インフィニット・ストラトス 蒼空に鮫は舞う   作:Su-57 アクーラ機

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46話  バトルフィールド in シンデレラ

「2人とも、ちゃんと着たー?」

 

「「……………」」

 

「開けるわよ」

 

「開けてから言わないでくださいよ!」

 

「着替えの真っ最中だったらどうするんですか?」

 

「そう言う割にちゃんと着てるじゃない。おねーさんがっかり」

 

「……なんでですか」

 

「まったく……」

 

 第4アリーナの更衣室。普段はISスーツの着替え場所として使われるそこに、俺と一夏はいた。

 

「はい、王冠」

 

「はぁ……」

 

 しぶしぶ楯無先輩から王冠を受け取る一夏。その口からは大きな溜め息が漏れる。

 

「なによ、嬉しそうじゃないわね。シンデレラ役の方がよかった?」

 

「えっ、一夏お前……」

 

「嫌ですよ! ウィルも本気にするなよな!」

 

「冗談だ、冗談」

 

「ったく!」

 

 一夏の服装は……なんというか、王子様だ。まあ、演目はシンデレラなのだから王子様が出るのは頷けるだろう。頷けるのだが……。

 

「――それで、なぜ自分は兵士の格好を?」

 

 問題なのは俺の格好だった。しかも、中世時代の甲冑(かっちゅう)などではなく、えらくモダナイズされた現代風な兵士の服装なのだ。

 頭から順に、茶色のミリタリーキャップ&ヘッドセット。胴体にはデザート迷彩のバトルスーツとボディアーマー、脚にはこれまた迷彩色のバトルパンツ。(ひざ)にはご丁寧にニーパッドまで。

 ……なんか、どこぞの『バトル』で『フィールド』な『4』に出てくる工兵みたいな装備だな……。

 

「それはもちもん、王子様を危険から守る兵士なんだから装備もそれなりじゃないとね」

 

 えっ、シンデレラって『メディック! 1人やられた!』とか『グレネードだぁぁ!』みたいに殺伐とした物語だったっけか?

 

「あっ、ウィリアムくんにはこれね」

 

「……なんの鍵ですか?」

 

「それは秘密♪ それとこれも持って行きなさい」

 

 ガショッと手渡されたのはカービンライフルにスモークグレネード、そしてまさかのロケットランチャー……。

 

「って! ちょっと待ってください! どんだけ物騒なシンデレラなんですか!」

 

 そら見ろ! 一夏がすんげぇ顔で俺のこと見てるぞ!?

 

「安心して。弾は本物じゃないから安全よ」

 

「マジもんならもっとヤバいですよ! っていうか弾が出るのかよっ!」

 

 俺はいったい何と戦わされるんだ!? 王子暗殺とかで戦車でも持ち出してくるのかよ! 普通に死ぬわっ!!

 

「……ハハッ。なあ、ウィル。俺って今日死ぬのかな……?」

 

「だ、大丈夫だ一夏! 何かあっても俺が守ってやる!」

 

「ウィルっ……!」

 

「一夏っ……!」

 

「「生き残ろうぜ!!」」

 

 ガシッ、固く握手を交わす俺と一夏。

 念のためもう1度言っておくが、演目はシンデレラである。

 

「さて、そろそろ始まるわよ」

 

 1度覗いてみたんだが、第4アリーナいっぱいに作られたセットはかなり豪勢だった。観客はもちろん満席で、時折聞こえる歓声は更衣室まで届いている。

 

「あのー、脚本とか台本とか1度も見てないんですけど」

 

「というか、今さら見ても間に合いませんよ?」

 

「大丈夫、基本的にこちらからアナウンスするから、その通りにお話を進めてくれればいいわ。あ、もちろん台詞はアドリブでお願いね」

 

 大丈夫なんだろうな……本当に。

 言い知れぬ不安を抱きながら、俺と一夏は舞台(そで)に移動する。

 

「さあ、幕開けよ!」

 

 ブザーが鳴り響き、照明が落ちる。

 スルスルとセット全体にかけられた幕が上がっていき、アリーナのライトか点灯した。

 

「むかしむかしあるところに、シンデレラという少女がいました」

 

 アリーナのスピーカーから楯無先輩の声が響く。

 

「どうやら出だしは普通のようだな。いやぁ、よかったよかった」

 

「そういえば、シンデレラ役って誰なんだろうな?」

 

「さあな。何も聞かされてないから俺にも分からん」

 

 そんな会話をしながら、俺達は舞台表へと歩いて行く。

 ……明らかに俺の格好は場違いだろ。中世風の美形王子と、それを警護する現代風の兵士とか時代が飛びすぎてシュールだ。

 

(いな)、それはもはや名前ではない。幾多の舞踏会を抜け、(むら)がる敵兵をなぎ倒し、灰燼(かいじん)(まと)うことさえいとわぬ地上最強の兵士達。彼女らを呼ぶにふさわしい称号……それが『灰被り姫(シンデレラ)』!」

 

 ……は? おいおい、シンデレラってそんな鍛え抜かれたソルジャーだったか? しかも、彼女『ら』?

 

今宵(こよい)もまた、血に飢えたシンデレラ達の夜が始まる。王子の(かんむり)に隠された隣国の軍事機密と、その護衛が持つ最新兵器の始動キーを狙い、舞踏会という死地に少女達が舞い踊る!」

 

「は、はぁっ!?」

「うっそだろオイ!」

 

「もらったぁぁぁ!」

 

 いきなりの叫び声と共にセットから飛び降りてきたのは、白地に銀のあしらいが美しいシンデレラ・ドレスを身に纏った鈴だった。

 

「親方ぁ! 空から女の子が!」

 

「のわっ!?」

 

「寄越しなさいよ!」

 

 反射的に一夏を引っ張って初撃をかわすが、鈴はキッと一睨みしてから、すぐさま中国の手裏剣こと飛刀を投げてくる。――おい、柱に刺さったぞ! まさか本物じゃないだろうな!?

 

「し、死んだらどうすんだよ!?」

 

「死なない程度に殺すわよ!」

 

「意味が分からん!」

 

「死んだら程度もクソもないだろ!」

 

 俺のツッコミも虚しく鈴は飛刀の連撃を繰り出し、一夏はテーブルのティーセットをひっくり返してトレーでそれを(しの)ぐ。

 ……さて、どうしたものか。

 頭を働かせているところに楯無先輩のアナウンスが鳴った。

 

「王子とはいずれ国民を導くことになる大切な存在。そんな彼が危険に(さら)されると、護衛の兵士は自責の念によって電流が流れます。ああ! なんという忠誠心!」

 

「……へ?」

 

 一瞬、楯無先輩の言葉の意味が分からなかった。自責の念で電流ってどういうことだ?

 

「お、おい! ガラスの靴履いてんのかよ!」

 

「大丈夫。強化ガラスらしいから」

 

「アホか! あぶねえ!!」

 

 ポカンとしている俺の目の前では、一夏が悲鳴を上げながら鈴に追い回されて――

 

「あばばばばばばばッ!?」

 

 バリバリッ! というのっぴきならない音を立てて、俺の全身に電流が流れる。もはや痛いを通り越して、熱ささえ感じた。

 

「ああ! なんということでしょう。彼の忠誠心はそうまでも重いのか。しかし、私達には見守るしかできません。なんということでしょう」

 

「に、2回も言わなくていい……!」

 

 とにかく、一夏が危険な目に遭うと俺に電流が流されるということは分かった。

 

「ガッデムッ! あの鬼畜生徒会長め、楽しそうにしやがって……!」

 

 俺は悪態をつきながらカービンライフルの安全装置を外し、鈴――の足元に向けてトリガーを引く。

 

「!?」

 

 鈴は驚いたようにその場から飛び退き、俺はその隙を突いて一夏に駆け寄った。

 

「おい、大丈夫か?」

 

「た、助かった……。サンキュ、ウィル……」

 

 フラフラの一夏を立たせてやっていると、ふと赤い光線が泳いでいるのを見つける。間違いない。これは……

 

「……Sweet…(こん……)mother shit!(チキショーめ!)

 

 これは――レーザーサイトの光だ。

 

「伏せろ!」

 

「のわぁっ!?」

 

 次の瞬間、一夏の頭上をライフル弾が通過した。

 

「(クソッタレめ! スナイパーライフルということは、セシリアだな!)」

 

 銃口にサプレッサーを装着しているらしく、発砲音とマズルフラッシュからの位置特定ができない。

 さらにセミオート式なのか、立て続けに一夏の王冠を狙って撃ち込んできていた。

 

「姿勢を低くしろ! 頭を上げたら色々ぶちまけることになるぞ!」

 

「し、し、死ぬ! 死んでしまう!」

 

 一夏の頭を押さえ込みながら、俺は身を低くして遮蔽物(しゃへいぶつ)へと駆け込む。……クソッ! こんなゴテゴテと装備を持たされた意味が分かったよ!

 

「……なんとか撒けたか?」

 

「っぽいな。何なんだよ、この劇は……」

 

「まったくだ。覚えてろよ、あの生徒会長め」

 

 セットに隠れていた俺達だったが、数秒後にセシリアの狙撃によって追い出される。

 ちなみにそんなこんなで主役の一夏と俺が隠れてばかりなので、こうしてたまに舞台に出るたび満員の観客席から拍手と声援が上がる。

 

「は、はは……どうも」

 

 一夏が律儀に挨拶をしていると、その隙を逃がさないとばかりにセシリアの狙撃が襲いかかってくる。

 しかも、一夏の護衛についている俺を邪魔に思っているようで、ついでとばかりに2~3発飛んできた。

 俺達はすぐさま走り出し、また近くの遮蔽物に飛び込む。

 

「そろ~っと……」

 

 パァンッ!

 

「うおぉっ!?」

 

 外の状況を確認しようとセットの角から顔を出した瞬間、その真隣が吹き飛んだ。

 

「あっぶねぇ……! あのスナイパーをどうにかしないとな。これじゃ俺達はカモだ」

 

「どうにかって、どうするつもりだ?」

 

「まあ見とけ。まずはセシリアの位置からだ」

 

 俺は1度ニヤッと笑ってから、背負っていたロケットランチャーを床に下ろす。

 そして、次に帽子を脱いでライフルの銃口に引っかけたあと、ソッと遮蔽物の外側へと(かか)げた。

 

 パスンッ!

 

 掲げた帽子にセシリアからの狙撃が命中する。吹っ飛び方から位置の特定もできた。

 恐らくセシリアが隠れているのは、俺達から見て右斜め前方にある塔。そこから狙撃するとなれば、最上階しかない。

 

「そこかぁ!!」

 

 すかさずロケットランチャーを発射。射出されたロケットはやや放物線を描いて塔の最上階に命中する。

 

 ズドォーンッ!!

 

 音と光だけのこけ(おど)しとはいえ、ロケット弾が飛んで来たのだからセシリアはさぞ驚いたことだろう。事実、俺達への狙撃はピタリと止んだ。

 

「イェス!!」

 

「り、鈴とかセシリアよりウィルの方がヤバい奴に見えてきた……」

 

 ガッツポーズを決めていると、一夏が若干震えるような声音で言ってくる。

 

「失礼な奴め。それより一夏、今のうちに移動するぞ」

 

「お、おう!」

 

 狙撃が止んだ隙を突いて、俺は一夏を連れて広大なステージを移動した。

 ――と、そこへ割って入ってくるようにして別の影が現れる。

 

「逃がさん!」

 

 正体は日本刀を構えた箒だった。彼女も同じくシンデレラ・ドレスを纏っている。

 

「一難去ってまた一難ってか……!」

 

「ウィリアム! そこをどけ! 私は一夏に用があるのだ!」

 

「冗談じゃない! そんなことをしたら電流浴びちまうだろうが!」

 

「ならば仕方あるまい……。斬る!」

 

「うおわっ!? 一夏、逃げろ!」

 

 俺は日本刀(一応、刃は潰してあるようだ)の攻撃を紙一重でかわしながら叫ぶ。

 

「そんな……! ウィルを置いてなんて行けねえよ――」

 

「一夏、伏せて!」

 

「!?」

 

 突然、一夏の前に現れたのはシンデレラ・ドレス姿のシャルロットだった。

 その手に持つ対弾シールドからはキンッ、カンッ、と弾丸を弾く鋭利な音が鳴っている。……まずい。どうやら態勢を立て直したセシリアが狙撃を再開したらしい。

 

「(シャルロットは味方のようだな。なら、ここはひとまず一夏のことを任せるべきだろうか)」

 

 そんなことを思考しながら体を仰け反らせて箒の逆袈裟斬りを回避する俺だったが、ここで最強にして最悪の脅威と出くわすハメになった。

 

「――甘いな」

 

「な、なにぃ!?」

 

 なんと銀髪のシンデレラが真横からすばやく飛びかかってきたのだ。

 

「そこまでだウィル。大人しくしろ」

 

「お前の狙いは俺かよ……!」

 

 銀髪のシンデレラことラウラが手に持つのは、二刀流のタクティカル・ナイフ。クソッ、戦うお姫様(近接格闘仕様)とかマジかよ。

 そのドレス姿は思わず見惚れてしまいそうなほど似合っているが、生憎と状況が状況なのでそんな余裕は無い。

 

「……一夏、お前はこのまま止まらずにシャルロットと行け。どうにもラウラが逃がしてくれそうにない」

 

「一夏、ウィルもそう言ってるし早く」

 

「くっ……! 分かった。絶対に生き残れよ!」

 

「おう。あとで落ち合おうぜ」

 

「あっ! ま、待てっ!」

 

 走り去る一夏とシャルロット、そしてそれを追いかける箒の3人に少しの間視線を送ってから、俺はラウラへと向き直った。

 

「話は済んだか?」

 

「ああ。今終わったよ」

 

「では……」

 

「(来るかっ……!?)」

 

 俺は神経を集中させて構えのポーズを取る。

 

「――お前の持つ鍵を渡してもらおうか」

 

「えっ? か、鍵? 鍵ってこれのことか? まあ、別にやってもいいけど」

 

 正直、特殊部隊の隊長を務めるラウラとやり合うなんてゴメンだし、こんな鍵1つで平和的に解決できるのなら惜しくもない。

 そう思ってホルダーからぶら下がる鍵に手をかけた俺を、楯無先輩のアナウンスが遮った。

 

「王子様にとって国とは全て。その重要機密が隠された王冠を失うと、自責の念によって電流が流れます」

 

 ぎゃああああっ!? っと、どこか遠くの方から一夏の悲鳴と電流が流れる音が聞こえてくる。

 

「………………」

 

 なんとなく嫌な予感がして視線をアリーナ中継室にやると、楯無先輩がニッコリ笑顔でサムズアップしていた。……これは俺が鍵を渡した場合も同じ目に遭うってことだな。オーケー、理解した。

 

「あー、スマン。やっぱり鍵の件は無しにしてくれ」

 

「そうか。――なら、奪い取るまでだ!」

 

「あ、あぶねえ!!」

 

 容赦なく振り下ろされたナイフを間一髪で回避した俺は、そのままゴロゴロと転がって距離を取る。

 

「(銃身の短いカービンでも、さっきみたいに肉薄されたら役に立たんな……)」

 

 そう悟った俺はライフルからマガジンを取り外し、薬室内の弾も除いて床に置く。そして、最後にホルスターからナイフを抜いて構えた。

 

「全力でいかせてもらうぞ」

 

 俺に電流を浴びて喜ぶような趣味は無い!

 

「面白い……来い!」

 

 観客席から響く歓声と拍手を受けながら、現役軍人同士のナイフ・ファイトが始まった。

 

 ▽

 

「ふっ……!」

 

 小さく無駄の無い動きでウィリアムの斬撃をかわしたラウラは、そのお返しとばかりに強烈な蹴りを繰り出す。

 長年(つちか)われてきたCQC(近接格闘)と自身の小柄な体格を駆使して、確実にウィリアムを翻弄(ほんろう)していた。

 

「(何が何でも手に入れてみせる……!)」

 

 女子組にだけ教えられた秘密の景品。それは『一夏の王冠もしくはウィリアムの鍵をゲットした子に、同室同居の権利を与える』というものだった。

 最初こそキョトンとしていた一同だったが、『生徒会長権限で可能にするわ』という楯無の言葉を聞いて、全員が(ふる)い立った。

 

「(ウィルと同じ部屋、ウィルと同棲(どうせい)……)」

 

 思わずニヘッと緩んだ笑みをこぼしそうになったラウラは、慌てて表情を引き締め直す。

 

「(見たところ、ウィルの息も上がってきているな。そろそろか)」

 

 どこかに決定的な隙は無いものかと、ウィリアムを観察するラウラ。

 ホルダーの切断。そこからのダッシュで、彼女は鍵を獲得するつもりでいた。

 

「(この絶好のチャンスをみすみす取り逃がすほど、私は愚かではないぞ!)」

 

 シンデレラ・ドレスをなびかせながら、ラウラの攻撃はさらに苛烈(かれつ)さを増していく。

 

「はああああっ!」

 

「なっ……!? このっ!」

 

 ガギンッ! と金属音を響かせて、ラウラとウィリアムのナイフがつばぜり合った。

 

 ▽

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……。これは、なかなかキツいな……」

 

 ナイフ・ファイトが始まってどれくらい経ったのかは分からないが、俺の体力は限界へと近づいていた。

 ラウラのやつ、なんでドレス姿であんな機敏(きびん)に動けるんだよ……。

 

「よく耐えた方だ。だが、これで決めさせてもらう!」

 

「――ッ!? しまった……!」

 

 また肉薄してくるラウラになけなしの体力で応戦するが、瞬く間に(ふところ)へと潜り込まれる。

 そして、そのナイフの切っ先がホルダーのベルトに引っかかる――が、切れ込みを作るだけで鍵が落ちることはなかった。

 

「浅かったかっ……!」

 

 心底悔しそうに呟くラウラ。この鍵が何になるのかは知らんが、余程欲しかったらしい。……って、うん? なんだ、この地響きは……?

 

「さあ! ただいまからフリーエントリー組の参加です! みなさん、頑張ってください!」

 

「…………ジーザス……」

 

 地響きの正体はザッと見ても数十人以上のシンデレラだった。しかも、現在進行形でどんどん増えていっており、向こうでは一夏が追い詰められている。

 

「ホーキンスくん、大人しくしなさい!」

 

「そいつを……寄越せぇぇぇ!」

 

「その鍵で私は……私を……!」

 

 おい、最後の女子。君はいつからヴィルコラク隊の隊長になったんだ? ていうか、この鍵でいったい何をするつもりだよ。

 

「これが観客参加型演劇か……!」

 

 とにもかくにも捕まったら鍵を奪われて、俺は『ジョーズ』の人食い(ざめ)みたく電流地獄まっしぐらだ。ここは逃げ一択でいかせてもらおう。

 

「っ!? スモークグレネードか! 待て、ウィル!」

 

「悪いが電撃バーベキューにされるのはゴメンでなぁ!」

 

 俺はその場に煙幕を展開し、ラウラの制止の声も振り切ってセットの隙間から逃げ出した。

 

 

 

 

 

 

「ったく、酷い目に遭ったな……」

 

 なんとか脱出に成功した俺は、特に目的もなくアリーナの通路をさまよっていた。

 

「(あの生徒会長め。あいつらに何を吹き込んだんだ? おかげで演劇じゃなくてサバイバルをするハメになったじゃないか)」

 

 ブツクサと、心の中で楯無先輩への文句を垂れ流しながら歩く俺は、ふと何の因果か更衣室の方へと向かっていたことに気づく。

 ――と、その時だった。

 

 バラララララララッ! ドンッ! ガギンッ!

 

 明らかにアリーナの歓声などとは違う音。学園祭が開かれている今日に限っては絶対に起こるはずのない『異音』が、通路の先から聞こえてきた。

 俺はその足を無意識のうちに加速させていき、最後には猛ダッシュになりながら音の発生源――更衣室へと向かう。

 

 バキッ!! ガシャァンッ!!

 

「(やっぱりここからか!)」

 

 壁1枚を(へだ)てた向こう側から聞こえる『異音』は、確実に誰かと誰かが争っている真っ最中だということを物語っていた。

 

「(いったい誰が……クソッ、こんな時になんでドアにロックがかかってるんだ!?)」

 

 更衣室に繋がるドアは赤いランプを点灯させたまま、うんともすんとも言わない。

 

「があああああっ!!」

 

「一夏の声!? こいつはまずいぞ……!」

 

 激痛に苦しむかのような一夏の絶叫を聞いた俺は、ISスーツごと【バスター・イーグル】を緊急展開。

 それから両主翼に40ミリ オートキャノン『ブラック・マンバ』と8連装無誘導ロケット『ハイドラ』をそれぞれ呼び出し、その全てを更衣室の壁に向ける。

 

「もし説教されることになったらその時は一緒に怒られてくれよ、相棒!」

 

 そして、行く手を(はば)む分厚い壁を文字通りに粉砕して、そこに開いた大穴から室内に突入した。

 

「一夏! 大丈夫か!?」

 

「ウィル……ゲホッ。なんで、ここに……?」

 

「ああ? んだよ、人が楽しんでるところに水差しやがってよぉ」

 

 壁を抜けた先で俺が目にしたのは、ISも無いままロッカーに叩きつけられた一夏と、企業『みつるぎ』のセールスウーマンこと巻紙 礼子(まきがみ れいこ)の姿だった。

 

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