□王都アルテア・魔術師ギルド 【
さて、今日は妹達が通っている小学校では終業式が終わり夏休みに入ってから始めての土曜日、俺は王都アルテアにある魔術師ギルドの作業部屋で【魔石職人】のジョブクエストとしてチマチマと下級魔法の【ジェム】を作っています。
ちなみに内容はギルドから貰った鉱石を《魔石精製》で【魔石】に変え、それらに《魔法封入》を使い低級魔法を込めて【ジェム】にして提出するというものなので報酬は安いが、この【魔石職人】のジョブクエストは多くの初心者【
……え? だから何でいきなり転職してジョブクエストをやっているのかって? それは、今現在王都周辺の狩場に
「ある程度予想していたが、昨日から多くの学校が夏休みに入った所為でデンドロへのログイン者が物凄く増えてるんだよな。更に土曜日の今日は更に増えているし。……そして、現在ほぼ全ての<マスター>達が行動出来る範囲は初期地点周辺しか無いわけで……」
「そうなれば当然、初期地点周辺の狩場に大量の<マスター>が溢れる事になると。……まあ、序盤から生産をやる<マスター>は少ないだろうからな。生産ジョブクエストは受けるのに元手がいるのも多いし」
「さっき少し掲示板を見てみたが『フィールドに<マスター>多すぎワロタ』とか『フィールドを探してもモンスターがいない』『モンスターが現れたら周囲の<マスター>が集まって来てリンチされてた』『<マスター>がラフムに見える件www』というスレが揃っていたな。……<マスター>が強くなって行動範囲が広がれば少しはマシになるだろうが……」
と、現在の初心者狩場はご覧の有り様なのである……ちなみに今回は妹達とは別行動であり、今一緒の部屋に居るのは俺と同じく魔術師ギルドのジョブクエストを受けに来た【魔術師】(今は【魔石職人】)であるエドワードとアット・ウィキという<マスター>である。
何故この二人を一緒の部屋に居るのかと言うとこの作業部屋は貸し出し制でそこそこお金がかかる為、偶々出会った俺達はまだ始めたばかりで資金が少ない事もあって『三人で割り勘すれば安く済むんじゃね?』と考えて、お互いに金を出し合い部屋を共用する事にしたのである。
……それでまあ、男三人で黙々と【ジェム】を作るのも絵面的にアレなので、こうやって駄弁りながら作業を続けているのだ。
「まあ、この世界はモンスターが虚空からポップする仕様じゃなくて、ちゃんとした生態系がある仕様だからな。当然モンスターを狩り続ければ数は減る訳だ」
「それなら運営はもっとモンスターを事前に配置とかすればいいんじゃないか?」
「それはそれで生態系が乱れそうだが……。しかし、このデンドロでモンスターの分布を調査するのは大変そうだな」
そう言いながらアット氏は軽くため息をついた……この世界では縄張り争いとかでモンスターの分布や生態系が大きく変わる事も珍しく無いってアイラさんが言っていたし、確かに調査は大変そうだな。
……とは言え、そう言いながらもアット氏は楽しそうに笑みを浮かべていたが。
「まあ、だからこそこの<Infinite Dendrogram>の情報は調べ甲斐があるんだがな」
「やっぱりアットさんって調査とか好きな人? ほら名前的に」
「アットでいいぞ。……まあ、俺は考察や調査が昔から好きでな。そしてとある掲示板に“<マスター>ニキ”という人物が<Infinite Dendrogram>の世界の情報が細かく書きこんでいたのを見て、このゲームの情報wikiを作りたいと思いプレイを始めたんだ。デンドロの人気に火がつく前にどうにかハードを入手出来たからな、今はあの書き込みには感謝してるよ」
「……へ、へーソウナンダー……」
いやー、その<マスター>ニキってイッタイダレナンダロウナー()
……後、ログイン前の情報不足は管理AIでも問題視されたのか、二日目辺りで公式のホームページにデンドロ世界の常識についての説明が載せられる様になっていた……まあ、見ているだけで眠くなりそうな文章量だったけど。
「とは言え、今はコッチとリアルで同志を集めながら地力を上げる為にレベル上げに勤しんでいるところだがな。……ティアンから情報を得るにしてもまずは信用を得ないといけないし……」
「あー、確かにティアンって<マスター>への対応が塩いからなぁ。俺も錬金術師ギルドに行ってクエストを受けようとして、金と素材が無いって言ったら白い目で見られたし。……後で『普通はコネのある工房や商家の人とかから援助して貰う』って聞いたけど、それ<マスター>にはどうしようもないやつじゃんか……」
「まあ、今の<マスター>ってティアンから見ると『伝説とかで知ってるけど、いきなり大増殖し出したなんかよく分からない連中』みたいな印象っぽいしな。……まだ<マスター>もティアンも色々手探りだから、ある程度時間が経てばもう少し良くはなるだろうが……」
一応、ギルドとかでの事務的なコミュニケーションとかは普通にやってくれるんだが、それ以上となると今の所は難しい様だ……初日にアイラさんと会えた俺達は本当にラッキーだったんだろうな。
ちなみにエドワードは【
「正直なところ、今のデンドロは生産志望には厳しい環境なんだよなぁ……。初期資金なんて本格的に生産活動するとあっという間に尽きるし」
「……今やっている【ジェム】作成も、素材である【魔石】をギルドから供給されているからこそ出来ているからな。……その分、失敗すると報酬から素材代が差し引かれる上、まだスキルレベルも低いから失敗率も高く報酬も安くなりやすいが」
「魔法を込める時にも魔法スキルを使った扱いになるからスキルレベルは上げられるんだがな。……経験値稼ぎも含めて新人【魔術師】の援助がメインのクエストみたいだからな」
後、一応錬金術師ギルドの方にも似たような初心者向けクエストがあるらしいが、素材の代金が低級の【魔石】よりも高い所為で失敗した時の報酬減少の割合が大きく、ステータスとスキルレベルが低い現在では余り儲からない様だ。
「あー、何か生産活動を上手くやる良い手は無いのかなー」
「ふむ、やはり<マスター>最大の特徴である<エンブリオ>を使って自分を売り込むとか、或いは同じ生産系<マスター>を集めて互助クランでも作るとかか?」
「ほう、レントには何かアイディアがあるみたいだな」
そうして俺が少し思った事を呟いたら、それを聞いたアットとエドワードが興味深そうにこっちを見てきた……そんなに期待されても困るんだが……。
「……いや、本当に大した考えでは無いんだが……」
「別に話の種になるならなんでも良いぞ。……正直、結構行き詰まってるし……」
「俺は自分で考察するのも好きだが、他人の考察を聞くのも大好きだからな。是非聞かせてくれ」
なんかアットがめっちゃ目を輝かせながら催促してきたんだが……仕方ない、二人がそこまで言うなら少し話をするとしようか。
「まあ、簡単に言うとティアンに無く<マスター>にはある<エンブリオ>というシステムを使って、ティアンには中々作れない様な物を作って売り込んでコネを得るという考えだな。この世界にはちゃんと流通があって、生産者は商売で飯を食ってるんだから有用性……儲け話になりそうなら後見人とかになってくれる人も居るのではって事だ」
「要するに自分の<エンブリオ>を売り込んでコネを得るって事か。……理屈は分かるけどそう上手く行くか?」
「現在の<マスター>に対するティアンの印象は、さっきレントが言った通り余り良くは無いからな。……そんな人間が持ち込んだ怪しげな物品でコネを作るのは……いや、そういう先見の明があるティアンも何処かにはいるか?」
……まあ、俺自身そんな上手く行くとは思っていないアイディアだからな。正直、今必要なのはティアンが<マスター>という存在に慣れる事だと思っているからな。実際、このアイディアは<マスター>が良き隣人であるとティアンに印象付けるのが主目的だし。
「それ以前の問題として、俺の<エンブリオ>は特殊なアイテムとか作れない……というか、生産に寄与するものじゃないんだが。……とりあえず資金稼ぎが優先だと<エンブリオ>が孵化する前にフィールドに出て戦ったのが良くなかったのかなぁ。戦闘には便利な<エンブリオ>で助かってはいるんだが……」
「それに関してはどうしようもないが……<エンブリオ>は進化すれば新しいスキルを覚えるし、生産系スキルが欲しいと思っていればその方面のスキルが生えると思うぞ。……俺の<エンブリオ>も第2形態になったらちょうど“あったら便利だ”と思ったスキルが生えたし」
「レントの<エンブリオ>はもう進化したのか。……つまり、<エンブリオ>は進化するという情報は本当だったか」
ちなみに俺の【ルー】が第二形態になった時に覚えたスキルは《
この世界のジョブシステムではサブジョブのスキルは汎用スキル以外だとメインジョブと関係のあるものしか使えない仕様だが、この《諸芸の達人》があるとそういった制限が無くなる様だ。
……このスキルは【魔術師】のレベルがカンストして次のジョブに悩んでいた時に生えて来たものだから、<エンブリオ>がマスターのパーソナルに合わせて進化すると言うのは本当なのだろう。
「もう一つのアイディアである生産クランを作る方は……まあ、こっちもさっきと同じ<エンブリオ>頼りのアイディアで、生産系<エンブリオ>を複数集めて凄いものを作ってコネを得ようみたいな感じだ。……他にも生産系同士で協力すれば活動がしやすくなる期待もあるし、特定の能力特化のクランを作るなら先駆者の方が圧倒的に有利だから、まだデンドロが始まったばかりの今だからこそクランを作るメリットは大きいと言う考えもある」
「ふーむ……とりあえず、実現可能かはともかくとして、ただ文句を言って腐っていてもどうしようも無さそうだし、せっかくの先駆者だから色々やってみるのも悪くないかな?」
「まあ、クランを作るなら早い方が有利というのは分かるな。……後から来る<マスター>も既に自分の目的に合ったクランがあって、そこに入れば大きなメリットがあると分かって入ればそこに加入するだろう。そうすればクランの規模を拡大させるのもやり易いだろうし……やはりwiki作成の為にはクランを作って人間を集める事が急務になるか」
正直、今の段階だと<マスター>がティアンに優っている部分なんて<エンブリオ>しか無いので、そこを活かす事ぐらいしか思いつかなかったから適当に語っただけだったんだが……二人共結構真面目に考えてるなぁ。
……何かこういい感じに為になる意見を言った方がいいか……?
「実際、<マスター>とティアンの信頼関係の構築はこのゲームを
「確かにただ作って売るだけならともかく、本格的な店の経営や流通経路の確保は<マスター>だけだと難しいか? <マスター>が生産ギルドの運営とか無理だろうし。……やっぱり生産には地道な努力が必要か」
「少し調べただけでもこのデンドロ世界の設定は複雑怪奇だったからな。……やはり、学者系ティアンとの協力関係構築は必須か? <マスター>という存在に対して興味を抱いているティアンはいるだろうし、まずはその辺りから……」
二人共、ちゃんと目的があってデンドロをやってるから凄い色々と考えてるなぁ……俺は妹に誘われてただ何となくプレイしているだけだし……。
……何かこの世界での“自分だけの目的”を探してみるのも悪く無いかもな。
「……よし、これでクエストの受注分は全部出来たな。じゃあ、ちょっと【ジェム】を提出して来るわ」
「おう、いってらー」
そうして、俺は出来た【ジェム】を魔術師ギルドの魔石職人部門に渡してクエストを達成すると共に、新しい【ジェム】作成のクエストを受けて、また作業部屋に戻って【ジェム】作りに励んで行ったのだった。
あとがき・各種設定解説
兄:この後に二人とはフレンド登録をした。
・【ルー】が第二形態になった時《光神の恩寵》のレベルが2になって獲得経験値が+200%になったのでレベルは凄い上がっている。
・本人的にはステータス補正がオールGのままなのが不満。
《諸芸の達人》:【百芸万職 ルー】の第三スキル
・ジョブクエストの制限撤廃はレベル50以上のサブジョブのジョブクエストを達成した時に、全く関係ないジョブをメインジョブにしていてもそちらに経験値が入る様になるという事。
・このスキルが目覚めた時点で兄は非魔法系ジョブをメインにして、サブに置いた【魔術師】のスキルが使えるかを確認した。
【魔石職人】:魔石職人系統下級職
・名前は原作に出てきたが詳細は書かれていないので大体捏造。
・ステータスはMPとDEXに特化しているので、初心者【魔術師】がジョブクエストで安全にMPを伸ばしたり小銭を稼いだりする為に就く事が多い。
エドワード:錬金術師志望の<マスター>
・この後、似た様に苦労している生産系<マスター>を集めてクランを作る事になった。
・実は兄とは同じ大学の同級生で、後に知った時には驚いた模様。
【幻想冶金 オレイカルコス】
<マスター>:エドワード
TYPE:テリトリー
到達形態:Ⅰ
能力特性:非金属の金属化
保有スキル:《メタル・トランスレイト》
・モチーフは神話や伝承に登場する架空の金属の名称の一つ“オレイカルコス”。
・《メタル・トランスレイト》はMP消費して発動する、周辺の任意の非金属を性質はそのままに一定時間金属化させるスキル。
・生物に使用した場合は【金属化】という【石化】派生の特殊状態異常となり、金属操作のスキルなどを持っていない限り動かすことは出来なくなる。
・だが、基本的に金属化した部分の強度は上昇し、効果時間は注ぎ込んだMPと自身と効果対象の能力差で決まる。
・また、第二形態に進化した際に自身が所有している非金属のアイテムを、一定確率で性質はそのままに完全に金属化させる《ファンタジー・メタル・ワーキング》というスキルを習得して、エドワードはその金属をティアンの錬金術師に売ってコネを作った模様。
アット・ウィキ:検証・考察大好き
・この後、アルター王国所属の同士や情報系<エンブリオ>の持ち主を集めてクラン<wiki編集部>を作り上げた。
・遊戯派だがティアンとの信頼関係は重視している……その方が多くの情報を入手出来るんだから当然なんだよね。
管理AI:頑張ってはいる
・一応こういう事態を想定して初期地点の低級モンスターを増やす“スタートダッシュキャンペーン”を行なっていた。
・だが、掲示板で『某ソシャゲの採集決戦の様だ』と称された
読了ありがとうございました。
ただ、男三人で駄弁るだけの話になってしまった……次は女の子もだそう。