インフィニット・ストラトス 蒼空に鮫は舞う   作:Su-57 アクーラ機

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65話 俺の彼女がSな件

 数日後、1学年合同IS実習。

 グラウンドには1年生全員が整列していて、いつものように千冬が腕組みをして立っていた。

 

「織斑、ホーキンス、篠ノ之、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ、(ファン)、更識! 前に出ろ!」

 

 授業開始早々、専用機持ち全員が千冬に呼び出された。

 

「先日の襲撃事件で、お前達のISは全て深刻なダメージを負っている。自己修復のため、当分の間ISの使用を禁止する」

 

「「「はいっ!」」」

 

 さすがにそのことは言われなくても分かっているため、全員が(よど)みのない返事をする。

 しかし、ウィリアムだけは何やら言いたいことがあるらしく、「先生」と千冬に呼び掛けた。

 

「何だ?」

 

「自分のISはつい先日、日本駐在の米軍基地にて修復を受けてきたのですが」

 

「知っている。だが、念のためだ。しばらくの間はISの展開使用は控えておけ」

 

「イエス・ミス」

 

 千冬の言葉にウィリアムはコクリとうなずいて返事をした。

 

「さて、そこでだが……山田先生」

 

「はい! 皆さん、こちらに注目してくださーい」

 

 そう言って真耶が千冬の後ろに並んでいるコンテナの前で、「ご覧あれ!」とばかりに手を開いて挙げる。

 グラウンドに集合した時から、1年生全員が何だろう? と思っていたものなので、やっとのお披露目(おひろめ)に生徒がザワザワと騒ぎ出す。この、隙あらばおしゃべりを始める辺りが、10代乙女の特権だろうか?

 

「何だろ、あれ?」

 

「もしかして、新しいISだったり!?」

 

「えー? それならコンテナじゃなくてISハンガーでしょ?」

 

「何かな何かな? お菓子? お菓子かなぁ!」

 

 ……最後は言わずもがな、のほほんさんの言葉だった。

 

「静かに! ……ったく、お前達は口を閉じていられないのか。山田先生、開けてください」

 

「はい! それでは、オープン・セサミ!」

 

 真耶の掛け声の意味がいまいち分からなかった1年生がキョトンとする。

 

「(開けゴマ(オープン・セサミ)とは、また古いネタを……)」

 

 と、心の中で呟くウィリアム。

 しかし、その古いネタを瞬時に理解できてしまう辺り、彼も大概(たいがい)なのだが。

 シーンと静まり返る生徒達を見て、わずかに涙ぐみながら、真耶はリモコンのスイッチを押した。

 

「うう、世代差って残酷ですね……」

 

 内部駆動機構を備えたコンテナは、ウイィィィン……とモーターの音を響かせながら、その重厚な金属壁を開放していく。

 

「こ、これは……」

 

 驚いた一夏が声を上げた。

 

「……何ですか?」

 

 スパーン! 毎度お馴染み、千冬の出席簿アタックが炸裂する。

 

「(なんてベタでアホな反応をするんだ、お前という奴は……)」

 

 痛む頭を押さえる一夏にジト目を送っていたウィリアムは、改めてコンテナに視線をやる。中から現れたのは、金属製のアーマーのようなものだった。

 

「教官、これはもしや――」

 

「織斑先生と呼べ」

 

 ラウラはそのアーマーに見覚えがあったのか、ついついドイツ軍時代の呼び方をしてしまい、千冬に軽く睨まれる。

 敬愛している千冬にキツい表情をされて、ラウラはついつい怯んで口を閉ざした。

 

「……ボーデヴィッヒ、これの説明をしてみせろ」

 

「は、はい。これは現在、国連が開発中の外骨格攻性機動装甲、通称『EOS(イオス)』だ」

 

「「「イオス……?」」」

 

Extended(エクステンデッド) Operation(オペーレーション) Seeker(シーカー)、略してEOSだ。その目的は災害時の救助支援から、平和維持活動など、様々な運用を想定している。――が、まだ研究途中の機体であり、実用化の目処(めど)は立っていない」

 

「上出来だ。もういいぞ」

 

「ありがとうございます」

 

 千冬に褒められたのが嬉しかったのか、ついさっきまでとは打って変わってラウラの表情は明るくなった。

 

「あの、織斑先生。これをどうしろと……?」

 

 箒が恐る恐る訊ねる。

 そうすると、返ってきたのは至ってシンプルな言葉だった。

 

「乗れ」

 

「「「えっ……!?」」」

 

 男子2人+女子6人が揃って口を開ける。

 

「2度は言わんぞ。これらの実稼働データを提出するようにと学園上層部に通達があった。お前達の専用機はどうせ今は使えないのだから、レポートに協力しろ」

 

「「「は、はぁ……」」」

 

 わけも分からぬまま、取り合えず何となくの返事でうなずく8人。

 その後ろに移動した真耶は、その他の一般生徒達にパンパンと手を叩いて指示を始めた。

 

「はーい。皆さんはグループを作って訓練機の模擬戦を始めますよー。格納庫から運んできてくださいね~」

 

 どうやらEOSの性能を見たかったらしい多くの女子生徒は「ええーっ」と声を上げるが、千冬の一睨みで即座に運搬作業に取りかかる。

 さて、どうしたものかと考えている専用機持ち8人の頭を順番に叩いて、千冬は行動を促した。

 

「早くしろ、馬鹿ども。時間は限られているんだぞ。それとも何か? お前達はいきなりこいつを乗りこなせるのか?」

 

「お、お言葉ですが織斑先生。代表候補生であるわたくし達が、この程度の兵器を扱えないはずがありませんわ」

 

 自信満々に言い切ったのはセシリアだった。

 

「ほう。そうか。ではやってみせろ」

 

 ニヤリと唇を吊り上げる千冬にゾクッとした恐怖を感じながら、各々が各機へと乗り込みを始めた。

 

 ……

 ………

 …………

 

 ガチリとした、重い金属の動く感触。

 全く自由に動かない四肢に、自然と眉間にシワが寄る。

 

「くっ、このっ……!」

 

「こ、これは……」

 

「お、重い……ですわ……」

 

「うへえ、ウソでしょ……」

 

「う、動かしづらい……」

 

 一夏、箒、セシリア、鈴、シャルロット。その全員が、EOSの扱いに困り果てていた。

 なにせ、重いのである。

 もちろん、総重量ならISの方が上だが、あちらにはPIC(パッシブ・イナーシャル・キャンセラー)という反重力システムが搭載されている上に、各部に搭載された補助駆動装置、それにパワーアシストなどの恩恵から、ほとんど重量を感じることなく扱える。

 それに対して、EOSは一言で言ってしまえば金属の(かたまり)だ。

 補助駆動装置は積んでいるものの、そのレベルはISより遥かに低い。

 しかも、エネルギーの運用関係上、常時オンにしておけるものではない。

 さらにはダイレクト・モーション・システムにより、操縦者の肉体動作の先回りをして動くISとは異なり、全ての動きは操縦者の動作のあとになる。

 (きわ)めつけは背中に搭載された巨大なボックスだ。次世代型PPB(ポータブル・プラズマ・バッテリー)と呼ばれるそれは、単重量だけで30キロを超す。

 それほどの重量がありながら、EOSのフル稼働では十数分程度しか保たない。

 いかにISが優れた装備であるかを、今更ながらに実感するハメになった。

 

「よっこらしょ。おぉ、確かにこいつは重いな……」

 

「ふむ……」

 

 しかし、その一方でEOSを装備しながらもウィリアムはまだ余裕そうにしており、ラウラは黙々と各部の感触を確かめていた。

 

「お前、どんな筋力してんだよ……」

 

 EOSを装備して立つだけでも一苦労の一夏が、とんでもないモノを見るような目を向けながらウィリアムに声をかける。

 

「いやいや、お前さんがヒョロいだけだろ。この前の筋トレ、ベンチプレスの70キロを上げるだけでヒーヒー言ってたじゃねえか」

 

「……じゃあ、普通に100キロ上げてたウィルはゴリラだな」

 

「はっはっはっ。なんか言ったか、この野郎」

 

「ひぃっ!?」

 

 ニッコリ笑顔を浮かべるウィリアムに一夏は顔を引きつらせた。

 

「それではEOSによる模擬戦を開始する。なお、防御能力は装甲のみのため、基本的に生身は攻撃するな。射撃武器はペイント弾だが、当たるとそれなりに痛いぞ」

 

 千冬がパンパンと手を叩いて仕切る。それからすぐに響いた「始め!」の声と同時に、ウィリアムは脚部ランドローラーを使って未だに操縦に手こずる一夏との間合いを詰めた。

 

「げぇ!?」

 

「はっはーっ! 甘いな一夏ぁ!」

 

 反撃のへなちょこパンチを受け流し、そのまま姿勢を低くして脚を狙ったタックルを食らわせる。

 

「ぐへ!」

 

 一夏が転倒したところに、取り出したEOS用のサブマシンガンを突きつけた。

 

「よお、一夏。さっきは俺が『何』だって?」

 

「ご、ゴリラなんて言ってないです」

 

「ファッキュー」

 

「ま、待っ――」

 

 容赦なくペイント弾を2発撃ち込むウィリアムと、顔を紫のインクまみれにされる一夏。

 2人がそんなやり取りを交わしている間、その背後ではラウラがセシリアに狙いを定めて襲いかかっていた。

 

「もらった!」

 

「そう簡単にはやられませんわよ!」

 

 サブマシンガンを構えてフルオート射撃をするセシリアだったが、その照準はまったく合っていない。

 

「くっ! なんという反動(リコイル)ですの……!」

 

 通常、ISは射撃・格闘を問わず反動を自動で相殺するPICリアクティブ・コントローラーとオートバランサーが搭載されている。しかし、EOSにはそんな便利な機能はないので、それはつまり、全ての行動と反動を生身で制御しなくてはならないということだった。

 

「ああもうっ! 火薬銃というだけでも扱いにくいのに!」

 

 最初こそ戸惑ったものの、セシリアは代表候補生である。当然、生身での戦闘訓練も軍で受けているため、段々と反動制御に慣れが出てきた。

 しかし、ラウラはその上を行っている。完全にセシリアが銃器を使いこなす前に、ジグザグ走行で彼女へと肉薄した。

 

「速いですわね! けれど、この距離なら逆に外しませんわ!」

 

「甘いな」

 

 ()えて一直線の特攻。弾丸は左腕の物理シールドで受けて、そのままセシリアに向かって行った。

 

「!?」

 

「ふっ……」

 

 咄嗟に身構えたセシリアの肩部アーマーを、慣性のままに突き進んだラウラが(てのひら)で叩く。

 

「きゃあっ!?」

 

 バランスを崩し、背中から地面に倒れるセシリア。

 EOSはその重量の関係上、倒れるとなかなか起き上がれない。

 もちろん、そのための背部起立アームは装備されているが、いかんせん起動が遅すぎる。

 体を起こす前に、セシリアはラウラのペイント弾連射を浴びた。

 

「まずは1機!」

 

「ふふん、隙だらけよ!」

 

 ラウラの側面から、ランドローラーの出力を全開にした鈴が突っ込む。

 

「うりゃあ!」

 

 思い切り突き出した外骨格アームの正拳突き。

 しかし、ラウラはその攻撃を受け流すように身をひねってかわす。

 

「あれ?」

 

 そうなると、加速慣性を相殺できない鈴はつまずいてスッ転んだ。

 ドガシャゴガン! と、のっぴきならない音が響く。

 

「さすがラウラだな……」

 

 そんなラウラの戦いを眺めていたウィリアムは、ウンウンとうなずきながら独りごちた。

 

「(考えてもみろ。あんなにカッコよくて、それでいて抜群に可愛い上に人柄も良しときた。仮に俺が女だったとしても絶対()れてたぜ。そんな最高の恋人を持てた俺は幸せ者だな。うん)」

 

 と、模擬戦そっち退けで早速惚気(のろけ)に突入するウィリアム。

 誰か、このアホに効く薬を持って来てくれ。え? そんなもの無い? ……頭にペイント弾でも食らわしたれ。

 

 閑話休題(まあ、そのアホは放っておくとして)

 

「さて、次は……」

 

 ラウラが見つめる先には、箒とシャルロットが並んでいる。

 

「どちらからだ?」

 

「わ、私はあとでいい!」

 

「ぼ、僕も……」

 

 ブルブルと顔を振って、順番を譲り合う箒とシャルロット。

 

「シャルロット、お、お前が行ったらどうだ?」

 

「い、いや、箒こそ」

 

「そう言うな」

 

「遠慮せずに」

 

「「……………」」

 

「じゃあ私から行くぞ!」

 

「ううん、僕が行くよ!」

 

「いや、私が行こう」

 

「「どうぞどうぞどうぞ」」

 

 嗚呼(ああ)、美しき日本文化の美学。

 しかし、最後に名乗りを上げたのはラウラだった。

 

「「えっ?」」

 

 箒とシャルロットは顔を見合わせるが、もう遅い。

 ギュイイイン……! と、重く鋭い音を立てながら、ランドローラーはラウラを前進させる。

 

「く、食らえ!」

「ごめんね、ラウラ!」

 

 2人の即席タッグは、鈴がスッ転んだのを目撃しているせいで、格闘よりも射撃を選んだ。

 けれども、シャルロットはともかく箒は反動制御に失敗して尻餅をついてしまう。

 

「もらった」

 

 当然、そこにペイント弾は降り注ぐ。

 

「痛っ! や、やめろ馬鹿者! いたた! いたたたたっ!」

 

 ラウラは容赦なく残弾全てを箒に叩き込んだあと、空になったサブマシンガンをシャルロットに投げつける。

 

「うわ!?」

 

「悪く思うな」

 

 ザッと、一気に接近したラウラは、防御姿勢を取るシャルロットを両腕でドンッと押した。

 

「わ、わわっ……!」

 

「む。耐えたか」

 

「え、えへへ……」

 

「ではもう1度だ」

 

 ドンッ! 無慈悲なハンドプッシュは2回目も辞さない。

 

「わあっ!?」

 

 セシリアの時と同じく、バターンッと背中から地面にダイブするシャルロット。

 しかし、そこはさすがというか、接地寸前でしっかりと受け身を取っていた。

 

「これで残りは……」

 

 顔を振り向かせたラウラの視線が、未だ脳内お花畑モードのウィリアムを捉える。

 

「最後は私とお前の一騎討ちらしいな」

 

 言いながら、箒が取り落としたサブマシンガンを拾い上げるラウラ。その声にウィリアムはようやく我に返った。

 

「正直、お前さんを撃つのは心苦しいんだが……。是非(ぜひ)もない、か」

 

 サブマシンガンのマガジン残量を確認して、それから射撃モードをフルオートに切り替える。

 

「行くぞ!!」

 

 ランドローラーの出力全開でラウラに向かって突撃した――次の瞬間だった。

 

 ガリガリガリバキキキキキッ!!

 

 ウィリアムのEOSが、ランドローラーに異物を巻き込んで急停止する。

 その異物とは、一夏が転倒した弾みで取り落としたEOS用サブマシンガンだった。

 

「ぬおぉっ!?」

 

 突然の衝撃に前へとつんのめってしまうウィリアム。

 反動で左脚は浮き上がり、右脚1本だけでなんとかバランスを取る。

 

「ぬ、ぐぐぐぐぅっっ……!!」

 

 しかし、それも早速限界を迎えようとしていた。

 筋力に自信のあるウィリアムでも、EOSで片足立ちなど無茶もいいところなのだ。

 

「(な、なんとか体勢を立て直して……!)」

 

「……………」

 

 転倒しないよう片足だけで必死に体を支えるウィリアムの元へと、ラウラはEOSを進ませる。

 そうして気づいた時には、ラウラはウィリアムのすぐ目の前に立っていた。

 

「ハッ!? お、おい、ラウラ。いったい何をするつもりだ……!?」

 

「当てさせてやろう」

 

 ニヤァ……っと、口角をつり上げるラウラ。

 そのサディスティックな笑みにウィリアムはゾクリとした悪寒を感じた。

 

「ま、まさか……!?」

 

「くくっ、察しがいいな。――もっとも、察したところですでに手遅れだが」

 

 ラウラはその手に持った銃を撃つわけでもなく、体術を食らわせるわけでもなく、ただウィリアムの肩部アーマーに手をあてがう。

 

No god!(よせ! やめろ!) No god please no!(頼むからやめてくれ!) No! No!(マジで!)

Noooooooo!!!(やめろォォォォ!!!)

 

「こ・と・わ・る♪」

 

 懇願(こんがん)(むな)しく、トンッと、ラウラは手に少しだけ力を込めて突き出した。

 

「ちょっ、ちょちょちょちょおおぉぉおおぉぉ!!?」

 

 ギギ……ギギギギ……ズガシャーーン!

 

 元より不安定だったEOSは、外部からのわずかな衝撃で今度こそ完全にバランスを崩す。

 必死に手をバタつかせるも無意味に終わり、ウィリアムは背中から地面へと転倒してしまった。

 

「(お、おのれ、このSっ気ましましドイツ軍人娘めぇ……!)」

 

「優秀な戦士とは自分の足元にも注意するものだぞ?」

 

 そう得意げな表情で告げながら、ウィリアムの眉間(みけん)に銃口を向ける。

 

「ちくしょう……。はぁ、分かった。降参だ」

 

 抵抗は無意味と悟ったウィリアムは、溜め息をついてから力なく両手を上げた。

 

「よし、そこまで!」

 

 千冬の声でEOS模擬戦が終了する。

 

「さすがだな、ボーデヴィッヒ」

 

「いえ、これはドイツ軍で教官――織斑先生にご指導いただいた賜物(たまもの)です」

 

 そんな会話を交える2人に、それぞれEOSを装備解除した面々が集う。

 

「ラウラ、このEOSってのを使ったことがあるのか?」

 

「いや、これではないが、似たようなものがドイツ軍に存在したのだ。主に、ISの実験装備の運用試験や重量物運搬などに用いられた」

 

 ウィリアムの問いに、ラウラはスラスラと答える。そうしていると、次に話しかけてきたのはシャルロットだった。

 

「へぇ、それであんなに上手かったんだ」

 

「上手いというほどでもないだろう」

 

「あれで上手くなかったら何なのよ。まったく」

 

 完全敗北を味わった鈴としては、苦笑せざるを得ない。

 

「それにしてもお前達……ぷ、ふ、くくっ」

 

 いきなりラウラが笑いをこらえる。

 

「? ああ、なるほど。ふっ、ははっ……こりゃ確かに笑えるな」

 

 続いてウィリアムまでもが笑いをこらえ始めて、どうしたのかと一夏達はお互いの顔を見合わせると、顔やら運動服やら、とにかくペイント弾のインクまみれになっていたのだった。

 

「ま、まるでパンダだな。なかなか似合ってるじゃねえか。ぷふっ……くくくっ……!」

 

「く、クソ、ウィル……お前、絶対わざと狙っただろ」

 

「あっははははは! いいじゃねえか、みんなの人気者で」

 

「…………ラウラに遊ばれてたくせに……」

 

 こらえ切れず爆笑するウィリアムに、一夏からの鋭いカウンターが炸裂する。

 

「ハハハ。お前さん、夢でも見たんじゃないか? きっと疲れてんだよ」

 

「おう、その言葉、俺の目を見てもう1回言ってみろよ」

 

「私など首から下が斑点模様のようになったぞ……。やってくれたな、ラウラ」

 

「や、やられる方が悪いのだ……はははっ」

 

 ジト目で抗議の視線を送る箒に、ラウラはとうとう声を上げて笑い出す。

 そんな、まるで友達とじゃれ合う、どこにでもいる少女のような笑顔を浮かべるラウラを、ウィリアムは優しく微笑(ほほえ)みながら見守るのだった。

 

「それにしても、このEOSとやらは本当に使い物になりますの?」

 

「それは私も気になったな」

 

 セシリア、箒が答えを求めて千冬に視線を向ける。

 

「まあ、ISの数に限りがある以上、救助活動などでは大きなシェアを獲得するだろうな」

 

 千冬の言うように、災害派遣や小規模な戦闘では大いに役立つだろう。

 生身の人間を向かわせるのは危険だが、ISを出すには大袈裟(おおげさ)。しかし、人型航空兵器(ターミネーター)では入れないような(せま)い場所。それこそ瓦礫(がれき)の散乱する被災地や室内での運用にはEOSが最も適正であると言える。

 

「(しかし、なんだってそんなものの性能試験をIS学園が受け持ったんだ……?)」

 

 ふとした疑問にウィリアムが眉をひそめているところへ千冬の声が響いた。

 

「それでは全員、これを第2格納庫まで運べ。カートは元々乗っていたものを使うように。以上だ」

 

 千冬がパンパンと手を叩くと、全員がその指示通りに動き始める。

 さすがにカートに乗せる作業は真耶(まや)がISを使用したが、結局運ぶのは各人の生身なので、鈴はあからさまに「うえー」っと嫌そうな声を漏らした。

 そんなこんなで、今日もまた実習の時間は過ぎて行くのであった。

 

 ▽

 

 EOSによる模擬戦があった、その翌日。

 

「はー。なーんか、かったるいわねぇ」

 

 鈴は頭の後ろで腕を組んで廊下を歩きながら、はしたないことにストローだけで支えた紙パックジュースを飲んでいる。

 

「おいおい、うっかり落としでもしたら、あとの拭き掃除が面倒だぞ?」

 

「大丈夫よ、だいじょーぶ。……はぁ~」

 

 そうウィリアムに適当な返事をして、鈴は溜め息をつく。

 

「ずいぶんとデカイ溜め息だな。一夏がいないのがそんなに退屈か?」

 

 横で一緒に並んで歩いていたウィリアムがそう言うと、鈴はポロッとジュースを落としそうになった。

 

「な、なぁっ!? ち、違うわよ! ふん! あんな奴、いなくたって別にいいわよ!」

 

「あーあー、はいはい。それじゃあ、そういうことにしておこうか」

 

 ちなみにこの珍しい組み合わせは、前の授業で合同講義があったのでその資料片付けの帰り道だ。

 早速ジュースを買う辺り、非常に鈴らしい。

 

「しっかし、当分ISが使えないっていうのはヤバいわよね。一応、パーソナルロックモードにしてあるから、盗まれないし、盗まれても使えないけど」

 

 そう言って鈴は自分の腕の【甲龍(シェンロン)】を見る。

 本来ならリングブレス状のそれは、パーソナルロックモードとして薄さ1ミリ以下の皮膜(スキン)状態で腕に張り付いている。パッと見では、何かのファッションシールを貼っているようにも見えた。

 

「問題は、このモードの時は操縦者緊急保護がいつもより遅いことよね」

 

「まあ、銃を分解して保管しているようなもんだからな。そいつは仕方ないさ」

 

「んー。まあ、それなりに訓練受けてるから、ちょっとやそっとじゃやられないけどさぁ。それに、時間がかかるだけでいざという時は呼び出せるわけだし」

 

「だな。けどまあ、そのことで、今は専用機持ちが全員2人以上での行動を義務づけられてるわけだが」

 

「学園に残ってるので1人なのって2年の楯無さんだっけ?」

 

「ああ。あとは今、倉持技研に出向いてる一夏だな。あいつなら大丈夫だとは思うが」

 

「……ったく、早く帰って来なさいよ」

 

 思わずそう呟いてから、ハッとして鈴は口を手でふさぐ。

 しかし、ばっちりとウィリアムに聞かれたようで、ニヤニヤと意地の悪い笑みが返ってきた。

 

「ち、ちっ、違うのよ! あたしはただ、あいつ、軍事訓練とか受けてないから、だからっ……!」

 

「はっはっはっ。そう否定しなくてもいいだろう。まったく、愛されてるなぁ、あの色男め」

 

「ち、違っ――」

 

 さらに鈴が声を荒げようとしたところで、突然廊下の照明が一斉に消えた。

 廊下だけではなく、教室も、電子掲示板も、ありとあらゆる灯りが一瞬で消えたのだった。

 もちろん、昼間なので日光があるため、視界は確保できる。――かと思いきや。

 

「なんだ、いったい……!?」

 

「防御シャッター!? はあ!? なんで降りてんの!?」

 

 ガラス窓を保護するように、斜めスライド式の防壁が順番に閉じていく。

 ザワザワとそこら中からどよめきが聞こえる中、全ての防壁が閉じて、校舎内は光の一切届かない暗闇に包まれた。

 

「……2秒経ったわ。ねえ、ウィル」

 

「ああ。緊急用の電源にも切り換わらないし、非常灯すら点かない。こいつは明らかに異常だな」

 

 2人はそれぞれISをローエネルギーモードで起動し、視界にステータスウィンドウを呼び出す。同時に視界を暗視モードに切り換え、ソナーに温度センサー、それから動体センサー、音響視覚化レーダーといった機能をセットした。

 

《ラウラだ。ウィル、無事か?》

 

《鈴さん、今どこですの?》

 

 ISによるプライベート・チャネルでラウラとセシリアの声がそれぞれ響く。

 各々に返事をしていると、それを割り込み回線(インターセプト・チャネル)の声が(さえぎ)った。

 

《専用機持ちは全員地下のオペレーションルームへ集合。今からマップを転送する。防壁に遮られ場合、破壊を許可する》

 

 千冬の、静かだが強い声。

 それは、このIS学園でまたしても事件が発生したことを克明(こくめい)に告げていた。

 

 

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