インフィニット・ストラトス 蒼空に鮫は舞う   作:Su-57 アクーラ機

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45話 友と回る学園祭

「ついに……ついにやって来たぜっ……!」

 

 IS学園の正面ゲート前にて、拳を握りしめてガッツポーズをする男子が1人。

 それはウィリアムの幼馴染にして友人のマイク・ジェンキンスだった。

 

「女の園! 男が1度は夢見る場所! IS学園になあ!!」

 

 時は少しさかのぼる。

 ウィリアムと共通の友人であるジョニー・テイラーと共に通学していた時だった。

 

「そーいやさ、ウィルに彼女できたとか、なんか聞いてないのか?」

 

「いや、彼女の『か』の字も無いとか言ってたぞ」

 

「マジ? あいつならもうとっくに出来てると思ったんだけどな~」

 

「まっ、出来たら出来たで(しょ)すけどな」

 

「「リア充どもに慈悲はない。滅ぶべし」」

 

 バッグを背負いバス停に向けて歩きながら、マイクとジョニーは呪詛(じゅそ)のように言う。

 

「そういえば、今度学園祭だったよな。マイクのクラスは演劇だったっけか?」

 

「ああ。『白雪姫』をな。衣装も小道具もなかなか()っててよ」

 

「ほへ~。ちなみにお前は何役で出るんだ?」

 

「森のリスBだ」

 

「ぶふぉっ。ぷっ、くくく……! し、白雪姫でっ、森のリスBって……!」

 

「んだよ、そんな笑うことねえだろ? ハリウッド顔負けの名演技が炸裂だぜ」

 

「1回ハリウッドに怒られてこい」

 

 そんなやり取りをしてから、ワハハと2人で笑う。

 

「しかし、いいよなぁ。美少女揃いで有名なIS学園だろ? 俺も行きてーなー」

 

「だよなぁ。くぅぅ、ウィルが羨ましいぜ」

 

「ウィルのやつ、彼女なんていないとか言ってるけど実はモテモテだったりしてな」

 

「……よし、今度帰ってきたら鼻にホットチリソース突っ込んでやろうぜ」

 

「それはやめて差し上げろ。あまりにも非人道的すぎるだろ」

 

 ワハハ、とまた笑ってから、マイクとジョニーは同時に静かになる。

 今2人の頭の中では、美少女とのデートが妄想されていた。

 

「「……………………」」

 

 ~~~♪

 

「ん? お、電話だ。……おお! ウィルからじゃねえか!」

 

 マイクは鳴った携帯電話を取り、耳に当てる。

 

「もしもし? ウィルか?」

 

《よう、マイク。悪いな、いきなり電話しちまって》

 

「そりゃあ別にいいけどよ。どうしたんだ?」

 

《ああ。実は近々IS学園で学園祭があるんだが、その件で話があってな》

 

「……なんだぁテメェ。それはIS学園に行けなかった俺に対する嫌味か? ああ? コラ」

 

《まあ待てよ。その学園祭には1人につき1人まで外部から客を招待できてな。で、その招待券をお前にやろうと思ったってわけだ》

 

「………Really(マジ)?」

 

《おう》

 

「……………………」

 

《なんだ。もしかしていらないのか――》

 

「いやいやいやいや! 行く! 行きます! 行かせていただきます! イヤッフー!!」

 

 ウィリアムの言葉を遮って答えるマイク。

 一般人は立ち入ることすらできないIS学園への招待なのだ。断るはずもない。

 

《招待券は今度送ってやるから忘れずにな。日程もそこに記入されてるから》

 

「りょーかい! いやぁ今から楽しみでしょうがねえよ。夜眠れっかな?」

 

 マイクは元気よく敬礼付きの返事をしてから、心の中で『持つべきものは友達だな……』としみじみに思う。

 

《お前は遠足前の小学生か。じゃあ、話は以上だから。これで切るぞ》

 

「おう! また学園祭の日にな!」

 

《ああ》

 

 そうして電話を終えたマイクは、弾む気持ちでジョニーの方に振り返る。

 が、しかし、その幸せいっぱいのスマイルは瞬時に消え去ることとなった。

 

「よう、マイフレンド。実はたまたま偶然ここにホットチリソースがあってだな」

 

 ジョニーが笑顔(目だけは全く笑っていない)を浮かべ、ドス黒いオーラを放ちながら立っていたからだ。

 

「じょ、ジョニー? なんでそんな物がバッグに入って……って、待て待て! それをどうするつもりだ! やめろ! 俺に近づけるなっ!」

 

「裏切り者に慈悲はない。大人しく処されろ」

 

「お前さっきは非人道的とか言って――ア゛ーーーーーッ!!

 

 ――そして今日、こうしてIS学園にやってきたのである。待ち合わせの時間からすでに10分が過ぎているが、別段気にならない。

 

「(おお……。こっからでも女子が見える……。みんなレベル高すぎだろ)」

 

 女子生徒のルックスに目を丸くしながらウィリアムを待っていると、マイクの隣に1人の男子が現れた。

 

「ふ、ふ、ふっ……」

 

「(なんだ? 誰かの知り合いか?)」

 

 その男子というのは一夏の友人にして招待客である五反田 弾(ごたんだ だん)なのだが、そんなことをマイクが知るよしもない。

 

「ついに、ついに、ついにっ! 女の園、IS学園へと……来たぁぁぁぁあ!!」

 

「(うおっ!? 何言ってるのかはさっぱりだがテンションたけぇな。でも叫びたい気持ちはよ~く分かるぜ)」

 

 会ったことも話したことも、異国の言葉も分からないマイクだったが、(だん)に何か親近感のようなものを感じて心の中で深々と頷いた。

 

「そこのあなた」

 

「はい!?」

 

「!?」

 

 不意に声をかけられた弾がビクッと背筋を伸ばし、その隣にいたマイクも思わず飛び上がりそうになったのを必死にこらえて、声の主へと視線をやる。

 

「(ワーオ。まさに仕事のできる美人秘書って感じだな)」

 

 振り向いた先に立っていたのは、眼鏡と手に持ったファイルがいかにも堅物(かたぶつ)イメージの布仏 虚(のほとけ うつほ)だった。

 

「あなた、誰かの招待? 一応、チケットを確認させてもらってもいいかしら」

 

「は、はいっ」

 

 弾はアタフタと焦りながら、握っていたせいでクシャクシャになったチケットを差し出す。

 

「配布者は……あら? 織斑くんね」

 

「え、えっと、知っているんですか?」

 

「ここの学園生で彼のことを知らない人はいないでしょう。はい、返すわね」

 

「あ、あのっ!」

 

「? 何かしら」

 

「い、いい天気ですね!」

 

「そうね」

 

 会話終了。自分のセンスの無さにズーンと落ち込む弾を不思議そうに眺めてから、次にマイクに声をかけた。

 

「あなたもチケットを見せてもらえるかしら」

 

「あ、はい」

 

 流暢(りゅうちょう)な英語で話しかけられたことに若干驚きながら、マイクはショルダーバッグからチケットを取り出す。

 

「あら。こっちはホーキンスくんね」

 

「あいつとお知り合いなんですか?」

 

「色々あって少しね。はい、確認できたわ。楽しんできてね」

 

 そう言ってチケットをマイクに返した虚は、忙しそうに去って行った。

 

「う、う、俺ってやつは……俺ってやつは……」

 

「まあ、そう落ち込むなよ。ショボくれた顔じゃあ女の子も離れて行っちまうぜ?」

 

 哀愁(あいしゅう)を漂わせる弾を見かねたマイクが、彼を元気づけるように背中をポンポンと叩く。

 

「何言ってるか分かんねえけどサンキュー……」

 

「ユアウェルカムだ」

 

 なんとか『サンキュー』だけは聞き取ることができたマイクは、棺桶(かんおけ)に片足を突っ込んだような気分の弾を励ましながら、ウィリアムが来るのを待った。

 

 ▽

 

「お、いたいた。おーい、(だん)!」

 

「見つけた。マイク!」

 

 駆け足でゲートへ向かうと、そこにはマイクともう1人見知らぬ男子が立っていた。

 

「よう、ウィル!」

 

「おー……」

 

 返事をしたマイクは普段通り元気溌剌(はつらつ)とした様子だが、その隣の男子は半死のような有様だ。

 

「一夏、お前の知り合いか? 今にもポックリ()っちまいそうなんだが」

 

「あ、ああ。こいつは五反田 弾(ごたんだ だん)。中学からの友達だ」

 

「五反田 弾……? ああ。そういや、結構前にお前さんや鈴が話してたな。それで、なんでこんな死にそうな顔になってるんだ?」

 

「さあ? 弾、どうしたんだよ」

 

「どうもしない……。俺にはセンスがない……」

 

「なんだそんなことか」

 

「そんなことって、お前なあ!」

 

「待て待て暴れるな。追い出されるぞ」

 

「くっ……。ここは大人しくしていよう」

 

 一夏に言われて落ち着きを取り戻す五反田くん。この2人は中学からこういうノリなのだろう。

 

「待たせて悪いな、マイク。ちょっとばかし手こずったんだ」

 

「いや、俺は別に気にしてねえよ。それより1つ聞きたいことがあるんだけどよ」

 

「何を聞きたいんだ?」

 

「いやな、お前とそっちのイケメンがしてる格好はなんだ?」

 

 ……………。

 

「さあて。時間も限られていることだし、早速行くとするか!」

 

「あっ! おい、ウィル! 話を逸らすな!」

 

「なんのことかさっぱりだなあ! ということで一夏、それと五反田くんも。楽しんでこいよ!」

 

 俺は2人にそう言い残してから、しつこく追及してくるマイクを引き連れて校舎内へと入る。

 

「取り敢えず適当に見て回るか?」

 

「それよりその格好は……つっても答えてくれないんだろうよ。そうだな。せっかくだし色々見て行きてえな」

 

「はいよ。じゃあ、俺も全然見れなかったし、行こうぜ」

 

 俺とマイクは2人並んで歩き出す。

 

「あ、ホーキンスくんだ! やっほ~」

 

「あとで絶対お店行くからね!」

 

「えへ! 執事服のホーキンスくんを激写! 永久保存確定ね!」

 

 行く先々で女子に声をかけられ、俺は手を振ったり返事をしたりで大忙しだ。

 そんなことを繰り返していると、隣からマイクの恨めしそうな声が聞こえてきた。

 

「お前、メチャ人気じゃねーかこの野郎……」

 

「そうかあ? 前に一夏が言ってたけど、ただ珍動物みたいな扱いを受けてるだけだろ」

 

「例えそうだとしても羨ましいぜ。なあ、入れ替わってくれよ」

 

「替われるもんなら替わってやるよ。IS訓練はなかなかハードだが、まあ頑張れよ」

 

「はっはっはっ! 女子に囲まれるためなら対空砲火の中にだって突撃してやるぜ!」

 

「そうか。蜂の巣にされるかもだけどな、IS実戦は」

 

「…………………。やっぱり、平和が一番だと思うんだ、俺」

 

「どうした? 対空砲火にだって突っ込むんだろ? お前の大好きな大迫力(だいはくりょく)の3Dだぜ?」

 

「3Dどころかマジで撃たれてるじゃねえか! 俺はまだ死にたくない!」

 

「俺だって死にたかねえよ」

 

「それもそうか。なんかままならねえな~……」

 

 なんだかよく分からないまま2人揃って溜め息を漏らしていると、いかにもおどろおどろしい雰囲気のクラスを見つけた。

 

「へえ~、お化け屋敷か」

 

「ピクッ!?」

 

 な、に……? お化け屋敷……だと……?

 

「いかにもな雰囲気で面白そうだな。入ってみようぜ」

 

 俺は、意気揚々とお化け屋敷へ踏み入ろうとするマイクの肩をガッシリ掴んで引き止める。

 

「待てマイク、ここはやめておこうぜ、な? ほら、お化け屋敷ならフロリダのネズミーランドに行けばあるだろ?」

 

「なに言ってんだよ。ネズミーとIS学園とじゃあ内容も違ってくるだろ?」

 

「そんなもんどこも一緒だって! な? な!? だから他のところ回ろうぜ!? ほら!」

 

 そんなことを言ってマイクと引っ張り合いを続けていると、不意に横合いから声をかけられた。

 

「ようこそ、死霊(しりょう)(やかた)へ……」

 

「うひぃ!?」

 

 血まみれの白いワンピースと特殊メイクをした女子を前に、俺は思わず悲鳴を上げながら後退りしてしまう。

 これは誰にも話したことはないのだが、実を言うと俺は心霊系の(たぐ)いが大の苦手である。お化け屋敷などもっての他で、俺の心臓を止める気かと言ってやりたいくらいだ。

 

「あっ、ホーキンスくんだ! みんなー! ホーキンスくんと男友達が来てくれたわよー!」

 

「え、ほんと!?」

 

「これは気合い入れて怖がらせないとね!」

 

 待って怖がらせないで。ていうか、入るなんて一言も言ってな――

 

「おーし、早速入ろうぜウィル!」

 

「あっ、おい――!」

 

 いつの間にか後ろに回り込んでいたマイクに背中を押される形で、俺はお化け屋敷へと強制連行されるのだった。

 

「2名様入りまーす。どうぞ涼しくなって行って下さい。フフフ……」

 

 ▽

 

「(うわぁ、真っ暗じゃねえか……。なんか意味不明な言葉も延々と鳴り響いてるし……!)」

 

 懐中電灯を手渡されたウィリアムは、マイクと2人で迷路のような道を恐る恐る歩いていた。

 室内のどこかに設置されているのであろうスピーカーから流れるお(きょう)と、若干強めに設定された冷房が恐怖心をさらに増大させる。

 

「ちくしょうっ。なんで俺まで……」

 

 ブツクサと文句を垂れ流しながら、懐中電灯で先を照らすウィリアム。

 

「おお~。なんかクオリティーたけぇな」

 

「お前はなんで楽しそうなんだよ……」

 

 こんな時に何を能天気な……と、ウィリアムが隣のマイクにジト目を送った次の瞬間だった。

 

「あ、あ、あぁっ……!」

 

 ウィリアムの顔がみるみる真っ青になっていく。

 

「ウィル? おい、どうしたんだよ?」

 

 顔を引きつらせたまま硬直(こうちょく)するウィリアムを不審に思ったマイクも、彼が視線を向ける先へと振り向く。

 

1枚……2枚……3枚……

 

 ボンヤリとした青白い光の中に、それはいた。

 木製の井戸から現れたのは、白い着物を羽織った女。髪はダランと垂れ下がっており、何やら手に持った皿を1枚いちまい数えている。

 

「おお~。これってアレじゃね? 『番町皿屋敷(ばんちょうさらやしき)』ってやつ!」

 

「 」

 

 ウィリアムの顔はもはや青を通り越して白くなりつつあるのだが、相変わらずはしゃいでいるマイクがそれに気づく様子はない。

 

7枚……8枚……9枚……1枚足りない

 

 女はそう呟いてからゆっくりとウィリアムとマイクがいる方へと振り返り、そして……

 

お 前 の せ い か

 

「うはぁぁ! 超こえぇ――」

 

イヤアアアアアア!! ジャパニーズお菊ううううう!!

 

 発狂したウィリアムは、まさに神速のごとき速度で走り去ってしまった。

 

「「「えぇ……」」」

 

 隣にいたマイクや後続に控えていたお化け役の生徒達までもを置いてけぼりにして。

 ウィリアム・ホーキンス。アトラクション開始から、わずか1分30秒でリタイア。

 

 ▽

 

「はーっ、はーっ、はーっ……!」

 

「あっははははっ! なんだよウィル。お前もしかしてああいうのダメなタイプだったのか?」

 

「わ、笑いごとなもんかよ! こっちはマジで心臓が止まるかと思ったんだからな!」

 

 結局お化け屋敷はリタイアという扱いで終わり、参加賞のあめ玉をもらって帰ってきたマイクに大笑いされた。

 

「わりぃわりぃ。まさか心霊系が苦手だとは思わなかったんだよ。それなら、(かたく)なに入ろうとしなかったわけも頷けるわ。くくくっ」

 

 目尻に浮かんでいた涙をぬぐうマイク。そんなに面白かったのか、必死に笑いを噛み殺していた。

 

「苦手なもんは苦手なんだよ。ったく、酷い目に遭ったぜ……」

 

「…………。ぶふっ! ヤベッ、思い出したらまたっ――あーっはははははっ!」

 

 ……オーケー。こいつに2~3発ほど右ストレートをお見舞いしてもバチは当たらないよな。

 

「ハハハ、超ウケるよなー。……ついでにお前の顔もみんなからウケるようにしてやろうか? んん?」

 

「分かった。もう黙る。黙るからその右手を下ろしてくれ。いやほんと、マジで」

 

「そいつは残念だ。せっかく格好いい顔にしてやろうと思ったのに」

 

 そんな風に2人で喋っていると、俺の携帯電話から着信メロディーが鳴った。

 

「はい、もしもし?」

 

《ウィル、今どこにいる? お前と一夏はどこだと客からのクレームが殺到しているぞ。早めに戻ってこい》

 

 若干疲労の色が見えるラウラからの帰還要請に、俺は戻らざるを得なくなる。

 

「分かった。すぐ戻る」

 

《頼んだぞ》

 

 通話を終えて、俺はマイクに戻る(むね)を伝える。

 

「おう。馬車馬(ばしゃうま)のように働いてこい」

 

「やかましい」

 

 そんな軽口を交えてから、俺はすぐさま1組の教室へと戻った。

 

「ウィル、戻ったか。早速だが3番テーブルでゲームだ。それと、ついでにオーダーを4番に持って行ってくれ」

 

 戻ってすぐ、ラウラからトレーを渡される。

 ちなみに一夏は俺よりも先に戻ってきていたらしく、すでに(せわ)しなく動き回っていた。

 

「おう。分かった。それはそうと楯無先輩はどこ行った?」

 

「生徒会の方があると言って消えたぞ」

 

 なんて無責任な人なんだ……。

 

「はぁ~。んなことだろうと思ったよ」

 

「ともかく! こんな所で雑談をしている(ひま)は無いぞ! 駆け足!」

 

「了解!」

 

 あっちに行ったりこっちに行ったりと教室中を奔走(ほんそう)する。

 

「お待たせいたしました、お嬢様」

 

「きゃー! ホーキンスくんだ~!」

 

「ゲーム! ゲームしよ!」

 

「こっちはご褒美セットだから、座って座って!」

 

「(さすがに結構な重労働だな、こいつは……)」

 

 それから1時間ほど忙しく動き回り、俺と一夏はやっとのことで引っ張りだこから解放された。

 

「お疲れ様、2人とも」

 

「あ、鷹月(たかつき)さん。お疲れ」

 

「そっちもお疲れさん」

 

 クラスのしっかり者こと鷹月 静寝(しずね)さんは今日も色々と忙しそうだ。

 

「しばらく休憩してきたら? お店も1回体勢整えるのに時間かかっちゃうし」

 

「おっ、そりゃあ助かる」

 

「けど、いいの?」

 

「1時間くらいなら平気かな。せっかくだし、女の子と学園祭見てきたら?」

 

「そういうことなら」

 

 お言葉に甘えようかなと一夏が言った矢先、セシリアがその腕をグイッと引っ張った。

 

「では一夏さん! わたくしと参りましょう!」

 

「あああっ! セシリア、ずるいよ~。一夏、僕も行きたいなぁ」

 

「待て! そういうことなら私も行くぞ!」

 

 負けてられないとばかりにシャルロットと箒も参戦し、一夏争奪戦が勃発する。

 そんなプチ・カオスとなった現場を見て、いつもの風景だなぁなどと思っていると、誰かに腕を組まれる。……ん? なんだなんだ?

 

「よし。私達も行くぞ、ウィル」

 

 感触のあった右腕に視線を向けると、すでに出かける気満々のラウラがいた。

 

「分かった分かった。分かったから、少し待ってくれ」

 

「時間は有限だ。行くぞ!」

 

 そんなに早く遊びに行きたかったのか、俺はラウラに腕を組まれたまま引きずって行かれた。

 

 ▽

 

 俺とラウラが始めに訪れたのは美術部のクラス。詳しくは知らないが、何かゲームをやっているらしい。

 

「芸術は爆発だ!」

 

 ……部屋に入って早々物騒だな。

 

「というわけで、美術部では爆弾解体ゲームをやってまーす」

 

「ああ! ホーキンスくんだ!」

 

「ボーデヴィッヒさんも一緒よ!」

 

「さあさあ、爆弾解体ゲームをレッツ・スタート!」

 

 そう言って強引に爆弾を押しつけてきたのは、部長という腕章をつけた女子だった。これでいいのか、美術部。この人が部長で。

 

「えーっと……まずはこのセンサーを無効にするんだっけか?」

 

「待て、ウィル。そのケーブルを切断するとタイマーが一気にゼロになるぞ」

 

「おっと、そいつは危なかった」

 

 配線を調べ、ラウラの指示に合わせて隙間からニッパーを差し込む。

 そして、衝撃センサーに通じている導線を注意深く切断した。

 

「よしっと。こいつはジャンパー線が無くても問題ない型だな。次はーっと……」

 

「次はこれだな。間違って隣の線を切らないように注意しろ」

 

「はいよ」

 

 指定された導線を切りながら、そういえば初めて爆弾解体術を習った時も、こんな感じでラウラに教えてもらったよなぁと思い出す。

 このIS学園ではなんと爆弾の解体術まで習わされるのだが、さすがは特殊部隊所属で部隊長。危険物の無力化はお手の物といった感じだった。

 

「(俺も軍人だが、爆弾処理とはまったく無縁だったからなぁ。最初はしょっちゅう爆発させてラウラに怒られてたっけ)」

 

「おお! 2人ともすごいね! もう最終フェイズに入ってる!」

 

 最終フェイズ――つまり、『爆弾の最終完全無力化段階』である。

 簡単に言うと、映画でよくある『赤か青か』というやつだ。

 ゲームのそれも最後は赤と青の2本のケーブルになり、どちらかを切れば解体終了だが、間違えばKABOOM(ドカーン)というわけだ。

 

「さて、ラウラ。どっちだと思う?」

 

「むぅ……。ここは赤……いや、青だな」

 

「了解。切るぞ?」

 

 ニッパーを差し込み、青のコードを切断する。

 爆弾は特に何の反応も示さなかったが、代わりに美術部の部長さんがガックリとうなだれていた。

 つまり、解体は成功したということらしい。

 

「ふぅ。やったな、ウィル」

 

「ナイスアシスト、ラウラ」

 

 そう言葉を交わしてからのハイタッチ。

 解体成功賞として美術部お手製のキーホルダーをもらい、俺達は勝利の満足感を味わいながらクラスをあとにした。

 

「しかし、まさか爆発物処理の訓練があんなところで活躍するとは思いもしなかったぞ」

 

「だよな。美術部もなかなか奇抜な(もよお)し物を考えたもんだ」

 

 しかも、爆発物が内包されていないことを除けば回路やコードまでほとんど実物だったのだから、さらに驚きだ。

 

「まあ、ゲームとしてやる分には楽しかったからいいんだけどな」

 

 賞品のキーホルダーを指で回して弄んでいた俺は、ふと腕時計に視線をやる。

 

「まだ時間は余ってるな。そういえばラウラ、確か茶道部に行ってみたいとか言ってたよな」

 

「ああ。茶道とやらに少し興味があってな」

 

「よし、じゃあ早速行こうぜ」

 

「い、いきなり手を握るな!」

 

 そう言って俺の手を振り払ったラウラは、心なしか顔が赤くなっていた。……確かに、いきなり人の手を握るなんてデリカシーに欠けた行動だったな。

 

「ああ、悪かったな」

 

「い、いや、その……なんだ……。べ、別に、お前がそうしたいのなら……

 

「? どうした。早く行こうぜ」

 

「………………」

 

 ドスッ。脇腹(わきばら)に無言の手刀をお見舞いされた。……ラウラ、もう少し手加減してくれ。地味に痛い。

 

「はーい。いらっしゃーい。……おお! ホーキンスくんだ! 写真撮っていい?」

 

 なんでみんなして俺が行く先々で写真を撮ろうとするんだろうか。これが分からない。

 まあ、記念撮影とかそういった意味だとは思うけど。

 

「茶道部は抹茶の体験教室をやってるのよ。こっちの茶室へどうぞ」

 

「おお、(たたみ)か。感じ出てるなあ」

 

 本当にこの学園は部屋の設備から細々(こまごま)した道具まで良い物を取り揃えている。

 さすがは世界中から入学希望者が殺到するIS学園ということなのだろうか。

 

「じゃあ、こちらに正座でどうぞ」

 

 うっ、正座かぁ……。まあ、短時間なら問題はない……かな?

 取り敢えず言われるままに、俺とラウラは靴を脱いで畳に上がる。

 

「にしても、執事とメイドが畳で抹茶って、なかなかスゲェ絵面(えづら)だな」

 

「いちいち格好を気にしていると、女々しい奴だと思われるぞ」

 

「なーに言ってんだよ。そういうお前さんだって織斑先生に爆笑されてた時は居心地悪そうにしてただろ?」

 

「う、うるさい! 教官は特別だ!」

 

 1度、様子見ということでやってきた織斑先生がラウラの姿を見て吹き出したあと、しばらく楽しそうに眺めていたのを思い出す。

 あの時のラウラはというと、ステルス戦闘機が飛び交う戦場に旧型レシプロ機で向かわされた新米パイロットのような有様だったと思う。

 ……言ったら何されるか分かったものじゃないので、ここは黙っておくとしよう。

 

「ウチはあんまり作法にうるさくないから、気軽に飲んでね」

 

「あ、はい」

 

 着物姿の部長さんはニッコリ微笑むと、俺とラウラに茶菓子を寄越す。

 それを受け取って一口食べると、あっさりとした上品な甘味(白あん と言うものらしい)が舌の上に広がって溶けた。

 

「ん。おいしいな、これ」

 

「うう……」

 

 ラウラは茶菓子に口をつけることなく、何やら難しそうな顔をしている。

 

「どうした?」

 

「こ、これは、どうやって食べればいいのだ……」

 

 ラウラが取ったのはウサギの形をした茶菓子で、なかなか愛嬌のある顔立ちをしたものだった。

 ジィっとラウラを見つめているかのようなそのウサギは、『僕をお食べよ!』と言っているのか、はたまた『お助けください!』と言っているのか。

 ラウラの反応を見る限りでは、恐らく前者のような気がする。

 

「ラウラ」

 

「な、なんだ!?」

 

「食べないと抹茶飲めないぞ」

 

「う、ううっ……!」

 

 俺に促され、意を決したラウラはパクンと一口でウサギを頬張る。

 ……ああ、たぶん中途半端に歯形がついたウサギを見たくなかったんだな。

 

「……んぐ。うむ、やはり和菓子は美味い」

 

 さっきまでの葛藤はどこへ行ったのか。しっかりと茶菓子を味わったラウラは、満足そうな顔をしていた。

 

「どうぞ」

 

 それから俺とラウラの前に抹茶が出される。

 あー、なんて言うんだっけか? お、お、おてんとまえ? いや、違うな。えー……っと。

 

「ウィル、『お点前(てまえ)いただきます』だ。それと飲む前に茶碗(ちゃわん)を2度回すのも忘れるな」

 

 ああっ。そうそう、それそれ。

 

「お点前いただきます」

 

 一礼してから茶碗を取り、ラウラに教えられた通り2度回してから口をつけた。

 抹茶独特の苦味が口に広がり、口内に残った甘い茶菓子の味わいを流していく。

 スッとした(のど)ごしは心地よく、俺もラウラも飲んでから、ほぅ……っと一息ついた。

 

「「結構なお点前で」」

 

 最後にこの台詞で締めて、俺とラウラは再度一礼をする。

 本当なら茶碗を拝見したりするそうだが、そこまで本格的な茶道ではなく、あくまで『抹茶をいただく』ということに重点を置いた茶道教室のようだった。

 

「よかったらまた来てねー」

 

 部長さんに見送られ、俺とラウラは茶室を出た。

 

「結構良さげな部活だったな」

 

「うむ。そうだな。やはり日本の文化は興味深い」

 

「もしあそこに入部するとしたら、ラウラもあんな和服を着たりするかもな」

 

「わ、和服か。そういえば着たことがないな」

 

 ラウラの和服姿を想像する。

 ……流れるような銀髪を結っての着物姿というのは、なかなか似合う気がした。

 

「う、ウィルは、私の着物姿を見たいか……?」

 

「ふむ……着たら似合うと思うし、俺としては見てみたいな」

 

「そ、そうか!」

 

 パァッと眩しいほど表情を輝かせるラウラ。

 それから自分の反応に気がついたのか、ハッとして俺に背中を向ける。

 

「ま、まあ、機会があればな」

 

「そうか。それじゃあ、楽しみに待つかな」

 

 そんなやり取りをして休憩時間は終わり、俺とラウラは教室に戻った。

 1年1組の出し物は相変わらずの盛況ぶりで、俺と一夏は戻るなり引っ張りだこになる。

 

「(でもまあ、みんな頑張ってるわけだし、悪い気はしないな)」

 

 誰かと一緒に頑張れるというのは、それだけで楽しくなるものだ。

 

「(よし! 俺も気合い入れていくか!)」

 

「じゃじゃん、楯無(たてなし)おねーさんの登場です」

 

 エネミー・タリホー!

 

「ウォーバード1よりサマー1! 職場放棄人間を目視で確認した!」

 

「回避! 回避!」

 

「はい、ドーン!」

 

 俺と一夏の必死の逃避も虚しく、楯無先輩に難なく捕縛されてしまう。

 

「だあっ! 進路妨害すんのは無しでしょ!」

 

「ジーザスクライストッ!!」

 

「まあまあ、そう言わずに。ときに一夏くん、ウィリアムくん。君達の教室手伝ってあげたんだから、生徒会の出し物にも協力しなさい」

 

「疑問形じゃない!?」

 

「うん。決定だもの」

 

「俺とウィルの意志は……」

 

「勝手に決定してもいいじゃない。生徒会長だもの」

 

 クソッ! また出たな『生徒会長権限』! 職権乱用にもほどがあるだろ!

 

「絶対ヤバいことに巻き込まれる気がする。自分は絶対に嫌ですからね!」

 

「……ウィル、もう大人しく諦めようぜ。これ以上は疲れるだけだ」

 

「くっ……! 確かにお前の言う通りだ……」

 

「で、何を手伝うんですか?」

 

「あら、2人とも(いさぎよ)い」

 

「もう無駄だって分かってますから」

 

「……仮に抵抗したとしても、あなたは気にも留めないでしょう」

 

「あら、おねーさんのこと分かったつもり? まだまだダメよ、1年生くん」

 

 ツンと鼻先を押される俺と一夏。これ、やっぱり遊ばれてるよな俺達。

 

「あはは。2人ともからかうと面白いわよね」

 

「で、出し物は!?」

 

「ただふざけに来ただけでしたら、即仕事に戻らせてもらいますよ?」

 

「やん。怒らないで。演劇よ」

 

「演劇、ですか……?」

 

 そりゃまた、予想に反して結構普通のジャンルだな。

 

「観客参加型演劇」

 

「「は!?」」

 

 観客参加型……って、何だそりゃ?

 

「とにかく、おねーさんと一緒に来なさい。はい、決定」

 

 ビシッと扇子を俺達に向け、威風堂々と宣言をする楯無先輩。

 

「おい、勝手に話を取り決めるな」

 

「一夏とウィルを連れて行かれると、ちょっと困るんですけど……」

 

 いいぞ、ラウラにシャルロット! ナイス援護だ! もっと言ってくれ!

 

「ラウラちゃん、シャルロットちゃん。あなた達も来なさい」

 

「なに?」

 

「ふえ!?」

 

「おねーさんがきれーなドレス着せてあげるわよ~?」

 

「ドレス……だと……」

 

「ど、ドレス……」

 

 まずい、2人の心が揺れている! そうだよな。ドレスは女の子の夢だもんな。だが頼む! ここは俺と一夏のために耐えてくれ!

 

「ふ、ふん。まあ、少しだけなら付き合ってやらんことも……ない」

 

「じゃ、じゃあ、あの……ちょっとだけ」

 

 ああっ!? ラウラとシャルロットが(おと)された!

 

「ん~。素直で2人とも可愛い! じゃあ、箒ちゃんとセシリアちゃんもゴーね」

 

「「はっ!?」」

 

 聞き耳を立てて様子をうかがっていたらしい2人が、同時に驚きの声を上げる。

 

「全員、ドレスを着せてあげるから」

 

「そ、それなら……」

 

「まあ、付き合っても……」

 

 箒、セシリアの2人までもが陥落。

 

「……ちなみに聞きますが、演目は何を?」

 

「ふふん」

 

 バッと扇子を開く楯無先輩。そこには『追撃』の2文字。

 

「シンデレラよ」

 

 シンデレラねぇ……。なんとな~く一波乱ありそうな気がするんだよなぁ、主に俺と一夏に。

 

 

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