□イベントエリア南側
『《四次元展開》【大型滑腔砲】を二挺前腕肩部ハードポイントへ、【対人榴弾】セット。背部ミサイルランチャーには【対人誘導炸裂弾頭】を追加装填ですの』
『全く、俺はレイドボスじゃないんだぞ。《ハウザーインパクト》!』
「「「ウワァァァァァァァァァッ!!!』
イベントエリア最南端にある海岸に面した草原地帯、そこでは地面で両手両足掴んで四足歩行状態になった機械の竜【メタルドライガー・スウィッチングカスタム】がパイロットであるジョージ・グレンの操縦の下、機体各部に装着した重火器を自身を取り囲む他の参加者達へと一斉に発射していた。
そして放たれた砲弾とミサイルは【
「無駄無駄ァ! 《絶対具足》《アストロガード》!」
「直撃を避ければ! 《硬気功》!」
「他を囮にして全力で避ければいいな。《アクセラレイション》!」
「全て斬り払う……《玉弾き》!」
ある者は<エンブリオ>とジョブスキルを組み合わせて自身の防御力を大幅に上昇させてミサイルの直撃を無傷で防ぎ、またある者は地面から土の壁を展開して砲撃を防ぎつつ爆発を自身の防御力を上昇させる事で凌ぎ、更に別の者はミサイルを誘導を上手く他人に押し付けて回避し、果ては向かってくる砲弾を全て刀で斬り払っている者までいる始末。
『全然数が減らないですのー、取り敢えず砲弾を【HEAT弾】に変えますの』
『やっぱり目立ちすぎたせいで袋叩きにされてるなぁ。《貫徹甲弾》!』
「ゴフッ⁉︎ 俺の鎧が……!」
それでもジョージは愚痴りつつも搭載されたセンサーによって爆風の中の敵の位置を割り出し、装填された対物貫通力に特化した弾頭を対物攻撃に特化した砲撃スキルで撃つ事で全身鎧を纏った<マスター>を始末していた。
……【ツクモガミ】を戦闘形態にして戦い始めたグレンであったが、やはりその巨体は目立ちすぎた上にその高い戦闘能力を見た他の参加者が『まずはヤツから狙え』と言わんばかりに即席の同盟を組んで攻撃を仕掛けて来たので今の様な多勢に無勢を強いられてしまっているのだ。
「ヤツは砲撃特化だ! 接近戦を狙え! 《ストーム・スティンガー》」
「斬る……! 《斬鉄》!」
『チッ、だが接近戦が出来ない訳じゃないんだがなっ!』
『普通の戦車だった頃とは違いますの!』
そして爆撃を高いAGIで搔い潜った禍々しい槍を持った<マスター>と日本刀を持った<マスター>が左右から【メタルドライガー】へと接近戦を仕掛けるが、ジョージは瞬時に機体を操作して肩の大砲を犠牲に槍を受け止めつつその場から跳びのきながら相手を振り払い、更に機体を一回転させる事で長い尾を鞭の様に奮って刀の男を殴り飛ばした。
元より地竜を模して作られた【メタルドライガー】は自由に三次元機動が出来るレベルの運動性を持っており、その上で【ツクモガミ】と融合して<エンブリオ>化する事でジョージの意思通り自在に動き回る事が出来るのだ。
「ヒャッハー! 隙を見て漁夫の利だぜぇ!!! 《ミサイルパレード》!!!」
「うおっ⁉︎ テメェ!!!」
『背部ユニットを迎撃用ガトリングガンに』
ジョージ達にとって幸いだと言えるのはこれがバトルロイヤルであり彼等があくまで即興で連携を取っているだけなので付け入る隙があり、更に今の様に他の参加者が割り込んでくる事もあるので状況が混戦じみて一人だけが狙われる事がまだ少ない事か。
だが、それでもこの戦場で一番目立つのはサイズがデカくて強い自分達であると彼等は考え、今もモヒカンの<マスター>が手に持ったミサイルランチャーから発射されたミサイルの三割程が自分に向かってきた辺り、此処にいる参加者は常に自分達から意識を逸らしていない以上は逃げるのは最早無理だろうと判断した。
『まあ逃走の選択肢が無い事は最初から分かりきっていた事だがな……ツクモ、近接戦特化形態に移行!』
『了解ですの。射撃武装収納、直立モードに変形。腕部【ヒートブレードシールド】【対人ガトリングガン】展開、背部には【ミサイルランチャー付きランドセル】、腰部には【対人機関砲】を装備』
故にジョージは逃走ではなく闘争の選択肢を選び、それに答えたツクモは【メタルドライガー】のフレームを稼働させてあたかも古き良き特撮番組に出て来る二足歩行の怪獣の様な姿へと変形させた上で全身に近接戦闘用の装備を装着した。
元々【メタルドライガー】には<
『これまでは引き気味に戦っていたが、ここからは消耗度外視でいかせてもらう! 《モータースラッシュ》!』
『背部ミサイル一斉発射ですの!』
「なっ速……ガハァッ⁉︎」
まずジョージは近接戦に持ち込もうと近付いてきた<マスター>へ逆に接近しながら右腕に付けられた先端がブレードになったシールドを掬い上げる様に奮って両断し、それと並行してツクモが背部ユニットから左右及び上方向に多数のミサイルを発射して敵陣へと襲い掛からせる。
それによって混乱した敵群に対して更に左腕に固定されたガトリングガンと腰部の機関砲から無数の弾丸をばら撒き、加えてその巨体からは想像出来ない程の運動性とAGIで動き回りながら敵を踏み潰したり尻尾で薙ぎ払ったりとこれまでとは打って変わっての大暴れを披露してみせたのだ。
「コイツいきなり動きが……うわぁっ⁉︎」
「仕方ない……《
「こっちも出し惜しみはしてられないか……《
「ヒャッハー! まとめて粉砕だぜぇ!!! 《
しかし、それでもこの場にいるのはそれぞれこのバトルロイヤルの参加証を手に入れられた者──純竜級以上のモンスターをも倒せる凄腕の<マスター>達故、その中でも上澄みの者達は巨体を誇る【メタルドライガー】の圧倒的な暴力を掻い潜ってそれぞれの“必殺スキル”を用いて反撃に移る。
侍風の格好をした<マスター>は刀型<エンブリオ>の『斬撃のみを転移させて対象に当てる』必殺スキルと上級職奥義の剣技スキルを合わせて相手の尾を半分近く斬り裂き、チャイナドレスを着た中華風<マスター>は地面の下に隠していた龍型の上級ガーディアンと融合しながら周囲の大地と一体となって相手を地面に沈めて動きを封じ、モヒカンの<マスター>は手に持ったミサイルランチャーを単発式のミサイルランチャーへと変形させて胴体部を狙って撃ち込み咄嗟に掲げたシールド毎相手の右腕を吹き飛ばす大爆発を起こした。
『ええいっ腕が……やはり多勢に無勢か! 必殺スキルを一斉に喰らえば流石の【メタルドライガー】でも……!』
『こっちは必殺スキルが実質使えないのが辛いですの……でもまだまだ身体は動きますし、この近辺にレーダーには残った他の<マスター>は後
それでもジョージとツクモは諦める事なくダメージを受けた【メタルドライガー】を無理矢理動かして反撃に移る。手始めに残ったミサイルを一斉に発射して侍風<マスター>を牽制しつつ、腰部と脚部にグレネードランチャーを装備して下方に発射して地面ごと敵を吹き飛ばしながらその場を脱した。
そのまま四足歩行形態に移行しつつ【メタルドライガー】の切り札である《口部荷電粒子砲》に動力炉、及び追加装備した予備バッテリーのMPの大半を注ぎ込んで更には【戦車操縦士】の奥義まで使って残った敵をまとめて屠ろうとした。
『【荷電粒子砲用追加バッテリー】展開及びMP急速充填!』
『《破城砲撃》……いけるか?』
「まだ動くのかよぉ〜!」
「斬り捨てるのみ……!」
「マズイ! ヤツを止めろ「《
……その直前に先程の攻撃に参加しなかった槍使いの<マスター>がどこからか“木製の槍”を取り出し、瞬時に何か異様な雰囲気を漂わせる球状のフィールドを展開してその場にいる参加者全員を飲み込んだ。
今までは声を上げるだけで余り目立たなかったその男の行動に他の参加者は警戒するが、既にその男──アルター王国所属の<マスター>【
「《
直後、彼の<エンブリオ>【滅神呪槍 ミスティルテイン】のスキルによって他の参加者の内前衛型の者の数万を超えているHPは1000以下まで下がり、続け様に使われたスキルによって合計レベル×50──カンストしている彼らにとっては25000に及ぶ威力の固定ダメージを叩き込まれてシュバルツ以外の参加者は一瞬で消し飛んだのであった。
◇
「……よしよし上手くいったな、丁度いい相手がいたから他の参加者を扇動して争わせる作戦。正直危なかった気もするが最終的に俺の一人勝ちだからまあよし。……やっぱりPK以外は上手くいくんだよなぁ」
そうしてシュバルツは【メタルドライガー】など他の参加者の痕跡が跡形もなく消えた事を確認した後、素早くその場から離れて近場の茂みに隠れながらポーションを取り出して戦闘での消耗を回復させる為に飲んでいた。
彼の《輝ける命脈よ、尽き果てろ》は進化の結果条件を満たした相手にHP・MP・SPの内最も高い数値を最も低い数値とする効果になっており、それと《輝ける才覚よ、消え失せよ》を組み合わせる事によって例え前衛型でもHPを強制的に下げた上で回避不可で格殺級の固定ダメージを叩き込む必殺のコンボ攻撃となっていたのだ。
最も彼の【ミスティルテイン】はスキルの対象とする条件が『ミスティルテイン自体に接触するか《ヤドリギの枝よ、天へ伸びよ》効果範囲に入る事』であり、更にスキルを使用するには必ず<エンブリオ>を保持して自分自身にもスキル効果が及ぶ状態で無ければならないデメリットがあったので本来なら自爆気味の手段にしかならない筈が何故か今の彼には一切のダメージがなかった。
(【救命のブローチ】が無い今回のイベントではこのコンボは有効だな。【ビートレス】のお陰で俺には一切の悪影響は及ばないし……消耗は激しいが)
その理由は彼が手に入れた籠手型の逸話級特典武具【愚防手甲 ビートレス】のパッシブスキル《
ただし《輝ける才覚よ、消え失せよ》は固定ダメージを与える特性上無差別かつ条件付きのスキルにしては非常に燃費が悪く、対象者の数とレベルによって変動はするが先程の様にカンスト四人に使うだけでMPを最大値の半分近く持っていかれる。なので今回の様に連戦が予想される状況では使うタイミングは限られているし、今回もわざわざ敵の数が減った後に使う事で使用後にも最低限の継戦能力を確保できる様に戦術を練っていたりするのだが。
「……うん、やっぱりこのゲームの俺ってそこまで弱くないよな。一応エンドコンテンツみのある<UBM>を倒したり今回のイベントでも上手くやってるし。……でも普通にPKすると何故かす……クラスメイトの妹にかち合ったり、このコンボもPKに使おうとしたら相手が“レベル0縛りプレイ<マスター>”で効かなかったりするし……はぁ、やっぱりデンドロは普通にプレイしようかなぁ」
『GAAAAAAAAAAAAAAAAA!!?』
そんな事を愚痴りながらもシュバルツは騒ぎを聞きつけて寄って来ていた【シャウト・ハンター】を見つけると、とある普通のクエストで入手した高性能な呪いの槍で貫いてあっさりと撃破してHPMPを回復させる。
……その槍も【ビートレス】が無ければ装備者を呪い殺すレベルの強力な呪詛とその代償として非常に強力な効果を持つ逸品であり、それを扱うシュバルツ自身の技量も単純なジョブスキルには頼らない<マスター>としてはかなり高いものがあったのだが、それでも彼はPKやる気でこのゲームを始めたので“なんかコレジャナイ”感を味わうシュバルツ君だったのでしたとさ。
◇◇◇
□イベントエリア北西部
『……クチュン! ……誰か私の噂でもしているのかな? って今はそれどころじゃ無いんだけど』
所変わってイベントエリア北西にある森林部、そこではクラスメイトが愚痴ってる事など知る由もない【
……その瞬間、誰の姿も見えない森の中から突如として
『おっと、またビームが来たよ。さっきから鬱陶しいね』
だが、ミカは得意の“直感”に寄ってレーザーが発射される直前に僅かに首を横に傾げる事で回避しながら直ぐに後ろを向くが、そこには森が広がるだけでおそらくは光属性魔法であろう攻撃を発射した術者の姿はどこにもなかった。
直後、左右から見えない攻撃点より時間差で計4条のレーザーが襲い来るが、彼女は最低限の動きでレーザーを回避して回避先を読んで放たれた少し出力の高いレーザーも【ギガース】を盾代わりにしてあっさり防いで見せた……実は少し前に彼女がこの地点に入ってから今の様な攻撃が立て続けに繰り出されていたのだ。
(ビームって事は光属性の攻撃だろうし姿が見えないのは光学迷彩によるものか。虚空からいきなり放たれた様にも見えたし多分それ。……でも全方位から放たれるし魔法の発射点自体を別に置く能力ってのも考えられるか。或いはロボアニメでよく見るビットみたいなのを隠してるとかかな?)
今の森の中は全方位からの発射点が見えない光速レーザー弾幕が降るという普通の者にとってはキリングゾーンにしかならない場所と化していたが、直感だけで発射タイミングと攻撃の軌道が読めるミカにとっては攻撃範囲が狭く真っ直ぐにしか飛ばないレーザーはむしろ回避しやすい部類のものでしかなくこうして考え事をする余裕すらあった。
……とはいえ、この攻撃を行なっている“何者か”の位置は分かっておらず、ならばと“発射点”を潰そうにも下手に攻撃体制に入ればその隙を突かれて回避しきれない量の攻撃が飛んでくる可能性が彼女は高いと考えていたので今は回避に徹するしか無い状況であり……実際それをかなり離れた森の中から見ていた“何者か”もそれを狙っていた。
(ほう? 死角から時間差でのレーザーも全て回避か防御ですか。……
そいつは黒髪の男性であり片目を瞑りながら、その目の裏に全方位からのレーザーを余裕を持って回避するミカの姿を映して僅かに笑みすら浮かべていた。
そうして彼は光属性魔法のレーザーを放ち更には自分の目の代わりにもなっている空中浮遊する黒い玉──【光輝展星 ゾディアック】という名の<エンブリオ>を引き続き操りながら“取材”を続けていった。
(偶々手に入ったバトルロイヤルの参加券、初のイベントであればこれまで体験した事のない経験出来るだろうと参加しましたが良かったですね。<マスター>では未だ数少ない超級職に加えて私の攻撃を全て回避する異様な立ち回り、こんな経験はこの世界に来てから始めてですからとても良い“作品の為の材料”になりそうです)
そうしてその男──【
あとがき・各種設定解説
【メタルドライガー】:変形機能あり
・各部のフレームを伸縮稼働させる事で走行能力と射撃安定性に秀でた某ライガー系的な四足歩行形態、格闘射撃のバランスが良く俊敏性が高いジェ○ザウラー的な前傾形態、格闘能力に長けて人間っぽい動きも出来るメカゴ○ラ的な二足歩行形態を使い分ける事が可能。
・変形機能とハードポイントによって高い汎用性を誇るがその分操作は非常に複雑になっておりジョージの素の技術では扱いきれないが、融合した【ツクモガミ】が動きをサポートする事で問題なく動かせるというか特典武具としてはそういう方向でアジャストされている。
・その結果として試作実験段階の現在でも上位純竜レベルの性能を誇ってはいるが、最初にジョージが警戒していた通り目立ちすぎた結果複数の<エンブリオ>による分からん殺しに対応仕切れなかったので敗退した。
【戦車操縦士】:操縦士系統派生上級職
・操縦士系統の他に砲手系統も必要な複合上級職で特殊装備品に騎乗した状態での射砲撃戦に特化したジョブであり、他の操縦士系統と同じでMP・DEX特化だがどちらかといえばスキル重視のジョブなのでステータスの最大値はやや低め。
・主に奥義である機体を静止させて射撃待機状態に移行してその時間の長さに応じて次の砲撃威力を増大させる《破城砲撃》や、機体の移動中の砲撃制度を上昇させる《行進間射撃》などの乗機での砲撃スキルを覚える。
・また乗機への物理射撃ダメージを軽減する《防弾装甲》や物理攻撃の入射角に応じて乗機の強度を上げる《被弾経始》、悪路走破性を中心に走行能力を上げる《無限軌道》やその場で乗機を高速旋回させる《超信地旋回》など独特な防御・移動系スキルも覚えたりする。
・尚、特殊装備品でさえあれば別にキャタピラと砲台が付いた普通の戦車である必要はないのでジョージが乗機を【メタルドライガー】に変えた後もスキルは問題なく機能しているが、ドライフにいる戦車マニア達からは『もうアレ戦車じゃないだろ』と言われる事も。
シュバルツ・ブラック:相変わらずPK活動は上手くいってない
・ただし今回のイベントでは暴れてるジョージを見かけたら直ぐに周囲の参加者を扇動しながら、更に自分も一見控えめに見えない様に戦う事で粗方潰し合わせて最後に漁夫の利を得るなど戦術眼も優秀……何故かPKしようとすると巡り合わせが悪くなるだけで。
・特典武具である【ビートレス】の大元【兜防愚 ビートレス】は小型のカブトムシ型モンスターで自分自身を銃弾代わりにして敵をぶち抜くのが得意であり、加速スキルと自身が一定速度以上で一時的無敵状態かつ防護無効の固有スキル《
・だが固有スキル使用による攻撃後にAGIが元に戻るデメリットがあり、パーティーがやられた後に再加速する隙を突いてシュバルツが最も高いAGIを最も低いLUCと同数値にされた所為で加速出来ずスキルを使えなくなってその間に倒された。
・【愚防手甲 ビートレス】はステータス補正も無いパッシブスキル《
・ちなみにもう一本の呪いの槍は【
・それ以外にも血を吸収する事で自己修復する《流血修復》のスキルも持っているが、デメリットとして自分に【呪い】【吸魔】が付く上に的に他者に与えたダメージ分だけ自分にもダメージと【出血】を負う呪いが付与されている。
読了ありがとうございました。
今後出る予定は不明だがモブ参加者の<エンブリオ>設定も一応考えてはいる。斬撃射程延長の【リュウセイトウ】とか地中でしか活動できないガードナー【コウリュウ】とか実は召喚獣強化より契約ガチャ上振れが強い【ゲーティア】とか。