□■回想・樫宮刃
……僕と彼女──“加藤祐美さん”が出会ったのは実は小学生で同じクラスになる前、父さんが古い知り合いが開いている『水面流古武術』と呼ばれている武術の道場へと行った時に偶然出会ったのです。
同じ地方にあるマイナー武術の道場主通しだったからなのか父さんとあちらの師範代はそこそこ親しい関係だったらしいので仲良く談笑しており、その間僕は暇だったのと少しの好奇心からあちらの道場内を見学する許可を得て散策をしていました。
「……ん?」
「……フ……ハ……」
すると庭の方で僅かに声がするので気になってそちらに行ってみると、そこには非常にゆっくりとした動作で尚且つ一目で分かるぐらいに流麗な動きで古武術の型を繰り返している彼女の姿があったのです。
……それで終わっていれば良かったんですが、この時の僕はまだ若かった(小学一年生時、ちなみに今は小学二年生)ので思わず見たままの感想を言ってしまったのです。
「……どうして
「……私は“コレ”がキライなんです」
あの時の彼女は一目見て分かるぐらいの規格外な“武の才”を全力で封じ込めようとしていたので思わずそんな言葉が口に出てしまいましたが、それに対して彼女がとても困った様な、或いは悲しそうな顔をして返答されてしまったのでその後に言葉は続きませんでした。
……それからは気まずくなったので父さんが帰るのに付いてそのまま帰宅したのですが、後日さわりだけですが彼女の“事情”を聞いて非常に申し訳なく思い、二年生に上がった時のクラス変えで偶然同じクラスになったので謝りにいったりしましたが」
「……あの時はそちらの事情も知らずに無神経な事を言って申し訳ありませんでした」
「……別に構いませんよ。特に気にしてはいないので」
まあその時は微妙に気まずい空気になったりしましたが、夏休みが終わった辺りでお互いに<Infinite Dendrogram>をやっている事を知って共通の話題が出来たのでそれなりに話す友人ぐらいの関係に落ち着きました(他のクラスメイトプレイヤーはデンドロがリアル過ぎるという理由で辞めてて、未だにデンドロやってると言ったらやや引かれましたし)
その後も何度か彼女と話す機会がありましたが、ある時を境にして彼女が自分の才能に掛けた“枷”が少し緩んでいるのに気がつきました。詳しく聞いてみると友人と仲直りしたそうで、確かに同世代の少女と共に登下校する姿を見る機会が何度かありました。
「今はレジェンダリアでデンドロやってますね。自然環境や住んでる人達が中々独特で面白い所ですよ」
「そうなんですか。僕は相変わらず天地で楽しく
それからは彼女とも前よりいくらか蟠りが解けた様に多少話す頻度が増えましたが、それでも心の何処かで“痼り”の様なモノがある気がしていました……なので今回のイベントはいい機会かもしれない、一度しっかり彼女と剣を交えれば自分の心にある程度の区切りをつけられるかもしれない……と少し考えてしまったのです。
……それに、やはり武芸者としては自身よりも遥かに高い才覚を持つ相手との戦いは楽しみですしね。自分で思っててかなり不器用な気もしますが、何だかんだで僕にとってはコレが一番手っ取り早いんです(天地脳)
◇◇◇
□イベントエリア中央東側
そして、そんな二人は今イベントエリア中央に聳え立つ山の東側の麓の森、その一角にある空き地にて【
「《雲耀・瞬光》」
まずは初手としてカシミヤが抜刀時限定でAGIを十倍にする《雲耀・瞬光》を使い、それと併用して自身の刀を保持している鎖型補助腕の<エンブリオ>【自在抜刀 イナバ】のAGIと同じ速度で自分を自由に動かす魔方陣を足元に展開する固有スキル《
……カシミヤの現在のAGIは約4000であり、つまりその十倍である約四万という戦闘系超級職すら優に上回る速度による移動と抜刀速度、更に抜刀術に関して天部の才と血の滲むような修練を積んだ彼の技術を合わせた一閃はこれだけでも数多の<マスター>達の首を落として天地の修羅達にも恐れられる一撃である。
「《ウェポン・パリング》」
「む、速い……?」
……のだが、その一閃に対してミュウは対象一体のステータスを自身にコピーする《
まあ正確に言えば抜刀の起動を先読みして刀の側面を弾く事によって受け流したというのが正しいのだが、例え同じ速度であろうとも卓越した技術から放たれるカシミヤの一閃に対処できるあたりミュウの格闘の才もまた規格外と言えるだろう。
「《閃》」
「《裏拳》」
最もカシミヤは『彼女なら自分の抜刀を捌くぐらい出来るでしょう』と思っていたので特に動揺などはせず、そのまま流れる様な動作で逆の手による抜刀術に移行。更に今度は抜刀威力を引き上げるジョブスキルも併用して斬り込むが、それに対してミュウも同じくジョブスキルを追加した裏拳によって先程と同じ様に刀の側面を叩いて払う。
ちなみに《剣速徹し》は防御されていない状態でのみ発動するので素手で武器を受け止めた時に“防御判定”となる《ウェポン・パリング》で防がれており、超超音速で拳と刀を打ち合わせている事もお互いに剣戟時の反動軽減やEND上昇のスキルで反動を消しているのでダメージを受けるなどは無い。
だが、それでも両腕による抜刀を繰り出し終えたカシミヤには隙が出来ており、逆に防御に徹していて素手故に小回りが利くミュウはそこをついて刀の間合いの内側に接近して勝負を決めようとし……その思惑は刀を振り切った体勢のまま180度後方へとスライド移動したカシミヤによって阻まれた。
「チッ(あの魔方陣、おそらくAGIと同じ速度で自分を自由に動かせるみたいな能力ですか、厄介な。こちらは移動に“踏み込む”必要がある分どうしても一手遅れますね)」
「《納刀術》(《雲耀・瞬光》の効果が切れた時には彼女の速度は落ちていた……いえ、こちらと同じになってましたね。加速時もそうでしたしおそらくAGIを同期させるタイプのスキル。速度による優位性はありませんか)」
刀を高速で鞘に収めるジョブスキルと【イナバ】の操作を併用して瞬時に再びの抜刀体勢に移ったカシミヤに対し、相手が後ろに移動した時点で『接近すればカウンターを貰う』と判断していたミュウは逆に一旦距離を取って体勢を整えた。
……彼と戦った天地の<マスター>の多くにも“抜刀時の動けないデメリットを無くす為のスキル”と思われている《鮫兎無步》だが、その真価は“どんな状況でも慣性や空気抵抗を無視して自身を自由に移動させられる”事であり、カシミヤ自身の立ち回りのセンスと合わせれば“踏み込みでは不可能な軌道で接近する”や“隙が出来てしまった緊急時に自分を移動して回避する”などの応用も出来るのだ。
「(さて問題は彼女がどれだけ“手札”を隠しているか……)《火走り》」
「(やはり踏み込み必要が無い分立て直しも早い!)《風拍掌》」
そして再攻撃の準備を終えたカシミヤは即座に抜刀と共に接近、今度はフェイントをかけつつ側面から回り込む様に迫りつつスキルによって炎を纏わせた一閃を放ち、それに対してミュウの方もフェイントを看破しながら旋風と共に放たれる掌底によって炎の威力を弱めながら刀の側面を弾いて受け流す。
そこでミュウは先程の様にもう片方の刀による再度の抜刀に備えて迎撃の体勢を取り、そこにカシミヤは流れる様な連続抜刀を……行わなずに納刀状態のまま一呼吸おいた。
「(ッ⁉︎ “変速”ですか!)《受け流し》!」
「《雷閃》」
一拍置いた事によりカシミヤの抜刀時加速効果が切れてAGIが通常のものに戻り、当然それによりAGIを同期させていたミュウの速度も一気に落ちてしまって僅かだが対応が遅れてしまう。AGIを自分の意思で変えられるカシミヤに対し、それに合わせて変化するAGIに対応した動きをせざるを得ないが故に対応が半歩遅れてしまうミュウとミメーシスに欠点を突いたフェイント技である。
それでも彼女は自身の首を狙う刀を辛うじて腕部の【デモンズガントレット】で受けつつ、それを斜めに構える事で受け流して防いでみせる……が、彼の使ったジョブスキルは『抜刀後に同じ速度で刀を斬り返す二連撃』であり、その効果によって今度は無防備な逆側から再び刀が向かってくる。
『【エアロタラリア】にMP充填。《エアロジェット》《エアロジャンプ》起動』
「せいっ!」
「わっ! 壁ですか!」
だが、最初の一閃を受け流した時点で『僅かに攻め気が薄いからコレが本命ではない』と読んでいたミュウは即座に対応、それにノータイムで融合しているミメーシスが答えて足に装備した【エアロタラリア】へと【バイオハーデス】に蓄積した膨大なMPを注ぎ込む。
そして間髪入れずに足裏からジェット噴射を“真横に”放って自分の身体をバック宙に要領で真横に倒して刀をギリギリの所で回避。更に相手の方向へと向いた足裏から大気の踏み台を発生……本来なら空中跳躍の足場に使う為に一瞬だけ展開される小規模な踏み台だが、多量のMPが注がれていた事で擬似的に『巨大な大気の壁』と化して勢いよく噴出されたのでカシミヤを押し出したのだ。
(危なかったですね。やはり読み合いや技術勝負だと全霊を掛けて武術に打ち込んでいる彼と武術自体そんなに好きではない私なら不利ですね。どうしても才能任せのメッキが剥がれます)
(あんな対処をするとは。やはり戦闘センスにおいては僕よりも彼女の方が数段上ですか。今は経験でカバーしてますが打ち崩すのには時間が掛かりそうであり……そうなった場合、後方にいるあちらの
大気の壁に押し出されるも《鮫兎無步》で体勢を崩さず距離を取ったカシミヤは、同じく超人的なバランス感覚でジェットバック宙を決めて着地したミュウを警戒しつつ、その30メートル程後方に下がって《スリーピング・ソプラノ》を奏で続けているアリマに目をやった。
彼女は戦闘が始まってからずっと自身の<エンブリオ>のスキルと特典武具を駆使してカシミヤに精神干渉をし続けており、今は耐性スキルでレジスト出来ているがコレが長引けば耐性を抜かれて精神系状態異常に掛けられるのは明らかだった。
(ミュウさんを無視して彼女を狙う……のは不可能ですね。少し距離がある事もあって下手に背を向けたらそれこそ一瞬で倒されますし、何よりアリマさんの方もこちらの攻防を目で追えてるのでこちらから仕掛けて一撃で仕留められるかどうかは怪しい。……選ぶべき選択肢はミュウさんを一気に倒し、その後精神汚染になる前にもう一人を仕留めるのが最適解なのは分かりきってますが……問題は
(読み合いを続けるとどうしても不利になるので短期決戦、しかも一度の交差で決着がつく様な戦いの方が読み合いの選択肢を減らして一本道に出来るから勝算が高いんですよね。だからこそアリマちゃんを後方にやって長期戦という選択を潰しましたし。……それにこちらには彼の一閃を凌ぐ防御手段が“二つ”あります)
ミュウの狙いは自身が保有する二つの特典武具──【黒晶首巻 ブラックォーツ】のほぼあらゆる武器を透過させる《
その為にミュウはわざわざアリマが精神干渉を行う事を知らせる事で長期戦の選択肢を潰し、更に彼女に注意を向けさせる事でカシミヤの注意を分散させるなどの布石を打っていたのだ。ちなみに今までの攻防で防御スキルを使わなかったのは相手の攻め気が薄いと見て、ここで使えばカウンターを入れられず無駄打ちになると判断したからである。
(まあ彼相手にタイマンだと勝率3割あればいい方なぐらい実力に差があるので、ここは可能な限り布石を撃ちますが……ですのでミメ)
『……ん、了解。ちょっと不安だけど頑張るよ』
(おそらく狙いはこちらの必殺の一閃を凌いでのカウンター、加えて長期戦になれば彼女ほどの戦闘センスであれば僕の剣術の“理”まで掌握されかねませんし……いえ、少し複雑に考え過ぎましたね。どのみち他に道がないのなら……)
そうして実時間では数秒も経っていない読み合いの後にカシミヤから放たれる気配が一気に鋭いモノへと変動し、それを見たミュウの方も“ついに来るか”と同じく辺りの空気が張り詰める程に集中していく。
「元より抜刀術の基本は“一斬必殺”。それしか道がないのなら須らく斬って捨てるまで」
「来ますか」
色々と相手の手を読むなど考えた末『元より長期戦では確実に敗北する以上、例えそこが虎口であろうとも踏み込んで手持ちの“全て”を使って相手の手札を全て斬り破るしか道は無し。つまり全力かつ最速ででミュウさんを打ち倒し、そこから自分が精神汚染を受ける前にアリマさんを倒せばいい』と思い至ったカシミヤは己の全霊でもって眼前の大敵を斬り捨てる覚悟を固めた。
そしてミュウもそんな彼の考えを察して自分に出来る“全て”でもって決戦に赴く覚悟を決めて……その一瞬後、カシミヤが超超音速で接近し、ミュウがそれを迎え撃つ形で二人の“天災児”の最期の激突が始まったのだった。
あとがき・各種設定解説
末妹:正直彼相手にタイマンとか勝算低すぎるので事前に布石は打ちました
・融合状態の時には半身である<エンブリオ>である事もあって末妹とミメーシスはお互いの考えている事を完全に把握してノータイムで意思疎通が出来たりするが、普段は味気ないので全力戦闘時以外は念話してる(戦闘時の会話描写も実際にはノータイム)
・ここまでになったのは進化によって《憑依融合》の性能が向上したからであり、最初は末妹が身体操作とジョブスキル使用・ミメーシスがエンブリオ固有スキル使用しか出来なかったが今はお互いがそれら全てを運用出来る。
・【エアロタラリア】の《エアロジェット》は足裏から空気を噴出させて移動するスキルだが、実はブーツの左右と後方に噴出口語ありそこから空気を出しておりその噴出口は噴出方向をある程度稼働させられるのでやろうと思えば真横に噴出させる事も可能(それで制御は更に難しくなっているが)
カシミヤ:現状のままだと負けるのでとりあえず斬ります(天地脳)
・過去にあった事と末妹の布石で序盤はやや控えめな攻め手になっていたが、それは自身の本来の戦い方ではないと思い直して策ごと全身全霊で斬って捨てる道を選んだ。
・まあ精神汚染攻撃してくる敵がいるので速攻掛けないと敗北の可能性がチラつくのでやむを得ない選択だが、だからと言って何の“勝算”もなく仕掛ける様なタイプではない模様。
・ちなみに彼と末妹の間に恋愛感情などは一切無いが、お互い『規格外な武芸の才能』『武芸に全力で打ち込める姿勢』に対して憧れとか嫉妬とかを少し抱いている複雑な関係。
・なので基本は“よく話すクラスメイト”ぐらいの仲の友人関係ではあるのだが、お互いに微妙にモヤっととしない部分が僅かにある……なので一度全力で“死合”をすればスッキリ出来ますよね(天地脳)なのが今回。
読了ありがとうございました。
少し長くなりそうなので分割、この戦いの決着は次回になります。感想・評価・誤字報告などはいつでもお待ちしています。