インフィニット・ストラトス 蒼空に鮫は舞う 作:Su-57 アクーラ機
「だから、一夏はともかく自分は大丈夫ですよ。この通りピンピンしてます」
「俺も腕ちょっと掠っただけですって。これくらいオ○ナイン塗って
「ダメです。どんな些細な事でもちゃんと診てもらっておかないと」
あの事件のあと、俺と一夏は揃って山田先生に医療室へと強制連行されていた。
「後々、何か大事が起こってからでは遅いんですよ? はい、着きました。中でちゃんと検査を受けてきて下さい」
「はぁ、そんな大袈裟な……。分かりましたよ、行ってきます」
珍しく語気の強い山田先生に押される形で、俺達は医療室のドアの前に立つ。
「失礼します」
そう言ってガチャリとドアノブを捻ってドアを開けた先では白く清潔感のあるベッドが5つ、窓から差し込む夕焼けのオレンジ色に照らされていた。
「……………」
そして、そのベッドの内の1つには上半身を起こして夕日を眺める人物が1人。逆光で上手く見えないが、あれは……
「……ボーデヴィッヒか」
「ラウラ……?」
「ん? ああ、お前達か」
声に気付いて振り返る彼女は、やはりボーデヴィッヒだった。あの黒いISから引っ張り出したあとすぐに担架で運ばれて行ったボーデヴィッヒだが、偶然にもここへ運び込まれていたらしい。
「「「……………」」」
室内を気まずい空気が漂う。
「……織斑 一夏」
その沈黙は、意外な事にボーデヴィッヒによって破られた。彼女の口から出たのは一夏の名前。しかしその声色に以前のような嫌悪が混じっているようには聞こえない。
「あの時、お前とホーキンスが私を助けてくれたと教官から聞いた。――感謝する」
と告げたボーデヴィッヒだったが、どうにもまだ言いたいことがあるらしい。
バツが悪そうに視線を泳がせたあと、何かを決心したよう顔で再度口を開いた。
「……それと、だな。私の身勝手な逆恨みに巻き込んで、本当にすまなかった」
「その言葉が聞ければ十分だ。俺はもう気にしてねえよ。まあ、なんだ。これからよろしくな」
「ああ。こちらこそ、よろしく頼む」
ああ、良かった。これでなんとか一夏とボーデヴィッヒの間で起きていた問題は解消されたようだ。
一夏は「それじゃお先に」と言って医療室の奥へ入って行き、その場には俺とボーデヴィッヒだけが取り残される。
「……………」
何か話す話題があるわけでもなくただ椅子に座っている俺だったが、ふとなんの気なしに視線をやるとボーデヴィッヒの左目が視界に入った。
治療のため眼帯が外されている左目は、右目の赤色とは全く違う金色をしている。この目が原因で出来損ないの烙印を押されたとは聞いたが、金色に輝くそれを改めて見てみると、なんというかとても……
――
「えっ?」
ポカンとした表情で固まるボーデヴィッヒ。そして、ここで俺は無意識に自分の口から言葉が漏れていた事に気が付いた。
「へ? あ、あー、ええっと、だな。まあその、神秘的というか、なんというか……ああクソッ。何て言えば良いんだ……?」
上手い言葉が浮かばず後頭部をガシガシ掻いていると、何かツボに入ったのかボーデヴィッヒがクスクスと笑いを堪えていた。
「ふふっ。面白い奴だな、お前は」
「ははっ、別に笑いを取ろうと言ったわけじゃないんだがな」
笑うボーデヴィッヒにつられて俺も次第に口元が緩んでいく。――なんだ。あんな仏頂面を浮かべているより、笑っている方が断然美人じゃないか。
「っと、危うく忘れるところだった。俺もさっさと診断してもらってこないと」
ボーデヴィッヒの笑顔に思わず見とれていた俺だったが、そうだ、俺は医療室に強制連行された身なんだった。
「まあなんにしても、お前さんが無事で良かったよ。改めてこれからよろしくな、ボーデヴィッヒ――」
「ラウラ」
「うん?」
「私のことはラウラで良い。……そう、呼んでくれるか?」
「ああ、もちろん。なら俺もウィルって呼んでくれ。これで
最後に「それじゃあまたな、ラウラ」と言って、俺は奥の部屋へと入って行った。
▽
『トーナメントは事故により中止となりました。ただし、今後の個人データ指標と関係するため、全ての1回戦は行います。場所と日時の変更は各自個人端末で確認の上――』
ピッ、と誰かが学食のテレビを消す。俺は本日解禁の新メニュー『ホッケ定食』を口に運んで感動に打ち震えていた。
「ふむ。シャルルの予想通りになったな」
「そうだねぇ。あ、一夏、七味取って」
「はいよ」
「ありがと」
「ムグムグ……ゴクッ。美味い……!! まああんな事件が起きたんだ。今後の対策やら各国への事情説明やらで、今はトーナメントどころじゃないんだろ」
当事者なのにのんびりとしたものだとどこかから批判が飛んで来そうだが、保健室から出たあと俺達は教師陣から事情聴取されていたのだ。やっと解放された時には時刻は食堂が閉まるギリギリだった。
「ふー、ごちそうさん。学食といい寮食堂といい、この学園は本当にメシが美味いな。……ん?」
なぜだか知らないが、さっきまで食事をしていた女子達が酷く落胆している。その沈みっぷりは相当なもので、まるで葬式のようなムードだった。
「……優勝……チャンス……消え……」
「交際……無効……」
「……うわあああああんっ!」
バタバタバターっと数十名が泣きながら走り去って行った。気のせいか? 今『交際』って聞こえた気がしたんだがなあ。
「なんだったんだ……?」
「さあ……?」
「どうしたんだろうね?」
俺と一夏、シャルルにはちんぷんかんぷんだ。女子ってのは摩訶不思議な生き物だという事がまた1つ分かったくらいである。
「…………」
女子が去ったあとに、1人呆然と立ち尽くしている姿を見つける。見慣れた黒髪のポニーテールと長身。一夏の幼馴染みこと箒だった。
口から魂が抜けているかのような姿の箒の側へと一夏が歩いて行く。
「そういえば箒。先月の約束だが――」
「ぴくっ」
ちょっと反応した。良かった良かった。完全に幽体離脱はしていないようだ。って、先月の約束って言えばあれか。確か廊下で『付き合ってもらう!』とか言ってたやつだな。
「付き合っても良いぞ」
「――。――――、なに?」
お? おお!? こ、これはまさか!
「だから、付き合っても良いって……おわっ!?」
突然、バネ仕掛けのように大きく動いた箒は、一夏をお構いなしに締め上げる。――って、待て待て箒! 気持ちは分かるが一夏の首が絞まってるぞ!?
「ほ、ほ、本当、か? 本当に、本当なのだな!?」
「お、おう」
「な、なぜだ? り、理由を聞こうではないか……」
パッと手を離し、腕組みをしてコホンコホンと咳払いをする箒。よしよし、それで良い。ここは1度落ち着いてクールにいくんだ箒。
「そりゃあ幼馴染みの頼みだからな。付き合うさ」
おー! おーー!! これはいくか? いっちゃうか!?
「そ、そうか!」
「――買い物くらい」
おーー…………。
「……………」
ビキィッ! と箒の表情が強張る。……一夏のやつ絶対に殴られるな。捻りの効いた右ストレートで一夏のK.O.に10ドル賭ける。他に賭ける奴はいないか?
「………だろうと……」
「お、おう?」
「そんな事だろうと思ったわ!」
ドゲシッ!!!
「ぐっはぁ!?」
腰の捻りを加えた右ストレート。一夏はそれを諸に受けて床に倒れ込む。
「ふん!」
ドゴォッ! と、呻く一夏の鳩尾につま先がクリーンヒット。
「うへぇ……ありゃあ痛いなんてレベルじゃねえだろ」
俺は無意識に自分の腹を擦りながら、床で悶絶する一夏と、ズカズカと去って行く箒の背中を交互に見やる。
「ぐ、ぐ、ぐ、……なんで……」
「一夏って、わざとやってるんじゃないかって思う時があるよね」
「そうだぞ一夏。なんで買い物なんだよ。もっとこう……あるだろう? 遊園地とか色々と」
「……たぶんだけど、ウィルが思ってるのも違うと思うよ」
「え? 違ったのか?」
俺はてっきり(デートに)付き合って欲しいって意味だと思ったんだが。
「あ、皆さん。ここにいましたか。さっきはお疲れ様でした」
「山田先生こそ、お疲れ様です。ずっと手記で大変だったでしょう」
「いえいえ、私は昔からああいった地味な活動が得意なんです。心配には及びませんよ。なにせ先生ですから」
えへん、と胸を張る山田先生。またあの大きな膨らみが重たげにユサッと揺れた。俺はまた視線のやり場に困って、ついつい顔を背けてしまう。
「あ、そうだ。それよりも朗報を持ってきましたよ!」
グッと山田先生が両手拳を握り締めてガッツポーズ。またしても胸の膨らみが揺れた。先生、お願いですからジッとして下さい。本当。マジで。
「なんとですね! ついに今日から男子の大浴場使用が解禁です!」
▽
「うおー、でっけえ……」
「こりゃまた……スゲェな……」
IS学園の大浴場は想像以上に広かった。大型の浴槽が1つにジェットとバブルのついた中型の浴槽が2つ、加えて
ちなみにシャルルは女子であると分かってしまった故に3人まとめて入る事ができず、話し合いで俺・一夏のあとがシャルルという順番である。
「さてと。それじゃあ早速――」
「まあ待てウィル。慌てるなんとかはもらいが少ないってな。まずは体を流して
「ん? ああ、確かにそうだな。まずは体の汚れを洗い落とさんとな」
「お、おう。その通りだ……」
なぜかショボンとする一夏。はて、俺が何かしちまったのだろうか。
小首を傾げながら、俺は一夏と共に体をお湯で流し、ボディーソープで体を洗う。そして全身を洗い終えて、俺達はようやく湯船へと身を沈めた。
「ふううぅぅぅぅ~~……」
「これはなかなか……いいもんだなあ~~……」
この全身に広がる安堵感。疲労と体の凝りが溶けていく虚脱感。熱気が連れて来る心地よい圧迫感と疲労感。それら全てに身を委ねながら、俺は特に何も考える事もなく、ただただ無心で風呂を満喫した。
「あ―……まずい。気を抜いたら眠っちまいそうだ……」
時間を忘れて湯船に浸っていると、だんだんと眠気が押し寄せて来る。疲労困憊というのもあるだろうが、何よりこのリラックスが、睡魔を連れて来てしまうのだ。
「……………ぐぅぅ……」
「ウィル?」
「――ハッ!? ああ、いかんいかん。完全に落ちてたみたいだな。スマン一夏。先に上がらせてもらうぞ」
「おう。俺ももう少し浸かったら出るわ」
ザバァッと湯船から立ち上がった俺は脱衣場へ向かい、服を着替えてから大浴場からほど近い休憩所にあるベンチへ腰かける。
「ふぅ~~。今日は本当に内容の濃い1日だったなあ」
天井から降りる光をボケーっと見上げながら、俺は1人ごちる。――と同時にポケットに入れていた携帯電話から着信メロディーが流れた。
「なんだ? ってこの番号は……」
俺は携帯電話を耳に
「はい、お電話取りました。ホーキンスです」
《 ぶるあああああ!! 》
「……………」
聞き覚えのある声、それと奇声。間違いなくガトリング中将のものだった。
「……中将、いったい何事です?」
《いやいやぁ、ただ君の事が心配でぇ電話させてもらっただけだよ。さっきも何回か掛けたのだよ?
恐らく、中将が電話してきた時は事情聴取を受けていた頃だ。というか、わざわざ電話までくれていたとは。
この人は普段はああなのに、部下をよく気を掛けたりと本当に良い軍人だ。普段はああなのに。
「ありがとうございます。ちょうどその時は事情聴取を受けていたのでお電話に出られませんでした。自分は目立った外傷なども無く、健康状態は良好です。ただ……」
《『ただ』?》
「【バスター・イーグル】の両エンジンと動翼の駆動系統に損傷が見つかりまして、少なくともエンジンの方は全損との事でした」
ラウラを抱きかかえたまま地面を滑走した時に飛散した
《ふむ、そうかね。だがまあ、君が無事でぇ良かったよ。機体パーツなどはぁいくらでも替えが利く。大事なのはぁ、君達パイロットのぉ命なのだよ。それが無事なら万々歳ではないかぁ》
……ああ、この人の基地に所属していて本当に良かった。
口を開けば怪しい組織に引き込もうとしてきたり(中将の中では既に所属済み)、【イーグル】に無茶な装備を載せようとしてきたりする人だが、この人が部下から慕われる理由を改めて実感した。
《と・こ・ろ・でぇ》
感動している俺を他所に中将はスピーカー越しに続ける。
「はい、なんでしょうか?」
《ホーキンスくぅん、君もIS学園に入学してそれなりに経ったが……》
「そうですね。もう2ヶ月以上経ちました」
入学当初、一夏と2人でビクビクしていたのが懐かしく感じる。だがそれがいったい何の話しに繋がるのだろうか。
《――
「…………は?」
おい、俺の感動を返せこの野郎。何が『彼女はできたのかねぇ?』だこの野郎。目の前でイチャイチャを見せつけられた事なら何回もあるぞこの野郎。
「……なぜ突然そのようなことを?」
「実は今ぁ、基地内はこの話題で盛り上がっていてねぇ」
「(ウソだろ。そんなふざけた話が基地で流行してるのかよ……)」
俺が携行電話片手に呆れていることなど露知らず、楽しそうに語るガトリング中将。
「私が若かった頃はぁ、それはもう引く手
「(……チッ)」
なんとなく。本当になんとなーくだが、イラッと来てしまった俺は通話状態のまま伯父のトーマス宛にメールを送る。
【仕事をサボっている基地司令官を確認。直ちに捕縛部隊を送られたし】
「(これでよし)」
送信ボタンをタッチすると、すぐさま返信メールが届いた。内容は『了解した。貴官の協力に感謝する。それと、無事なようで何よりだ』だった。
数分後、捕縛部隊が室内に突入。敢えなく縄でグルグル巻きにされたガトリング中将は「ノォォォォ!!」と叫びながら連行されていった。
「よし、俺もさっさと部屋に戻って寝るとするか」
ちょうど脱衣場から出て来た一夏と――おい、なんでシャルルまで一緒に出て来たんだ? ……いや、これ以上考えるのはよそう。もう疲れた。色んな意味で。
それから自室までの道のりを他愛の無い話をしながら歩いて行き、部屋に帰り着くやベッドに倒れ込んだ俺は一瞬で微睡みの中に落ちていくのであった。
▽
翌日。朝のHRにはシャルルの姿が無かった。
「なあウィル。シャルロッ――シャルル見なかったか?」
「食堂から今まで俺はお前と一緒にいただろう。見てるわけがない」
『先に行ってて』と言うので食堂で別れたのだが、もしかして何かあったのだろうか。
1度グルリと教室を見渡すと、シャルル以外にラウラの姿も無かったが、彼女は昨日の負傷で休んでいるのだろう。
「み、皆さん、おはようございます……」
織斑先生と共に教室に入って来た山田先生はなぜかフラフラとしている。いったい朝からどんな悲劇に見舞われたのだろうか。モーニングコーヒーに間違えて塩でもぶち込んだのか? いや、いくら山田先生でもさすがにそんなミスはしないか。
「今日は、ですね……皆さんに転校生を紹介します。転校生と言いますか、既に紹介は済んでいると言いますか、ええと……」
なにやら山田先生の説明はよく分からないが、……何? 転校生だと?
クラスのみんなもそこに反応したらしく、一斉に騒がしくなる。今のこの時期、というか既に今月は2人も転校生が来ているのに、それにまだ来るというのだろうか。いったい何がどうなってるんだ?
「じゃあ、入って下さい」
「失礼します」
ん? この声は――
「シャルロット・デュノアです。皆さん改めてよろしくお願いします」
ペコリ、スカート姿のシャルル――いや、シャルロットが礼をする。俺と一夏を始めクラス全員がポカンとしたまま、これはどうもご丁寧にとばかりにペコリと頭を下げ返す。
「ええと、デュノアくんはデュノアさんでした。という事です。はぁぁ……また寮の部屋割りを組み立て直す作業が始まります……」
成程。山田先生の憂いはそこにあったのか。先生、毎度毎度、本っっ当にお疲れ様です。今度コーヒーと甘い物を差し入れに持って行きます。
……って、待・て・よ?
「え? デュノアくんって女……?」
「おかしいと思った! 美少年じゃなくて美少女だったわけね」
「って、織斑くん、同室だから知らないって事は……ホーキンスくんも気付かなかったの?」
ザワザワザワッ! 教室が一斉に
と、そこへトドメの超特大
「――ちょっと待って! 昨日って確か、男子が大浴場使ったわよね!?」
――ヤッバイ……! スゲェ嫌な予感がする!
バシーンッ! 教室のドアが蹴破られたかのような勢いで開く。
「一夏ぁっ!!!」
髪を逆立てて立っていたのは中国代表候補生の
「しぃぃねぇぇぇっ!!!!」
ISアーマー展開、それと同時に衝撃砲の発射態勢を取る。
「ちょっ!? 待て待て! ウィル! た、助けてくれ!!」
大慌てで俺の所まで走ってきた一夏が背中に隠れた。
「待て待て! なんで俺の所に来るんだよ!」
「俺のIS、今修理中で展開できないんだよ!」
「おいおいおい! 俺のも修理中だって昨日言ったじゃねえか!」
「……あっ」
「『あっ』じゃねえよ、このアホォ! ――って、それは今はいい! 取り敢えず鈴、落ち着け! クールになろうぜ? なっ? なっ? そんなもんぶっ放したら周りにも被害が……って、いねぇ!?」
俺の周囲と後方に座っていた生徒達は全員がいつの間にか退避を終えており、ガラーンとしていた。
「アンタも同罪よ!」
「理不尽!? 待てっ。いや待って下さい!」
「安心しなさい、威力は調節してあげるから。顔面飛び膝蹴りぐらいにね!」
「全然安心できない! っていうかヘッドショット!?」
そんな俺の声を無視して衝撃砲が光り始める。
「畜生! 一夏ぁ! お前はIS以前に『人の話を聞きましょう』だああああっ!!」
「ごめんんんんんっ!!」
ズドドドドオンッ!
「ふーっ、ふーっ、ふーっ!」
怒りのあまり肩で息をしている鈴がいる。その姿は本気で怒った時のネコのようにも見える。――って、あれ? 俺、吹っ飛んでない? 顔へこんでない!?
「……………」
間一髪、だったのかどうかは分からないが、俺達と鈴の間に割って入ったのは――なんとラウラだった。
その体には黒いIS【シュヴァルツェア・レーゲン】を纏っている。恐らく衝撃砲を得意のAICで相殺したのだろう。しかし、よく見るとあの大型レールカノンがない。いやまあ、壊したのは俺なんだが。
「ら、ラウラか? お前そのIS……と言うより、身体はもう大丈夫なのか?」
「ああ。コアは辛うじて無事だったからな。予備パーツで組み直した。身体の方も問題は無い」
「そうか、それはよかった。いやスマンな。本当に助かっ――んむぅ!?」
それは、あまりに突然の事だった。
いきなり、俺はグイッと胸倉を掴まれ、ラウラに引き寄せられ、そしてあろう事か――唇を奪われた。
「!?!?!?!?」
そして、口付けすること5秒ほど。俺を解放したラウラは頬をうっすらと朱色に染めて、高らかに宣言した。
「お、お前は私の嫁にする! 決定事項だ! 異論は認めん!」
「……………」
オーケーオーケー。一旦落ち着こうぜ、ウィリアム・ホーキンス。取り敢えず少しだけ時間を取らせてもらうとしよう。頭の中を整理する時間がないとな! うん!
「ふぅ……。織斑先生、5分ほどお時間を頂いてもよろしいでしょうか?」
「 」
「……織斑先生?」
「――ッ!? あ、ああ。分かった。5分だな。許可しよう」
目の前で起きた突然の出来事に口を半開きにして呆けていた織斑先生が、ハッとして我に返る。この人がこんな顔をするのは初めて見たが、とにかく今は目の前の問題が最優先だ。
「ありがとうございます。――Wh
ここでとうとう脳の処理限界を向かえた俺は、バタッとその場に倒れてしまった。
「う……ぁ……」
「あっ! ウィル、大丈夫か!?」
ボヤける視界の中、うっすらと目を開けると一夏が心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。
「ああ、一夏か。いててっ。……なあ、なんで後頭部が痛いんだ?」
何かにぶつけたのか、後頭部に鈍い痛みが走る。それにしても変な夢だったな。いきなりラウラにキスされて、嫁にするだのなんだのって……。そもそもなんで教室で眠ってたんだ?
「それは……」
「おお。目が覚めたか、我が嫁よ。心配したぞ」
そう言って一夏の横からヒョコッと現れたのはラウラだった。待て。嫁? 嫁だって?
「……ソーリー、一夏。どうやら俺はまだ夢の中にいるらしい」
「いや、これは夢じゃなくて紛れも無い現実――」
「はっはっはっ、面白いジョークを言う奴だ。……しかし参ったな。早く起きないと、HR中に寝てるのがバレたら織斑先生に血祭りに上げられちまう。何せあの人、歩く暴力装置だからなぁ」
「あ゛?」
一夏やラウラとは別の、もっと低いドスの混じった声が響いた。
声のした方に視線をやると、1組担任の歩く暴力装置こと織斑先生が立っているのが目に入る。
「織斑、そこをどいていろ」
「え? で、でも……」
「ど い て い ろ」
「は、はいぃぃぃ……!」
涙目で全速後退し、教室の壁に張り付く一夏。まあ無理も無いだろう。今、織斑先生の背後には修羅が立って見えたのだから。
「さて、ホーキンス。何か言い残す言葉はあるか?」
相変わらず怖い人だなぁ。だがしかし! これは夢の中である! それに、1度言ってみたかった台詞があるんだ。
俺は不敵な笑みを浮かべながらファイティングポーズを取った。
「怖いか、織斑先生。当然だぜ。現
「……遺言は、それで良いな?」
拳を握り締めた織斑先生が無表情でゆっくりと歩み寄ってくる。その横では鈴が『ああ、あいつ死んだわ』といった表情を浮かべ、セシリアと箒は何かに祈りを捧げており、シャルロットは俺に可哀想な奴を見るような目を向け、一夏には「骨は拾う」と告げられ、そしてラウラはなぜか敬礼していた。
ガシッ
とうとうすぐ目の前にまでやって来た織斑先生が、俺の肩を掴む。
続いて、ミチミチッと音を立てて力が込められ始めた。い、いたたたっ、指が食い込んで――え?
「えっ、こ、これ、もしかして……」
ギギギギッとぎこちない動きで、俺の肩を掴む手と織斑先生の顔を交互に見て、ようやく気付いた。
――ヤヴァい。これ夢じゃなかった。
途端にドッと冷や汗が噴き出し始める。
「ここでやると後始末が面倒だな。グラウンドに行くとしようか」
「あっ、ちょっ、ま、待って下さい! なんでグラウンドなんかに!? う、うわああぁぁぁぁ!?」
抵抗も虚しくズルズルと引っ張られていく先は、IS学園が保有する広大なグラウンドだった。どうやら俺は、愚かにも自分で自分の死刑執行書にサインをしてしまったらしい。
「あーっ、何を!? わあ待って! こんな所で暴力振るっちゃダメですよ! 待って! 止マレ!」
「いい加減正気に戻らんか! このっ、馬鹿者があああっ!!!」
「ギャアアアアアアアアアアッ!!!」
どこまでも青く澄みわたる空に、絶叫が轟いた。