による炸裂弾(さくれつだん)の雨をボーデヴィッヒに浴びせた。

 

「チッ……!」

 

 数発が命中し、ボーデヴィッヒは急後退して間合いを取る。

 

「逃がさん!」

 

 垂直飛行モードの機体を巧みに操りながら、俺は逃げるボーデヴィッヒに対して8連装無誘導ロケット弾『ハイドラ』による追撃を行う。

 

「――私を忘れてもらっては困る」

 

 ボーデヴィッヒへの追撃を遮るように【打鉄】を纏った箒が現れ、なんと発射したロケットの内数発を真っ二つに切り落とし、残る数発もシールドで全て防いでしまった。

 

「な、何……!?」

 

 まさか両断されるとは……!

 

「それじゃあ俺も忘れられないようにしないとな!」

 

 ボーデヴィッヒのAICから解放された一夏はすぐさま俺の背中に向けて瞬時加速(イグニッション・ブースト)。ぶつかる寸前で、俺は機体を右にロールさせて一夏に前面を譲る。このコンビネーションは特訓の賜物だと言える。

 

 ガギンッ!

 

 一夏と箒、互いのブレードがぶつかり合って、火花を散らす。

 彼は箒と刀を何回となく打ち合いながら、スラスターの推力を上げた。加速度を増した斬撃は徐々に箒を後方へと押して行く。

 

「くっ! このっ……!」

 

 押され続けた事に焦れた箒が大きく刀を頭上に大きく振りかぶった。

 

「ウィル!」

 

「あいよ!」

 

 一夏が大振りの一撃を受け止めた事によって、箒の動きに隙ができる。その刹那、一夏の背後で控えていた俺は脇から右腕を伸ばす。伸ばした腕で存在感を放っているのは30ミリ機関砲『ブッシュマスター』。この距離なら外れないし、外さない。

 箒が青ざめるのが分かったが、もう遅い。俺は容赦なくトリガーを引いた。

 

「!?」

 

 フッと突然目の前から箒が消える。機銃弾は虚しく虚空を切った。――なんだ!? 何が起こった!?

 

「邪魔だ」

 

 入れ替わりにボーデヴィッヒが急接近してくる。そのワイヤーブレードの1つが箒の脚へと伸びていて、アリーナ脇まで遠心力で投げ飛ばす。

 

「助けたのか……?」

 

「……いや、あれは助けたんじゃない。どけた(・・・)んだ」

 

 地面に叩きつけられた箒が「何をするっ!」と怒声を発するが、当の本人は聞く耳持たずで既に一夏に対して攻撃を始めていた。

 やはりボーデヴィッヒは元より自分以外の仲間を数に入れていないようだ。――それなら話は早い。

 

《一夏、もうしばらく耐えれるな?》

 

《ああ。まだ耐えれる!》

 

《よし、ならこのまま例の作戦を続行するぞ》

 

《おう!》

 

 プライベート・チャネルで短くやり取りを交わして、俺達は予め決めていた作戦に戻る。内容はシンプルで、ボーデヴィッヒの相方を先に無力化するというものだ。

 この作戦を決めたのは単純な理由だった。とにかく、ボーデヴィッヒの戦い方は1 対 複数に特化している。鈴とセシリアとの戦いがその最たる例だ。しかしそれは、自分側が複数の状態での戦いを想定していない事にも繋がる。なので、さっきも見た通り味方を――箒を助ける事はしないだろう。

 それなら先に箒を倒し、2 対 1の状況で畳み掛ける。それでもボーデヴィッヒは前述の通り複数を相手取れるだけの能力を有している。――が、そこが落とし穴だ。2人組というのは1+1だが、必ずしも答えが2になるとは限らない。

 

「お前さんが後々脅威になるのは目に見えてるからな。悪いが先に倒させてもらうぞ!」

 

「くっ、近付けん……!」

 

 機銃、ロケット、ありとあらゆる火器を箒に向けて撃ち放つ。

 

「この程度っ……!」

 

 さすがは防御特化のISといったところか。この鉄の嵐をシールドで防ぎながら、箒はジリジリとこちらに詰め寄って来る。このまま撃ち続けても致命傷は与えられそうもない。ここは1つ、押してダメなら引いてみるか。

 俺は敢えて箒との距離を離さず、かつ悟られない程度に弾幕を弱めて箒がこちらに斬りかかってくるその瞬間を待つ。

 

「はああああっ!!」

 

「――そこだ!」

 

 箒がブレードを振り上げた刹那、俺は左大腿部の装甲をスライドさせて、対IS用近接ナイフ『スコーピオン』を引き抜く。

 

 ガィンッ!

 

 切断力は今一つで、はっきり言って固いだけが取り柄の『スコーピオン』だが、ここにきてようやく使い道ができた。

 

「しまっ――!?」

 

「お返しだ!」

 

『スコーピオン』で受け止めた刀を【バスター・イーグル】持ち前のパワーで強引に払い退け、守りが薄くなった胴に『ブラックマンバ』をフルオートで撃ち込む。

 

「ここまでか……!」

 

【打鉄】、シールドエネルギー残量ゼロ。IS損傷甚大の箒が悔しそうに膝を着いた。

 それを確認した俺は、今まさに大型レールカノンの照準を向けられている一夏の元へ急行する。

 

「待たせたな!」

 

 ヴオオオオオオオッ!! と、昆虫の羽音のようにも聞こえる音を響かせ、発射された30ミリ弾はボーデヴィッヒが回避した事によって当たりはしなかったものの、一夏がワイヤーブレードから解放される。

 

「助かったぜ、ウィル。ありがとよ」

 

「ユアウェルカムだ」

 

「箒は?」

 

「向こうでお休みしてるぞ」

 

 そう言って箒がいる方角に顎をしゃくらせた。

 

「さすがだな」

 

「そいつは試合に勝ってから改めて聞かせてくれ」

 

 主翼ハードポイントに取り付けていた弾切れの『ハイドラ』を投棄し、拡張領域(バススロット)から装填済みのものを呼び出す。

 

「さぁて、こっからが本番だ」

 

「ああ。見せてやろうぜ、俺達のコンビネーションをな」

 

 零落白夜を発動させた一夏はボーデヴィッヒへと直進し、俺は2人の周りを旋回しながら援護射撃をする。近接格闘を得意としない俺が向かうより、ここは一夏の支援に徹した方が効率的だ。

 

「触れれば一撃でシールドエネルギーを消し去ると聞いているが……それなら当たらなければ良い」

 

Hey(おい!)! 一夏だけに気を取られているようだが、俺もいるのを忘れるなよ!」

 

 ボーデヴィッヒが何か行動を起こそうとするたび射撃武器で彼女の動きを阻害し、その合間を縫って一夏が攻撃を仕掛ける。

 

「チッ……邪魔な!」

 

 ワイヤーブレードをくぐり抜けた一夏はボーデヴィッヒを射程圏内へと収めた。

 

「無駄な事を!」

 

 ビシッと一夏の体が凍り付く。言わずもがな、AICによる拘束だ。

 

「貴様の攻撃は読めている。単純な攻撃など――」

 

「……ああ、なんだ。忘れているのか? それとも知らないのか?」

 

 AICで体を拘束されているにも関わらず不敵な笑みを湛える一夏にボーデヴィッヒが怪訝そうな表情を浮かべる。

 

「俺達は」

 

「――2人組なんだぜ?」

 

「!?」

 

 慌ててボーデヴィッヒが視線を動かすが、もう遅い。一夏にばかり気を取られていた彼女に、死角から高速で接近した俺は機銃弾を叩き込む。次の瞬間、ボーデヴィッヒの大口径レールカノンは轟音と共に爆散した。

 

「くっ!」

 

Yeah!(よっしゃあ!) 命中だ! レールカノンを吹っ飛ばした!」

 

 ガッツポーズを決めながら、俺は続けて一夏に合図する。

 

「一夏!」

 

「おう!」

 

 再度、『雪片弐型』を構え直す一夏。……これだけ大きな隙だ。今度は避けきれまい。

 絶対必殺を確信した。確信したはずだった、のだが――

 

 キュゥゥゥン……

 

「なっ!? ここにきてエネルギー切れかよ!」

 

Holy shit………(なんてこった……)

 

 途中で受けたダメージ分が大きかったらしい。零落白夜のエネルギー刃は小さくしぼみ、そしてそのまま消えてしまった。

 

「残念だったな」

 

 両手にプラズマ手刀を展開したボーデヴィッヒが一夏の懐に飛び込む。

 

「限界までシールドエネルギーを消耗してはもう戦えまい! あと一撃でも入れば私の勝ちだ!」

 

 ボーデヴィッヒの言う通り、あと一撃でも当たれば一夏のシールドエネルギーばゼロになるだろう。そしてその一撃はもう間も無く彼に到達する。

 

「そうはさせん!」

 

「邪魔だ!」

 

 一夏の援護に入ろうとしたところでボーデヴィッヒがワイヤーブレードを飛ばして牽制してくる。不覚にもその内の1つが直撃して姿勢を崩してしまった次の瞬間、彼女は瞬時加速(イグニッション・ブースト)でこちらに突っ込んで来た。

 

「ッ――がっ!?」

 

 反応が遅れた俺は頭部を鷲掴みされ、そのままの勢いでアリーナのバリアーに叩き付けられた。

 

「ウィル! くっ――!」

 

「次は貴様だ! 墜ちろっ!」

 

 ダメージを負った俺に気を取られた一瞬の隙。それを逃さず、ボーデヴィッヒの攻撃は一夏の体を正確に捉え、一撃を加える。

 

「ぐあっ……!」

 

「は……ははっ! 私の勝ちだ!」

 

 地に倒れ伏した一夏を見下ろしながら、高らかに勝利を宣言するボーデヴィッヒ。どうやら一夏を倒した事で完全に勝ったと思っているらしい。

 

「何を勝利ムードに浸ってるんだ? まだ終わってないぞ……!」

 

 右腕を持ち上げ、ボーデヴィッヒの背中に向けて『ブッシュマスター』を発射する。

 ドカカカカカッ! と、背中に機銃弾を受けたボーデヴィッヒは俺に怒りのこもった視線を向けた。

 

「この死に損ないがぁっ……!!」

 

 即座にワイヤーブレードで俺を拘束し、プラズマ手刀を構えて飛んで来るボーデヴィッヒ。このまま行けば俺は間違いなくズタズタに切り裂かれるだろう。しかし、俺は努めて冷静に次の行動へと移る。

 

「発射」

 

 主翼端の空対空ミサイルを、今なお迫りつつあるボーデヴィッヒに向けて発射した。

 

「ふんっ。その程度、停止結界を使うまでもない!」

 

 そう言って軽々とミサイルを回避するボーデヴィッヒ。――いや、それで良いんだ。

 

「苦し紛れの攻撃も無意味だったな」

 

 その言葉を聞いて、俺はニィっと口角を上げる。よし、どうやら俺の意図には勘づいていないようだ。

 

「さて、そいつはどうかな? ちなみにあと5秒だ」

 

「貴様、何を言って……」

 

「――なあ、ドイツ軍人。LOALって知ってるか?」

 

 直後、ボーデヴィッヒの右目が大きく見開かれる。ハイパーセンサーに飛翔体の接近警告が発せられたか、はたまた俺の言葉の意味を理解したのか。

 

 ズドォォンッ!!

 

「ぐぅっ!?」

 

 急いで迎撃しようとするが既に遅く、ボーデヴィッヒの背中で何かが爆発した。

 

 ――ミサイル、目標に命中――

 

 別に何か小細工をしたわけでも、ミラクルが起きたわけでもない。

 LOALとはLock On After Lunchの頭文字を取ったもので、日本語では『発射後ロックオン』と言う。

 これはミサイルに予め座標を覚えさせてから発射。発射されたミサイルは座標に従って飛行し、目標を自ら発見・追尾するというものだ。使い方では横や後ろの敵機に対しても攻撃できる。

 

「ペイバックタイムだ! バリアーに叩き付けてくれた分、倍にして返してやる!」

 

 ボーデヴィッヒに態勢を立て直す時間は一切やらず、俺は彼女を掴んでアフターバーナー全開で上昇する。

 

「貴様っ、何をする気だ! 離せ!」

 

 腕の中でボーデヴィッヒは必死にもがくが、悪いが解放してやる気は微塵もない。と、そうしている内にアリーナ天井部のシールドバリアー近くに到達した。

 

「ふっ……!」

 

 あと少しでバリアーに衝突する寸前、俺は機体を一気に180度反転させ、今度は地表へ向けて加速を開始する。

 

 ――警告! 地表急速接近! 直ちに上昇して下さい! 衝突まで残り……――

 

 焦燥感を煽る電子警告音と共にハイパーセンサーから警告文が発せられる。文字通り地面とキスするまであとほんの少しだ。

 

「ッ……!!」

 

 ここでボーデヴィッヒは俺が何をする気かを察したらしく、その表情を焦りの色に染める。が、もう逃げられない。

 俺は地面と接触する寸前でボーデヴィッヒを離して急上昇。対する彼女は轟音と凄まじい土煙を上げながら、地面に叩き付けられた。

 

「ぐうぅっ……!!」

 

 これだけでもボーデヴィッヒのシールドエネルギーはゴッソリと奪われる。しかも相殺しきれなかった衝撃が体を駆け巡ったのか、ボーデヴィッヒの表情は苦悶に歪んだ。

 しかし、これで終わりではない。俺は陥没した地面とその中心にいるボーデヴィッヒの元へ飛んで行き、『ブラックマンバ』の照準を向ける。

 

「弾のバーゲンセールだ。持って行け!」

 

 バラララララララララ――ッ!!

 

 モーターの唸りを上げる40ミリオートキャノン(ブラックマンバ)から分間射速600発の砲弾が放たれ、ボーデヴィッヒのIS【シュヴァルツェア・レーゲン】に壊滅的なダメージを与えていく。

 ――この時の俺は、直後に異変が起こるなどとは想像すらしていなかった。

 

 ▽

 

「(こんな……こんなところで負けるのか、私は……)」

 

 確かに相手の力量を見誤った。それは間違えようのないミスだ。しかし、それでも――

 

「(私は負けられない。負けるわけにはいかない……!)」

 

 ラウラ・ボーデヴィッヒ。それが私の名前。識別上の記号。

 1番最初につけられた記号は――遺伝子強化試験体C-0037。人工合成された遺伝子から作られ、鉄の子宮から生まれた。

 ――暗い。暗い闇の中に私はいた。

 ただ戦いのためだけに作られ、生まれ、育てられ、鍛えられた。

 知っているのはいかにして人体を攻撃するかという知識。分かってるいるのはどうすれば敵軍に打撃を与えられるかという戦略。

 格闘を覚え、銃を習い、各種兵器の操縦方法を体得した。

 私は優秀であった。性能面(・・・)において、最高レベルを記録し続けた。

 それがある時、世界最強の兵器――ISが現れた事で世界が一変した。その適合性向上のために行われた処置『ヴォーダン・オージェ』によって異変が生まれたのだ。

『ヴォーダン・オージェ』――疑似ハイパーセンサーとも呼ぶべきそれは、脳への視覚信号伝達の爆発的な速度向上と、高速戦闘状況下における動体反射の強化を目的とした、肉眼へのナノマシン移植処理の事を指す。そしてまた、その処置を施した目の事を『越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)』と呼ぶ。

 危険性は全くない。理論上では、不適合も起きない――はず、だった。

 しかし、この処置によって私の左目は金色へと変色し、常に稼働状態のままカットできない制御不能へと陥った。

 この『事故』により私は部隊の中でもIS訓練において後れを取る事となる。そしていつしかトップの座から転落した私を待っていたのは、部隊員や軍部の人間からの嘲笑と侮蔑、そして『出来損ない』の烙印(らくいん)だった。

 世界は一変した。――私は闇からより深い闇へと、止まる事なく転げ落ちていった。

 そんな時、出会ったのが教官……織斑 千冬だった。あの人のお陰で、私はIS専門へと変わった部隊の中で再び最強の座に返り咲いた。――なのに……なのに……。

 

『これが遺伝子強化試験体だと!? なんだこのザマは! 笑わせるな!』

 

『いいかね、ラウラ・ボーデヴィッヒ。君は兵器だ。そして兵器とは常に完璧でなければいけないのだ。不良品では困る』

 

 過去に浴びせられた言葉が、頭の中で何度も何度も反響する。

 そうだ、兵器とは常に敵を完膚無きまでに叩き伏せる物だ。……なら、今の私は何だ? 今、目の前の『敵』に一方的にやられている私は、完璧なのか?

 

 ――また、出来損ないの不良品に戻るのか?

 

「(……嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……!)」

 

 私は、こんなところで負けるわけにはいかない。あの男は、ウィリアム・ホーキンスは、敵がまだ動いているのだ。ならば動かなくなるまで徹底的に壊さなくてはならない。そうだ。そのためには――

 

「(力が、欲しい)」

 

 ドクン……と、私の中で何かがうごめく。

 そして、そいつは言った。

 

『――願うか……? (なんじ)、自らの改革を望むか……? より強い力を欲するか……?』

 

 言うまでもない。力があるのなら、それを得られるのなら、何だってくれてやる……!

 だから、力を……比類無き最強を――寄越せ!

 

 Damage Level……D.

 Mind Condition……Uplift.

 Certification……Clear.

 

《 Valkyrie Trace System 》………boot.

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。