インフィニット・ストラトス 蒼空に鮫は舞う   作:Su-57 アクーラ機

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44話 開幕! IS学園祭!

 いよいよやってきた学園祭当日。

 まだ始まって間もないというのに、生徒達の弾けっぷりはすさまじいものだった。

 

「うそ!? 1組であの織斑くんとホーキンスくんの接客が受けられるの!?」

 

「しかも執事(しつじ)燕尾服(えんびふく)!」

 

「それだけじゃなくてゲームもあるらしいわよ?」

 

「しかも勝ったら写真撮ってくれるんだって! ツーショットよ、ツーショット! これは行かない手はないわね!」

 

 とりわけ1年1組の『ご奉仕喫茶』は盛況で、朝から大忙しだった。

 ていうか、具体的には俺と一夏が引っ張りだこな状態で、他のメンツは割と普通に楽しそうにしている。

 

「いらっしゃいませ♪ こちらへどうぞ、お嬢様」

 

 とりわけ楽しそうなのがメイド服のシャルロットで、朝からずっとニコニコしている。

 

「(そういえば一夏が似合ってるって褒めてたもんなぁ。よほど嬉しかったんだな)」

 

 ちなみに接客班(つまりはコスプレ担当)は俺と一夏にシャルロットとセシリア。そして意外なことにラウラと箒もだった。

 

「(ラウラは発案者だからとしても、よく箒まで折れたもんだ)」

 

 一夏は実に意外そうな反応をしていたが、箒が接客班に立候補した理由は大方想像できる。十中八九、一夏が他の客(主に女性)に盗られないよう目を光らせているのだろう。

 現に、一夏の順番待ちを訊かれるたびにムスッとした顔になっている。……苦労してるな。

 

「(それにしても、なんというか……)」

 

 メイド服を(ひるがえ)して働く一同に、なんだか言いようのない高揚感を覚えてしまう。

 そういえば前にマイクが言ってたっけ……。

 

『分からんか! ウィル!』

 

『はあ?』

 

『ヒラヒラのメイド服! ピチピチのスク水! パッツパツのブルマ! あとはそこに彼シャツがあれば! 完成する!』

 

『完成するって何がだよ……。ていうか、お前大丈夫か?』

 

『やはり分からんか……』

 

 ……あの時のマイクはなかなか狂気じみてたな。っていうか彼シャツってなんだよ。ブルマなんてのも聞いたことがないし。

 それはさておき、残りのクラスメイトはというと、大きく分けて2つ。片方が調理班でもう片方が雑務全般だ。

 雑務は特に切れた食材の補充やテーブル整理など忙しそうにしている。そして、その中でも最も大変そうなのが、廊下の長蛇(ちょうだ)の列を整理しているスタッフだった。

 

「はーい、こちら2時間待ちでーす」

 

「ええ、大丈夫です。学園祭が終わるまでは開店してますから」

 

 各種クレーム(ほぼ全て待ち時間苦情)にも対応していて、かなり忙しそうにしている。

 

「おいおい、なんか朝より列が長くなってないか?」

 

「ウィルもそう思うよな。大丈夫かな……?」

 

 そう言いながら、俺と一夏は接客の合間にヒョイッと教室の外を覗く。

 

「あ、最後尾の看板持ちますよ」

 

「ねぇ、ゲームって何あるの?」

 

「ジャンケンと神経衰弱とダーツだって。それぞれ苦手な人のために選べるようにしてくれたみたい」

 

「えー、まだ入れないのー?」

 

 1組の前をほぼ埋め尽くす、人、人、人の山。その大人数に対応しているクラスメイトには、なんというか頭が上がらない思いだ。

 

「あ! 織斑くんとホーキンスくんだ!」

 

 女子の1人が叫んだ瞬間、すぐさま列整理のクラスメイトが数人飛んできて、俺と一夏を教室内に押し込める。

 

「こらー! 出るなって言ったでしょー!」

 

「混乱度合いが上がるの!」

 

「お楽しみは最後まで取っておかないとね」

 

 うん? 最後のはいったいどういう意味なんだ? 俺達は何も聞かされてないんだが……。

 

「「「いいから戻る!」」」

 

 そう言われてはどうしようもない。俺と一夏は大人しく接客に戻った。

 

「もしもし、そこの執事さん。テーブルまで案内してもらえるかしら」

 

「(この声は――)」

 

 聞き覚えのある声音、優雅さを秘めた口調。振り返った先にいたのはやはりスコール・ミューゼル大尉だった。

 

「久しぶりね、ホーキンスくん」

 

「お久しぶりです大尉」

 

「ここは軍じゃないんだから、今はスコールでいいわよ」

 

「分かりました。しかし、なぜスコールさんがここに?」

 

(めい)が招待券を送ってくれたのよ。私もちょうど休暇時だったから、そういうことならってね」

 

 確かに、今の大尉は普段のABU(エアーマン・バトルユニフォーム)ではなく、やや着崩した白のスタンドカラーシャツにベージュ色のパンツという上品なスタイルをしていた。

 

「そうだったんですね。っと、失礼しました。それではお嬢様、こちらへどうぞ」

 

「あら。ふふっ、お嬢様だなんて。私を口説いているつもり?」

 

「そう言うのがルールになっているんですよ」

 

「それは残念」

 

 クスクスと口元に手を当てて上品に笑うスコールさんを、俺は空いているテーブルへと案内する。

 ちなみに内装は学園祭とは思えないレベルの調度品があちこちに置いてあり、それらはセシリアが手配したものだった。特にテーブルとイスのこだわりがすごく、ワンセットの値段を訊くのが恐ろしくなる高級感が漂っている。

 そうなるともちろんティーセットもこだわりの品々で、調理担当のクラスメイト達は手が震えないようにするので必死らしい。

 

「それで、ご注文は何になさいますか? お嬢様」

 

「そうね……」

 

 この手の調度品の高級感には慣れているのか、スコールさんは落ち着いた様子でメニューに視線を向けた。

 ちなみにメニューをお嬢様に持たせるわけにはいかないので、こうして接客班が手に持ってお見せしている。

 

「……ホーキンスくん。この、『執事にご褒美セット』っていうのは何かしら?」

 

 ………………。

 

「お嬢様、当店オススメのケーキセットはいかがでしょうか」

 

「こら。今、誤魔化そうとしたでしょ」

 

「滅相もございません」

 

「ふぅん……。じゃあ、『執事にご褒美セット』を1つお願いしようかしら」

 

 うそぉん……。

 

「お、お嬢様、こちらのサンドイッチセットもオススメです」

 

「くすっ。ずいぶんと必死ね。ということはホーキンスくん絡みかしら?」

 

 うっ。さすがに鋭い……!

 俺はこれ以上抵抗しても無駄だと悟り、しぶしぶ了解するしかなかった。

 

「か、かしこまりました。『執事にご褒美セット』が1つですね。それでは少々お待ち下さい……」

 

 俺は腰を丁寧に折ったお辞儀をしてから、お嬢様――もとい、スコールさんの前から立ち去る。

 ちなみにオーダーをキッチンに通す必要はない。復唱の際に、ブローチ型マイクから音声で通じているのだ。この辺のこだわりはさすが女子というべきか。

 

「はい、どうぞ」

 

 キッチンテーブルに戻った俺に、すぐさま『執事にご褒美セット』が渡された。それはアイスハーブティーと冷やしたポッキーのセットで、値段も300円と格安。

 お客様の笑顔は宝物です。と言いつつも俺はものすごく気が進まないのをどうにか我慢しながら、アメリカン・ビューティーの待つテーブルへと向かう。

 

「お待たせしました、お嬢様」

 

「ええ」

 

「では、失礼します」

 

「あら?」

 

 俺はスコールさんの正面に座る。2人がけのテーブルに差し向かい。片方は燕尾服、もう片方は上品な白シャツにベージュパンツ。……あり得そうな構図だな。

 

「どうしたのホーキンスくん? まあ、別に構わないけど……」

 

「ご説明させていただきます」

 

「え? え、ええ」

 

「このセットはお嬢様が執事へのご褒美として、こちらのポッキーを食べさせられるという内容になっております」

 

「……はい?」

 

 (ほう)けるスコールさん。しかしそれも一瞬のことで、今度は何かイタズラでも思いついたかのようにニヤリと笑った。

 

「へぇ。面白いメニューね」

 

「……これはあくまで任意のサービスですので、強制は――」

 

「はい、あーん」

 

「……お嬢様、周りの方も見ておりますし……」

 

「あーん」

 

「お嬢様、どうかお考え直しを」

 

「執事なのにお嬢様の言うことは聞いてくれないのかしら?」

 

 どうやら俺の懇願(こんがん)は受け入れてもらえないようで、スコールさんは意地の悪い笑みを浮かべて痛いところを突いてきた。

 ぐっ……! 分かりました! 食べます! 食べますよっ!

 

「…………あ、あーん……」

 

 パキッと弾ける音が口の中に響く。器のパフェグラスごと冷やしてあるそれは、チョコが食べてもすぐには溶けず、薄い膜のような食間がある。それも数秒のことで、すぐに溶けてしまうが、その時の甘さがこれまた心地いい。

 

「それじゃあ、食べさせてあげたんだから、今度は私に食べさせてくれるかしら?」

 

「ここではそういったサービスはしていない。どうしてもと言うのなら、他の店をあたってもらおうか」

 

 今度は自分にポッキーを食べさせろと告げてきたスコールさんを遮ってきたのは、ラウラだった。ヒラヒラとしたメイド服に一瞬目を奪われるが、その言葉と表情にはすさまじい『圧』が籠められている。

 

「うふふっ。ちょっとおふざけが過ぎたわね。ごめんなさい」

 

「…………………」

 

「あー、ラウラ? もういいぞ? ていうか、7番テーブルで注文だ」

 

「言われなくても分かっているっ」

 

 ふんっ、と鼻を鳴らして、ラウラは身を(ひるがえ)して行ってしまう。

 その背中を眺めていると、スコールさんが不意に口を開いた。

 

「可愛いわねぇ、あの子。もしかしてホーキンスくんの彼女?」

 

「ぶふっ!?」

 

 あまりに突拍子もないことを言われて俺は思わず吹き出してしまう。な、なな、何を言い出すんだこの人は!?

 

「そ、そんなわけないでしょう! 友人ですよ! ゆ・う・じ・ん!」

 

「えー? 本当かしら~?」

 

「本当ですっ! からかうのはよして下さい!」

 

「からかってなんか無いわよ?」

 

 どの口が言うんだ。まったく……。

 

「ラウラは友人です。それ以外には何もありませんよ」

 

……この子、かなりの鈍感(どんかん)

 

「……? 何か言いましたか?」

 

「いえ、何も」

 

 スコールさんはそう答えながらアイスハーブティーと残ったポッキーを食べ終える。そして、静かにイスから立ち上がった。

 

「お帰りですか?」

 

「ええ。そろそろお(いとま)させてもらうわ」

 

 優雅な足取りで店の出口へ歩き始めるスコールさんだったが、途中で「そうだ」と呟いてから俺の方に振り向く。……何か忘れ物か?

 

「あなたに1つだけ教えてあげる。――身近なものほど、気づきにくいものよ」

 

「はい? いったいどういう……」

 

「お茶、ごちそうさま。それじゃあね」

 

 何か意味ありげな言葉を言われたが、それを聞き返す前にスコールさんは会計を済ませて去って行ってしまった。

 

「(身近なものほど気づきにくい? どういうことなんだろうか……)」

 

 腕組みして唸っていると、近くのテーブルからガタンッと何かを蹴倒すような音が聞こえた。

 

「なにすんだよ!」

 

「こっちの台詞よ!」

 

 どうやら騒ぎの火元は一夏と鈴らしい。何が理由かは知らないが、テーブルを挟んで睨み合っていた。

 と、一夏と鈴の間に扇子(せんす)が差し込まれる。パンッと開いたそれには『羅刹(らせつ)』と書かれていた。……これは、間違いない。

 

「はいはい、騒ぎ立てないの。他のお客さんがびっくりするでしょう?」

 

「なぁっ!? せ、先輩?」

 

「なんだって楯無先輩がウチのメイド服を着てるんだ……?」

 

 びっくりしたのはこちらも同じだ。いつの間に拝借したのか、先輩が着ているのはこのクラスのものと同じものだったのだ。

 

「楯無」

 

「へ?」

 

「名前で呼んでって言ったでしょ、一夏くん」

 

「た、楯無さん」

 

「よろしい」

 

 扇子を自分の方に戻しながら、パチンと閉じる。その手慣れた扱いは、まるで日本舞踏のようだった。

 

「さて、私もお茶しようかしら」

 

「接客しないんですか……」

 

「うん」

 

「じゃあなんでその格好を?」

 

「一夏、やめとけ。頭が痛くなるだけだ」

 

 目の前の生徒会長のフリーダムさに、はぁ……と溜め息を漏らすと、そこにひときわ騒がしい女子が飛び込んできた。

 

「どうもー、新聞部でーす。話題の織斑執事とホーキンス執事を取材に来ましたー」

 

 新聞部エースこと黛 薫子(まゆずみ かおるこ)さんだった。ことあるごとに俺や一夏の写真を撮りに来るので、今ではすっかり顔なじみである。

 

「お、薫子ちゃんだ。やっほー」

 

「わお! たっちゃんじゃん! メイド服も似合うわねー。あ、どうせなら織斑くんやホーキンスくんとのツーショットちょうだい」

 

 言いながら、すでにシャッターを切り始めている。楯無先輩に至っては「いえい♪」とピースまでしている。……2年生もこういうノリの生徒が多いのか?

 

「……帰る」

 

「なんだよ、鈴。もう行くのか?」

 

「自分のクラスのお店もあるしね」

 

「そっか。あ、そうだ。あとでそっち行くかもしれないぞ」

 

「ふーん。まあ、客ならもてなすわよ」

 

「おう」

 

 一夏と鈴がそんなやり取りをしている間に、何やら写真撮影の雲行きが急激な変化を始めていた。

 

「やっぱり女の子も写らないとダメね!」

 

「私写ってるわよ?」

 

「たっちゃんはオーラがありすぎてダメだよー。あ、どうせなら他の子達にも来てもらおうかな」

 

「それいいわね。その間は私がお店の手伝いするわ」

 

「うんうん、それでいきましょう。では、写真取るからメイドさん来てー」

 

「(オーケー。俺達の意見は求められていないってことだな)」

 

「まずは織斑くんとセシリアちゃんからねー」

 

 こうして撮影会は一夏とのツーショットで始まったのだが、セシリアが一夏に腕を絡ませ、箒は恥ずかしさから暴れ出し、シャルロットは服装を褒められて終始ニヤケ顔に、ラウラは『教官(織斑先生)のような写り方』を目指して妙なキメ顔を作ったりと、それはもうドタバタしたものだった。

 

「じゃあ、次ホーキンスくんお願ーい」

 

 (まゆずみ)先輩はそう言いながら、早速俺とメイド達のツーショットを撮り始める。

 1人目、セシリア。

 

「ウィリアムさん、スマイルを」

 

「こんな感じか?」

 

「バッチリですわ。よく写真を撮られていますの?」

 

「悪友としょっちゅう遊びに繰り出してたからな。記念撮影みたいなこともよくやってたんだ」

 

「成程、お友達と……。例えばどのような遊びを?」

 

「海洋パニック系の映画を見たあと、海に飛び込むとか?」

 

「か、変わった遊びですわね……」

 

「(懐かしいなぁ~。1人ガチ泣きしてた奴いたけど)」

 

 2人目、箒。

 

「い、一夏の時もだが、正直このような格好の写真が残るのは避けたいのだが……」

 

「まあまあ、そう言うなよ箒。俺だって燕尾服なんざ着せられてるんだし」

 

「しかし、私はメイドなどという柄ではないぞ。こんなヒラヒラした……」

 

「それを言ったら俺なんてどうだよ? こんな格好を知り合いに見られたら、燕尾服を着たゴリラみたいって言われちまいそうだ」

 

「ぷっ……」

 

「おっ、シャッターチャ~ンス♪」

 

 3人目、シャルロット。

 

「なあ、シャルロット。一夏がお前さんのことを『シャル』って呼んでるけど、あれは愛称みたいなもんか?」

 

「うん、そうだよ。一夏が考えてくれたんだ。その方が親しみやすいって」

 

「成程な。そりゃあ確かに親しみやすい愛称だ。それに……」

 

「それに?」

 

(うそ)(まこと)か、愛称で呼び合う男女は将来結ばれる可能性が高いとか聞いたこともあるしな」

 

「む、結ばれっ……!?」

 

「まあ、愛称で呼ぶほど仲が良いならそれも頷けるよな。あくまで可能性の話だが」

 

「そ、そっかぁ。結ばれる、かぁ。えへへ♪」

 

「(ありゃ。上の空になってら……)」

 

 4人目、ラウラ。

 

「しかし、なんだな。私とお前ではそれなりに身長差があるな」

 

「ん? まあ、そうだな」

 

「……てもいいぞ……」

 

「なんだって?」

 

「だ、だっこしても、いいぞ……」

 

「あ、あー……。えーっと?」

 

「しゃ、写真撮影のためだ! いいな!? 分かったか!?」

 

「あっ、その案採用。てことでホーキンスくん、ラウラちゃんをだっこしてちょうだい。お姫様だっこで」

 

「いやいやいや! それはさすがにまずいでしょ! 普通でいいじゃないですか!」

 

「よ、よし! ウィル! お姫様だっこだ!」

 

「落ち着け! クールになるんだ!」

 

「お、落ち着いているっ!」

 

「ウソつけ!」

 

 そんなこんなで、ようやく全員分のメイド・執事のツーショット写真が撮り終わる。

 (まゆずみ)先輩はホクホク顔で、何度もデジカメのプレビューを眺めていた。

 

「や~。1組の子は写真()えしていいわ。撮る方としても楽しいわね」

 

薫子(かおるこ)ちゃん、あとで生徒会の方もよろしくね」

 

「もっちろん! この黛 薫子(まゆずみ かおるこ)にお任せあれ!」

 

 ドンッと胸を叩いて答える(まゆずみ)先輩。所属は文化系の部活なのに、ノリはまるで体育会系だな。

 

「そうそう、一夏くん、ウィリアムくん。私、もうしばらくお手伝いするから、校内を色々見てきたら?」

 

「えっ、いいんですか?」

 

「うん、いいわよ。おねーさんの優しさサービス」

 

「お気遣いは嬉しいのですが、自分達が抜けるとクラスメイトからのお叱りが……」

 

「それも大丈夫。私が適当に誤魔化しておくから」

 

「(確かに楯無先輩はかなり人気があるし、客も怒ったりはしないか?)」

 

 そう思った俺は、楯無先輩の厚意に甘えさせてもらうことにした。

 

「先輩もそう言ってくれていることだし、行かせてもらうか」

 

「だな。じゃあ、ちょっとお願いします」

 

「うん。行ってらっしゃーい」

 

 執事服の上を脱いで、廊下に出る。相変わらず長蛇の列だったが、楯無先輩が手伝ってくれているおかげでさっきよりも回転が速くなった気がした。

 

「あ、織斑くんだー」

 

「あれ? ホーキンスくんもいるー」

 

「ねー、どこ行くのー? 休憩?」

 

「まあ、そんなところ」

 

「そんな長いこと留守にはしないよ」

 

 声をかけてくる女子に返事をしながら、正面玄関へと向かう俺達。

 

「ちょっといいですか?」

 

「「はい?」」

 

 ふと、声をかけられた。それも階段の踊り場で。

 

「失礼しました。私、こういうものです」

 

 スーツの女性は手早く名刺を取り出して渡してくる。

 

「えっと……IS装備開発企業『みつるぎ』渉外(しょうがい)担当・巻紙 礼子(まきがみ れいこ)……さん?」

 

「IS装備の企業……。それで、自分達に何のご用でしょうか?」

 

 名刺に軽く目を通してから、俺は再度女性に視線を移す。ショートヘアーがよく似合う、美人の女性だった。

 その顔は声をかけてきてからずっとニコニコと笑みを浮かべている。営業スマイルというやつだろう。

 

「はい。お2人にぜひ我が社の装備を使っていただけないかと思いまして」

 

「(成程。そういう話か)」

 

 俺は心の中で頷きながら、隣にいる一夏にチラリと視線をやる。その顔はうんざりとしていて、またか……と口に出さなくても聞こえてくるようだった。

 ついこの間に一夏から聞いたのだが、この手の話を他社から何度も持ちかけられて夏休みの半分以上を無駄にしてしまったらしい。

 はっきり言って、世界でも2人しかいない男のIS操縦者である俺達に装備を使ってもらえるというのが、すさまじい広告効果と莫大な利益を生むのは言うまでもないだろう。

 特に一夏は、【白式】の開発元である倉持技研(くらもちぎけん)が未だに後付武装を開発できていないということで、各国企業から山のようにお誘いが来ているそうだ。

 ちなみに俺の【バスター・イーグル】は既存の装備を改修・流用しているものがほとんどであり、後付武装において特にこれといった困り事はないので、そういったお誘いはあまり来ない。

 そもそも、アメリカ空軍所属ということになっているので下手に接触できないというのが大きいと思うが……。

 

「そう言われても……」

 

 困ったように呟く一夏。その反応も無理はないだろう。

 後付武装に使用される拡張領域は各機体の量子変換容量に依存する。しかし、それ以外にもISコアの『好み』のようなものがあるようで、それによって装備を取り込めるかどうかが決まるのだ。

【白式】は、射撃武装は全滅。防御用の(たて)も嫌がり、『雪片弐型(ゆきひらにがた)』以外の格闘武器も拒否。

 もし第2形態移行で射撃・格闘・防御をこなす『雪羅(せつら)』が生まれなかったら、ブレード1本というなかなかのイカれっぷりを今日(こんにち)も見せつけられていただろう。

 余談だが、【バスター・イーグル】は銃砲からミサイル、ロケットまでなんでも搭載できる。だが、格闘用の武器と(たて)だけはどうしても載せたがらない。

 そのため、開発スタッフはせめて『スコーピオン』ナイフだけでもと、量子変換ではなく機体パーツの一部として(なか)ば強引に搭載したそうだ。

 

「あー、えーと、こういうのはちょっと……取り敢えず学園側に許可を取ってからお願いします」

 

「同じく。まずは合衆国空軍と『ウォルターズ・エアクラフト社』に話を通していただきたく思います。お話はそれからで」

 

「そう言わずに!」

 

 スーツの女性こと巻紙さんは活発そうな見た目通りにえらくアグレッシブな交渉をしてくる。俺と一夏は腕を思い切り掴まれ、その場を失敬することもできなかった。

 

「こちらの追加装甲や補助スラスターなどいかがでしょう? さらに、今ならもう1つ、脚部ブレードもついてきます!」

 

 それが仕事なのだから仕方ないとは思うが、こうも強引な交渉だとさすがに少しイラッときてしまう。

 

「申し訳ありませんが、こういう話を自分達だけで勝手に了承することはできません。先ほども申した通り、許可を取ってからでお願いします」

 

 若干語気を強めて言い返すと、勢いをくじかれた巻紙さんはカタログを取り出そうとする手を止めて沈黙した。

 

「では、自分達は人を待たせていますので、これで失礼します。……行くぞ、一夏」

 

 そう言って一礼してから、俺は一夏の背中を押すような形でその場をあとにする。

 

チッ。あのガキ、こっちが下手(したて)に出てりゃ調子乗りやがって……

 

「(聞こえてるぞー)」

 

 背中越しに小さく浴びせられた罵倒を聞き流しながら、俺は一夏と共に待ち合わせの玄関へと急ぐのであった。

 

 

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