インフィニット・ストラトス 蒼空に鮫は舞う   作:Su-57 アクーラ機

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27話 ドッジコートの鬼神と呼ばれた男

 チーム決めの結果、俺のチームにはラウラとのほほんさん、前本さんが。対する一夏チームはシャロットと櫛灘(くしなだ)さん、そして遅れてやって来た箒が参戦してちょうど4対4が出来上がった。ちなみにルールは外野復活なしのタイプだ。

 

「そっちボールで良いぞ」

 

 一夏がボールを投げ渡してきて、俺はそれをキャッチする。ほう、この俺にボールを渡すとは……愚かなり!

 

「フッ、ドッジコートの鬼神と呼ばれた俺の実力……見せてやろう!」

 

 言うが早いか、俺は相手コートのギリギリ近くまで走り寄り、高速のボールをお見舞いする。

 

「なんのっ……!」

 

 バシッという音と共に箒がそれを真正面から受け止めた。こいつ、できる……!

 俺は反撃を警戒して大急ぎで後退し、ボールをキャッチできるようにドッシリと構える。さあ、いつでも来い!

 ――がしかし、予想とは裏腹に箒は投げのフェイントでこちらの注意を引いてから一夏にパス。俺は一瞬反応が遅れてしまう。

 

「一夏!」

 

「おう! 任せろ箒!」

 

 くっ、やられた……! にしても息ピッタリだなお前ら! と心の中で2人にツッコンでいると、のほほんさんの声が聞こえた。

 

「らうらう、あぶなーい」

 

「ふぇ? ――ッ!!」

 

 何か考え事でもしていたのか、ボーっとしていたラウラは気付くのが遅れてしまい、慌てて両手を顔の前で交差させ縮こまる。

 

 バシーンッ!!

 

「おっと!」

 

 ボールがラウラに当たる直前で間に割って入った俺は右手を伸ばしてそれをキャッチした。ふぅ、我ながらナイスだ。ドッジコートの鬼神は伊達じゃないな! それにしても……。

 

「ボーっとしてどうした? 今朝からずっとその調子だが、体調が悪いなら別館まで送るぞ?」

 

「…………」

 

 振り返って声をかけるのだがラウラからの返事は無く、顔を耳まで真っ赤に染めて俺の顔をボーっと見上げるだけだった。こいつ本当に大丈夫か?

 

「……ラウラ、悪いがちょっと触るぞ」

 

 バスの中といい、今といい、どうにも様子のおかしいラウラが心配になってきて、俺は予め断りを入れてから彼女の額に手を伸ばす。

 

「なっ、なっ、ななっ……!!?」

 

「って、随分と熱いな。もしかして熱中症じゃないか?」

 

 明らかに体温が平熱よりも高い。それに心なしかさらに顔が赤くなっていっているようにも見える。こりゃまずいな。とにかく重症化する前に日陰に連れて行こう。別館はここから近いし、中はクーラーも効いているから安静にさせるならベストだろう。

 

「別館まで歩けるか?」

 

 俯き気味のラウラの顔を覗き込んだその時だった。

 

「う……」

 

「う?」

 

「うわああぁぁぁぁ!!!」

 

「おい、どうした――グハァッ!?」

 

 刹那、俺の右頬に強烈な手刀が直撃した。当ててきたのはラウラだ。彼女は俺から飛び退くと、そのまま脱兎の如く逃げだしてしまった。

 

「お、おーい! ラウラーー!?」

 

 一応声を掛けるのだが、それよりも早くラウラは別館の中へと消えて行った。取り残された俺達はポカーンと別館の方を見つめる。

 

「ウィル、追いかけた方が良くないか?」

 

「そうだな。ちょっと行ってくる」

 

「今はソッとしておいてあげた方が良いんじゃないかな……。少なくとも熱中症じゃないから大丈夫だよ」

 

 そう言って苦笑いを浮かべるシャロット。まあ確かに、あれだけ元気に動けるのなら熱中症ではないと思うが、シャルロットの言葉には何か別の意味も籠められていたような気がするのは考えすぎか?

 

「うーん、これはあれかな~。ホーくんの乙女心デストロイヤーが作動中なのかなー」

 

 のほほんさんはそんなことを言っている。ちなみに彼女が着ているのは水着というよりもはや着ぐるみで、耳までついている全身を覆うタイプのキツネ姿だ。

 っていうか乙女心デストロイヤーってなんだよ。一夏じゃあるまいし、そんなことは無いだろ。

 

「まあ、別館には先生も待機しているだろうし、ラウラの様子はあとで見とくよ。ゲーム再開といこうか」

 

「さんせーい」

 

 そうしてラウラが抜けたことにより4対3となったドッジボールは続いた。

 

 

 

 

 

 

「俺とお前が最後に残ったようだな」

 

「みたいだな。決着をつけようぜ、ウィル」

 

 一夏が不敵な笑みを浮かべ、そんな彼に俺は右腕を構えて狙いを定める。

 

「威勢が良いな。だが今攻撃の手札を持っているのは、この俺だ」

 

 俺は口角をニィッと吊り上げてさらに言葉を続けた。

 

「一夏ぁ、どこに当てて欲しいか選ばせてやるよ。頭か? それとも胸か?」

 

 一応言っておくが、今やっているのはドッジボールである。俺も一夏も白熱しすぎて殺し合いでもしているかのような雰囲気だが、もう1度言っておく。これは普通のドッジボールだ。

 

「ウィルが悪役みたいな顔で悪役みたいなこと言ってる……」

 

 こらそこ、シャロット。失礼なことを言うな。

 

「へっ、じゃあ胸に投げてくれよ。その方がキャッチしやすいからな」

 

「言うじゃねえか。なら望み通りにしてやるぜ!」

 

 ビュンッと、投げたボールは一夏へ吸い込まれるようにして飛んで行く。

 

「さあ来い――って、あぶねっ!? お、俺の時だけ威力強くなってないか!?」

 

「そりゃお前、女子相手に本気で投げれるわけないだろ」

 

 当たったら絶対痛いだろうしな。痕でもつけたら一大事だ。

 

「ヘイヘ~イ、どうしたぁ? さっきの威勢はどこに行ったんだ一夏ぁ」

 

「なんかキャラまで変わってるぞ!?」

 

 何を言ってやがる。いつも通りの優しい優しいウィリアム・ホーキンスくんに決まってるだろ。

 

「ウィリアムはボールを持つと性格が変わるのか……?」

 

 おいこら箒。シャルロットに続いてお前まで言うか。まったく失礼な奴だな。ちょっと気分が高揚(こうよう)して暴れたくなるだけじゃないか。

 

「ホーキンスくん、パース!」

 

「よっと。ありがとう」

 

 一夏を当て損ねたボールを外野の前本さんから受け取り、また投てきの体勢をとる。

 

「よーし一夏、そこを動くなよぉ。一撃で楽にしてやる。友人としての情けだ、苦しませたかぁねえ」

 

「ま、待てウィル! なんだその不穏な台詞は!? ドッジボールって苦しむような要素ないだろ――」

 

「ぅおらぁ!!」

 

 バチーンッ!!

 

「アッーーーー!!」

 

 そんなこんなで、ドッジボールは見事俺チームの勝利で終わった。

 

「あ、そろそろお昼の時間かな? 一夏とウィルは午後どうするの?」

 

「うーん、もう少し泳ぎたいんだが食べた直後はつらいし、ちょっと休んでからまた海に出るつもりだ」

 

「俺も少し時間を置いてから動こうと思ってる」

 

 腹にものが詰まってる状態で下手に動き回って、その結果公衆の面前で魚に餌やり(・・・・・)でもすることになったら目も当てられない。

 

「そっか。じゃあ、お昼行こ。それと一夏って結局どこの部屋だったの?」

 

「あー、それ私も聞きたい!」

 

「私も私も!」

 

「ホーキンスくんの部屋情報カモン!」

 

「やっぱりテントになったの~?」

 

 のほほんさんの言葉に他のメンツはクエスチョンマークを浮かべるが、取り敢えずそれは置いといて。

 

「えーと、織斑先生の部屋だぞ」

 

「で、俺はそのすぐ隣の部屋だ」

 

 それまでワクワクとした顔をしていた女子一同がピシッと凍り付いた。まさかの展開に思考回路がエラーを起こしたかのようだ。

 

「だからまあ、遊びに来るのは危険だな」

 

「そ、そうね……。で、でもホーキンスくんの部屋ならワンチャン……」

 

「高性能音響センサーが張り巡らされた廊下を抜けて来るようなもんだぞ?」

 

 物音を1つでも立てようものなら即アウトだ。部屋に入る以前に、近付くだけでも至難の(わざ)だろう。

 

「そ、そっかー。ま、まあ2人とは食事時間に会えるしね!」

 

「だね! わざわざ鬼の寝床に行かなくても――」

 

「誰が鬼だ、誰が」

 

 ドンッ! と何か音が聞こえた気がした。いや、気のせいじゃないのかもしれない。一同、ギギギギ……と軋んだ動作で首を動かす。

 

「お、お、織斑先生……」

 

「おう」

 

 立っていたのは、以前に水着売り場で見せてもらった水着を纏った織斑先生だった。ラウラとはまた印象の違う黒の水着をバッチリと着こなしており、モデルと見間違うほどのスタイルに女子一同は圧倒されていた。

 ……いや、1つ付け足しておこう。俺の隣で男子1人が口を半開きにして固まってやがる。

 

「…………おい一夏、鼻の下伸びてんぞ。お前さん、先生みたいなタイプが好みなのか?」

 

「なっ……!? う、ウィル!? 何を変なこと言ってるんだよ……!!」

 

「そうかい。ならあの2人にもそうだと説明してやってくれ」

 

 はぁ~、と溜め息を漏らしながら、俺は後ろに向けて左手の親指を差す。

 

「後ろ? 後ろに何が……ひぇっ!?」

 

 振り返った一夏がその体勢のまま短く悲鳴を上げる。まあ、この反応も仕方ないだろう。

 

「「……………」」

 

 振り返った先には箒とシャルロットがとてつもなく恨めしそうな表情で一夏を睨んでいたのだから。まっ、頑張ってこの怒れる2人を鎮めてくれたまえ。

 

「そら、お前達は食堂に行って昼食でもとってこい」

 

「先生はどうされるんです?」

 

「私は僅かばかりの自由時間を満喫させてもらうとしよう」

 

 その言葉通り、教師陣にはほとんど自由時間など無いのだろう。それなら、その少ない時間をさらに減らすような真似はしたくない。

 

「では自分達は昼食に行ってきます」

 

「集合時間には遅れるなよ」

 

「はい」

 

 と、それだけ言ってその場を離れる。ちょうど12時を過ぎたところなので、俺達以外にも生徒達がゾロゾロと移動していた。

 

「あ、あの、だな。2人とも……?」

 

「「ふんっ」」

 

「おい、ミスター唐変木。俺が食いたいのは昼食であって痴話喧嘩じゃないんだ。そういうのは歩きながらにしてくれ」

 

 まったく。痴話喧嘩なんて犬どころかサメも食わねえぞ。

 

「ホーくん、ホーくん」

 

「うん? どうした、のほほんさん?」

 

「えっとねー、頭におっきなブーメラン(・・・・・)が刺さってるよ~」

 

「え?」

 

 のほほんさんに言われて、俺は頭に手を這わす。あれ? 触った感じ特に何も無いぞ。

 

「なんだ、何もついてないじゃないか」

 

「そういう意味じゃないんだけどねー」

 

「?」

 

 のほほんさんの意味ありげな言葉に小首を傾げながら、俺は男子更衣室へと入って行った。

 

 

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