インフィニット・ストラトス 蒼空に鮫は舞う 作:Su-57 アクーラ機
「(くっ! やはり、強い――!)」
並走しながら、セシリアは長大な大出力BTライフル『ブルー・ピアス』を【サイレント・ゼフィルス】向ける。
しかし、その攻撃タイミングを狙い澄ましたかのように、シールドビットと射撃によって潰されては、また距離が開いてしまうのだった。
「~~~♪ ……♪」
ゲイマーは相変わらず鼻歌を歌いながら、遊ぶかのようにセシリアに攻撃を繰り返す。
正確な射撃に加えて、圧倒的な連射速度、そして何より
「(このままではいずれやられてしまいますわ。かくなる上は……!)」
セシリアはギュッと握りしめた手に格闘ブレード『インターセプター』を呼び出すと、一気に【サイレント・ゼフィルス】へと突撃した。
「もらいましてよ!」
「へえ~、そう来たか」
ゲイマーは、付き合ってやるとばかりに左手にナイフを呼び出し、セシリアと格闘戦を始める。
キンッ! と、
「くっ……!」
超音速状態での格闘戦は精神力を激しく消耗する。
しかし、意地でも負けられないとばかりにセシリアは食い下がった。
キンッ、ギィンッ! ガッ……ギィィンッ!
片手で格闘戦を続けながら、ゲイマーは
それに
「このぉっ!」
「あははっ、やるじゃん!」
「(遊んでいるつもりですの!?)」
再度、ブレードを振り下ろすセシリア。しかし、その
「!?」
「
まるで子供がゲームで遊んでいるかのような声。しかし、それとは真逆の無慈悲な連続射撃がセシリアを襲う。
「ああっ!」
シールドエネルギーが一気に削られ、左腕で支えていたライフルを破壊される。
なんとか地上に被害を出すまいと、地表ギリギリのところで急上昇するのがセシリアにはやっとだった。
「ねー、もう終わりぃー?」
ライフル先端に取り付けられた
「まだ……ですわ。わたくしの切り札は、まだありましてよ!」
叫んで、セシリアは心の中でトリガーを引く。
高速機動パッケージ『ストライク・ガンナー』。そのビットを全て推進力に回している仕様の中で、けしてやってはならないと言われている禁止動作――。
「はああああああっ!! ブルー・ティアーズ・フルバースト!」
閉じられている砲口からの一斉射撃。パーツを吹き飛ばしての4門同時発射。
これを行えば最悪、機体は空中分解してしまう。しかし、
――が、しかし。
「わーお! すごい攻撃ね! で・も」
ゲイマーはふざけた調子で、セシリアの射撃を全て高速ロールで避けてみせた。
「なっ!?」
「
ザクッ――と、
「あああああっ!!」
耐え
その声を聞いて、悪意を
「――お願い、【ブルー・ティアーズ】――」
セシリアは貫かれた右腕をそのままに、もう何も握っていない左手をゲイマーへと向ける。
その心の中に、
「(ああ、そうでしたの。【ブルー・ティアーズ】とは、つまり――)」
「……?」
セシリアの意図を
そして、セシリアがゆっくりと微笑みを浮かべた。
「バーン」
手で作ったピストル。その指先からは何も発せられない。
だが、次の瞬間、ゲイマーを
「!?」
BTエネルギー高稼働率時にのみ使える
それを
「(これまでですわね……。でも、
「待たせたな!」
最大出力で突っ込んできた【白式】は、【サイレント・ゼフィルス】のライフルを切り裂き、その腕にセシリアを取り戻した。
▽
ヴオオオオオンッ!
「ッ!? ちくしょう……!」
小さく悪態をつきながら、俺は機体を上昇させて真横からの機銃射撃を回避する。
耳元を巨大なハチが飛び回るかのような音と共に飛んでくるのは20ミリの機関砲弾だ。
「(こいつら、まさか軍用の
眼下に広がるのは一面の海。
アリーナから離れた沖合い上空にて、俺は3機のターミネーターに囲まれながらの空中戦闘を繰り広げていた。
「(何なんだこの機体! 強奪されたどこかの新型か!?)」
俺を取り囲む敵機のうち2機は翼面積が広く、円盤のような形状をした大柄なシルエットをしている。
そして、残ったもう1機だが、こいつもまた風変わりな見た目をしている。
ジェットエンジンは尾部から突き出るほど巨大なものが2発、機体を挟み込むようにして配置されている。
機体サイズは俺の【バスター・イーグル】以上だが、前進翼とカナードが生み出す機動力は
「(
さて、コイツらをどう片付けようか……と思考しているところへ、背後を付け回してくるフラップジャックAからミサイルを撃たれる。
「うるさい奴だ!」
空気抵抗を受けて急激に速度を落とす俺と【バスター・イーグル】の動きについていけず、背後のフラップジャックAはそのまま高速で通過して行った。
「良いところに来たな」
オーバーシュートしたフラップジャックAが、ちょうど機銃の射線上に入ってくる。
俺は
「せいぜい海水浴でも楽しんどけ」
『――!?』
主翼、尾翼、さらにはエンジンまでズタズタに破壊されたフラップジャックAは制御を失い、きりもみしながら海面に突っ込んだ。
……あとはフラップジャックBと指揮機のエンテ型か。
「少しはやるようだな、シャークマウス」
「次はお前だ!」
敵編隊長であろう男からの言葉にそんな返事をして、ミサイルのシーカーを合わせる。
しかし、捕捉が完了してミサイルを発射しようとした瞬間、エンテ型のターミネーターは恐ろしい速度と機動力を
「チッ……!」
あの機体は格闘能力に優れているようだが、それだけじゃない。認めたくはないがパイロット自身もかなりの腕利きだ……!
「直接話せて光栄だよ、シャークマウス。たとえ『さよなら』を言うだけでもな」
無線からはこちらを嘲笑う声が流れてくる。
『――敵機、近接攻撃圏内。格闘用ブレードを起動』
「こいつっ――!?」
左腕をブレード状に変形させたフラップジャックBが不意に死角から現れ、それを振りかぶって襲いかかってくる。
「(近接格闘までこなせるのか!?)」
慌てて機体を傾けて回避しようとするが避けきれず、ガギギギッ! と音を立ててブレードの切っ先が主翼を
「クソッ!」
自身の平静を
2機からの機銃射撃を
「(くっ……! これじゃあ、まるでターキーショットだな……!)」
背後と上空から聞こえる機銃の発砲音が、俺の焦燥感をさらに煽る。
鳴り止まないロックオン警報が
ヴオオオオオンッ!
――ガガギゴガンッ!!
「ッ!? やられたか……!」
エンテ型のターミネーターから放たれた機銃弾が、とうとう【バスター・イーグル】の右水平尾翼に当たった。
当然、被弾した尾翼の利きは悪くなる。……最悪だ。
「しっかり逃げろよ、シャークマウス。さもないとローストターキーが出来上がるぞ」
「(言ってくれる……!)」
キッと一瞬だけ背後の敵機を睨みつけて、俺は得意のコブラ機動で急減速をかける。
一か八かの
ゆえに逆転を狙っての
「
衝突を避けようと上昇したフラップジャックBが真上を通過する刹那、俺は背部増設エンジン・ユニットに載せられた『アヴェンジャー』をフルオートで叩き込んだ。
ヴァアアアアアアアアッ!!!
軽量化がほどこされたとはいえ、本来重装攻撃機に積まれるようなそれは、射線上の敵機に向けて体の芯にまで響くような
破壊――など生易しい。フラップジャックBはたちまちアルミとチタンの残骸となり、
「よし! 墜とした!」
「ふん、所詮は無人機か」
最後に残ったエンテ型ターミネーターのパイロットが下らなさそうに呟く。
「(無人……? 成程、そういうことか)」
現在、各国で運用されているターミネーターには有人機と無人機が存在している。
有人機は
対する無人機は文字通り人が乗っていないものを指し、それを『スレイヴモード』で有人機が
自立戦闘も一応は可能であるが、戦闘能力が下がることから有人機とセットでの運用が基本だ。
給料はいらない、休みもいらない。必要なのは定期整備とジェット燃料、そして武器弾薬のみ。1機が墜ちれば工場で新たに2機がロールアウトする。
「(それをテロリストが運用しているというのが、どうしても
自前の生産工場を持っているのか、はたまたバックに
答えはコイツを叩き落としてから聞き出せばいいだけのことだ。俺はトリガーにかけた人差し指に力を込める。
「――なんだ、ゲイマー。…………。了解した、帰投する」
「なんだと……?」
「残念だが、お
そう言って俺に背中を向けた敵機は、アフターバーナーを
あまりの展開に一瞬
「逃がさん!」
こちらも負けじとアフターバーナー全開での追跡を開始する。
「俺を追い回したいのなら好きにするがいい。だが、アレを放っておいてもいいのか?」
「……?」
敵パイロットが向けた視線の先――だだっ広い青空にキラリと何かが反射した。ハイパーセンサーでその部分だけを拡大表示する。
その正体を確認した瞬間、俺の顔からは一気に血の気が引いた。
「巡航ミサイル……!?」
「モタモタするなよ、シャークマウス」
こ、この野郎ッ……!!
「クソッ!!」
逃げる敵機の追跡を断念して、俺は巡航ミサイルの元へと全速力で飛ぶ。
ミサイルが向かう先は間違いなく市街地だ。
「(弾頭はなんだ!? 通常弾か? クラスター? なんでもいい! アレが到達すれば
額に大量の脂汗を
▽
「セシリア! しっかりしろ!」
「あら、一夏さん……。ふふ、遅刻でしてよ」
「悪いな!」
「仕方ありませんわね。デート1回で許してあげます……わ……」
「!? セシリア! セシリア!!」
叫ぶ一夏に、ハイパーセンサーからセシリアの
「(無茶しやがって、まったく……)」
一夏は降りれそうなビルの屋上を見つけて、そこに着地する。
「(腕の傷はISが止血してくれたみたいだな……。けど、急がないとどうなるか分からない)」
IS学園には大学病院並みの設備がある。取り敢えず学園に連れて行こう。
そう考えて飛び立とうとした一夏は、ギクリとしてその動きを止める。
「ッ……!!」
太陽を背負った【サイレント・ゼフィルス】が、笑みを浮かべて一夏を見下ろしていたのだ。その口元は新しい遊び相手を見つけたかのような喜色に満ちている。
「テメェ……」
一夏はセシリアを傷つけた相手を睨む。相手の顔はバイザーに隠れて見えないが、確かな敵意は感じ取ったはずだ。
「(けど、どうする? セシリアを守りながらあいつと戦えるのか?)」
だが、無理だろうがなんだろうが、仲間を守るためにはやらなくてはいけない。一夏は覚悟を決めて、『
「――あれ?
「何……?」
「もしもーし、リーパー? ドクターがそろそろ帰るってさー。伝えたからねー」
あからさまにテンションが下がった様子のゲイマーは、そう言ってから通信を切る。
「今日はここまでみたい。また遊びましょ」
【サイレント・ゼフィルス】は一夏に軽く手を振ると、背中を向けて飛び去った。
「あいつ、どうしたっていうんだ……?」
【サイレント・ゼフィルス】が去って行った方角を見つめながら呟く一夏。
直後、【白式】のプライベート・チャネルにウィリアムの焦燥した声が響いた。
《一夏! 一夏、聞こえるか!?》
「あ、ああ。聞こえてる。どうした、ウィル?」
《余裕がない、手短に言うぞ。――今、そっちに巡航ミサイルが向かっている》
「な……!?」
《驚くのは分かるが落ち着け。セシリアと【サイレント・ゼフィルス】は?》
「左腕を怪我してる。【サイレント・ゼフィルス】はどこかに飛んで行った」
《やはり、あいつも逃げたか……。よし、取り敢えずお前達はアリーナに戻れ》
「わ、分かった。ウィルは?」
《俺はミサイルの撃墜を
頼もしい声といつもの軽口を告げて、ウィリアムとの交信が切れる。
「(……急ごう……!)」
ウィリアムの言葉を信じて、一夏はひとまずセシリアを抱えてアリーナへと戻るのだった。
▽
「見つけた!」
細長い小型航空機のようなフォルムに、後部のジェットエンジン。
マッハ1.5で飛行するそれは、もう間もなく市街地を攻撃することだろう。
「よし、後ろに付いたぞ」
巡航ミサイルの真後ろに付き、早速攻撃を開始しようとした次の瞬間だった。
「――!?」
巡航ミサイルが、突如デタラメな機動を描き始める。
目標到達直前に
「ぐぅぅっ……!」
体にかかるGに耐え、必死に追いすがりながら『スカイバスター』を発射する。
発射した『スカイバスター』は確かに巡航ミサイルを直撃したが、しかし撃墜には至らなかった。
「頑丈だなオイ……!」
多少の出力低下は確認できたが、依然として巡航ミサイルは目標へ向けて飛行を続けている。
アリーナ及び市街地への到達まで残りわずか。
「クソッ、いい加減に墜ちろ!!」
ガスンッ! と30ミリ砲弾が命中して、とうとう安定性を保てなくなった巡航ミサイルは若干フラついたあと、今度は垂直に上昇していき、そして――
ドッッォォオオン!!!
まばゆい閃光を放った直後、空中で大爆発を起こした。
「はぁ、はぁ、はぁ……。ま、間に合ったか……」
爆風に煽られた【バスター・イーグル】の姿勢を立て直した俺は、爆心地に視線をやる。
放射能は検出されず、細菌や毒ガスなどの物質もなし。あの巡航ミサイルは単純に爆風と爆圧を用いた攻撃兵器だったようだ。
しかし、威力があまりにケタ違いすぎる。あんな物が市街地に到達していたらと思うとゾッとする。
「(とにかく、まずはアリーナに戻るとしよう。燃料はギリギリだし、機体もボロボロだ)」
ISスーツの内側を冷たく湿らせる不快な感触に1度顔をしかめてから、俺はアリーナへと戻るのだった。
エスコンあるある:ミサイルが異常なほど硬い上に、デタラメな回避機動を連発する。