とある三兄妹のデンドロ記録:Re   作:貴司崎

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前回のあらすじ:ティ「『黙って俺に付いて来い』って言われたし、これは実質プロポーズでは?」兄「過去を捏造すんな」


祟リノ神

 □<異樹の荒地>

 

 そこは<麗都アンティアネラ>の北西部に位置する森が多いレジェンダリアでも珍しい、疎らに僅かな草が生えるだけの荒野で構成されたエリア<異樹の荒地>。

 ……最も、ここは昔は単なる森であり環境もレジェンダリアとしては安定していて、生息しているモンスターも低レベルなので更に北西にある小国家群やアルター王国・カルディナなどへの通商路として使われていた。

 

「……と言ってもそれは10年前、あの神話級<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>【滅光核魔 ガンマレイザー】とアマゾネス達との戦いが起こるまでの話だけれども。あの戦いの余波で森と生物は消し飛んで、更には放射能汚染と呼ばれる現象で草木一つ生えない場所になったからね」

「でも、今俺たちはそんな汚染された場所を歩いている訳だが大丈夫なのか? まあ俺は最悪デスペナすれば良いんだが」

「少なくとも既に放射能汚染は除染済みだから大丈夫。その事件の後にこの近くで発見された核やら放射能について研究していた先々期文明の遺跡から資料が出て来て、そこから得られた知識やアイテムで何とか【被曝】や放射能汚染をどうにかする方法が分かったのが幸いだったね。……まあ件の【ガンマレイザー】はそこで研究されていたエレメンタルだったらしいだけど」

「それはまたなんとまぁ」

 

 そんな場所に【ライトニング・トライコーン】のヴォルトに馬車を引かせている移動している【高位従魔師(ハイ・テイマー)】のレント、及び馬車に乗っている【竜戦士(ドラゴン・ファイター)】ティアモと【祟神(ザ・ヴェンジェンス)】シズカが居た。

 ……あの後、適当に冒険者ギルドでクエストを見繕っていた二人だったが、そこでひめひめとアリマがイベントに行き他のメンバーも予定が合わずに暇を持て余していたシズカがやって来て『ひま〜ひま〜、なんか面白い事ない〜』とか言ったので、とりあえず彼女が好きそうなクエストをレントが選んで受けたという次第だったりする。

 

「ともかく遺跡の技術で時間をかければ【被曝】や放射能汚染を治す事が出来る様にはなったんだけど、戦場になった此処はまともな生物が住めない環境になっていた上に放射能で変異した植物が特異なモンスター、果ては<UBM>にまで変異して住み着くという悲惨な状況だったみたい」

「放射能変異植物モンスターとかビオ○ンテかな?」

「日本人には馴染み深い概念よね、放射能で変異する怪獣って」

 

 そんな風に半分くらい冗談で某怪獣王閣下が出る映画シリーズを思い浮かべている二人であったが、実際【ガンマレイザー】が倒された直後の当時には生き残った生物の極一部が高濃度の放射線に適応出来る様に変異した自然魔力の影響で異常な進化を遂げる様な現象が起きていたので笑い事では済まなかったという状況だった。

 故に特殊環境であるレジェンダリアにおける貴重な通商路の確保、及びに変異したモンスターによるこれ以上の勢力拡大を阻止する為に【妖精女王(ティターニア)】を中心とする妖精郷の総力でもって汚染された一帯の生物全てを殲滅した結果が現在の<異樹の荒地>となっているのだ。

 

「でも今は汚染もモンスターも完全に除去出来たから問題は起こってないよ。むしろ環境が変わり過ぎてモンスターがあまり近寄らなくなったから、輸送の為の通商路としては大分使いやすくなったぐらい」

「それはなんというか逞しいな」

「まあね、ちょっと生態系が変わるぐらいどうにか出来なきゃレジェンダリアではやってられないよ。……最もまた変異モンスターが現れる可能性や新しいモンスターが他所から住み着く事も十分にあるから、今回みたいな生態系調査のクエストが定期的にあるんだけど」

 

 今回彼らが冒険者ギルドから受けたクエストは【<異樹の荒野>での生態系調査】と言い、その名の通り生態系が大きく変異してしまった<異樹の荒野>の様子を調査、及び出現したモンスターの掃討による通商路の安全確保を行なってギルドに報告するというものだ。

 まあ、殆ど何もない荒れ果てた場所を調査する事か稀に遭遇するモンスターとの戦闘する程度なのでつまらない事。後はそこまで良くもない報酬からはっきり言って不人気の塩漬けクエストであり、麗都でも基本的に時期が来たらアマゾネス達が物資の輸送ついでに調査するか稀にデータ目当てで<Wiki編纂部・レジェンダリア支部>の<マスター>が受ける事がある程度のクエストなのだが。

 

「……さてシズカさん、貴女が好みそうな()()()()()()()()()()()受けられるクエストだが暇つぶしににはなったか」

「そうねぇ、確かに無念の内に死んだアマゾネスやモンスターの怨念を私の《観怨眼》で読み取れるんだけどねー。……そもそも麗都自体がアムニールとかと比べれば怨念が薄いのよね。アマゾネス達って死んだ時もあんまり怨念残さないみたいなのよ」

「まあ私達アマゾネスは基本的に『全力で戦って死ぬなら本望』って思考だから」

「だから麗都自体が私の好みから外れるのよね、良い街ではあるんだけど。……アムニールみたいに『様々な種族の陰謀や欲望や無念が絡み合った怨念』とかは味わえないから少し退屈なのよねぇ」

 

 そう言ったシズカは口が弧を描く様な恐ろしい笑みを浮かべており、それを初めて見たティアモは思わず身体を固めて警戒態勢へと入ってしまった。

 ……彼等がこのクエストを受けたのは最近シズカが趣味の“怨念観察”がイマイチ出来ずにストレス溜まると文句を言ったので、レントが『下手に鬱憤を溜められても困るというか面倒な事になりかねない』と判断して彼女が好みそうなものを見繕ったからなのだ。

 

「……彼女、最初に会った時と雰囲気が全然違うんだけど。もっとまともな人だと思ってた」

「シズカさんはこっちの方が素だ。最初の方は単なるロールプレイ(猫被り)

 

 そもそも、まともな性格の人が『他人の怨念を取り込む自分の身体(TYPE:ボディ)の<エンブリオ>』なんて発現しないだろう……とレントは考えつつ、やっぱりこの人は色々と放置出来んから見張り(ひめひめ)は必要だしミカとの相性も良くないからデンドロ内では別行動で正解だななどと改めて思い直していた。

 

「そんな不安そうな“怨念”を出さなくても、この世界でひめひめとの『契約』もあるから自ら怨念を生む様な大事件は起こさないつもりよ。……そもそも私は自分で事件を起こすよりも他人が起こした事件に横からちょっかい掛ける方が好きだし、このレジェンダリア<マスター>の現状とか上の方の腹黒さとかを考えればそう遠からず災いが起きるでしょうから自分で何かをする必要は無いし」

「まあレジェンダリアの上の方は婆様が『アイツら陰険腹黒過ぎてめんどくせぇ……』ってしょっちゅう愚痴るレベルだけど」

「やっぱ貴女はウチの妹とは相性悪いな、起きうる事件を引っ掻き回すタイプは」

 

 そう遠くない未来にレジェンダリア、或いは<Infinite Dendrogram>全体で起こるであろう『災厄』を己の経験則から予測し、それに想いを馳せながら邪悪な笑みを浮かべるシズカに対し、比較的良識のある二人はやや呆れながらもため息を吐いていた。

 

「そこまで心配しなくても良いわよ。少なくともこの遊戯で私は善玉寄りのロールプレイで遊ぶつもりだから、むしろ起きうる悲劇を少しでも減らす様に動くつもり。……私の勘だけど今後この世界で起きうる災厄はかなり酷いものになるだろうし、この【祟神】のジョブを考えるとその災厄を存分に味わうには善側の立ち位置の方が()()()な気がするのよね」

「……そういう方向性で“遊ぶ”なら別に良いさ。むしろ貴女の場合は“遊ばなくなった”時の方が怖そうだしな」

 

 実に『愉しそうな』笑顔でそんな事を語るシズカを見て内心頭を抱えるレントであったが、問題を起こさないと言っている以上は自分に何か出来る事は無いだろうと一先ずこの問題を置いておいてクエストに集中する事にした。

 

「まあ良い、今はとにかく受けたクエストをこなそう。……と言っても今の所モンスターの一体も見当たらないんだが。索敵系スキルを幾らか使っても反応は無いし、このまま適当に見て回って『異常なし』と報告すれば良いのか?」

「それでも最低限の報酬は貰えるとは思うけど、とりあえず前回の調査資料と比べて環境が復旧しているかどうかぐらいは調べるべき。……後、最近ここを通った行商隊が壊滅したって話も聞いたからそこも気をつける感じで」

 

 そう言いつつレントは辺りを見渡しながら《魔物索敵》《レイライン・サーチ》などを使って周辺を調べ、ティアモも辺りを警戒しつつアイテムボックスから取り出した資料と実際の荒野の様子を見比べていく。

 

「シズカさんの方では何か分からないのか? ここらの怨念から情報を読み取るとか」

「《観怨眼》ならそういう事も出来なくは無いけれど、そもそも怨念自体が生前の無念とかを喚き散らしてるのが殆どだから望む情報を得るのは難しいのよね。この辺り人の魂を観て死者と対話出来るらしい【冥王(キング・オブ・タルタロス)】の《観魂眼》とかには劣るわ。怨念はこっちと対話とかしてくれないし……まあやっては見るけどね。ティアモちゃん、襲われた人達の詳しい情報はある?」

「この資料に書いてある」

 

 ティアモから手渡された資料をシズカは《ポルターガイスト》を使いながら摘んで読んでいった……その資料には行商隊が霊都アムニールから小国家群へとマジックアイテムを運んでいた事、レジェンダリアでも腕利きのティアン冒険者を護衛にしていた事、そんな彼等の写真などがそれなりに詳しく載っていた。

 資料によると彼等はアムニールからアンティアネラを経由して小国家群へと向かった途中で連絡を絶った様で、後日アマゾネス達の調査隊が訪れた時に彼等の遺体と馬車の“残骸”が発見されたらしい。

 

「まあ外に出たパーティーが消息を断つのは良くある事だけど、この護衛に付いていた冒険者達はレジェンダリアでも有数の腕利きだったみたいだし、発見された遺体及び馬車の残骸の状況も少しおかしかったみたい」

「『その遺体は食い残しの破片しか残っておらず、頑丈な高級馬車が残骸になるまで砕けていた』ねぇ。彼等が食われた事と輸送中のアイテムボックスは残っていた事からモンスター、手練れを倒して馬車を砕いた事から純竜級以上の相手だと推測されるが、後の調査隊が調べても付近にそれらしいモンスターは発見出来なかったと」

「ふーん、成る程ねぇ。まあ写真があれば少しは見つけやすいか…………さて」

 

 二人の話を聞きながら資料に載っていた冒険者の写真を一瞥したシズカは虚空……【祟神】たる彼女にしか見えない、辺りに揺蕩う数多の悪意・悲嘆・憎悪・忿怒・絶望と言った多種多様な怨念を《観怨眼》にて見据えた。

 そして彼女は自身の<エンブリオ>【不有幽霊 ゴースト】のスキル《斯の身は怨嗟の受け皿也や》によって周辺の怨念を自身の身体の中に取り込み、それらが奏でる負の感情溢れる叫びを涼しい顔のままに一つ残らず余さず聞き取りながら有している情報を読み取っていく。

 

「……ハラヘッタ……痛い……苦しい……無念だ……カユウマ……一体何処から……これね、手練れのティアンの怨念は分かりやすくて良い。《怨霊保持》《観怨眼・禍魂視》……馬車がいきなり吹き飛び……啄まれ……風……上から……。どうも上空からいきなり現れた“何か”にやられたみたいね」

「成る程、相手は飛行型のモンスターだった訳か。確かにレジェンダリアで良くある森林地帯と違って、この荒野であれば上空から攻撃する事も出来るか」

「後の調査隊が何も発見出来なかったのは、単に相手の行動範囲が広すぎて既にその場にはいなかったから。……でも、こんな見晴らしのいい場所で、空からとはいえ手練れのティアン相手に奇襲を行えるとなると相当な隠密能力を……」

 

 シズカがジョブと<エンブリオ>のスキルを駆使して護衛が残した怨念から読み取った情報を元として、レントとティアモは行商隊を襲った相手の大凡の特性を推測しながら日が落ちかけている空を見上げて……そのやや離れた地点に“何か”の影が見えている事に気が付いた。

 

「ッ! 敵襲! 散開!!!」

「切り離す! ヴォルト走れ!」

『了解!』

「あらあら……」

 

 それなりに近い距離にも関わらず()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()何かを瞬時に敵と判断した彼等は、各々馬車を置き去りにしてその場から急いで離脱し……。

 

『……KITTE!』

 

 直後、上空から音も無く接近して来た影──怪鳥種“上位純竜級”モンスター【ハイ・ダークゲイル・ステルスガルーダ】が放った風属性上級職奥義魔法《エメラルド・バースト》による破壊的な暴風が地面へと撃ち放たれて彼等が乗っていた馬車を粉々に粉砕した。

 

 

 ◆◆◆

 

 

 □■<異樹の荒野>上空

 

『KUE! KIEEEE……!』

 

 その【ハイ・ダークゲイル・ステルスガルーダ】はその名の通り視覚で捉えにくくなる《視覚迷彩》、飛行時の音を消す《無音飛行》、《殺気感知》をすり抜ける《殺気隠蔽》、《危険察知》を無効化する《潜伏奇襲》などの隠密系スキルからの風・闇属性魔法による奇襲を得意とするモンスターである。

 最近ではこの荒野を縄張りの中の狩場の一つとして、経験値的に実入りの良いティアンの集団などを狙って奇襲攻撃による狩りを何度か成功させて気分が良かったのだが……それ故に今回奇襲が失敗に終わった事には苛立ちを隠せず、それを成した眼下の獲物を睨みつけていた。

 

「庇ってくれてありがとうねティアモちゃん」

「霊体なら風属性は余り効かないでしょうに」

「覚えてて良かった【聖騎士(パラディン)】の盾スキル……《喚起(コール)》ネリル」

『電磁障壁の練習をしておいて正解でした』

 

 あの時、まずティアモが《竜闘気(ドラゴニックオーラ)》を使って風を防御しながら《エメラルド・バースト》の直撃点から離脱しつつ、同時に《破魔竜剣(ハマノツルギ)》で風を切る事で込められた魔力を減じる事で威力を落とした。

 そしてレントも同じく即座にヴォルトを馬車から切り離しつつ騎乗、更に《瞬間装備》した盾から聖属性防御障壁スキル《ホーリークロス・シールド》を展開して、同時に張られた《エレクトロ・シャッター》と合わせて暴風を凌ぎきったのだ。

 ……後、シズカがいくつかの物理現象を透過する霊体であり、その中には風属性も含まれていてダメージを受けていないので当然無事である。

 

「ほう、上位の怪鳥か。対空攻撃手段が無ければ下手な<UBM>よりも厄介じゃぞ?」

「分かっている……《詠唱》終了。《ヒート・ジャベリン》」

『《サンダー・スマッシャー》!!!』

 

 そしてレントは騎乗しながら呼び出して後ろに乗せたネリルの言葉に返しつつ、上空にいる【ステルスガルーダ】に向けて射程と弾速を強化した《ヒート・ジャベリン》を十発以上放ち、同時に放たれたヴォルトの広範囲電撃による対空攻撃を仕掛けた。

 

『KEEE!』

「速い……超音速機動か、距離を取られた」

 

 だが、それらの魔法は直ぐに超音速で上空へと飛翔した【ステルスガルーダ】には一発も当たらず、加えて相手が高空へと移動した事でレントとティアモ達には有効な攻撃を撃てる手段が無くなってしまった。

 これが【ステルスガルーダ】の対地上戦力用の戦術……奇襲が失敗した場合には上空に登って距離を取りつつ、超音速で飛翔しながら地上へ遠距離攻撃を一方的に行うという単純だが攻撃を当てる手段が限られる地上の相手にとっては厄介な戦術である。

 

「距離が遠い上にあの速度では攻撃を当てる事は至難だな。どうするか」

「私みたいな前衛型は出来る事が無くなるんだけど。……やっぱり高位の飛行型は厄介」

『KYUEEEEEE……』

 

 実際レント達は高空を飛翔する【ステルスガルーダ】に対して迂闊に手を打てなくなっており、それを見たガルーダはこの戦術がハマる相手だと判断して闇属性追尾攻撃魔法【グルーム・ストーカー】による追撃を仕掛けようと準備した……直後、その身を()()が襲った。

 

「さて、アレが貴方達を殺した相手よ。怨みを晴らす機会を与えてあげる……《怨結び》からの《怨御籤・大凶》」

『KIII⁉︎ GIEEAAAA!!!』

 

 シズカがそう呟くと同時に高空を超音速で飛んでいた【ステルスガルーダ】へ【呪縛】【吸魔】【呪詛】の三重呪怨系状態異常、及びLUCに対する()()()()デバフが掛かりその動きを封じ込めたのだ。

 ……本来なら相手に掛ける場合なんらかのアクションか事前準備が必要な呪怨系状態が即座に、かつ超音速で移動する相手に掛けられた訳は【祟神】の有する『怨念が負の感情を向ける相手へと使った怨念運用スキルが距離などを無視して必中する』アクティブスキル《怨結び》によるものである。

 

『GIIIII!!! GUAAAAAAA!!!』

「ああ、蓄積した怨念を追加してスキル出力を上げてるから、例え上位純竜であってもそう簡単にはレジスト出来ないわよ。防御スキルも《怨返し》で無視出来るしねぇ」

 

 自らを襲った“祟り”をどうにかレジストしようとする【ステルスガルーダ】だったが多量の怨念を追加されている上、『怨念が負の感情を向ける相手へと使った怨念運用スキルが防御系スキルを無視する』パッシブスキル《怨返し》の効果もあってただもがくだけに終わっていた。

 これこそが【祟神】というジョブの本質──他のジョブの様に怨念をエネルギーとするのでは無く、怨念が持つ『何かへの怨み』をただ無為に消えゆくモノではなく明確な『祟り』として運用する文字通り“祟りの神”の力なのだ。

 ……そして“祟り”はまだ終わっていない。この魔境とも言われるレジェンダリアに於いてL()U()C()()()()()()()()()とどうなるのか、それは【ステルスガルーダ】へと急速に集まりつつある膨大な自然魔力が示しているだろう。

 

「あ、<アクシデントサークル>……アレはやばそうだね」

「まあこのレジェンダリアでLUCがマイナス一万を越えればねぇ」

「のんびりとしてる場合じゃないぞ。この距離じゃ巻き込まれかねないからさっさと離脱だ」

『……AAAAAAAAAAA……!!!』

 

 状況を見た彼等が全力でその場から離脱した直後、集まっていた自然魔力が風属性へと変じながら風属性魔法超級職【嵐王(キング・オブ・テンペスト)】の奥義《大嵐(テンペスト)》に匹敵する破壊の颶風と化して不運たる【ステルスガルーダ】を包み込んだ。

 ……祟りによって生み出された大竜巻は風属性に高い耐性がある筈のガルーダを容赦なく斬り刻んで行き、その余波が地上にいるレント達にまで襲い来るレベルだったのでネリルが《ハイエンド・ウインド・レジスト・ウォール》を展開して守る必要があった程だ。

 

『GEEEEEUUUUUUAAAAAAAAAAA!!!』

「……おお、まだ耐えておるな」

「怪鳥種は風属性に耐性があるヤツが殆どだから」

 

 だが、それでも上位純竜級怪鳥としての意地か【ステルスガルーダ】は自身の耐性と風属性の防御魔法を駆使して必死に大竜巻に耐えていた。あくまで嵐はガルーダの不幸の結果起こった<アクシデントサークル>によるものなので、防御無視などの【祟神】のスキル効果の対象にはならないのだ。

 ……まあ、マイナス一万越えの不幸が耐性のある属性の攻撃で終わる筈もなく、それを証明するかの様に荒れ狂う竜巻の全体が徐々に帯電し始めた。

 

「ふむ、アレが本命か。魔力を回せ主人殿……《ハイエンド・サンダー・レジスト・ウォール》」

「全員、閃光防御」

 

 そうしてネリルがレントから回された魔力を使って対雷属性の障壁を重ねて展開した直後、竜巻の帯電が瞬く間に勢いを増して中心にいる【ステルスガルーダ】へ向けた超級職奥義クラスの雷撃となってスパークした。

 

『AAAAAAAAAAAaaaaaaaaaa…………!!!』

 

 その雷はまさしく“天罰”と言える程の威力となって【ステルスガルーダ】を焼き尽くし、魔法型故に上位純竜級モンスターとしては余り高くないHPを一気に削り飛ばす。

 そして少しの後に雷と竜巻が消滅した所には黒焦げの炭へと変わった魔鳥のみが残されており、それもそう時間も経たないうちに光の塵へと変わったのだった。

 

「……いやぁ、思ったよりも凄い事になったわね。正直状態異常とデバフで向こうの動きを制限出来れば良いぐらいだったんだけど」

「しかし、上位純竜クラスを一方的に倒すとか【祟神】やばいな」

「流石にここまでの事になったのはアイツの運が悪かっただけよ。なのでこの荒野が更に酷い事になってても私は悪くない」

「まあ上位純竜を倒せてこの程度の被害で済んだのはむしろ幸運だと思う」

 

 そうして彼等は大嵐と雷の余波で幾らか抉れて焼け焦げた荒野を見つつ、とりあえずクエストとして一旦この事を報告すべきだと思い麗都へと戻る事にしたのだった。

 ……まあ、馬車が壊れたのでヴォルトにレントとティアモが二人乗りになり、そこにシズカが《ポルターガイスト》でしがみ付きながら憑いて行く(誤字にあらず)という少し間抜けな光景になってしまったが。




あとがき・各種設定解説

シズカ:本性も能力もヤバい人
・尚、最後にしがみ付いて移動したのは【ゴースト】の浮遊が『土台(主に地面)を起点とした相対距離に浮く』仕様だからで、馬車などなら荷台部分を土台として浮く事が出来るが生物相手では土台として機能しないから。

【祟神】:正しく“祟り”を齎すジョブ
・主に怨念の知覚・操作系スキルと怨念が向ける負の感情を“祟り”という形で具現化させる様なスキルを習得するジョブであり、それらの怨念が求める応報を代行するジョブでは無いか、この辺りがデンドロ世界の『怨念』の本質ではないか……などとシズカは考えている。
・ただし、攻撃・状態異常スキルの使用には対象へ負の感情を持つ怨念が必要であり、それが無い場合は使用出来ないか出力が大きく落ちるスキルばかりなので条件が整わない相手には弱い。
・他にも強力なスキル行使には追加でMPや怨念が必要なので事前の準備が重要なジョブであるが、シズカの場合は<エンブリオ>で怨念を蓄積出来るのである程度カバー出来る。
・また、他にもデメリットとして起点となる怨念は他社のものである事がスキル行使の条件になっているので、自身が抱いた怨念ではスキル行使は不可能となっている……最終奥義を除いて。

《観怨眼》:【祟神】の奥義
・怨念を正確に知覚し、その怨念が持つ負の感情を始めとした詳細情報を読み取るパッシブスキルなのだが、オフに出来ない常時発動型なので常に他者の負の感情に晒されて続けるという大きな欠点がある。
・歴戦のティアンでも四六時中悪意に晒されるので容易く精神を病み、<マスター>の精神保護でも『超リアルな鬱映画か罵詈雑言を常時実体験』みたいな状況になるのでやっぱり余程ネジが外れていなければリタイア案件になるレベル。
・尚、シズカは完全に使いこなしており<エンブリオ>や他のスキルと合わせて高精度な情報の読み取りや、単体の怨念に限定してその大元の存在の情報なども読み取れるオリジナル派生スキル《観怨眼・禍魂視》を編み出したりしている。

《怨御籤・大凶》:【祟神】のアクティブスキル
・保有する怨念が負の感情を向けている相手に対して呪怨系状態異常の中からランダムに選ばれたものを与え、更にLUCへのデバフを与えるスキル。
・状態異常の数やLUCへのデバフ数は使用した怨念の強度と対象のスペックにより決まるが、状態異常の種類に関しては怨念の感情に結構左右されるので対象に不利なものが比較的出やすい。

【ハイ・ダークゲイル・ステルスガルーダ】:豪華なかませ
・まあレジェンダリア上空のかなり広域に渡って縄張りとしていて、奇襲と遠距離攻撃を中心とした戦術で超音速機動から近接戦も可能と生半可な<UBM>より強いレベルのモンスター。
・……だったのだが、不運による<アクシデントサークル>で周辺自然魔力集束→《大嵐》→超雷撃のコンボが発生するぐらいに運が悪かった。


読了ありがとうございました。
その特性上【祟神】は強く怨まれてる犯罪者にはめっぽう強いので善玉ロールに向いていたり。感想・高評価・誤字報告などはいつでも歓迎です。
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