インフィニット・ストラトス 蒼空に鮫は舞う   作:Su-57 アクーラ機

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 皆様、あけましておめでとうございました(・・・・・・)
 もっと早めに投稿するつもりがこんなに遅くなってしまい申し訳ありません……。



67話 眠り姫 救出作戦

「(どいつもこいつも使えないわね……!)」

 

 次々と交信が途絶していく無線のノイズ音に顔をしかめながら、女は(ひと)り真っ暗な通路を進んでいた。

 その体には、独自のカスタムが施されたIS【ラファール・リヴァイヴ】を(まと)っている。

 電波吸収剤を混ぜた黒い塗料で機体全体を包み、背面のカスタムウィングは狭い場所でも小回りが利くよう、より小型の物が取り付けられている。

 飾りっ気など全くない。今回の任務が完全秘匿(ひとく)である(ゆえ)、パーソナルマークや部隊章も取り外されている。

 それは女自身も同じで、素性を知られないよう顔の上半分を隠すセンサーバイザーを被り、名前も便宜(べんぎ)上、『侵入者(イントゥルーダー)』のコールサインを用いている。

 IS学園を襲撃した者達の正体、それは世界中で名の知れた巨大民間軍事会社、『ブラックフォレスト』の特殊部隊であった。

 

「(ったく、何が楽しくてこんな陰気臭い所にいなきゃなんないのよ)」

 

 イントゥルーダーは進む。

 目標は、IS学園地下区画、その最深部に眠った『とあるIS』。

 それを持ち帰りさえすれば任務は完了。そんなものを手に入れてどうするかなど、こちらの知ったことではない。

 

「(こんな仕事さっさと終わらせてやるっ!)」

 

 思想も信仰も、忠誠などもない。いつもの端金(はしたかね)の給料より圧倒的に高額な報酬だったから任務に志願しただけのことだ。

 

「……?」

 

 ISの浮遊による前進を停止する。真っ暗な通路の先に、センサーがしっかりと人の姿を捉えていた。

 

「――参る」

 

「なッ!?」

 

 いきなり、短い言葉と共に一陣の風が駆け抜けた。

 ガインッ! と派手な音を立てて、影はイントゥルーダーの後ろへと飛ぶ。

 そして、次の瞬間通路全体の灯りが点いた。

 

世界最強(ブリュンヒルデ)っ……」

 

 イントゥルーダーは思わず呟いた。

 灯りのついた廊下で、しっかりと地面に足を着いて立つ女。

 漆黒のボディースーツを纏った千冬。その太ももには、左右3対……計6本の日本刀が(さや)に納められていた。

 それに加えて、両手にも2本の刀が握られている。さっき【ラファール・リヴァイヴ】の装甲に刃を立てたのは、どうやらそれらしい。

 

「(正気……?)」

 

 ブリュンヒルデの登場には驚いたが、イントゥルーダーがまず思ったのはそれだった。

 ISのセンサーで何度確認しても、千冬は生身にボディースーツという装備だ。ダイビングスーツのように、全身を覆うそれを着込み、強化仕様のゴツいブーツを履いている。手には格闘用グローブをはめ、露出しているのは顔だけだ。しかし、それでも――。

 

「(そんな対通常兵器用のスーツで……こいつ、どういうつもりよ……)」

 

 もちろん、多少の防弾・防刃性はあるだろう。しかし、それにしたところでIS用の大型武器には大した効果はない。

 

「どうした」

 

「は?」

 

「かかってこい。お前の目の前にいるのは初代ブリュンヒルデだぞ。世界で初めて最強の名を手にした女だ。全身全霊をもって挑むがいい、傭兵(マーセナリー)

 

 ニヤリと不敵に笑う千冬。その笑みには圧倒的強者の迫力があった。

 

 ▽

 

「ったく、面倒なことしてくれやがって……」

 

 パンパンッ、と手をはたきながら、俺は思わずそんな悪態を漏らした。

 

「(せっかくの土曜日、珍しくラウラに誘われて放課後出かける約束してたってのに……それが今じゃ、女子校に襲撃を仕掛けるようなクソどものお相手とは……)」

 

 まったく最高だよ……、と溜め息混じりに皮肉ってから、特殊ファイバーロープでグルグル巻きにされた兵士達を見下ろす。

 

「チキショー! 放しやがれー!」

 

「お、俺達にこんなことしておいてただで済むと思うなよ!」

 

「この鮫ヤローッ!」

 

「魚ヤローッ!」

 

 ちなみに、兵士達は全員装備はもちろん、下着以外の衣類も剥ぎ取った状態でキツく(しば)りあげている。

 というのも、こいつら手持ちの武器以外に服の下やズボンの(すそ)にも装備を隠し持っていたのだ。

 ダイヤモンド刃ペンチにプラズマカッター。他にも短身散弾銃(ソードオフ・ショットガン)や予備のピストル、コンバットナイフに手榴弾やらが出るわ出るわ。隠しすぎだろ。

 

「ファッキューメェンッ!!」

 

 はぁ……。やかましい連中だ……。

 ギャーギャーと騒々しい(わめ)き声にまた溜め息が出てきた。

 

Shut the fuck up.( だ ま れ ) 魚の撒き餌(まきえ)にされたいのか、ええ? それで後始末が楽になるんなら、こっちとしては大歓迎だぞ?」

 

 そろそろ苛立ちも(つの)ってきた頃なので、遺言を聞いてやるから言ってみろ、と8連ロケット砲『ハイドラ』を向ける。

 

「勘違いしているようだから言っといてやる。――お前達を殺そうと思えばわざわざ生け捕りにせず、直接ロケット弾を叩き込んで皆殺しにもできた。むしろそっちの方がより確実に脅威の始末ができるからだ。言っている意味は(わか)るか?」

 

 お前達の命がまだあるのは、こっちのお情けがあったからだ、と遠回しに告げる。

 脅し文句としては常套句(じょうとうく)だが、この場においてこれほど効果のある台詞は他にないだろう。

 

「すみません許してください。何でもしますから」

 

「じょ、冗談キツいっスよ旦那ぁ~」

 

「へ、へへ。あの、肩お揉みしましょうか? へへへ……」

 

 事実、先ほどの騒々しさから一転して兵士達は引きつった顔に冷や汗を流し始めていた。

 

「まだ生きていたいか?」

 

 震える兵士達から、コクコクコクコク! と全力の首肯(しゅこう)が返ってくる。

 

「なら俺がいいって言うまで、そのうるさい口を閉じてろ。さもないと……」

 

 一度言葉を切り、ロケット弾を満載したハイドラのランチャーをコンコンとノックする。

 

次はこいつと会話してもらうことになるぞ(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「「「い、イエッサー……!」」」

 

 返事のあと、辺りは水を打ったかのように静まり返った。はじめからそうしてろ、アホどもめ。

 ――まあ、それはさておき。

 

「(さっさとこいつらを運んじまうか)」

 

 抵抗力を削いだとはいえ、ここに放置しておくわけにもいくまい。こいつらにはあとで尋問が待っているだろうし、ひとまずは学園のオペレーションルームに連れて行くのがいいか。

 そうと決まれば、早速縛られたまま大人しくしている兵士達に声をかける。

 

「おい」

 

「「「?」」」

 

「少し遊覧飛行といこうか」

 

「「「……は??」」」

 

 首をかしげる兵士達にニヤリと笑いながら、俺はジェットエンジンを始動させた。

 

 ▽

 

「……………」

 

 ギィン!

 

 もう何度目だろうか、千冬の刀が【ラファール・リヴァイヴ】の装甲を斬りつけるのは。

 しかし、傷の1つもつかない。

 それどころか、刀はもうすでに4本が刃こぼれしていた。

 

「ふん……」

 

 ダメになった刀をザクッと床に刺し、新たな刃を太ももの(さや)から引き抜く。

 シュラン……と、殺伐とした戦場に(あで)やかな刀の()が鳴り響いた。

 

「……さっきから何なのかしら?」

 

 痺れを切らしたイントゥルーダーが、鬱陶(うっとう)しそうに口を開く。

 ただでさえ機嫌を損ねていた彼女の声は、さらに苛立ちの籠もった声色にと変わりつつあった。

 

「なんだ、私の歓迎は気に入らなかったか?」

 

 バイザーから覗く口元が苛立たしげに歪む様を見ながら、千冬は挑発する。

 

「傭兵というのはずいぶんと暇なんだな。こんな、極東の島国の学園までわざわざやって来るとは。争いごと(お前達の仕事)など世界中で事欠かんだろうに」

 

「(……こいつ、私達の正体に勘づいて……?)」

 

「目的は地下の『あいつ』――だけではないだろう? だが、残念だな。【白式】はすでに別の場所にある。もちろん、【バスター・イーグル】もお前達程度が捕らえられるほどヤワな操縦者が扱ってはいない」

 

 ニヤリと、薄く笑う千冬。

 イントゥルーダーは軽く奥歯を噛みしめた。

 

「そこまで分かってるくせに、なんでわざわざ出てきたのよ」

 

「ふん。『生身ではISに敵うはずがない』、か?」

 

 ヒュン、ヒュンッ、と、左右の刀を振り、構える。

 

「――並の人間ならな!」

 

 刹那、飛び出した千冬は素早く【ラファール・リヴァイヴ】を斬りつける。しかし、今度こそはその刃はイントゥルーダーの右手に受け止められた。

 

「無駄だってのよ……!」

 

「それは私が決めることだろう」

 

 刀を放した千冬が、その腕を蛇のように相手の体に絡ませる。

 スルリとすり抜けるようにして、イントゥルーダーを背負う千冬。その手にはワイヤーが握られていた。

 

「がッ……!? かはッ……!」

 

 首を締め付けられ、思わず声が出る。

 

「絶対防御に頼ってばかりいるから、判断が遅れる」

 

 次の瞬間にはワイヤーが絶対防御のエネルギーシールドに焼き切られたが、すでに千冬は体勢を入れ替えて回し蹴りを叩き込んでいた。

 

「ッ!?」

 

 重いISの装甲、それに人間1人分の重量を壁に叩きつけて、千冬は平然とした顔をしている

 一方、イントゥルーダーはますます困惑していた。

 

「(なんなのこの女……!? 身体能力が化け物じみてる……!)」

 

 いえ、待ちなさい……。と、自身を落ち着かせる。

 

「(いくらおかしな身体能力をしていたとしても、ISに傷をつけれるわけじゃないわ)」

 

 しかし、だからこそ不可解だった。

 

「(何の意味があって、こいつは――)」

 

 それを考えさせないとばかりに、千冬の剣撃が連続して襲いかかってくる。

 

「このッ……鬱陶しいのよ! ()えるしかできない番犬が!」

 

「ほう? 私が番犬か。ならば、お前はさしずめ(にく)にたかる野犬、といったところだな」

 

「ッ! すぐに()え面かかせてあげる……!」

 

「やってみろ」

 

 再び、戦いの火花が散った。

 

 ▽

 

「さて、こんなものかしら」

 

 特殊ファイバーロープで襲撃犯の男達を縛り上げ終えた楯無は、ふうっと一息ついた。

 

「(欧米系にアジア系、こっちはスラブ系かしら? 人種がバラバラ。恐らくどこかの(やと)い兵ね。それも装備の質からして、かなり大手の)」

 

 しかし、不可思議なのは学園のシステムが停止したことだった。

 あまりに長時間続くようなら、各教室のシャッターを破壊して外気を取り入れなければならない。

 

「(うーん、生徒会長自ら破壊行為っていうのは、さすがにちょっと……)」

 

 しかしまあ、迷ってもいられない。

 

「行きましょうか」

 

 エネルギー節約のため、ISを待機形態に戻す。

 1歩、歩き出す。

 その瞬間、無音銃の弾丸が楯無の腹部を貫通していた。

 

「え?」

 

 ブシッと血が噴き出す。

 そのまま、わけも分からず楯無は前のめりに転倒した。

 

「やっと隙を見せたか……」

 

「(しまった、私としたことが!)」

 

 縛り上げた兵士達の拘束が解けていた。

 

「(ボディチェックを怠ったわ……!)」

 

 恐らく、隠し持っていたプラズマカッターで切断したのだろう。その四肢は自由に動いている。

 

「この女はどうする?」

 

「こいつはロシア代表登録の操縦者だな。日本人のくせしてIS欲しさに自由国籍権で国籍を変えた尻軽だ」

 

 倒れ伏す楯無を見下ろしながら、リーダーの男は吐き捨てるように言う。

 

「まあ、尻軽でも使い道はあるだろうさ。取り敢えず、死なない程度に止血して、あとはモルヒネで黙らせとけ。このままISごと持ち帰る」

 

「はいよ」

 

 リーダーの言葉を聞いてからの兵士達の行動は早かった。

 まずは自殺されないように素早く猿ぐつわを楯無に噛ませる。

 

「ん、ぐぅっ!」

 

「暴れるな、面倒くせえ」

 

「っ…………!」

 

 ズキズキと骨肉を(えぐ)り取るような痛みが響く。

 楯無は首筋に打ち込まれたモルヒネによって意識が遠のいていった。

 

「(いちか……く……ん……)」

 

 なぜだろうか。無意識にその名を呼んでいた。

 そして、楯無はカクンと意識を失う。

 

 ▽

 

「ッ!」

 

 バギンッ! と鈍い音がして、千冬の刀、その最後の1本がへし折れた。

 

「終わりね!」

 

 イントゥルーダーの動きは機敏だった。

 素早く左手のブローを腹部に叩き込む。

 ――刹那、バンッ! と炸裂音が響いて千冬は吹き飛ばされた。

 

「何? 今の……」

 

 自分の手応えに疑問を持ったイントゥルーダーは、自らの左手を見る。

 そこには焼け付いた火薬の跡があった。

 

「(しまっ――)」

 

 遅れて気づいた。

 千冬どの距離は離れ、相手は指向性爆破装甲で被害は最小限。しかも、自分の周りを囲むようにして刀が大量に刺さっている。

 そして、千冬ははっきりと宣言した。

 

「『()端微塵(ぱみじん)』」

 

 その単語が引き金となって、次の瞬間全ての刀が大爆発を起こした。

 

「!?!?!?」

 

 壁の床も天井も、爆発に飲まれて滅茶苦茶に壊れていく。

 千冬は炎が追いついてくるよりも速く、廊下を走り出していた。

 

「逃がす……かァ!!」

 

 なんとか冷静さを保とうとしていたが、とうとう我慢の限界を迎えたイントゥルーダーは吠える。

 スラスターを開き、一期に飛翔する。

 逃げる千冬の背中にIS用マシンガンを叩き込む――が、まるで背中に目があるかのように、千冬はヒラリと宙返りで機銃弾をかわした。

 

「ふん」

 

 ガツッとイントゥルーダーの顔面を蹴って、その反発力で廊下を曲がる。

 そして、そのまま突き当りの部屋の中へ、ドアに体当たりをして転がり混んだ。

 

「(反響センサーではあの部屋は袋小路! 自分から墓場に飛び込むだなんてバカね!)」

 

 そう思い、出力全開のブーストをかける。

 

「はぁ!」

 

 突入すべく、ドアを蹴破る。

 部屋の中に入った瞬間、バッと照明がついた。

 

「出番だ、真耶」

 

「了解です!」

 

 ステルス・マントを引きはがす千冬。その中から現れたのは、25ミリ口径イコライザー・ガトリング砲を4基装備した【ラファール・リヴァイヴ】だった。

 

「(く、『クアッド・ファランクス』!!?)」

 

 重量と反動制御(ゆえ)に1歩も動けない代わりに最強の破壊力を手にした『固定砲台』がそこに鎮座していた。

 マズイ、と思ってももう遅い。

 

 ィィン……ヴァァアアァァアア!!

 

 砲弾が横殴りの雨のごとく降り注いだ。

 ジャラジャラと、まるで大当たりしたジャックボックスのように溢れ出す薬莢(やっきょう)。それを尻目に、千冬はテーブルのコーヒーを一口。

 

「……うん。山田先生の淹れたコーヒーは格別だな」

 

「それ、インスタントですよ。この前ホーキンスくんにオススメされたので買ってみたんです」

 

「……………」

 

 1分後、ズタボロになったイントゥルーダーは真耶に拘束された。

 千冬は若干血の味がするコーヒーを、静かに飲み終えた。

 

 ▽

 

「ひ、ひぃぃぃぃぃ!?」

「降ろせ! 降ろしてくれぇぇぇ!」

「放すなよ!? 絶対に手ぇ放すなよ!?」

「おいバカやめろ! そいつはジャパニーズの『フリ』ってやつだぞ!?」

「奴の気が変わって本当に落とされたらどうすんだ! このバカ!」

「うるせえ! バカって言った方がバカなんだ! バーカバーカ!!」

「なっ、な、なにをぅ!?」

「上等だ! テメェ海に落っことしてやる!」

「はーっ! 手足縛られた状態でできるもんならやってみろってんだ!」

「「縛られてるのはテメェも同じだろうが!!」」

「ちょっ、暴れんな暴れんな! ロープが千切れたら全員もれなくお陀仏(だぶつ)だぞ!」

 

 ワー! ギャー! と、下で宙づりになっている連中が騒がしい。IS学園を目指しながら、俺達は文字通り海の上を飛んでいた。

 

「(やっぱり、こいつら置いてきた方がよかったか……?)」

 

 もしくは全員の口に粘着テープを貼り付けとくのもありかもしれない。……まあ、今手持ちにはないのだが。

 今後に備えていくつか買ってストックしておくべきだろうな(また同じようなことが起きるのは勘弁してほしいが)。

 ――と、そんなことを考えていた時だった。

 

「……ん?」

 

 後方監視レーダーが、学園へと接近する不審な機影を発見する。

 敵の航空戦力のお出ましか? という考えが脳裏に浮かんだが、直後にハイパーセンサーがその不審機の正体を割り出した。

 

「【白式】の反応……一夏か?」

 

 あいつ、今日は倉持技研に行くって言ってなかったか? たしか、ほぼ1日がそれで潰れるってボヤいていたはずだが。

 しかし、件の一夏と【白式】は連続の瞬時加速で音速を叩き出しながら、何かに()き立てられるようにIS学園へと入って行ってしまった。

 

「(ただごとじゃない様子だったが……)」

 

 どうにも嫌な予感がした俺は速度を上げて学園に戻る。

 それから、逃げ出さないようにと兵士達を縛るロープを学園の正門に固くくくり付け、一夏のあとを追うのだった。

 

 ▽

 

 ――一夏。

 

「(呼んでる。誰かが俺を呼んでいる……!)」

 

 それならば、行かねばならない。応えねばならない。

 

「(俺は(・・)織斑(・・) 一夏(・・)なのだから(・・・・)!)」

 

 瞬時加速で連続ブーストをかけながら学園内へと進入する一夏。

 いつも学園を覆っているはずのエネルギーシールドが消失していることに疑問を感じながら、さらに瞬時加速を行おうとした時だった。

 

「!?」

 

【白式】のハイパーセンサーが何かの反応を捉える。

 

「あれは……!」

 

 学園の渡り廊下、黒いアサルトスーツを着た男達に運ばれながら気を失っている楯無がいた。

 

「その人を――」

 

 瞬時加速。意識を一点に集中させる。

 

「放せぇぇぇぇぇぇぇッ!!」

 

 突撃と同時に男達を振り払い、楯無を確保する。そのまま一夏は真下の地面に荷電粒子砲を撃って敵の視界を奪う。

 

「らあああああっ!」

 

 速度を乗せた一蹴(いっしゅう)

 その一撃で6人の男達をまとめて壁に叩きつけた。

 

「楯無さんっ! 楯無さんっ!?」

 

 一夏は必死で名前を呼ぶ。生命反応があるから死んでいないのは確かだ。――が、モルヒネを投与された楯無は目を覚まさない。

 

「楯無っ!」

 

 一際強く名前を呼ぶと、やっとその(まぶた)が開いた。

 

「ん……。いち、か……くん……?」

 

「よかった……! すぐ医療室へ連れて行きますね!」

 

 安堵(あんど)の息を吐く一夏。

 しかし、そんな2人の背後で、運良く意識を保っていた傭兵の1人がピストルをホルスターから静かに引き抜いていた。

 マガジンの中に込められているのは、耐弾性を誇るISスーツをも容易く貫徹できる特殊徹甲弾。

 

「はぁ、はぁ……」

 

 今にも意識を手放しそうになりながら、照準を楯無の心臓へと向ける。

 そして――

 

 ズシィンッ!

 

 トリガーを引こうとした瞬間、傭兵の右隣でいきなり重量感のある着地音が響いた。

 

「!?!?」

 

 ハッとして即座に銃口を向ける――が、手を蹴り上げられてピストルが飛んでいく。

 ゴキッという痛々しい音とともに蹴られた手の骨が折れて悲鳴が漏れるが、そこに容赦のない追撃が待っていた。

 

「ぶぐぇッ!?」

 

 マスクに覆われた顔の、その中心――鼻っ(つら)を狙ったパンチに、傭兵の意識は今度こそ刈り取られた。

 

「ウィル……?」

「ウィリ、アムくん……?」

 

 鼻先が潰れた顔のまま白目を剝いて気絶する傭兵と、その状況を作った張本人とを、一夏と楯無は困惑した様子で視線を行き来させる。

 

「IS学園へようこそ。クソどもめ」

 

 そう吐き捨てるように告げたのはウィリアムだった。

 

「う、ウィル、そいつ……」

 

「ああ、殺しちゃいないから大丈夫だ。しばらく痛みで地獄のような生活にはなるだろうがな」

 

 明日の日の目を拝めるだけマシだろ、と言ってダウンした傭兵を一瞥(いちべつ)する。

 

「俺からも訊きたいことがあるが、そいつは後回しだな。一夏、楯無先輩を。……そっとだぞ」

 

「ああ。楯無さん、もう少しの辛抱ですからね!」

 

「待って……地下……この場所に、……行って。織斑先生達も……そこに……」

 

「分かりました!」

 

「よし、邪魔な隔壁の破壊は任せろ。お前さんは先輩を揺らさないように運べ」

 

「おう!」

 

 受け取ったデータを元に、一夏はウィリアムとともに校舎の廊下を飛翔する。

 

「楯無さん、血が……撃たれたんですか!?」

 

「へーき……」

 

 えへへっと楯無は笑うが、その顔にいつもの余裕はない。

 

「一夏、その怪我は腹から背中側まで通っているか?」

 

「ああ。たぶん貫通してる!」

 

「弾は(ぬけ)ているか。それなら安心、とは言えないが、処置をすれば死ぬことはない。大丈夫だ」

 

「ウィル、いったい何がどうなってるんだ? 説明してくれ!」

 

「ああ。ことの始まりは……――」

 

 地下への最短ルートを邪魔するシャッターをハイドラロケットで吹き飛ばしながら、ウィリアムは一夏に学園が正体不明の勢力に襲われている(むね)の説明を始めた。

 

 ▽

 

「――……俺が知っているのはここまでだ。――よし、着いたぞ」

 

「ここか!」

 

 パネルを操作してドアを開くと、中には織斑先生と山田先生、それに襲撃犯の1人であろう女が拘束されていた。

 

「千冬姉!」

 

「説明はあとだ! 織斑! ホーキンス! すぐに篠ノ之達の救援に向かえ!」

 

「「救援!?」」

 

 まさか、電脳世界とやらでラウラ達の身に何かあったのか……!?

 

「位置情報を転送する! 急げ!」

 

「は、はいっ!」

「イエス・ミスッ!」

 

 俺達は楯無先輩を山田先生に任せて、来た時と同じように全速力で廊下を進んだ。

 

「ちくしょう! ラウラ達に手ぇ出したクソ野郎を見つけたらぶん殴ってやる!」

 

「俺にも殴らせろ! そいつが何者かはわかんねえけど絶対に許さねえ!」

 

 確かな怒りの感情に拳を握りしめながら、教えられた部屋の前でISを解除し、中へと入る。

 その真っ白な部屋の中には、眠っているラウラ達と、狼狽(うろた)える簪がいた。

 

「あ……。2人、とも」

 

「簪? 状況を教えてくれ」

 

「悪いがほとんど何も聞かされていなくてな」

 

「え、ええと……」

 

 口下手な簪に詰め寄って説明を急がせるのは悪かったな。

 そう思っていると、メールの着信メロディーが鳴った。

 

『織斑くん、ホーキンスくんへ。

 今現在このIS学園は何者かのハッキング攻撃によって無力化されています。

 コントロールを奪還すべく電脳世界に進入した篠ノ之さん達も、同様に何かしらの攻撃を受けて連絡がつきません。また、このままでは目覚めることもないでしょう。

 そこで2人には同じようにISコア・ネットワーク経由で電脳世界へダイブし、みんなの救出をお願いします

 よろしく頼みます。

 更識 簪より』

 

 ……オーケーだ。まだ不確かなことも多いが、やってやる!

 

「それで、電脳世界にダイブってどうするんだ!?」

 

「あれか? なんか催眠電波を出す的なハイテク装置でもあるのか?」

 

「……………」

 

 簪が手にスタンガンを持っている。……おい、まさかとは思うが……。

 

「おい、かんざ――」

 

 バリバリバリバリバリバリバリッ!!

 

「ししししししぃぃぃぃ!?」

 

 バタリと、横で膝から崩れ落ちて動かなくなる一夏。ワオ、超ローテク。

 

「ストップ、ストップだ簪。『次は君ね』みたいな感じで俺の首元にそいつを近づけるのはよしてくれ。そもそもそいつをどこで手に入れた?」

 

「お姉ちゃんが、護身用に持ってなさい、って……」

 

 あんのシスコン生徒会長め……。

 

「と、とにかく、せめてスタンガン以外の方法にしてくれ。電気だけは勘弁だ」

 

「じゃあ、これ……」

 

「なんだこれ?」

 

 ゴソゴソと鞄の中から出されたのは、ラップに包まれたBLTサンドだった。

 

「サンドイッチでどうやって――モガァッ!?」

 

 有無も言わさず口に押し込まれるBLTサンド。こ、これは、この強烈な味は……!

 

「せ、セシリアの……惨弩逸散(サンドイッチ)ぃ……!?」

 

 口いっぱいに形容しがたい味が爆発的に広がっていく。

 辛い。

 甘い。

 酸っぱい。

 苦い。

 マズイ。

 ヤバい。

 口の中が味のパンドラボックスのようだ。

 意識が……持って行かれる……。

 

「おい! あの危険物はキッチリと無毒化した上で地中深くに埋めとけよ!」

 

 ガバッと身を起こす俺。

 ――ん?

 いつの間に横になったのか。そして、目の前に広がる草原は何なのか。

 

「ウィル、起きたか?」

 

「あぁ、一夏か。……ここがその電脳世界って所か?」

 

「みたいだな」

 

《森の中に急いで。そこにあるドアの先にみんながいるはず》

 

 簪の声が頭の中に響いた。

 

「「了解!」」

 

 俺達は力強くうなずいて、駆け出した。

 

 

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