インフィニット・ストラトス 蒼空に鮫は舞う   作:Su-57 アクーラ機

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7話 クラス代表

「まったく、お前という奴は……。無闇矢鱈に突撃してどうする」

 

 試合が終わり、Aピットに戻った俺の横では織斑先生が額に手を当てて、はぁ……と溜め息をついていた。

 そして、そんな彼女の前に立っているのはすごく物申したそうな表情をした一夏だ。

 

「私はイノシシを弟に持った覚えは無いんだが?」

 

 ジトーっとした目付きで一夏を見据える織斑先生。

 

「で、でも千冬姉──じゃなかった、織斑先生。俺の【白式】、武装がブレードだけ(・・・・・・)だったんですよ?」

 

 は? お、おいおい、武装がブレードだけってのはいったい何のジョークだ? 確かにあいつは試合中ブレード以外使ってこなかったが……え? マジで?

 

「ジョーンズ中尉、一夏の言っていた事ってマジなんですか?」

 

「……ああ。マジもマジ、大マジだよ。補給を済ませた君が出たあと、ちょうど織斑くんの最適化(パーソナライズ)が終わったんだけどね、“俺もウィルみたいに機銃とかミサイルとか撃てるのかな~”と言ってワクワクしていた矢先に、あれ1本だけが出て来たんだ」

 

「えぇ……」

 

「その時の彼の表情は忘れられないよ。あまりにも不憫で……」

 

 実際に見てはいないが、俺もその時の一夏の姿が容易に想像できてしまう。例えるなら……そう、誕生日に欲しかった最新のゲーム機を渡され、興奮しながら箱を開けると中にはボードゲームが入っていた感じだ。つまり、上げて落とす。

 一夏……お前、そんな事があったにも関わらず試合であれだけの事をしたのか。普通なら多少なりともモチベーションが下がってしまうもんだが……お前のガッツは素直に称賛ものだよ。

 そう思いがら、再度一夏と織斑先生の元に視線を移す。

 

「織斑、私が言いたいのはただ突撃するだけの動きは止せという事だ。もう少し冷静になってみろ。後半、ホーキンスの策に引っ掛かったのも下手に追い回そうとするからだ」

 

「むう……確かに、言われてみれば……」

 

 織斑先生の言葉を素直に受け止めて頷く一夏。

 

「明日からはそれらも踏まえて訓練に励め。いいな?」

 

「はい」

 

「よし、では最後にオルコットとの試合だな。急いで支度しろ。……あー、待て一夏(・・)

 

 ピット・ゲートへ歩いて行こうとする一夏を織斑先生が呼び止めた。

 

「?」

 

「試合開始時のあの動きは、見事だった」

 

 恥ずかしそうに少し顔を逸す織斑先生から告げられた言葉に、一夏はキョトンとする。

 

「次の試合も気張って行けよ」

 

「……! ああ。ありがとう、千冬姉。行ってくる」

 

 ニカッと笑いながら、修理を終えた【白式】を展開した一夏はピット・ゲートからコートへと勢い良く飛び出して行った。

 

「まったく、手間の掛かる弟だ」

 

 一夏の後ろ姿を見送ったあと、ふっと笑いながらそう呟く織斑先生。

 普段は厳しい言動の目立つ彼女の意外な一面を見た俺は、ニヨニヨと自分でも気持ち悪いと思う表情を浮かべてそれを見ていた。はははっ、このツンデレめ。本当は照れているのがまる分かりですよ織斑先生──

 

 ガシッ

 

「ひょっ?」

 

 織斑先生がこちらに歩いて来たと思った次の瞬間、視界が塞がれて真っ暗になった。どうやら顔を掴まれたようだ。……待て、掴まれた(・・・・)

 

「……? 織斑先生、いったい──ッ!?」

 

 ギリリリリリッと側頭部に込められる凄まじい力。それと同時に鈍い痛みが脳に伝達され、そして理解した。俺は今、織斑先生にアイアンクローを喰らわされているのだと。

 

「いだ、いだだだだだだッッ!!」

 

「…………」

 

 なんとか脱出を試みるが一向に離してくれる様子は無く、その万力のような力が一切緩められる事は無い。

 

「は、離して下さい! ホントっ、頭潰れますって!」

 

「私はからかわれるのが嫌いでなぁ」

 

「すっ、すすっ、すみませんでした! もう先生の事をツンデレだなんて思いませんから! ──ハッ!?」

 

 やっべぇ……俺、今余計な事を口走って……!!

 

「……ほう?」

 

 メキメキメキ……!

 

ぐああああああッ!?

 

 ピット内に木霊(こだま)する俺の叫び声と、一夏 対 オルコットさんの試合開始のブザーが重なった。

 

 

 

 

 

 

『試合終了。勝者、セシリア・オルコット』

 

 アナウンスが告げた通り、3試合目の結果は一夏の敗北で終わった。

 開始当初の一夏は上手く立ち回れていたのだが、1試合目の俺との戦いでオルコットさんは慢心を捨てたのか、正確な射撃とビットの猛攻によって彼は徐々に押され始めたのだ。彼は最後の最後でオルコットさんの隙を突いて一気に肉薄していたが、あと少しで一撃を与えられるというところで【白式】のシールドエネルギーが切れてしまい、そして試合は終了した。

 

「一夏の奴、惜しかったな……いててっ……」

 

 試合の途中でビットの弱点を見破ったり、近接主体の【白式】で中距離射撃型の【ブルー・ティアーズ】をギリギリまで追い込んだり、なかなか良いセンスをしていただけに実に惜しい結果だ。

 このあと、ピットに帰って来た一夏は織斑先生から「武器の特性も頭に叩き込むんだな」と言われ、山田先生からは『IS起動におけるルールブック』という表題の百科事典並みに分厚い本が贈呈されてゲッソリしていた。

 

「なあウィル、お前、なんか顔の周りに赤い……手形? みたいなのが着いてるけど、どうしたんだ?」

 

「…………なに、ちょっと織斑先生から生徒指導を受けてな」

 

「あっ……」

 

 ▽

 

 試合を終えて、今は寮への帰り道の途中。不意に箒が口を開いた。

 

「一夏」

 

「ん、何だ?」

 

「その、なんだ……負けて悔しいか?」

 

「そりゃ、まあ。悔しいさ。ウィルに負けて、セシリアにもあと少しのところで負けたんだからさ……」

 

「そ、そうか。そうだな、うむ」

 

 先程から妙にソワソワしている箒は歯切れも悪い。

 

「だが一夏、こいつは気休めでも何でもなく、お前は良いセンスをしている。訓練を積めば間違いなく強くなるぞ?」

 

 一夏と箒の会話が途切れて沈黙が走っている合間に俺は彼に対する率直な意見を述べた。

 

「うぃ、ウィリアムの言う通りだ。お前には伸び代がある。あ、明日からはあれだな、ISの訓練も入れないとなっ」

 

「俺も教えられる範囲でなら手を貸すさ。まだ入学してから日も浅い。時間はたっぷりある」

 

「おお、助かるぜ。ウィルと箒に教えてもらえるなら百人力だな」

 

「そ、そうか……。そうかそうか。うむ、任せておけ。ふふっ」

 

 途端に嬉しそうに声を弾ませる箒。よほど嬉しいのか、長いポニーテールの先を指に絡めてはほどくを繰り返している。おまけに顔も少し赤らんでいる。……もしかして箒は一夏の事が……成程、そういう事か。

 

「ところで箒」

 

「何だ?」

 

 上機嫌な笑みを浮かべながら、箒は一夏の声に反応する。

 

「さっきからソワソワしてるけど、トイレに行きたいのか?」

 

 バシーンッ!

 

「ぐはぁ!?」

 

 目にも止まらぬ速度で抜かれた竹刀(しない)の音が一夏の頭頂部で炸裂した。一夏、デリカシーって言葉を知ろうぜ。何でよりにもよってトイレなんだよ。

 

「……箒、お前も苦労してるんだな」

 

「分かってくれるか、ウィリアム」

 

「ああ。筋金入りの唐変木だな、これは」

 

「「……はぁ……」」

 

 潰れたカエルのような姿勢でピクピクしながら地面に倒れ伏す一夏を見て溜め息を溢す俺と箒。っと、こいつを早く起こしてやらんとな。

 

「ほれ起きろ、ミスター唐変木。こんな所で寝てたら風邪ひいちまうぞ」

 

「んぁ? ウィル、俺は何を……」

 

「お前さんが女子に失礼な事を言って派手にしばかれたんだ」

 

 一夏を立たせ、服についた砂埃を払い落としてやりながら彼を『ミスター唐変木』と呼んで呆れるウィリアム。そんなウィリアム自身もいずれその『ミスター唐変木』と化してしまうのだが、それはもう少し先のお話。

 

 ▽

 

 翌日、朝のSHR。

 

「では、1年1組代表は織斑 一夏くんに決定です。あ、一繋がりで良い感じですね!」

 

「ん?」「は?」

 

 山田先生は嬉々として喋っている。そしてクラスの女子も大いに盛り上がっている。しかし、そんな中で俺と一夏だけは首を傾げていた。

 

「先生、質問です」

 

「はい、織斑くん」

 

「俺は昨日の試合に全て負けたのに、何でクラス代表になってるんでしょうか」

 

 一夏の質問はごもっともだ。俺もすごく気になっていたしな。

 

「それは──」

 

「それはわたくしが辞退したからですわ!」

 

 ガタンと立ち上がり、早速腰に手を当てるポーズをするのはオルコットさんだった。そのポーズは様になっているが、それより彼女の雰囲気が前までのあの怒った感じから一転、上機嫌に見えるのは俺の気のせいか?

 

「まあ、勝負はあなたの負けでしたが、しかしそれは当然の事。なにせこのわたくしセシリア・オルコットが相手だったのですから」

 

「じゃあウィルは? お前だってウィルに負けてただろ? 試合に出た中ではウィルがトップだったじゃないか」

 

「う゛!? そ、それは……」

 

 オルコットさんがバツが悪そうな顔で俺に目を合わせてくる。

 

「それについては俺も辞退したんだ。お前は知ってると思うが、俺の【バスター・イーグル】は推進力の大半をジェットエンジンから得ている。当然、エンジンには燃料が必要だ。しかもこいつは大食らいでな」

 

 今、待機形態のドッグタグになって首に掛けている【バスター・イーグル】から「悪かったな、大食らいでっ」と不貞腐れたような声が聞こえた気がしたんだが……気のせいか?

 

「試合を終える度に補給するのは結構大変なんだよ。ピット内に給油装置が置かれてるなら話は別なんだが……」

 

 その内、燃費を大幅に向上した新しいエンジンが届くらしいがそれはまだ先の話で、それまでの間は高燃費のままというわけだ。

 

「まあ、そういう理由で今回パスさせてもらったんだ」

 

 本音を言うとクラス代表が面倒でパスさせてもらったのだが、まさかオルコットさんが一夏に代表を譲るとは俺も予想外だった。

 

「それで、まあ、わたくしも数々の非礼を反省しまして、一夏さん(・・・・)にクラス代表を譲る事にしましたの。IS操縦には実戦での慣れが何よりの糧。クラス代表ともなれば戦いには事欠きませんわ。それならばウィリアムさん(・・・・・・・)よりも、まだISに不慣れな一夏さん(・・・・)に譲った方がよろしいと思いましたの」

 

 成程、確かに合理的な考えだ。──ん? ちょっと待てよ? 今俺と一夏を名前で呼ばなかったか?

 

「そ、そんな、嘘だろ……」

 

 望みが絶たれた一夏はみるみるこの世の終わりのような顔に変わっていく。悪く思うなよ、一夏。

 

「そ、それでですわね、一夏さん……」

 

 コホンと咳払いをして、顎に手を当てるオルコットさん。顔を赤らめ、モジモジしている様は昨日の箒の姿に非常に酷似していた。……まさか、オルコットさんも一夏にお熱なのか? 経緯は知らんが、よくモテる奴だ。

 

「わたくしが専属でISの操縦を教えて差し上げてもよくってよ。 その、2人きりで──」

 

 バンッ! と机を叩く音が響く。立ち上がったのは箒だった。

 

「生憎だが、一夏の教官は足りている。既に決めた事なのでな」

 

 殺気立った瞳でオルコットさんを睨む箒。

 

「あら、それはいつのお話かしら?」

 

 負けじと睨み返すオルコットさんと箒の間ではバチバチと火花が散っていた。はぇ~恋する乙女はおっそろしいもんだなぁ。

 などと他人事のようにその光景を見ている俺だったが、次の箒の言葉で自分にも飛び火する事になる。

 

「つい昨日の話だ。ここに証人もいるぞ。そうだろう、ウィリアム?」

 

 ……は? ……はあ!? お、俺に話を振るなよ! イエスと言って殺されりゃあ良いのか!? それともノーと言って殺されりゃあ良いのか!? いやまあ、冷静に考えてみれば殺される事は無いと思うけど…………な、無いよな?

 

「……ウィリアムさん、それは本当ですの?」

 

「えと……そ、それはー……」

 

「「…………」」

 

 女子2人から穴が開きそうなほどの視線を向けられ、俺は助けを求めるように周囲に視線を巡らす。

 

「(だ、誰か……あっ!)」

 

 ちょうど織斑先生と目が合った。お、織斑先生! あなたならこの事態を終息させられる筈です! どうかお助けを!

 

「…………」

 

 俺の願いも虚しく、フイッと無言で目を逸らされた。

 

「」

 

 ……目ぇ逸らしてんじゃないよ! 畜生! あんたなんて担任じゃねえ!

 

「ウィリアム、早く答えろ」

「ウィリアムさん、早く答えて下さいまし」

 

 圧の籠った催促の声に俺は肩をビクッと跳ねさせる。ちなみに一夏はというと、箒とセシリアって何でこんなに仲悪いんだ? といった風の表情を浮かべていた。お前が火種だよ、早く消火器持って来い! 中身全部お前に噴き掛けてやる!

 

「2人とも、もう直ぐ授業が始まりますから着席して下さいね」

 

 心の中で一夏に恨み言を垂れているところに、突如救いの手が差し伸べられた。声の主は我らが副担任の山田先生だ。

 

「「はい……」」

 

 渋々、席に着席する箒とオルコットさん。た、助かった。山田先生、本当にありがとうございます……!

 

「さっ、これで朝のSHRは終わりです。みなさん、1限目の準備をして下さいねー」

 

 ニッコリ笑顔の山田先生の一声で、クラス中の生徒が教科書やノートを机に広げ始める。取り敢えず、一夏にはあとで今日の昼飯を奢らせよう。そのあとは購買で……。

 机に教科書を置きながら、俺は一夏に対する報復の計画を着々と練るのだった。

 

 

 

「ホーキンスくん、ホーキンスくん」

 

「うん? 何かな?」

 

「篠ノ之さんとオルコットさんがね、『話はまたあとで』だって」

 

「……Holy shit(なんてこった)

 

 

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