インフィニット・ストラトス 蒼空に鮫は舞う   作:Su-57 アクーラ機

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 誤字報告ありがとうございます。
 一応、自分でも数回確認してから投稿してはいるのですが、それでも見落としがよくあるので本当に助かっております。


40話 謎の美少女(あらわ)

「おっと。あっぶねぇ……」

 

 ズドォォンッ!

 

 ウィリアムの頭上スレスレを通過した砲弾がアリーナのシールドバリアに命中し、体の芯を揺さぶるような爆音を響かせる。

 

「今のはさすがに焦ったぜ」

 

「ふん。軽々と回避しておいてよく言う」

 

 そう応えながら、ラウラはレールカノンのリボルバーを回転させて次弾を装填する。

 9月3日。1組2組の合同で始まった2学期初の実戦訓練は、まずはクラス代表同士ということで一夏と鈴のバトルに始まり、続いてウィリアムとラウラという形式で行われていた。

 

「それほどの過激な機動を連発させておいて、まだへばらんとはな。タフな奴め」

 

「そりゃあ散々キツい訓練をしてきたから、なっ!」

 

「甘い!」

 

 何の前触れもなく姿勢を反転させるウィリアムだったが、ラウラもラウラでその急激な機動に即座に反応してワイヤーブレードで牽制する。

 

「やっぱり反応してくるか。さすがだな。――ならこいつはどうだ!」

 

 飛んでくるワイヤーの1本をバレルロールで避けたウィリアムは、ウェポンベイから『MSL』を発射する。

 

「無駄だ! この停止結界をもってすればミサイルを受け止めることなど造作もない!」

 

 その言葉通りミサイルはラウラのAICによって眼前で動きを止められてしまう。が、しかし、ラウラの意識がミサイルに移ったその一瞬、ヘッドギアに覆われたウィリアムの口角がニィっと吊り上がった。

 

「かかったな」

 

「!?」

 

 動きを止められたミサイル目掛けて、ウィリアムは右腕の『ブッシュマスター』を撃ち放つ。

 そして、30ミリの砲弾を喰らったそれはラウラの眼前で轟音と共に爆散した。

 

「くっ……!」

 

 爆発による衝撃波までは受け止めることができず、姿勢を崩すラウラ。加えて視界いっぱいに広がる黒煙がウィリアムの姿を掻き消してしまう。

 すぐにISハイパーセンサーの位置情報補足がやってくるが、しかし遅かった。

 

「本命はこっちさ」

 

 眩しい陽光を遮るようにして現れた特徴的なシルエットが、異様なほどスローモーにラウラの頭上に影を落とす。

 

「しまっ――!」

 

「いただきだ」

 

 30ミリ機関砲『ブッシュマスター』を向けるウィリアム。そのIS【バスター・イーグル】のシャークマウスがギラリと陽光を不気味に反射する。

 ――と、次の瞬間。

 

 ビーーーーッ!!

 

「「!?」」

 

 トリガーにかけた指に力が込められるコンマの差で、試合終了を告げるアラームがけたたましく鳴り響いた。どうやら、いつの間にか制限時間を迎えていたらしい。

 ――言うまでもなく、引き分けである。

 

 ▽

 

「これであたしの2連勝ね。ほれほれ、なんか奢りなさいよ一夏」

 

「ぐう……」

 

「2戦とも引き分けかぁ……」

 

「まだまだ改善すべき点は多いな」

 

 前半戦、後半戦を通して引き分けで終わった実戦訓練。その後片付けを終えて、俺達いつもの面々は学食にやってきていた。

 ちなみに前半は俺がラウラを『ブッシュマスター』の射程内に収めたところで、後半はラウラの『プラズマ手刀』が俺の首を取ろうとしたところでの時間切れだ。

 一方の一夏・鈴ペアは2戦ともに一夏の敗北で幕を閉じている。主な理由は2次移行を果たしたことでより悪化した燃費の悪さだろう。

 

「今回は引き分けだったが、次は私が勝たせてもらうからな」

 

「言うじゃないか」

 

 ふっふっふっ……と不敵な笑みを浮かべながら、俺とラウラは昼食を食べる。

 今日のメニューは白身魚のフライ。サクサクの(ころも)とわずかに塩気の効いた白身魚、そしてこのタルタルソースが最高だ。やはりIS学園学食のおばちゃんはいい仕事をしている。

 

「ラウラ、それおいしい?」

 

「ああ。本国以外でここまで美味いシュニッツェルが食べられるとは思わなかった」

 

 相変わらずシャルロットと仲の良いラウラは、その皿に盛られたドイツ料理のシュニッツェル(仔牛のカツレツ)を一切れ切り分けた。

 

「食べるか?」

 

「わあ、いいの?」

 

「うむ」

 

「じゃあ、いただきます。えへへ、食べてみたかったんだ、これ」

 

 ラウラから分けてもらったシュニッツェルを、シャルロットは幸せそうに頬張る。

 

「ん~! おいしいね、これ。ドイツってお肉料理がどれもおいしくていいよね」

 

「ま、まあな。ジャガイモ料理もおすすめだぞ」

 

 自国のことを褒められて嬉しいのか、ラウラの顔は少し赤い。

 そんな様子を見ていると他の女子も加わりたくなったらしく、料理談義に花が咲いた。

 

「あー、ドイツってなにげにおいしいお菓子多いわよね。バウムクーヘンとか。中国にはあんまりああいうの無いから羨ましいっていえば羨ましいかも」

 

「そうか。では今度部隊の者に言ってフランクフルタークランツを送ってもらうとしよう」

 

 フランクフルタークランツ……? 聞いたことのない菓子だな。ていうか考えてみれば、俺が知ってるのってバウムクーヘンくらいだよな。

 

「ドイツのお菓子だと私はあれが好きですわね、ベルリーナー・プファンクーヘン」

 

 そう言ったのはセシリアだったが、シャルロットはキョトンとして聞き返す。

 

「えっ。ベルリーナー・プファンクーヘンって、ジャム入りの揚げパンだよね? しかも、バニラの(ころも)が乗ってるからカロリーすごいと思うけど……セシリアはアレが好きなの?」

 

「わ、わたくしはちゃんとカロリー計算をするから大丈夫なのですわ! そう、ベルリーナーを食べる時はその日その他に何も口にしない覚悟で……」

 

 食うだけで丸1日断食する覚悟がいるのか。

 しかしまあ、たかだか菓子1つだろ? それくらい好きに食べればいいだろ。……なんて言ったら怒られそうだから、ここは黙ってフライをかじっとくことにしよう。

 

「ジャム入り揚げパンか、確かに美味そうだ」

 

 そう言ったのは箒だ。

 そういえば前に聞いたことがあるが、日本の学校給食では日によって揚げパンという揚げたパンに砂糖をまぶしたものが出るらしい。

 ちなみに俺が通っていたアメリカの学校ではハンバーガーにピザ、フレンチトーストなどがよく給食のメニューに出ていた。

 しかも驚くべきことに、アメリカの給食ではピザは野菜類にカウントされている。その理由が『大さじ2杯のトマトソースがかかっているから』。

 ……自分で言うのもあれだがヤベェな。

 

「セシリア、揚げパンが好きなら今度ゴマ団子作ってあげようか?」

 

「それはどんなものですの?」

 

「中国のお菓子よ。あんこを(もち)でくるんでゴマでコーティング。そのあと揚げるの」

 

「お、おいしそうですわね! ああ、でもカロリーが……」

 

「ま、食べたくなったら言ってよ」

 

「鈴さん……思っていたより良い人ですわね……」

 

「思っていたよりってなによ! 思っていたよりって!」

 

 相変わらずワーギャーと騒がしいが、鈴とセシリアも仲が良いな。

 

「私は日本の菓子が好きだな。あれこそ風流というのだろう?」

 

 ラウラは夏休みにみんなで行った抹茶カフェで食べた水菓子が異様に気に入ったらしく、その後もちょくちょく足を運んでいるそうだ。

 本国の仲間にそのことを言ったら、えらく羨ましがられたと同時に生八つ橋を要求されたんだとか。なんか、ざっくばらんとした軍隊だな。

 ……いや、ウチの軍隊(特にティンダル基地)も普通に似たような感じだったわ。なんせ基地司令がアレだしなぁ。

 

「春は砂糖菓子、夏は水菓子とくれば秋はまんじゅうだな」

 

「ほう。冬は?」

 

「せんべいだ」

 

 せんべいっていうと、たしか米で作ったビスケットみたいなやつだったよな。特にあの醤油せんべいは最高すぎる。

 にしても、菓子の話ばかりしてると食べたくなってくるな。

 

「はぁ……。それにしてもなんでパワーアップしたのに負けるんだ……」

 

 大きな溜め息と共に一夏がボヤく。

 

「だから、燃費悪すぎなのよ。アンタの機体は。ただでさえシールドエネルギーを削る仕様の武器なのに、それが2つに増えたんだからなおさらでしょ」

 

「だな。お前さんの機体は攻撃力に極振りしすぎなんだよ」

 

「うーん……」

 

 おまけに今の【白式】は背部ウイングスラスターの大型化に伴ってエネルギーを大量に使用するようになってしまっていた。瞬時加速のチャージ時間は短くなり、最大速度も上がったものの、とんでもない大食らいになっている。

 もちろん、スラスターはシールドエネルギーを食わないが、増設された『雪羅』の荷電粒子砲と同じエネルギー系統なので、しっかりとした使い分けが必要らしい。

 

「(やるべきことは腐るほどあるってわけだな)」

 

 近距離戦と遠距離戦の即時切り替え。基本戦略の組み直し。それに射撃訓練の追加と新装備の経験訓練などなど。一夏が抱える問題は山積みだ。

 

「ウィルのISは良いよなぁ。そっちも2次移行してるのに欠点らしい欠点は増えてないし、エネルギーもあんまり食わねえだろ?」

 

「なーに言ってんだ。そんないいことづくめなわけないだろ」

 

 確かに、推力の大半をジェットエンジンが担っているのでエネルギーの消耗率は低い。シールドエネルギーを削るような武器も持ってない。

 しかも2次移行のおかげで機体パフォーマンスは全体的に見れば向上はしている。

 だが……

 

「そもそも【イーグル】はエンジンと燃料っていう重りを載せて飛んでるんだぜ? 重量はなんと驚きの1.9トンだ」

 

「1.9トン!? とんでもない重量ですわね……」

 

「【ラファール】に換算すれば約3機分か……」

 

「ああ。2次移行でエンジン出力は増したが、ついでに重量も増加してな。その影響なのか旋回時に若干ケツが振り回されるような挙動をするようになったんだ」

 

 強力なレーダーステルス能力も手に入れたおかげで隠密性は向上したが、それ故に兵装を機内に格納する必要があるため機体が大きくなるわ、ただでさえ重かった重量はさらに増えるわ、そのせいで飛行時の挙動が変わるわ……。

 

「というわけで、俺だってやらなきゃいけないことはあるのさ。お前さんほどじゃないが」

 

 まず飛行時の挙動に慣れることが最優先だな。他にも戦闘機動の際にかかる負荷制限も頭に叩き込んで……あぁ、忙しくなりそうだ。

 

「そうなのか……。2次移行したからって全部が良くなるわけじゃないんだなぁ」

 

「ま、まあ、アレだな! 一夏! その問題も私と組めば解決だな!」

 

 ドドン、と腕組みで啖呵(たんか)を切ったのは箒だった。

 確かに箒の専用機【紅椿】のワンオフ・アビリティー『絢爛舞踏(けんらんぶとう)』があれば、【白式】の高燃費問題は解決されたも同然だ。

 

「ざーんねん。一夏はあたしと組むの。幼馴染だし、【甲龍】は近接も中距離もこなすから、【白式】と相性いいのよ」

 

「な、何を勝手な……!? ゴホン! それならこのわたくし、セシリア・オルコットも遠距離型として立候補しますわ。【白式】の苦手距離をカバーできましてよ?」

 

「じ、じゃあ僕も立候補するよ。射撃武器の扱いは得意だから、近接攻撃がメインの一夏を援護できると思う」

 

「ええい、幼馴染というなら私の方が先だ! それに、なんだ。【白式】と【紅椿】は絵になるからな。……お、お似合いなのだ……」

 

 最後の方はモゴモゴとしていて、うまく聞き取れなかった一夏が「?」と首かしげているが、箒を始め一夏ラヴァーズ全員がペアに立候補した。

 

「ん……。まあ、もしペアを組むことになったら、その時は――ウィルと組むかなぁ」

 

「? 俺か?」

 

「「「「……えっ?」」」」

 

 一夏ラヴァーズが一斉に俺の方へと首を巡らせる。

 急に話を振られたうえに8つの視線を向けられた俺は、白身魚のフライを食べる手を止めた。

 つってもまあ、俺と組む理由なんて……

 

「前に組んだから」

「前に組んだから、だろ?」

 

 俺と一夏の言葉が重なる。

 やはりというべきか、一夏はトーナメント戦の時に俺と組んだことがあるから、そう判断したようだった。

 

「「「「ほっ…………」」」」

 

 盛大な勘違いをしていたのだろう一夏ラヴァーズの面々は揃って胸を撫で下ろす。

 

「(なんだよお前ら。おい、まさかとは思うが、俺と一夏が『Oh yeah……』なアレに発展しているとでも? 冗談じゃない)」

 

 でもまあ、俺と一夏にペアでの実戦経験があるのは事実だ。それに2次移行を果たしてからは互いにどう動けるかまだ分からないので、1度組んでそれを確認しておくのもアリだろう――

 

「何を考え込んでいるか。お前は私の嫁なのだから、組むのは私に決まっているだろう」

 

 ムニ、とラウラに右頬を押される。

 その顔は仏頂面だったが、しかし最近のラウラは態度が柔らかくなったのと併せて冗談を言ったり、よく笑ったりするようにもなった。

 

「ということだ。一夏、悪いが他を当たってくれ」

 

 そう言って食事を再開しようとした俺だったが、1つだけ一夏ラヴァーズに言っておくべきことがあるのを思い出して、もう1度(はし)を置く。

 

「それとお前ら。俺は断じて『アッチ』じゃねえからな。一夏の取り合いはお前らだけでやってくれ」

 

 まったく。4月の時といい6月の時といい、なんだって俺はこうも誤解されるんだか……。

 そんなこんなで昼食は終わり、俺達は午後の実習に向けて再度アリーナへと向かった。

 

 ▽

 

「やっぱり無駄に広いもんだ……」

 

「もう少し狭い方が落ち着くんだけどなぁ」

 

「ウィル、それ前も同じこと言ってたぜ?」

 

 俺と一夏専用となっているローカールームは、ただただ広いだけで落ち着かない。

 ISスーツの耐G装備を確認している俺の横で、一夏は【白式】のコンソールを呼び出して調整を始めた。

 

「うーん……。やっぱり『雪羅』に割いているエネルギーが多すぎるな。これ、もうちょっと抑えらえないもんだろうか」

 

「『雪片弐型』もだな。お前さんは零落白夜を起動したままにしているが、それをここぞという時だけ使うっていう風にオン・オフ切り替えられないか? そしたら少しは……」

 

 そう言いながら、ふと一夏のいる方を振り返ると、知らない女子が一夏の背後から両手で目隠しをしていた。

 

「だーれだ?」

 

 その女子の声は同級生よりも大人びている。そのくせ、楽しさが滲み出しているような笑みを言葉に含んでいて、イタズラを楽しむ子供のようにも聞こえた。

 

「え? あ、あの……」

 

「はい、時間切れ」

 

 数秒ほどしてからその女子生徒は手を離し、解放された一夏は目を塞いでいた手の持ち主を確認しようと振り向く。

 

「……誰?」

 

「(リボンの色からして……2年生だな。いったい何をしに来たんだ?)」

 

「んふふ」

 

 その女子は困惑する一夏と眉をひそめる俺を楽しそうな笑顔で眺めつつ、どこから取り出したのか扇子(せんす)を口元へと持っていく。

 改めて見てみると、目の前の2年生は不思議な人物だった。

 全体的に余裕を感じさせる態度。しかし嫌味ではなく、どことなく人を落ち着けるような雰囲気がある。しかしそれとは逆に浮かべた笑みはイタズラっぽく、違う意味でこちらを落ち着かなくさせる。

 つまり、何かされるのでは? という、おかしな不安。向こう側の見えない不透明感。神秘的――というのは、いささか褒めすぎだろうか?

 

「あの、あなたは――」

「自分達に何か――」

 

「それじゃあね。君達も急がないと、織斑先生に怒られるよ」

 

「ん……!?」

 

 猛烈に嫌な予感がして、俺は咄嗟に壁の時計を見る。

 

「…………Holy shit(なんてこった)……!!」

 

 すでに授業開始から3分が過ぎていた。完全に遅刻である。

 

「ヤバいぞ一夏! 織斑先生に殺されるッ!!」

 

「だあああッ!? まずいまずいまずい!!」

 

 もう1度元凶の人物を見ると、もうそこには誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

「……ほう。遅刻の言い訳は以上か?」

 

 死ぬ気で走ってきた俺達を待っていたのは、地獄の将軍(ヘルズ・ジェネラル)・織斑先生による慈悲の欠片もない軍法会議だった。

 

「いや、あの……あのですね? 見知らぬ女子生徒が、ですね……」

 

「……ホーキンス」

 

 ギロリ、織斑先生がシャークマウスの瞳よりも恐ろしい目で俺に視線を向けてくる。

 

「は、はいっ! 一夏の言葉に嘘偽りはありませんっ! 更衣中にその生徒が入って来ましたっ! 2年生のリボンをしていましたが、彼女とは初対面でありますっ!」

 

 顔面蒼白、脚はガタガタ。俺は反射的に敬礼をしながら洗いざらい白状する。

 なに? 情けない姿だって? ……じゃあ君達も織斑先生の前に立ってみるといいさ。

 

「成程な……」

 

 お? おお!? 分かってくれたのか!? よかったよかった! なんとか明日の朝日を拝めそう――

 

「つまり、お前達2人は初対面の女子との会話を優先して、授業に遅れたのか」

 

「「 」」

 

 全ッ然分かってくれてない!? それどころかさらに酷くなってるッ!!

 

「ち、違いますよっ!?」

 

「そ、そうですよ先生! 別に楽しんでいたわけじゃ――」

 

「デュノア、ラピッド・スイッチの実演を。ボーデヴィッヒは近接格闘の実演をして見せろ。的はそこの馬鹿どもで構わん」

 

 待って! 俺と一夏が構います!

 

「「……………」」

 

 無慈悲な死刑宣告が下され、呼ばれた2人の女子が静かにやって来る。

 

「それじゃあ織斑先生、実演を始めます」

 

 ニコッと、極上の笑みを浮かべるシャルロット。しかし、その笑みは慈愛の女神のそれではなく、無慈悲な天使のそれだった。

 どうやら先に一夏から処刑されるらしく、シャルロットはフワリと空中へと進み出る。その手に光の粒子が集まり、銃器を構成していく。

 

「あ、あの、シャル……ロットさん?」

 

「なにかな、織斑くん?」

 

 額には青筋が浮いて見えた。……一夏、安らかに眠れ。

 

「始めるよ、【リヴァイヴ】」

 

「ま、待っ――」

 

 バラララララララッ!!

 

 耳をつんざく火薬の炸裂音に混じって一夏の悲鳴が聞こえる。

 少ししてシャルロットがトリガーから指を離すと、土煙の中にピクピクと痙攣(けいれん)しながら気絶する一夏を見つけた。

 

「――何を余所見している。次は貴様の番だぞ」

 

 あぁ……ついにこの時が来てしまった。俺はギギギッと油が切れたブリキ人形のような動きでラウラに振り向く。

 地面からわずかに浮いているラウラの、その両腕から伸びる『プラズマ手刀』は薄紫色の光を放っていた。

 

「まあ待て。ここは平和的に話し合おう。俺は刺身は好きだが、刺身にされるのはゴメンだ」

 

「安心しろ。死なん程度に留めてやる。言い残すことはあるか?」

 

 あらやだ。この人、まったく話が通じない。

 仕方ない。こうなったら例の手を使うしかなさそうだ。

 

「……分かった。じゃあ1つだけ言わせてもらうぞ――おい見ろあれなんだああっ!!?

 

「?」

 

 俺の迫真の演技が見事に炸裂し、ラウラを始めその場にいた全員(織斑先生を除く)が指差す先へと振り向いた。――よっしゃ今だっ!

 

アディオス(サヨナラ)!」

 

 細切れにされたくはないので、俺は回れ右して脱兎の如く逃走開始。あっという間にラウラとの距離が離れていく。

 

「(ふっふっふっ……! ふぅふははははぁっ! 残念だったな、ラ・ウ・ラァ~。俺の逃走スキルを侮るなよ!)」

 

 そんなことを考えていると、突然俺の腹に何かが巻き付いた。しかもそれは凄まじい力で引っ張ってくるので、俺はバランスを崩して地面に倒れてしまう。

 

「なっ、なん、なんだこれ……!?」

 

 何かワイヤーらしいが、しかしどうにも見覚えがあるものだ。と、今度はズリズリと手繰(たぐ)り寄せるようにして俺は牽引されていく。

 ってちょっと待て。その方向にはラウラが――あっ、違う。これラウラに捕まったんだ……! ということは俺に巻き付いているこれは……

 

「ワイヤーブレード……!」

 

「そう簡単に逃げられると思ったか?」

 

 身も凍るほど冷たい笑みを湛えるラウラが立っていた。

 

「あっ、あっ、ああぁぁぁ……!」

 

 冷や汗を滝のように流す俺を、ラウラは自身の目前まで持ってきて吊り上げる。

 拘束された俺に抵抗するような術はなく、ただただプラ~ンと力なく揺れることしかできなかった。

 

「逃亡罪も追加しておく必要があるな。さて。ウィル、覚悟はできているな?」

 

「い、いえ、まだであります――」

 

「これは終止疑問文(しゅうしぎもんぶん)だ。故に答えは要らん」

 

 ああ……俺終わった……。

 

 

 

 

 

 

ノォォォォォーーーッ!!

 

 その悲鳴を聞き、惨劇を前にした1組2組の生徒及び教員らが、ウィリアムに対して静かに合掌したのは余談として置いておくとしよう。

 

 

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