インフィニット・ストラトス 蒼空に鮫は舞う   作:Su-57 アクーラ機

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 誤字報告、本当にありがとうございます。
 投稿前に必ず2度チェックしているのにミスが見つかるとはどういうことなんだ……。

ウィル「ということで、作者。何か弁明はあるか?」

「ま、待て! 離せば分かるっ!」

AWACS(エイワックス)マジックよりウォーバード1。JDAM(ジェイダム)の使用を許可する」

ウィル「ウォーバード1、了解。さて、お料理の時間だ」

「ヤメテーーーッ!」




60話 整備士泣かせの機体

「ふーむ……。どっちを取るべきか……」

 

「まだ悩んでいるのか?」

 

 4時限目を終えた昼休み。学食のメニューとにらめっこしながら唸る俺に、ラウラが声をかけてくる。

 

「いやな? このマグロユッケ丼とマグロ鉄火丼とで迷っててな?」

 

「大して変わらんだろう。どちらもマグロだ」

 

「いやいやいや! 全然違うぞ! 特製ダレと生卵が絶妙に絡んだマグロユッケのとろけるような食感は最高だ! だが、甘辛(あまがら)いタレを乗せた肉厚のマグロを白米と一緒に噛み締める鉄火丼も捨てがたい……!」

 

 呆れた様子のラウラに熱く語ってから、俺はまたメニュー表をにらむ。

 

「…………よし。今回は鉄火丼にしよう」

 

 散々悩んだ結果、俺は券売機で鉄火丼の食券を購入して、それから少しして出てきたメニューを手に取った。

 

「やっと決まったか」

 

「待たせて悪かったな。じゃあ席を探すとしようか」

 

「その必要はない。向こうの窓際に1つ空いているのを確認した」

 

「お、ホントだ。相変わらずラウラは目がいいなぁ」

 

「あの程度の距離ならば普通だ」

 

「そうかぁ? 俺はその視力が羨ましいよ。たぶん2.0(最高値)は余裕で超えてるぜ?」

 

 ちなみにいつも左目を眼帯で覆っているラウラだが、それで視力や視野が下がることはないらしい。

 以前に聞いたのだが、この眼帯は稼働状態のままカットできなくなった『ヴォーダン・オージェ』の機能を抑制(よくせい)するだけで、視界ごと(さえぎ)るようなものではないそうだ。

 

「じゃ、あの席が他の生徒に取られる前に行くか。今日は人も多いし、あれを逃すと立って食うことになりそうだ」

 

「どこかの誰かがメニュー表の前で百面相している間に席がことごとく埋まっていったのだがな」

 

 ジトーっとしたラウラの視線が痛いくらいに突き刺ささり、俺は(たま)らず目を()らしてしまう。

 

「ハハハ、ホントイッタイドコノ誰ダロナー」

 

「私の目の前に立っているが?」

 

「……すみません……」

 

 そんなやり取りをしながら、俺達は窓際のテーブル席へと向かった。

 ちなみにこの学食はかなり広い。なので、窓際席までは結構な距離があるのだが、同時に海に抜ける展望を楽しめる席でもあるので、気持ちのいい晴れの日は埋まっていることが多い。

 

「(今日もいい具合に晴れてるんだが、ツイてるな)」

 

 空いているテーブルに、俺とラウラは差し向かいで座る。

 

「「いただきます」」

 

 手を合わせて、それから昼食を食べ始める。

 マグロユッケ丼とかなり迷ったが、やはりこの鉄火丼も実に美味い。

 

「(考えてみれば、2つとも頼む手もあったな。腹減ってたんだし)」

 

 マグロの切り身と白米を頬張(ほおば)りながら、ふと、食い意地が張った子供のようなことを考えてしまう。

 まったく、ここの学食は誘惑が多すぎて困る。

 

「………♪」

 

 ラウラはというと、うどんの上に乗っかったかき揚げを(はし)で持ち上げてかぶりついている。パリパリッと小気味のいい音を立てながら、ラウラは満足そうな表情で拳大ほどのそれをかじっていた。

 

「ラウラはいつもそのままで食べるよな。たまにはつゆに漬けて食べてみたりとかしないのか?」

 

「考えたこともないな。なぜわざわざ揚げ物の食感を台無しにする必要がある?」

 

「おっと? 今のは全国のベチョ漬け過激派を敵に回すような台詞だから気をつけろよ?」

 

「ふん、そんなもの返り討ちにしてくれる」

 

 好戦的な笑みを浮かべながら、ラウラはまた一口かき揚げをかじる。

 

「そ、『そんなもの』呼ばわりだと……!? 恐れを知らん奴だな、お前さんは……」

 

 これはベチョ漬け派の皆さんにはとても聞かせられない言葉だな。サクサク・ベチョ漬け戦争勃発(ぼっぱつ)間違いなしだ。

 ちなみに俺もどちらかと言えばサクサクしている方が好みではあるが、結局は美味けりゃどっちでもいい派だ。

 

「では質問するが、ウィルは湿気(しけ)って味の薄れたフライドポテトを食べれるのか――」

 

「それはないありえない。湿気ったフライドポテトなんてフライドポテトじゃねえ。そんなもんフライドじゃなくて湿った(モイスト)ポテトだッ……!」

 

 サクサクだろうがベチョ漬けだろうが俺は基本中立の立場を取っているが……ただしモイストポテト、テメーはダメだ。

 

「だろう? 私にとってはそれと同義なのだ」

 

「成程。お前の言い分はよぉーく分かった。どうぞ好きな食い方で食べてくれ」

 

「さすが私の嫁はよく分かっている――!?」

 

 ピクッ。突然ラウラの言葉が、動きが一斉に止まる。

 

「お、おい、どうした……?」

 

 何事かと思って眉をひそめていると、ガタンッと険しい表情を浮かべてラウラが立ち上がった。

 

「……どこかに」

 

「うん?」

 

「どこかにかき揚げをベチョ漬け――いや、それをも超えた凶行(きょうこう)に及んでいる者がいる……!」

 

 …………。………。……。

 

「……へ?」

 

「ッ! そこか!」

 

 俺の脳内処理が完了するよりも先に、ラウラは走り去ってしまう。

 かき揚げをベチョ漬けしてる奴がいるとか何とか言って走って行ったが、あいつの頭にはレーダーでも付いているのだろうか?

 

「(って! こんな所で(ほう)けてる場合じゃねえ!)」

 

 慌てて(はし)を置き、早足でラウラのあとを追う。誰かに迷惑がかかる前にあのサクサク過激派ドイツ娘を止めなければ。

 

「追いついた。おいラウラ。ちょっと落ち着け、どうしたんだよ」

 

 やっとの思いでラウラに追いつくと、そこでは一夏と更識さんがテーブルに座ったまま目を丸くしていた。

 

「ん? おお、ウィルじゃねえか」

 

「よう一夏。それに更識さんも。いきなり邪魔して悪かったな。――ほら、帰るぞラウラ」

 

「邪魔をするな、ウィル。私はかき揚げをこんな無惨な姿に変えたこいつが許せんのだ」

 

「無惨って……」

 

 ラウラの視線の先にあるのは、更識さんのものであろうかき揚げうどんが。

 しかし、そのかき揚げはつゆの中に完全に沈みきっており、プクプクと気泡を浮かばせていた。ラウラが言う無惨な姿というのはこのことだろう。

 

「(ていうかこの2人、一緒に食事を取っているということは多少なり関係に進展があったのか)」

 

 よかったよかった、と喜びたいところではあるが、まずは目の前の問題を解決せんとな。

 

「別に他人がどんな食い方してようがいいだろ。一夏からも何か言ってやってくれ」

 

「そうだぞ、ラウラ。別にサクサク派でもベチョ漬け派でも――」

 

「……違う……これは、たっぷり全身浴派……」

 

 さっきまで無言だった更識さんが一夏の言葉を途中で(さえぎ)る。

 どうやらベチョ漬け派と一括(ひとくく)りにはされたくないらしく、その言葉には若干強めの語気を感じた。

 

「おぉう、新しい派閥だったか」

 

「サクサク過激派のラウラが見過ごすとは思えんな」

 

 そんな俺の予想は嬉しくないことに的中して、ラウラと更識さんとの間にバチバチと火花が飛び散る。

 

「ぜ、全身浴派だと……!? かき揚げへの冒涜(ぼうとく)を通り越して、もはや邪悪すら感じるぞ!」

 

 邪悪ってお前な……。

 

Geez(ったく……)……。ほら! サクサクこそ至高なのは分かったから、さっさと帰るぞって」

 

 これ以上2人の邪魔をし続けるわけにもいかず、俺はやや強行な手段に出ることにした。

 

「なっ……何をするか! 私はこいつに――」

 

「というわけで本当にすまなかったな、2人とも」

 

「お、おう。気にすんな」

 

「……………」

 

 一夏が苦笑いを浮かべながら、更識さんがコクリと静かにうなずいたのを確認して、俺はラウラを小脇にはさんだまま(きびす)を返す。

 振り返りざまに一夏に『グッドラック』とアイ・サインを送ると、小さくサムズアップが返ってきた。

 

「離せ! ウィル! ――ハッ!? ま、まさかお前もベチョ漬け派だったのか!?」

 

「いや、俺は中立だな。別にどう食ったって美味けりゃそれでいいだろ? 湿ったポテト以外は」

 

「くっ……! ええい! 離せと言っているだろう! 裏切り者ぉぉぉぉ!!」

 

「はいはい、そもそも俺はサクサク過激派に属した覚えはないからな~」

 

 食堂中の視線を痛いほど浴びながら、俺はラウラを抱えて自分の席へと戻るのだった。

 

 ▽

 

「さて……」

 

 放課後の第2整備室で俺は無人展開したIS【バスター・イーグル】の前に立っていた。

 専用機持ちだけのトーナメントということは、つまりそれだけレベルの高い試合になるということで、俺以外にも機体を調整している生徒は複数いた。

 

「ねえ、昨日録った機動データ、こっちに回してちょうだい」

 

「武装の軽量化をしたいのよね。今からでも間に合うかしら?」

 

「コラー! ハイパーセンサーの基準値ずれてるじゃない! 最後にいじったの誰ぇ!?」

 

「ここに120ミリ砲があるでしょ? コレをこうしてこうしてこうよ」

 

 わいのわいのと騒がしい。楽しげにやっているところもあれば、怒号が飛ぶグループもあるし、中にはヤバいことを言っている者もいる。しかし、みんながみんな真剣にISを整備していた。

 ちなみに俺のISを担当してくれる先輩は用事で少し遅れるらしく、今この場にはいない。

 

「(今のうちに、こっちでできるだけのことをしておこう)」

 

 ということで、早速メンテナンス用ハッチを開けて内部の自己診断装置を確認する。

 よし、機体各部に異常なし。あとの細かい調整は整備科に任せるとしよう。……それと、そろそろ消耗部品の替え時だな。

 

「よっと」

 

 プラスドライバーとチャフ・フレアが封入されたマガジンを手に機体の上へ登り、そのテールコーンに(また)がる。

 今は(ひざ)を着けて立たせているとはいえ、やはり元が4メートル近い機体の上にいると周りがよく見渡せた。

 

「……ん?」

 

 ふと、整備室の入り口に一夏と更識さんの姿を見つける。

 更識さんが他の専用機持ちとそのISを解説しているらしく、聞き手の一夏が「へー」「ふーん」などと相槌(あいづち)を打っていた。

 

「それで……奥にいるのが……」

 

「げっ……。セシリア……」

 

 セシリアの姿を見つけた一夏は、バツの悪い顔をして足を止める。

 そんな一夏の視線を感じたのかセシリアは振り向くが、すぐにプイッと全力でそっぽを向いてしまった。

 

「ふんっ!」

 

 と、こんな感じでペアを断られたラヴァーズ達から一夏は敵対視されている。

 

「(難しいところだよなぁ。理由をバカ正直に告げるわけにもいかないし、言ったところで納得するかも分からないし……)」

 

 ちなみに鈴は会うたびに一夏を()りまくっている。

 箒からは「浮気者め」と声に出さずとも分かるような目でにらまれ、シャルロットに至っては「なにかな、織斑くん」と言い出す始末だ。

 

「もう少し素直になれないもんかねぇ」

 

 やれやれ……とかぶりを振りながらマガジンを取り付けて、ドライバーで四角(よすみ)のネジを()める。よし、1つ目完了っと。

 

「最後に……あそこにいるのが……」

 

「おっ、ウィルも来てたのか」

 

「よう、お2人さん」

 

 やって来た一夏と更識さんに軽く手を上げて応える。

 

「その子が……【バスター・イーグル】……?」

 

「おう、こいつが俺の相棒だ。見ての通り今はメンテ中で少々不恰好(ぶかっこう)に見えるが、飛んでる時の姿は見違えるぞ」

 

 更識さんの問いにそう返したところで、そういえば、と俺は言葉を一度切った。

 

「まだ挨拶をしていなかったな。ウィリアム・ホーキンスだ」

 

「更識……(かんざし)。よろしく……」

 

「ああ、よろしく。2人はISの調整をしにここへ?」

 

「う、うん……。そんな、ところ……」

 

「そうか」

 

 一夏のやつ、なんとか更識さんと打ち解けることができたらしいな。残すは彼女の専用機を組むだけか。

 

「――あ、一夏。悪いがそこの台車からA‐2って書かれたマガジンを取ってくれ」

 

「おう、分かった。これだよな?」

 

「ああ、それだそれ。手、届くか?」

 

「いや……ちょっと無理だな。投げ渡してもいいか?」

 

「頼む」

 

「よし、いくぞ」

 

「っとと。サンクス」

 

 ズッシリと重量感のあるマガジンを受け取って、それを同じくA‐2と表記された四角い穴にガチャリと()し込む。

 

「ずいぶん重かったけど、それ中に何が入ってるんだ?」

 

「んー? アルミを吹き付けたガラス繊維(せんい)とマグネシウムがミッチリと。それが1マガジンにつき20発だ」

 

「へえ、道理で重かったわけだ」

 

 ちなみに【バスター・イーグル】は機体の上下に合計4マガジンのチャフ・フレアを取り付けることができる。

 合計80発と聞くと多く感じるが、戦闘時はこれを10発単位でバラ()いたりするので、これくらいがちょうど良いのだ。

 

「……そろそろ、始めないと……」

 

「お、そうだな。じゃあまたあとでな、ウィル」

 

「おーう。頑張れよ~」

 

 去って行く2人の背中を少しの間見送ってから、また視線を手元に戻す。

 

「さて、と……」

 

「わりぃ! 待たせた!」

 

 タタタッと足音がやってくる。……どうやら用事を済ませた整備科の先輩が来たようだ。

 

「モーガン先輩、用事はもう終わったんですか?」

 

「ああ。速攻で済ませてきた。――ったくよぉ、ウチの担任は細かすぎんだよなぁ。朝のSHRに10秒遅刻しただけで居残り掃除だぜ?」

 

「あはは……そんなことがあったんですね……」

 

 ガシガシと後頭部をかきながら愚痴をこぼす彼女は、アメリア・モーガン先輩。男勝りな性格と荒い口調が特徴の3年生だ。

 ちなみにモーガン先輩は俺がティンダル基地で世話になった整備員ボリスさんの1人娘で、『もし俺のウルトラ・キューティーな娘に手ぇ出したら回転中のタービンブレードに頭から突っ込んでやる』という大変ありがたいお言葉もいただいている。

 あの時のボリスさんの目は血走っててマジで怖かった。

 

「それで、まずはどこから手をつける? 機体システムの調整か? それとも内部パーツの交換か?」

 

「そうですね……。今日はシステムの調整と最適化をお願いします。パーツ交換は一度機体を大きく分解する必要があるので、それはまた明日に」

 

「オーライ。んじゃ、早速取りかかるとするか」

 

「了解です」

 

 それから俺達2人は機体の調整に時間も忘れてのめり込んだ。

 俺は半分マニュアルを参照しながらだったが、ISのシステムに精通したモーガン先輩からの適切なアドバイスもあったおかげで作業は圧倒的に楽だった。さすがは整備科。

 

「それにしても、機体調整というのはとにかく重労働ですね。……よっと」

 

 軽いメンテナンスならコンソールやメンテ用ハッチからのアクセスで楽に行えるが、微妙な出力調整や特性制御を行う場合は、機体の装甲ごと開いて直接パーツをいじる必要がある。

 マシンアームを使用しているとはいえ、この装甲を開く作業というのがかなりキツい。

 

「お前のISは全身装甲型だからな。おまけにこの図体(ずうたい)ともくれば、そりゃあ必然的に装甲はデカく、パーツ数も増えてくるわ」

 

 この全身装甲には何度も助けられたが、こういう時ばかりはそれがかえって億劫(おっくう)に思えてしまう。

 

「……おい。言っておくが、面倒くせぇからってISの自己進化と最適化に甘えるんじゃねえぞ?」

 

 う゛っ!? や、ヤバい。ちょっとだけそっちの方に思考が傾きかけていただけにモーガン先輩の言葉が痛い。

 

「……もちろんです」

 

「本当だろうなぁ?」

 

 ジーっと、ボリスさん譲りの鋭い目でにらんでくるモーガン先輩。

 おまけにメンチを切るかのように顔を寄せてくるものだから、俺はカクカクと必死にうなずくしかなかった。

 

「は、はいっ! 肝に(めい)じます!」

 

「よぅし、分かってるならいい」

 

 モーガン先輩はそう言ってニヤリと笑いながら、俺から顔を離す。

 

「それじゃ、今日はここまでだな。明日は機体のパーツ交換と試運転だ」

 

「わ、分かりました。明日もよろしくお願いします」

 

「おう。任された」

 

 ……うん、あの人は間違いなくボリスさんの娘だな、と。モーガン先輩の背中を見つめながら、俺はそう思うのだった。

 

 ▽

 

 翌日、放課後の第2整備室。

 

「こ、こいつはさすがに想像外だぜオイ……」

 

 引きつった顔で呟くモーガン先輩。

 そんな彼女の前には、メンテナンスのため機体中の装甲やハッチを開放された姿の【バスター・イーグル】が(たたず)んでいる。

 

「アクチュエーターはエラく損耗(そんもう)してるし、エンジンも妙に()げ臭ぇ……。いったいどれだけイカれた飛び方すりゃあこうなるんだ……?」

 

 今日も張り切ってISの整備に取りかかろうと機体を覗いた瞬間、こうしてモーガン先輩は凍りついてしまったのだった。

 

「(これはさすがに怒られるかなぁ。……怒られるよなぁ……)」

 

 機体を酷使してきた自覚があるだけに、俺は小言の2つ3つは飛んでくるだろうと覚悟する。

 だがしかし――

 

「これが親父が言ってた『整備士泣かせの機体』か。おもしれぇ……」

 

 俺の予想に反して、先輩はニヤリと口角を吊り上げて【バスター・イーグル】を見据えていた。

 

「上等だ! やるからには徹底的にやってやる! 取り敢えずニーナと佳奈子(かなこ)に応援頼むから待ってろ」

 

 言うなりモーガン先輩は携帯電話を取り出し、チームの召集を始める。

 そのエサは何かと言うと――

 

「そうそう学食の期間限定スイーツ。あれをホーキンスが好きなだけ(おご)るとさ」

 

 え、待って? そんなこと一言も言ってないんだけど。しかしまあ、スイーツで相棒(バスター・イーグル)の重整備を手伝ってもらえるなら安いものか。

 

《え!? ホントにいいの!?》

 

 電話の向こうからそんな声が聞こえる。恐らくこの人が『ニーナ』先輩なんだろう。

 

「あー、はい。それでよければ……」

 

《よっしゃあああ! 燃えてきたわよ! ああ、でも食べ過ぎたら体重が……》

 

 いったいどれだけ食べるつもりなんだ……。取り敢えず財布には多めに入れておこう。

 

「んで、佳奈子は?」

 

《そうねぇ……私はなんでもいいわ。彼のISにちょっと興味あったし》

 

「よっしっ! 決まりだな! じゃあ今すぐ第2に集合! 遅れた奴はジュース奢りだ!」

 

 そう言って電話を切るモーガン先輩。しかし、第2整備室にはすでに俺とモーガン先輩が集まっているので、事実上ニーナ先輩と佳奈子先輩のワン・オン・ワンである。

 

「じゃっ、一丁やるか!」

 

 ニヤリと笑みを浮かべるモーガン先輩。このあと、俺は整備科の厳しさを嫌というほど味わうことになった。

 

「ホーキンスェ! 特大レンチはまだかぁ!?」

 

「あと、そっちのケーブル持ってきて! 全部ね!」

 

「あ、ついでに小型発電機も借りて来てくれるかしら? それと液晶ディスプレイもよろしく」

 

「は、はいただいまぁぁっ!」

 

 とにもかくにも俺は走り回っていた。

【バスター・イーグル】から巨大な主翼とエンジンを取り外し、さらに細かい部品へと変えていく。

 まだ寿命を迎えていない部品もついでに新品と取り替えたため、実質機体のオーバーホールのようなものだった。

 

「……………」

 

 (なか)ば解体状態で(たたず)む愛機に視線をやる。

 これからも過激な機動を繰り返して、そのたびに部品交換やら何やらをすることになるだろう。けれども、俺はこいつに「すまない」とは言わない。俺もこいつも、今までずっと(・・・・・・)そうやって飛び続けてきたのだ。

 だから……。

 

「(これからもよろしく頼むぜ、相棒)」

 

「おいゴラァ! 何ボサッとしてやがる! ケツを蹴り上げられたいか!?」

 

「ホーキンスくん! こっちに空気圧洗浄機! はいダッシュ!」

 

「ついでに超音波診断装置もお願いね」

 

 先輩達からの注文を受けて、またしても超絶ハードなシャトルラン with 重量物が始まる。

 とにかく俺は汗だくになりながら、全力で機材を運びまくった。

 

「ホーキンス! ジュース! 買ってこい!」

 

「ホーキンスくん、そこのお菓子取って!」

 

「悪いんだけど、髪留めつけ直してくれる?」

 

 ……おい、なんか少しずつ関係のない雑務までやらされていないか……?

 

「あ、ヤベッ。今日中に提出する課題があるんだった。ホーキンス、代わりに出してこい」

 

「ホーキンスくん。今日の夕食の日替わり定食、見てきて」

 

「そういえばシャンプーが切れてたわね。購買で買ってきてくれる? ベルガモットの匂いのやつ」

 

「ちょぉぉっと待ったぁぁっ!! もうISと関係ないでしょ! それもこれもあれも!」

 

「チッ、賢い野郎だぜ」

 

「あ、引っかからなかった」

 

「うふふ、ちょっとした冗談よ」

 

 つ、疲れる……。

 肉体的にもそうだが、精神的にもドッと疲れが押し寄せてきた。

 

「はぁぁぁ……」

 

 深く、深く、溜め息を漏らす。酸欠になってしまわないか心配になるくらいに。

 取り敢えず機体は組み直したし、あとは各システムの最終チェックと試運転のみ。時間にして30分もあれば終わるだろう。

 (あらかじ)めISスーツに着替えていた俺は、3人の先輩に見守られる中【バスター・イーグル】に乗り込むのだった。

 

 

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