□王都アルテア・格闘家ギルド 【
「さて、ここが格闘家ギルドですか。……成る程、皆さん何かの格闘技を収めている様なのです」
「そうなんだ。……僕は他人のステータスは分かるんだけど、それに寄らない技術とかはさっぱりだからね」
そう言うわけで、私は王都周辺の狩場が満杯で使えなかったので格闘家ギルドにジョブクエストを受けに来たのです……ちなみに“格闘家”ギルドと名を打っていますが、実際には【格闘家】【
……しかし、格闘家ギルドと言うからには道場っぽい感じを想像していたのですが、基本的には冒険者ギルドとそう変わりませんね。現実で言うとスポーツジム的な感じでしょうか?
まあ、それはともかくとして、早速受注するジョブクエストを探しに行きましょうか。えーっと……とりあえず受付の人に聞いてみましょう。
「すみません、ジョブクエストを受けに来たのですが」
「はい……えーと、ここは格闘家ギルドなのですが……」
ふむ、何故か聞き返されてしまったのです……まあ、このギルドにいる人達は皆筋骨隆々の男性ばかりで、私の様な少女は居ませんので仕方ないでしょうか。
……ああ、そう言えば籠手を付けたままなので<マスター>の証である紋章が見えませんね。外しますか。
「はい、ですからここに来たのです……これでも<マスター>で【格闘家】レベル44なのです。確かギルド登録もしてあった筈なのです」
「あ、僕はミュウの<エンブリオ>だから、まあ付き添いみたいなものだね」
「<マスター>の方でしたか、これは失礼しました。……確かに登録してありましたね。では、こちらのカタログに受けられるジョブクエストが載って居ますので、その中からお選び下さい」
そうして、私は受付の人からジョブクエスト用のカタログを貰いました……どうやら、この辺りは冒険者ギルドと変わらない様なのです。このカタログは便利ですからね、普及するのでしょう。
……と言うわけで、私とミメはカタログから自分の受けられるクエストを探していったのですが……。
「ふむむ……討伐は狩場の状況的に難しいですし、護衛依頼は時間的拘束が長過ぎて<マスター>である私には不向きなのです」
「……あ、コレとかは? なんか武術の指導とか書かれてるけど」
「推奨レベルが合計300以上ですから、まだ下級職一つ目の私では相手にされないのでは? ……それに、私は人に武術を教えるのは苦手ですし」
以前、師匠からは『お前みたいにパソコンのソフトをインストールする様なお手軽感覚で武術を習得出来るヤツはまずいないから。多分感覚が違い過ぎて人に教えるのには向いていないな』と言われましたし。
……要するに、私は一度見て数時間程その型をなぞれば武術を習得出来てしまうので、武術を習得するのに苦労した経験というのが一切無いのですよ。
「そんな私には他人に武術を教えるなど出来ないのですよ。……武術なんて、一度見てやってみればその理ぐらい理解出来るでしょう? ……と言っても、同じ事を出来る人はいないのです」
「……まあ、そうだろうね。……じゃあ別のを探そうか」
この話はここまでにして、私とミメはカタログを読み進めていきます……ふむむん、やっぱり戦闘系ジョブのクエストだからか討伐や護衛のクエストが多いですね。
……一応それ以外の依頼もありますが、どれも一定以上の合計ジョブレベルが推奨されている専門的な依頼ですし。やっぱりジョブクエストは冒険者ギルドのクエストと比べても敷居が高い様ですね。
「ぬぬぬ……初心者用のジョブクエストとかは無いんですかね? 皿洗いとか掃除とか荷物運びとか」
「それは【
そう言ってミメは開かれたカタログの一箇所を指差しました……そこにはこう書かれていたのです。
「何々……【合計レベル1〜100までの低レベル帯同士での乱取り 難易度:一】ですか。……えーと、ギルドの訓練室で集まった人と模擬戦するクエストみたいですね。報酬は大したことないですがコレならば受けられそうなのです」
「ミュウなら同じレベル帯で負ける事は早々無いだろうし大丈夫じゃない? いざとなればボクも居るし」
……格闘技の模擬戦で
「まあ、とりあえず受付の人にこのクエストの受注を伝えにいきましょうか」
「オッケー、腕がなるね!」
多分、実際戦うのは私になると思うんですが……まあ、その辺りはクエストが始まってから聞いて見ればいいでしょう。
◇
そういう訳で、私とミメはクエストを受注してギルドないにある訓練場にやって来ました……そこでは既に何人かの人が徒手格闘による模擬戦を行なっていて、その表情は模擬戦とは思えない程に真剣なものでした。
……さて、受付の人はここに来れば後はギルド長が案内してくれると言っていたのですが……。
「おい嬢ちゃん達、そこで何をしてるんだ。ここは格闘家ギルドの訓練場だぞ」
と、そうやって私とミメが訓練場の入り口から周りを見ていると、室内に居た一人の非常にガタイのいい男性に声を掛けられました。
……ふむ、見た限りではこの人がこの格闘家ギルドで見た中で一番強い人みたいですね。
「ミュウの考えている通りだと思うよ。……この人のステータスがこのギルドで一番高い」
「ん? 《看破》でもしたのか? ……まあいいか。俺は【
おっと、まずはちゃんと自己紹介をしなければならないのです……この人が強かったので少し見入ってしまいました。
「申し遅れたのです。私は【格闘家】の<マスター>、ミュウ・ウィステリアと申します。こちらは私の<エンブリオ>のミメなのです。……今日は乱取りのクエストを受けたのでここに来たのです」
「受付の人は、ここにいるギルドマスターに詳しい話を聞いてほしいって言ってたよ」
「……チッ、あの野郎面倒ごとを押し付けやがったな。……分かった、じゃあ簡単に説明するぜ」
ゴライアンさん曰く、このクエストは格闘家ギルドがジョブ1つか2つまでの初心者の実力を底上げする為に定期的に開いているもので、この訓練場で模擬戦をしながら彼や他の格闘家達が指導を行うという形式の様です。
……指導を受けるのがクエストなのかと疑問に思いましたが騎士団の訓練などもクエスト扱いに出来る為、戦闘系ジョブの場合は自分の実力を磨く事もクエスト扱いに出来るらしいとの事です。
「まあ、模擬戦っつっても
「転職条件?」
「ん? 嬢ちゃんは【格闘家】なのに知らないのか……って、この世界に来たばかりの<マスター>なら仕方ないか。……格闘系ジョブの上級職の転職条件には対人戦が条件になっている場合があってな。例えば、格闘家系統上級職【
ちなみに格闘系同士の勝負は別に命の取り合いでは無く、模擬戦でも大丈夫の様ですが、自分より圧倒的に格下の相手と戦ったり八百長をしたりした場合はカウントされないらしいです……要するに真剣に戦って勝敗を決める必要があるみたいですね。
「そういうのもあって、ギルドではこのクエストを定期的に行なっているんだ。……まあ、レベル100以上の連中や、もっと本格的な試合がしたいって奴らはギデオンの闘技場を使ってるがな。ここはあくまで初心者救済用だ」
「成る程、ご説明ありがとうございましたのです。……では、早速私も模擬戦をするのです」
「ああ、一応危なくなったら止めるからな」
そうして、私は説明してくれたゴライアンさんにお辞儀をしてから模擬戦に加わるのでした……最後まで気を使ってくれるとは、ゴライアンさんはとてもいい人なのです。
まあ、師匠からは『お前が下手に戦ったら
◇◇◇
□格闘家ギルド・訓練場
「セイヤー!」
「グワー!」
「そこまで! 勝者、ミュウ・ウィステリア!」
今、訓練場ではミュウ・ウィステリアと【蹴士】のジョブについているティアンが模擬戦をしており、相手のティアンが放った上段蹴りを躱した彼女がカウンターの上段蹴りを打ち込んだところだった。
……その攻撃が有効打となり相手の【蹴士】がダウンしたので、審判は彼女の勝利とみなした。
「わーい! またミュウが勝ったね。これで9連勝だよ!」
「……あー、そうだな。……しかし、とんでも無いなあの嬢ちゃん」
その光景を彼女の<エンブリオ>である【ミメーシス】とギルドマスターのゴライアンは訓練場の壁際で眺めながら、各々が思った事を口に出していた……ちなみにミメーシスは自分も融合して戦うつもりだったが『僕と融合すれば亜竜級の首をネジ切れる様になるし、余裕だね!』と言ったせいで、それを危険視したゴライアンに参加を禁止させられている。
……尚、最初の内はふて腐れていたが、ミュウの連戦連勝を見たお陰で機嫌が治った様で今は素直に応援している。
「……では、次の試合はミュウ・ウィステリアとビシュマルで行う。両者前へ!」
「おや、同じ<マスター>の人が居たのですね。【格闘家】ミュウ・ウィステリアなのです。よろしくお願いしますのです」
「おう、【
そうしてお互いが軽く挨拶した後、審判の合図によって模擬戦が開始された……開始と共にビシュマルがミュウに対して低空タックルを見舞うが、彼女はそれをギリギリで躱して距離を取る。
それに対してビシュマルは直ぐ様方向転換をして再びタックルを仕掛けるが、それも彼女はヒラリと躱してしまう。
「レベル差の割にステータスに差は無い……むしろビシュマルって<マスター>の方がステータスは高いみたいだな」
「それは<エンブリオ>のステータス補正の所為かな。……僕はステ補正無いし。向こうはちゃんとあるみたいだけど」
「……成る程な。まあ【格闘家】よりも【力士】の方がステータスの上がりも良いしな」
ゴライアンとミメーシスがそんな会話をしている横で、未だに珍しい<マスター>同士の戦いだからか訓練の手を止めて彼等の模擬戦を観る者も増えてきた様だ……この場に居る殆どの人間にはミュウの方がビシュマルの攻撃を辛うじて躱している様にしか見えなかった。
……だがその中で、ギルドマスターであるゴライアンを含めて数人の上位格闘家だけが、今戦っているミュウ・ウィステリアという少女が
(……あの嬢ちゃん、最初の模擬戦からずっと相手の攻撃をミリメテル単位で完全に見切って躱してるな。……しかも、躱した時の
そうやってゴライアンが考えを巡らせている間にも模擬戦は続いており、ビシュマルはフェイントを駆使してどうにか組みつこうとするもミュウはそれらを意にも介さずギリギリで避け続けていた。
(あのビシュマルって<マスター>は決して弱い訳じゃない。むしろこれまで見た<マスター>の中は殆どが武術どころか運動の素人だったが、彼はキチンと走り方が出来てるところからそれなり出来る方だろう。……だが、それ以前にあのミュウって嬢ちゃんの体術は
長年の間、格闘家ギルドのギルドマスターをしていたゴライアンは非常に目が肥えており、他者の武に於ける才能を見破る事に非常に長けているのだ……が、そんな彼を持ってしてもミュウの才能の底は見えなかった。
そうしている間にも模擬戦は佳境を迎えておりビシュマルの低空タックルが遂にミュウを捉える……直前に彼女は逆にビシュマルの懐に潜り込むと、彼の襟と腕を掴みそのまま後ろに倒れこみながら足を使って投げ飛ばした。
「とりゃー!」
「巴投げだとぉぉぉぉ!!! グハァッ⁉︎」
「一本! そこまで! ……勝者ミュウ・ウィステリア!」
ミュウの巴投げは見事に決まりビシュマルは背中から床に叩きつけられ、その結果を見た審判はミュウの勝利を告げた。
……その後起き上がったビシュマルとミュウが握手をしながら会話をしているのを見つつ、ゴライアンは今後の事について思案していた。
(まあ、ギルドマスターとしては有望そうな格闘家には唾をつけておくつもりだし、それは<マスター>相手でも変えない予定だが……あのビシュマルってのは兎も角、ミュウの嬢ちゃんは下手すると爆弾になりかねないしどうするかね。……とりあえず、後でもう少し詳しく話を聞いてみるか)
そんな事を考えつつもゴライアンはその事を一旦置いて、ギルドマスターとしてクエストに於ける新人の指導を行う事にしたのだった。
◇
「ふう、中々良い経験でした」
「お疲れ様ー、ミュウ。はいお水」
一通りの乱取りを終えたミュウは訓練場の端にいたミメーシスの下に行き、そこで渡された水を二人で飲んで休んでいた……と、そこにゴライアンが近づいて来て彼女に声をかけて来た。
「よう嬢ちゃん、お疲れ様。……少し話をしたいんだが、いいか?」
「構いませんよ。何の様でしょうか?」
「ああ……嬢ちゃんは模擬戦の時、回避する距離を意図的に一定になる様に動いてたな?」
その言葉を聞いたミュウは少し困った様な表情になりながらその問いに答えた。
「ええ、常に回避距離が5ミリになる様に意識して回避していました。……ミメが覚えた
「いや、それに関しては相手に本気を出させられなかった方が悪いから別に良い。……それにこの模擬戦はお互いの鍛錬の為にやっているんだし、自分を鍛える為に必要だと思って新しい戦い方を試すのは良くある事だしな。真剣にやった以上は【武闘家】の転職条件も満たせているだろうしよ」
彼の言葉を聞いたミュウは安心した様な表情になってホッと息を吐いた……その反応を見たゴライアンは『自分の才能に傲る様な感じでは無いし、この少女は悪い人間では無いのだろう』と思い、とりあえず友誼を結んでも大丈夫だろうと判断した。
「しかし、嬢ちゃんの武術は凄いな。一体誰に学んだんだ?」
「えーと、リアル……じゃなくてあちら側の古流武術の道場で習いました。……習った時間は一年にも満たないですし、師匠からは『教え甲斐が全く無い』と言われましたがね」
「……お、おう。そうなのか……」
ゴライアンはそれらの発言に《真偽判定》が一切反応しなかった事から彼女が本物の天才であると確信し、その“師匠”とやらも教えられる事が無くなったのだろうと察した……ただ、この年齢でこれだけの才能を持ちながら、これまでの彼女の言動や雰囲気からは
……彼は若く才能のある武芸者が他の同レベル帯の相手と戦った時には、僅かでも相手を見下すか自分の腕を誇りたがるものだとかつての自分の経験から良く知っていたが、彼女が戦っている際には僅かたりともそういった雰囲気が見られなかったのだ。
だが、出会ったばかりでこれ以上の事を聞くのは性急すぎると常識的に考えたので、彼はこの程度で話を切り上げる事にした。
「まあ、何か格闘関係で相談があったら遠慮無く言ってくれ。……こっちも<マスター>との距離間はまだ掴みかねてるから、出来る限り<マスター>との齟齬は無くして置きたいからな」
「はい、ありがとうございますゴライアンさん!」
その後はミュウがビシュマルにフレンド登録を申し入れたりしたぐらいで、特に何事も無く格闘家ギルドでのクエストを終了したのだった。
あとがき・各種設定解説
末妹:戦闘特化天災児
・格闘というよりも戦闘行為全般に
・だが、自分の才能に対する自負や誇り、奢りなどは何故か一切無い模様。
・レベルが妹と比べて高いのはたまに遭遇する亜竜級モンスターを倒す時にはメインで戦い、兄のスキル効果で大量の経験値を獲得しているから。
ミメーシス:第二形態に進化
・強化された所は新スキル以外にもMPが一万強まで上昇した事と《天威模倣》で同期出来るステータスの数が3つに増えた事。
・新スキルは
・尚、人型<エンブリオ>としての食癖は“近くで誰かが食べている物と同じ物しか食べない”。
ゴライアン:格闘家ギルドのギルドマスター
・これでも合計レベルは500でカンストしている実力者で、長年の経験から人を見極める高い洞察力を持っている。
・若い頃は色々やんちゃしていた模様だが、“【格闘王】の爺様”と出会ってから色々な経験を積んで今では立派な人格者。
・メインジョブの【拳聖】は拳士系統上級職の1つで、転職条件は厳しいがSP・AGIが高く強力なジョブスキルを複数覚える技巧派ジョブ。
【武闘家】:格闘家系統上級職
・各種格闘系スキルを幅広く習得し、西方のジョブでありながら東方の格闘ジョブのスキルをいくつか習得したりするが、それらのスキルレベル上限は低め。
・MPを使用するスキルも習得する関係上ステータスはLUC以外が満遍なく上がるが、その所為で上級職としては全体的に低め。
・亜竜級以上の討伐はソロでは無くパーティーなどを組んで行っても有効だが、自分は何もせずパーティーメンバーに任せきりだったり数十人規模で討伐した場合は無効になる……と言うか、戦闘系ジョブで特殊な条件が付いていなければ大体こんな感じ。
・超級職は【格闘王】であり、そのジョブに就いていたティアンが居たらしいが詳細は現在不明。
ビシュマル:末妹とフレンド登録した
・年下の少女に盛大に投げ飛ばされても、笑ってフレンド登録とかしてくれる好漢。
・彼我の技量差を考え、体格差とジョブを活かして低空タックルからの組討に持って行こうとするなどの判断力はギルドマスターからも高評価。
読了ありがとうございました。
最近原作キャラがチョイ役になってるなぁ……いつか長編とかで大活躍させたい。