インフィニット・ストラトス 蒼空に鮫は舞う   作:Su-57 アクーラ機

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31話 戦鳥(ウォーバード)

「(これまで……なのか……)」

 

銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)】の『銀の鐘(シルバー・ベル)』によって満身創痍(まんしんそうい)となったラウラ。海面へと真っ逆さまに落ちて行く彼女の頭の中に、ふと1つのことが浮かんだ。

 

 ――会いたい。

 

 ――ウィルに会いたい。今すぐにでも会いたい。

 

 ――ウィルの声が、聞きたい。

 

「ウィ、ル……」

 

 薄れゆく意識の中で、知らず知らずのうちに口からは自らの(おも)い人の、その愛称を呼ぶ声が出ていた。

 と、次の瞬間――。

 

 ガクンッ

 

「……え?」

 

 突然の衝撃にラウラの意識は引き戻される。しかし衝撃と言っても強烈なものではなく、まるで全身を優しく抱き留められたような、そんな感覚だった。

 そして、下方へ垂直に落下していたはずの景色が、今度は左から右へと高速で流れていく。

 

「(いったい何が――)」

 

 キィィィィン……!!

 

 耳をつんざくような甲高い轟音。ISの聴力保護機能が無ければ思わず耳を塞ぎたくなるほどのそれは、しかしラウラにとって聞き慣れた音だった。

 

「(これは……この音は……)」

 

 ゆっくりと顔を上げて視界に入ったのは、鋭い歯が並ぶ大きく裂けた口と正面を睨み付けるような瞳のノーズアート。

 ――間違いない。

 

「遅れてスマン。これでもかなり飛ばして来たんだ」

 

「ウィル……!」

 

 ジェットの轟音を引き連れてやって来たのはラウラが会いたいと願い続けた人物、【バスター・イーグル】第2形態・『ウォーバード』を纏ったウィリアムだった。

 

 ▽

 

「か、体はっ!? ど、どこか怪我はしてないかっ……!?」

 

 慌てた様子のラウラに、俺はヘッドギアで表情を見せることはできないが笑って答える。

 

「おう。この通りピンピンしてるぞ。機体が頑丈な構造をしていたおかげだな」

 

「よかった……無事で、本当にっ……」

 

「ははは。心配かけたな」

 

「まったくだ、馬鹿者っ! 私がっ、どれだけ心配したとっ……!」

 

 グシグシと目元を拭うラウラに叱られて、俺は苦笑を浮かべた。

 

「悪かったよ。俺はもう大丈夫だ。それと、もうじき一夏も来るぞ」

 

 そう言ってニヤリと笑いながら、俺は視線をレーダーから【福音】へと移す。

 

『!?』

 

 突然、【福音】は箒を掴んでいた手を離す。そして次の瞬間、真横からの荷電粒子砲による狙撃を受けて吹き飛ばされた。

 

「俺の仲間は、誰1人としてやらせねえ!!」

 

 現れたのは、白く輝きを放つ機体。【白式】第2形態・『雪羅(せつら)』を纏う一夏の姿が、そこにあった。

 

「さぁて、決着をつけないとな」

 

 付近に点在する小島の砂浜にラウラを降ろして、また飛び立とうとする。

 

「ま、待てウィル。その姿……第2形態移行(セカンド・シフト)を……!?」

 

「ん? ああ……」

 

 ラウラに言われて、俺は自分の今の姿を確認してみることにした。

 以前までの流線型の機体形状は鋭角的なものへと変わり、垂直尾翼にも傾斜が設けられている。まるでステルス機のような――というより、ステルス機を意識しているのだろう。

 そして現在の武装だが、機銃とハードポイントが機体表面から全て消えていた(・・・・・・・・・・・・・)

 不思議に思いながら『ブッシュマスター』のトリガーに指を掛ける。すると、ガコッと音を立てて細長い六角形のカバーが開き、砲身が露出した。

 もしかしてと思ってミサイルシステムを起動すると、左右のエアインテーク下面が縦に割れ、ミサイルを搭載した4連式のロータリーランチャー(回転式発射器)が顔を覗かせる。

 その他にも主翼根に三角形の膨らみ――小型ウェポンベイ――が配されていて、ここにもミサイルが格納されていた。

 機体サイズが少し大きくなっているが、これは武装の内蔵化が理由だろう。

 

「これが第2形態移行か……。どうやら相棒が力を貸してくれているらしい。ということで、ちょっと行ってくる」

 

 言うなり、俺はエンジン出力を上げて浮上する。

 

「ウィル!」

 

 瞳に未だ不安の色を残しながら呼び止めてくるラウラに、俺はフッと笑って右手をサムズアップして見せた。

 

「必ず帰る。約束だ」

 

「っ! ああ! 必ずだぞ!」

 

 ラウラの言葉に深く頷いてから、俺は一夏と箒の元へと飛翔して行く。

 

 

 

 

 

 

「え? このリボンは……?」

 

「今日は7月7日だろ。誕生日おめでとう、箒」

 

 2人の元へ向かっていると、そんな会話が聞こえてきた。こんな所でイチャつくとは。まったく……。

 

「あー、もしもしお2人さん。こんなことを言ったら誰かに空気読めよと言われそうだが、ラブコメはあとにしないか?」

 

 こういうのは邪魔したら馬に蹴り殺されそうだが、その前に【福音】に殺されちまうぞ。

 

「ら、ラブっ……!?」

 

「何言ってんだよウィル。誕生日プレゼント渡してただけだって」

 

 そんな激甘な雰囲気漂わせておいてよく言うぜ、この唐変木め。

 

「まあ良い。それより、ペイバックタイムと行くぞ」

 

「おう! 今度こそ終わらせようぜ!」

 

 言うが早いか、一夏はこちらに向かって来ていた【福音】へと急加速、正面から斬りかかる。

 それをヒラリと仰け反ってかわした【福音】を、今度は俺が真横から機銃で攻めた。

 

「こっちにもいるのを忘れるなよ」

 

【バスター・イーグル】のステルス化による恩恵なのか、俺の存在に気付くのが遅れた【福音】は30ミリ砲弾の直撃を浴びて大きく姿勢を崩す。

 

「逃がさねえ!」

 

 姿勢が崩れた【福音】を待っていたのは、一夏の左手に新設された兵器『雪羅』から伸びるエネルギー状のクローだった。

 1メートル以上に伸びたクローが福音の装甲を斬る。シールドエネルギーに阻まれはしたが、その一撃は確実に【福音】に届いていた。

 

『敵機の情報を更新。攻撃レベルAで対処する』

 

 エネルギー翼を大きく広げ、さらに胴体から生えた翼を伸ばす。そして一夏から距離を取ったあと、【福音】の掃射反撃が始まった。

 

「そう何度も喰らうかよ!」

 

 一夏はそれを避けようとはせず、左手を構えて前へと飛ぶ。

 あいつ、自分から突っ込んで何を……!? と、一夏の正気を疑う俺だったが、次の瞬間、左腕の『雪羅』が変形。それから光の膜が広がって、【福音】の弾雨を文字通り消した。

 

「エネルギーを打ち消したのか……?」

 

 エネルギーを打ち消すといえば、零落白夜も同じ特性を持っていたはずだ。言うなれば、今のは零落白夜のシールド(・・・・・・・・・)

 そして、【福音】には実弾兵器が搭載されておらず、武装は全てエネルギー兵器のみなのは、カタログスペックで確認済みだ。つまり、エネルギー兵器で武装を固めている【福音】相手にかなり有利に立ち回れる。

 だが問題はエネルギーの消耗率だ。零落白夜と同じ原理だとすれば、ただでさえ燃費の悪い【白式】にこれを連発させるわけにはいかない。

 

「一夏、今のエネルギー残量は?」

 

「残り70を切った! やっぱり燃費だけは――!」

 

 と、そこへ話を遮って【福音】の反撃が一夏を襲う。かろうじて回避に成功するが、直撃すれば初戦の二の舞になるのは確かだ。

 

「(もう目の前で仲間がやられるのを見るのはゴメンだ……!!)」

 

 俺は『ブッシュマスター』を撃ちながら【福音】へと急接近した。

 

『攻撃優先順位を変更。目標を撃墜する』

 

「はっ、やってみろ! 初戦のお返しをしてやる!」

 

 機械音声を告げて追撃してくる【福音】に対して挑発的な言葉を返す。

 今度はもう墜とされはしない。仲間を守るために。そして、ラウラとの約束を守るために!

 

「ウィル! くぅっ、ついて行けねえ……!」

 

「一夏! こいつは俺が大人しくさせる! お前はトドメを頼んだ!」

 

 なんとか援護に入ろうとする一夏を置いて、激しい機動を繰り返しながら俺と【福音】はぶつかり合う。

 

「ま、だ……まだぁっ!!」

 

 光弾をバレルロールで回避した俺は、体に掛かる強烈なGを無視して続けざまにハーフクルビットで機体を180度反転。向かって来る【福音】と撃ち合いながら交差した。

 

 ▽

 

「(なんて機動だ……!!)」

 

 それはもう、驚きを通り越えていた。

 高速域でのカウンター・マニューバ。高度な技術を必要とするのはもちろんだが、加えて機体と操縦者の両方に掛かる負荷は生半可なものではない。

 にも拘わらずウィリアムはまるで機体を手足のように振り回し、それを連発し、【福音】の超機動とほぼ互角に渡り合っていた。

 しかし、数々の兵器の操縦方を体得してきたラウラだからこそ、ウィリアムが相当な無茶をしていることも容易に想像できてしまう。

 故に、ラウラは願った。

 

「(私は、共に戦いたい。ウィルが戦っているのをただ眺めているだけは嫌だ!)」

 

 強く、強く願う。

 そして、その願いに応えるように【シュヴァルツェア・レーゲン】の両肩に装着していたレールカノンのうち1基が、駆動音を上げながら空を(あお)いだ。

 

「……!」

 

 ハイパーセンサーから送られてくる情報で、右肩のレールカノンの状態を確認する。

 

 ――『ブリッツ』2番砲、対IS特殊榴弾(りゅうだん)を装填。ダメージレベルC。照準システムに異常あり――

 

 ダメージレベルC、良くて1発撃てるくらいだ。おまけに照準システムも損傷しているらしく、目視による直接照準射撃を行う他ない。

 

「(だがそれでも、私はウィルの助けになりたい。ウィルを守りたい……!)」

 

 左目の眼帯を外し、金色に輝く瞳――ヴォーダン・オージェの封印を解く。

 

「スゥーー……フゥーー……」

 

 深呼吸をして自身を落ち着かせたラウラは、冷静に『ブリッツ』の照準を【福音】に合わせるのだった。

 

 ▽

 

「ふーっ、ふーっ! ぐぅっ!」

 

 推力偏向ノズルと動翼を用いた急激な旋回機動。そして【福音】の後ろを取ってミサイルをぶつける。

 命中した箇所のエネルギー翼は破壊されるのだが、リミッター無しの純軍用ISはエネルギーにもかなり余裕があるらしく、強力な連続射撃で応戦してきながら、その合間を縫って失った翼を再構築していた。

 

「うっ……!」

 

【福音】の攻撃をかわそうと急上昇した刹那、いきなり視界が暗くなり、視野が(せば)まり始めた。……まずい、グレイアウトだ。

 これは下方向に掛かるGによって脳への血流が弱まり視界が色調を無くす現象のことで、このまま高Gに晒され続ければ次に待っているのはブラックアウト。つまり、完全に視野を失うことになる。

 対する【福音】は、現在生身の人間ではなくハッキングされた機体自身が操縦をしているため、グレイアウトもブラックアウトも関係ない。

 

『目標を正面に捕捉。『銀の鐘(シルバー・ベル)』最大出力』

 

 エネルギー翼を全稼働させた【福音】が真上に現れ、俺に影を落とす。まずい! 避けきれるか……!?

 

「――ウィル!」

 

 いきなり自分にかけられた声。この声はラウラのものだ。

 

「右へ回避しろ!」

 

 突然のことで一瞬だけ困惑するが、俺はその声を信じて右へ舵を切る。

 そして、その直後――

 

 ズドオォォォンッ!!

 

 夕暮れの空を切り裂いて飛来した超音速の砲弾が【福音】の背中に直撃し、爆発を起こした。

 爆風に煽られて数十メートルほど吹き飛ばされた俺は機体姿勢を立て直しながら、【福音】がどうなったのか気になって視線をやる。

 

『―――――』

 

 対IS特殊榴弾の直撃を浴びて力なく吹き飛ばされる【福音】の姿が、そこにあった。

 

「(……チャンスだ……!)」

 

 サッと、一夏がいる方角へと視線を移す。

 赤い光に黄金の輝きを放つ箒の――【紅椿】の手に触れている一夏の【白式】。その機体が手に持つ『雪片弐型』は、とてもエネルギー残量70%では作れるはずのない巨大な光刃を形成していた。

 箒のISはエネルギーを回復させる能力でも持っているのか? ――と、つい要らぬ考察が頭を(よぎ)るが、その思考はすぐに捨て去り、俺は盛大に声を張り上げた。

 

「一夏あぁっ!!!」

 

「任せろおおおっ!!!」

 

 最大出力の『雪片弐型』、その巨大な光の刃を、一夏は両手で支えて振るう。

 

「うおおおっ!」

 

 回避は間に合わないと判断して、一夏に向けて体から生えた翼全てで一斉射撃を行おうとする【福音】。

 だがしかし――

 

「させるか!」

 

 一夏に向けられた翼を、【紅椿】の2刀が並び一段の斬撃で断ち切る。

 それならばと回し蹴りを放とうとする【福音】に、今度は俺が真上から『ブッシュマスター』を喰らわせた。

 

「言ったはずだ。初戦のお返しをしてやるってな!」

 

『――!?』

 

 ドカカカカカッと機銃弾の雨に当てられた【福音】は大きく姿勢を崩す。

 

「おおおおおっ!!」

 

 エネルギー刃を【福音】の装甲に突き立てて、さらに一夏は全ブースターを最大出力まで上げる。

 押されながらも、一夏の首へと手を伸ばす【福音】。その指先が彼の喉笛に食い込んだところで、銀色のISはようやく機能を停止した。

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」

 

 アーマーを失い、スーツだけの状態になった操縦者が海へと墜ちていく。

 

「しまっ――!」

 

「大丈夫だ、しっかり掴んでる」

 

 落下先にいた俺がキャッチすることで、操縦者が魚のエサになることは未然に防いだ。

 ツメが甘かったな一夏、と言って笑っているところへ、ダメージから回復したらしい鈴がやって来る。同じくセシリアとシャルロット、そしてラウラも無傷ではないものの無事な様子だった。

 

「終わったな」

 

「ああ……。やっと、な」

 

「長い1日だったなぁ」

 

 それはそうと、あとでラウラにしっかり礼を言わないと。あの時は本当に助かった。

 そう思いながら、ふと空を見上げると、あれほどまでの青さを誇った空はもう既になく、夕闇の朱色に世界は優しく包まれていた。

 

 

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