※現在明らかになっているジョブ数を一万から千に変更。流石に多すぎたかなと。
□王都アルテア・冒険者ギルド前 ミュウ・ウィステリア
「と、言うわけで、やっと到着しました冒険者ギルド!」
何故か妙にテンションの高い姉様が、虚空に向かってたった今到着した冒険者ギルドの紹介をしているのです……姉様、異世界転生・転移物のラノベとかが好きですからね。
「ミカ、一体誰に話しかけているんだ?」
「とりあえず中に入りましょう姉様」
「ぶー、二人とも反応が塩いよー」
そんな姉様の言動をスルーした私と兄様は冒険者ギルドへと入っていき、そんな私達の反応に少しむくれた姉様もその後に続きました。
そんな冒険者ギルドの中は思っていたよりも遥かに綺麗で、その雰囲気は現実での市役所などの公的機関を思わせるものでした……しかし、中に居る人達は鎧や武器を身に付けている人が多く、彼等の雰囲気や足運びからその殆どが“戦う人間”である事も伺われました。
「……冒険者ギルドと言うからには荒くれ者の集まりみたいなのを期待してたんだけど……」
「国がやっている公共機関ならこっちの方が普通だろう。……ほら、さっさと受付に行くぞ」
「ハイなのです」
そう言って兄様が姉様を連れて受付に向かって行ったので、私も周りの人の観察を終えてその後を追いました……幸いにも空いている受付があったので、そこに居た受付嬢さんに話を聞く事にしましょう。
「済みません。俺達は今日この世界に来たばかりの<マスター>なんですが、南門駐屯所に居た騎士さん達から『この冒険者ギルドでならジョブやクエストの詳しい説明を聞く事が出来る』と聞いて来たのですが」
「ああ成る程、<マスター>の方達でしたか。……分かりました。では、簡単な説明だけをする事も出来ますが、この冒険者ギルドでは簡単な訓練やジョブ適正の審査、初心者用アイテムの配布などを行う初心者講習を一人千リルで受ける事が出来ますが、どうしますか?」
兄様が受付に居た金髪ロングで碧眼の美人受付嬢さんにその様な質問をしたら、彼女からその様な提案されました……さて、どうしましょうか?
「千リルか〜、結構高いね。どうする?」
「受けてもいいんじゃないでしょうか。……私達はまだこの世界について殆ど知りませんし、ここでの戦い方が分かるのなら千リルぐらいなら安いかと」
「まあ、序盤には少し痛い出費ではあるが、また稼げばいいだけだし……「それでは、私から一つ提案があるのですが、初心者講習の費用を無しとする代わりに一つとあるクエストを受けて貰えないでしょうか?」
受付嬢さんの提案をどうするのかを私達が相談してまあ受けてもいいかなと考え始めていた時に、その彼女からそんな提案を持ちかけられました。
「千リルを払わなくて済むのなら助かるのですが、その“とあるクエスト”の内容はどんなもの何ですか?」
「はい、そのクエストの内容というのは『<マスター>と言う存在についての情報提供』になります。……実は、私達冒険者ギルドを始めとするこの国の公共機関は【猫神】や<DIN>から『今日から多くの<マスター>がこの世界に現れる』と言うことは聞いて居たのですが、<マスター>の情報自体は伝説に語られている様なものしか知らないのです」
そこから彼女が語った<マスター>の情報は騎士さん達から聞いたものと殆ど同じ不死である事や、<エンブリオ>に選ばれた者といった内容でした。
「ですが、昨日あたりから来た<マスター>達の行動は、これまで私達が抱いて来た<マスター>のイメージとズレているものが多く……これからこの世界に現れる<マスター>が増えていくとするなら、より詳細で正しい情報を得て置いた方が良いと私は考えたのでこのクエストを出させて頂きました」
「成る程〜!」
「後、貴方達は何故か奇行ばかり行う他の<マスター>よりも話が通じそうな事も理由ですね」
「成る程〜……」
どうやら、色々と手探りなのはティアンの人達も同じの様ですね……まあ、いきなり不死身で超常的な力を持ち、価値観もかなり違う人間が大量に現れて何の問題も起きない筈はないですよね……。
「二人はどう思いますか? 私は受けてもいいと思うのです」
「うん、私も受けた方が良い気がする」
「まあ、コッチに損はなさそうだしな。……分かりました、そのクエストをお受けします」
「ありがとうございます。……申し遅れましたが、私は王都アルテア冒険者ギルドにおいて受付嬢をしておりますアイラ・ローランと申します。本日はよろしくお願いします」
【クエスト【相談──アイラ・ローラン 難易度:一】が発生しました】
【クエスト詳細はクエスト画面をご確認ください】
私達が彼女──アイラさんからのクエストを受託すると共に、そんなアナウンスが表示されました……こう言うところはゲーム的なんですね。
「それでは、あまりここで話を続ける訳にも行きませんので奥の個室へご案内します。こちらへどうぞ」
私達はアイラさんの案内で冒険者ギルド内にある個室に向かいました。
◇
「なるほど、やはりこれからこの世界に来る<マスター>は、以前からいた<マスター>とはだいぶ違うようですね」
「そうみたいですね。……と言っても、<マスター>個人個人で価値観や行動パターンも全く違いますから、<マスター>と言う括りで見すぎるのは誤解を生むかもしれません」
「私達を含めて<マスター>達は基本的にこの世界には遊びに来てるからね。人によって楽しみ方は違うからね」
「<マスター>は良くも悪くも“自由”ですから。善行を成す人も、悪逆を成す人も、これからはそれぞれ現れると思うのです」
あれから私達はアイラさんに<マスター>と言う存在について可能な限りの事を話しました……さっき騎士さん達に話したこと以外にも、初期の所持金や初期装備、この世界にいられる時間には個人差が大きい事なども伝えました。
……まあ、この世界が<マスター>の中ではゲームとして扱われているとかは、遊びに来ているなどと表現してある程度ぼかして話しましたが。
「<マスター>がこちら側に居られる時間が限られている以上、長時間の護衛依頼などは難しいですか。……ギルドとしては<マスター>が受けやすい依頼を纏めておいた方が良いかもしれませんね」
「人によるだろうけど、多分モンスター討伐みたいな派手なクエストが人気になると思うよ。逆に採取系とかは人気があんまり無いかも」
「<マスター>は不死身だから命の危険もある程度は気にしないだろうし、どちらかと言うと時間単位での報酬が良いクエストは人気になりやすいでしょう」
「ジョブクエストは特定のジョブに就いた人にしか受けられませんし、複数種のジョブでパーティーを組んでいる<マスター>には冒険者ギルドの方が使いやすいかもしれませんのです」
そんな感じで、私達とアイラさんは大体二時間程<マスター>の事やこの世界の詳しい情報を話し合いました。
「……皆さま、今回は貴重なご意見を聞かせて下さって誠にありがとうございました。今回の意見は冒険者ギルドの<マスター>に対する姿勢の良い参考になると思います」
「いえ、こちらこそ色々な話を教えてくれて感謝しています。……中には、詳しく知らなかったなら致命的な情報もありましたし」
「<マスター>同士の争いはこの世界の法律でのノータッチだとか、<監獄>の事とか、<
「誰か<Infinite Dendrogram>のwikiとか作ってくれませんかね。……物凄く大変そうですが」
今までにこれだけ沢山の情報が出て来ましたが、それらですらこの世界では一般常識レベルのお話らしいですしね……兄様は『これらの情報は掲示板とか使って拡散した方がいいか?』と呟いていましたし。
【クエスト【相談──アイラ・ローラン 難易度:一】を達成しました】
と、思っていたらそんなアナウンスが表示されました。どうやら、これで彼女からのクエストは達成と言う扱いの様ですね。
……まあ、後の<マスター>とティアンの関係はこれから手探りで進めていく事になるのでしょう。
「それでは、これからは初心者講習を始めさせて頂きます。……もっとも、主な説明は既に終わっていますので、これから私がするのは貴方達が初めて就くジョブ選択の手伝いと簡単に戦闘指導、そして初心者用アイテムの配布になりますが。……後、配布されるアイテムはクエスト報酬分も含めて多少色を付けさせて貰います」
「何から何までありがとうございます」
そう言って、改めてこちらへ向き直ったアイラさんは左手人差し指に付いている指輪から一冊の本を取り出しました……どうやら、あの指輪は【アイテムボックス】の様ですね。ああいうタイプのも有るんですか。
「皆様にはこの【適職診断カタログ】をお貸しします。……このカタログには現在確認されているジョブの情報が載っており、更に質問を通じて今就けるジョブに中で一番合っているジョブを探す事が出来ます。……まあ、本当に最適とは限りませんが指針にはなりますし、それでも分からない事があればいつでも質問して下さい」
「分かりました」
兄様は手渡された【適職診断カタログ】を受け取って開き、早速質問機能を使って『現在就くことのできる戦闘型の下級職』を表示させました……成る程、今のところ私達は生産をやる予定は無いですし、これなら今就けるジョブを探すのも楽そうですね。
えーっと、載っているのは【
「……お兄ちゃん、もっと絞った方がいいんじゃない?」
「じゃあ、どんなジョブに就きたいのかを言ってくれ。……俺がこの形式にしたのは、どんなジョブがあるのかを一通り確認する為だしな」
「では兄様、私は格闘系のジョブを見てみたいのです」
これでも、私は護身術の道場に通っているので格闘技にはそこそこの自信があるのです……後、武器を使うのはちょっと性に合わないので。
……そして、兄様がカタログに『今就ける格闘系ジョブ』を質問すると【
「……ふむ、格闘系だけに絞っても結構有りますね」
「この世界のジョブ多過ぎない? 一体いくつ有るんだよ」
「転職条件がロストしたものなども有りますので正確な数は私も分かりませんが、現在明らかになっているだけでも千は優に超えるでしょう」
そんな姉様が言った愚痴にもアイラさんが真面目に答えてくれました……もう何度思ったか分かりませんが、この世界ゲームとしては自由度高過ぎじゃないですかね?
その後、私達は『ジョブを全部確認なんて何日かかるか分からない上に最悪ジョブはリセットも出来るらしいから、とりあえず適当に就くジョブを決めよう』と言う話になりました。
「私はせっかくだし派手に戦える前衛系、【戦士】とかがいいかな。ミュウちゃんはやっぱり格闘系?」
「はい、とりあえず【格闘家】辺りにしようかと。……兄様は昔剣道をやっていましたし【剣士】とかですか?」
「いや、パーティーで前衛三人というのもバランスが悪いし、せっかく剣と魔法のファンタジー世界に来たんだから魔法系のジョブとか良いと思ってるんだが……悩むな。……<エンブリオ>が生まれれば何かの指針になるんだが」
そう言ながら、兄様は左手の甲にある卵──第ゼロ形態の<エンブリオ>を見つめました……アリスさんは孵化して第一形態になったら外れると言っており、もうログインしてから結構経ちましたがいつ生まれるのでしょうか。
……そう思っていたら、突然兄様の<エンブリオ>が光を放ち始めました。
「お、お兄ちゃんっ⁉︎ なんか光ってる! 光ってる!」
「うおっ! ……多分、これは孵化の合図だよな。……爆発とかはしないよな?」
「流石にそれは無いと思いますが……。あ、姉様のも光ってますよ」
「えっ⁉︎ ホントだ! 私の卵も生まれそう!」
いきなりだったから流石の二人もてんやわんやしてますね。あちらのアイラさんも目を丸くしていますし。
……しかし、私の左手は全然光りませんね。引っ掻いたりつついたりしても反応が無いですし、孵化までの時間には個人差があるのでしょうか?
「<マスター>における最大の目玉である<エンブリオ>! 一体どんなのが生まれるのかな〜」
「まあ、ジョブを選ぶ前だったからタイミングは良かったか」
「……私のは光ってませんけどねー」
……別にいいですもん。<エンブリオ>なんて無くても殴ればいいだけですし。
あとがき・各種設定解説
末妹:実は内心自分の<エンブリオ>が孵化しない事にちょっと危機感
・一眼見れば相手の大雑把な戦闘能力を見抜く洞察力を持っている。
兄:でも掲示板とか書き込んだ事無いしなぁ……どうしようかなぁ……
妹:私の<エンブリオ>は一体どんなのかな〜
アイラ・ローラン:王都アルテア冒険者ギルドの人気受付嬢
・現れ始めた<マスター>の奇行を聞いて、伝説では無い彼らの詳しい情報を知るべきだと考えていた。
・なので、三兄妹に初心者講習を先に持ちかけて、クエストを受けたくなる様な状況を作ったりしていた。
冒険者ギルドの初心者講習:実は今利用する人間は殆どいない
・元々はアルター王国が作られた直後に邪神との戦いで出来てしまった戦災孤児などの救済策として作られた制度で、前金の千リルも無利子の借金に出来る様になっている。
・しかし、時代が安定して来てからは、冒険者ギルドに来る前にそう言った情報や訓練をしておく人間が殆どになった為廃れていった制度。
読了ありがとうございました。
次はようやく兄と妹の<エンブリオ>紹介編になります。