とある三兄妹のデンドロ記録:Re   作:貴司崎

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※時系列的にこっちの話の方が先なので投稿します。麗都編の続きはこの特別章が終わった後になります。


特別章 争乱の孤島
バトルロイヤルイベント


 □<麗都アンティアネラ> 【戦棍姫(メイス・プリンセス)】ミカ・ウィステリア

 

「……うーん、じゃあコレとコレとコレかな。はい料金」

「身内に【ジェム】職人がいるとアイテム確保が楽でいいわね」

「ここのジェムは少々お高めでしたからね。魔法系ジョブに就いている人がレジェンダリアとしては少なめだかららしいですが」

「色々と用意して貰ってありがとうございます!」

「……まあ、料金と素材は貰ってるから良いんだがな。ネリルも手伝ってくれたし」

 

 とある日のデンドロ内にて、私はミュウちゃん・ひめひめさん・アリマちゃんと一緒にお兄ちゃんから事前に頼んでおいたいくつかの高位魔法入り【ジェム】を受け取り、その代金として相当なリルを手渡していた。

 ……流石はお兄ちゃんとネリルちゃん、当たり前の様に上級奥義魔法【ジェム】を用意出来るとはね。お兄ちゃんネリル先生からの魔法指導を得て最近『コツを掴んだ』らしく、ある程度マニュアルで魔法スキルを効率的に運用出来る様になったらしいし。

 

「さて、各種ポーション類も可能な限り買い込んだし、コレで『バトルロイヤルイベント』の準備は出来たかな」

「掲示板で調べてみても初めての限定イベントっぽいし、何があるか分からないからね」

「出来る限りの準備はしておくべきでしょう」

「まあ、お前らなら心配ないだろうけど頑張れよ。じゃあなー」

 

 そう、今回私達は色々と準備をしているのは以前の討伐クエストの時、何か湧いて来たPKを倒した後に偶然純竜級ボスモンスターと遭遇して撃破した際に【<バトルロイヤル>参加券】という運営主催の特別イベントに参加できる権利を手に入れたので行ってみようって感じになったからだ。

 決闘と違ってアイテム制限とかは余り無さそうだからね、それなら消費アイテムの準備をしておくのは戦術としてはありだろう……まあ具体的な内容までは分からないから出たとこ勝負だけど。

 

「お兄ちゃんも行っちゃったし、参加券に記された時間もそろそろだね。どういう方針で行く?」

「バトルロイヤルと言ってもどういうルールで来るかは分からないし、とりあえず出来るだけここの四人で協力して勝ち残ろうってぐらいかしら? 幾ら何でも一人で参加者全員全滅させるなんて無理というか、よっぽどの脳筋以外は考えないだろうから他も協力する連中は出るだろうし」

「バトルロイヤルのお約束として途中まで協力して勝ち残ると言うのはよく聞きますね」

 

 ミュウちゃんの言う通り、バトルロイヤルに於いては一度死んだらお終いなので生存率を上げる為に途中まで他の参加者と協力しながら勝ち残るのは有用な戦術だろう。

 まあ漫画やラノベで良くある展開だね、その後に裏切りやら騙し討ちが横行したり、最後に勝ち残った仲間同士で雌雄を決したりとかもあったり。

 

「でも『最後の一人になるまで戦え』とかだったらどうするの?」

「掲示板で見た限りの参加者数だと流石に複数名残らせるとは思うけど……まあ、もしそうなったら途中まで協力して最後に残ったら戦う感じで良いでしょう。どうせ<マスター>しか参加しないイベントなんだし気楽にいけば良いわ」

 

 そんな少し不安そうなアリマちゃんの疑問に対して、ひめひめさんがあっけらかんとした口調で『普通に最後の一人になるまで戦えば良い』と答えてくれた。

 

「まあ気楽にいこう。ひめひめさんの言う通りどうせ<マスター>同士のイベントなんだから最後まで楽しめば良いと思うよ」

「そうですよ。勝ち負け含めて楽しむイベントでしょうから、もしこのメンバーで戦うとなっても全力でやってやれば良いんです」

「ミュウちゃん……うん、そうだよね。ここのメンバー相手に勝てる気はあんまりしないけど、もしそうなっても全力で頑張るよ!」

「……アリマちゃんなら十分に勝算あると思うけどね」

 

 主にミュウちゃんの説得でやる気を出してくれたアリマちゃんだったが、ひめひめさんがボヤいた通りバトルロイヤルというルールなら無差別精神汚染を得意戦術にする彼女の勝算はかなり高いと思う。

 実際超級職取ってる私でもアリマちゃん相手では【クインバース】の状態異常置換に頼って近接戦するしか無いし、ミュウちゃん相手ではステータスが高いとか意味なくなるからクッソ不利……ひめひめさん? 何とかして近づかないと死ぬ(断言)

 

「……ん? そろそろ参加券に書かれた時間になるわね」

「よし、それじゃあ頑張ろうか!」

 

 ……そうして全ての準備を終えた私達はイベントの開始時間になると同時に何処かへと転送されていったのだった。

 

 

 ◇

 

 

 転送の直後、私の視界には麗都の広場の光景では無く、どちらかと言えばチュートリアル時に管理AI(チェシャ)と出会った空間に似た雰囲気を持った白くて広大な空間を映していた。

 その側にはちゃんとミュウちゃん達三人が居て、更に周囲には私達と同じ参加者らしい<マスター>達が次々に転送されて来ている。

 

「……ふぅん? やっぱり各国から腕利きの<マスター>を集めてるみたいね。まあ私達が参加券を入手出来た時点でそうじゃないかとは思ってたけど」

「そもそも参加券自体が純竜級モンスターを倒したりする事で入手出来るみたいでしたし、必然的に参加券を手に入れた<マスター>はそれが出来る腕前を持ってるって事ですからね」

「強そうな人がいっぱい……」

「そうだねー」

 

 まあ、ひめひめさんは運営が狙って腕の立つ<マスター>に参加券をそれとなく配布したんじゃないかって考えてるみたいだけどね。実際どうかは分かんないけど、とにかく戦闘能力が高い<マスター>が集められてるのは間違いなさそう。

 転送されて来ている参加者の服装を見ると見慣れない和風や中華風の服を着ている人が多く感じるね。多分黄河や天地出身の<マスター>だろうけど。

 

『はーい、只今をもって、ログイン中の参加者の転送が完了しましたー。これにてイベントの参加を締め切らせていただきまーす』

 

 そんな事を考えていると突然どこか間延びした()()()()()()()声が聞こえてきて、その直後に白い空間の明かりが落ちて真っ黒になった。

 ……そして少しの間を置いて空中の一点にスポットライトが当てられると、そこには私のチュートリアルを担当した管理AI『チェシャ』が何か見えない足場の様な物に立っていたのだ。

 

『皆様ようこそいらっしゃいましたー。本日はイベント、<バトルロイヤル>にご参加いただきありがとうございまーす』

「ふおおおおおお! チェシャちゃん!!!」

 

 何やら何処からか奇声と共にパシャパシャパシャパシャとカメラのシャッター音が聞こえてきた……チェシャさんのファンな<マスター>でも居たかな? 

 

『これからルール説明をさせていただきますのでー、お静かにお願いしまーす』

「分かったわチェシャちゃん!」

 

 チェシャさんがそう言ったらピッタリ黙るのには草なんだよ……それはともかくとして、直後空中にホログラムの大スクリーンが浮かび上がり、海に囲まれた大きな島の写真を写し出した。

 ぱっと見だと森があり山があり川があり湖がありと自然あふれる結構大きめの島に見えるけど、文明が栄えてる様子はないからまあ所謂無人島ってヤツかな? 

 

『こちらが今回のイベントエリアでーす。正確には島の陸地、島の上空500メテル、島から20メテルの海まで。島を覆う結界に触れたら失格になるので気を付けてねー』

 

 スクリーンにチェシャさんが今言った範囲を示す図が表示される。まあ私は空も飛べないし水中戦が得意な訳でもないから普通に陸上で行動すれば良いかな。

 

『それで今回のイベントのルールだけどー、“バトルロイヤル”の名前通りこれから皆さんには殺し合いをしてもらいまーす。正確には開始と共にここにいる参加者達がこの島のランダムな地点に転送されて、それから島にいる<マスター>の数が()()になるまで戦いあって貰う感じー。勝ち残った人には豪華報酬があるからがんばってねー』

「……あちゃー、三人までなのか」

 

 うーむ、四人組の私達が勝ち抜くと一人は必ず脱落する事になるのか。バトルロイヤルである以上は予想してたけど思ったよりもクリア人数は少なかった様だ。

 

「……ど、どうしましょう?」

「さっき言った通り可能な限りこのメンバーで協力して勝ち進むって所は変わらないけど、その最大人数が三人になるだけよ。残った一人は可哀想だけどこれもルールだから。……まあ集まった<マスター>達は精鋭ばかりだし、この四人が揃ってクリア出来るなんて確率はかなり低いだろうから余り気にしなくて良いと思うわよ」

 

 アリマちゃんとひめひめさんが小声で話し合っていたので私とミュウちゃんもその方針で問題ないと答えておく。思ったよりも勝ち残り人数が少なかったけどまあしょうがない、どうやら運営達はちゃんとしたバトルロイヤルがお望みらしいしね。

 

『さて、今回のイベントには普段とは違う要素がいくつかあるんだー。……まず、今回のイベントでプレイヤーが死亡した際には、特別にデスペナルティ無しで自分のセーブポイントに転送されるよー。ついでにアイテムのランダムドロップも無しになってるー』

「マジで⁉︎」

「至れり尽くせりだな」

「じゃあ普段からそうしてくれよ……」

 

 ふーん、私はこれまでデスペナになった事は無いけど、それならリスクも少ないし気軽に参加出来るかな。バトルロイヤルを積極的にやって欲しい運営からの心遣いって事かな。

 

『ああでも、死亡した従魔や奴隷の蘇生は出来ないし、壊れた装備も修復機能がある奴以外は直らないからそこは気を付けてねー。他にはさっきも言ったけどイベントエリアのスタート位置は個々人でランダム、かつ他の参加者とは一定以上離れて配置されるからねー。それとイベントエリアには無関係の野生モンスターは入れない様になってるよー。後は【救命のブローチ】の使用は今回禁止ー。でもそれ以外のアイテム……例えば身代わり効果持ち特典武具なんかは大丈夫だからねー。アイテムの禁止に関してはこれだけー』

 

 まあ【ブローチ】の禁止は決闘とかでもそうだから参加者の動揺は少ないみたいだね。むしろ他のアイテムは好きに使って良いらしいから、お兄ちゃんをこき使った甲斐はあったみたいな。

 

『最後にイベント内容についての詳細ねー。さっきも言った通りイベント自体はプレイヤー同士によるバトルロイヤルなんだけど、島内にはイベント用の特殊モンスターも配置されてるんだー。そして特殊モンスターを倒すとそのモンスターの強さに応じてHP・MP・SPが一定割合回復する上、各種消費アイテムをドロップする様になってるよー。上手く使ってねー』

 

 特殊モンスター上手く使えばバトルロイヤルで消耗したHPとかを回復出来る……とはならない気がするなぁ。モンスターを倒すのにも手間が掛かるし、戦闘中を狙われる可能性もあるからその辺りも警戒しないと。

 

『更に島の各地にはレアアイテムが入った宝箱がいくつも配置されてるからねー。どれも希少なアイテムだから欲しい人は探してみるのも良いんじゃないかなー。……それと今言った事以外にも“隠しギミック”がこのイベントにはあったりするからお楽しみにー』

 

 何か『バトルロイヤル』って要素から離れたギミックばかりな気もするね。単なるサービスなのかそれとも罠なのか、或いはギミックを増やす事で状況を混沌とさせてそこから各<マスター>達がどうするのかを見定める気なのか。

 ……そんな風に思わず深読みしてしまう説明だったね。他の<マスター>達も半分ぐらいは何か考え込んでいるし。

 

『説明はこれで終わりねー。……それでは一斉転送を始めるよー。みんな頑張ってねー』

 

 ……そんなチェシャさんの声と共に、私達は一斉にイベントエリア(戦場)へと転送されたのだった。さてどうなる事やら。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 □■イベント用管理AI作業領域

 

「各<マスター>達をエリア内への空間転移は完了した。イベントエリアとなっている島に敷いた隔離・強制転送の結界にも今のところ異常は無い」

「……イベントエリアに張った……偽装結界も問題ない……わ」

「こちらでも確認した。少なくとも現在島に気付いたモンスターは周囲にはいない。島内に配置したイベントモンスターも問題無く稼働中だ」

「死亡した<マスター>のアバターの即時復活準備も出来てるわよ」

「配置したアイテムも問題ありませんねぃ」

「島内の自然環境にも今のところ問題は見られない」

「ご苦労さまー……初めての限定隔離イベントは今のところ順調だねー」

 

 そこは今回のイベント用に用意された管理AI達の作業領域。今回の『バトルロイヤルイベント』は<Infinite Dendrogram>に於ける初めての限定隔離イベントであるので、今後の同型イベント運用の為の各種機能確認や不具合の調整の為にこの様な場所で管理AI達は各種データの解析を行っているのだ。

 

「少なくともシステム面に於いての不具合は見つからないね〜。データは集まったし〜次からは忙しいダッチェス達とかには楽させてあげられるかも〜?」

「問題は参加した<マスター>達の動向だな。データ収集の為に敢えて<マスター>同士の戦い以外の要素も加えてみたが……」

「隔離イベントの目的は<エンブリオ>を進化させるカンフル剤の一つだもの。普段とは違う環境での<マスター>達の行動がどう影響するのかを見るんだからそれでいいじゃない?」

「今回のイベントでは第六形態に至った<マスター>は参加していないが、特典武具持ちや超級職持ちもいるからな。進化の為のカンフル剤としては悪くないだろう。……私も“隠しギミック”を用意したしな。時間が来れば投下しよう」

 

 そうして彼等はデータを集めつつも島内の<マスター>達の様子を覗き見ていた……ちなみに何名かの管理AIは個人的に目を掛けている<マスター>に参加券が渡る様に仕向けたりしたりする。

 

「しかし、今後のデータ収集の為とはいえ今回はややイベントとしては混沌とし過ぎているな」

「まあ、ジャバウォックの用意した“隠しギミック”と言い、純粋な『バトルロイヤル』とはいかない感じになってるかなー」

「今回は実験みたいなものだし〜今後はちゃんと特典分野に特化したイベントをやっていけばいいんじゃない〜?」

「そうね。……とにかく今はどの<マスター>がこのバトルロイヤルを勝ち残るかを見守る事にしましょう」

 

 こうして裏方で頑張る管理AI達を他所に、イベントエリアでは世界中から集まった<マスター>達による熾烈な『バトルロイヤル』が始まっていったのだった。




あとがき・各種設定解説

妹:結構深読みするタイプ
・普段の事件では直感を前提にして色々と考えながら最適解を選ぶので、今回の様にそれが働かない危険性がない事に関しても色々と考えて深読みしている。
・尚、今回の様にゲーム的な展開であれば知り合い同士で戦い合うのに躊躇しないタイプだが、直感に従ってる状態なら普通の事件で知り合いが敵に回っても容赦なく排除出来るタイプでもある。

バトルロイヤルイベント:実験的要素が強い
・今回は隔離イベントにおけるアイテム・モンスター・自然環境・空間転送・アバター修復などの実験データを得る為、本来ならバトルロイヤルイベントでは使われない要素も複数入れている。
・尚、今回管理AI達の中でラビットは忙しいから、バンダースナッチは興味なし、ドーマウスは幼女乗せてると言った理由で不参加。


読了ありがとうございました。
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