インフィニット・ストラトス 蒼空に鮫は舞う 作:Su-57 アクーラ機
時は瞬く間に過ぎていき、現在午後7時半。大広間を3つ繋げた大宴会場で俺達は夕食をとっていた。
ここは座敷なので当然正座なのだが、IS学園には様々な国籍の生徒が在籍していることを配慮して、正座ができない生徒のために隣の部屋にテーブル席も設けられている。その例に漏れず正座ができない俺はテーブル席に座って夕食に
「美味い。美味すぎる……!!」
「まさか昼に続いて夜も刺身が出るとはな。IS学園は羽振りが良い」
そう言って刺身を器用に
今は全員がそうであるように、ラウラも浴衣姿だ。俺も浴衣を着るのは初めてだが、なんでもこの旅館のルールとして『お食事中は浴衣着用』らしい。汚してしまう可能性もあるのに大丈夫なのか……?
ちなみにメニューは刺身と小鍋、それに山菜の
どれも日本に来てから口にするようになったものばかりだが、これに加えて刺身がカワハギという高級魚なのだ。しかもキモ付き。
噛むと独特の歯ごたえと、クセの無い淡白な味がなんとも言えず舌を楽しませる。キモも、不快な臭みや苦味などは無く深い味わいがあってベリーグッドだ。
「こいつは……ああ、なんというか、とにかく最高だ。美味すぎるぞジャパニーズ刺身……!!」
アメリカでは普通食べることができない高級魚の刺身を前に、俺の語彙力は欠損気味である。でも仕方ないじゃないか。料理が美味すぎるのが悪い。
「ふむ。確かに美味いな。それに、このわさびは本わさというやつではないか?」
「本わさ? わさびにも種類があるのか?」
「ウィルは知らないのか。本物のわさびをおろしたものを本わさと呼ぶそうだ。昔、教官に日本食をご馳走になったとき聞かされてな」
「ほう。じゃあ、学園の刺身定食についてるあれは本物じゃないのか?」
「ああ。あれは練りわさと呼ぶものだ。確か、ワサビダイコンやセイヨウワサビなどに着色したり、合成したりして見た目と色を似せてあると聞いた」
「成程なぁ。じゃあこいつが正真正銘のわさびってことか。どれ……」
「……? ――ッ!?」
ラウラがマンガのようなとてもきれいな2度見をしてきた。なんだよ。俺はちょっと人生初の本わさを堪能しようと――ッ!?!?
「ッ~~~~~~!!」
な、なんだこの辛さは!? 練りわさの数倍は辛いぞ! ヤバい、本わさなめてた! って、鼻がぁ! 鼻がぁぁぁ!!
「何をしているんだ、お前は……」
鼻を押さえて悶絶しているところに、ラウラが水の入ったコップを差し出してくる。それを受け取った俺はすぐさま中身を飲み干した。
「っはぁ……! あ゛あ゛~~~。た、助かった。サンクス、ラウラ」
「まったく、興味だけでわさびの山を口に放り込むとは。一瞬正気を疑ったぞ」
「スマンスマン。学園の練りわさが大したことなかったから、本わさもそこまで辛くないだろと思ってな。早計だった」
いやぁ、マジで鼻がもげるかと思ったぜ。本わさび、恐るべし。しかしまあ容量にさえ気を付ければ、風味があって刺身と共に美味しく食べることができそうだ。
「さて、気を取り直して……」
と、刺身に箸を伸ばそうとしたその時だった。
「あああーっ! セシリアずるい! 何してるのよ!」
なんだなんだ。どうしたんだ? ――って、あれは……。
突然、座敷に座っていた女子達が騒ぎ始め、何事かと思って視線をやった先にいたのは隣り合わせで座っている一夏とセシリアの姿。だがしかし、女子が騒ぎ始めた理由はそこではない。
「織斑くんに食べさせてもらってる! 卑怯者!」
「ズルイ! インチキ! イカサマ!」
そう、なぜか一夏がセシリアに料理を食べさせようと口元に箸を近付けていたのだ。いや、本当になんでそんなことになったんだ?
「ず、ずるくありませんわ。席が隣の特権です」
「それがずるいって言ってんの!」
「織斑くん、私も私も!」
これ幸いとばかりに自分も食べさせて欲しいと女子が一夏に押し寄せる。
「毎度のことながら、あいつの周りはいつも騒がし……、い……?」
迫る女子と困惑する一夏を見て、やれやれと溜め息をついてから自分の盆に視線を戻す――ことはできなかった。
「「「あーん」」」
「 」
なんと、テーブル席に座っていた女子達が一様に口を開いて、ひな鳥のように待機していたのだ。
「あー……えっと、これはどういう……?」
「座敷組は織斑くんに食べさせてもらってずるいから、私達もホーキンスくんに食べさせてもらおうかなーって」
「そうそう。私達テーブル組だって美味しい思いしたいじゃん?」
「待て待て。君達普通に食べれるだろ。わざわざ俺が食べさせるメリットが無い」
それに、1人1人にそんなことをしていたら夕食の時間を大幅に過ぎちまうじゃないか。
「実は私、まだお箸の使い方が上達しなくて……。だから、ね?」
そう言ってくるのは俺と同じアメリカ国籍のエミリー・クーパーさん。確かに日本人と比べて箸を使う頻度の低い者にとっては食べづらいだろう。……しかし俺は知っている。彼女がついさっきまでバリバリに箸を使いこなしていたのを。正直、俺よりも使うのが上手かったのを。
「……スマンが隣の友達に頼んでくれ――」
「「「あーん!」」」
「……隣同士で――」
「「「あーん!」」」
これはあれか。俺が首を縦に振るまでエンドレスで続くパターンか。
「…………はぁ。分かった、分かったよ。ひと口だけなら――
なんの前触れもなく左脇腹に走った鋭い痛みに驚いて、俺は椅子の上を小さく跳ねる。次に慌てて視線を動かすとラウラがジト目でこちらを睨んでおり、そんな彼女の右手がしっかり俺の左脇腹へと伸びていた。
「痛いじゃないかラウラ。いきなりなんだよ――ああ痛い痛い!
「ふんっ。……浮気者め」
ムスッとした表情で鼻を鳴らしながら、味噌スープに口をつけるラウラ。くぅっ……、ヒリヒリする……。
「お前達は静かに食事をすることができんのか」
その声にテーブル席はもちろん、一夏がいる座敷側の生徒もピシリと凍り付いた。
「お、織斑先生……」
「どうにも体力があり余っているようだな。よかろう。それでは今から砂浜をランニングしてこい。距離は……そうだな。50キロもあれば十分だろう」
「いえいえいえ! とんでもないです! 大人しく食事しますです! はいっ!」
そう言って各自の席に戻って行く。それを確認してから、織斑先生は俺と一夏を交互に見据えて再び口を開いた。
「織斑、ホーキンス。あまり騒ぎを起こすな。鎮めるのが面倒だ」
「わ、分かりました」
「す、すみません」
これは俺が悪い……のだろうか。いや、そうなんだろうな。と己を納得させながら、俺は静かに食事を再開させたのだった。
▽
「ふぅ~、さっぱりした」
いやもう本当に最高だな。高級料理を食べたあとに今度は人生初の温泉ときた。なんという贅沢だろうか。
温泉へ向かう前にジョーンズ中尉から『明日、新型の兵装が届く』という知らせを電話で受け、その詳細などを聞いているうちに一夏とは入れ代わる形になったのだが、結果として海を一望できる露天風呂を貸し切りで使えた俺は上機嫌で部屋に向かっていた。
「む? ウィルじゃないか」
「?」
ふと横合いから声を掛けられ、俺はその方角に振り向く。
立っていたのはラウラだった。どうやら彼女も風呂上がりらしく、若干湿り気を残した銀髪が廊下の灯りを美しく反射しており、その顔は湯船に浸かっていたためかうっすらと火照っていた。
「……………」
「どうした?」
思わず言葉も忘れて見つめてしまっていた俺に、ラウラが怪訝そうに問い掛けてくる。
「いや、なんでもない。今さっき風呂から出たのか?」
「ああ。つい先ほどな。それで部屋に戻る途中にお前が通り掛かって声をかけたというわけだ」
「そういうことか。――あ、そうだ。実は一夏に、あとで部屋に遊びに来ないかって誘われててな。お前も来るか?」
「ふむ、嫁からの誘いとあれば断る理由も無いな。私も同行させてもらおう」
「いやだから俺は嫁じゃ……まあいい。約束の時間まではまだ間がある。良かったらそれまでトランプでもしないか?」
「トランプか。あまりやったことはないが、受けて立とう」
「オーケーだ。じゃ、部屋に行こうぜ」
こうして、俺はラウラと共に部屋への道を踏み出すのであった。
▽
「そ、そんな……バカなっ……!?」
「ふっ、まだまだだなウィル」
部屋に帰りついてからしばらく。ウィリアムとラウラは持ってきたトランプでババ抜きをしながら時間を潰していた。――いたのだが、信じられないことに彼はラウラに1度も勝てないでいた。ちなみに10ゲーム中の全てで、である。
「な、なんでだ。なんでこうもボロ負けするんだ!?」
俺の何が悪かったのか。畳に両手を着いて項垂れていたウィリアムは、その答えをラウラに求めるようにバッと顔を上げる。
「お前が私に勝てない理由。それは……」
「それは……?」
ゴクリ。ウィリアムは大量の生唾を飲み込み、さっきから妙にドヤ顔を浮かべているラウラの言葉を待つ。
「表情に出すぎだ」
まるで焦らすかのように溜めてから放たれた返答の内容は至極単純なものだった。
「なっ……!? そ、そんなに顔に出てたか!?」
「ああ。それはもう素人目からでも丸分かりなほどにな。くくくっ……!」
と言いながら、ラウラはプルプルと肩を震わせて必死に笑いを堪える。
ちなみにウィリアムに自覚は無いが、10ゲーム中の全てにおいて彼の顔はまさに顔芸の域に達していたと追記しておく。
「カードを取るたびに笑いを堪えるのが大変だったぞ。もしお前が我が黒ウサギ隊の隊員だったら、再訓練を課してやるところだ」
「くっ、言ってくれるじゃないか……! ならもう1回だ!」
「何度でも受けて立とう」
この数分後。やはり予想通りと言うべきか、ウィリアムの悲鳴が室内に響くのであった。
▽
「……なあ、ラウラ。これはいったいどういう状況なんだ?」
「私に訊かれても返答に困る」
結局ババ抜きで惨敗を喫した俺は、一夏と約束していた時間が迫っていたこともあってラウラと共に部屋を出た。
一夏の部屋はすぐ隣なのでどうということはないのだが、問題は今目の前にある異様な光景である。
「「「「……………」」」」
一夏と織斑先生の部屋の前、その入り口の
「鈴? 箒にシャルロット、それにセシリアまで。揃いも揃って何してるんだ? 襖に耳なんかくっつけて」
「シッ!!」
鈴がそう言うなり、クイクイッと人差し指を曲げて招いてくる。
状況も分からないまま俺とラウラも耳を寄せると、ふと襖の向こうから声が聞こえた。
『千冬姉、久しぶりだからちょっと緊張してる?』
『そんなわけあるか、馬鹿者。――んっ! す、少しは加減しろ……』
『はいはい。んじゃあ、ここは……と』
『くあっ! そ、そこは……やめっ、つぅっ!!』
『すぐに良くなるって。だいぶ溜まってたみたいだし、ね』
『あぁぁっ!』
…………えっ、これってもしかしてアレか? こんな旅館で堂々と!? いや、いやいやいやいや。まさかそんな。2人は姉弟だぞ!? これはきっと何かの間違いに決まってる!
『ほら、千冬姉。ここもこんなになってる』
『い、いちいち言わなくていい……。ふぐぅ……!』
『ははっ、じゃあ少し強めにいくよ』
『ま、待て――んはぁぁぁ!』
お、おい、どんどん激しくなっていってないか……? と、その時だった。
ミシッ……、と
不審に思って見てみると、聞き耳を立てることに集中しきっている女子5人が
いくら質の良い材料を使用しているとはいえ、さすがにこれ以上は耐えられないだろう。
「お、おいっ! 早くそこから離れ――」
言葉を言い終える前に、とうとう女子5人分の体重を支えきれなくなった襖が外れてズテーンッ! と、鈴達は室内に転がり込んでしまった。ちなみに俺は倒れる寸前で襖から離れて、今は廊下側の壁に張り付いて隠れている。
「何をしているか、馬鹿者どもが」
「は、はは……」
「ど、どうも」
「こ、こんばんは、織斑先生……」
「よ、夜風が気持ち良いですね教官……」
「さ……さようなら、織斑先生っ!!」
脱兎の如く逃走開始――が、5人とも一瞬で捕獲された。
「盗み聞きとは感心しないが、ちょうどいい。入っていけ」
よしよし、今のところ俺の存在は勘づかれてないようだ。このままバレない内に忍び足で部屋に帰還――
「ホーキンス、お前がいるのも分かっている。さっさと出て来い」
ま、まだだ。先生は俺の姿を見たわけじゃない。つまりこれはブラフ! このままニンジャのように素早く静かに……。
「ほう、あくまで出て来ないつもりか。ならばもう1度『アレ』を喰らわせてやろうか」
その言葉を聞いた途端に先月のトラウマが蘇った俺は、頭で考えるよりも先に手足が動き、敬礼しながら大慌てで部屋の前に立った。
「は、はいぃっ! 出ます出ます! すぐ出ます今すぐ出ます!」
あ、『アレ』は、『アレ』だけは二度とごめんだ……!
「ウィル!? お前そんな所で何してたんだよ!?」
「まったく。始めからそうしろ、馬鹿者め」
「す、すみませんでした。だ、だから、『アレ』だけは……!」
「「「「「あぁ……」」」」」
ガタガタと情け無く震える俺に、同情の念が籠った視線が向けられる。やめろ、そんな目で俺を見るな。
「はぁ、まあ良い。それよりこいつはマッサージが上手くてな。お前達も順番にやってもらえ」
「「「「「「…………え?」」」」」」
マッサージ……?
「ん? お前達、間抜けなツラを晒してどうした? ……ああ、成程。まさか私がこいつと人前では言えないようなことをしているとでも思ったか?」
はっはっはっ、と面白そうに笑う織斑先生。そんな彼女とは正反対に俺達は自分が勝手に変なことを妄想していたのが気恥ずかしくなって縮こまってしまう。
「じゃあ早速始めようか。セシリア、そこにうつ伏せになってくれ」
「わ、わたくしからですか?」
「そのためにここへ呼んだんだ。夕食の時の埋め合わせでマッサージをサービスしようと思ってな。でもセシリアって班部屋だろ? それじゃ落ち着かないだろうからさ」
へぇ、一夏のやつセシリアとそんな約束を交わしてたのか。道理で夕食後のセシリアが上機嫌だったわけだ。
「重点的にして欲しいところはあるか?」
「お、お任せします……」
目に見えて落ち込んだ様子のセシリア。そんな彼女の様子に気付くことなく、一夏のマッサージは始まった。
「一夏、マッサージはその辺でもういいだろう。お前はもう1度風呂に入ってこい」
「ん。ちょうど2人連続でマッサージして汗もかいたし、そうするよ」
織斑先生の言葉に頷いた一夏は、バッグからタオルと着替えを取り出す。
「ホーキンス、お前も行ってこい。汗まみれだぞ」
確かに今の俺は背中や額に汗が伝っている。だがしかし、これは暑いからではなく織斑先生に脅された時に噴き出た冷や汗なのは明白だ。
とにもかくにも、汗で張り付いた服を着たまま寝るのは勘弁願いたいので、「分かりました」と返事をした俺はタオルと着替えを取りに部屋へ戻るのだった。
▽
「「「「「……………」」」」」
ウィリアムと一夏が去り、室内に取り残された女子が5人。何をすればいいのか分からず、まさに借りてきた猫状態だ。
「おいおい、葬式か通夜か? いつものバカ騒ぎはどうした」
「い、いえ、その……」
「お、織斑先生とこうして話すのは、ええと……」
「は、初めてですし……」
「まったく、しょうがないな。私が飲み物を奢ってやろう。篠ノ之、何がいい?」
いきなり名前を呼ばれて、箒はビクッと肩を
そうこうしていると千冬は旅館の備え付けの冷蔵庫を開け、中から清涼飲料水を5人分取り出していく。
「ほれ。ラムネとオレンジジュースとスポーツドリンクにコーヒー、紅茶だ。それぞれ他のがいい奴は各人で交換しろ」
そう言われたものの、順番に箒・シャルロット・鈴・ラウラ・セシリアと受け取った全員が渡されたもので満足だったために交換会は開かれなかった。
「「「「「い、いただきます」」」」」
全員が同じ言葉を口にして、そして次に飲み物を口にする。
女子の喉がゴクリと動いたのを見て、千冬はニヤリと笑った。
「飲んだな?」
「は、はい?」
「た、確かに、いただきましたが……」
「な、何か入っていましたの!?」
「失礼なことを言うなバカめ。なに、ちょっとした口封じだ」
そう言って千冬が新たに取り出したのは、星のマークがキラリと光る缶ビールだった。
プシュッ! と景気の良い音を立てて飛沫と泡が飛び出す。それを唇で受け取って、そのまま千冬はゴクゴクと喉を鳴らした。
「……ぷはぁっ! さて、そろそろ肝心の話をするか」
缶ビール片手にベッドへ腰掛けながら、千冬が続ける。
「お前ら、あいつらのどこが良いんだ?」
あいつら、と言ってはいるが全員が誰と誰を指しているか分かっていた。一夏、そしてウィリアム――この2人しかいない。
「わ、私は別に……以前より腕が落ちているのが腹立たしいだけですので」
と、ラムネを傾けながら箒。
「あたしは、腐れ縁なだけだし……」
スポーツドリンクのフチをなぞりながら、モゴモゴと言う鈴。
「わ、わたくしはクラス代表としてしっかりして欲しいだけです」
紅茶のボトルを円を描くようにしながら揺するセシリアがそう答える。
「ふむ、そうか。ではそう一夏に伝えておこう」
シレッとそんなことを言う千冬に、3人はギョッとしてから一斉に詰め寄った。
「「「言わなくていいです!」」」
その様子をはっはっはっと笑い声で受け流して、千冬はまた缶ビールを傾ける。
「僕――あの、私は……優しいところ、です……」
ポツリとそう言ったのはシャルロットで、声の小ささとは裏腹にそこには真摯な響きがあった。
「ほう。しかしなあ、あいつは誰にでも優しいぞ」
「そ、そうですね……。そこがちょっと、悔しいかなぁ」
あははと照れ笑いをしながら、熱くなった頬をパタパタと扇ぐシャルロット。なんだかその様子が羨ましいのか悔しいのか、前述3名はジーっと押し黙ってシャルロットを見つめていた。
「まあ、無自覚たらしなのは置いといてだ。あいつは役に立つぞ。家事も料理もなかなかだし、マッサージだって上手い」
そうだろ、オルコット? と話を振られたセシリアは赤い顔をして俯き、頷く。
「というわけで付き合える女は得だな。どうだ、欲しいか?」
え!? と箒・鈴・セシリア・シャルロットが顔を上げ、声をハモらせた。
「「「「くれるんですか!?」」」」
「やるかバカ」
ええ~……と心の中で突っ込む女子4名。
「女ならな、奪うくらいの気持ちで行かなくてどうする。自分を磨けよ、ガキども」
実に楽しそうな表情でそう言いながら、2本目のビールを取り出した千冬。
「さて、最後はボーデヴィッヒだな」
さっきから一言も発していないラウラは、いきなり千冬に話を振られてビクッと身を竦ませる。
「わ、私……ですか……?」
「お前はこいつらと違ってホーキンスにゾッコンのようだからな」
ストレートにゾッコンという言葉を使われたラウラは、熟れたトマトのように顔を赤くしながらも言葉を紡ぎ始めた。
「か、格好いいところが、でしょうか……」
「それは見た目の話か?」
「た、確かに見た目も……ですが……もっと、内面的なものです」
「そうか。だが、あいつには間の抜けた所があるぞ? 格好がつかないと言うべきか。空に上がっている時のあいつは確かに鋭さを持ち合わせているが、それ以外だとどうにも締まらない奴だ」
「そ、それでも。……それでも、ウィルは格好いいと思います」
珍しく食ってかかるラウラに少し目を丸くした千冬は、そうかねぇ……と言いながら2本目のビールを空にする。
「まあ、お前がそう思うのならそれで良いだろう。せいぜい手離さんようにな」
「はい!」
そう力強く返事をするラウラを前に千冬は慈愛に満ちた表情を浮かべるのであった。