とある三兄妹のデンドロ記録:Re   作:貴司崎

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前回のあらすじ:妹「さぁ! 初めてのモンスターとの戦闘……ってキモッ!」兄「しょうがない、やるしか無いだろ」末妹「大丈夫、殴れるなら何とかなるのです」

※アイテム説明を一部変更。


初戦闘、そして出発

 □王都アルテア冒険者ギルド・訓練室

 

 王都アルテアにある冒険者ギルド、そこの訓練室ではウィステリア兄妹と【チュートリアル・ブラックホムンクルス】との戦闘(訓練)が始まっていた。

 

『KYASYAAAAAAAAaaaa──ッ!!!』

 

 まず、【ジュエル】から解放された【チュートリアル・ブラックホムンクルス】がその製作時に与えられた命令に従って、自身を解放したレントに襲い掛かりその歪に捩じくれた爪を振り上げた。

 

「チィッ!」

 

 ……出てきた相手の醜悪な見た目に面食らっていたレントだが、相手がこちらに向かって来るや否や即座に気を切り替えて距離を取る為に後ろに飛び……。

 

「セイハーッ!」

『GYAAAッ⁉︎』

 

 その間に【ブラックホムンクルス】動き出すよりも()()()()()()()ミカが両手に持った大型メイス──彼女の<エンブリオ>【撃災棍 ギガース】を割り込ませてその爪を防ぎ、そのまま【ギガース】を振り抜いて相手を吹き飛ばした。

 ……この【チュートリアル・ブラックホムンクルス】は醜悪な見た目と違い、STRを含む()()()ステータスは王都周辺に出現する【リトルゴブリン】と大差無い程に低く設定されているので、現在ミカのSTRでも余裕で吹き飛ばす事が出来たのである。

 

『KYASYAッ!』

「あら、結構頑丈だね」

「戦闘訓練用だからか?」

 

 しかし、吹き飛ばされた【ブラックホムンクルス】はそのまま体勢を立て直して再び兄妹に向き直った……レントの想像通り【チュートリアル・ブラックホムンクルス】は初心者に多くの戦闘経験を積ませる事を目的に作られている為、そのステータスはENDをやや高く、HPは非常に高く設定されているのである。

 ……更に【ブラックホムンクルス】は一度でも自分を攻撃した者も攻撃対象に含める設定にされているので、前衛ジョブとしてレントの前に立ったミカへとターゲットを変えて、そちらに襲いかか……。

 

「……私を無視するのは頂けませんね。お陰で簡単に近づけました」

『ッ⁉︎ GYAッ!』

 

 ……るよりも早く、その懐に潜り込んだミュウが放ったアッパーによって【ブラックホムンクルス】の顎はかちあげられた。

 だが、その攻撃によってミュウもターゲットと認識した【ブラックホムンクルス】は、直ぐ手の届く位置にいる彼女に対してその爪牙を振りかざした。

 

『GUッ……GYAッ! SYAッ!』

「……ふむ、見かけはクリーチャーですが中身は人間とさして変わりませんね。これなら避けられます」

 

 しかし、彼女に嚙みつこうとした牙は僅かに身を逸らされるだけで躱され、続けて振るわれた両手の爪も腕の部分を弾かれる事によって軌道を逸らされて当たらない……更に攻撃後の隙を突いて彼女の拳や蹴りが的確に突き刺さっていく。

 ……【ブラックホムンクルス】の視点では、まるで自分が向こうの攻撃だけが当たる幻影と戦っているかの様に感じる程であった。

 

「……このままミュウちゃんに任されば普通に倒せそうだねー」

「それだと俺達の訓練にならないだろ。……ミュウちゃん、俺が合図をしたら一旦離れてくれ。ミカは俺が魔法を撃ったら入れ替わりに近接戦だ、必要なら援護する」

「分かったのです」

「オッケー」

 

 このまま見物人に徹するのでは訓練にならないと判断したレントが、妹二人に簡単に指示を出すと共に魔法スキルを使い……そして、そのスキルの僅かな準備時間が終わった。

 

「ミュウちゃん今だ! 《ウインドカッター》!」

「了解なのですっと!」

『! GYAAAAA⁉︎』

 

 合図と共にレントが掲げた手の平から小型の風の刃──風属性の初歩魔法《ウインドカッター》が放たれる……それは、合図と同時に【ブラックホムンクルス】から離れたミュウが直前まで居た場所を通りその腕の一本を切り飛ばした。

 

「ナイスコントロールです、兄様!」

「まあ、このぐらいはな。……ミカ!」

「分かってるって!」

『GYAAAAAAaaaa!!!』

 

 腕を切り飛ばされた痛みに悶える【ブラックホムンクルス】に対して、下がったミュウの代わりに【ギガース】を振りかぶって突っ込んだミカが容赦なく追撃をかける。

 

「潰れろ! 《ストライク》!」

『GYAAA⁉︎』

 

 そして、大上段からアクティブスキルを伴って打ち下ろされた【ギガース】が【ブラックホムンクルス】の頭部に直撃して、相手を叩き潰し床に打ち付けた。

 ……だが、それでも【ブラックホムンクルス】はその高いHPから痙攣して動けないながらも生きており……。

 

「お兄ちゃん、トドメ!」

「分かった……《ファイアーボール》!」

『──────ッ!』

 

 直後、飛び退いたミカと入れ替わりにレントが放った小型の火球が【ブラックホムンクルス】に直撃して、その身体を跡形も無く焼き尽くして光の塵へと変えた。

 

「おー、見事に焼けているのです」

「……話には聞いていたけど、モンスターを倒すと光の塵になるってあんなの何だ」

「そうみたいだな。……経験値も入ってレベルも上がったみたいだし、これで初戦闘は終わりで良いんですね」

 

 妹二人が各々の感想を述べているのを尻目にレントはステータス欄を見て経験値が入っている事を確認しつつ、この戦闘が終わった事を壁際に立ってこちらを見ていたアイラさんに改めて確認した。

 

「はい、お疲れ様でした。……三人とも見事な戦いぶりでしたし、これなら戦闘メインで十分やっていけるでしょう」

 

 彼女のその言葉と共に、三兄妹の<Infinite Dendrogram>に於ける初めての非人型範疇生物(モンスター)相手の戦闘は終わったのだった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 □王都アルテア<マリィの雑貨屋> 【格闘家(グラップラー)】ミュウ・ウィステリア

 

 あれからモンスターとの初戦闘を私達はアイラさんの案内で<マリィの雑貨屋>というお店にやって来ました……ここに来たのは先程のクエストの報酬である、私達に渡す初心者用アイテムを買う為だそうです。

 ……正直、こちらの方が多くの情報を教えて貰いましたし、ここまでされるのは貰いすぎでは無いかと思ったのですが……。

 

『貴方達から頂いた<マスター>関係の情報はとても参考になりましたから。今後も<マスター>が増え続けるならば、それらの情報は非常に役に立つでしょうし。……それに、私は貴方達の話を聞いてこれからの事を考えると、優秀かつ善良で話のわかる<マスター>との伝手を作っておく事は非常に重要な事だと判断しました。なので、この報酬は今後の事を考えての先行投資と言うのもありますから』

 

 と、返されてしまったので、私達は甘んじて彼女から報酬を受け取る事にしたのです……そんな事を考えていたらアイラさんが店の中に入って行ったので、私達もその後を追って中に入って行きました。

 ……店の中に入るとそこには様々なアイテムが綺麗に陳列されており、奥のカウンターには一人の女性が座っていました。

 

「いらっしゃいませ〜。……って、アイラじゃない。どうしたの?」

「ええ、今日はこちらの<マスター>の方達に依頼したクエストの報酬を買いにきたんですよ。……申し遅れました、彼女はこの店の店主“マリィ・ローラン”……私の母でもあります」

 

 そう言ったアイラさんに続いて店主──マリィさんが挨拶をしてきました。

 

「いらっしゃいませ、そこのアイラの母でこの<マリィの雑貨屋>の店主をしていますマリィ・ローランと申します」

「どうも、<マスター>のレント・ウィステリアです」

「その妹で<マスター>のミカ・ウィステリアです」

「同じく妹のミュウ・ウィステリアなのです」

 

 成る程、確かに言われてみるとこの二人は顔立ちとかがよく似ているのです……しかし、マリィさん若いですね。とてもアイラさんぐらいのお子さんがいるとは思えないのです。

 ……そして、そんなマリィさんは私達の事を興味深そうに見つめていました。

 

「<マスター>が今日から増え始めるみたいな事は聞いていたけど、まさかいきなり娘が連れて来るなんてね。……でも、クエストを発注したのなら報酬は事前に用意しておくべきじゃない?」

「……こちらも来るべき<マスター>の増加に対応するのに精一杯だったんです。その分報酬は色を付けますし……それよりも、この三人用の装備を買いたいので案内して下さい、店主さん」

「ハイハイ。……それじゃあこちらにどうぞ〜」

 

 そうして、私達はマリィさんの案内でお店の一角にあるという初心者向けのアイテム売り場に案内されました。

 ……そこには様々な武器や防具、そして初心者用のポーションなどの使い捨てアイテムが並んでいました。

 

「ここが初心者用アイテムのコーナーよ。……ここでは使い終わった中古品の装備とかを整備して安く売ってるのよ」

「ここではそこそこの性能の装備が安く手に入るので、多くの初心者が利用しているんですよ。……なので、大した金額ではないので遠慮無く受け取って下さい」

「はい、ありがとうございますアイラさん」

 

 そして、アイラさんは今の私達に合った装備を手早く選んで買い、クエストの報酬として簡単な解説付きで渡してくれました。

 

「レントさんにはそれぞれMPを固定値で200ほど増やすスキルが付いている外套【マジックローブ・1】とアクセサリーの【魔力の指輪】、杖の【リトルトレントの魔杖】を。ミカさんは武器はご自身の<エンブリオ>があるので、セットで装備すれば《ダメージ軽減》とHP上昇の効果がある軽鎧の【ライオット】シリーズのSサイズ。ミュウさんには格闘家用のAGI上昇スキルがある【青の武闘着】上下セットと、特殊な効果は無いですが軽くて頑丈な籠手【ライトメタル・ガントレット】をそれぞれ報酬として渡します」

「思ったよりめっちゃ多いんだけど……」

「ですね……」

「こんなに沢山……大丈夫何ですか?」

 

 報酬として渡されたなんか凄そうな装備の数々に、私達は思わず遠慮してしまいましたが……。

 

「これでも私はそれなり稼いでいるので大丈夫ですよ。それに先程も言った通り、これらは初心者用の中古品ですから安いですし。……ああ、初心者講習を受けた人には低級の【HP回復ポーション】を渡す事になっていますので渡しておきますね。……後はレントさんが【魔術師(メイジ)】なのでここで【MP回復ポーション】などを買っておくべきでしょう。ついでに外での活動で必要なアイテムも教えて置きますので、余裕が出来たら買ってみるのも良いと思いますよ」

 

 そうして私達はアイラさんから報酬を受け取り、ついでに必要だと教えられた各種アイテムを買ってみました……その後、私達はアイラさんの勧めで初心者用のクエストを受けるために冒険者ギルドに戻って行きました。

 ……やっぱり、アイラさんって物凄く面倒見が良いタイプですよね。

 

 

 ◇

 

 

「これらが王都周辺の低レベルモンスターの討伐クエストになります。……これらは王都周辺のモンスターが増え過ぎない様にする“間引き”としての意味の他に、初心者用救済・育成の為のクエストとしての意味があるので初めてのクエストとしては丁度いいでしょう。……おっと、言い忘れていましたが私の指導を受けた事で、貴方達には今から一時間程【教導官(インストラクター)】の奥義《教導官の薫陶》による獲得経験値・スキルレベル上昇の補正が付きますのでよろしくお願いします」

 

 あれから私達は報酬としての貰った装備を身につけて、冒険者ギルドでアイラさんオススメの初心者用クエストを受注しました……ちなみに、これらの初心者用クエストは下級職一職目の人のみが受けるモノという暗黙の了解があるので、注意して下さいとも言われました。

 ……しかし、アイラさんには本当に色々とお世話になりっぱなしですね。初日に彼女に出会えたのは私達にとって埒外の幸運でしょう。

 

「アイラさん、本当に何から何までありがとうございます」

「初めて仲良くなったティアンがアイラさんで良かったね」

「そうですね」

「いえ、これは私が好きでやっている事ですし、先程も言った通り先行投資の様なものですから。……それに、ここまでやってもこの世界では人はあっさり死んでしまうものですしね」

 

 ……そう言った彼女の顔は先程とは一転して深い悲しみと憂いを抱えていました。

 

「この世界では人間は非常に()()()()()ですからね。昔、私が冒険者をやっていた頃にも、昨日一緒にパーティーを組んでいた人が明日には死んでいるなんて事はザラに有りました。……そんな人を少しでも減らす為に冒険者ギルドの受付嬢に転職しましたが、毎日顔を合わせていた人がある日突然来なくなる事も多いです。……貴方達にここまでの援助をしたのは不死身である<マスター>が増えれば、戦いで死んでいくティアンの数が減るのではないかと思った事も理由にあるんです……」

 

 そこまで語ったアイラさんの雰囲気はとても申し訳なさそうな感じをしていました……とりあえず、私が何か言おうとするよりも早く兄様が口を開きました。

 

「アイラさん……成る程、()()()()()()

「え?」

 

 兄様が言ったその言葉にアイラさんは少し惚けた様な声を出しました……そして、兄様は更に言葉を続けます。

 

「貴女がただ優しくてお節介焼きな人だった事がですよ。……正直、ここまでしてくれるからには後々何か重い対価を支払わせる事が目的では無いかと内心疑っていましたし。……<マスター>を援助してティアンの死人を減らす程度の事なら、別にどうという事はありませんから」

「疑っていた事とかは別に言わなくても良いと思うのです兄様。 ……それにアイラさん、不死身な<マスター>達は基本的にこの世界へ遊びに来てるだけなのです。なので、そんな私達よりもティアンの命を優先するのは当然だと思いますよ」

「まあ、<マスター>って言うのは自由だから、必ずしもティアンを守る者だけとは限らないけど……貴女の様な(ティアン)がいるなら、ティアンを仮初めの命をかけて守ろうとする(<マスター>)も必ず出て来ると私は思うよ」

「皆さん……」

 

 そんな風に私達はアイラさん──この世界で初めて友誼を結んだティアンに各々の思う言葉を伝えました。

 ……私達の言葉を聞いてアイラさんは一度だけ目を伏せると、次の瞬間に今までよりも綺麗な笑顔を浮かべながら私達に自分の言葉を伝えました。

 

「ありがとうございます皆さん。私が初めて言葉を交わした<マスター>が貴方達で本当に良かった。……では、クエストは受託されましたので行ってらっしゃいませ。当冒険者ギルドは貴方達(<マスター>)の訪れをいつもお待ちしております」

 

 ……アイラさんが掛けてくれたその言葉を背に、私達は王都の外へと足を進めていったのでした。




あとがき・各種設定解説

三兄妹:ティアンと仲良くなったよ
・三人ともデンドロが『世界』だとは初めから分かっていたが、アイラさんとの交流で“世界派”になった感じ。
・無論、デンドロよりはちゃんとリアルを優先しようと言うタイプである。

《ウインドカッター》:【魔術師】のスキル
・小さな風の刃を飛ばす風属性の初級攻撃魔法。

《ストライク》:【戦棍士(メイスマン)】のスキル
・スキルレベルに応じて通常よりも攻撃力を上げた一撃を放つスキル。
・【戦棍士】の初歩スキルで威力も低いが、その分出が早く消費SP・クールタイムも少ない。

【チュートリアル・ブラックホムンクルス】:別名キモイサンドバッグ
・初心者にどんな状況でも怯まず戦える精神力を養わせる事を目的として外見をデザインされた。
・だが、見た目がキモすぎてリタイアする初心者が多かったので売れなくなった代物で、現在では生産中止。

アイラ・ローラン:こういう性格で美人なので冒険者の間にはファンが多い
・生産中止の【チュートリアル・ブラックホムンクルス】を持っていたのは、彼女もコレの開発に関わっていたから。
・ちなみに外見をこうしたのは彼女のアイデアで、そこから分かる通り戦闘に関してはかなりのスパルタ。
・尚、売れ残りを責任を持って買い取ったので実はまだ何体か持っている。

《教導官の薫陶》:【教導官】の奥義
・戦闘指導をした時間と内容、指導対象とのレベル差(相手の方が高い場合、効果はほぼゼロになる)に比例して指導対象の獲得経験値・スキルレベル上昇率を増加させるスキル。
・効果起動のタイミングは使用者の任意であり、効果時間はスキルレベルで決定する。

マリィ・ローラン:アイラの母親
・三児の母でアイラさんは長女、他に娘が二人いる。
・メインジョブは【高位魔道具職人】で、自分の作ったアイテムを店に並べる事もある。
・また、サブジョブに【高位錬金術師】を持っており【チュートリアル・ブラックホムンクルス】をメイン作ったのは彼女。
・尚、名前の“ブラック”は体色では無く『ブラックジョーク』の意味で、本人的にはジョークアイテムとして作ったつもりだった。


読了ありがとうございます。
解説が書きやすいと思い戦闘シーンを三人称にしてみましたがどうでしょうか? これからもイベント戦闘シーン限定になると思いますがコレでいこうと思います。
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