インフィニット・ストラトス 蒼空に鮫は舞う   作:Su-57 アクーラ機

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48話 ようこそ生徒会へ!

「(クソッ! クソッ、クソッ!)」

 

 サベージはIS学園の敷地を走りながら、頭の中で毒づいていた。

 

「(これが簡単な仕事だと!? ふざけやがって、あのクソ科学者!)」

 

 そもそも、今日の潜入にしたって予定外だったのだ。本来なら寮の部屋にいる時にウィリアム、一夏のどちらかを襲撃する予定だったが、楯無が不定期に部屋を訪ねるものだから大幅に修正せざるを得なくなった。

 

「(大体あの野郎は前々からずっと気に食わなかったんだっ……!)」

 

 いつもニヤニヤと気色の悪い笑みを浮かべた男を思い出す。自らの知識・技術をもって作り上げた兵器(芸術品)が他者を殺すことに快感を見いだしている、イカれた科学者。

 それは『剥離剤(リムーバー)』と今回の潜入計画を用意した張本人でもある。

 

「(何がリムーバーだ! あんな風に遠隔でコールできるなら、何の意味もねえだろーが!)」

 

 しかも、2回目のチャンスは無い。あの装置を1度でも使った以上、ISには耐性ができてしまう。

 つまり、少なくとも一夏のISは今後リムーバーによる奪取が不可能ということだった。

 

「(……! そうか!)」

 

 引き離す性質のリムーバーに対して、耐性ができる。それによって、遠隔でのコールが可能になったのだと気づく。

 あの男のことだ。それも知らずに計画を提案してくることなどあり得ないと、サベージは考えが至った。

 

「(ッざけやがって! 覚えてろよ、あのクソ科学者!)」

 

 走りながら、胸中に黒い感情を渦巻かせるサベージ。しかし、彼女にとってその男をどうやって痛めつけてやるかの話は後回しだった。

 今はそれ以上に憎悪を抱いている人物がいるからだ。

 

「(クソがっ! あのウザってぇシャークマウスが頭から離れねえ……!)」

 

 自分を散々翻弄(ほんろう)した挙げ句、計画失敗の発端を作った2人目の男性操縦者。

 

「(ウィリアム・ホーキンス……あのクソ鮫野郎! よくもこのサベージ様をコケにしてくれがったな! いつか絶対に殺してやる!)」

 

 忌々しさに奥歯を噛みしめていると、やっと自分がIS学園から離れた場所にある公園までたどり着いたことに気づく。

 

「(クソ……喉が渇いたぜ、どっかに水は……)」

 

 左右に視線を動かすと、公園の水飲み場が目についた。

 ひとまずそこで構わないと思い、サベージは早足で向かう。

 

「(ただ殺すだけじゃねえ! 徹底的になぶってからだ!)」

 

 蛇口を捻り、縦に水が吹き上がった。

 それを獣のように飛びついて飲みながら、ウィリアムを残忍に殺す光景を想像する。

 

「(生きたまま奴の臓物を引きずり出して、犬のエサにしてやるのもいいな……クヒヒッ)」

 

 ふと、それまで喉を潤していた水が止まっていることに気づく。

 

「(なんだ? 壊れてんのか……?)」

 

 そう思って蛇口を見ると、あり得ないことが起きていた。

 縦に伸びる水の飛沫。それが空中で遮られているのだ。

 

「なっ!?」

 

 バシャバシャと透明の板に弾かれているように暴れる水は、サベージの服を際限なく濡らしているが、そんなことはもう気にならなかった。

 

「(こいつは……まさかAIC!?)」

 

 すぐさま飛び退くようにその場を離れるが、着地しようとした足をAICによって固定されてしまう。

 そのまま慣性に従って、サベージは背中から倒れた。

 

「クソッ! ドイツのISだな!?」

 

「その通りだ、『亡国機業(ぼうこくきぎょう)』」

 

 ラウラの静かな声が響く。

 それはどこまでも続く氷河の如く冷たい威圧感を放っていた。

 

「動くな。すでに狙撃主が貴様の眉間に狙いを定めている」

 

「くっ……!」

 

「洗いざらい吐いてもらおうか。貴様らの組織について」

 

 長らく軍に勤めているラウラは、かねてからその秘密結社の情報をわずかに持っていた。

 そして今回の襲撃。そして、ISによる戦闘。それらのことから、組織が相当に巨大なものだと理解していた。

 

「お前のISはアメリカの第2世代だな。どこで手に入れた。言え」

 

「言うわけねーだろうが!」

 

 ISコアを製造する技術は一般的には公開されていない。加えてコアの個数には限りがあり、それら全てが各国家・IS関連企業へと割り振られている。

 それはつまり、どこかから奪ったものだということに他ならない。

 そして、国防に関する重大な過失であるがため、どの国も盗まれたことを(おおやけ)にはできない。

 ISの強奪を企て、それを実行するだけの組織力は、けして小さくないということだった。

 

「よかろう。私は尋問の心得も多少はある。長い付き合いになりそうだな」

 

 そう言ってラウラが接近しようとした瞬間、プライベート・チャネルからセシリアの声が響いた。

 

《離れて! 1機来ますわ!》

 

「何……?」

 

 ラウラがセンサー域を拡大した次の瞬間に、その右肩がレーザーで撃ち抜かれた。

 

「ぐうっ!?」

 

「――やったぁ! 命中! 50ポイント♪」

 

「(何者だっ……!?)」

 

 急ぎ、ラウラは左目の眼帯を外してハイパーセンサー補助システム『ヴォーダン・オージェ』を発動させる。

 しかし、続けて撃ち込んできた2発のレーザーを避けるので精一杯だった。

 

《ラウラさん! 下がって!》

 

 セシリアは即座に弾道から飛来位置を割り出し、高速接近する機体へと照準を向ける。

 

《そんな……まさか!?》

 

 ロングレンジ用ズームに映し出されたのは、セシリアが見たことのある機体だった。

 BT2号機【サイレント・ゼフィルス】。

 シールド・ビットを試験的に搭載した機体であり、その基礎データには1号機であるセシリアの【ブルー・ティアーズ】が使われている。

 

「何をしている!? セシリア、撃て!」

 

「くっ……!」

 

 セシリアはすぐさまレーザーライフルによる狙撃を試みるが、シールド・ビットを展開されて、有効打を与えられない。

 それならとビットを射出するが、それらは逆に狙撃によって墜とされた。

 

「(超高速機動下の精密射撃!? それも、こんな連射速度だなんて!)」

 

「~~♪ ……♪ ~~~♪♪」

 

 自らを上回る技量に驚愕するセシリア。しかも、のんきに鼻歌を口ずさむ敵機からは通常の攻撃ビットが飛来し、セシリアを超える同時6機制御で窮地に立たされた。

 

「それならっ!」

 

 ミサイル・ビットを自身の真下へと射出、空中で制御動作を取らせて死角から襲撃者へと向かわせる。

 必中を確信したセシリアだったが、次の瞬間信じられないことが起こった。

 

「なっ……!?」

 

 ビームが弧を描いて曲がり(・・・・・・・・・・・・)、ミサイル・ビットを撃ち落とした。

 

「(これはっ……BT兵器の高稼働時に可能な偏光制御射撃!? そんなこと――)」

 

 信じがたい光景を前に、セシリアは棒立ちになってしまう。

 

「(現在の操縦者ではわたくしがBT適性の最高値のはず。それが、どうして……!?)」

 

「1機もーらいっ」

 

「何をしている! 回避行動を取れ!」

 

「っ――!?」

 

 ラウラがセシリアを突き飛ばし、代わりにビットのレーザー射撃を浴びる。

【シュヴァルツェア・レーゲン】の装甲が飛散するのを見て、やっとセシリアは我に返るが、その頃には襲撃者がサベージの側まで移動していた。

 

「サベージ、迎えに来たよ~」

 

「おせぇぞゲイマー! 何してやがった!」

 

 飛来した襲撃者はラウラに小型レーザー・ガトリングを浴びせ、サベージへの再接近を許さない。

 それと同時にピンク色に発光するナイフでAICを切り裂き、サベージの自由を確保した。

 

「あなた弱~い。ドイツの遺伝子強化素体(アドヴァンスド)って聞いて楽しみにしてたんだけどなぁ~」

 

 その顔はバイザー型ハイパーセンサーに覆われていて、口元しか見えない。

 しかし、それがガッカリしたように唇を尖らせているのを、ラウラは確かに見たのだった。

 

「貴様……なぜそれを知っている」

 

「んー。もし私にコンボを決めることができたら教えてあげる。じゃ~ね~」

 

 サベージを掴み、そのまま飛来した方向へと離脱していく襲撃者。

 

「(あの女……ポイントだのコンボだの、戦闘をゲーム感覚で捉えているのか……?)」

 

 しばらくの間、ラウラとセシリアを足止めしていたビットは、用は済んだとばかりに自爆する。

 

「ラウラさん、すぐ学園に連絡を! わたくしは追跡します!」

 

「やめろ! もう追っても無駄だ。それに、追いついたところで今の我々では敗北は見えている」

 

「っ…………………」

 

 ギュゥッと悔しさに唇を噛みしめ、セシリアは敵が飛翔していった方向を睨む。

 一切の証拠を残すことなく、風のように去った謎の襲撃者。

 ラウラ、そしてセシリアも、いずれ訪れるであろう嵐の予感を感じ取っていた。

 

 ▽

 

「というわけなのよ」

 

「はぁ……」

 

「成程……」

 

 夜、一夏の寮部屋。

 学園祭が終わって、俺と一夏は楯無先輩から説明を受けていた。

 最近、妙な組織が動き始めていたこと、狙いが俺もしくは一夏だったこと、その予防線として俺達の部屋を頻繁(ひんぱん)に訪れていたこと。

 

「で……その楯無さんは何者なんですか?」

 

「あら、優しいおねーさんよ?」

 

「そういうのはいいですから」

 

「その組織の動向を察知していたんだ。とてもじゃないが一般人とは思えません」

 

「そうねぇ。更識家は昔からこの手の裏工作に関して強いのよ。暗部って分かる?」

 

 暗部……つまり、けして表に出ることはない、裏の実行部隊ってやつか。

 

「更識家は対暗部用暗部……お家柄ってやつね」

 

 あははと笑いながら扇子を開く楯無先輩。

 そこには『常在戦場』とかかれていた。……まったく、のっぴきならないな、この人は。

 

「しかし、これで当面の危機は去ったようだし、私も少しは気が休まるわ」

 

 とは言うものの、連中とはきっとまたどこかで相対することになるだろう。それがいつになるかは分からないが、俺にはそんな確信があった。

 ったく、随分と面倒な連中に目を付けられたもんだ。

 

「では、自分はそろそろ部屋に戻らせていただきます」

 

 話が一段落ついたところで、俺はそう言ってイスから立ち上がる。

 

「帰るのか?」

 

「おう。今日は1日通してハードだったからな。もうヘロヘロだ」

 

 ふぁ~っとあくび混じりに、一夏に答える俺。

 正直眠気もピークで、気を抜けば(まぶた)が勝手に下がってきそうなほどだ。

 それから「おやすみ」と短いやり取りをした俺は一夏の部屋を出て、ノロノロと自室へ戻った。

 

「(えーっと、鍵、鍵……あった)」

 

 ポケットから1031の番号が彫られた鍵を取り出し、ドアのロックを解除する。

 あと俺がするべきことと言えば、歯を磨いて、それからベッドにダイブして電気を消すだけ。部屋は独占状態だから、自由にのびの~びしながら夢の世界に旅立てる。

 

「(ふっふっふっ……。やっぱ1人暮らしは最高だな!)」

 

 そんなことを思いながら玄関を上がり、洗面所が設置された脱衣場へのドアを開けた次の瞬間――。

 

「なっ……!?」

 

「…………へ?」

 

 全裸の女子とバッタリ出くわした。……というか、その女子というのは、なんとラウラだった。

 今し方までシャワーを浴びていたのか、長い銀髪の先には拭き残したであろう水滴がついている。

 軍人として鍛えられていることを感じさせるが、しっかり女性的な丸みも主張している体。腰のくびれが実質的な大きさ以上に胸を強調しており、Aカップくらいのバストがサイズと関係なく妙に際立って見える。

 若々しく健康的な白い肌は、見る者の視線を奪ってしまうような美しさを秘めていた。

 

「あ……っと、その……」

 

 なぜラウラが俺の部屋でシャワーを浴びていたのか疑問だが、今はそれどころの騒ぎじゃない。

 女子の裸、全裸なのだ。俺は視線を逸らさなくてはいけないと頭では分かっていても目は釘付けになってしまっていた。

 

「…………………」

 

 驚愕の表情を浮かべるラウラ。きっと俺もとんでもない顔をして硬直していることだろう。

 

「う、ウィル……?」

 

「お、おう……」

 

「ッ~~~!!?」

 

 俺が返事をすると、ラウラはボッと顔を真っ赤にしながら手近にあったバスタオルで体を隠した。そりゃそうだ。シャワーから上がってすぐに異性がいたらそうなるだろう。

 しかし、なんだ。以前まで何食わぬ顔でベッドに潜り込んできていたラウラが、こうまで恥ずかしがるようになったとはなぁ。――などと現実逃避してる場合ではない。

 取り敢えず、

 

「えっと……失礼、しました……」

 

 静かに、そっと。

 脱衣場のドアを閉じてから、ふぅ~……と深く息を吐く。

 

「ぃよし! まずはココアでも飲んでおちちゅくとしよう」

 

 俺はそのまま簡易キッチンへと(きびす)を返す。

 

 ガチャッ! ガシィッ!

 

 だが閉じたはずのドアが再び開き、隙間から伸びたラウラの手が俺の肩をガッチリと掴んだ。

 

待て。どこへ行くつもりだ?

 

「き、キッチンでココアを飲もうと思って、ででででっ、なんだその握力!? 肩に指が刺さってる! あだだだだっ!」

 

 超速で着替えを済ませたであろう寝間着姿のラウラは、反射的に逃げようとする俺をグイィッと引っ張ってくる。

 

記憶置いてけ。おい。見たな? 見たんだろう? 見たよなぁ、ウィル

 

「ひぃ!? 妖怪記憶置いてけっ!?」

 

「誰が妖怪か!」

 

「お、落ち着けラウラ。見てない、俺はなーんにも見てないぞ!」

 

「ほう? あれだけ凝視しておいて見てないと言い張るか」

 

「ホントニ見テナイ! オレ、嘘ツカナイ!」

 

「……ほう? では、私の目を見てもう一度言ってみろ」

 

 ………………。

 

Schuldig(有罪)

 

「ま、待て! 待ってくれ! 待っ――」

 

 ドイツ語で何やら不穏なことを呟いたラウラによって、俺は脱衣場へと引きずり込まれた。

 そのあと首筋に鈍い衝撃を感じて……――。

 

 ▽

 

 翌朝。いつも通りの時間に目を覚ました俺は、いつも通り顔を洗って歯を磨き、いつも通りモーニングコーヒーを淹れる。この一連の作業は早速毎朝のルーチンとなっていた。

 

「(それにしても、俺って昨日どうやってベッドに入ったんだ? 部屋に戻ってからの記憶がまったく無いんだが……)」

 

 それほどまでに疲れきっていたのだろうか? と、スプーンでカップの中をかき混ぜながら昨夜の出来事を思い返す。

 

「(なーんか滅茶苦茶(めちゃくちゃ)いいもの見たような気がするんだけどなぁ~)」

 

 不思議なことに、まるでその部分だけポッカリ穴が開いたように記憶が抜け落ちていた。……まあ、覚えてないことをウンウン唸っていても仕方ないか。

 俺はそう自分を納得させて、出来上がったコーヒーを片手にイスに腰かける。

 何度も言うが、やはり朝から飲むコーヒーは格別だ。眠気さっぱり、1日の始まりを実感する。

 

「ん……、眩しいな……。もう朝か……?」

 

「ああ。もう6時半を過ぎてるぞ――って、ちょっと待て」

 

 なんかナチュラルに会話していたが、この部屋には俺1人しかいないはずだ。では今の声はいったい誰のものなのだろうか?

 まさか……と思って、俺は声がした方角――手前側のベッド――に振り返る。

 

「やっぱりお前か! ラウラ!」

 

 振り返った先には、体を起こして眠そうに目を(こす)るラウラの姿があった。

 これに似たようなことが前にもあったが、今回はちゃんと寝間着を着ているようなので、そこはひとまず安心と言うべき……か?

 

「まーた勝手に忍び込んだな!?」

 

「まあ落ち着け、ウィル」

 

「これが落ち着いてられるか! 勝手に入るなとあれほど……」

 

「? ちゃんと許可は取っているぞ? 部屋の合鍵も渡されている」

 

「……なんだって?」

 

 許可って誰から取ったんだ? しかも合鍵まで渡されただと……?

 眉を寄せている俺を他所にラウラは床に置いてあったバッグから何かを取り出し、それを投げ渡してくる。

 

「そら」

 

「ん? これってシンデレラの時の鍵じゃないか」

 

 と、ここで昨日の楯無先輩の言葉が俺の脳裏を電流のように駆け抜けた。

 

 ――これをゲットした人が一夏くんと同じ部屋で暮らせるっていう、素敵アイテム。実はウィリアムくんの鍵も同じ条件なんだよね――

 

「……こいつをどこで拾った?」

 

「お前が煙幕を()いて逃げたあと、近くに落ちていたぞ。恐らく舞台セットの突起にでも引っかけたのだろう」

 

 したり顔で事の顛末を告げてくるラウラ。心なしか声も少し弾んでいるように聞こえる。

 

「(……や、やらかしたぁぁぁ……!!)」

 

「というわけで、だ。これからよろしく頼むぞ、ウィル(私の嫁)

 

 こうなってしまっては、もうどうしようもない。

 

「は、はは……よろしく……」

 

 (みずか)らの間抜けなミスによって、俺の2人部屋独占パラダイスはあっけなく幕を閉じたのだった。

 

「……お前もコーヒー飲むか?」

 

「いただこう」

 

 ▽

 

「みなさん、先日の学園祭ではお疲れ様でした。それではこれより、投票結果の発表を始めます」

 

 かくして、俺と一夏の争奪戦の結果発表である。

 体育館に集まっている全校生徒がツバを飲む音が聞こえた気がした。

 

「1位は、生徒会主催の観客参加型劇『シンデレラ』!」

 

「「「……へ?」」」

 

 ポカーンと開かれた全校生徒の口から間の抜けた声が漏れ、その数秒後に我に返った女子一同から盛大なブーイングが起きた。

 

「卑怯! ずるい! イカサマ!」

 

「なんで生徒会なのよ! おかしいわよ!」

 

「私達頑張ったのに!」

 

 そんな苦情をまぁまぁと手で制し、楯無先輩は言葉を続けた。

 

「劇の参加条件は『生徒会に投票すること』よ。でも、私達は別に参加を強制したわけではないのだから、立派に民意と言えるわね」

 

 うわっ、やることが汚ねぇ。グレーゾーンに片足突っ込んでるだろ、それ。

 俺は彼女の計画性の高さと手段の汚なさにただただ呆れた。

 しかし、楯無先輩の説明ではブーイングは収まらない。

 

「はい、落ち着いて。生徒会メンバーになった織斑 一夏くんとウィリアム・ホーキンスくんは、適宜(てきぎ)各部活動に派遣します。男子なので大会参加は無理ですが、マネージャーや庶務(しょむ)をやらせてあげてください。それらの申請書は、生徒会に提出するようにお願いします」

 

「……はい?」

「……なんだって?」

 

 そんなこと初耳の俺と一夏は揃って声を上げた。

 

「ま、まぁ、それなら……」

 

「し、仕方ないわね。納得してあげましょうか」

 

「ウチの部活勝ち目なかったし、これはタナボタね!」

 

 そんな声が周囲から聞こえる。

 そしてすぐさま、各部活動のアピール合戦が始まった。

 

「じゃあまずはサッカー部に来てもらわないと!」

 

「何言ってんのよ、ラクロス部の方が先なんだから!」

 

「料理部もいますよ~」

 

「はい! はいはい! 茶道部ここです!」

 

「剣道部は、まあ2番目に来てくれればいいですよ?」

 

「柔道部! 寝技、あるよ!」

 

 ――ちょ、ちょっと待て! 俺達はどうなるんだ!? 俺達の意志は!

 

「それでは、特に問題も無いようなので、織斑 一夏くん、ウィリアム・ホーキンスくん両名は生徒会へ所属、以後は私の指示に従ってもらいます」

 

 楯無先輩がそう締めると、生徒達からは拍手と口笛が沸き起こった。

 マジかよ……。俺と一夏は生徒会で? しかも各部活動に派遣?

 

「っていうか楯無さんの指示に従うとか!?」

 

「俺達はいったいどうなるんだ……!?」

 

 これからの学園生活、楯無先輩のオモチャにされないかが心配でしょうがない。まあ、どうせされるんだろうけど。

 あの人はどこまで本気なのか分からない。

 ただ分かっていることといえば、逆らっても無駄だということくらいだった。

 

 ▽

 

「織斑 一夏くん、ウィリアム・ホーキンスくん、生徒会副会長と補佐着任おめでとう!」

 

「おめでと~」

 

「おめでとう。これからよろしく」

 

 楯無先輩、のほほんさん、(うつほ)先輩。三者三様の言葉のあと、パパーンと盛大にクラッカーが鳴る。

 場所は生徒会室。ドンッと豪勢な机が窓を背に鎮座しているのが印象的だ。これはまさに権力者の象徴だな。

 

「……なぜこんなことに……。自分達を生徒会に置くメリットはなんです?」

 

「……ウィルに同じく……」

 

「あら、いい解決方法でしょう? 元は2人がどこの部活動にも入らないからいけないのよ。学園長からも、生徒会権限でどこかに入部させるようにって言われてね」

 

「おりむーとホーくんがどこかに入ればー、一部の人は諦めるだろうけど~」

 

「その他大勢の生徒が『ウチの部活に入れて』と言い出すのは必至でしょう。そのため、生徒会で今回の措置を取らせていただきました」

 

 3人の見事な連携はさすが幼馴染だということだろうか。

 俺も一夏も、これ以上の抵抗は無駄だと悟り、ガックリと肩を落とすしかなかった。

 

「俺とウィルの意志が無視されてる……」

 

「もう今さらだろ。……俺は腹をくくったぜ」

 

「あら、なぁに? こんな美少女3人もいるのに、ご不満?」

 

「そうだよ~。おりむーは美少女はべらかしてるんだよー。ホーくんはお尻に敷かれてるけどー」

 

「美少女かどうかは知りませんが、ここでの仕事はあなた達に有益な経験を生むことでしょう」

 

 取り敢えず、この中でまともなのは虚先輩だけのようだ。

 仕方なく、俺と一夏は虚先輩に今後の仕事内容などを訊いてみることにした。

 

「えーと……取り敢えず、放課後に毎日集合ですか?」

 

「当面はそうしてもらいますが、派遣先の部活動が決まり次第そちらに行ってください」

 

「わ、分かりました」

 

「了解です」

 

「ところで……1つ、いいですか?」

 

「? なんですか?」

 

 珍しく、歯切れの悪い口調で一夏に訊ねる虚先輩。

 それを不思議そうに眺めていると、さらに2回ほど言いにくそうにしながらやっと小声で口を開いた。

 

「学園祭の時にいたお友達は、何と言うお名前ですか?」

 

「え? あ、(だん)のことですか? 五反田 弾(ごたんだ だん)です。市立の高校に通ってますよ」

 

 ……ああ、マイクの隣で死人みたいな顔をしていた彼のことか。

 

「そ、そう……ですか。年は織斑くんと同じですね?」

 

「ええ、そりゃまあ」

 

「……2つも年下……」

 

「え?」

 

「なんでもありません。ありがとうございました」

 

 そう言って虚先輩は丁寧なお辞儀をする。その頬が心なしか赤く見えるのは気のせいではないだろう。

 ほほぉう、成程成程。つまり、そういうこと(・・・・・・)らしい。

 

「さぁ! 今日は生徒会メンバーが揃った記念と一夏くんの副会長就任、ウィリアムくんの補佐就任を祝ってケーキを焼いてきたから、みんなでいただきましょう」

 

「わ~。さんせ~」

 

「では、お茶を淹れましょう」

 

「ええ、お願い。本音ちゃんは取り皿をお願いね」

 

「はーーい」

 

 作業分担は基本らしく、3人は息の合った連携で着々と準備を進めていく。

 それから並べられたショートケーキは、スイーツ店に並んでいてもおかしくないほど美味しそうだった。

 

「それでは……乾杯!」

 

「かんぱーい~」

 

「乾杯」

 

「は、はは……乾杯。はぁ……」

 

「そう落ち込むなよ、一夏。この先なるようになるさ。乾杯」

 

 こうして、俺と一夏の生徒会所属が決まったのだった。

 

 ▽

 

 同時刻、アメリカ合衆国ティンダル空軍基地。

 

「中将、当基地から中東へ派遣していた飛行部隊が所属不明の勢力の襲撃に遭い、4機が撃墜される損害を被ったとの報告が」

 

「……死傷者は?」

 

「幸い、ベイルアウト後の着地で足を骨折したパイロットが1名出たのみで、死亡した者はいないそうです」

 

「うぅむ……」

 

 中将と呼ばれた男――デイゼル・ガトリングは苦虫を噛み潰したような表情で唸る。

 

「ご苦労。またぁ何かあれば随時報告してくれたまえぇ」

 

「イエッサー。失礼しました」

 

 ガチャ……バタンッ

 

 兵士が報告書を執務机に置いて退室して行ったあと、デイゼルは「ふぅ……」と溜め息をついて背もたれに体を沈めた。

 

「(まさか、また連中の活動が活発化を始めたのか……?)」

 

 連中というのは『亡国機業』のことだ。

 軍上層部の間で知らない者はいないほど彼らの頭を悩ませているその組織は、活動資金を得るため非合法な傭兵業にも手を出しているという話も聞く。

 中東で交戦したという所属不明の敵性勢力、それは間違いなく敵側に雇われた『亡国機業』の構成員だろう。デイゼルにはそんな確信があった。

 

「(奴らめ……何を企んでいる……?)」

 

 スッと目を細め、左頬骨から下唇にまで達した古い切り傷を人差し指でそっと撫で上げる。

 そこに、いつもトーマスに叱られているような雰囲気は微塵も見られない。

 

「(お前達の好きにはさせん。必ずや壊滅させてやる、首を洗って待っていろ……)」

 

 ブラインドが下ろされた窓の外側で、補填として派遣されたA‐10攻撃機が4機、爆音を上げながら離陸して行った。

 




 賛否が別れると思いますが、本作ではサイレント・ゼフィルスの操縦者は M ではく別のキャラクターを当てました。

『ゲイマー』……エースコンバット(インフィニティ)から登場(知っている人いるかなぁ……)。

  《ネクストチャレンジャーは誰?》
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