インフィニット・ストラトス 蒼空に鮫は舞う   作:Su-57 アクーラ機

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64話 学園の良心? まあ、いい奴だったよ

「で?」

 

「っ…………」

 

 放課後の学食、そのカフェテラスエリアで、鈴がジロッと簪をにらむ。

 意味も分からず連れて来られて、さらにこの仕打ち。自身の人見知りな性格も手伝って、簪はビクッと身をすくませた。

 

「(なんで……私が、こんな目に……)」

 

 ちなみにそこにいるのは鈴だけでなく、箒にセシリア、シャルロットにラウラといった面々も一緒である。

 これでウィリアムと一夏を加えれば見事に1年の専用機持ち全員が揃うことになる。その数8人、つまりはIS8機。それは世界有数の軍事国家をも相手取れるだけの戦力であった。

 

「まあまあまあ、鈴。落ち着いて、ね。ほら、簪さん、怯えちゃってるし」

 

 シャルロットが持ち前の優しさで全員をなだめながら席を立つ。

 

「……シャルロット、そういうお前こそ顔色が険しいぞ」

 

 コーヒーを飲みながら、さっきまで傍観(ぼうかん)の立場を取っていたラウラが呆れたように口を開いた。

 その様子はずいぶんと落ち着き払っているが、実際ラウラ自身にはあまり関係の無い話なので、コーヒーを一口すすってまた静観に戻る。

 

「……うん。確かにラウラの言う通りだったね。ごめんね、簪さん。あ、これ、オレンジジュース。どうぞ。(のど)渇いたでしょ?」

 

 怯えた上目遣いでシャルロットを見る簪。そんな視線に対して、シャルロットはニッコリと微笑んだ。

 

「(こ、この人は、大丈夫……なのかな……?)」

 

 そう思ってオレンジジュースを口にする。

 それが二口ほど喉を通ってから、シャルロットは笑顔のまま簪に訊いた。

 

「それで、実際どうなのかな?」

 

 ニ ッ コ リ ★

 

「……………?」

 

 いまいち質問の意図が分からず、ぎこちない笑みを返しながら首をひねる簪。

 

「(シャルロット……)」

 

 小さくラウラが、はぁ……と溜め息をついたところで、()れた箒とセシリアがテーブルを同時に叩いて立ち上がった。

 

「だ、だっ、だからだなっ! い、いい、一夏と、だなっ!」

 

「つつつつっ、付き合ってますの!?」

 

「ッ――!?」

 

 いきなりのとんでもない質問に、簪はパチクリと(まばた)きをして一呼吸。そのあとでボッと真っ赤になった。

 

「わ、私と一夏は……そういうのじゃ……」

 

「『一夏』ぁ?」

 

 鈴が(いぶか)しげに聞き返す。

 

「(何よ、こいつ。どういうつもりよ。いきなり呼び捨てとか馴れ馴れしいんじゃないの? ……って、あれ? あたしもそうだっけ? ……ま、まあ、そのことはいいわ。うん)」

 

 一瞬で沸騰してから、一瞬で常温まで下がる。

 そしてまた、4人の視線が一斉に突き刺さり、少女はしおしおと小さくしぼんでいく。

 (わら)にもすがる思いでラウラに視線を向けるが、当の本人は「ウィルが()れるコーヒーの方が私の口には合っているな」などと呟いていた。……うん、頼めそうにない。

 

「そ、それは……その……ゴニョゴニョ……。希望がないわけじゃ、ないけど……。とにかく、そういうのじゃ……」

 

 ただでさえ小さい簪の声は、4人のプレッシャーでますますボリュームが絞られていく。

 最後の方はもう何を言っているのか聞き取れなかったが、顔を赤らめてうつむきながら指をいじる仕草を見て4人は確信した。

『ああ、ライバルだな』――と。

 

「……………」

 

 簪はガラス越しにトントンとつつかれた小動物のように小さくなってしまった。

 一夏と付き合っているわけではないと分かった4人は、今度は今度で目の前の簪が可哀想になって、慌てて取り(つくろ)った。

 

「あ、ああっ。更識……さん?」

 

「か、簪で……いい……」

 

 オドオドと箒が訊いて、同じくらいオドオドと簪が返す。

 

「じゃ、じゃあ、あたしらも名前呼び捨てでいいから」

 

「う、うん……」

 

 きっぱりと言い放つ鈴に、簪も少しだけはっきりとした声で答える。

 

「し、しかし、あれですわね。いきなりカフェまで連行とは、エレガントではありませんでしたわね」

 

「び、びっくり、した……」

 

 ぎこちない笑みを浮かべるセシリアに、簪も気を遣わせて悪いなと思いながら不器用な笑みを見せる。

 

「えー、えっと。ジュース、もう1杯飲む?」

 

「だ、大丈夫……」

 

 メニューを差し出したシャルロットを、簪は小さく手を横に振って制する。

 

「こいつらは一夏のことになると暴走を始めるが、(みな)いい奴らだ。そう怖じ気づくことはない」

 

「う、うん。ありがとう……」

 

 一度コーヒーカップを置くラウラの言葉に、簪はコクンコクンと2度うなずいた。

 

「「「ふぅ……」」」

 

 6人が6人とも、ちょうど同じタイミングで息をはく。

 それが全員お互いに意外だったようで、顔を見合わせてから1秒おいて、プッと吹き出した。

 

「なんか、変なの」

 

 シャルロットが切りのいいところでそう言って、簪に手を差し出す。

 

「これからよろしくね」

 

「う、うん……。こちらこそ……」

 

 握手をしている2人を眺めながら、他の4人もウンウンとうなずく。

 こうして、抱えた問題は1つ解決し、新たな絆が1つ増えたのだった。

 

 ……

 ………

 …………

 

「さて、じゃあ次の話に移るわよ」

 

 話はこれでおしまいかと思いきや、突然の鈴の言葉にラウラと簪が首をかしげる。

 そして、その声を合図に箒にセシリア、シャルロットの視線がラウラへと注がれた。

 

「? 私がどうしたというのだ?」

 

 状況についていけずそう訊ねるラウラへ、さらに鈴が言葉を続ける。

 

「率直に訊くけどさあ、アンタとウィル、なんかあったでしょ」

 

 ブフゥッ! と思わずコーヒーを吹くラウラ。

 何かあったのかと訊かれれば、もちろんあった。ウィリアムから愛の告白をされるという大事件が。

 

「その反応、当たりみたいね」

 

「ゲホッ、ゲホッ。な、ななな、何を言い出すかと思えば、いったいどこに根拠がある!」

 

 先ほどまでの落ち着き払った様子から一転、ラウラは盛大に取り乱す。

 もう、思いっきり『隠し事してます』と周りに告げているも同然だった。

 

「んー、なんて言うのかしらねぇ」

 

「先日の学園襲撃事件から、2人の距離感が以前にも増して近くなったように見えるというか……」

 

「はっきり言って、恋人同士のそれにしか見えないというか……」

 

「むしろ、あれで今までお付き合いすらしていないのが不思議でなりませんが……」

 

 箒、シャルロット、セシリアの順で述べていき、それから全員の目がキュピーンと妖しく光る。

 猛烈に嫌な予感がする。例えばそう、まるでこれから尋問(じんもん)を受けるかのような。

 

「それで~? アンタとあいつに何があったのよ?」

 

 ニヤニヤと好奇の視線を向けながら訊いてくる鈴にたじろいだラウラが、席を立とうと腰を浮かす。

 ――が、しかし、その両肩に背後からポンと手を置かれたことで逃走は阻止された。

 

「しゃ、シャルロットっ……!?」

 

「僕もちょっと気になるかなーって♪」

 

 いつの間にか背後に移動していたシャルロットに、優しく席へ戻される。

 

「わ、私も……後学のために、聞いておきたい……!」

 

 とうとう簪まで加わり、ラウラは四面楚歌(しめんそか)となってしまった。

 

「諦めろ、ラウラ。こうなったらこいつらは梃子(てこ)でも動かんぞ。……それに、私も少し気になるしな」

 

「さあさあさあ、全部吐くまで帰さないわよ~?」

 

「う、うぅ……!」

 

 ガールズトークに花を咲かせる10代乙女はもう止められない。

 一瞬で周りを囲まれてしまったラウラは、背中に冷たいものが伝うのを感じた。

 

 ラウラ・ボーデヴィッヒ、絶体絶命。

 

 ▽

 

「ぅいっきしっ! あ゛~……」

 

 IS学園の医療室に大きなくしゃみが響く。

 

「なんだ、風邪か? ほい、ティッシュ」

 

「サンクス」

 

 ティッシュ箱を一夏から受け取り、俺はそこからペーパーを1枚取り出して鼻をかんだ。

 

「ふぅ。――風邪ではないだろ。鼻詰まりとかもないしな」

 

「そっか。あ、ひょっとして誰かがウィルのこと(うわさ)してたりしてな」

 

「さあな。部屋に(ほこり)が舞ってるだけじゃないか?」

 

「――失礼ね。部屋の掃除は毎日してるわよ」

 

 ガチャッ、とドアが開き、中から出てきた白衣の女性が話に割って入ってくる。

 

「うげっ……」

 

 俺はその白衣のドクターと、彼女が右手に持つ物を見て思わず顔をしかめた。

 現在の俺は入院患者の身。治療には医療用ナノマシンを用いた活性化再生治療が行われるのだが、これがまた結構キツかった。

 ナノマシン治療の原理は代謝を(うなが)すことでその傷の治りを速めるというものだが、その間は猛烈に腹が空くし、傷口はかゆくなるし、何よりナノマシンを入れ替えるたびに注射を刺さなければいけない。

 

「ほら、そんな顔しない。これも君の傷を治すためなんだから」

 

「分かっています。分かってはいますが……!」

 

「うわっ、なんだその注射器!? 針太すぎだろ!」

 

 そう、今一夏が言ったようにこの専用注射器は針の太さが並みの倍以上あるのだった。

 

「じょ、錠剤タイプとかは無いんですか……?」

 

「あったら苦労しないわよ。さっ、腕を出しなさい」

 

「はい……」

 

 これ以上抵抗しても無駄なのは分かりきっているので、俺は大人しくドクターに右腕を差し出す。

 

「はーい、そんなに(りき)んだら針が刺さらないわよー」

 

 バカデカイ注射器の先端が、俺の静脈へと狙いを定める。

 

「それじゃ、ちょっとチクッとするわよー」

 

 ブスッ……

 

「ッ~~~!?!? っでえぇぇぇぇ!!?」

 

 唯一の救いは、このドクターが1発で静脈に刺してくれる腕前の持ち主だったことだろう。それでも痛いことに変わりはないが。

 

「チキショー……! 注射なんて嫌いだ……!」

 

「あはは……。お疲れ、ウィル」

 

 ▽

 

 数日後、朝6時半。部屋にはカーテン越しに朝日が差し込んでいる。

 その部屋で、イスに腰かけてモーニング・ルーチンのコーヒーを熱そうにすするウィリアムがいた。

 

「ふぅ、やっぱり自分の部屋が一番落ち着くな」

 

 周囲を軽く見回しながら呟く。

 活性化再生治療によって早くに入院生活を終えたウィリアムは、つい昨日自室に戻ってきたばかりだった。

 

「んん……」

 

「? 起きたか」

 

 同居人の声に、ウィリアムはコーヒーを飲む手を止める。

 まだ眠たそうに目をこすりながら半身を起こす彼女の名は、ラウラ・ボーデヴィッヒ。ドイツの代表候補生にして特殊部隊の隊長をも務める実力者。

 そして――

 

「おはよう、ラウラ」

 

「ああ。おはよう、ウィル」

 

 ――ウィリアムの恋人。

 しかし、恋人同士となったこの2人に特に大きな変化というものは起きなかった。

 いつも通りの生活。ただ唯一変わったことを挙げるとするならば、2人の距離感がさらに縮まったことくらいか。

 

「ははっ、まだかなり眠たそうだな。ほら、早く顔洗ってこい。その間にコーヒー()れといてやるから」

 

「うむ。――今日は少し濃いめで頼む」

 

「はいよ」

 

 まるで夫婦のようなやり取り。――(いな)、もはや完全に夫婦のやり取りである。

 こうして今日も2人で『おはよう』を言い合って、1日は始まるのであった。

 

 ▽

 

「「……………」」

 

 更衣室で制服から体操服に着替えながら、俺と一夏は無言だった。

 今日はこれから身体測定で、着替えたらすぐ1組に戻らなくてはならない。

 

「……一夏、着替えたか?」

 

「……ああ」

 

「……腹はくくったか?」

 

「……ああ。……いや、やっぱまだだ」

 

「だろうな。俺もだ」

 

 1つだけ、問題がある。

 それは、俺と一夏がなぜか身体測定係に選ばれているということだ。

 な・ぜ・か! 『体位』測定係だということだッ!!

 

『うふふ』

 

 ファック(クソッタレ)……! あの鬼畜生徒会長の笑みが脳裏に浮かぶぜ……!

 

「(考えても見ろ。『体位』って言ったらつまり、スリーサイズだぞ? 何をトチ狂ったら許可するんだよ、IS学園!)」

 

 俺達は1組の教室で2人、イスに座ってその時を待っていた。

 すると――

 

「ああ、すみません。織斑くん、ホーキンスくん。ちょっと書類を集めるのに遅れちゃって」

 

「えっ!? 山田先生!?」

「や、山田先生……!?」

 

 声を弾ませて教室に入って来たのは、我らが副担任・山田先生だった。

 

「あ! もしかして、山田先生が測定係ですか!?」

 

「た、助かった! やっぱりこの学園にも良心は残っていたか!」

 

「はいっ。私がバッチリ記録します」

 

「……ん?」

「……Huh?( え? )

 

「はい? 私、記録係ですよ?」

 

 学園の良心は死んだ。

 

「な、な、な……なにかんがえてるんだぁぁぁぁぁ、この学園ッ!!」

 

「チキショォォォォォ!! これを許可したバカどもをぶん殴ってやるぅぅぅぅぅ!!」

 

 俺達の絶叫も(むな)しく、早速1組の女子達がガヤガヤと教室に入ってきた。

 

「あー! 織斑くんとホーキンスくんだ!」

 

「ほ、本当に2人が測定係なの?」

 

「ええええ、うそうそっ!? 私、昨日ご飯おかわりしちゃったのに!」

 

「やっほー。おりむ~、ホーくん~。へへー、たっちゃんさんの秘策炸裂だね~」

 

 俺は今ほどあの人を炸裂させてやりたいと思ったことはない。……ケケケ、いつか頭上に爆弾の雨を降らせてやるぜ……!

 

「はーい、皆さん、お静かに~。これからする測定ではISスーツのための厳密な測定ですから、体に余計なものは着けないでくださいねー」

 

 山田先生が楽しそうに告げるが、俺達はちっとも楽しくない。それどころか死刑宣告も同然だった。

 

「体操服はもちろん脱いで、下着姿になってくださいねー」

 

(社会的に)ハイ死ンダー!

 ……一瞬だけ、MP40短機関銃をフルオート射撃されて崩れ落ちるシーンが脳裏に浮かんだのはなぜだろう?

 

「あ、1人ずつ隣のスペーサーに入って脱いで、測定して、服を着る、の流れですから、他の人に下着姿は見えませんよー」

 

「山田先生に見えるじゃないですか!?」

 

「それ、まったく意味ないですよね!?」

 

「私はホラ、このカーテンの奥にいますから、数字だけ言ってもらえば大丈夫です」

 

 ピキピキ……プチンッと、頭の中でそんな音を聞いた気がした。

 

「……汚しやがって」

 

「ウィル……!?」

 

「分からんか! 楯無先輩( ヤツ )は土足で踏みにじりやがった!! 新品のシーツのように真っ白な俺達の純情(じゅんじょう)をッ!!」

 

「そ、そうだ……。これは全部楯無さんの悪ふざけが原因なんだ……!」

 

 その通りだ、一夏。俺達だって怒る時は怒るってことを思い知らせてやろうぜ!

 

「我々は現時刻をもって体位測定係より離脱する!」

 

邪知暴虐(じゃちぼうぎゃく)の生徒会長に正義の鉄槌(てっつい)を!」

 

 意気揚々(いきようよう)とプチ・クーデターを起こそうとする俺達にまず慌てたのは山田先生だった。

 

「だ、ダメですよ2人とも! 勝手に離れたら測定が……」

 

「俺達が楯無先輩にいじられ続けた2ヶ月間! それ以外を忍耐と呼ぶことは俺が許さん!!」

 

「おおおおお!!」

 

「「今こそIS学園男子生徒に救済をッ!!」」

 

 俺は、俺達は、もう、激怒とか、そういう次元じゃなく、おかしくなっていた。

 

「何を騒いでいるんだ、貴様らは」

 

「! その声、千冬ね――ぐえ!」

 

「うわっ、暴君――ごふぅ!?」

 

「織斑先生だ」

 

 一夏は首筋に32度の鋭いチョップを、俺は頭にキツめの拳骨をそれぞれ食らう。お、俺もチョップの方がよかった……威力的な意味で。

 

「貴様らは人に任された仕事も満足にできんのか」

 

「いや、これは明らかに違う! はめられたんだ!」

 

「先生は自分達に死んでこいと言うんですか!?」

 

「情けない……これが男のセリフか」

 

「ぐっ……!」

「言ってくれますね……!」

 

「『やってやるぜ!』くらいがどうして言えん。ホーキンスも、空での貴様はどこへ行った?」

 

 ――イエス・ミス、織斑先生!!

 

「よっしゃあ! やったろうぜえ!!」

「やあってやるぜえええええ!!」

 

 俺達の中で内なる獣が目覚めた。

 

「そうか。ではせいぜい頑張ることだ」

 

「えっ? えっ? あれっ?」

 

「……あっ、もしかして、はめられた?」

 

「や る の だ ろ う ?」

 

「は、ぃ……」

「い、イエス・ミス……」

 

 ギロリとにらまれてはもう何も言い返せない。俺達はもう、死神の(かま)からは逃げられない運命なのか。

 

「そんな絶望的な顔をするな。そら、目隠しだ」

 

「――おお!」

「こ、これは……!」

 

 なんという救済アイテム。さすが織斑先生! あなたの生徒で本当によかった!

 

「ではな」

 

 颯爽(さっそう)と立ち去る織斑先生の背中を見送って、俺達は敬礼する。

 ありがとう、織斑先生。ありがとう、我らが偉大な1組担任。

 

「(さて、それじゃあ目隠しするか……)」

 

 ――ギュッ

 

「って、スケスケじゃねええかああああああっ!!」

「なぁんじゃこりゃああああああああっ!!?」

 

 廊下で織斑先生の大爆笑が聞こえた。

 

「(お、おのれぇ、どいつもこいつも……!)」

 

 とにもかくにも、俺達にはもうどうすることもできない。撤退(てったい)は不可能、ならばやることは1つだ。

 

「スゥ……フゥ……」

 

 深呼吸を済ませた直後、カーテンが開いて1人目の女子が入ってきた。

 ――ウォーバード・ワン、測定開始(エンゲージ)

 

 ……

 ………

 …………

 

「お、終わったぁ……」

 

 なんとか3人目(・・・)まで測定を終えた俺は、イスの背もたれに身を沈めてグッタリしていた。

 ……こんな調子で続きも耐えられるだろうか?

 なにせ、たった3人測定するだけでこのザマだ。まだまだ後続は控えているし、精神がゴリゴリ削られていくのが感覚で分かる。

 

「……………」

 

 ちなみに隣で同じく測定をしていた一夏はというと、1人目を終えることなく早々にリタイアした。

 なんでも心眼だとか第3の(ひとみ)だとかで目を閉じて測定した結果、女子の胸をガッツリ触ってラヴァーズの逆鱗(げきりん)に触れたらしい。

 で、そうなると残された女子は全て俺の方に回ってくることになるわけで。……何してくれちゃってんの? あいつ。

 

「はぁ~。次どうぞー」

 

 ボーっとしていてもどうにもならないので、俺はまったく気は進まないが次の女子に声をかける。

 

「出席番号25番、ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

「……ぽへ?」

 

 おい待てい。今ラウラ・ボーデヴィッヒって言ったか? 言ったよな?

 そうだ、そうだよ。ラウラだって同じクラスなんだから測定は1組でやるよな、うん! 完全に頭から抜けてたわ!

 

「は、入るぞ……」

 

 シャーっとカーテンが開き、測定場所にラウラが入ってくる。

 

「なぁっ……!?」

 

「あまりジロジロ見るな。馬鹿者……」

 

 そう言って小さく身をよじらせるラウラは、当然のごとく下着――ブラとショーツだけの姿だった。

 上下ともに薄桃色をしたそれは、ちょっとしたアクセントに花を想わせるような刺繍(ししゅう)がされている。

 

「……………」

 

 控え目に言って滅茶苦茶(めちゃくちゃ)エロかった。それはもう、ほんの少し気を抜くだけでマスターアーム(意味深)がオンになってしまいそうなくらいには。

 

「お、おいっ、いつまで(ほう)けているつもりだっ……!」

 

「ハッ!? あぁ、いや、スマン」

 

 ラウラに声をかけられたことで、ようやく正気に戻る。

 きっと、さっきまでの俺はとんでもない間抜けヅラを(さら)していたことだろう。

 

「そ、それじゃあ、上から順に測るぞ……?」

 

「う、む……」

 

 まずはバストから。

 俺はおっかなびっくりラウラの胸にメジャーを回していった。

 

「ん……」

 

 くすぐったかったのか、手が触れた瞬間、ラウラが小さく身を跳ねさせる。

 華奢(きゃしゃ)な身体は少し力加減を誤れば簡単に壊れてしまいそうで、俺の手はプルプルと震えていた。

 

「ぁ、んっ……」

 

「(集中、集中、これは仕事だ……)」

 

 ラウラの口から時折漏れる(あで)やかな声に思わず意識を持って行かれそうになる。

 おい、ラウラ。頼むからその扇情的(せんじょうてき)な声を抑えてくれ。

 

「んぁっ……ぁふっ……」

 

「(これは作業……! コレハ作業……! コレハサギョー……!)」

 

 頭の中で暗示を(とな)えながら作業を続けようとした、その時だった。

 

「(……なんか、鼻の奥が水っぽいような……)」

 

 ポタッ……。液体らしき何かが鼻から垂れ落ちた。

 

「ぁ?」

 

 ポタタッ……。まただ。今度は続けざまに3(てき)。それに妙に鉄っぽい(にお)いもする。

 

「う、ウィル!?」

 

 なんだよ、ラウラ。そんな驚いた顔して。それより次はウエストを……測らないと……。

 

「お、おかしいな……」

 

 身体が……どうにも……動かん……。

 

 ドサッ……

 

 いよいよ立つことすらままならなくなってきた俺は、その場に尻もちをついてしまった。

 

「お、おい! ウィル、しっかりしろ!」

 

 慌てたラウラが俺の状態を確認しようと、しゃがんで間近で顔を覗き込んでくる。

 ああ、やっぱりラウラって美人だよなぁ。顔立ち整ってるし、銀髪もきれいだし……おまけに……肌も白くて……。

 

「衛生兵! 衛生兵~~~~~!!」

 

 そんなラウラの声を最後に聞いて、俺の意識はプツリと途絶えるのであった。

 

 

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