インフィニット・ストラトス 蒼空に鮫は舞う 作:Su-57 アクーラ機
「さて、これより3時限目の授業を始める──前に、
3時限目開始のチャイムが鳴り終わると同時に、織斑先生が教壇に立ってそう告げた。クラス対抗戦? ……ああ、そう言えばそんな行事が控えてたな。
「クラス代表者とはそのままの意味だ。対抗戦だけではなく、生徒会の開く会議や委員会への出席……まあ、言うなればクラス長だな。自薦他薦は問わない。誰かいないか?」
ザワザワと色めき立つ教室。成程、クラス長か。選ばれた奴には
「はいっ! 織斑くんを推薦します!」
1人の女子が元気良く手を挙げ、一夏をクラス代表者として推薦した。
「私もそれが良いと思いまーす」
最初の声が引き金となり、次々と増えていく一夏の票数。
「私はホーキンスくんを推薦します!」
「同じく!」
──そして、そんな一夏と接戦(不本意)を繰り広げる俺の票数。マジか。俺と一夏を推薦するって……君達、俺達に対する物珍しさとか、絶対そんな感じのが理由だろ……。
「お、俺!?」
「Oh……」
まさか自分が推薦を受けるとは思わず、俺は片手で目元を覆いながら俯き、一夏は盛大に狼狽る。
「ふむ、候補者は織斑 一夏とウィリアム・ホーキンス……他にはいないか?」
「ちょっ、ちょっと待った! 俺はそんなのやらな──」
一夏が立ち上がり、抗議しようとした次の瞬間。甲高い声がそれを遮った。
「待って下さい! 納得がいきませんわ!」
バンッと机を叩いて立ち上がったのは、イギリス代表候補生のセシリア・オルコットさんだった。もしかして、こちらを擁護してくれて……
「そのような選出は認められません! だいたい、男がクラス代表だなんていい恥晒しですわ! わたくしに、このセシリア・オルコットにそのような屈辱を味わえとおっしゃるのですか!?」
……いるわけではないよなぁ。
「実力から行けばわたくしがクラス代表になるのは必然。それを、物珍しいからという理由でこんな猿達にされては困ります! わたくしはサーカスをしたくてこのような島国まで来ているわけではありませんわ!」
アメリカ人の俺が言うのもあれだが、イギリスだって日本と同じく島国だろうに……。って言うか猿? 今、俺達の事を猿って言ったのか!?
「いいですか!? クラス代表は実力トップがなるべき、そしてそれはわたくしですわ!」
興奮冷めやらぬ──というか、ますますタービンの回転数が上がってきたオルコットさんはバルカン砲の如き勢いで言葉を荒げる。代表者にはなりたくないが、ここまで罵倒されるとさすがにクるものがあるな。ふぅ。落ち着け、俺。
「だいたい、文化としても後進的な国で過ごさなくてはいけない事自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛で──」
「イギリスだって大したお国自慢は無いだろ。世界一まずい料理で何年覇者だよ」
ツルッと一夏の口から滑り落ちた言葉に、オルコットさんの演説がピタリと止む。見ると、彼女は顔を真っ赤にして怒りを示していた。
「一夏、とうとう言っちまったか……」
「あっ、あっ、あなたねぇ! わたくしの祖国を侮辱しますの!?」
自分から先に言っておいて何を……、と俺も口を滑らしかけたが、そこはなんとか飲み込む。
「決闘ですわ!」
「おう、いいぜ。四の五の言うより分かりやすい」
もう後戻りはできないと悟った一夏は覚悟を決め、オルコットさんからの決闘の申し出を受けた。
「それと……」
オルコットさんがこちらに首を動かす。後ろに数人の女子が座っているが、彼女の両目が捉えているのは確かに俺だ。
「そこのあなた。あなたも参加者でしてよ」
「参加者って、決闘の、という事で合ってるか?」
「当然ですわ。確か……アメリカで、空軍と民間企業が協力して第2世代のISを製造したと聞きましたわね。それを男性操縦者に持たせた、という事も」
間違いない。【バスター・イーグル】と俺の事だ。その件は確かに公表されている。
「まあ、所詮は第2世代機。このわたくしと【ブルー・ティアーズ】の前では無力でしょうけど」
カチンッ
……ほう? 今、
──言ってくれるじゃないか。
「今、この場で織斑 一夏さん共々非礼を謝罪するならば、許してあげてもよくってよ?」
「……そうだな。謝っておこう」
「なっ!? ウィル! お前ここまで言われて悔しくないのかよ! それに、ウィルは何も謝るような事してないじゃないか!」
声を荒げる一夏を手で制してからゆっくりと席を立ち上がり、オルコットさんに向き直る。
「あら、賢い選択で──」
「君のその【ブルー・ティアーズ】とやらを
「……はい?」
予想外の返答が返って来たのか、オルコットさんはポカンと口を開けたまま固まった。
「千冬姉──織斑先生、ウィルはさっき何て言ったんですか?」
「ポルカドット、水玉模様だ。要するにホーキンスは、オルコットの専用機【ブルー・ティアーズ】を『穴だらけにしてやる』と言ったんだ」
「それってつまり……」
「ああ。ホーキンスも決闘を受ける気のようだな。……それと織斑」
「はい?」
「参考書の中身を覚えるついでにホーキンスから英語も少し習え」
「えっ?」
……全部聞こえてましたよ織斑先生。俺を教師にでもする気ですか? 給料を請求しますよ?
などと心の中で織斑先生に抗議していると、我に返ったオルコットさんが口元をヒクつかせながら口を開いた。
「ひ、皮肉を言ったつもりですの……!?」
「お
プチッ。何かが切れたような音がオルコットさんからした気がする。
「ふっ、ふふ、ふふふふふ……! そこまで言うのならいいでしょう。あなた達を
「だとよ、一夏?」
「望むところだ」
「言っておきますけど、わざと負けたりしたらわたくしの小間使い──いえ、奴隷にしますわよ」
「侮るなよ。真剣勝負に手を抜くほど腐っちゃいない。そうだろ? ウィル」
「当たり前だ。悪いが、奴隷にされて喜ぶような性癖は持ち合わせていないんでな」
「そう? 何にせよちょうど良いですわ。イギリス代表候補生のこのわたくし、セシリア・オルコットの実力を示すまたと無い機会ですわね!」
「話は纏まったな? それでは勝負は1週間後の月曜日。放課後、第3アリーナで行う。織斑、ホーキンス、オルコットの3名はそれぞれ用意しておくように。それでは授業を始める」
パンッと手を叩いて織斑先生が話を締める。
「(1週間か。まずは一夏に基礎を教えて……ああ、あとジョーンズ中尉を呼ばないとな。これが代表候補生との初対戦になるわけだし)」
机の上の教科書を開きながら、これからの計画を練り始めるのだった。
▽
「じゃあウィル、俺はこの部屋だから」
「おう。またあとでな、一夏」
放課後、遅くまで残って一夏の勉強の補佐を行った俺は疲れた体で寮の自室を目指す。
「(えーっと、1031室だったよな)」
それにしてもデカイ寮だ。廊下の内装も凝ってるし、これは室内も期待して良い感じだな。
「(1030……31。ここだな)」
鍵番号と部屋のプレートを交互に確認してから、ドアに鍵を差し込んで回す。
カチリ
「おっ、開いた開いた。さて、中はどうなってるかなーっと……おお……! これはまた……」
ドアをくぐった先は高級ホテルにも負けず劣らずの部屋だった。まず目に入ったのは2つ並んだベッド。触った感じ、材質はかなり良い物を使用しているようだ。それでいて子供がトランポリンにできそうなほど大きいし、スプリングも良い奴だな、これは。
「このベッドだけで幾らする事やら……ふぁ~……」
ベッドを見ていると無意識に大きなあくびが出てしまった。時計を見ると夕食時まではまだ時間がある。……少し仮眠でも取るか。
「(今日だけで色々あったなぁ……)」
一夏や箒と出会い、友人になり、多数の女子から視線の一斉射撃を喰らい、オルコットさんから決闘を申し込まれ……。
ベッドに倒れ込んだ俺の意識は徐々に
ズドン! ズドン!
「う、うわぁぁぁ!?」
「ッ!? な、何だ何だ!?」
瞼が閉じようとしたところで、突如した何か硬い物体が貫通したような音と男の悲鳴に俺はカッと目を見開き、文字通り跳ね起きた。音がしたのは一夏のいる1025室からだ。
何事かと思いながら大急ぎで一夏の自室へ向かう。
「……マジで何があったんだ……?」
まだ眠気の覚めきらない俺の前には、穴だらけになった自室のドアに願掛けする一夏とそれを囲む女子生徒達という、経緯不明で理解しがたい光景が広がっていた。
しかも、その女子生徒達は全員がラフなルームウェアで、かなり男の目を気にしない格好をしている。一部の子に至っては、長めのパーカーを着て下にはズボンもスカートも穿いておらず、下着がチラチラとのぞいていた。
「あ、ホーキンスくんだ。どうしたの?」
こちらに気付いた女子の1人が声を掛けてくる。そんな彼女も、下着を穿いて、その上からブラウスを羽織っているだけという非常に目のやり場に困る格好だ。
「い、いや、すごい音がしたから何事かと思ってね……」
まったく、なんつう格好をしてるんだ。て言うかブラウスの合間から肌色の胸元が見えて……ハッ!? い、いかん! こういう時は確か……そうだ! 煩悩退散、煩悩退散、煩悩退散、煩悩退散……!
「箒さん。いや、箒様。部屋に入れて下さい。お願いします。どうかこの通り」
俺は必死に煩悩を振り払う呪文を唱え続け、一夏は一夏でドアに願かけを続ける。
これが3分ほど続いた頃だろうか。ようやく落ち着きを取り戻し始めたと同時に部屋の中から剣道着を身に纏った姿の箒が出てきた。その格好は非常に様になっているが、心なしか大急ぎで服を着たあとのように見える。
「入れ」
「お、おう!」
入室許可を得た一夏は大急ぎで部屋へ入っていく。……一夏、同室者がいたんだな。しかも女子。まあ、頑張れよ。
「何がどうしてああなったかはよく分からんが、取り敢えず帰るか」
俺の場合は同室者がいない(荷物が無かった事を確認済み)ので気を遣ったりする必要もなく、思う存分のんびりできる。まだ時間はあるし、今度こそ一眠りを──
「ねえねえホーキンスくん! 夕食まで時間あるし、良かったらお話しない?」
──ん?
「ああ~! ずるーい! 私も私もー」
──んん?
「それじゃあ学食に行こうよ! あそこなら広いし!」
──んん!?
「あ、あの──」
「早速レッツゴー!」
「あ! あと1時間半ぐらいしか無いわ!」
「俺、少し仮眠を──」
「「「行こう! ホーキンスくん!」」」
女子達から一斉に繰り出される、キラキラした眼差し。
「……あぁ……あははは……。その……よろこんで……」
期待に満ちた眼差しの一斉射撃を受けてしまった俺はそのお誘いをキッパリ断る事ができず、乾いた笑み浮かべながら学食への道を踏み出した。
━おまけ━
「そう言えば、あの『おり×ホキ』とやらの正体を調べてなかったな。よし、ちと調べてみるか」
検索 ○○×○○
「おっ、出た出た。ふむ、特に変わった検索結果が出て来たりは……む? 何だこれ」
○○×○○ BL
「BL……何の略称なんだ?」
ポチッ
「(調べなきゃ良かった……!)」