インフィニット・ストラトス 蒼空に鮫は舞う   作:Su-57 アクーラ機

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49話 昼ドラ展開

「えっ!? 一夏の誕生日って今月なの!?」

 

「お、おう」

 

 寮での夕食、いつもの面々で食事を摂りながらの談笑を交えていると、突然シャルロットが大声を上げた。

 どうやら余程驚くようなことだったようで、彼女にしては珍しくイスを蹴倒さんばかりの反応まで見せている。

 

「い、いつ!?」

 

「9月の27日だよ。ちょっ、ちょっと落ち着けって」

 

「う、うん」

 

 そう言ってシャルロットはイスにかけ直す。

 

「に、日曜だよね!?」

 

 今度は立ちはしなかったものの、身を乗り出す。……今日のシャルロットはえらく食い気味だな。まあ、理由は分かるが。

 

「に、日曜だな」

 

「そっか……。うん、そうだよね。うん!」

 

 呟きながら頷くシャルロット。きっと一夏の誕生日が楽しみでしょうがないのだろう。

 そんなやり取りを眺めていると、一夏の隣でビーフシチューを食べていたセシリアが、パンを置いて口を開いた。

 

「一夏さん、そういうことはもっと早く教えてくださらないと困りますわ」

 

「え? お、おう。スマン」

 

 取り敢えず謝る一夏だが、たぶん何が理由で怒られたのかは分かっていなさそうだ。

 

「とにかく、27日の日曜日ですわね」

 

 セシリアは純白の革手帳を取り出すと、27日の欄にグリグリと二重丸を描く。セシリアにとって重要な日であることは間違いないだろう。

 

「それにしても、知っていたのなら教えてくださってもよかったのではなくて?」

 

「「う!」」

 

 セシリアに一瞥(いちべつ)されて、一夏のダブル幼馴染が固まる。

 ちなみにメニューはと言うと、箒がサンマ定食、鈴が麻婆(まーぼ)定食で、シャルロットがエビフライ定食。

 そして一夏はダシ巻き卵定食。IS学園の食事はどれも文句のつけどころがない絶品ばかりだ。

 

「べ、別に隠していたわけではない! 聞かれなかっただけだ」

 

「そ、そうよそうよ! 聞かれもしないのに喋るとかKYになるじゃない!」

 

 箒と鈴はそんなことを言いながら、パクパクと夕食を頬張った。

 

「(言い訳じみてるなぁ……)」

 

「そういえばウィルも今月が誕生日とか言ってなかったか?」

 

「ん? ああ、今月の3日がな。もう過ぎちまってるが」

 

 一夏に話しかけられた俺は、海鮮丼のドンブリを片手にそう答える。

 正確には俺が両親に拾われた日なのだが、出生日が分からないのでホーキンス家では9月3日が誕生日ということになっていた。

 

「お前はどうしてそういうことを黙っているのだ」

 

 シャルロットの隣、俺から見て真正面のラウラが季節のサラダパスタをフォークで刺しながら、少しムスッとした口調で告げる。

 

「いや、まあ、言ってどうこうって話でもなかったしな」

 

「はぁ。まったくお前という奴は……」

 

 なんでそこで呆れるんだよ。俺の誕生日この日なんだぜ! とか言って回っても痛い奴としか思われないだろ?

 

「とにかく、一夏さん。9月27日は予定を空けておいてくださいな」

 

「ああ、うん。一応、中学の時の友達が祝ってくれるから俺の家に集まる予定なんだが、みんなも来るか?」

 

「「「「もちろん!」」」」

 

 箒、鈴、セシリア、シャルロットの声がきれいにハモる。これも一夏ラヴァーズの結束力あってのものか。

 

「ウィルもどうだ? 誕生日は過ぎてるけど、せっかく同じ月なんだしみんなで祝い直そうぜ」

 

「その誘いは嬉しいが、いいのか?」

 

「当たり前じゃねえか」

 

「そうか。じゃ、俺もご一緒させてもらおうかな。ラウラはどうする?」

 

「無論、私も参加しよう」

 

「ってことはここにいる全員出席だな。ちなみに何時からだ?」

 

「えーっと、4時くらいかな。ほら、当日ってあれがあるだろ?」

 

「ああ……あれか。『キャノンボール・ファスト』だったか?」

 

 俺と一夏の言葉に、全員が「そういえば」という顔をする。

 ISの高速バトルレース『キャノンボール・ファスト』。本来なら国際大会として行われる競技だが、IS学園があるここでは少し状況が違う。

 市の特別イベントとして催されるそれに、学園の生徒達が参加することになる。

 と言っても専用機持ちが圧倒的に有利なため、一般生徒が参加する訓練機部門と専用機持ち限定の専用機部門とに別れているのだが。

 学園外でのIS実習となるこのイベントでは、市のISアリーナを使用する。臨海地区に作られたそれはとにかくデカイそうで、2万人以上を収容できるらしい。

 前にどこかのアイドルがコンサートを開いたが満員にすることはできず、それ以降ライブなどの使用申請はないとのこと。……まあ、本来はISのためだけのアリーナだしなぁ。

 

「そういえば明日からキャノンボール・ファストのための高機動調整を始めるんだったよな? あれって具体的には何をするんだ?」

 

「ふむ。基本的には高機動パッケージのインストールだが、お前とウィルのISにはそれが無いだろう」

 

 ラウラがプチトマトを頬張りながら告げる。

 

「その場合は駆動エネルギーの分配調整とか、各スラスターの出力調整とかかなぁ」

 

 エビフライをかじったシャルロットが、言葉を続けた。

 

「ふうん。たしか高機動パッケージっていうと、セシリアの【ブルー・ティアーズ】にはあるんだったよな?」

 

「ええ! わたくし、セシリア・オルコットの駆る【ブルー・ティアーズ】には、主に高機動戦闘を主眼に捉えたパッケージ『ストライク・ガンナー』が搭載されていますわ!」

 

 ふふんと誇らしげにその腕で胸を押さえるセシリア。腰に当てた手もバッチリ決まっていて、相変わらずモデルのようだ。

 しかし、そんな様子が俺には何となく空元気を使っているようにも見えた。

 最近のセシリアはというと、放課後1人で黙々と訓練を続けている。

 詳しくは聞いていないが、どうやら学園祭の時に敵を逃したのが原因らしい。

 その辺りは一緒にいたラウラに訊いても教えてくれず、織斑先生からは原則質問禁止を言い渡されているので当事者以外には内容の一切が不明のままだ。

 

「(亡国機業、か……)」

 

 またの名を『ファントム・タスク』と呼ばれるその一団は、古くは50年以上前から活動しているらしい。不確かな情報だが、第2次大戦中に生まれた組織だとも。

 ラウラの話では、思想を持たず、民族にも還らず、信仰も無く、ただ(おのれ)の利益のために動く組織らしい。

 しかも尻尾切りと隠蔽(いんぺい)工作が上手く、構成員を逮捕できたとしても組織の情報はほとんど入って来ないそうだ。

 現在分かっているのは、組織は大きく分けて運営方針を決める幹部会と、実働部隊の2つということ。

 そして近年、急速に戦力を拡大しようと企んでいること。ゆえにISの強奪を計画したのだろう。

 

「(しかし、何なんだ奴らは……)」

 

 先日の一件で使用された『リムーバー』は“存在しない兵器”――つまり、国家最高重要機密の1つだと聞いた。『どこか』で開発されたそれを奪い、使用する謎の組織。

 

「(……今ここで考え込んでも仕方ないか)」

 

 少なくとも――今はまだ。

 そう思った俺は、話題のキャノンボール・ファストに意識を戻す。

 

「それだとセシリアが有利だよなぁ。今度超音速機動について教えてくれよ」

 

「……申し訳ありません。それはまた今度。ウィリアムさんとラウラさんにお願いしてくださいな」

 

 ニコッと微笑むセシリアだったが、その顔が一瞬曇ったのを俺は見逃さなかった。

 今は自分の訓練に時間を使わなくてはいけない。――そう、物語っている顔だった。

 それを一夏も察したらしく、特に食い下がることもなく引き下がる。

 

「そっか。分かった。じゃあウィル、ラウラ、教えてくれ」

 

「おう。俺でよければ付き合ってやるよ」

 

「ついでだ。最近あの女にばかりかまかけているウィルも一緒にミッチリしごいてやろう」

 

「待て待て。なんで俺までしごかれることになってるんだ?」

 

 ちなみにあの女というのは生徒会長・更識 楯無先輩のことだ。

 念のため、もう少しの間は一夏の部屋で同棲――という名の警護をするらしい楯無先輩は、相変わらずハードな放課後訓練を俺と一夏に叩き込んでくれている。

 おかけで以前よりはかなりマトモになったが、それでもまだ乗り越えるべき課題点は多い。

 

「つうか、有利だって言うならアンタも同じでしょうが。【白式】のスペック、機動力だけなら高機動型にも引けを取らないわよ」

 

 ま、それを言うなら【紅椿】もだけどね。と付け加える鈴。

 相変わらずISのことに関して詳しい。一夏の話では中学の時はそんなところは一切見せなかったらしいので、帰国してから猛勉強したのだろう。

 

「つうかさあ、ウチの国なにやってんだか。結局【甲龍】用高機動パッケージ間に合わないし。シャルロットのところは?」

 

「【リヴァイヴ】は第2世代で元々これ以上の開発はないから、増設ブースターで対応するよ。まあ、元々速度関係は増設しやすいようになってるしね。『疾風(ラファール)』の名前は伊達じゃないって感じかな」

 

 シャルロットの愛機、【リヴァイヴ】の正式名称は『疾風の最誕(ラファール・リヴァイヴ)』。

 ――成程、確かにその名の通りだ。

 

「ふーん。あ、ウィルんとこはどうすんの? アンタのISも第2世代でしょ?」

 

「【イーグル】は最高速度こそトップだが、加速力が今ひとつでなぁ。デカイエンジンを2発、背負い式で増設することになってる」

 

 俺のISもシャルロットと同じく第2世代。新装備の開発はされておらず、どれも既存品の改良・流用ばかりだ。

 まあ、第3世代の開発が主流の現在では仕方のないことだろうがな。……悪口のつもりじゃないからな? 気を悪くしないでくれよ、相棒。

 

「うわ、なんかすごい脳筋」

 

「まったくもって同感だ」

 

「アンタ自身が認めるのね……」

 

 だって【バスター・イーグル】の開発スタッフ達だし。ISにジェットエンジン2つもポン付けするようなところだし。

 

「それでラウラのところは? 第3世代だからなんかあるんじゃないの?」

 

「姉妹機である【シュヴァルツェア・ツヴァイク】の高機動パッケージを調整して使うことになるだろうな。装備自体はあっちの方が本国にいる分、開発も進んでいる」

 

 ISの専門的な会話となると、さすがにみんな真剣な顔をしている。

 

「【シュヴァルツェア・レーゲン】の姉妹機か。搭載兵装がどんなのか少し気になるな」

 

「嫁とはいえ、それは教えられんな」

 

「国家重要機密」

「国家重要機密……だから、だろ? もちろん教えてくれなんて言わないさ」

 

「よく分かっているじゃないか」

 

 ツヴァイク――ドイツ語で『枝』の意味を指す。ラウラの『(レーゲン)』と対を成す存在というから、恐らくAICを搭載した全距離対応型のISなのだろう。

 

「ふん。いい面構えだな、少尉」

 

 ニヤリ、俺を眺めて口端をつり上げるラウラ。

 

「お褒めいただき恐悦至極(きょうえつしごく)であります、少佐殿」

 

 ビシリと敬礼しながら、ラウラのジョークに同じくジョークで返す。

 するとさっきまで楯無先輩のことでやや不機嫌顔だったラウラは、楽しそうに――けれど、冷徹さを感じさせる瞳で笑んだ。

 ドイツの冷氷、ラウラ・ボーデヴィッヒ。涼しげな瞳はツララのように鋭く、だが綺麗に澄んでいる。

 

「そうだな、久しぶりに全力演習を行うか。明日の放課後、16:00(ヒトロクマルマル)より第2アリーナで準実戦訓練を行う。いいな」

 

「オーケーだ。言っておくが、今回は引き分けじゃなく『勝ち』をもらうからな」

 

「ふふん。それはどうかな? 私も明日は新式装備の性能を披露してやろう」

 

 そう言ってクルリとラウラはフォークを回す。

 その先端にはサラダパスタのマカロニが、ちょうど空洞を通る形で刺さっていた。

 それを見て一夏が口を開く。

 

「身のある訓練を期待しよう。マカ――」

 

「「マカロニだけに」」

 

「……とか言うつもりでしょ」

「……なんて言わないよね?」

 

 鈴とシャルロットにダブルで先読みされて、一夏はバツが悪そうに目を逸らした。

 

「はっはっはっ、そんな馬鹿な」

 

「一夏、お前……」

 

 箒の白い目が一夏の心にダイレクトアタックを仕掛ける。

 

「お前さん、今のが本気でウケると思ってたのか……?」

 

「ち、違う! 違うんだ、ウィル! 勝手に思いつくんだ! 俺は悪くない!」

 

 いや、そんな必死に否定されてもなぁ……。

 

「まー、どっかのバカはさておき。一夏、アンタ生徒会の貸し出しまだなわけ?」

 

「ん? なんか今は抽選と調整してるって聞いたぞ。なあ、ウィル?」

 

「ああ。俺達はその調整が終わったあと、各部活動に派遣されるそうだ」

 

「ふーん……」

 

 なんでもなさそうにそう言って、鈴はラー油が大量に乗った麻婆豆腐をパクリと頬張る。

 

「ああ、そう言えばみんな部活動に入ったんだって?」

 

「俺もつい先日そんな話を聞いたな。どうなんだ?」

 

 これから部活派遣とかで会うかもしれないし、せっかくの機会だ。一夏の話に便乗して確認させてもらうとしよう。

 

「私は最初から剣道部だ」

 

 と言ったのは箒だが、実は幽霊部員らしい。……まあ、最近はよく部活動に顔をだしているそうだが。顧問(こもん)か部長に突っつかれでもしたか?

 

「鈴は?」

 

「ら、ラクロスよ」

 

「へぇ! ラクロスか! 確かに似合いそうだな!」

 

 うん? ラクロスが『似合う』? ラクロスってたしか棒を振り回す……あっ。

 

「ま、まあね。あたしってば入部早々期待のルーキーなわけよ。参っちゃうわね」

 

 こ、これは……口が裂けても本音は言えんな。言ったら間違いなく殴られる。

 

「で、シャルは?」

 

「えっ、僕!?」

 

「うん。何部に入ったんだ?」

 

「え、えっと、その……」

 

「?」

 

 言いにくいことなのか、シャルロットはモジモジと指をもてあそぶ。

 時折一夏の顔を(うかが)うような上目遣いで見つめるが、視線を返されるとまた俯いてしまう。

 

「そ、その……料理部」

 

「料理部! おお、学園祭の時に一緒に回ったとこだよな!」

 

「わあっ、一夏っ! シ~! シ~!」

 

 慌てた様子のシャルロットが『言わないでよ!』というジェスチャーをする。……ほう、シャルロットは一夏と一緒に料理部を回ったのか。

 なぜか後ろのテーブルでガタタッと立ち上がる音が聞こえたような気がしたんだが……何かあったのか?

 

「へぇ、そっか、料理部かぁ」

 

「う、うん。日本の料理も覚えたくて」

 

「成程なー。なんか作れるようになったらぜひ1度食べさせてくれ」

 

「う、うん! もちろんだよ!」

 

 そう言って力強く頷くシャルロット。さっき『声が大きいよ!』というジェスチャーをしていた人物とは思えないほど、その声は大きかった。

 

「それで、セシリアは?」

 

「わたくしは英国が生んだスポーツ、テニス部ですわ」

 

「へえ。もしかしてイギリスにいた時からやってたとか?」

 

「その通りですわ。一夏さん、よろしければ今度ご一緒にいかがですか?」

 

「んー、俺テニスやったことないんだよなぁ」

 

「で、でしたら!」

 

 さっきまでの俯き加減はどこへやら、セシリアは優雅に腕を組んで言葉を続ける。

 

「わ、わたくしが直接教えてさしあげてもよろしいですわよ? と、特別に」

 

「おお、それはいいな。じゃあいつか頼む」

 

「ええ!」

 

 ニッコリと自然な表情で微笑むセシリアを見て、一夏も俺も少し安心する。

 本当にここ最近のセシリアは自閉の様子があったのだが、こんな風に笑えるならひとまずは大丈夫だろう。

 

「ちなみに私は茶道部だ」

 

 そう言ったのはラウラで、ちょうどパスタを食べ終えたところらしい。

 

「茶道部か。ラウラ、本当に日本文化好きだよなぁ」

 

「ああ。学園祭の時も俺と一緒に行ったしな。……ん? そう言えば、茶道部の顧問って――」

 

「教官……いや、織斑先生だな」

 

 そうだそうだ、確かに前に聞いた覚えがある。

 ファンの生徒が一斉に殺到して、正座の2時間耐久テストでふるい(・・・)にかけたんだとか。

 それにしても、あの人が茶道部とはなんとも不思議な組み合わせだな。俺はてっきり運動部の顧問だとばかり。

 

「ラウラは正座平気だったのか?」

 

「無論だ」

 

「お~、スゲェな。俺じゃ2時間なんてとても耐えられないぞ……」

 

「鍛え方が足りんのだ。あの程度の(しび)れなど、拷問に比べれば容易(たやす)いだろう」

 

 いやいや、そんなもんと比べるなよ。ていうか拷問って、いったいどんな仕打ち受けるんだよ……。

 

「しかし、ラウラの着物姿かぁ」

 

「わ、私が着物を着たらおかしいか?」

 

「まさか。きっと似合ってるだろうなってな。今度見せてくれよ」

 

「な、なに? そ、そうか……。いいだろう……機会があれば、な」

 

 ラウラが着物を着るとなると、やっぱりその長い髪を()うんだろうか。それともストレートのままか? どちらにせよ、よく似合いそうだ。

 

「い、1着ぐらいは持っていてもいいかもしれんな……。今度買うとしよう……」

 

「ん? わざわざ別で新しく買うのか?」

 

「気にするな。今後、使う機会がないとも言えないことだしな」

 

「そうか。……あっ、そういえば着物といったらあれだよな。たしかハツ・モーデって言ったか?」

 

「ウィル、それを言うなら初詣(はつもうで)な」

 

 笑いながら訂正してくる一夏。うーむ、やはり他国の言語や文化を完全に頭に叩き込むのは難しい。

 

「そう、それだ。初詣に着物を着て行ったらよく()えるんじゃないか? ……あー、でもあれってたしか年末年始の行事だったよな? さすがにその期間は国に帰るか」

 

「う、ウィルはどうするのだ?」

 

「俺か? 俺は冬休みに1度国へ帰るつもりだが、たぶん年末までには日本に戻ってると思うぞ」

 

「そうか。では私も日本にいるとしよう。……お前がいることだしな……

 

 ラウラの最後の呟きだけは上手く聞き取れなかったが、どうも年末年始は日本にいるらしい。

 

「おっ、それなら初詣はみんなで一緒に行こうぜ。せっかくだから除夜(じょや)の鐘からな」

 

「そいつは名案だ。1度、除夜の鐘ってのを(なま)で聞いてみたかったんだよ。アメリカじゃ聞けないからな」

 

 一夏の提案に俺は即賛同する。人数が多いとそれだけで楽しくなりそうだ。

 

「あ、でもみんなはどうするんだ? 年末年始。やっぱり帰国するのか?」

 

「僕は残るよ」

 

 そう言ったのはシャルロットだった。さすがラウラと仲が良いだけのことはある。もちろんそれだけではなく、一夏がいることも大きな理由だろう。

 

「で、でしたらわたくしも!」

 

「まあ、帰国しても面白いことないしね」

 

 セシリア、鈴と続く。

 

「箒は神社の手伝いするのか? 夏休みもしてたよな。また終わったら一緒に――」

 

「ば、馬鹿者!」

 

 ベシッ! と、箒が一夏にチョップをくらわせる。

 

「いてえ! な、なんだよ!?」

 

「う、う、うるさい! 軽々しく言うな!」

 

「「「『また』?」」」

 

 聞き返したのは、鈴にセシリアにシャルロット。箒以外の一夏ラヴァーズ全員だった。夏休みに何があったのかは知らんが、こりゃ一悶着ありそうだ。

 

「一夏ぁ! 夏休みに何してたのか言いなさいよ!」

 

「一夏さん! 箒さんと隠れてそのような――見損ないましたわ!」

 

「い、一夏? またってどういうこと……?」

 

 ガタタッと音を立てて3人が立ち上がる。

 

「わあっ! 待て待て! 別に何もやましいことは……なあ、箒! なあ!?」

 

「……なぜそこまで否定する……」

 

「え?」

 

 バシンッ! と頭をはたかれる一夏。

 

「ふん!」

 

 ちょうど食事も終わっていたらしく、箒はトレーを持って立ち上がると不機嫌そうな顔をして去って行ってしまった。

 

「…………。じ、じゃあ、俺も食べ終わったし、部屋に――ぶべっ!」

 

 立ち上がったところを鈴に掴まれ、一夏は無理矢理イスに座らされる。

 いてーな! と反発するよりも早く、3人が詰め寄った。

 

「一夏! 夏休みに何があったのよ!」

 

「説明を要求しますわ!」

 

「ずるいよ、一夏。贔屓(ひいき)だよ」

 

「う、ウィルーー! 助けてくれーーっ!」

 

 必死の形相で俺に助けを求めてくる一夏。できればそうしてやりたいところだが、俺の本能はこう告げていた。

 ――下手に首を突っ込むとお前も巻き添えをくらうことになるぞ、と。

 

「ふぅ、ごちそうさんっと。それじゃあ俺は部屋に戻らせてもらうぞ」

 

「私も帰らせてもらう。ではな」

 

 イスから立ち上がった俺とラウラは早々にトレーを返却口に返して、食堂をあとにするのだった。

 

「ま、待て! 待ってくれ、ウィル! お、俺達ズッ友だろ? なあ! 置いてかないでくれ! ギャアァァァ!!」

 

 

 

 

 

 

「一夏のやつ、大丈夫だろうか……?」

 

 3人から詰問(きつもん)攻撃を受けて青い顔をしていた友人の顔を思い出しながら、俺は自室に帰り着いた。

 ちなみにラウラは帰路の途中で山田先生に呼ばれたので、この場にはいない。なんでもISパッケージの件でドイツ本国から連絡があったんだとか。

 

 ガチャッ

 

「おかえりなさーい。あ、お邪魔してるわよ。よっと! あ、ヤバっ!」

 

「楯無先輩……」

 

 部屋に入って早々目についたのは、ベッドに寝転がって俺の据え置きゲーム機で遊ぶ楯無先輩の姿だった。……ていうか、部屋の鍵はしっかりかけていたはずなんだが。

 

「………………」

 

「どうしたの? あ、もしかしてパンツ覗こうとしてる?」

 

「そんなわけないでしょう。変なこと言わないでください」

 

「ふーん。見えた?」

 

「……………」

 

「問題です。楯無おねーさんの下着の色は?」

 

「それ以上言うようでしたら部屋から(つま)み出しますよ?」

 

「あは。冗談よ、冗談。だからそんな怖い顔しないで」

 

 ったく、この人は……。

 どうやら一夏だけじゃ飽き足らず、俺のことも茶化したいらしい。

 

「それで? 何の用があってこの部屋に?」

 

「うん、今日はちょっとお話があってね」

 

「話?」

 

「そ。ちょっと真面目なお話。例の組織についてね」

 

 例の組織――となると、思い当たるのは1つしかない。亡国機業のことだろう。

 俺は、気を引き締めて楯無先輩の言葉に耳を傾ける。

 

「非公式な情報だけど、先刻アメリカ空軍の航空輸送部隊が襲撃を受けたらしいわ。狙いは輸送中の『何か』だったようだけど、詳しいことまでは分からない。でも、それがもし兵器の(たぐ)いだったとしたら……」

 

「自分達に対して使用される可能性も十分あり得る、ということですか?」

 

「ええ。だからウィリアムくんも気をつけて」

 

 もちろん自分のISを奪われないようにもね、と楯無先輩は付け加える。

 

「了解です。もしまた来るようであれば、その時は盛大に歓迎してやりますよ」

 

「よろしい。男の子はそうでなくちゃね」

 

 そう言って楽しそうに笑う楯無先輩。しかし次の瞬間、その笑顔が意地の悪い含み笑いへと変わった。

 

「ところでウィリアムくん」

 

「?」

 

「後ろ、放っておいていいの?」

 

「後ろ? 後ろがどうか――」

 

 ゾワリ……

 

「――!?」

 

 突然の悪寒。虫の知らせ。

 とてつもなく嫌な予感がした俺は、背中を伝う冷たい何かを感じながら、ギギギッとぎこちない動きで後ろを振り返る。

 

「ほう……。私という夫がいるにもかかわらず、その女を部屋に連れ込んで逢い引き(あ び )か」

 

 向けた視線の先――玄関口には、恐ろしい無表情をしたラウラが立っていた。

 なんでいきなり牛と豚のミンチ肉(あいびき)の話が出てくるのかは分からないが、何か盛大な誤解をされているような気がする。

 

「ウィリアム・ホーキンス少尉。貴様には本件について報告の義務がある。全て偽りなく話せ」

 

 出た! 階級付きのフルネーム呼び! この呼び方をする時は大抵ラウラが怒っている時だ。

 

「い、イエス・ミスッ。小官(しょうかん)はここにいる楯無先輩と普通に会話をしていただけでありますっ」

 

「続けろ。それで?」

 

「それでって……。な、なあ、ラウラ。もしかしなくても怒ってる、よな……?」

 

「私か? ああ、そうだな。鋭いじゃないか」

 

 ゆらり、ゆらり……とこちらに歩いてくるラウラ。はっきり言って滅茶苦茶(めちゃくちゃ)怖い。例えるならば、そう。全米(ぜんべい)が泣くレベルだ。

 あぁ……! 爆炎を背にして立つ黒ウサギが見える! なぜだ! お前はなぜそんなに怒っているんだ! ホワイ、ジャーマニーピーポー!!

 

「じゃあ私はそろそろ帰るわね。お邪魔しました~」

 

 はあ!? 事態をややこしくするだけして離脱かよ! 冗談じゃないぞ、戻ってこいコラ!

 しかし、無情にも楯無先輩はさっさと部屋を出て行ってしまった。

 

「……………」

 

「……………」

 

 俺とラウラの間に沈黙が横たわる。

 よ、よし! ピンチをチャンスに変えるんだ! ここで何か無難な話題を降って空気の流れを変えることができれば……!

 

「そ、それにしても今晩の天気は最悪だなぁ! こりゃひと雨くるかもしれないぞ! なあ、ラウラ!」

 

 少し声が上擦ってしまったが、完璧だ。これは確実に決まったな。あとはラウラからの返答を待つだけ――

 

「外を見てみろ。星が出ているぞ」

 

「 」

 

 ヤッバ……これ俺も『星』にされるやつだ。

 

「くだらん話題降りで話を逸らそうとでも思ったか?」

 

「ち、ちがっ、その、そういうつもりじゃ……」

 

 はい、大当たりです。余裕でバレました。

 

「どうやら貴様には一度体に教え込まないといかんようだな」

 

「ひ、ひぃぃっ……!?」

 

 ▽

 

「酷い目にあった……」

 

 鈴、セシリア、シャルロットの3人から解放された一夏は、這々(ほうほう)(てい)で寮の廊下を歩いていた。

 

 ドタドタドタッ……!

 

「(なんかやけに騒がしいな。ウィルの部屋か?)」

 

 やっとの思いで自室前までたどり着いたところで、まるで誰かが駆け回るような物音に気づいて首を巡らせる。

 ――と、次の瞬間だった。

 

「うおぉぉぉっ!?」

 

 ウィリアムの部屋のドアが勢い良く開き、中からその部屋の主が叫びながら出てくる。

 

「(あいつ何やって……あ、こけた)」

 

 足をもつれさせて、ズベシャッ! と前のめり倒れるウィリアム。

 

「いつつっ……」

 

 なんとか立ち上がろうとするが、それよりも早く部屋から出てきたラウラに足首を掴まれた。

 

「どこへ行く。話はまだ終わっていないぞ」

 

「ちょっ、タンマタンマ! 暴力反対! ノーバイオレンス!」

 

 必死にもがくが、しかしそんな抵抗も(むな)しくズルズルと引っ張られて行く。

 目の前の状況についていけない一夏がそれを眺めていると、偶然にも引きずられている最中のウィリアムと目が合った。

 

「一夏? 一夏じゃないか! ちょうどよかった! た、助けてくれ!」

 

「む? 一夏か。今は取り込み中だ。急用でないなら話は明日にしろ」

 

「あ、ああ。うん。どうぞごゆっくり……?」

 

「 」

 

「ということだ。行くぞ、ウィル」

 

「ひぃっ!? い、一夏! 一夏ぁ!! ヘルプミィィ!! ノォォォォォォ!!」

 

 ギィィィ……バタン……

 

 まるでホラー映画のワンシーンのように、ウィリアムは室内へと消えて行くのであった。

 

「アーーーーーッッ!!」

 

 ……

 ………

 …………

 

 キツい仕置きを受けたウィリアムは完全にノビてしまっている。これにもし効果音をつけるとすれば『チーン……』だ。

 介抱としてベッドには運んだが、この様子だと朝まで目覚めることはないだろう。

 

「……少しやりすぎたか……?」

 

 寝間着に着替えたラウラはベッドに腰かけ、ウィリアムの顔を覗き込む。

 本当は、ウィリアムがやましいことなどしていないと分かっていた。……分かっていたはずなのに、つい溢れ出た嫉妬心を抑えることができなかった。

 以前のラウラだったなら、きっとそんなこと考えすらせず無視を決め込んでいたことだろう。

 IS学園に来て初めて会った時、ウィリアムに対するラウラの感想は『目障りな奴』。ただそれだけだった。

 

「………………」

 

 ふと学年別トーナメント戦での出来事を考えて、ラウラの表情が真面目なものにと変わる。

 

綺麗(きれい)な目だな』

 

 ――あの日、生まれて初めてそんなことを言われた。

 適合手術に失敗したことから出来損ないと馬鹿にされ、(みずか)らでさえ(うと)んでいたこの左目。かつて優秀だった自分は地の底へと真っ逆さまに落ちていき、そして徐々に居場所はなくなっていった。

 いつしか自分の存在意義は『最強』であることだと固く信じ、ただそれだけに固執するようになってしまっていた。

 それ以外のことなど、どうでもいいとさえ思っていた。

 それなのに――

 

「(お前は、本当に私の気持ちを煽るのが上手いな)」

 

 ――心を揺り動かされてしまったのだ。目の前で眠るこの男に。

 だがウィリアムときたら、いくらアプローチをかけてもなかなか振り向かない。そのくせ自分の胸を高鳴らせるような言動を無意識にするのだから困り者だ。

 

「(まったく。この朴念仁め)」

 

 けれどラウラは、そんなどこまでも鈍いウィリアムに愛想を尽かす気にもなれなかった。

 これが、所謂(いわゆる)()れてしまったがゆえの弱みというものなのだろうか。

 

「(……弱み、か。確かに私は弱くなってしまったかもしれないな……)」

 

 と、そう考えていたところでハッと我に帰る。ただ覗き込んでいたはずが、自然とウィリアムの寝顔に吸い寄せられていたのだ。

 

「わっ、私も寝るとしよう。うむ。それがいい」

 

 ウィリアムから視線を外し、ラウラは部屋の照明を落とす。

 暗くなった室内でラウラは自分のベッドに向かって1歩踏み出そうとして、もう1度ウィリアムに視線をやった。

 

「(必ずお前を振り向かせてやる。私を惚れさせた(よわくした)責任は、取ってもらうぞ)」

 

 少しの間ラウラはウィリアムを見つめる。それから、その(ひたい)にそっとキスを落とした。

 

「……が、(がら)にもないことをしたなっ。こ、今度こそ寝るとしよう……」

 

 カーッと顔が熱くなるのを感じながら、ラウラは長い長い夜を過ごしたのだった。

 

 

 

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