インフィニット・ストラトス 蒼空に鮫は舞う   作:Su-57 アクーラ機

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38話 幸せのミックスベリー

「もう夕方だね」

 

 強盗事件から数時間後。せっかくだから、ということで俺もラウラとシャルロットに同行することとなり、買い物を済ませた2人と共に駅前のデパートから出ると外はもうオレンジの光景に変わっていた。

 

「買い物はもう全部か?」

 

「うん。っていうかラウラ、自分のものなのに後半は『任せる』とか『好きにしろ』とかばっかりだったでしょ」

 

 ダメだよ、女の子なんだから。と小言を言うシャルロット。

 彼女の言う通り、ラウラは服屋に行っても小物店に行ってもそんな調子だったのだ。

 ラウラ、それ全部お前の私物になるんだぞ?

 

「あまり小言ばかり言うな。老けるぞ」

 

「ふ、老けないよっ」

 

 そんなラウラとシャルロットのやり取りを横目に、俺は先刻の服屋での出来事を思い出していた。

 

『ね、ねっ、ウィル。ラウラの服どっちが良いと思う?』

 

『え? えー、俺に女子の服装で訊かれてもなぁ』

 

『直感的にラウラが着たら可愛いなぁって思うのは?』

 

『それなら、個人的には右のやつが良いとは思うが……』

 

『右? じゃあこれに決定だねっ!』

 

 どういうわけか、ラウラの私服を選ぶシャルロットが頻繁(ひんぱん)に俺に意見を求めてきたのである。

 ラウラの服なんだから、俺の意見ばかり取り入れても意味がないんじゃないのか? というのは、心の中にしまっておくとしよう。世辞(せじ)贔屓(ひいき)抜きでよく似合っていたのは事実なのだから。

 

「それにしても、結構買っちゃったね。店長がこっそりお給料入れてくれたから、予定よりも色々買えて助かったね」

 

「む、金か? それならば口座に2,000万ユーロほどあるはずだが……」

 

「え、そんなに持ってるの!?」

 

「ぶふっ!?」

 

 何事もなさそうに告げられたラウラの言葉にシャルロットは驚きを隠せず、俺もその場で思わずむせて(・・・)しまう。に、にににっ、2,000万ユーロだと……!?

 

「ああ。まあ、私は生まれた時から軍属だしな。それにISの国家代表候補生になってからは、その分も上乗せされている」

 

「(お、俺も軍から月8,000ドルほど給与されて今2~3万ドルくらい口座に残ってるが、ケタがおかしいだろケタが……!)」

 

 ちなみに捕捉だが、1ユーロは現在の日本円に直すと約130円ほど。1ドルは約110円ほどだ。これでラウラの貯蓄がいかにケタ外れかが分かるだろう。

 

「しかし引き出し方が分からん。今までは軍からの支給品でことが足りたのでな、給料は1度も使ったことがない」

 

「あー、うん。そっか……。取り敢えずラウラ、貯金するのはするで良いことだと思うから、あとはお金の使い方も覚えていこっか」

 

「口座からの引き出し方は俺が教えてやるから」

 

「うむ。よろしく頼む」

 

 と、そうこうしているうちに俺達はデパートからほど近い城址(じょうし)公園に着いた。

 なんでもシャルロットの話では、この公園は日本の古城跡地だそうだ。

 

「確かクレープ屋さんはこの辺にあるはずなんだけど……」

 

「うん? クレープ屋? なぜだ」

 

「クレープが食いたくなったのか?」

 

「えっと、休憩時間にお店の人に聞いたんだけど、ここの公園のクレープ屋さんでミックスベリーを食べると幸せになれるおまじないがあるんだって」

 

「『オマジナイ』……というのは、日本のオカルトか?」

 

「いや、たぶんだが、ジンクスみたいなものだろう」

 

『○○の映画を一緒に観たカップルは結ばれる』とか、反対に『初デートで○○へ行ったカップルは別れる』とか、女子はそういった話に目が無いらしいしな。

 

「ああ、験担(げんかつ)ぎか」

 

「あー、うん……」

 

 成程、と頷くラウラに対して、シャルロットが少し困った顔をしていた。

 まあ、『験担ぎ』だなんて響きはメルヘンもへったくれもないもんな。

 

「ん? なあ、そのクレープ屋ってあれじゃないか?」

 

 探していたその店は、案外すぐに見つかった。

 俺が指差す先。恐らくは部活帰りや外出の寄り道なのだろう、女子高生が局所的に多くいる一角にその店はあった。

 

「じゃ、早速頼んでみようよ」

 

 シャルロットがラウラの手を引いて、バン車を改造した移動型店舗であるクレープ屋へと向かう。

 俺も2人のあとに続いて店に入ると、クレープ生地と甘いソースのほのかな香りが鼻腔をくすぐった。

 

「すみませーん、クレープ3つください。ミックスベリーで」

 

 シャルロットがそう言うと、店主であろう20代後半の男性が、無精(ぶしょう)ヒゲにバンダナという風体(ふうてい)でありながら人懐っこい顔で頭を下げる。

 

「あぁー、ごめんなさい。今日、ミックスベリーは終わっちゃったんですよ」

 

「あ、そうなんですか。残念……。2人とも、別のにする?」

 

「ふーむ、どれも美味そうだからなぁ。ラウラはどうだ?」

 

「ん? そうだな。ではイチゴとブルーベリー、それとチョコをくれ」

 

 3つだ、と指を3本立てて付け加え、ついでに代金も全額払おうとする。――って、代金まで女の子に払わせちゃあ、さすがに俺の立つ瀬が無いだろうが。

 

「待て待て、ラウラ。ここの代金は俺が払うよ。じゃないと面目が立たない」

 

「なんだ、そんなことか。別に私は気にしないぞ」

 

「俺が気にするんだよ」

 

 そう言って3人分の代金を支払った俺は、少ししてから出された出来立てのクレープを受け取る。

 

「どれがいい?」

 

「うーん。じゃあ僕はチョコで」

 

「では私はブルーベリーをもらおうか」

 

 俺達は少し店から離れたベンチに腰掛けると、クレープを小さくかじった。

 

「んむ、んっ。これ、おいしいね!」

 

「そうだな。クレープの実物を食べるのは初めてだが、美味いと思うぞ」

 

「ああ、確かに美味いな。クレープなんて久方ぶりに食ったよ」

 

 噂のミックスベリーを食べられなかったことに最初は少し沈んでいたシャルロットだったが、出来立ての柔らかさもあってその味に声が弾んでいる。

 その隣に座るラウラも初めて食べるクレープが気に入ったようで、本当に美味そうに感想を述べていた。

 

「おいしー。せっかくだから、また来ようよ。次はみんなも誘ってさ」

 

「そうだな。あいつらもここのクレープは気に入るだろう」

 

「みんなで行くのも良いが、『一夏と2人きり』で行くのもアリなんじゃないか、シャルロット?」

 

「なっ!? う、ううウィル!? い、いきなり何言い出すのさっ! もうっ」

 

 ニヤッと笑いながら意地悪く言ってみると、シャルロットはたちまち顔を真っ赤にしてそっぽを向き、誤魔化すように早いペースでクレープをかじる。

 

「(はっはっはっ。今のはちょーっと悪ふざけが過ぎたか)」

 

「ウィル」

 

「ん? なんだ、ラウ――」

 

 クイッ。――と、ラウラが俺の唇を親指で拭った。

 

「ど、どうしたいきなり……?」

 

「唇にソースがついていたぞ。……ふむ、イチゴも美味いな」

 

 自身の親指についたソースを舐め取りながら言うラウラ。

 そんなラウラの仕草が異様に魅力的に見えて、それと同時に自分が子供のように口元にソースをつけていたことが恥ずかしくて、俺の顔は一気に熱を()び始めた。

 

「こっ、子供じゃないんだ。言ってくれれば自分で――」

 

「その前に垂れ落ちそうだった」

 

 本当に他意はないようで、ラウラは俺がなんで騒いでいるのか分からず小首をかしげる。

 

「おっと」

 

 ペロリ、と自分の手の甲に垂れたソースを舐めるラウラ。それはちょうど毛繕(けづくろ)いをしている猫そっくりだった。

 

「ッ~~~~~!!」

 

 ラウラの所作に、俺の心臓はバクバクと鳴ったまま一向に鎮まる気配を見せない。

 

「(こ、こいつめ……。自分の容姿とか行動とかをまったく自覚してない分、余計タチが悪いな……)」

 

 そう頭の中で唸っている俺の前に、横からクレープが差し出された。

 

「そう怒るな。ほら、私のクレープを一口やる」

 

「いや、俺は別に――」

 

「どうした。かじっていいぞ?」

 

 ……………。

 微笑みながらクレープを口元に近づけてくるラウラ。そんなことをされれば、いらないと言って断る気など失せてしまう。

 

「……そ、それじゃあ……」

 

 差し出されたクレープを小さくかじれば、口の中に甘酸っぱいブルーベリーの風味が広がる――のだが、生憎と今の俺には味を楽しんでいる余裕など無かった。

 心臓は今にも破裂しそうなほど鳴り響き、おまけに顔も恐ろしく熱を放っている。

 

「ああ、そういえばあのクレープ屋だがな、ミックスベリーはそもそも存在しないぞ」

 

「「え?」」

 

 突然のラウラの発言に俺もシャルロットもキョトンとしてしまった。

 存在しない? じゃあその噂はデマだったということなのだろうか。

 

「メニューが無かったし、厨房にもそれらしき色のソースは見あたらなかった。だが……」

 

 ニヤリ、と楽しそうに笑いながら、ラウラは言葉を続ける。

 

「ミックスベリーを食べることはできるぞ。例えばこのブルーベリーとイチゴ、ミックス(・・・・)すればどうなる?」

 

 ブルーベリーとイチゴ(ストロベリー)をミックス……ああっ!

 

「そういうことか!」

 

「あっ、ミックスベリー!?」

 

「ご名答」

 

 どうやら答えは100点だったようだ。楽しげにラウラはまた一口クレープをかじる。

 

「そっかぁ……。『いつも売り切れのミックスベリー』って、そういうことだったんだ」

 

「まったく盲点だったなあ」

 

 してやられた、と苦笑しながら俺はクレープをかじる。

 成程な。幸せを呼ぶミックスベリーってのは、つまりそういう意味だったのか。そりゃあ彼氏彼女でミックスベリーを食べたら幸せな気分にも…………あ、あれ? ということは、俺とラウラがさっきやったのって……!

 

「ッッ~~~~~!!」

 

 心の中で盛大にのたうち回りながら、俺は残ったクレープを口に押し込むハメになるのであった。

 

 ▽

 

「こ、これは、なんだ……?」

 

「ん~♪ かわいーっ。ラウラ、すっごく似合うよ!」

 

「だ、抱きつくなっ。う、動きにくいだろう……」

 

「ふっふー、ダ~メ。猫っていうのは、膝の上で大人しくしないと」

 

「お、お前も猫だろうが……」

 

 そんな楽しげな声が聞こえているのは、ラウラとシャルロットの寮部屋である。

 夕飯を済ませて特にすることもなくゴロゴロしていた2人は、シャルロットの提案で早速今日買ったばかりのパジャマを着てみよう! ということになったのだった。

 

「これは……本当にパジャマなのか?」

 

「うん、そうだよ。寝やすいでしょ?」

 

「ね、寝てないから分かるはずないだろう」

 

 ラウラが疑うのも無理はない。それは紛れもなくパジャマではあるのだが、一般的にあまり見ないタイプのパジャマだったのだ。

 袋状になっている衣服にスッポリと体を入れ、出ているのは顔だけ。しかも、フードにはネコミミが付いており、手先足先にはこれまた肉球が付いている。

 ――つまるところ、猫の着ぐるみパジャマだった。

 

「や、やはり寝る時は下着でいい。その方が楽だ」

 

「ダメだってば~。それに、こんなに似合ってるのに脱ぐなんてもったいないよ」

 

 2人の格好はというと、ラウラが黒猫パジャマ、シャルロットが白猫パジャマである。特にシャルロットはこれをお互いに着てから、ずっとラウラを後ろから抱きしめる形で膝の上に座らせていた。相当気に入っているらしい。

 

「ほら、ラウラ。せっかくだから、ニャーンって言ってみて」

 

「こ、断るっ! な、なぜそんなことをしなくてはならない!?」

 

「えー、だって可愛いよ~。可愛いのは何よりも優先されることだよ~」

 

 今にもポワポワと音が聞こえてきそうなハッピースマイルのシャルロットは、ラウラにとっていつも以上の強敵だった。

 とにかく『可愛いからいい』『これを着ないなんてもったいない』『残念ながらその要求は却下されました』という、いつもとは180度反対の理屈も根拠(こんきょ)も交渉の余地もない強引なやり取りで、気がつけばシャルロットの膝の上に座らされていた。

 

「ほらほら、言ってみようよ~。ニャーン♪」

 

「にゃ、ニャ~ン……」

 

 照れくさそうに猫の手振りまでつける眼帯黒猫ラウラに、シャルロットの幸せメータはますますパーセンテージを上げていく。

 

「ラウラ可愛い~っ。写真撮ろう! ね、ねっ!?」

 

「き、記録を残すだと!? 断固拒否する!」

 

「そんなこと言わずにさ~」

 

 コンコン

 

「はーい、どうぞ~」

 

 女子寮のフランクさで答えたシャルロットは、ラウラを愛でて幸せいっぱいだった笑顔が次の瞬間ボッと真っ赤になった。

 

「おっす。お、なんか変わった服着てるな」

 

 なんと、来客は一夏だった。

 

「(えええええっ!? い、今までいきなり部屋に来ることなんて1回もなかったのに、なんで急に!? ――うあああっ、猫パジャマ着てるのにっ)」

 

 頭の中でパニックを起こすシャルロット。

 

「(今のうちか)」

 

 隙を見て腕から抜け出したラウラだったが、彼女もまたシャルロットと同様に顔を真っ赤に染めて硬直してしまう。

 というのも……

 

「変わった服? いったいどんな……ワオ、確かに珍しいタイプの服……着ぐるみ? だな」

 

 一夏に続いてウィリアムも入室して来たからである。

 

「(な、ななななっ、なぜウィルまでここに!? お前はこのような時間帯に部屋を訪ねて来たりはしなかっただろう! なぜ今日に限って!? ――くっ、このような格好を見られたら確実に笑われるっ)」

 

 いっそのこと眠らせる(・・・・)か!? などと物騒なことを思案し始めるが、ウィリアムに何やら小箱を差し出されたことで『ウィルの記憶消去作戦』は中断させられた。

 

「実はこれをラウラに渡そうと思ってな」

 

「なんだ、これは?」

 

 全体的に黒く少し高級感のある長方形の箱を受け取り、しげしげと眺めるラウラ。 

 不思議に思いながらそれを開けてみると、これまた上質な緩衝材の中に1本のペンが収められていた。

 

「ペン……?」

 

「ああ。ほら、前にラウラにペン貸したことがあっただろ?」

 

 それは夏休みに入る少し前にまでさかのぼる。

 運悪く使っているペンが壊れてしまい、ウィリアムに余っているものを貸してくれないか相談しに行ったところ(こころよ)く差し出されたのが、今箱の中に入っているものと同じペンだったのだ。

 

「返す時に、手に馴染むようで使いやすかったって言って気に入っていたようだったからな。今日出先(でさき)で買って来たんだ。俺が持ってるのと同じ黒色のやつしかなかったんだが、よかったら使ってくれ」

 

「そ、そうか。うむ。嫁からのプレゼントとは、夫として嬉しい限りだな。大切に使わせてもらうとしよう。……ふふっ」

 

 いつもの調子を取り繕ってそう言うラウラだが、表情筋が緩んでしまっていることには気づいていないらしい。

 頬はほんのりと桜色に染まり、口角は無意識のうちに上がっていた。

 

「(ウィルからのプレゼント……そのうえお揃い……。これで喜ぶなという方が無理だろう……!)」

 

 一方のウィリアムは渡したペンが想像以上に喜ばれて満足気に微笑んでいた。

 

「(ウォーターワールドに誘ってくれた礼も兼ねてだったんだが、気に入ってもらえたようだな)」

 

 ちなみに余談だが、このペンというのが実はウィリアムの父・ジェームスが勤める『ウォルターズ・エアクラフト社』の製品である。

 これには軍用航空機の機体にも使用される軽量で強度に優れたアルミニウム合金などが用いられている他、なんと持ち手の部分は人間工学に(もと)づいて持ちやすくなるよう設計がされているという代物だ。

 

「っと、そういえば一夏。お前さん、みやげがどうとか言ってなかったか?」

 

「そうそう、ちょっと今日出かけたから、おみやげ配ってたんだよ」

 

 ウィリアムに言われて一夏が見せたのは(アット)マークのロゴが入ったクッキーの包みだった。

 

「!?」

 

 ギクッと、シャルロットは働いていた時の格好を思い出してダラダラと汗を流し始める。

 

「(も、も、もしかして、一夏見てた!? また僕が女の子っぽくないところを!?)」

 

 一夏の言葉はもう(うわ)(そら)で、シャルロットは今日のアルバイトのことを思い出して顔を埋めて暴れたい気持ちになる。

 

「@クルーズのクッキー? どこで買ったんだ?」

 

「いや、買ったというよりもらったんだよ。暑いから休憩がてら店に入ろうと思ったら、なんか警察とかマスコミとかいっぱいいて入れなくてさ。どうすっかなーと思ってたら、なんかバイタリティーのありそうな女店長が、事件に巻き込まれた客にクッキー配ってたんだよ。で、俺もそのうちの1人と思われたみたいでクッキーくれたんだけど、違うからって言おうとしたらいなくなってた。なんか、本社とか視察とか言いながら走って行ったんだよ。変な話だろ?」

 

「う、うん、そう、だね。それで、その事件って?」

 

 もしかしたら別のチェーン店かもしれないという最後の希望を込めて送ったシャルロットの思いは、しかし実らなかった。

 

「銀行強盗だってよ。物騒だなー、最近」

 

「…………… 」

 

 その事件の舞台に目の前の3人がいたことなど露ほども知らずに言う一夏と、滝のような汗を流すシャルロット。

 そんな2人を、ウィリアムとラウラは小首をかしげて眺めていた。

 

シャルロットはなぜあそこまで動揺しているのだ?

 

さあ? 俺にもさっぱりだ

 

 2人が小声でそんなやり取り交わしている間にも、一夏の言葉はさらに続く。

 

「で、なんか取材に答えてる人の話が聞こえたんだけど、なんでももの(すご)い美少女メイドと美少年執事が偶然居合わせた男客と一緒に事件を解決したらしいぜ。しかも、その男客ってのも滅茶苦茶(めちゃくちゃ)すごかったらしくてな。強盗から拳銃を奪った時の動きが見えないほど速かったんだってさ」

 

「……………」

 

 今度はウィリアムがピクッと反応した。

 

「(ふふん。そうかそうか、俺の動きは見えないくらい速かったのかぁ~。俺もまだまだいけるな!)」

 

「どうしたんだウィル。もしかして事件のこと何か知ってたりするのか?」

 

 知らず知らずのうちにドヤ顔を浮かべていたウィリアムに気づいて、一夏が「?」といった表情で訊ねる。

 

「え? ああ、その事件なら……」

 

 ウィリアムが@クルーズでの出来事を説明しようと口を開いた矢先、全力で首を横に振っているシャルロットが視界に収まった。

 どうやら、この件は秘密にしておいて欲しいらしい。

 

「……いや、買い物の途中でえらい数のパトカーが走っているのを見てな。そういうわけだったのかって納得しただけだ。さっ、その話はここまでにして、クッキー食べようぜ?」

 

「それもそうだな。じゃあお茶淹れてくる」

 

「なら俺は皿を出そうか」

 

 言いながら、一夏は部屋の簡易キッチンへ、ウィリアムは食器棚の方へと向かう。

 

「あ、いいよ! 僕が用意するから、2人とも座っててよ」

 

「私も手伝うぞ。客に茶を淹れさせるほど常識に疎くはない」

 

「ん? いや、さすがにその手じゃ無理だろ」

 

「だな。猫の手はまた今度借りることにしよう。猫だけに」

 

 ウィリアムのジョークは置いておくとして、改めて見るとシャルロットもラウラも肉球ハンドだったことに気がついた。

 

「これ、ココアクッキーだな。それじゃあちょうど子猫が2匹いることだし、ホットミルクにしようか」

 

「え、あ、うん」

 

「子猫か。ははっ、確かにそうだな。すぐ用意するから待っててくれ」

 

「う、うむ。任せる」

 

 なんとなく、『子猫』と呼ばれたことに赤くなって、2人は小さく頷く。

 

「う、ウィル」

 

「ん?」

 

「お、お前は、この服をど、どう思う?」

 

 食器棚から皿を人数分取り出しているウィリアムに、思い切って聞いてみる。ラウラは、すぐに落ち着かなさそうに顔を背けた。

 

「ああ。すごく可愛いと思うぞ。よく似合ってる。なあ? 一夏」

 

「おう。2人とも似合ってるぞ。白猫と黒猫ってチョイスがまた良いな」

 

「ほらな?」

 

「そ、そうか。うむ。お前がそう言うなら……わ、悪くはないな。時々は着ることにしよう」

 

「そ、そっかぁ。えへへ、似合ってる、かぁ」

 

 2人が照れくさそうに喜んでいると、それからすぐに一夏がホットミルクを、ウィリアムがクッキーをそれぞれ持って来た。

 夏の夜、けれど飲み物はホットミルクで、4人は秘密のお茶会を過ごす。

 黒猫が1匹、白猫が1匹、(さめ)が1匹に王子様が1人のなんとも不思議なお茶会だった。

 

 

 

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