インフィニット・ストラトス 蒼空に鮫は舞う 作:Su-57 アクーラ機
「(まったく、とんだ貧乏くじを引いた気分だ)」
IS学園を目指して
「(なんの任務かと思えば、こいつらと学園へ向かえとは……)」
一度レーダーから視線を外し、軽く周囲を見やれば、左後方には同じくターミネーターを
「(いったい何を考えてるんだ? あの
男は件の人物の顔を思い浮かべて、それから「ケッ」と小さく悪態をつく。
その任務というのは、今回の【ゴーレムⅢ】投入に合わせて『ウィリアム・ホーキンスを優先して攻撃せよ』というものだった。
「1番機より2番機へ、もう間も無くIS学園上空だ。敵との
《了解。……はぁ~、かったりぃ仕事だぜ。なぁ?》
「まったくだ」
もちろん任務に不服はあるし、文句などいくらでも出てくるが、しかしウィリアム個人を名指ししていることがどうにも不可解だ。
「(まあ、あのイカれ野郎の考えることなんか知らないし、知りたくもないがな)」
大方、何かしらで
「(一応、増援を待機させているらしいが、こっちは4機もいるんだ。相手がISとはいえ、数で
と思ったその時だった。
「……ん?」
ほんの一瞬、レーダーに小さな
鳥……にしてはあまりに速すぎる。――しまった、やられた!!
「2番機! 上空に敵機――!?」
異常事態に気付いていない様子の同僚に注意を促そうとするが、しかし対応が一足遅かった。
ガガガガガガガンッ! ……ボンッ!
真上からの30ミリ弾に打たれた2番機が火を噴きながら高度を落としていく。
あまりにも唐突に、そして呆気なく味方機が食われた。
「ちくしょう! ステルス機か!」
《や、やられた!? コントロールが利かない! 脱出する!》
撃墜されたターミネーターのパーツが爆発ボルトで
「(今の攻撃、かなり
直後、彼の眼前を独特なシルエットの機体が高速で通り抜けて行った。
その突然の襲撃者は8枚もの羽を持ち、全身をマットグレーの制空迷彩で包んでいる。明らかに空戦に特化した姿だ。
そして、何よりも存在感を放っているのが――
「シャークマウス……!」
間違いない、奴だ。
ギラリと陽光を照り返すそのノーズアートに言い知れぬ悪寒を覚えて、彼は背筋をゾワリと
▽
「なんだこいつは!?」
天井をぶち抜いて現れた【ゴーレムⅢ】は、その勢いをさらに加速させてラウラに襲いかかった。
巨大な左腕がラウラの頭を掴む。ガッシリと固定された指には次第に力が込められいく。メキメキと悲鳴を上げる頭部ハイパーセンサー。そしてうるさいくらいの警告表示。
「くっ……!」
ラウラは状況が掴めないなりにも、とにかく拘束から逃れようと左腕のプラズマ手刀を展開した。
「(腕ごと断ち切ってくれる!)」
そう思うと同時の高速斬り上げだったが、それは【ゴーレムⅢ】の右腕ブレードに阻止される。
「なにっ!?」
――まずい!
そう思った瞬間、しかし頼もしい友人の声が聞こえた。
「ラウラ!」
シャルロットだった。その左腕部シールドから69口径パイルバンカー『
「このぉっ!!」
ドズンッ!!
激しい音を立てて、【ゴーレムⅢ】の左腕がラウラから離れる。
しかし、手が離れる瞬間、その
「(まずい、この距離では……!)」
「伏せて!」
ラウラと【ゴーレムⅢ】の間に体を滑り込ませたシャルロットは得意の
「くぅっ……」
強固な【リヴァイヴ】の物理シールド、それが3枚重ねですら防ぎきれなかった。わずかに貫通した熱線は、シャルロットの腕を焼いた。
「しゃ、シャルロット!」
「だ、大丈夫……ちょっと、シールドエネルギーを削られただけ」
「……許さん。私の仲間を傷付けた罪は重いぞ!」
バッと左目の眼帯をむしり捨てる。反射速度を数倍に跳ね上げる補助ハイパーセンサー『ヴォーダン・オージェ』は、その金色の輝きを放つと同時に、AICをフルパワーで【ゴーレムⅢ】に撃ち込んだ。
『―――――』
ビシリと凍り付いたように動きが止まる。
「砕け散れ!!」
大口径リボルバーカノンの高速連射。轟音と爆音とが、まるで1つのメロディーのように重なり合って鳴り響く。
「うおおおおおっ!」
「ラウラ、ダメ! 下がって!」
「っ!!」
シャルロットの叫び声に、ラウラは反射的に【ゴーレムⅢ】から距離を取る。
次の瞬間、AICに拘束されていたはずの【ゴーレムⅢ】が、それを振り切って一気に肉薄してきた。
「
並大抵のものではない。
――が、『ヴォーダン・オージェ』によって反応速度が向上したラウラは、その攻撃を正確に捉えて反撃の姿勢を取る。
「ナメるなよッ……!!」
振り下ろされたブレードを、ラウラはサマーソルト・キックで
▽
「まずは1機!」
撃墜したターミネーターから脱出するパイロットを尻目に、俺は右ロールで機体を傾けながらピッチアップ操作を行う。動翼と
「よし、次!」
『――!?』
奇襲攻撃に慌てた編隊が一斉に散らばる。
どうやら、今回は有人機2機と無人機2機の編成だったらしい。
無人機は以前にも戦ったことのある、あの
反対に有人機の方は初めて見る機種だった。機体サイズは【バスター・イーグル】と同サイズで、機体色はタンカラーとダークアースの2色迷彩。後退角のついた大きめの主翼と小さな
「(こいつらが連中の主力ターミネーターか?)」
見たところ何か特殊な機体のようには見えないが、注意するに越したことはない。それに、相手が何であろうと撃ち墜とすまでだ。
「さあ、かかってこい。全部スクラップにしてやる」
次の瞬間、ハイパーセンサーが敵機の急接近を警告してくる。
フラップジャックの1機が攻撃を仕掛けてきた。そいつは近接ブレードに切り換えた右腕を振り上げて襲いかかってくる。
「前と同じ手が通用するか!」
素早く左
ギチギチギチッ……と刃同士がつばぜり合い、激しく火花が飛び散る。
『――左腕部ブレードを起動』
右腕がダメなら左腕で、とばかりにもう片方の腕をブレードに変形させるフラップジャック。
「させると思うか?」
さらなる斬撃を繰り出される前に頭部に機銃射撃を浴びせると、コンピューターを破壊されて制御を失った機体が真っ逆さまに落ちていった。2機目も撃墜。
しかし、休む間もなく今度はロックオン・アラートがけたたましく鳴り響く。
リーダーの有人機と無人機の片割れが
「チッ……」
――警告! 後方に敵機2機! 追尾されています!――
「チャフ・フレア放出!」
妨害用のチャフ・フレアを惜しみ無くバラまきながら、エンジン出力を全開にして後ろの敵機を引き
ヴオオォォォォン!!
……じれったくなってきたようだな。相手が
「それじゃあ、ここらでチキンレースといこうか……!」
ガクンッと、俺は機体を急激に降下させてダイブ・マニューバをかける。
頭が真下を向き、高度がすさまじい勢いで失われていくが、それに反比例するように速度は増していく。
「(もう少し、もっと速く……!)」
雲を突き抜け、眼前には海が広がり、そして海面の波が見えるほどまで近づいたその瞬間、一気にピッチアップを行った。
「くっ、ぐうぅぅぅぅッ……!」
すさまじいプラスGを身体に受けながら、これまでに
後ろのターミネーター2機があとを追いかけてくるが、海面への衝突を恐れて速度を落としていた機体では到底追いつけるはずもなかった。
「その程度の度胸じゃまだまだだな」
マッハ2を超える速度で上昇を続け、敵機の頭上を取ると同時にエアブレーキを作動させる。
当然、【バスター・イーグル】はたちまち失速を始めるが、俺は勢いをそのままに背面方向へ180度ターンして2機のターミネーターと向かい合った。
互いが鼻先を向け合った状態、ヘッドオンだ。
「墜ちろ!」
敵機と衝突してしまわないよう機体をバレルロールさせながら、無人機には『スカイバスター』を、有人機には『ブッシュマスター』をそれぞれ叩き込む。
ズドォォン!!
目の前で黒煙が2つ上がった。
「おやすみ」
パァンッ! と音を立てて有人機の胸部パーツが弾け飛び、直後にパラシュートが開かれた。パイロットが脱出したようだ。
「ふぅ……」
風に
索敵レーダーに反応なし。ひとまず事前情報にあった敵機は全て撃墜したようだが……。
「…………」
しかし、俺は今になって妙な違和感を覚え始めていた。
「(おかしい。なんなんだ、この感覚は……?)」
思い返してみれば、戦いがあっさりしすぎていたように感じる。
まるでさっきの連中は前座だ、とでも言うかのように。……まるで
キギャアァァァァ……
突然、頭上から金属を
いや、それは音というよりかは『
「!?」
音のした方向へ顔を向けるよりも先に、俺は反射的に【バスター・イーグル】の
身体にかかる強烈なGで一瞬息が詰まりそうになるが、そうでもしなければ確実に死ぬと、本能が告げているのだ。
直後、さっきまで俺がいた場所を熱線――いや、レーザーが通過した。
「あっつっ……!?」
ジュゥゥ……っと、かすめた右脚の装甲が溶けて、生身に焼けるような痛みが走る。――待て。今ISの絶対防御が機能しなかったぞ!?
「(まさか……!?)」
すぐにISのステータス・ウィンドウを開く。
――現在、広範囲にシールドバリアーを阻害するジャミングが発生中――
「(ちくしょう、そういうことか!)」
ISアーマは、そのどれもが強固な装甲によって構成されている。
だがしかし、操縦者が生身なら……殺すことに苦労はしない。
「(この機能を作った奴は相当
そして、その姿を見るや、俺は息をするのも忘れて『そいつ』に
「な……!?」
それは、航空機としてはあまりに
「(バカな……!?)」
血のように赤く染まった機体。
巨大な
前進型の主翼にカナード、それと内側に傾斜した形の垂直尾翼。そいつには水平尾翼がなく、代わりに腹部から下側に向けて細長い翼がもう1枚伸びた独特のデザインをしていた。
「(なぜ、お前がここにいる……!)」
忘れようのない記憶。
額からは冷や汗が
『キギャアァァァァ!!』
その深紅の機体は、複眼センサーで俺を真っ直ぐに捉えて突っ込んで来る。
「――ファルケンッ……!!」
次の瞬間、
▽
「はぁ、はぁ……」
「敵機の沈黙を確認……。シャルロット、無事か?」
「う、うん。大丈夫」
そう答えるシャルロットだったが、専用機【ラファール・リヴァイヴ】には決して軽くない損傷が目立ち、彼女自身の腕にもわずかな火傷が見られた。
「シャルロット、少し腕を出してみろ」
言いながらISの拡張領域から応急処置キットを取り出すラウラ。
「え? そ、そこまでしなくてもいいよ。あとで医務室に行って診てもらえば……」
「女は肌も大事にしろ、という話を以前耳にした。簡単なものしかできんが、怪我の処置を後回しにするのはやめておけ」
そうラウラに言われたらシャルロットも返す言葉がない。
それじゃあ、お願いしようかな。と差し出した腕にラウラは手際よく
「よし、これでいいだろう。火傷はすぐに冷やすことが重要だ。シートは剥がさんようにな」
「うん、分かった。だいぶ楽になったよ。ありがとう、ラウラ」
「こ、このくらい礼を言われるほどではない。当然のことをしただけだ」
ニコッ、と笑みを浮かべるシャルロットを前に気恥ずかしくなってきたのか、ラウラは顔を
面と向かって礼を言われることに未だ慣れていないらしく、その
――ィィインッ! ――ギュォンッ!
「「!?」」
いきなり現れた2つの機影が鋭いジェットの轟音と共に上空を通過して、そのまま急上昇していく。
続いてブオォォンと、スズメバチの羽音のようにも聞こえる重たい音が響いた。……機銃の発砲音だ。
「あっ……!」
舞うように蒼空を飛ぶ2つの機影。1つはウィリアムと【バスター・イーグル】のもので、もう1つは見たこともない機体だ。
そして、ラウラは見た。敵機に背後を取られ、危機に陥ったウィリアムの姿を。
「スマン、シャルロット。少し行ってくる」
「待って、ラウラ! 1人で行ったら危険だよ! 僕も一緒に――」
「先の戦闘でシールドエネルギーが底を尽きかけているだろう? シャルロットは休んでいてくれ」
そうシャルロットに告げて、【シュヴァルツェア・レーゲン】のスラスターに火を
こうなったラウラは、早速誰にも止めることはできないだろう。
「……分かった。じゃあ一言だけ。――絶対に2人
「ああ。元よりそのつもりだ」
力強くうなずいてから、ラウラは先ほど【ゴーレムⅢ】が開けた穴をくぐり抜けて急上昇して行った。
▽
「くっ、このぉぉ……!」
エンジン出力を一気に
一瞬だけ身体が圧迫されるような感覚がして、俺と【バスター・イーグル】はコブラ機動によって急減速した。
「(よし、背後を取り返した!)」
敵機――ファルケンのオーバーシュートを見計らい、俺は機体姿勢を水平に戻して、またエンジン出力を上げる。
「(今度こそ……!)」
熱源誘導ミサイルの
「(まだ……まだ……今だ!)」
激しい回避機動を繰り返すファルケンの動きに合わせてタイミングを見計らい、ミサイルを撃ち込む。
当たる! そう確信した俺だったが、しかし、考えが甘かった。
「は……!?」
ファルケンは突然コブラ機動を始めたかと思うと、次の瞬間、
「
ミサイルが命中する寸前での
「なんて動きだ……!」
ファルケンはその奇怪な機動を維持したまま速度を減退させて、また俺の後ろに張り付いてくる。
今のでもう3度目の攻撃失敗だ。その事実が俺の焦りを加速させた。
ダメだ。こいつは何をしても反応して確実に対応してくる。まるで
「(クソッ、つくづく気色の悪い奴だな!)」
飛んでくる機銃弾をかわしながら、内心で悪態をつく。
しかし、その気色悪さは何も敵機の奇抜な動きに対するものだけではなかった。
「(本当に気持ち悪いくらい似てやがる……!)」
敵機の武装から特徴的な機体形状、果ては
……まさか、またコイツと戦うことになるとは。まるで幽霊でも相手にしているかのような気分だ。
『キギャアァァァァ!!』
ファルケンのくちばしが縦にスライドして開く。またTLSを撃つ気か!
TLS――戦術レーザー兵器システムとは、メガワット級の化学レーザーを敵機に指向するレーザー攻撃兵器だ。そんなものが直撃しようものなら、機体に穴が開く程度では済まない。
「(マズイ……!)」
光がTLSの砲口内に収束していく。次の瞬間だった。
『!?』
ファルケンは発射態勢に移行していたレーザーの照射を打ち切り、いきなり右に
直後に奴を狙って1発の砲弾が飛来した。今の砲撃……レールカノンか!
「ラウラ!?」
「間に合ったか!」
ISの回線を通してラウラの声が響く。
俺はラウラが無事であったことと、この場に駆けつけて来てくれたことについ嬉しくなってしまうが、慌てて思考を引き戻した。
「ラウラ、来るな! コイツに狙われる前に早く離れろ! コイツは……」
ただのターミネーターじゃない。そう告げようとしたところで、ファルケンの機銃射撃が言葉を
「うおぉっ!?」
30ミリの機銃弾が数発機体をかすめた。ちくしょう、空気読めよ!
「ウィル!」
ファルケンを追い払おうとレールカノンを連続で放つラウラ。
高い機動力によって弾は当たらなかったものの、敵は
「助かった! もう大丈夫だから、今のうちに早く行け! あの機体はそこらのターミネーターとはワケが違うぞ!」
「ならば、なおさらお前を放って置くわけにはいかんな! 嫁を見捨てて逃げ帰るなど、夫の
「まったく頑固な奴だな……!」
「私の性格はお前もよく知っているだろう?」
フッ、と不敵な笑みを浮かべてラウラは軽口を叩く。……ああ、お前さんの性格はよーく分かってるつもりさ。
「はぁ、分かった。援護を頼めるか?」
「任せておけ。爪の先であろうともお前には触れさせん」
「そいつは心強い限りだ」
俺は胸中に
ヘッドオンの状態で機関砲を撃ち合い続けること数秒、先に
『―――――』
ファルケンは機体を降下させて俺の腹の下をくぐり抜けて行く。また後ろを取ってくる気か!
その予想は的中で、
「……ラウラ、任せた」
「了解した」
機体を直角90度に傾ける。そこに開いたわずかな隙間を狙ってレールカノンが火を吹いた。
バキャンッ! とけたたましい音を立ててファルケンの機銃が左腕ごと吹き飛ぶ。
だが、痛みや恐怖を感じない無人機にとっては武装が1つやられた程度の認識でしかなく、ファルケンはすぐさま狙いをラウラに変えてブレードに変形させた右腕を振るった。
「ラウラ、
「!!」
ファルケンのブレードが当たる直前、ラウラのワイヤーブレードが俺の脚に巻き付き、俺は推力を全開にする。
すると、【バスター・イーグル】は軽々と【シュヴァルツェア・レーゲン】を引っ張り上げてみせた。
「まだだ! 仕掛けて来るぞ!」
『キギャアァァァァ!!』
ラウラの言葉通り、ファルケンは開いた口からTLSの砲口を覗かせる。
「ビーム兵器か……!?」
「いや、正確には化学レーザー兵器だ。奴の胴体にはメガワット級の電力をチャージできる機関が備わっている」
「……なぜそんなに詳し――」
「しっかり掴まってろ! 舌
ラウラが何かを言おうとしていたようだが、呑気に会話をしている
俺はラウラを抱いたまま連続バレルロールでTLSの砲撃を回避する。
頭上を鮮やかなピンク色のレーザーが通過して行くが、もし生身で触れれば『熱い』程度では済まされない。
「くぅ……! ははっ、レーザー脱毛にしては少しばかり威力が高すぎるな……!」
強烈なGと殺人レーザーの
とは言うものの、このままではジリ
それはきっとラウラも同じで、ファルケンとは別に現れた無人機と戦ってすでに消耗しているはずだ。
「(そろそろ決着をつけないと共倒れは必至か)」
……ファルケンからのレーザー砲撃が止む。チャンスだ。
TLSは高い威力の代償として、次発までのクールタイムが長い。やるなら今だ。
俺はエアブレーキを作動させながらの
「よし。ラウラ、離すぞ」
「ああ。助かった」
ラウラを抱いていた手を離しながら、俺は右ウェポンベイに格納したレールガン『メナサー』を起動した。
――『メナサー』起動。スーパーキャパシタへの充電を開始します――
ファルケンとの戦いで分かったことがある。あの機体がもし『前世のアイツ』とほぼ同じだとすれば、攻撃力と機動力は高くても安定性で苦労しているはずだ。
なにせ【バスター・イーグル】よりデカイ
おまけに主翼は前進型ときた。この形状の翼は格闘性能に優れる反面、安定性が悪い。その弱点を突くことさえできれば……。
「ラウラ、カウント3で敵機の右側を狙って撃ってくれ」
「右を? 何か策があるのか?」
「ああ。あの機体は安定性があまりよろしくなくてな。だから、回避機動を
「成程。よし、やってみよう。合図はお前に任せる」
「いくぞ。――1」
ファルケンが機体をUターンさせて俺と向かい合う、と同時にミサイル・ロックを仕掛けてくる。
真正面から放たれたミサイルを、俺は残り少ないチャフ・フレアを全てバラまいて回避する。
「――2」
――発砲可能な電圧に到達しました。過電圧に注意してください――
レールガンのレティクルをファルケンの中心――よりも俺から見てやや右下にズラして合わせる。
「――3! 今だ!」
「
『!?!?』
レールカノンの砲撃を機首上面のセンサー・アイで捉えたファルケンが慌てたように機体を右に傾ける。
そして、わずかな気流の乱れにバランスを崩したその瞬間、俺は発射スイッチをカチリと押し込んだ。
ズガオォンッ!!
マッハ7の砲弾はひたすらまっすぐに飛んで行き、グシャリ! とファルケンの右エンジンを尾翼ごと吹き飛ばす。
突然の推力損失と機体損傷を受けて、ファルケンはきりもみを起こしながらIS学園の第1グラウンドへと落下して行った。
……盛大な置き土産を残して。
「しまった――!?」
きりもみ落下をしながらも、ファルケンはその大口を開いてメガワット級レーザーを
それが【バスター・イーグル】の左の主翼と垂直尾翼に命中して溶解させた。
「マズイマズイマズイマズイッ!?」
「ウィル!?」
先ほど墜ちていったファルケンと同じく、俺もきりもみしながら高度を落としていく。
その横を並走しながら追いかけてくるラウラから伸ばされた手を
「何をしている! 早く掴め!」
「分かってる! 分かってる!」
――警告! 地表急速接近! ただちに上昇してください!――
「ウィル! もう地表までそう遠くはないぞ!」
「掴ん……だぁ!」
ガシッ。ようやっとのことでラウラの手に掴まった俺は、そのまま肩を貸してもらうような姿勢でゆっくりと地表に降り立った。
「ふぅ~、助かったぁ……。一時はどうなることかと思ったぜ……」
「ああ、まったくだ。さすがに生きた心地がしなかったぞ」
「はははっ。お前さんにはデカイ借りができちまったな」
「ふふん、では高級パフェの
「おう。いいぜ、なんでも好きなものを――」
笑いながら、そんな会話をしていたその時だった。
『ぎ、ぎ、ギャアアァァァ!!』
金属音のような
「「!?」」
音のした方へ視線をやると、変わり果てた姿のファルケンが残り1発のエンジンにアフターバーナーを
「(……ダメだ……!)」
かつての記憶がまたフラッシュバックする。深紅の怪鳥に大切な家族を一瞬にして奪われた、あの記憶が。
それがラウラの姿と重なり合った瞬間、俺は無意識に彼女の身体を押し
「(俺は、もう2度と……!)」
左
たった2~3秒の出来事が、俺には異様なほどスローモーに見えていた。
「(2度と大切な人を……!)」
受け止めたブレードを弾き飛ばす。
しかし、その刹那、俺はファルケンのくちばしがニヤリと
バキンッ、ドスッ!
『何か』がISの装甲を
俺はその『何か』を確かめようと視線をゆっくり下に
「(ふ、副腕、だと……?)」
ファルケンから伸びる
ちくしょう、ドジ踏んだ……。そりゃあそうだ。バケモノの腕が2本だけだとは限らないよな……。
「くっ、ぐ、うぅ……!」
なんとか『ブッシュマスター』を叩き込んでやろうとするが、それよりも早くさらなる追撃として、ほぼゼロ距離でミサイルを撃ち込まれる。
そして、俺の意識は暗闇の中へと落ちて行くのだった。
▽
ファルケンに腹部を
「あ……。ウィ、ル……?」
それが自分を
「ウィル! ……ウィル!!」
ISの操縦者保護機能がすでに止血処置を始めているとはいえ、すでにかなりの量の血が地面に広がっている。
ラウラは自分の手にベッタリと生暖かい血がつくのも
「ウィル……! なぜこんなことを……!!」
ボロボロと、溢れ出した涙は止まらない。
軍人として鍛えられたラウラでも、大切な人の無惨な姿を見て平静でいられるほど心は強くなかった。
『キギャアァァァァ!!』
背後でファルケンが空に向かって
「っ……」
それがまるでウィリアムを
だんだんと込み上がってきた怒りは、やがてドス黒い感情へと変化していった。
「……してやる……!」
ラウラはウィリアムの体をそっと地面に寝かせると、ユラリと立ち上がる。
――こいつだけは絶対に許さん。私の手でズタズタに引き裂いてやる。
「
両腕のプラズマ手刀が、ヴンッと音を立てて展開される。
ギロリ、と顔を振り向かせたラウラの
「ああああああああッ!!!」
激情に身を焼かれたラウラは、
▽
「――面白い冗談だろ?」
「ええ。確かに笑えますね」
古い記憶だ。これは……あぁ、そうだ。俺がウォーバード隊に入ったばかりの時、食堂での……。
「お前には教養がある。ご両親は戦わせるために産み育てたんじゃない」
「誰の親もそうですよ」
「ふっ、確かにな」
男――隊長は手に持っていたタバコを口に咥えて肺いっぱいに煙を取り込み、また吐き出す。
「さて、ここは腹を割って話そうじゃねえか」
「そうですね」
当時の俺は、毎回こうして絡んでくる隊長を少し
「知っての通り、ここは危険な最前線だ。寝床に就いても、不安ですぐに目が覚めちまう」
「……………」
「俺かてただの人間だ。いつも口うるさいあの上官もな。本当に恐れを知らないのは命を落とした者だけ」
タバコを灰皿に押し付けて、隊長は真剣な表情で言葉を続ける。
「任務のために命を
そうだ。俺はこのあとの言葉をよく覚えている。その言葉は……。
「だから、【生き延びろ。生き延びて、そして周りの奴らも守るんだ。――お前にはそれだけの力があるはずだ】」
その言葉を噛み締めるように
そうだ。俺はこんなところで死ぬわけにはいかない。もう2度と大切な人を失わないためにも……!
……
………
…………
「うっ……」
ボヤける視界の中、貧血にフラつきながら立ち上がる。……ちくしょう、血を流しすぎたか。
脚に力を入れて踏ん張ると同時に走る腹部への鋭い痛みが、俺の意識を強引にクリアーへと導いた。
「ぐっ!? ……あ、あのクソ無人機めっ、タチの悪さは一級品だな……!」
悪態をつきながらISのステータス・ウィンドウを開くと、機体の情報が次々視界に飛び込んでくる。
だいぶ派手にやられてるな。武器システムの一部が
「そら、相棒。お前の根性見せてみろ……!!」
その言葉に呼応するがごとくジェットエンジンから
▽
「貴様はっ! 貴様だけはぁぁぁ!!」
目にも止まらぬプラズマ手刀の高速連撃。それをファルケンは右腕と副腕のブレードで受けて、弾いてと、無人機特有の反応速度で対応する。
「はぁ、はぁ、これでぇぇぇぇ!!」
敵機を一刀両断してやろうと、腕を大きく振りかぶるラウラ。
しかし、それをファルケンが黙って見逃すはずがない。
『ギィィイ!!』
隠されていた残る4本目の腕を展開し、ラウラの首をガシリと引っ掴んだ。
「うっ、ぐっ……。かはっ……」
副腕の指が
シールドバリアーが展開できない今の状況では、首を折られるか
ファルケンは、左腕のお返しだと言わんばかりにブレードを振り上げる。
「(っ……!)」
死を覚悟した――直後の出来事だった。
「おおおおおおおおおお!!」
どこからか誰かの雄叫びが聞こえる。
ゴギャギン!!
金属同士が激しくぶつかり合い、何かがひしゃげる音が聞こえて、その衝撃でラウラはファルケンの腕から解放される。
「ぁ……」
ひび割れたバイザーの奥から見える目と視線が合う。
そして、ファルケンに強烈なタックルを見舞った雄叫びの主は、一緒に
あの瞳を、あの声を、あのシルエットとノーズアートを、間違えるはずがない。
驚きに見開かれたラウラの目から、再び涙が溢れてくる。
「ウィル……!」
ズドォォン……! と、眼下の地表で大きな砂煙が巻き上がった。
▽
タックルで弾き飛ばしたファルケンと共に、俺はグラウンドの砂地へ落着する。
「っつぅ……。もう2度と地面とのキスなんてゴメンだぜ……」
当然のごとく激しい抵抗を見せるファルケンは右腕部ブレードで攻撃しようとするが、それを振り上げる前に【バスター・イーグル】の機体重量に物を言わせて踏み砕いた。
「そんな安っぽいナマクラをぶっ刺したくらいで仕留めた気になったか? 残念だったな……!」
それならば、と突き出された副腕のブレードも両手で掴み取り、そのまま刀身をへし折る。
いよいよ近接武器がなくなったファルケンは、あろうことかこの至近距離でTLSの砲門を開放した。……まあ、無人機だから恐怖心もクソもないか。
『キギャアァァァァ!!』
「やかましいっ! キーキー鳴くな!」
『ゴゲッ!?』
TLSの砲口に『スコーピオン』を無理矢理ねじ込み、発射不能の状態にしてやった。
「さて、これでお前の自慢の武器は
ファルケンは潰れた声しか上げないが、俺の言った通りミサイルは品切れなのだろう。
「地獄に送り返してやる……!」
右ウェポンベイを開放し、内部に格納してある『メナサー』を展開する。
『ぎ、ギィィ! ガァァァ!』
コンピューターが『危機的状況』を察知したのか、ファルケンはがむしゃらに折れた腕を振り回して暴れる。
バリンッ! と殴られたバイザーが割れて、飛んできた破片が左の
「ぐっ、やりやがったな……!」
仕返しにファルケンのくちばしを力任せに割り開き、その
そして――
「吹き飛べぇぇぇ!!」
発射スイッチを力いっぱい押し込んだ。
バチチチッ、と砲身内を
『っ……! っ……、――――』
わずかに
ズシャリと力なく落ちた腕を見下ろして、俺は今度こそ勝利を確信した。
「はぁ、はぁ、はぁ……。もう2度と地獄から
ここでとうとう具現化維持限界を迎えた【バスター・イーグル】が強制解除される。
突然支えを失った俺はその場に立つ余力すら残っていなかったらしく、動かなくなったファルケンにもたれるようにして地べたに座り込んだ。
「あぁ、ちくしょう。
これで2回目だな、腹に物が刺さったのは。
そんなくだらないことを考えていると、血相を変えたラウラがこちらに駆け寄ってきた。
「ウィル!」
パッと見たところ、
「おぅ、ラウラ……。悪いがちょっとだけ肩貸してくれないか? 1人じゃまともに立てなくてな……うぐっ」
「ま、待て! 無理に動こうとするな! 出血が酷くなる!」
タオルを取り出し、それを4つ折りにして傷口の上まで持ってくるラウラ。
「3つ数えたら押さえる。痛むが我慢しろ」
そう言われて、俺はゴクリと生唾を飲んでから無言でうなずいた。
絶対痛いだろうなぁ……。今も十分痛いが。
「いくぞ。――1」
ギュッ……
「ぐぅっ……!?」
傷口を通して激痛が走り、俺は歯を食いしばって悲鳴を噛み殺す。って、ちょっと待てコラ。
「にっ、2と3はどこ行ったぁっ……!」
「……………」
痛みに
「おい、ラウラ?」
不審に思って声をかける俺だったが、ふと、ラウラの肩が小さく震えていることに気づく。
うつむかせた顔から表情をうかがうことはできないが、その手の甲を濡らす
「お前……」
「ぐすっ……。うるざい。ばがもの」
ギュッと、タオルを握るラウラの手に力が込められる。
「そうだ。お前は馬鹿だ、大馬鹿だっ。自分の身を犠牲にして、一歩間違えば殺されていたかもしれないというのに!」
大声と共に勢いよく上げたラウラの顔は、怒りや悲しみといった感情が混じり合ったような表情を浮かべていた。
「……悪かった」
「ひぐっ……、お前が死んでしまったら、私は……!」
そんな彼女に対する罪悪感か、はたまた思考がまともに働いていないからか、俺の口は自然と動いて白状していた。
「もう2度と、誰も失いたくなかったんだ」
「え……?」
「失ったものは2度と返ってこない。何をしても、どれだけ足掻いても。俺はそれを痛いほど味わった」
それは、かつての惨劇。
両親を一度に失くし、何気ないいつもの生活すらも失い、ずっと心にしこりを残したまま生きてきた。
「だからかな。あの時は勝手に身体が動いちまったんだ。大切で、何を
それは甘い考えかもしれない。命を懸けた戦いの中で、そんなヤワな思想は通じないかもしれない。
だがそれでも、俺はこの信念を曲げはしない。力のある限りを尽くしてみせる。かつてそう
……それにしてもラウラのやつ、さっきからポカンとしているが、俺何か変なことでも言ったかな?
「……ん? あっ、いや待て! 今のは……!」
遅れて、俺は自分が最後にとんでもないことを口走っていたことに気づく。
大慌てで弁解しようとするが、時すでに遅し。数瞬の放心を経て、ラウラは両目から大粒の涙を溢し始めた。
「こんな……時に……!」
「い、いや、そのだな。今のは、だな……」
もちろん本音であり、ラウラに
そんなこんなで俺が言葉を詰まらせている間にダムの決壊値を超えてしまったラウラは、とうとう声を上げて泣き出してしまった。
「こんな時にっ……! 告白するようなバカがいるかぁぁぁ! うああぁぁぁ!」
「(まったくもっておっしゃる通りです……)」
吸い込まれそうなほど青い空の下、俺はつい数秒前のおしゃべりな自分を恨みながら、ラウラをどうにか