三兄妹のデンドロプレイ・二日目
□王都アルテア 【
私達がデンドロを買った日の翌日である2043年7月16日、その日も私は学校が終わってから速攻で家へと帰り兄様と姉様と一緒に速攻で家に帰って来てデンドロにログインしていました。
……そして、私達が王都に降り立つとそこには昨日と比べても、左手に紋章や卵を付けた<マスター>の姿を多く見かけたのです。
「しかし、二日目になると一気に<マスター>の数が増えたね〜」
「掲示板とかを見てもデンドロが“本物”だと言う情報が飛び交っていたからな。そうなれば当然大ヒットするだろうよ……実際、デンドロのハードは売り切れ続出らしいし」
「それに関しては、今日発表された<Infinite Dendrogram>の開発責任者だと言う“ルイス・キャロル氏”の言葉も影響していると思うのです」
確か『<Infinite Dendrogram>は新世界と
「まあ、それはともかくとして今日は何をしようか? 明日も学校だからあまり長くは出来ないけど」
「ですが、明日は終業式でそれからは夏休みなのです! だから、それ以降はたっぷりとデンドロが出来るのですよ」
「じゃあ、無難にレベル上げでいいんじゃないか。……この世界だと行動範囲を広げるには強くならないといけないだろうし」
確かにそれが無難ですか……私達は兄様の<エンブリオ>のお陰で大分レベルが上がりやすいですし、そのメリットは十分活かしてレベル上げをして夏休みに備えるのが賢いですかね。
……という訳で、私達は冒険者ギルドで適当な討伐系依頼を受けた後に、昨日はトラブルで探索が中途半端に終わってしまったという理由で再び<ノズ森林>に行って狩りをする事にしたのでした。
◇
「いや〜結構レベルが上がったね。狩場を森の奥に変えたのは正解だったかな」
「森の浅いところには、同じ初心者<マスター>達がひしめいていましたからね。……今の私達のレベルなら、もう少し奥で戦っても大丈夫だったのは幸いでした」
「相変わらず俺のスキルを使うとアイテムはさっぱりだが。……まあ、初日に稼いだ金がまだあるから問題は無いか」
そういう訳で、私達は<ノズ森林>での狩りを終えて王都への帰路についたところなのです……まあ、特に語る様な事も無く、普通に森の中の低級モンスターを三人で危なげなく倒していっただけでしたね。
……森の奥に居る少し強めのモンスターに狙いを絞ったお陰で、今日から増え始めた他の<マスター>とブッキングする事も無かったので。
『しかし、雑魚相手だと僕のスキルはあんまり役に立たないね。……まあ、僕は強敵相手の戦いに特化しているからしょうがないんだけど』
「私はミメの高いMPを活かすスキルを持って無いですからね。……今度、MPを使って殴る格闘系のジョブでも探してみましょうか」
そんな中、私と融合しているミメが愚痴をこぼしてたので宥めて置きます……ちなみに融合している間はミメの声は私にしか聞こえない様です。どうやらミメには融合中に声を外に届ける機能が無い様ですね。
……実際、今の【格闘家】のジョブはミメとそこまで相性がいい訳では無いですし、何かこう“魔法拳士”的なジョブがあると通常戦闘でも融合で上がったMPを活かせるのですが……。
「……んん? ……二人とも、あっちから何か来るよ」
「何?」
『あ、なんかステータスの高い敵対対象が近づいているみたい』
「本当ですか? ミメ。……確かに《殺気感知》に反応が出て来ましたね」
その時、突然姉様がまた“何か”を感じ取ったのか私達から見て右側を指差し、それとほぼ同時にミメの感覚に高ステータスの敵対対象が引っかかりました……ミメは有するスキルの関係なのか一定範囲内にいる敵のステータスが感覚で何となく分かり、その応用で比較的高いステータスを持つ敵性存在の位置を大雑把に感知する事も出来る様なのです。
……その直後、そちらの方向からかなり早い速度でこちらに近づいて来る
「きゃぁぁぁぁ〜〜⁉︎ 助けてぇぇぇ〜〜〜!!!」
「ヒィィィィ⁉︎」
『『『『『KISYAAAAAAAA!!!』』』』』
悲鳴を上げながらこちらに向かって来たのはのは青と金で塗られたサーフボードに乗って地上スレスレを飛んでいる黒髪の女性と、その腰にしがみついている獅子の意匠をあしらった籠手を付けた金髪の男性でした。
……そして、その後ろからは様々な種類の大量の虫──二十体前後の魔蟲系モンスターの群れが二人を追って来ていたのです。
「ふむ、あれがトレインとかMPKとか呼ばれている行為なのか? ……では、どうするべきかな」
「随分と必死そうだから、多分あの群れから逃げているだけじゃない? ……私の勘だと背を向けて逃げる方が危険かな」」
『後、奥に強いのがいるよ。多分亜竜級のモンスター』
「どうやら、あの群れを統率しているらしきボスモンスターがいる様なのです」
そんな事を話している間にもサーフボードに乗った二人はこちらに迫って来て……突然、飛んでいたボードが失速して地面に接触、そのまま乗っていた二人は放り出されて盛大に地面を転がって行き、私達の近くでようやく停止しました。
「イタタ……しまった、MP切れか。やっぱ【
「大丈夫ですかー?」
「あ、ああ。大丈夫……って! ヤバイ、追いつかれた!」
起き上がった男性の方がそう言いながら魔蟲の群れの奥の方を指差しました……そちらを見てみると、群れの奥に全長3メートル程の巨大な白いカマキリの姿がありました。
……そして、そいつの頭上には【テンプテーション・プリンセスマンティス】の文字があり、その雰囲気から明らかにレベルの違う相手だと分かりますね。
「……成る程、“
「少し《看破》してみましたが、兄様の予想通り全員【魅了】の状態異常になってますね」
「【魅了】した魔蟲系モンスターを操るモンスターってところかな? ……それで、そこの二人には簡潔に状況を説明してほしいんだけど?」
そうして、兄様が予想の説明ついでに前方に土の壁を作って虫達の足止めをしている間に、姉様がやって来た二人に詳しい事情を問いただしました。
「ああ、私の名前はアミタリア、そっちの男はレオン・ハート。見ての通り<マスター>よ。……今日は同じ様にデンドロを始めたばかりのメンバーでパーティーを組んで狩りをしていたんだけど……その途中でアイツらに遭遇して逃げ回ってたのよ」
「他のメンバーは全員やられて生き残ったのは俺たちだけって訳。……【魅了】している大元を倒せばどうにかって思ったけど、あのカマキリ自身もめちゃくちゃ強くて俺達以外輪切りにされたし」
成る程、事情は大体分かりましたのです……と、そんな事をしている間に土の壁が難なく
……そいつはまるで獲物を前に舌舐めずりをする様にじわじわとこちらとの距離を詰めつつ、周りのモンスター達を動かしてこちらを包囲して来ました。
『KISYASYASYASYASYASYA!』
(アイツ、完全にこちらを舐めて居ますね。……まあ、油断してくれるならそれに越した事は無いんですけど)
『ミュウ、アイツのステータスはSTRとAGI特化型だよ。……後、ENDと多分HPはかなり低い』
(こちらの《看破》でもそんな感じのステータスでしたね。……これならいけますか?)
そう考えた私は兄様と姉様に目配せをします……それに対して、二人もこちらの意図を分かってくれたのか頷いきました。
『KISYASYASYASYASYASYASYASYA!!!』
「……済みません。貴方達を巻き込む気は無かったんだけど……」
「トレインとかMPKとかする気は無かったんです……だから、掲示板とかに晒すのはやめてくなしゃす……」
何故か諦めムードの二人を見て【プリンセスマンティス】は気を良くしたのか、更にこちらに近づいて来ました……では、獲物の前で舌舐めずりするのは狩人として三流だと言う事を教えてあげましょうか!
「《メイス・スロー》!」
「……《マッドクラップ》!」
『KISYA⁉︎』
そうして油断していた【プリンセスマンティス】に対してまず姉様が手に持った【ギガース】を勢いよく投げつけました……それをアイツは腕に付いた鎌の一本を振るって弾き飛ばしましたが、【ギガース】は姉様以外には見た目通りの重量がある為に衝撃でその態勢が大きく崩れました。
更にその直後、兄様が発動した土属性拘束魔法によってその足の一本が地面に出来た泥の中へと沈んで、そのまま固まり拘束されました……その拘束も数秒もせずに突破されるでしょうが、それだけあれば……。
「ミメ!」
『《
「上出来です!」
『KISYAAA⁉︎』
ミメがスキルのよって【プリンセスマンティス】のステータスをコピーして、それによって大幅に上がったAGIで私がアイツに接近するには十分な隙なのです! ……ヤツも私の接近に対してもう片方の鎌を振り下ろして来ましたが、咄嗟に放たれた攻撃でかつ同じ速度であれば見切れない道理はありません。
そして、私は振り下ろされた鎌を回避すると同時に
「《ネックチョーク》……相手を侮ったツケはその身で支払う事ですっと!」
『KISYAaaaa──⁉︎ …………』
更に私は絡めた腕を【格闘家】で覚えた数少ないアクティブスキルで固定すると、強化されたSTRを使ってそのまま勢いよく相手の首を捻りながらねじ切りました。
……流石に首を引きちぎられて生きていられる様な相手では無かったらしく、倒れてから暫く痙攣した後に【テンプテーション・プリンセスマンティス】は光の塵となったのでした。
「「…………え?」」
「はい! そこの二人ぼーっとしない! ボスを倒して【魅了】が解けたからと言ってモンスターが消える訳じゃ無いからね!」
「敵が浮き足立っている今の内に殲滅するぞ……《ファイアーボール》!」
「「……は、はい!」」
そうして、兄様と姉様は【魅了】が解けた事で周囲の魔蟲モンスター達が混乱している隙をついて攻撃を仕掛けていきました……最初はあまりに急な展開に惚けていた二人もどうにか意識を取り戻して戦闘に参加し出しました。
「【MP回復ポーション】は飲んだからね! 《エアロバースト》!」
「なんかよく分からない事になったが、今がチャンスだ! 《レンジレス・アームズ》!」
……尚、二人の戦い方はアミタリアさんは盾に変形したサーフボードを手に持ってそこから風を出して敵を吹き飛ばしたりで、レオンさんは装備した剣から光の斬撃を放つというものでした。
「やっぱり<マスター>の戦い方は変わっていますね」
『……それ、ミュウには言われたく無いんじゃないかなぁ?』
……私の戦い方は至って普通ですよ? ただモンスターを殴ったり蹴ったり首を捩じ切ったりするだけですし。
◇
そうやって戦う事暫く、私達は周囲に集まっていた魔蟲モンスター達を全て倒し終えたのでした……兄様のスキルが発動中だった(解除する暇が無かった)のでアイテムは手に入りませんでしたが、その分カマキリ倒した時に結構ガッツリ経験値が貰えたので良しとしましょう。
……と、そうしていたらアミタリアさんとレオンさんが礼を言って来ました。
「今回は本当に助かったよ、お陰でデスペナにならずに済んだ。……お礼と言っては何だけど、今ドロップしたアイテムは全部そっち持ちでいいよ」
「と言うか、ゲーム始めたばっかりだからまともに払えるお金とかも無いので……だから、掲示板に晒すのだけはやめて下さい……」
「別に晒したりはせんし、礼もドロップアイテムを譲ってくれるだけで良いさ」
「そんなに気にする事は無いよ、大した相手でも無かったしね」
「油断と慢心が過ぎる相手でしたから、隙はつきやすかったのです」
まあ、モンスター倒したのは殆ど私達なのでそのドロップアイテムは経験値に変わっていますが……後、レオンさんは掲示板に何か嫌な思い出でも有るんですかね。
……そんな感じの事を私達が言ったら、二人はやや顔を痙攣らせました。
「……えーっと、お三方は私達と同じ<マスター>ですよね?」
「はい、先日始めたばかりなので、まだ下級職1個目の新人なのです」
「……それでボスモンスターをあんなあっさりと倒したんですか……?」
「大体はミュウちゃんとの相性が良かったお陰だけど。……やっぱりドロップアイテムの【宝櫃】は惜しかったかな?」
「仕方あるまい。スキルを解除するのもそれなりに手間がかかるのだし」
まあ、デンドロを始めてから二日連続でボスモンスターと戦う事になるとは思いませんでしたが……幸い先の【テンプテーション・プリンセスマンティス】は直接戦うタイプじゃ無かったのか、昨日の【
「それじゃあ、俺達はもう王都に帰るつもりなんだが二人はどうするんだ?」
「あ、あー……私達もこれ以上の狩りは出来ないし王都に戻るよ。レオンもいいよね?」
「今日は流石に疲れたしな……」
そう言うわけで、私達は二人と一緒に王都へと帰って行ったのでした……まあ、王都に着いた後は二人と別れて冒険者ギルドで依頼達成を報告しつつ、まだ行っていなかった<ウェズ海道>や<サウダ山道>で時間が許す限りレベル上げをして明日からの夏休みに備えたりしましたが。
あとがき・各種設定解説
三兄妹:アイコンタクトだけで連携が取れたりする
・共通見解として『敵に何かされる前に潰す』『油断している隙に倒す』と言う考えを持っている。
《メイス・スロー》:【戦棍士】のスキル
・その名の通り装備しているメイスを投げて攻撃するスキルで、スキルレベルが上がる程に威力・投擲距離が上昇する。
・妹の場合アームズ系<エンブリオ>の特性で所有者は重さを感じないので威力の高い投擲が出来るが、直接攻撃で無い為《バーリアブレイカー》は発動しないので相性は微妙。
《ネックチョーク》:本来は【
・一時的にSTRを上昇させて相手の首を絞め上げるアクティブスキルで、腕で首を固定する行為自体に補正も入る。
・また、相手次第では【窒息】の状態異常にする効果もあり、相手のENDと自身のSTRの差が大きかった場合にはそのまま首を引きちぎる事も可能。
アミタリア&レオン・ハート:アルター王国所属の初日組<マスター>
・二人共VRゲーム愛好家で相応のプレイスキルを持っている……のだが、それ故に末妹の体術を見て内心ドン引きしていた。
・ちなみにレオンは昔とあるMMOでうっかりマナー違反をしてしまい、それを掲示板に晒されて引退せざるを得なかった事が少しトラウマになっている。
【暴風盾板 プリトヴェン】
<マスター>:アミタリア
TYPE:チャリオッツ・アームズ
能力特性:風による移動
到達形態:Ⅰ
固有スキル:《ホバーダッシュ》《エアロバースト》
・モチーフはアーサー王伝説で語られる盾とも船とも言われるアイテム“プリトヴェン”
・第1形態としては珍しくハイブリッドしており、アームズとしての盾形態とチャリオッツとしてのサーフボード形態がある。
・《ホバーダッシュ》はサーフボード形態で使えるスキルで、MPを消費して地上・海上付近をホバー移動出来る。
・《エアロバースト》は盾形態で使えるスキルで、プリトヴェンから暴風を放ち敵を吹き飛ばす。
・ただし、第1形態の現在ではリソースの関係上チャリオッツとしては移動にMPを消費するから長時間移動出来ず、アームズとしてはホバー機能から派生したが故に放たれる暴風の威力は消費MPに比べると低い上、反動抑制機能が無いため威力をあげ過ぎると自分が吹き飛んだりする。
・アミタリア自身は《騎乗》スキルは覚えたし、MPが上がる【魔術師】にジョブを切り替えようかと思っている。
【獅支心応 ライオンハート】
<マスター>:レオン・ハート
TYPE:アームズ
能力特性:手持ち武器強化
到達形態:Ⅰ
固有スキル:《イミテーション・エクスカリバー》《レンジレス・アームズ》
・モチーフはイングランドの王であり自分の剣に『エクスカリバー』と名付けていたリチャード1世の異名“
・形状は獅子の意匠をあしらった白い小型の籠手で、これを付けた武器にスキル効果を反映させるタイプ。
・《イミテーション・エクスカリバー》は手に持っている装備武器の性能を+50%するパッシブスキル。
・このスキルは籠手一つにつき一つの武器の性能+50%する仕様なので、一つの武器を両手持ちにすれば50+50で+100%の強化になったりする。
・《レンジレス・アームズ》はMPを消費する事で手に持っている武器の射程を延長するスキル。
・射程延長のスキルなので攻撃力などに変更は無いが、他のアクティブスキルを併用して武器を振るえば延長された射程にもその効果が乗る。
・射程延長の方法は武器の種類によって違い剣などの斬撃武器なら斬撃が飛び、打撃武器なら衝撃波が出たりして、射撃武器なら単純に射程は伸びる感じ。
・アバター名から分かる通りレオンはリチャード1世の大ファンで、こんな<エンブリオ>になったのは素直に嬉しいようだ。
・尚、後日モチーフと能力が被りまくっている脳筋がアルター王国に移籍する模様。
【テンプテーション・プリンセスマンティス】:敗因・油断と慢心
・敵を【魅力】で撹乱してその隙に狩る【テンプテーション・マンティス】が魅了による使役に特化して進化した亜竜級モンスター。
・魔蟲特化の【魅力】スキル《テンプテーション・バグズフェロモン》や【魅了】時間を延長してその対象を自在に操る《魅了統率》のスキルを持つ。
・更に高レベルの《看破》も持っていたため相手能力を見極める事も得意だった(無論、<エンブリオ>の能力は見破れない)。
・森の奥に入って来た<マスター>を次々と仕留めて調子に乗っていたが、ステータスはスキル運用と最低限の戦闘用の為にMP・STR・AGI特化でHPとENDが低かったのが運の尽きだった。
・更に進化して純竜級の【テンプテーション・クイーンマンティス】に進化すると【魅了】した配下を強化する《魔蟲強化》や身代わり系スキルを習得して、亜竜級魔蟲による軍勢を作り上げる事もあるので割りと危険なモンスターでもある。
読了ありがとうございました。この話から暫くは短編連作の間章になります。