※8/20 リリアーナのレベルを少し変更
□王都アルテア・騎士団施設内訓練場 【
「せいっ! 《ダブルスラッシュ》!」
「おっとぉ⁉︎」
私ことミカ・ウィステリアは向かい合っている凄い美少女が放った二連続の高速斬撃を、持ち前の“直感”で攻撃の軌道を先読みしそこに手に持った【ギガース】置く事でどうにか防いでいます……今、私が何をやっているのかと言うと、王都にある騎士団関係施設の訓練場で騎士団の人達と訓練をしているんだよね。
(まさか王都周辺の狩場が
だから、しょうがなく冒険者ギルドで何か適当なクエストを受けようと思ったら、そこに居たアイラさんにこの【騎士団で訓練相手の<マスター>募集】のジョブクエストを紹介されたんだよ……まあ、騎士系統のジョブクエストだからメインジョブを変更しないと行けなかったんだけど、幸い騎士系統の派生下級職にメイスを扱う【戦棍騎士】っていうのがあったので、クエスト受領ついでに騎士団の施設にあったジョブクリスタルで転職したりしてね。
……そんな訳で、私は今訓練場で騎士の一人と模擬戦をしているのである。
「くっ⁉︎ これも凌ぎますか! ……だったら《ソードスラスト》!」
「えぇ! いくら刃引きした模擬刀だからって突きは危なくないっと!」
そうして連続斬撃をどうにか凌いで距離を取った私に対して目の前の超美少女──王国の騎士の一人だと言うリリアーナ・グランドリアさんは追撃の為に私の胸目掛けて突きを放って来る……よりも早く“近い勘”に示された彼女の攻撃軌道上に【ギガース】の頭部を持って来て、そこに放たれた突きをどうにか防いだ。
……この【ギガース】は見た目通りの重量があって、かつ<エンブリオ>だからマスター自身は重量を感じない仕様(掲示板の<エンブリオ>板で見た)なので、獲物の重量差を活かせばステータスで劣る私でもどうにか彼女の攻撃を凌げているのだ。
(と言ってもレベルが三倍以上差があって武術的な技術面でも劣っていると、攻撃防ぐしか出来なくてどうにもならないんだけどね。……とりあえず向こうは何故か警戒しているみたいだし、このまま逃げ続けよう)
ちなみに試合開始前に聞いたリリアーナさんのメインジョブは騎士系統上級職の【
……まあ、お兄ちゃんやミュウちゃんと違って武術面の経験が無い私には彼女の技量がどれだけ優れているかはよく分からないんだけどね。分かるのは他の騎士さん達の剣技と比べて攻撃に重きを置いてるのかなーっていう事ぐらい。ただ、攻撃に入ったら確定で反撃喰らうと私の“近い勘”がそう言ってるから相当な技量なんだろうけど。
「つまり、結論としては実力差が大きすぎて私の勝ちの目が一切無いんだよねー」
「……そう言われると、技量とステータスで優っているのにまともに攻撃を入れられない私の立場が無いんですが……。これが貴女の<エンブリオ>の力なのですか?」
「……さーて、どうだろうねー」
……勿論、私の<エンブリオ>である【激災棍 ギガース】の特性は高いステータス補正と防御スキル効果減衰なので、相手の攻撃を先読みする様な効果は当然無い……この危険感知は私が生まれつき持っている“異常な直感力”によるモノである。
この直感には主に二種類あり、一つ目は自分や周りに降りかかる直近の危険を感知してそれをどうすれば回避出来るのかを示す“近い勘“で、リリアーナさんの攻撃を防いでいるのはこちらである。
もう一つはいつか遭遇する危険に対応するための行動を示す“遠い勘”で、<Infinite Dendrogram>を買った方が良いと感じたのはコッチ……正直言ってコッチの“遠い勘”は発動した回数も少なくて、私にもよく分からないからあんまり信用は出来ないかな。
「さてリリアーナさん、どうするかな? ……ちなみに、このまま戦い続ければ私が普通に負けるけど!」
「……それは自身満々に言う事じゃないと思うんですが……」
「いや、模擬戦はここまでにしようか」
そう言って手を叩きながら私達の間に入って来た壮年に男性──今回のクエストを依頼したアルター王国第一騎士団団長のリヒト・ローランさんであった……苗字から分かる通り、彼はアイラさんのお父さんらしいんだよね。
「ミカ君の実力は見せて貰ったし、他の<マスター>達を待たせているからね。……二人はしばらく休んでいるといい」
「分かりました! リヒト団長!」
「分かりましたー」
そんな感じで、私とリリアーナさんは模擬戦を終えて訓練場の端で休む事になったのだった。
◇
「《レンジレス・アームズ》!」
「模擬刀から光の刃を出すとは面妖な! ……だが、軌道が単純すぎる! これでは接近してくれと言わんばかりだ!」
「はい! 分かりました!」
休憩中の私は他の<マスター>と騎士団の人達との模擬戦を観戦していた……さて、あそこで戦ってるのは先日<ノズ森林>で出会ったレオン・ハートさんだね。剣からビームを出して騎士さんを攻撃したけど、あっさりと避けられてそのまま接近されてるみたい。
彼とはこのクエストを受けた時に再開して少し話したんだけど、中世の騎士物語とかが好きだから初期国家をアルター王国にして、メインジョブも【
「アリア、頑張ってください!」
「お任せ下さいマスター!」
「ふむ、主人を守ろうとするその心意気は良い。……ですが、そちらに気をとられ過ぎです。……後、守られる<マスター>の方も、常に守られやすい位置取りを意識するように!」
別のところでは金髪緑眼の少女と同じく金髪で赤眼の女性のコンビが女性騎士と戦っていた……彼女達は少女の方が<マスター>のエルザ・ウインドベルちゃんで、女性の方がその<エンブリオ>である人型のガードナー【代行神姫 ワルキューレ】のアリアさんというらしい。
彼女達とは私が冒険者ギルドでこのクエストを勧められた時に遭遇して、同じクエストを受けた同性同士として少し話したんだよね。何でもエルザちゃんは【
「しっかし<エンブリオ>ってのは本当に多種多様だねー。……でも、やっぱり今はまだティアンの人の方が強いかな。模擬戦も殆ど指導みたいになってるし」
「まあ、<マスター>の方々が現れ出してからまだ一週間程度ですから、そんなにあっさりと実力で上回られたら流石に困ります。……最も、私はミカさんに指導とか出来ませんでしたが……」
おっと、うっかり呟いた独り言が隣にいたリリアーナさんに突き刺さっちゃったよ……とりあえず、私は武術とかさっぱりだからその辺りを後で指導してくれると嬉しいな! 的な事を言ってフォローを入れておく。
実際、デンドロでは【戦棍士】で覚えた《戦棍術》の様なセンススキルがあればリアルで武術の心得が無い私とかでもある程度は戦える様にはなるんだけど、お兄ちゃんやミュウちゃん曰く『ちゃんと武術を覚えておいた方が動きは良くなる』らしいしね。
……と、そんな感じでリリアーナさんと話していた私の所に二人の人間がやって来たのだ。
「やあ、ミカ君とリリアーナ。少し話をいいかな?」
「は、はい!」
「あ、はい。別に良いですよリヒトさん。……えーっと……」
「初めまして、私は近衛騎士団所属の【天馬騎士】リリィ・ローランと申します。……もうお気づきかと思いますが、リヒト団長は私の父でアイラ・ローランは私の姉に当たります」
成る程、つまりはローラン一家の次女さんだったらしい……それで、なんか凄そうな肩書きの人達が私に何の用だろうか? ちょっと聞いてみようか。
「それで、一体何の話何ですか?」
「それは娘のアイラが話していたウィステリア兄妹という<マスター>と一度話してみたくてね。……おっと、まだ正式に自己紹介はしていなかったね。私はアルター王国第一騎士団団長、天馬騎士系統
……
「まずは礼を言わせてくれ……君達が教えてくれた<マスター>の詳しい情報は、この国における<マスター>増加初期の混乱を収めるのにかなり役に立ったからね」
「姉さんから伝えられて驚きましたよ。……まさか、この世界に来たばかりの<マスター>は一般的な常識すら殆ど知らなかったとは……。この情報が無ければ混乱は更に助長されていたでしょうね。そう分かって入ればやり様も有りますし」
「いえいえ、そんな大した事は無いですよ。……むしろ、私達の方がアイラさんにはお世話になってますし」
実際、情報量に関してはアイラさんから伝えられたものの方がはるかに多いしね……それに混乱の終息は、公式ホームページに追加された情報欄や掲示板のお陰でリアルの方にデンドロの事前情報が広がって来たのも大きいし。
……と思っていたら、リヒトさんの雰囲気がちょっと変わった気がした。
「……さて、娘が信用出来ると言った<マスター>である君に少し聞きたい事があるんだが……良いだろうか?」
「? はい、良いですよ」
「ありがとう。……聞きたい事と言うのは“<マスター>が増えた事によってこの国にどの様な悪影響があるか”を、<マスター>である君の視点から聞いておきたいんだ」
……あー、成る程ねー。まあ、国内の治安を維持する立場なら<マスター>とか言う不審者大量発生事件で一番に気にするのはそこだよねー。
しかしどうしようかな、こういう事考えるのはお兄ちゃんが得意なんだけど、私じゃ
「悪影響かー……まあ、沢山出ると思いますよ。例えば犯罪に走る<マスター>とかPK……<マスター>やティアンを殺害する事を目的としてこの世界に来る<マスター>とか。まあ、後者は<マスター>だけを狙うなら問題無いんですけどね。……今はともかくいずれはティアンだと<マスター>の犯罪者を止められなくなるだろうし……」
「⁉︎ そんな事は! 「まあ、そうなるだろうな」「でしょうね」って、リヒト団長にリリィさんまで!」
私が行った“ティアンの力不足発言”にリリアーナさんが反論しようとするが、それよりも早くリヒトさんとリリィさんが肯定した。
……そして、二人はそのまま言葉を続けた。
「私がこのクエストを発注した理由の一つは“今現在の<マスター>の実力を知っておく”というものでな……そして、一通り<マスター>の実力を見たが、ばらつきこそ有っても特に技量面ではティアンの方が勝っている印象を受けたな」
「まあ、私達<マスター>で武術の心得がある人は少ないからね。……もちろん例外はいるけど」
「ですが、それ以上に彼等の<エンブリオ>の力は凄まじい。……これが生まれたばかりでまだ成長の余地が十分ある事や、<マスター>の必ずレベルを500まで上げられる万能の才能を考慮すれば、いずれ超級職などの例外を除けばティアンで<マスター>の犯罪者を止める事は難しくなるでしょうね」
「それは……」
リヒトさんとリリィさんの理路整然とした意見にリリアーナさんも黙り込んでしまった……でも、このままだと<マスター>全体の印象が悪くなるし何かフォローは入れないと行けないかな。
「でも、<マスター>という括りだけで判断するのは辞めて欲しいかな。<マスター>一人一人で考え方や価値観も全く違うし、この国に害を齎す<マスター>も居ればこの国を守ろうとする<マスター>も居るからね。……力の過多こそあれど<マスター>とティアンの精神性には特に違いは無いから」
「……ふむ、まあティアンにもどうしようもない悪人はいくらでも居るし、個人個人を見て判断する事も必要か」
「ですが、やはり力の差がある以上は<マスター>に対抗するには<マスター>の力が必要になる時が来るでしょう。……信頼の置ける<マスター>を今から探すべきでしょうね」
おお、二人共結構あっさりと分かってくれた……のかな?
「……というか、私の事を試しましたか?」
「ああ、まあそういう意図も有った事は否定しない。気を悪くしたのなら謝ろう。……だが、さっきもリリィが言った通り私達はこの国を守る為には<マスター>の力が今後必要になってくると考えている」
「その為に今の話には姉が言っていた有望な<マスター>である貴女の人格を確認する意図もあった事は認めます。……ですが、貴女の話を聞いて私達の考え方が間違っていなかったと確信した事も本当です」
ふむう、別に試された事が不満な訳では無いし、<マスター>と繋がりを持とうとする二人の考え方は間違ってはいないと思うんだけど……うん、ここは自分の“直感”に従って言いたい事を言ってみようか。
「この世界に来る直前に出会った
「それは……?」
「この世界に来る時に言われた中で一番印象に残っている言葉ですよ。……要するに私達<マスター>は良くも悪くも“自由”って事です。……だから皆、自分のやりたい事を、自分で考えて、自分で決めて行動すると思いますよ。……ああ、勿論“自由”って言うのは何をしても良いという免罪符じゃ無いですけどね。自由と言うのは『自分の行動全てに自分で責任を持つ事』でしょうし」
……何となくなんだけど、この国で<マスター>がそういう存在であると印象付けておいた方が良い気がしたんだよね。何故かはわからないけど。
そしたら、少し考え込んでいたリヒトさんが改めて“私”に聞いてきた。
「それじゃあミカ君。……君はこの国に危機が訪れた時には私達に力を貸してくれるのかな?」
「んー、その時の状況次第では分からないですけど……少なくとも、私の手の届く範囲で悲劇が起きそうなら止めようとはしますよ。……解っていて何も出来なかったというのは気分が悪いので」
悲劇が起きると
……その答えを聞いたリヒトさんは何かに納得した様に頷いた。
「成る程、“自由”か……ありがとうミカ君、なかなか貴重な意見だったよ。どうやら私達ももう少しこの国に来た<マスター>達と、それによって変わり行くこのアルター王国を見定めて行く必要がある様だ。……さて、では訓練を再開するとしようか。せっかくだし、ここからは私が指導する事にしよう」
「ふぇ⁉︎」
「おや、やる気満々ですねリヒト団長。……さて、何人残るでしょうかね」
……何故だろう、なんか凄く嫌な予感がしたんだけど。リリィさんもなんか凄く不穏な言葉を言ってるし……。
「さて、ではまず私一人と<マスター>全員と見習い騎士達の模擬戦をしようか。……ああ、私はこれでも超級職だからENDは一万を超えているし、【救命のブローチ】も着けてるから遠慮無く掛かって来なさい」
「あっ(察し)……この人、基本スパルタなアイラさんのお父さんだったわー」
そんな感じで行われたリヒトさんの超スパルタ指導に、その場に居た<マスター>達と騎士達は纏めて死屍累々の有り様となったのであった……まあ、流石はアイラさんのお父さんだけあって、各々への指導とかは物凄く的確だったから得るものは多かったけどさ……。
その後、ボロボロにされた<マスター>と騎士達の間に友情が芽生えたり、治療に回ったリリアーナさんが男性<マスター>の間で大人気になったり、リリィさんがそれを見て『<マスター>相手にはリリアーナのウケが良いですね。まだ若いから余計な先入観も無いでしょうし彼女には<マスター>達と積極的に関わらせても良いかも知れないわね』とか言ってたりしたけど、クエストそのものは無事に達成出来ましたとさ。
あとがき・各種設定解説
妹:せっかく騎士の国に来たんだからこういうのも良いよね!
・【ギガース】は第二形態に進化したが、変更点はステ補正及び武器としての性能の上昇と《バーリアブレイカー》がレベル2になった事のみで新スキルとかは覚えなかった。
【戦棍騎士】:騎士系統派生下級職
・メイスを武器とする騎士系統のジョブで、他にも【
・主なスキルは《ダメージ軽減》《乗馬》《盾技能》などの騎士系統の汎用スキルと《〇〇砕き》と言った特定種族特効のメイス系アクティブスキル……要するに【騎士】の剣技をメイスに変更しただけ。
・ただし上級職の【
リリアーナ・グランドリア:美少女なので<マスター>にもファンが出来た模様
・原作からデンドロ時間で五年以上前なので現在は15歳ぐらいであり、発言とかも大分若い感じ。
・今後、色々な<マスター>と関わり、そのやらかしに苦労する羽目になる。
リヒト・ローラン:スパルタは遺伝
・この後、個人的に信用の置けそうな<マスター>と友誼を結ぶ方針で色々やって行く事にした模様。
・自身の愛馬は【ハイエンド・セイクリッド・モノペガサス】のデュラルと言い、彼に騎乗した空中戦なら【天騎士】と【黄金の雷霆】を上回る実力がある。
・加えて指揮能力も高く人格者なので部下にも慕われており、国王や近衛騎士団長からの信頼も厚い。
【天翔騎士】:天馬騎士系統超級職
・騎士系統の派生で飛行可能な馬に乗って戦う事に特化した上級職である【
・ステータスは騎士系らしくHP・STR・ENDが良く伸び、自身と騎乗対象とAGIを同じにして空気抵抗・慣性・反動・各種デバフや状態異常など飛行中の悪影響を軽減するパッシブ奥義《天躯翔》を始めとする愛馬に騎乗した状態での空中機動時に効果を発揮するスキルを習得する。
・他のスキルはレベルEXの《乗馬》や《天馬強化》など下位職の正当強化版が多い。
リリィ・ローラン:ローラン家次女
・合計レベルは400超えでサブジョブには近衛騎士団として【聖騎士】を入れており、愛馬として【テンペスト・ペガサス】のティルルという純竜級ペガサスを有している近衛騎士団の中でもトップクラスの実力者。
・また、父親譲りで指揮能力も高く近衛騎士団で部隊長を任される程だが、性格がやや合理的過ぎるきらいがある。
クエストに参加した他の<マスター>達:初期に王国を選ぶだけあって騎士好きが多い
・このクエストに参加していた男性<マスター>達と騎士達を中心として後日リリアーナファンクラブが作られたとか。
・その横で妹とエルザは互いにフレンド登録とかしてた模様。
読了ありがとうございました。感想などは励みになっていますので、これからもよろしくお願いします。