□イベントエリア北側
『……ポーションで僅かに損耗したHPも回復したし、SPも【クインバース】の自動回復で回復済み。MPは最大値低いから使い切っちゃったしもう少し掛かるかな』
イベントエリア北側森林部、そこではドラゴンっぽい着ぐるみを着た【
彼女は“直感”を駆使して可能な限り危険を避けながら進む事で厄介な参加者と戦う事無くここまで辿り着けたのだ。まあ途中で遭遇した【シャウト・ハンター】を瞬殺して回復薬代わりにしたり、大して危険ではない(超級職基準)参加者<マスター>を即殺したりする程度の戦闘はあったが概ね損耗無しな状況である。
『しかし
ちなみに彼女の考え通りイベントエリア内に配置された【シャウト・ハンター】は大体倒されている。まあ対人間に特化した探知スキルと大声を上げるスキルがメインでステータスは亜竜レベルだし戦闘スキルも最低限、更に参加者を見つけたら大声上げて突っ込む思考回路だから悉く回復薬扱いされるのも当然だが。
尚、モンスター投下を行ったジャバウォックとしては“バトルロイヤル”を“かくれんぼ”にしない為に潜伏引きこもり参加者を炙り出すカンフル剤扱いで配置した【シャウト・ハンター】だったが、戦闘力が低過ぎる事や投下数が少なかった事でイマイチ思った程の効果は無かったという所感の様だ(データは取れたので次回に生かす予定だけど)
『……さてと、私の“直感”だとこの辺りが一番安全の筈だけど、まあ命が掛かってないイベントだから少し先を読む方の精度は低いかな……そこのところどう思う?
「……“それ”に関してはミカちゃんの特有の感覚だから私に言える事はないわね。知り合いの“占い師”ならもう少しまともなアドバイスが出来るかもしれないけど、私は“未来を視る”事は出来ないし」
そうしてミカが独り言を口な出しながら後ろを振り向くと、木々の間からまるで滲み出すかの様に緑色のフードローブを被った【
……まあ、かなりワケありというか狙い通りみたいなシチュエーションに見えるかもしれないが、単にひめひめはあれから幻術と下級職狩人スキルと本人の技術を駆使して頑張って潜伏しながら逃げ隠れして偶々ミカと合流出来ただけなのだが。
「ま、それはともかくとして合流出来て助かったわ。私単独だとこのバトルロイヤルイベントで勝ち進むのは厳しいし。……ミカちゃんの“直感”に期待してなかったといえば嘘になるけど」
『バトルロイヤルだけあって強い人が多いもんねー。危険を避けるなら味方がいる場所を示してくれるかもしれないとは考えてたし。……私もガンタンクに乗ったニュータイプとか、全方位からビーム撃ってくるファンネル使いとかと戦って大変だったから』
「ガ○ダム好きの参加者でもいたのかしら? ……まあこっちも光と熱全吸収する相手には逃げるしか無かったし」
とりあえず二人は今考えてもしょうがない事は頭の隅に追いやりつつ、まずはバトルロイヤルイベントをクリアする事に集中しようと考えて合流するまでにお互いにあった出来事や現状を掻い摘んで説明していった。
『……うーむ、炎攻撃全吸収は多分葵ちゃんかなぁ? アルターいた時の知り合いで<月世の会>のメンバーだった子。特典武具の性質からして間違いなさそう』
「アルターの<マスター>だったのね。もしもう一度戦う事になったら私は戦力外だから貴女に任せるわ」
『うん、厳しい相手だけど力技で殴り倒せないって事はないだろうし。……ただ、多分これから参加者より厄介な“何か”が来そうな気がするんだよねー』
「なに? いきなりイベントエリアにイレギュラーな<
『多分違うよー、イベントにおけるイレギュラーではなさそう。でもそれに近い事は起きるかも。……やっぱり安全なイベントだからか“遠い勘”はイマイチ精度が荒いね。それは逆にいえばイベント自体は安全なんだって事だと思う』
「てことは最初にチェシャが言っていた“隠しギミック”とかが怪しいわね。……何となく予想は出来る気もするけど」
そうして話し合いの結果『おそらくこのバトルロイヤルイベントには後もう一波乱あるだろう』と予想した二人は、今後起こりうる“何か”に備える為に可能な限り万全の態勢を整えるべく牙を研ぐのだった。
◇◇◇
□イベントエリア中央東側
「……むむ、《人間探知》に反応あり。ここから北西方向300メートルぐらい先ですね」
「それじゃあ迂回する?」
「あっちの方が森が濃いので身を隠しつつ進みましょう」
イベントエリア中央にある山岳地帯の森林部、そこには他の参加者との交戦を避ける為に移動して来た【
また、この際ミュウの特典武具【黒晶首巻 ブラックォーツ】の《人間探知》が大活躍している。人間しか探知出来ない欠点も参加者が<マスター>のみであれば問題にはならず、自分との大雑把な距離と方角程度しか分からない分だけ消費MPも少ないので【バイオハーデス】の蓄積MPがあれば常時使用も可能なので戦闘回避や先制攻撃など非常に役に立っていた。
「……む、向こうもこっちから離れていきますね。気づかれましたか?」
「さっきからこんなのばっかりだね。さっきまでと違って遭遇する参加者も少ないし、近くに行っても戦闘を避けて逃げていく参加者が殆ど」
「バトルロイヤルで生き残るにはそれが一番効率的ですからね。序盤からイケイケドンドンで戦ってる参加者は途中で息切れするか、或いはどこかで倒される人が多いのでは? それで今生き残ってるのは逃げるか隠れるかを戦術にした人が多いのかと」
実際おおよそは彼女の言う通りであり序盤から積極的に戦って来た参加者は初見殺しが当たり前な<マスター>が跋扈するバトルロイヤルという場もあって多くが倒されており、勝ち残った者もその殆どが相応に損耗して別の参加者に倒されるか逃げ隠れして生き残る方に舵を切っている。
最初から完全に戦闘を捨てて隠蔽特化の<エンブリオ>の力で隠れ潜む者などを含めると現実のイベントは『かくれんぼ』の様相を呈して来ていると言えるかもしれない……最もそんな状況でも戦い続けて敵を片端から撃破する事が出来る“ごく一部の例外”な参加者もいるにはいるが。
「ふぅむ、追撃するのもそれはそれでリスクがあるしスルーで良いですかね。どうせ別の誰かが倒すでしょう」
「……みんなそう思ってたらイベント終わらないんじゃないかな?」
「流石にそこまではいかない……と思いますが。いずれ誰かが痺れを切らすか、或いはまだ残ってる『うるせぇぶっ飛ばす!!!』思考の人が動くでしょう。多分」
そんな彼女達が選んだ戦術も可能な限り戦闘を避ける生き残り重視というバトルロイヤルでは鉄板だがゲームだと特に面白味のない戦術なのだが。
まあミュウの方は使える手札が微妙に使いにくかったりクールタイムが長過ぎて連続戦闘に向いてなかったり、アリマの方は安定して強くはあるが精神汚染に掛けるのにどうしても長期戦にならざるを得ず消耗が激しいという理由で必要以上の戦闘を避けたいという判断だったが。
「……あ、あそこに何かありますね。罠でしょうか?」
「いや……アレって『宝箱』じゃない?」
「ああそう言えば最初にチェシャが言ってましたね。すっかり忘れてました」
……と、そんな方針で人目につかない山岳地帯の森の中を前衛系ステータス任せに進んでいた彼女達だったが、偶然山肌の一部にある窪みに木と金属で出来たファンタジーモノでよく見るデザインの宝箱を見つけてしまったのだ。
とりあえず興味本位で近付いてみた二人だったが、宝箱を間近にした時点で何かに気が付いた様に足を止めた。
「……これ罠とかじゃないですよね?」
「どうだろう?」
まあ要するに宝箱自体が罠じゃないかの疑念を持ったのだ。まあこれまで殺伐としたバトルロイヤルイベントで戦い続けだったし、何よりチェシャが『隠しギミック』があるとか言ってたのが大きい。
「とりあえず周囲に人間はいませんね。これがモンスターという可能性もありますが」
『僕の感覚でもこの宝箱にステータスがある様には感じないけど……』
「それじゃあ範囲圧縮《スリーピング・ソプラノ》……反応はないね。やっぱり考え過ぎかな?」
「じゃあ開けますか。……もしミミックでも殴り飛ばせばいいんですし」
なので彼女達は念入りに周囲を警戒したり実はモンスターじゃないかを探って見たり、果ては催眠音波をぶつけてみても宝箱はうんともすんとも言わなかったので覚悟を決めて宝箱を開けると……そこには一つの透明な球状のアイテムが鎮座していた。
「ふむ、これは……【リソース・チャージャー】? 使えば経験値が手に入る消費系アイテムみたいですね。……私もうカンストしてるんですが」
「私もー。なんかガッカリ感がスゴイ」
まあこのアイテムもイベント用に管理AIが用意した物なので一つ使えば下級職一個カンスト出来るぐらいのリソースが込められた一品ではあるのだが、散々警戒と覚悟を経て開いた宝箱の中身が今の自分達では使えない物だったので彼女達のテンションは低めである。
その後の話し合いの結果、とりあえずレベル上げの頻度が非常に多い
◇
「……では気を取り直してバトルロイヤルを最後まで生き残りましょう! せっかく参加したイベントだし楽しまねば!」
「そうだね!」
そんなイベントアイテムが微妙だった事は脇に置きつつ二人は再び周囲を警戒しながらの移動を再開するが、今度はもし戦いになった時に自分達が戦いやすい場所を見繕いながら移動する事にした。
いくら他の参加者から逃げたとしても足場が悪い場所に行ってしまったら動きが封じられて不利になるからという考えだが、宝箱を見つけた時に『今回はあくまでゲームだったね』と思い至って流石に逃げ回ってるだけではいつまでたってもイベントが終わらないと気付いたのもある。
「まあ結局は戦わないといけない気もしますし、せっかくのバトルロイヤルイベントで隠れんぼはつまらないでしょう」
「そうだねミュウちゃん」
「……後は『バトルロイヤルイベント』と銘打ってある以上はあの【シャウト・ハンター】以外にも運営が戦いを促進する“何か”を仕掛けてくる気もしますしね」
この手の“直感”はミカの専売特許ではあるが、特に“戦闘に関する勘の良さ”であればミュウもその才覚からかなりのものを持っていたりする。
……そのお陰かは知らないが、彼女達が移動してからしばらくした後にミュウが前方からこちらに向かってくる複数の人間の反応を察知したのだ。
「……前方から何人か人が来てます。かなりの速度でこっちに向かって来てますね。どうします?」
「さっき戦うって決めたんだし迎え撃とうよ」
「まあそうですね。とりあえず剣が振りやすい様なある程度拓けた場所に移動しましょう。そういう場所ならアリマちゃんの精神干渉もハメやすいですしね」
そう素早く話を纏めた彼女達は森の中で少し拓けた場所に陣取りつつ、各種自己バフや攻撃準備を整えていった……のだが、敵を探知していたミュウが人間の反応がいきなり一人減った事に気が付いたのだ。
「む、反応が一人減った? まさか戦闘中……いや」
「どうしたの?」
「……こっちに向かって来る人間の反応が一人づつ、しかも早いペースで消えています。消えた後に別の人間の反応があるのでおそらく戦闘中……というか何者かが参加者を次々と撃破しているみたいです。というかこれってこっちに向かってるんじゃなく“襲撃者から逃げてる”?」
彼女がそう言っている間にも五人は反応があった筈の《人間探知》内の反応が次々と消えて行き、あっという間に反応は襲撃者だと思われる一つのみとなってしまった。
……そしてその反応はゆっくりとした速度で彼女達の元へと近づいていき、やがて目視で見られる範囲内へと入ると共に反応と同じ位置の藪の中からリアルの彼女達と同じぐらいの年齢の『身体に付けた鎖に刀を帯びている和装の少年』が現れたのだ。
「おや、次の“仕合”の相手は貴女達ですか。……成る程、これは手強そうです」
「そちらも僅か1分足らずで四人の<マスター>を斬り捨てるとはなかなかのお点前で。……ああ、ドーモコンニチワ、ミュウ・ウィステリアと申します」
「これはご丁寧に、カシミヤと言います。天地で<マスター>をしています」
「……あ! えっとアリマ・スカーレットです?」
尚、“カシミヤ”と名乗る少年とミュウの会話は一見すると和やかな挨拶に聞こえるかもしれないが、それを少し離れた後方から見ていたアリマには二人の間の空気が徐々に研ぎ澄まされていく様な気がして思わず冷や汗を流す程であった。
しかし、そうして少年の名前を聞いたミュウが──研ぎ澄まされている気配はそのままに──相手を観察しながら何か合点の入った様な表情を浮かべた。
「ああ、やっぱり『樫宮くん』でしたか。よく見るとアバターもリアルとそう変わってないですね」
「ふむ、成る程『加藤さん』ですね? このゲームをやってると聞きましたがまさかこんな所で出会うとは」
「え、えーっと、知り合いなの?」
「同じ学校のクラスメイトで隣の席の子ですね。数少ないデンドロやってるクラスメイトなのでよく話をする友人ですよ」
「その様な感じです。そっちのアリマさんもウチの学校の人ですかね? 加藤……じゃなくてミュウさんと一緒にいた気がしますね」
尚、これもクラスメイト同士がゲームで顔合わせしたので友好的に話をしてる様に見えるが、やっぱり二人の間の空気は張り詰めたままで後ろで見ているアリマは温度は更に下がった様な気すらしていた。
「……え、えっと、友達同士なら協力してバトルロイヤルを勝ち抜くっていうのは……?」
「申し訳ありません、僕は今回のイベントで自分の腕試しの為に一人で戦い抜くと決めているので。……それにミュウさんとは一度戦ってみたいと思っていましたし」
「まあでしょうね。……リアルならともかくゲーム内のイベントでなら一戦ぐらいは構いませんよ。後アリマちゃんは後ろに下がって精神攻撃と防御に集中して下さい。貴女が接近戦を挑もうとしたらカウンターで首が落ちます」
「ア、ハイ」
どうにか勇気を出して協力の提案をしてみたアリマであったが出会った瞬間から『戦いになるのは確定ですね』と確信して意見を一致させていた二人にあっさり断られたので、とにかく気を取り直して後方に下がりながら《スリーピング・ソプラノ》による精神干渉によるミュウへの援護に徹する構えを取った。
それに対してカシミヤは自身の精神耐性パッシブスキルが反応している事を見て瞬時に東方武士系の精神耐性アクティブスキルの起動、及び精神耐性アクセサリーの《瞬間装着》を行いつつ刀の唾に手を掛け戦闘態勢へと移る。
「精神系状態異常ですか」
「卑怯とは言いませんよね?」(ミメ、ステータスコピーと拳への強化を)
『《
「いえ、これは決闘ではなくバトルロイヤルですから。二体一だろうが対応出来ない方が悪い」
それに対してミュウの方も即座に戦闘態勢を取り、更に瞬時に彼女の考えに応えたミメーシスが自身のAGIをカシミヤのそれと同期させつつ両拳に強化と硬度上昇のバフを掛ける。
「……《雲耀・瞬光》」
「《ウェポン・パリング》」
そして二人の間の空気が最大まで研ぎ澄まされながら張り詰めた瞬間、カシミヤが足元に魔法陣の様な紋章を展開しつつ超超音速で接近しながらの抜刀術を放ち、ミュウは武器防御のスキルを使いながらそんな彼と全く同じ速度で拳を振るって自身に迫る刃の閃きを迎撃戦とする。
……こうして二人の“武の天災児”同士の戦いが幕を上げたのだった。
あとがき・各種設定解説
《メタル・フィスト》:魔拳士系統のスキル
・固体強化に地属性魔法の応用で拳、及び腕部に装備している格闘用装備の硬度(防御力)を大幅に引き上げるアクティブスキル。
・“メタル”と付いているが別に金属を纏わせる訳ではなく、素手でも金属並みの硬度に出来るという意味のネーミングで硬度のみが上がって攻撃力は上がらないので使いにくい部類。
・ただし末妹はこのスキルに攻撃力・防御力強化の《エンハンス・フィスト》、武器防御系の《ウェポン・パリング》や【アンチウェポン・デモンズガントレット】の効果を重複させて武器運用特化ジョブが有する高性能刀剣を素手で殴る事を可能にしている。
《雲耀・瞬光》:抜刀術士の奥義
・東方の剣士系統や刀武者系統からの派生でその名の通り抜刀術の運用に特化した上級職【
・効果は発動した後に抜刀時限定で自身のAGIを十倍化させるというもので、一度使えば効果時間内に行った抜刀動作全てに効果が反映されるがその度にSPを消費する。
・ちなみにシステム的には『AGIに+900%』する仕様なので《神域抜刀》と併用しても109倍になるだけで余り意味がなく、それよりAGIの最終発揮値を倍加させる系のスキルの方が効果が高い。
・また、東方の剣士系統の奥義には特定の斬撃動作時にAGIなどを瞬間的に引き上げる《雲耀・○○》というスキルがいくつか存在する模様。
読了ありがとうございました。
ちなみに本作のオリジナルスキルには色々な作品からのパク……オマージュが含まれる場合があります。だって正直スキルやモンスターの名前考えるのが一番大変なんだよね。