インフィニット・ストラトス 蒼空に鮫は舞う 作:Su-57 アクーラ機
「……何があった?」
巻紙 礼子……もとい、目の前の女から視線を離さず、倒れた一夏を抱き起こす。……
「うっ……。すまねぇ、ウィル。あいつ、俺のISを寄越せって言っていきなり……」
「襲ってきたのか。それじゃあ、お前の【白式】は――」
「オトモダチの大事なISならここにあるぜぇ」
話に割り込んでくる女。俺達に見せびらかすかのように揺らすその手中には、
「操縦者以外がISを解除することはできないはずだが、どうやって奪った?」
「はっ、これだからモノを知らねえガキは困る。この『
機嫌良さそうに女は大きさ40センチほどの装置を取り出し、ペラペラと話し出す。喋るたびに長い舌が飛び出す様は、まるで蛇のようにも見えた。
「いちいち取り付けるのがめんどくせぇ代物だが、そこのガキはわざわざ自分から近づいて来てくれてよぉ。仕事が楽で助かったぜ」
女は醜悪な笑みを浮かべて言葉を続ける。それはもう愉快そうに、痛快そうに口元を歪めながら。
「なにせ、第2回モンド・グロッソでテメェを
こいつにとっては余程面白おかしかったのだろう。女は腹を抱えて
一方の一夏は悔しそうに拳を握りしめながら、それを睨みつけていた。……冷静さを欠いたところで、あの剥離剤とやらを取り付けられたのか……。
「ご説明どうも。それで、あんたはいったいどこの誰なんだ?」
「あぁ? 私か? 企業の人間になりすました謎の美女だよ。おら、嬉しいか」
そう告げる女に、俺は「はんっ!」と鼻で嗤って返してやる。
「謎の美女だ? なかなかジョークセンスがあるじゃないか。次はなんだ? 悪の組織です、なんてふざけた台詞でも出てくるのか?」
「ふざけてねえっつの! ガキが! 秘密結社『
サベージ……『野蛮・残忍』という意味だったか? コードネームだとは思うが、確かにこの女にはよく似合いそうな名前だ。
「分かった分かった。亡国機業のサベージね。つまりはテロリストみたいなもんだろ」
「チッ、ガキが。……まあいい。本当はテメェらどっちかのISをパクるだけでよかったんだが、ついでだ。その
そう言ってサベージは背中から伸びる8つの装甲脚を向けてくる。クモの脚のような見た目をしたそれは、黄色と黒という禍々しい配色で、先端は鋭利な刃物のようになっていた。
「それで『はい、分かりました』って素直に渡すと思ってるのか? 顔洗って出直してこい、アホ」
今、俺の頭の中では沸々と血が沸き立っているところだった。なんとかそれを言葉に乗せて小出しにしているが、次から次へと際限なく怒りが込み上げてくる。
こういうクズどもは、人の大切なものを平気なツラして奪って行きやがる……!
「……テメェ、さっきから大人に対する礼儀ってもんがなってねえんじゃねえか? あぁ!?」
「礼儀ねぇ……」
こんな奴を相手にいちいち
「
ブチンッ! と何かが切れる音がした直後、装甲脚の先端が割れるように開き、銃口を見せる。
「ッ!! 死に腐れこのクソガキぃ!!」
額に血管を浮かばせたサベージが叫び、8つの銃口が一斉に火を噴いた。
「おっと!」
エンジン出力を一気に最大まで引き上げ、それと同時にロール操作で垂直飛行モードの機体を傾かせる。
メインとサブ、合計にして4つの排気ノズルから高温・高圧の燃焼ガスを吐き出す俺と【バスター・イーグル】は、そのまま右方向に向かって緊急回避を行う。
「なんだ、もう怒ったのか?」
ロッカーの陰から飛び出した俺は、サベージに対して『ブッシュマスター』を撃ち放つ。ここはロッカーが並ぶ更衣室だ。ハードポイントに固定された兵器よりも、腕ごと動かせる機銃の方が即応が利く。
「カルシウムが足りてないようだな。牛乳かチーズでも摂れよ。ちなみに俺のオススメは小魚だ」
30ミリ機銃から放たれる
慌ててその場から飛び退いたサベージは、口角から泡を飛ばしながら吠えた。
「ぅるせえッ!!」
サベージはIS――検索結果【アラクネ】――のPICによる細やかな操作で俺の攻撃を避けて、同時に実弾射撃を行ってくる。――が、相当頭に血が昇っているのか、その照準には微妙なブレが見えた。
「くらえ!」
8門による一斉射撃。確実に頭部を狙っているそれを、俺は一気に下降してかわす。
「おしかったな。もう少し下だ。どうした? 深呼吸して息を整えろよ、サベージ」
「黙りやがれ!」
こういう
「クソッタレが! デカイ図体のくせにちょこまか飛び回りやがって!」
迫りくる8門の実弾射撃。その弾雨をロッカーからロッカーへと移りながら、それらを盾や目眩ましにしてサベージの死角を取る。
それと同時進行でオートキャノン『ブラック・マンバ』の照準を合わせて、発射ボタンを押した。
「(いただきだ!)」
「甘ぇ!」
サベージは滑るような動きで40ミリ弾をかわし、両手に構築したマシンガンを応射してくる。
「――!!」
ギリギリ当りはしなかったものの、数発が機体をかすめていった。
今のは危なかった。装甲の薄い【イーグル】にとっては機銃弾のたった1発でも痛い。
「チッ! 外したか!」
大きく舌打ちしてから右手のマシンガンを捨てたサベージは、新たに黒い筒状の装備を構築して向けてきた。
「なら、こいつはどうだぁ!?」
――マジかよあの女。携行式地対空ミサイルまで用意してやがった!
「おら、燃えちまえ! ガキぃ!」
サベージがランチャーのトリガーを引き、ロケットモーターに火を点したミサイルが俺に向かって飛んでくる。
「(レーダーロック警報は無し……熱源誘導か!)」
そう判断してからの動きは脳よりも体の方が早かった。俺は反射運動のようにフレアをバラ撒き、機体自体にも回避機動を取らせる。
――舐めるなよ。こっちだって伊達に戦場の空を飛んでたわけじゃないんだよ。
フレアに騙されて本来の目標を見失ったミサイルは、しばらく迷走してから自爆した。
「1発4万ドルがパアだ。次はもう少し相手を引き付けてから撃つんだな。じゃないと金の無駄だぜ?」
「く、クソガキが、この私をコケにしやがって……! テメェだけは楽に死なせねえからなぁ!!」
目を血走らせたサベージが、巻き舌で怒鳴り散らす。
「あら、随分と楽しそうなことしてるわね。私も
場にそぐわぬ楽しげな声。見ると、ドアの前に楯無先輩が立っていた。その手にはいつもと同じく扇子が握られている。
「テメェ、どうやって入った? 今ここは全システムをロックしてんだぞ。……まあいい、見られたからにはお前から殺す!」
「楯無さん!!」
「早く逃げてください!!」
身を
「私はこの学園の生徒達、その
「はぁ? 何言ってやがんだ、テメェ!」
刹那、サベージの装甲脚が楯無先輩の全身を貫いた。
▽
「楯無さん!! 楯無さんを……よくも、テメェ!!」
「貴様、無事で済むと思うなよ……!!」
「………………」
装甲脚に貫かれた楯無は、しかし余裕の表情を崩さない。よく見ると、【アラクネ】の脚が貫いている箇所からは、1滴の血も流れていない。
「なんだ、テメェ……? 手応えがないだと……?」
「うふふ」
ニコリと楯無が微笑む。そして、次の瞬間にはその姿が崩壊した。
パシャッと音を立てて、楯無の姿をしていたモノが拡散する。
「!? こいつは……水か!?」
「ご名答。水で作った偽物よ」
そのたっぷりと余裕を感じさせる声は、サベージの真後ろから聞こえた。
ギクリとして振り向くサベージを、楯無はランスでなぎ払う。
「あら、浅かったわ。そのIS、なかなかの機動性を持っているのね」
「なんなんだよ、テメェはよぉ!」
「更識 楯無。そして、IS【ミステリアス・レイディ】よ。覚えておいてね」
楯無はニコリと微笑む。そして、身に纏ったISはウィリアムと一夏が今まで見てきたどの機体にも似ていなかった。
アーマーは面積が全体的に狭く、小さい。
だが、それをカバーするように無色透明の液状のフィールドが形成されており、一見すると水のドレスのようだった。
そんな独特の外観を持つ【ミステリアス・レイディ】の中でもひときわ目を引くのが左右一対の状態で浮いているクリスタルのようなパーツである。
アクア・クリスタルと呼ばれるそこからも同じく水のヴェールが展開され、大きなマントのように楯無を包み込んでいる。
そして手に持った大型のランスの表面にも水の
「ケッ! 今ここで殺してやらぁ!」
「うふふ。なんていう悪役発言かしら。これじゃあ私が勝つのは必然ね」
そう言って楯無はランスによる攻防一体の攻撃を開始する。
8本の脚に加えて2本の腕で攻撃を繰り出してくるサベージとIS【アラクネ】に対し、1つしかないランスでそれらを全て
「クソッ! ガキが、調子づくなぁ!」
腰部装甲から2本のカタールを抜いたサベージは、自らの腕を近接戦闘に、背中の装甲脚を射撃モードに切り替えて応戦する。
「そんな雑な攻撃じゃ、水は破れないわ」
嵐のような実弾射撃を、水のヴェールで全て受け止めて無効化する。
弾丸はヴェールに入った瞬間に勢いを失い、水に捕らえられて止まっていた。
「ただの水じゃねえなぁっ!?」
「あら、鋭い。この水はISのエネルギーを伝達するナノマシンによって制御しているの。すごいでしょ?」
喋りながらも、その手は止まらない。
サベージの巧みなカタール二刀流の攻撃を、ランスで受け止めては逸らし、必要に応じて脚までも使って完全に攻撃を封殺していた。
「なんなんだよ、テメェは!?」
「2回も自己紹介しないわよ、面倒だから」
「うるせえ!」
自分の攻撃が完封されていることで、サベージはさらに苛立ちを
そんな反応も楯無にとってはどこ吹く風で、涼しげな表情で、しかし的確に相手の攻撃を潰していった。
「ところで知ってる? この学園の生徒会長というのは、最強の称号だということを」
「んなもん知るかぁ!」
左手のカタールを
楯無がカタールを弾いた瞬間に、そのランスを下から蹴り上げた。
「あらら」
「くらえやぁ!」
4本を射撃モード、残り4本を格闘モードにしてサベージの猛攻が始まる。
「うーん。これはさすがに重いわねぇ」
「ヒャハハハ! その減らず口がいつまで続くか
サベージの言葉通り、手数の多さに楯無は次第に押され始める。
水の装甲で守られているとはいえ、時折その攻撃がIS本体にも届き始めていた。
「た、楯無さん!」
「一夏くんは休んでなさいな。君は君の望みを強く願ってなさい」
「先輩、援護します! その場から離脱できますか!?」
「ありがとう、ウィリアムくん。でも大丈夫よ。ここはおねーさんにお任せ」
ニコッと、安心感を持たせる笑みを2人に向けながら、楯無はさらに言葉を続ける。
「それに、今こっちに近づくと逆にちょっと危ないんだよねぇ」
「ふん、ガキが! 余裕ぶるんじゃねえよ!」
ついに鉄壁のガードを崩したサベージが、装甲脚で楯無を弾き飛ばす。
それと同時にエネルギー・ワイヤーで構成された網を放出し、楯無の自由を奪った。
「はぁ……はぁ……。手こずらせやがって……ガキがっ!」
「うーん、動けなくなっちゃった」
「今度こそもらったぜ……」
ジャキン! と8本の装甲脚を構えて、ゆっくりと楯無に近づいていく。
しかし、楯無はというと焦った様子も怯えた姿もない。
「ねえ、この部屋暑くない?」
「あぁ?」
「温度ってわけじゃなくてね、人間の体感温度が」
「何言ってやがる……?」
「不快指数っていうのは、湿度に依存するのよ。――ねえ、
「!?」
ギクリとしたサベージが見たのは部屋一面に漂う霧。しかも、自分の体にまとわりつく、異様に濃い霧だった。
「そう、その顔が見たかったの。己の失策を理解した、その顔をね」
ニッコリと、女神のように微笑む楯無。しかし、その表情には死神の鎌と呼ぶべき、必殺の意図が含まれている。
「【ミステリアス・レイディ】……霧の
「し、しまっ――」
「遅いわ」
パチンッ、と楯無が指を鳴らす。次の瞬間、サベージの体を覆っていた霧が一斉に爆ぜ、その全身を爆炎が包み込んだ。
「あはっ。何も露出趣味や嫌味でベラベラと自分の能力を明かしているわけじゃないのよ? はっきりこう言わないと、驚いた顔が見られないもの」
ISから伝達されたエネルギーを霧を構成するナノマシンが一斉に熱に転換し、対象を爆破する能力『
限定空間でしか効果的な使用ができないとはいえ、全ての行動と同時進行に準備を行えるこの技は、実戦において非常に高い有用性を誇る。
「ぐっ……がはっ……。ま、だ……まだだ!」
「いいえ、もう終わりよ。――ね、2人とも?」
サベージは猛烈に嫌な予感がして、後ろを振り向く。そこで見たのは、『ブッシュマスター』の砲口を向けるウィリアムと――
「……来い、【白式】!」
確かに奪い取ったはずのISを、今まさに展開しようとする一夏の姿だった。
▽
「来い、【白式】!」
右腕を掴み、ギュッと
「(しかし、コアを奪われた状態でどうやって……?)」
そんなことを考える俺だったが、直後に目を疑うような出来事が起きる。
なんと、一夏の右手の中に【白式】のコアが構築――いや、召還されたのだ。
「【白式】、緊急展開! 『雪片弐型』最大出力!」
コアは光の粒子へと変わり、一夏の全身を包んでいく。
そして、その手に呼び出した『雪片弐型』を深く握りしめ、一夏はカッと目を見開いた。
「お前……何をしたんだ……!?」
「分かんねえ。楯無さんに『強く願え』って言われて、俺はただそうしただけだ」
それはつまり、【白式】が一夏の願いに応えたということなのだろうか? ……いや、きっとそうなのだろう。もし俺が同じように願ったら、お前も応えてくれるか? なあ、相棒。
「さて、お前さんの剣と鎧は返ってきたわけだが、――行けるか?」
「ああ。行ける!」
「よし。じゃあ、あのクソッタレにありったけを叩き込んでやるぞ!」
「おう!」
完全な展開状態になった【白式】と意識を同調させた一夏は、サベージに向かって突撃する。
その後ろでは、『ブッシュマスター』のレティクルをサベージに合わせた俺が待機。一夏の零落白夜が決まったあと、続けて30ミリ弾を雨あられと降らせてやる算段だ。
「て、テメェ! いったいどうやって――」
「知るか! くらえ!」
「ぐぅぅぅっ!!」
サベージは8本の装甲脚を集中させて身を守るが、それでも一夏は止まることなく、力押しで切り裂いた。
「ウィル!」
「あいよ!」
「な……」
破片と化した装甲脚の隙間から見えるサベージに『ブッシュマスター』のレティクルを合わせる。……せいぜい後悔しやがれ、クソテロリスト。
「よう、サベージ。今日は災難だな」
ヴオオオオオオオオオオッ!!
「ぐがががががががっ!?」
放たれた30ミリ弾は、火花を散らしながら【アラクネ】の装甲をズタズタに破壊していく。加えて相殺できなかった衝撃が連続して体を襲い、サベージは苦悶の表情を浮かべた。
「「っらぁ!!」」
「ごふぅっ!!」
機体重量1.9トン+推力全開の俺の回し蹴りと、瞬時加速付きのスラスター・フルブーストを乗せた一夏の蹴りが同時に決まり、サベージは壁に吹き飛ばされる。相当な威力だったようで、その衝撃で壁の一部が崩れ、部屋にもう1つ穴が開いた。
「ッ! 一夏くん、ウィリアムくん! その女を拘束して!」
「了解!」
「は、はい!」
「く、クソ……ここまでか……!」
プシュッ! と圧縮空気の音を響かせて、サベージのISが本体から分離する。
「うおっ!? まずい……!!」
「何!?」
「2人とも!」
光を放ち始めたそれは、数秒後に大爆発を起こした。
……俺は――俺と一夏は、巻き込まれる寸前のところで、楯無先輩の体に覆われた。
「大丈夫? 一夏くん、ウィリアムくん」
最大展開した水のヴェールが俺達を包んで守っていた。いくらISの絶対防御があるとしても、あの距離で自爆に巻き込まれたら無傷では済まないだろう。
「ふぅ……なんとか。ありがとうございます」
「え、ええ、まぁ……。あ! あの女は!?」
「逃げられたわ。ISのコアも、恐らく自爆直前に取り出しているわね。装備と装甲だけを爆発させたみたい。まったく無茶をするわ。失敗すれば自分だって危なかったでしょうに」
普段の雰囲気とは変わって真剣な口調で話す楯無先輩は、妙に格好良く見えた。
「ですね。……ところで、楯無先輩」
「あの……えっと、そろそろ……」
「ん?」
「もう離してもらっても大丈夫ですよ」
「は、離してもらえると嬉しいんですが……」
俺と一夏をかばった楯無先輩は、爆発を背中で受けるように覆い被さってきた。
つまるところ、その……胸が思い切り当たっているわけで…………
俺? そりゃあもちろん、機体が
「やん。2人のエッチ」
「ち、ち、違いますよ! これは、その、緊急事態だったからで……」
「先輩、自分のISは全身装甲なので正確には触ってないです」
「あー、言い訳なんて男らしくないなぁ。おねーさんのおっぱい、どうだった?」
「「……………」」
「だんまりは酷いなぁ」
「え、いや、その……柔らかかったかです……けど……」
ちくしょう! 一夏め! なんて
「一夏くん」
「は、はい」
「エッチ」
「……………」
言い返す気力が失せたのか、一夏はガクッとうなだれる。
「それで、ウィリアムくんのご感想は?」
いや、だから。俺のISは全身装甲だから触れないんだって。これでどう答えろって言うんだ? ――あっ、そうだ。
「安心して身を任せられる、確かな頑強さがありました」
「えぇー、それって私のおっぱいが装甲板みたいだったって言いたいわけー? おねーさんちょっとショックぅ」
「はぁ……」
何とでも言ってくれ。無駄な弁解をするような体力は残ってないんだ。
今日は色々あり過ぎて、もうクタクタである。
取り敢えずメシ食ってシャワー浴びて寝たい。そんな気分だった。
「ところで、これなーんだ?」
そう言って楯無先輩は指でクルリと『それ』を回してもてあそぶ。
「……? 王冠ですけど」
「シンデレラの時のやつですよね?」
「うん、そう。これをゲットした人が一夏くんと同じ部屋で暮らせるっていう、素敵アイテム。実はウィリアムくんの鍵も同じ条件なんだよね」
「はぁ!? ……ま、まさか、それであんなに女子が必死に!?」
「なっ!? 追い回される理由はそれだったのか!」
「うん」
「……何考えているんですか……。大体、俺と暮らしても楽しいわけないでしょう」
「一夏はともかく、自分と一緒じゃ狭苦しい思いをするだけだと思いますよ……」
「そうかなー。ま、なんにしても、王冠をゲットしたのは、わ・た・し」
本能的に嫌な予感を察知したのか、一夏が顔を引きつらせる。が、時すでに遅し。
「当分の間、よろしくね。一夏くん♪」
拒否権は無いと悟ったのか、一夏はもうどうにでもなれとばかりに背中から倒れた。
これからしばらく、こいつにとってはハードな毎日となることだろう。まっ、俺はこれからも2人部屋の独占を満喫させてもらうがな!
「それにしても、派手にやったわねぇ」
「「?」」
楯無先輩の視線につられて俺と一夏も首を巡らせる。俺達の目の前には、大惨事という言葉がピッタリ当てはまるような光景が広がっていた。
「あー……」
「これは確かに……」
壁には大小2つの穴と、無数に開いた
極めつけは床を
「ここまで滅茶苦茶だと、もう建て直した方が早いんじゃないかしら」
「撃って、斬って、爆破してと、散々暴れ回りましたからね……」
「修理費がいくらになるか、聞くのも恐ろしいな……」
しかしまあ、室内でIS戦闘を繰り広げたのだから、仕方ないと言えば仕方ないだろう。一応、原型を留めているだけまだマシな方――
バキンッ! プシュゥゥゥゥッ!
「「「あっ」」」
手洗器の方から突然音がしたかと思うと、破裂した水道管から噴水の如く水が噴き出していた。……うわぁ。
「…………始末書だけ、あとで出しましょうね」
「「……はい」」
苦笑いする楯無先輩に言われて、勝利の余韻はたちまち霧散してしまうのであった。