インフィニット・ストラトス 蒼空に鮫は舞う   作:Su-57 アクーラ機

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43話 振り回される男達

「あれ? 一夏。ウィルとラウラも?」

 

「い、一夏さん? 今日は第4アリーナで特訓と聞いていましたけど」

 

 第3アリーナにて、俺達はシャルロットとセシリアに出くわした。2人とも訓練の途中だったのか、ISは解除しているがその姿はISスーツを着用している。

 2人は一夏、俺、ラウラ、それに楯無先輩の姿を見て不思議そうな顔をしていた。

 

「……そちらの方はどなたですの?」

 

 やはり楯無先輩が気になったようで、セシリアは少しムスッとした表情で訊ねる。

 

「せ、セシリア。生徒会長だよ」

 

「ああ……。そういえば、どこかで見たような顔ですわね」

 

 不機嫌なセシリアの態度に焦るシャルロットがどうにかフォローしようとするが、その気遣いは粉々にされて砕け散った。……シャルロット、お前さん苦労人体質だな……。

 

「まあ、そう邪険にしないで。あ、これからは私が一夏くんとウィリアムくんの専属コーチをするから今後も会う機会があるわね」

 

 サラッと言った先輩にシャルロットとセシリアはギョッとし、すでにその理由を知っているラウラは眉を寄せて不機嫌オーラを全開に放ち始めた。

 

「え? ど、どういうこと?」

 

「一夏さん!」

 

「ぎゃあっ! 待て待て! こ、これは、だな!」

 

「2人とも落ち着け。これは一夏と先輩の勝負の結果なんだよ」

 

 シャルロットとセシリアに詰め寄られて悲鳴を上げる一夏のフォローに回ろうと、俺は2人に説明をする。

 

「負けたら言いなりっていう、ね」

 

 クスッと笑顔を添えてそう言った先輩。……頼むから話をややこしくしないでくれ。

 

「あれ? じゃあ、なんでウィルまで……?」

 

 首をかしげるシャルロット。彼女が疑問に思うのは当然だろう。俺は先輩と勝負をしていないはずなのだから。

 はぁ……と溜め息を1つ漏らしてから、俺は重々しく口を開く。

 

「……『生徒会長権限』だのどうのでな、(なか)ば引きずるような形で連れてこられた」

 

「そ、そうなんだ……」

 

 俺だって始めは断ろうとしたのだ。せっかくラウラが特訓に付き合ってくれているのに失礼だと思って。

 しかし、そこで大人しく引き下がってくれないのが楯無先輩という人だったというわけだ。……職権乱用じゃねえか。

 

「じゃあ、始めましょうか。最初は経験者の真似からね。シャルロットちゃんにセシリアちゃん、『シューター・フロー』で円状制御飛行(サークル・ロンド)をやってみせてよ」

 

 シューター・フロー? サークル・ロンド? 聞いたことのない単語に俺と一夏は「?」といった表情を浮かべる。

 

「え? でもそれって、射撃型の戦闘動作(バトル・スタンス)ですけど」

 

「やれと言われればやりますが……ウィリアムさんはともかく、一夏さんのお役に立ちますの?」

 

 どうも2人は意味を分かっているらしく、この場で俺と一夏だけがおいてけぼりのようだった。

 

「それは、2人が遠距離攻撃能力――射撃武器を有しているからか?」

 

 ラウラが不機嫌そうに口を開く。どうも、先輩に対して警戒心を(いだ)いているようだ。

 

「ん、鋭いね。でも、それだけじゃないんだなぁ」

 

 トントンと扇子で手の平を叩きながら、楯無先輩は続ける。

 

「まず、射撃能力で重要なのは面制圧力だよね。けれど、ウィリアムくんの場合はわずかな時間でどれだけ多くの弾を相手に撃ち込めるかが重要になってくる」

 

 先輩の言う通り、高速域での戦闘を主体とした【バスター・イーグル】は相手を射程に収めたその『一瞬』がとにかく重要だ。そうでもなければ、わざわざ分間1,800発などという高連射力を持たせたりはしないだろう。

 

「一方、一夏くんのように連射ができない大出力荷電粒子砲(かでんりゅうしほう)はどちらかといえば一撃必殺のスナイパーライフルに近い。だけど、一夏くんの射撃能力の低さはご存じの通りだし、ウィリアムくんは2次移行で変わった機体の挙動に慣れず、安定性がガタ落ち。連鎖的に射撃精度も落ちているんだよね」

 

「うっ……」

「ぐぅっ……」

 

 思い切りダメ出しをされて、俺と一夏は顔をしかめる。けれど、事実として先輩の言葉は的を()ていた。

 

「だから――」

 

「射撃と機体制御を両立させる訓練が必要ということか」

 

「そういうこと。鋭いね、ラウラちゃんは」

 

 パンッと扇子を開いてラウラに答える楯無先輩。よく見ると、その扇子には『見事』と達筆で書かれていた。――この人、扇子を大量に隠し持ったりでもしているのだろうか。

 

「……ら、ラウラちゃん……」

 

 うん? ラウラのやつ、急にボーッとして……どうかしたのか?

 

「ラウラ。おい、ラウラ。大丈夫か?」

 

「な、なんでもないっ。見るな!」

 

 肩に触れようとした手をクルリと身を捻ってかわされ、そのまま俺の手をねじ伏せようとしてくる。――おっと、あぶねえなオイ。

 

「はいはい、仲良しさん。シャルロットちゃん達の準備もできたみたいだから、しっかり見ていてね」

 

 楯無先輩がパンパンと手を叩いて呼ぶ。

 危うくラウラに拘束されそうになった俺は、両手を隠すようにポケットに入れながらアリーナ中央のフィールドへと目を向けた。

 

「じゃあ、始めます」

 

「お2人とも、どうぞしっかりとご覧になってくださいな」

 

【リヴァイヴ・カスタムⅡ】と【ブルー・ティアーズ】がそれぞれに向かい合う。

 しかし、動き出した2機は正面から接近しようとはせず、それぞれ右方向へと動き始める。互いに砲口を向け合ったまま、背中を壁に向けて円軌道を描いていく。

 

「いくよ、セシリア」

 

「構わなくてよ」

 

 徐々に加速を始めた2機はやがて射撃を開始する。

 円運動を続けながら、不定期な加速を行って射撃を回避する。それと同時に(みずか)らも射撃を返しながら、決して減速することなく円軌道を早めていく。

 

「ワオ。やるな……」

 

「これは……」

 

「うん。2人にもすごさが分かったかな。あれはね、射撃と高度なマニュアル機体制御を同時に行っているんだよ。しかも、回避と命中の両方に意識を割きながら、だからね。機体を完全に自分のモノにしていないと、なかなかああはいかない」

 

 機体制御のPICは本来オート制御になっている。しかし、その場合は細かい動作が難しい。だが、マニュアルにすれば複雑な制御も同時に意識しなければいけなくなる。

【イーグル】の特性上、並列動作に慣れている俺はまだマシかもしれないが、正直一夏にとっては難しい課題となるだろう。

 平常心を保ち、感情的にはならず、同時に2つ以上のことを考える。……一夏の苦手がてんこ盛りだな。

 

「特に一夏くんはね、経験値も重要だけどそういった高度なマニュアル制御も必要なんだよ。わ・か・る?」

 

 いつの間にか一夏の背後に回り込んでいた先輩が、ふうっと彼の耳に息を吹きかけながら言った。

 

「い、一夏!?」

 

「な、な、何をしていますの!?」

 

 射撃途中の2人が、一夏の状態に気づいて声を荒げる。って、おい。今そこで余所見したら……。

 

「「あ」」

 

 そして、2人同時にやってしまったという声を出して、互いの銃弾を浴びてしまう。

 マニュアル制御だったせいだろう、その衝撃で2人とも体勢を崩し壁へと突っ込んだ。

 

「これまた派手に行ったなぁ……」

 

「だ、大丈夫か!?」

 

「大丈夫じゃ……」

 

「ありませんわ!」

 

 ガバッと起き上がり、一直線に一夏の元へと飛ぶ2人。

 

「僕らが真面目にやってるのに!」

 

「何を遊んでいますの!?」

 

「い、いや、遊んでいるわけでは……」

 

「「遊んでる!!」」

 

「……はい」

 

 詰め寄られる一夏。怒り心頭のシャルロットとセシリア。クスクスと微笑む楯無先輩。そんな4人を眺めながら、俺はかぶりを振る。

 

「こりゃ先が思いやられるな」

 

 そう溜め息混じりに呟く俺だったが、このあと超絶不機嫌顔のラウラにジトーっと睨まれて顔を引きつらせたのは余談として置いておこう。

 

 ▽

 

 あれから2日経ち、俺と一夏は連日楯無先輩の猛特訓に明け暮れていた。

 そして、今日も今日とてマニュアル制御の訓練を終えた俺達は現在、自室に戻っている途中である。

 

「たった2日でこれか……」

 

「正直死ねるな、これ……」

 

 ゲッソリとした様相で廊下を歩く俺達の足取りは重く、口からは思わずそんな言葉が漏れ出る。

 というのも、楯無先輩の指導は頭にすんなり入ってくるほど分かりやすい反面、厳しい。とにかく厳しいのだ。

 

「あら」

 

「あ、えっと……布仏(のほとけ)先輩、こんにちは」

 

「こんにちは、布仏先輩。遅くまでお仕事お疲れ様です」

 

 たまたま廊下で出会ったのは、のほほんさんのお姉さんこと布仏 (うつほ)さんだった。

 さて、どうしたものかと思っていると、先輩の方から話しかけてくる。

 

(うつほ)でいいわ。名字だと、2人いるから分かりにくいでしょう?」

 

「あ、はい」

 

「でしたら、虚先輩で」

 

「ええ」

 

 先輩はコクンと頷く。のほほんさんとは顔くらいしか似ていないのが、また不思議な印象だった。

 

「(しかし、この人は鷹月(たかつき)さん系だな)」

 

 クラス随一のしっかり者こと鷹月 静寝(しずね)さんを思い出しながら、俺はうむと心の中で頷く。

 ついでに、気になっていたことを訊いてみることにした。

 

「あの、少し質問をしてもよろしいですか?」

 

「私で答えられることなら構わないわ」

 

「ありがとうございます。それでその質問ですが、楯無先輩ってどんな人なんですか?」

 

「どんなって言うと?」

 

「えーと、つまり、どういうつもりで自分や一夏に特訓をしているのか、と思いまして」

 

「あら、厚意は素直に受け取るべきだわ」

 

「いや、まあ、おっしゃる通りですが……」

 

 つい言葉に詰まっていると、可笑(おか)しそうに先輩が少しだけ微笑む。

 

「冗談よ」

 

 意外だ。この人もそういった冗談を口にするのか。

 

「お嬢様――楯無さんは、色々考えがあるのよ。その全てまでは分からないわ」

 

「そうですか」

 

 かなり長い付き合いのようだが、そういうものなのだろう。

 

「(まあ、実際に成長していっている実感はあるし、しばらくは楯無先輩の言う通りにしてみるか)」

 

 そんな風に結論を出したところで、虚先輩が人差し指を立てて言った。

 

「1つだけ忠告しておくわ。警戒しても予防しても、絶対振り回されるから。体力だけはしっかりね」

 

「そ、そうですか……」

 

 何となくそんな気はしていたが、やはりそうなのかと再確認させられた。

 特に楯無先輩より1つ上の虚先輩が言うのだから、間違いはないだろう。

 

「では、体力面には特に気を配るようにします」

 

「ウィル、食事をしっかり取るのも忘れるなよ?」

 

「一夏くんの言う通り食事もしっかりね。喉を通れば、だけど」

 

「「え゛っ……」」

 

 な、なんという不吉なことを……。ていうか、物が食えなくなるほどとか、どんな振り回され方をされるんだ……。

 ブルリと少しだけ寒気がした。

 

「それじゃあ、またね」

 

「あ、はい。また」

 

「失礼します」

 

 そんな挨拶で虚先輩と別れると、俺達は再び自室への帰路についた。

 

 

 

 

 

 

「じゃあな、一夏。しっかり休めよ」

 

「おう。ウィルもな。また明日も頑張ろうぜ」

 

 そう言いながら一夏が部屋のドアを開けた次の瞬間だった。

 

「お帰りなさい。ご飯にします? お風呂にします? それともわ・た・し?」

 

 ――パタン。ドアを閉じて1秒、俺達は状況を整理する。

 状況確認。現在地、1年生寮。一夏の自室前。

 表札には『織斑 一夏』の字を確認。……なにも間違ってはいない……はずだ。

 

「きっと夢か幻だよな! いくらなんでも楯無先輩が裸エプロンで待ってるとかありえないよなぁ! あはは!」

 

「そうそう! きっと疲れてるんだよ俺達! いやぁ、目ぇ開けたまま夢を見ることって本当にあるんだな! はっはっはっ!」

 

 ガチャ

 

「お帰りなさ――」

 

 パタン

 

 訂正だ。夢や幻などではなくリアルで楯無先輩が立っていた。それも、裸エプロンなどというぶっ飛んだ格好で。

 それを確信すると同時に、一夏が助けを求めるような視線を向けてくる。

 

「あー……俺、そろそろ部屋に戻るな?」

 

「う、ウィル! 待ってくれ!」

 

「やめろ! 服を引っ張るな! 俺は何も見てないし知らない!」

 

「そんな殺生(せっしょう)な!」

 

「HAHAHA! ワタシ、ニポンゴワカリマセーン! サヨナラ!」

 

 制服の(すそ)を掴んで引き止めてくる一夏の手を外し、俺は早足で自室へと逃げ帰った。

 一夏、お前は良い友人だが、こんな悪ふざけに巻き込まれるのはゴメンなんだ。薄情な俺を許してくれ。

 

「はぁ~~」

 

 フラフラになりながら自室へと帰りついた俺は、手頃な椅子にドカリと座り込む。

 楯無先輩の特訓が着実に成果を出しているのは分かっているが、それでもこれが学園祭まで続くのかと思うと憂鬱な気持ちがして仕方がない。

 

「(ああ、そうだ)」

 

 ふと、俺は先日配られた学園祭の招待券の存在を思い出す。

 

「(結局どうしようか……)」

 

 1人につき招待できるのは1人までと決められているので、誰に声をかけようか迷ってしまう。

 

「(……せっかくだしあいつを呼んでやるか)」

 

 俺は携帯電話を取り出し、連絡先からマイクの電話にコールをかける。……日本とフロリダでは時差があるが、今の時間帯ならたぶん出るだろ。

 

《もしもし? ウィルか?》

 

 数回のコール音が鳴ったあと、スピーカーからマイクの声が響いた。

 

「よう、マイク。悪いな、いきなり電話しちまって」

 

《そりゃあ別にいいけどよ。どうしたんだ?》

 

「ああ。実は近々IS学園で学園祭があるんだが、その件で話があってな」

 

《……なんだぁテメェ。それはIS学園に行けなかった俺に対する嫌味か? ああ? コラ》

 

 うおっ。なんかこえぇなこいつ。

 

「まあ待てよ。その学園祭には1人につき1人まで外部から客を招待できてな。で、その招待券をお前にやろうと思ったってわけだ」

 

《………Really(マジ)?》

 

「おう」

 

 あれ? 意外と反応が薄いな。もっとこう、イヤッフー! とか言って喜ぶかと思ったんだが……。

 

「なんだ。もしかしていらないのか――」

 

《いやいやいやいや! 行く! 行きます! 行かせていただきます! イヤッフー!!》

 

 あっ、イヤッフーって言った。っていうか、こいつテンションの上げ下げ激しいな。

 

「招待券は今度送ってやるから忘れずにな。日程もそこに記入されてるから」

 

《りょーかい! いやぁ今から楽しみでしょうがねえよ。夜眠れっかな?》

 

「お前は遠足前の小学生か。じゃあ、話は以上だから。これで切るぞ」

 

《おう! また学園祭の日にな!》

 

「ああ」

 

 ピッと通話終了のボタンをタッチして、マイクとの電話を切る。それを充電器に挿してから「よしっ」と勢い良く椅子を立つ。

 汗を流すためシャワールームへ向かおうとしてところで、一夏の部屋辺りからガギンッ! という鈍い音が響いた。

 

「今度はいったいなんの騒ぎだぁ?」

 

 そう呟きながら、俺はシャワールームへと繋がるドアを開くのであった。

 

 ▽

 

「あ~……」

 

「……………」

 

 ベチャリとテーブルに突っ伏す一夏と、一言も言葉を発しない俺を、いつもの面々が苦笑いで眺めている。

 今は寮食堂で夕食の時間なのだが、なんというかもう何も食う気がしない。

 ここ数日、楯無先輩の指導に加えて彼女のペースに乱されっぱなしの一夏は目に見えて疲労困憊(ひろうこんぱい)だった。

 かくいう俺も疲労感は否めない。というのも、一夏ほどではないが俺も少なからず先輩の被害に遭っているからだ。

 

「大丈夫か、2人とも」

 

「おー……箒か……」

 

「……俺はまだマシな方さ。それより一夏がな」

 

「お茶飲む? ご飯食べられないなら、せめてそれだけでも」

 

「おう……サンキュ、シャル……」

 

「サンクス、シャルロット」

 

 俺も一夏も、取り敢えず一口だけでもと顔を起こす。

 みんなそれぞれに夕飯を食べていて、メニューもなかなか美味そうだった。

 

「(ダメだ。美味そうなのに、まったく食欲が湧かん……)」

 

 俺は何がなんでも栄養を取り入れようと、売店で購入したスポーツゼリー飲料のキャップを開ける。食う気が起きなくても、飲み物なら楽に喉を通るだろう。

 

「一夏、1パックやるからお前も飲んどけ。じゃないと冗談抜きで衰弱死しちまうぞ?」

 

「そうだな……なんでもいいから何か口に入れねえと……サンキュ……」

 

 グッタリする一夏にゼリー飲料を手渡し、2人揃って中の栄養ゼリーを吸っていく。

 

「それで、あの女はどうしたのだ?」

 

 少しピリついた様子でラウラが言った。どうも、あの保健室での一件から機嫌が悪い。てか、あの女て……。

 ゼリーを飲み干し、シャルロットのくれたお茶で落ち着いた俺はラウラの質問に答える。

 

「彼女なら生徒会の用事があるとかで出て行ったぞ」

 

「そーそー。書類がちょお()まってきてるんだよね~」

 

 間延びした声、のんびりとした調子に振り向くと、やはりというかそこにはのほほんさんがいた。

 こらこら。君も生徒会メンバーなんだから会長を手伝わないとダメだろ。

 

「職務放棄で怒られても知らないぞ?」

 

「私はね~、いると仕事が増えるからね~。邪魔にならないようにしてるのだよね~」

 

「自分で言っちゃ世話ないだろ……」

 

 ていうか、そんなメンバーで構わないのか、生徒会は。

 のほほんさんの気になるメニューはというと、お茶漬けだった。しかも(サケ)の切り身をドーンとてっぺんに乗せている。ず、ずいぶんと豪勢な茶漬けだな……。

 

「えへへ、お茶漬けは番茶派? 緑茶派? 思い切って紅茶派? 私はウーロン茶派~」

 

 空いている席に座ってそんなことを訊いてくるのほほんさん。グリグリと(はし)でかき混ぜられたドンブリの中は、なかなかカオスなことになっていた。

 

「なんとこれに~」

 

「……これに?」

 

「まだ何か追加するのか?」

 

「卵を入れます」

 

 カパッ。――マジで投下しやがったぞ……!?

 

「ぐりぐりぐ~り~」

 

 粘り気を増したそれをさらにかき混ぜて、のほほんさんは幸せそうに顔を緩ませる。……ウェップ。さっきのゼリー吐きそうな気がしてきた。

 

「食べまーす。じゅるじゅるじゅる……」

 

「わあ! なんつう食べ方だよ!」

 

「のほほんさん、もっと静かに食べてくれ」

 

「えー。むりっぽ~。ズゾゾッていくのが(つう)なんだよ~」

 

「……そうなのか、一夏?」

 

「それはソバの食べ方だ! ウップ、余計に食欲が無くなってきた……」

 

「じゃあ努力します~。ちゅるちゅる……」

 

 ふぅ……。少し静かになった。……っていうか、何の話だったっけか?

 そんなことを考えていると、突然セシリアが小さく咳払いをしてから姿勢を正した。

 

「コホン。……一夏さん」

 

「ん。なんだよ、セシリア。改まって」

 

「あの部屋にいるのが辛いなら、仕方なく、人助けということで、武士の情けということで、わたくしの部屋にいらしても構いませんわよ?」

 

 ……セシリアの部屋? あのベッドが室内のほとんどを占拠している部屋のことか?

 

「ちょっとセシリア! 待ちなさいよ! 一夏、アンタこっちの部屋来なさいよ。トランプあるわよ?」

 

 トランプで釣られるほど一夏は幼くないと思うんだが……。

 

「ウィル、お前も私の部屋に来ても良いんだぞ? そもそも夫婦だというのに別室なのがおかしいのだ」

 

「ありがとう、ラウラ。どうしようも無くなったらそうさせてもらうよ」

 

 本当に部屋を訪ねてしまうわけにはいかないので言葉を濁して答えるが、それでもラウラの気遣いは素直に嬉しかった。

 

「あー……みんなスマン。そろそろ限界だから部屋に帰るわ」

 

「俺もそろそろ失礼するかな」

 

 ドンヨリとした様子で席を立つ一夏に続いて俺も立ち上がり、自室へ戻るべく食堂を出る。

 1025号室前で一夏と別れ、1031号の自室へと到着。明日に備えて早めに寝よう。そう思いながら緩慢(かんまん)とした動作でドアノブに手をかけた。

 

「お帰りなさい。お風呂にします? ご飯にします? それとも、わ・た・し?」

 

 無言でソッとドアを閉じる。どうやら本日は俺が先輩の被害に遭う番のようだ。

 

「(もういっそ、本当にラウラの言葉に甘えてしまおうか……?)」

 

 一瞬とはいえ、そんなことを考えてしまうくらいには俺もヤバい状態らしい。

 とにもかくにも、まずは『安全な』寝床の確保を優先しなければ。

 

「……よし、今日は休憩所のベンチで寝ることにしよう」

 

「もー、ウィリアムくんったらダメじゃない」

 

 本日の寝床――休憩所のベンチ――へ向けて(きびす)を返したところで、ドアから出てきた先輩に両肩を掴まれて引き止められた。

 

「ちゃんとベッドで休まないと疲れが落ちないわよ?」

 

「誰のせいで――あっ、ちょっ!?」

 

 なんとか先輩の拘束を振りきろうとするが、そんな俺の抵抗も虚しくズルズルと室内へ引き込まれていく。

 ちくしょうっ。思うように力が出ねぇ……! ぐぬおぉぉ……!

 

「眠れないなら、おねーさんが子守唄を歌ってあげるわよ~?」

 

「自分は赤ん坊ですかっ!」

 

「じゃあ、添い寝?」

 

「それ大して変わってないですよね!?」

 

「んもう、注文が多いわねぇ。……それっ」

 

「やっ、やめろーっ! 離せぇぇぇぇぇ!」

 

 パタン……。

 無情にもドアは閉じ、俺は寝れない夜(意味深にあらず)を過ごすことになるのであった。

 

 

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