□アルター王国・<狂乱の森>
「リア充死すべしィィィィ!!!」
「……んな事言われても、俺は未だに彼女いない歴=年齢なんだけどなッ!」
……そんなアホな事を言い合いながら手に持った剣で斬り結んでいたのは、PKパーティーの一人ボッチーと彼等に狙われた三兄妹の長兄レント・ウィステリアである。
先程、ボッチーが言い放った安い挑発にレントが敢えて乗った結果、彼等は<狂乱の森>の一角でこの様な剣での近接戦闘を演じているのだ。
「む……そうなのか。それは早とちりして済まなかった」
「……別に謝らんでいい。しかしテンションの落差が激しい奴だな……」
レントの返答が《真偽判定》によって嘘では無いと分かったボッチーはさっきまでのテンションは何だったのか、途端に落ち着きを取り戻して普通に謝った……彼のその余りの変わりぶりを見たレントは頭を抱えて溜息を吐きながら愚痴を零していたが……。
……どうやらボッチーはレントに彼女がいた事が無いと知って別に怒りを向ける相手では無いと判断したらしく、その所為かなんか空気がグダグダした戦闘を続ける様な感じでは無くなってしまっていた。
「とは言っても、このまま戦いを終わらせる訳にも行かないがな」
「別に構わん。……どうせ
そのレントの言葉通りボッチーの身体には無数の切り傷があり、それによるダメージと【出血】の状態異常によって彼のHPは最早風前の灯であったのだ。
……その傷はこれまでの斬り合いでレントが付けたものであり、対してレントはこれまでの戦いで一切のダメージを負っておらず無傷のままであった。
「……しかし、もう少し善戦出来ると思ったんだがな」
「そりゃあ【
「……成る程、道理だ」
最も近接戦においてジョブの補正が無いのはレントも同じではあるが、彼にはブランクがあるとはいえかつて剣道をやっていた経験があり、そういった各種戦闘経験によってそれなりの近接戦闘能力も持っているのだ……加えてボッチーの【ベンヌ】はスキル特化型の<エンブリオ>でステータス補正は低く、例え補正が無い魔法職であってもレベル差もありステータスはレントが上回っていた。
……そこまで読んでいたからこそ、妹二人が一対一で戦える様に敢えてボッチーの挑発に乗って接近戦を挑んだのである。
「……と言うか、お前さっきからテンションが下がってないか?」
「うむ、先程まではリア充への恨みから少しハッスルしてしまっていたが、お前が彼女居ない歴=年齢であるこちら側の人間だと知ってからは頭が冷えた。……むしろ、彼女が居た事のある自分はリア充よりになるのでは無いかと考えてしまってな。……リア充とは、非リアとはいったい……?」
「すこぶるどうでもいい」
……なんか変な哲学みたいな事を言い出したボッチーに対して、それを聞いたレントは完全な無の表情になって剣を構え直した。
「とりあえず、さっさと決着をつけるぞ。……これ以上付き合ってはられん」
「まあそんな反応になるのは仕方がない、先に勝手な理由で仕掛けたのはこちらだしな。…………では! 行くぞォォォォ!!!」
剣を向けてきたレントに対して、ボッチーは先程までとは一転して理性的な反応をしつつ剣を上段に構えた……そして、僅かな静寂の後にその態勢のまま全力で咆哮しつつレントに突っ込んでいった。
……そして、その勢いのままレントに向けて全力で剣を振り下ろし……。
「……本当に気迫だけは凄まじいな」
「ガハァッ⁉︎」
その斬撃をレントは完全に見切って半身になって躱し、そのまま手に持った剣を横薙ぎにしてボッチーの腹部を真一文字に斬り裂いた……その一閃が致命傷となってボッチーは地面に崩れ落ちた。
……尚、ここまでレントはボッチーを仕留めきれなかったのは、彼の無駄に凄まじい気迫に少しだけ押されていた事が大きかったりする。
「……ヌウ、ここまでか……ディシグマには今まで色々悪い事をしたか。後で謝っておこう……グハア!」
「…………ハァァァァッ、やっと終わったか。……色んな意味で疲れる相手だったな」
それだけ行った後にボッチーのHPは完全にゼロになって蘇生可能時間が経過して光の塵となっていった。
……それを見たレントは本当に疲れた様な雰囲気になって、頭を掻きながら大きく溜息を吐いたのだった。
◇
……そこはこの<狂乱の森>に於ける最後の戦場、PK達のリーダー格シュバルツ・ブラックとウィステリア三兄妹の末妹ミュウ・ウィステリアが向かい合っている場所である。
「……ふむ、先程まで比べてステータスが大幅に下がっているな。あの【
『おー、大体正解だね』
「それを答える義理はないですね。……もとより、貴方程度の相手であれば素の状態で十分ですし」
シュバルツが手持ちの《看破》を可能とする装備でミュウのステータスを見て彼女の<エンブリオ>のスキルを予想し、牽制も兼ねてそれについて質問を投げかけた……それに対してミュウは融合しているミメーシスの呑気な声を聞き流しつつ、適当に誤魔化しながらお返しに笑みを浮かべながら軽い挑発を返した。
……その挑発に対してシュバルツは歯を食いしばりながら、戦意を滾らせて己の<エンブリオ>である木槍を握りしめた。
「……いいだろう。その上から目線を後悔するといい! 《ダブルスラスト》!」
「おや、随分と沸点が低い様で……《気功闘法》《ウェポン・パリング》」
そう言いながらシュバルツは即座に接近して【
……だが、相手のその行動を見たシュバルツは先程とは態度を一転させて笑みを浮かべた。
「掛かったな! 《
「む⁉︎ 《バックステップ》!」
シュバルツが途端に雰囲気を変えて<エンブリオ>のものと思われるスキルを行使した事に対し、ミュウは咄嗟に後方に跳躍して距離を取った。
だが、暫くしても自身や相手に一見何の影響も無い事に彼女は疑念を抱き……直後、自身と融合しているミメーシスから驚きの声が上がった。
『ミュウ! 僕達のMPの最大値が物凄く下がってる! ……これ
「成る程、デバフスキルでしたか。……しかも、<エンブリオ>に触れるだけで効果を発揮するタイプだとは迂闊でした」
「御名答」
そう、これがシュバルツ・ブラックの<エンブリオ>【滅神呪槍 ミスティルテイン】の《輝ける命脈よ、尽き果てろ》──発動時に槍と接触した事のある対象に『そのHP・MP・SPの中で最も高いステータスの最大値を、二番目に高い最大値を持つものと同じにする』デバフ効果を与えるスキルである。
……この<エンブリオ>のモチーフは北欧神話において無敵の肉体を持つと言われた神“バルドル”を殺したヤドリギで出来た槍“ミスティルテイン”であり、故にその能力特性は『
「お前のステータスは《看破》で見たところ、ジョブとレベルに比べてMPだけが異常に高かったのでな。おそらく高いMPへの補正と、それをコストにしたステータスのコピーがその能力なのだろう。……故にまずはそれを封じさせて貰う」
「……成る程、よく見ていますね(ですが、この状況だと
『まあ《天威模倣》はまだ使えないし、使えても相手とステータス差が対して無いからね。それにジョブスキル使う分なら今のMPでも問題無いし、僕の三つ目のスキルにはMPは必要無いしね』
確かに、シュバルツが使ったスキル効果によりミメーシスとの融合で一万を超えていたミュウのMPは二千程度にまで減ってしまっているのだが、そもそも彼女はMPを《天威模倣》のコストぐらいにしか使わず【武闘家】のアクティブスキルも現在のMPで十分賄えるので特に問題にはしていなかった。
加えて《輝ける命脈よ、尽き果てろ》の接触対象には
……だが、これは無差別的なスキルであるが故に非常に少ないMP消費で強度の高いデバフをかけられるメリットにもなっており、更にこのスキルには
「さあ、一気に行くぞ! 《アクセルスラスト》!」
「多少早くなろうとも……むっ⁉︎」
『ミュウ⁉︎』
アクティブスキルによって加速しながら突きを放って来たシュバルツに対して、ミュウは籠手にある腕部分の装甲を使って受け流そうとし……そうして槍の切っ先が籠手に接触した瞬間、その金属部分が粉々に砕け散り腕の一部が切り裂かれたのだ。
……これが《輝ける命脈よ、尽き果てろ》の『【ミスティルテイン】の攻撃力をその対象の減ったステータスの半分の数値だけ上昇させる』追加効果である。そしてミュウが減らされてMPが約八千、つまり現在のミスティルテインの攻撃力は四千近くも上昇しているのだ。
「ここだ! 《
「これは……またデバフですか」
そのタイミングでシュバルツは第二スキル《輝ける身体よ、墜ち果てろ》──接触した事のある対象のSTR・END・AGI・DEX・LUCの中で最も高いステータス数値を三番目に高いステータス数値と同じにするスキル──を使った……そして、このスキルにもステータスの減少数値分【ミスティルティン】の攻撃力を上昇させる効果があるのだ。
彼の狙いはこのタイミングでAGIを下げる事でミュウの動きを鈍らせると共に、急なAGIの減少によって動きが乱れた所を更に攻撃力の上がった【ミスティルティン】でトドメをさす事である。
「これでぇ! 《スイング・ランス》!
『今度はAGIが下がった! ENDと同じに!』
「了解なのです」
……だが、融合している自他のステータスの把握に特化したミメーシスの言葉で自分に起きた状況を即座に把握したミュウは、顔色一つ変えずに思わぬ腕のダメージを無視し、薙ぎ払う様に振るわれたシュバルツの槍を完全に見切ってから
「……ミメ、後
「ガハッ⁉︎」
『あっ⁉︎ 了解!』
更に、そのまま彼女はミメーシスに
……蹴り飛ばされたシュバルツを尻目に、ミュウは自身のデバフの掛かったステータスとダメージを負った腕の様子を確認した。
『ミュウ、腕は大丈夫?』
(ええ、傷は見た目ほど大した事は無いですし、動かす分には支障は無いでしょう。……しかし油断しましたね、攻撃力が高いと掠っただけでこうなるとは。初見では分からない<エンブリオ>の固有スキルと言い、この世界での戦闘にはまだまだ学ぶ事が多そうです)
『後、さっきの攻撃はストック出来たよ』
(では、次の攻防で使用します。……掠っただけでコレですし、直撃させれば威力は十分でしょう)
そうしてミュウは相手の技量だけ測って<エンブリオ>の固有スキルを考慮しなかった油断を反省しつつ、ミメーシスと簡単に現在の状況を話し合った……その後、彼女は態勢を立て直して再び槍を構えたシュバルツへと向き直る。
「……ダメージとデバフを食らった割には随分余裕そうだな。……追撃もしてこないとは、舐めているのか?」
「いえ、現在の自分の状況確認を優先しただけですよ。……貴方は予想以上に強かったので、ここからは全力で行かせてもらうのです」
だが、シュバルツはその対応を自分が舐められたと考えて、怒りに染まった表情のまま質問を投げかけた……が、ミュウは涼しい顔をしながら言い返しつつ、
……その構えから相手が本気で来ると察したシュバルツは改めて槍の持ち手を握り直し、僅かな時間その二人の間は沈黙に包まれた……。
「…………行くぞ! 《デルタ・スラスト》!!!」
その沈黙を先に破ったのはシュバルツの方であり、彼は攻撃力が大幅に上がった【ミスティルティン】を構えてミュウに向けて突っ込みながら三連撃を放った……彼が現在使っている二つのスキルは攻撃力上昇効果がある分、効果を維持する為にはMPを継続消費する必要があるのだ。
……スキルの無制御化によって消費MPもかなり少なくなっているとは言え、現在の自分のMPでは長時間の同時使用は不可能だと判断した彼はこれ以上戦闘時間を引き延ばす事を良しとせず短期決戦を仕掛けたのだ……が。
「掠っただけでも大ダメージになる程の攻撃力……逆に言えば、当たらなければどうという事は無いのです」
「なァッ⁉︎」
ミュウはそれらの三連撃を全て見切り最小限の動きで完全回避したのだ……というか、彼女は元々相手の攻撃は完全に見切れていたので、避けようと思えば普通に避けれたのだが。
……そして、何故わざわざ攻撃を受けたのかは【ミメーシス】の第三スキルの発動条件に起因する。
『《
「これで終わりです」
「ごっ! ……ハァァ……⁉︎」
その直後、至極あっさりと槍の間合いの内側に入り込んだミュウはミメーシスのスキルが発動したと同時にシュバルツの胸部に拳を叩き込み、そこにまるで
今の攻撃では先程を籠手を砕いた『攻撃力四千の刺突』をストックして、それを上乗せした拳で相手の胴体に風穴をあけたのだ。
「……やっぱり……手加減……して……」
「いえ、油断していたのは事実ですが手加減はしてませんでしたよ。……単に私もまだこの世界での戦闘には慣れていなかっただけなのです」
胸に風穴を開けられた所為でHPが全損したシュバルツが光の塵になりながら言った言葉に対し、ミュウはやや自嘲気味にそう独白した……実際、先程は相手の攻撃を掠らせる様に受ける事で最小の損害でストックを確保する為に籠手で受けたら、その<エンブリオ>の能力を読み違えて負傷してしまうという失敗を犯してしまっている。
「流石に、私は姉様の様に初見のスキル効果の危険性を正確に把握するなんて事は出来ませんからね」
『……ミュウ、とりあえず怪我を治す為にポーション飲んだら?』
「あ、そうでしたね。痛覚オフだから忘れていました」
そう言われて彼女はアイテムボックスから【HP回復ポーション】を取り出して嚥下した……すると、それぞれの戦闘を終えたレントとミカがこの場に集まってきた。
……彼等は怪我をしたミュウを見るなり、まるで信じられないものを見たかの様な声を上げた。
「おー、ミュウちゃんお疲れ〜……って! ミュウちゃん怪我したの⁉︎」
「ミュウちゃんが怪我するとは、そんなに相手は強かったのか?」
「ええ、普通に強かったですよ。……負傷に関しては私自身の油断が大きいですが。やっぱり<エンブリオ>の初見殺しは怖いですね」
彼等はお互いの戦況を簡単に話しながら思わぬ強敵をどうにか退けられた事に安堵し、それと同時にこの世界での戦闘はどんな相手でも油断は出来ない事を改めて確認しあったのだった。
そして彼等は撒き散らされたシュバルツのアイテムを回収すると、連戦の消耗もあったので早急にこの<狂乱の森>を後にする事にした。
「それじゃあ、ここからさっさと離れようか。……あんまり此処に長居するのは私達にはまだ早い気がするし」
「この森の奥には狂化スキルを持つ純竜級モンスターや、精神系状態異常を得意とするモンスターが出て来るらしいしな」
「私達はまだまだ弱い事がこの戦いで分かりましたしね。……デスペナにならない様に“いのちだいじに”でいきましょう」
そうして彼等は騒ぎを聞きつけたモンスターが現れる前にそそくさと<狂乱の森>から撤退して、そのまま王都に戻って行ったのだった。
あとがき・各種設定解説
兄:彼女は居ない
・スペックは高いのでモテない訳では無いのだが、中学高校共に
末妹&ミメーシス:第三スキル使用に気を取られてちょっと苦戦
・融合時だと基本的にジョブスキル・装備スキルは末妹側でのみ行う事が出来て、<エンブリオ>のスキルはミメーシスの側でのみ行う様にしている。
《
・第二形態時ではストック数が二つで、一度使用したストックは5分間再使用不可能になる。
・ストック出来るのは攻撃を受けてから30秒以内で、上乗せ出来る時間は最大10秒、一度効果を発揮したら上乗せは消える仕様。
・コピー出来る特性は刺突・斬撃・炎熱・雷撃などの攻撃に関係する物だけで、それ以外の特殊効果はコピーされない。
・コピー元の相手が倒されてもストックは残り続けるが、1時間経過でストックは自動消滅する。
・『攻撃を受ける』判定はダメージを受けなくても装備などに攻撃が当たった場合でも満たせるので、末妹は最低限の損害でストックを貯められる様に見切りの練習をしていた。
格闘家系ジョブスキル:色々種類があるがスキルレベルの上限が低い
・《気功闘法》は自身のSTR・END・AGIを短時間だけ少量上昇させる発動が非常に早いバフスキル。
・《ウェポン・パリング》は一定時間の間だけ武器攻撃を素手で防御する時に、END上昇と武器ダメージを減少させる効果を発揮させるスキル。
ボッチー:この後ちゃんとディシグマに謝った
・兄との(くだらない)問答で自分のやっている事に疑問を持ち始めたのでPKは辞める事にしたらしい。
・ディシグマも妹にボコられた事で『このゲームでヒャッハーとか無理じゃね?』と思い、ボッチーに追随する事に。
シュバルツ・ブラック:PKを辞める気は無い
・この後はちゃんとメンバーを厳選してPKパーティーを作ろうかなと考えつつ、末妹へのリベンジの為に各種準備やレベル上げなどの修行とかをしている。
・その際にはディシグマとボッチーも誘ったのだが、二人がPKを辞めると聞いて残念がった模様。
【滅神呪槍 ミスティルテイン】
<マスター>:シュバルツ・ブラック
TYPE:アームズ
能力特性:特化能力に対する特効
到達形態:Ⅱ
固有スキル:《
・モチーフは北欧神話において無敵の肉体を持つと言われた神であるバルドルを殺したヤドリギで出来た槍“ミスティルテイン”。
・木製の槍型アームズであり、見た目通り素の装備攻撃力はかなり低く切れ味も悪いが意外と頑丈。
・その特性上ステータス補正はいくつかが平坦気味で、シュバルツは自分に掛かるスキル効果の影響を最低限にする為に装備などで各ステータスを調整している。
<狂乱の森>:奥に行くと難易度が激増する
・精神に影響を齎すタイプの植物が生えており、浅いところでは一般的なハーブ程度しか生えていないが、奥に行くと禁制の麻薬に使えるレベルの物が群生している。
・此処にいるモンスターの殆どがこれらの植物を好んで摂取している事が、彼等が外に出てこない主な理由になっている。
・実はかつて【覇王】を神と崇める狂信者集団の本拠地があった場所であり、これらの植物はこいつらが栽培していた物が野生化した物。
・その後【邪神】一派が“色々”と便利だからと麻薬植物栽培に利用したりしていた事もある曰く付きダンジョン。
・これらの理由や下手にモンスターを減らすと麻薬の原材料が市場に流れる事などから、王都周辺にあっても実質的に放置されている。
・こんな感じに【覇王】【邪神】関連の曰く付き<自然ダンジョン>がアルター王国内には結構あるらしい。
読了ありがとうございました。
PK達との戦闘は想定よりも大分長くなりましたがどうだったでしょうか。意見・感想・評価・誤字報告などはいつでも待っています。